説明

バクテリオファージ混合物の製造方法および抗生物質耐性ブドウ球菌の治療におけるその使用

本発明は、少なくとも2種の異なるバクテリオファージ株が別々に増殖されたバクテリオファージ混合物の製造方法に関し、この方法では、ブドウ球菌菌株を前培養で、ブドウ球菌を溶菌することができるバクテリオファージ株それぞれと共に増殖させてから本培養でさらに増殖させ、次いで精製した後、前記異なる株を混合し、また使用されるバクテリオファージ混合物は、ブドウ球菌属の細菌を特異的に溶菌する少なくとも2種の異なる血清型のバクテリオファージを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細菌感染は様々な疾患を引き起こし、その中には死に至るものもある。抗生物質の開発により、これら細菌感染の多くが成功裏に撲滅された。しかし、異なる抗生物質を大規模に使用したことで、1つの抗生物質だけでなく多くの抗生物質に対して頻繁に耐性を示す細菌が出現した。かかる高度耐性細菌株はその程度を増しつつ深刻な問題をもたらしているが、これが当てはまる場所はまさに病院内であり、その理由は医師が施す治療によってすらかかる菌株に患者が感染する可能性があるためである。これらの菌株が、通常使用される抗生物質の大部分に耐性を示す場合、往々にして死に至る極めて重篤な疾病を引き起こしうる。
【0002】
本発明の範囲において、代替的な細菌への対抗手段を取る必要がある。植物や動物を攻撃し、それにより往々にして重篤な疾病を引き起こすウイルスが存在するのと同様に、特異的に細菌を攻撃するウイルスも存在する。かかるウイルスはバクテリオファージと呼ばれる。バクテリオファージは一般的に特定のタイプの細菌に特異的であり、栄養分(例えば糖など)の吸収が通常行われる細菌細胞壁の領域にしばしば結合する。細菌細胞壁でバクテリオファージの吸着が起こると、バクテリオファージは細菌内に自身の核酸を注入する。核酸は細菌内で複製され、バクテリオファージ特異的タンパク質が形成される。バクテリオファージの核酸コピー数が十分で、バクテリオファージタンパク質が細菌細胞内に十分に存在する場合、細菌細胞は溶菌されて、形成された多数のバクテリオファージが周囲に放出される。その後、感染サイクルは再び開始されうる。
【0003】
バクテリオファージを特定の疾病治療に使用することは何十年も前から知られている。かかる細菌への対抗方法は、特に東ヨーロッパ諸国で発展してきたものである。国際公開第2004/052274号パンフレットに記載されているのは、細菌感染症、特に緑膿菌による感染症の治療に使用可能なバクテリオファージ組成物の製造方法である。このケースでは、バクテリオファージの培養は半固体培養培地で行われている。国際公開第97/39111号パンフレットでは、広範な宿主スペクトルを有するバクテリオファージの製造方法および治療におけるバクテリオファージの使用が記載されている。国際公開第01/50866号パンフレットに開示されているのは、例えば手術室、さらには畜舎設備や食肉処理場における、様々な固体表面上の細菌を破壊するためのバクテリオファージカクテルの使用である。
【0004】
米国特許出願公開第2004/0247569号では、腸球菌、黄色ブドウ球菌、シュードモナスその他などの様々な抗生物質耐性細菌を不活化することができるバクテリオファージを含む医薬組成物が記載されている。国際公開第2006/047870号パンフレットでは、マトリックスに吸着された固定化バクテリオファージ組成物が記載されている。O’Flaherty他、Applied and Environmental Microbiology[2005]、1836〜1842ページでは、抗ブドウ球菌バクテリオファージKおよび病院由来の抗生物質耐性ブドウ球菌を制御するためのその使用が記載されている。国際公開第2007/148919号パンフレットでは、黄色ブドウ球菌に特異的なバクテリオファージおよび感染症治療のためのその使用が記載されている。Capparelli他、Antimicrobial agents and Chemotherapy[2007]、2675〜2773ページでは、バクテリオファージMsaおよびマウスモデルでの黄色ブドウ球菌に対するその使用が記載されている。Rashel他、JID[2007]、1237〜1247ページでは、バクテリオファージΦMR11からのペプチドグリカン破壊酵素であるエンドリシンのクローニングについて記載されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ブドウ球菌菌株をまず前培養で、ブドウ球菌を溶菌することができるバクテリオファージと共に増殖させてから本培養でさらに増殖させる、バクテリオファージ混合物の製造方法に関する。次いで、上記バクテリオファージの複数を組み合わせて混合物を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
使用されるバクテリオファージ混合物は、ブドウ球菌属種の菌を特異的に溶菌する、少なくとも2種、好ましくは少なくとも3種の異なる血清型のバクテリオファージを含む。使用することが好ましいバクテリオファージ株は、ミオウイルス科およびポドウイルス科のファージに由来するものである。
【0008】
本発明の重要な態様は、ブドウ球菌を溶菌することができる共通の性質を全てが有する複数の異なるバクテリオファージを使用することである。具体的には、使用されるバクテリオファージは、ヒトおよび/または動物に対して病原性のある疾病および状態に関連したブドウ球菌を溶菌するものでなければならない。特に好ましくは、本発明によって使用されるバクテリオファージは、抗生物質、特にメチシリンに耐性のあるブドウ球菌、とりわけ黄色ブドウ球菌菌株を溶菌する。本発明の重要な態様は、バクテリオファージ混合物中に複数の異なるバクテリオファージが存在することである。これらは黄色ブドウ球菌菌株を特異的に溶菌するバクテリオファージであってもよいが、好適には少なくとも2種の異なる血清型に属するバクテリオファージの混合物に加えて使用されるのみではあるものの、他のタイプの細菌を溶菌するバクテリオファージであってもよい。
【0009】
本発明によって用いられる方法で使用されるバクテリオファージは、詳細に特徴づけられたバクテリオファージであってもよく、または野生分離株由来であってもよい。かかる目的のため、通常のバクテリオファージ分離方法を用いて適切な供給源から立ち上げて、バクテリオファージは初めにブドウ球菌菌株との共培養で増殖させた後、本発明の方法で使用される。
【0010】
本発明の方法においては、安全上の理由から、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株をバクテリオファージの増殖に使用することが好ましい。
【0011】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌菌株、しばしばMRSAと略されるが、これらに頻繁に遭遇するのはまさに問題のある院内感染症においてである。しかし、バクテリオファージ混合物の増殖に使用することが好ましいのは、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株(MSSA)である。ブダペスト条約に基づき、好ましい菌株はGerman Collection of Microorganisms and Cell Culturesにアクセッション番号DSM18421にて既に寄託されている。
【0012】
バクテリオファージの増殖に本発明によって使用される黄色ブドウ球菌菌株の特に重要な利点は、当該菌株には以下の複数の病原性因子が存在しないことである。これらは転移可能なエレメント上に位置する以下の毒性決定因子である。
【0013】
tst: 161/93
sea: 619/93
seb: 62/92
sec: 1229/93
sed: 1634/93
see: FRJ918
eta: 1437/100
eta,etb: 1004/00
lukS−lukF: 3925/02
cna: 2773/03
seg: N315
segおよびseh: 2773/03
【0014】
好ましい実施形態では、使用される菌株には上述の病原性因子が完全に含まれない。
【0015】
上記理由により、病原性因子は増殖に使用される菌株からバクテリオファージに移動することができず、この点でバクテリオファージの増殖は特に安全である。
【0016】
本発明によって増殖のために使用される菌株の別の利点は、当該菌株内で増殖するバクテリオファージの性質が複数の継代後であっても変化しないことである。
【0017】
本発明によるバクテリオファージ混合物の製造のため、第一のステップとして、使用する黄色ブドウ球菌菌株を前培養で増殖する。細菌が適切な光学濃度に達すると、増殖対象のバクテリオファージが添加されるが、前培養では細菌とバクテリオファージの比が、1個のファージに対して約10〜10個の細菌に設定される。
【0018】
次いで、前培養液を、バクテリオファージ共存下で、細菌の溶菌が始まるまで増殖させる。次いで、バクテリオファージを含む前培養物をブドウ球菌の本培養液に添加するが、その比は好ましくは、細菌が相当の過剰量存在するように設定される。特に好ましい比は、バクテリオファージ当たりの細菌数がおよそ50〜1000個の範囲である。かかる過剰状態により、前培養液に存在する全てのバクテリオファージが適切な細菌を見つけて、その中で増殖できるようになる。
【0019】
細菌とバクテリオファージの比はまた、知られているように、MOI(感染多重度、multiplicity of infection)値ともいう。好ましい実施形態では、前培養および本培養におけるMOI値は10−6〜1である。
【0020】
本発明による方法では、本培養は通常、適切な大きさの発酵槽で行われる。発酵槽では、空気供給、pH、栄養分添加など、個々の環境パラメーターを連続的に制御することができる。好ましい実施形態では、空気供給の減少に伴って本培養物の増殖が起こり、またpHを5.8〜7.8の範囲に維持することが好ましい。
【0021】
発酵の後、溶菌した細菌由来の細胞成分を分離するため、最初に発酵培地の遠心分離および/またはろ過を行って、発酵ブロスからバクテリオファージを通常得る。上清液はこの場合、好ましくは1つまたは複数のフィルターでろ過されるが、フィルターの孔径は残存の可能性があるあらゆる細菌が最初のろ過の際にフィルターを通過できないように選択される。上記フィルターの孔径は0.1〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらにより好ましくは0.1〜0.45μm、最も好ましくは0.1〜0.2μmの範囲であることが好ましい。バクテリオファージはよりサイズが小さいため、このサイズのフィルターを通過できる。しかし、使用するフィルターをできる限りバクテリオファージが吸着しないものにするよう注意が必要であるが、その理由は、吸着した場合、フィルターが詰まってファージ収率の悪化につながる可能性があるためである。
【0022】
次のステップでは、バクテリオファージが孔を通過できずに液体中で濃縮されるよう、ファージ含有液を透析ろ過することが好ましい。バクテリオファージの濃度は、微生物学的測定の標準的な方法で容易に測定することができる。この溶液は、少なくとも1010PFU(プラーク形成単位、plaque−forming unit)/mlの濃度を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の範囲において、少なくとも2種以上のバクテリオファージの混合物が使用される。この種の混合物は、使用される各ファージから規定濃度のファージ含有液が初めに作られ、続いてこの液体が所望の比で混ぜ合わされて作られることが好ましい。関係するバクテリオファージは同じファージ分類に属していてもよく、異なるファージ分類に属していてもよい。特に好ましい実施形態では、バクテリオファージ混合物はミオウイルス科の異なる分類の2種からなる。一方で、バクテリオファージ混合物はKP3型バクテリオファージおよび/またはMP13.3として同定されたバクテリオファージを有することが特に好ましい。これらと同様に、混合物はまた他の適切なバクテリオファージを含むこともできる。
【0024】
2株の好ましいバクテリオファージが2006年10月18日にブランズウィックのGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures[Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH]に寄託された。バクテリオファージMP13.3株はアクセッション番号DSM18722が、KP3株と指定されたバクテリオファージはアクセッション番号DSM18723が割り当てられた。寄託はブダペスト条約に基づいて行われた。
【0025】
バクテリオファージ混合物は、まず各バクテリオファージ株が宿主細菌内で個別に増殖するように製造される。各バクテリオファージ調製物を精製し、力価を測定してから混合物が製造されるが、その際、個々のバクテリオファージ間の比は1:10〜10:1の範囲で変わりうる。使用する混合物は好ましくは、およそ同等の比率の2種のバクテリオファージからなる混合物であり、そのそれぞれの比率はプラーク形成単位に基づく。また追加のバクテリオファージ株を別々に増殖させて、上記混合物に添加することもできる。
【0026】
本発明によるファージ混合物には、薬剤としての使用に適した処理をさらに施すことができる。かかる段階では、バクテリオファージが不活化しないように注意する必要がある。例えばグリセリンやポリエチレングリコールのような増粘物質などの保護物質を添加することが好ましい。薬物を液体の形態で投与する場合、この種の添加物が好ましい。
【0027】
さらに好ましい実施形態では、本発明によるファージ混合物は安定剤を有し、特にヒト血清アルブミンが好ましい。
【0028】
好ましい実施形態では、バクテリオファージ液の効率に相乗効果のある酵素を少なくとも1つ、バクテリオファージ液に添加する方法で、本発明によるファージ混合物を薬剤として使用する。当該酵素は、それ自体が殺菌性の酵素であることができる。したがって、例えば様々な供給源に由来する、すなわちバクテリオファージ、細菌(エンドリシン、エキソリシン)またはその他の供給源に由来するリゾチームなどのリシンを使用することができる。上記リゾチームの代わりに、例えば鶏卵から分離されうるリゾチームであって、細菌細胞壁、特にグラム陽性細菌の細胞壁を溶解可能なリゾチームを使用することができる。同様に好都合に使用できる酵素としては他に、プロテアーゼおよび/またはペプチダーゼのグループに属するものがある。上記の一例として挙げられるのは、パパインである。ついには酵素は、それ自体が直接的に殺菌性がなくてもバクテリオファージの作用を補助するヌクレアーゼやグルコサミニダーゼであってもよい。
【0029】
特に好ましい実施形態では、上記酵素はプロテアーゼのセラリシンであり、これはセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)株が生成する。別の好ましい酵素は、ヌクレアーゼのベンゾナーゼまたはドルナーゼαである。実施例7に生物学的マトリックス(唾液)における上記組み合わせの優れた性質が開示されている。
【0030】
本発明によるバクテリオファージ混合物を異なる形態で用いる場合、混合物を凍結乾燥することも好都合でありうる。この場合、種々の糖などの適切な保護成分を添加してもよい。
【0031】
本発明による薬剤は、液体、チンキ剤、軟膏またはローションの形態で用いることができる。別の好ましい実施形態として、この種の薬剤は、ファージ混合物のほか、好ましくはグラム陽性細菌に有効な抗生物質もまた含有する。上記組み合わせには、メチシリン耐性細菌は本発明によるファージ混合物により溶菌するものであるという背景がある。しかし本発明は同時に、存在しうる抗生物質耐性でないあらゆる他の細菌が再び繁殖可能になることを防ぐためのものである。多くの場合、抗生物質耐性はブドウ球菌のプラスミドにコードされることから、微生物はそれ自体が抗生物質感受性であっても溶菌した細菌からプラスミドを吸収する可能性がある。上記の好ましい組み合わせはこれを妨げる。
【0032】
本発明によるファージ混合物は、抗生物質耐性黄色ブドウ球菌菌株による感染症の治療用薬剤の製造において使用することが好ましい。好ましい実施形態では、上記感染症は皮膚または粘膜で生じるものである。本発明によるバクテリオファージ混合物は上記感染症を容易かつ効果的に治療することができる。この場合、バクテリオファージ混合物を静脈および/または筋肉内に投与する必要はなく、液体、粉末、スプレーまたは軟膏の形態で感染部位に簡単に用いることができるという利点がある。
【0033】
本発明によるバクテリオファージ混合物は一方で、既にかかっている感染症の治療に用いることができる。しかし本発明の別の態様に基づくと、バクテリオファージ混合物はまた抗生物質耐性ブドウ球菌菌株の感染リスクを避けるために使用することもできる。この場合、バクテリオファージ混合物は予防的に使用される。極めて好ましい実施形態では、本発明のバクテリオファージ混合物は、特に肺感染症の治療または感染リスク回避のいずれかに対して、治療的にも予防的にも使用することができる。細菌、特に抗生物質耐性菌は呼吸換気装置を通じて肺に容易に侵入することができるため、多くの場合、肺の感染リスクは増大の傾向にある。
【0034】
本発明によるファージ混合物の別の好ましい適用分野は、眼への適用である。この種の感染がある場合、ファージ混合物は点眼剤の形態で投与される。
【0035】
本発明による方法の概略を図1に示す。
【0036】
本発明による方法の好ましい実施形態では、ベンゾナーゼがバクテリオファージ含有液に添加される。感染力や起こりうるブドウ球菌DNA断片の組み換えの懸念が不要になるように、主に溶菌したブドウ球菌に由来する高分子量DNAは、ベンゾナーゼにより切断される。他方で、ベンゾナーゼは粘性の点でバクテリオファージ液に対する有利な効果がある。したがってベンゾナーゼは精密ろ過の前または透析ろ過の後のいずれかで添加することが好ましい。ベンゾナーゼを添加する場合、イオン交換クロマトグラフィーで精製した後にゲルクロマトグラフィーも行うことが望ましい。残存するベンゾナーゼ残留物が上記手段により分離される。ベンゾナーゼの分子量は30,000〜40,000ダルトンである。したがってゲルクロマトグラフィーに用いるカラム材料はおよそ100,000ダルトン、好ましくはおよそ50,000ダルトンの空隙容量を持つことが望ましい。
【0037】
ベンゾナーゼ添加のさらに顕著な利点は、イオン交換クロマトグラフィーでの収率が増加することである。つまり、収率が高くなるという意味で核酸との複合体化に有利な効果があるため、バクテリオファージが少なくなることがなくなる。
【0038】
本発明の別の好ましい態様は、ヒト血清アルブミンの添加でバクテリオファージ懸濁液を安定化できる点である。これはヒト血清から得られるヒト血清アルブミンであってもよい。しかし上記の場合は、あらゆるウイルス汚染物質を除去する必要がある。ウイルス汚染物質のリスクを回避するため、代わりに、組み換えプロセスで製造したヒト血清アルブミンを使用することもできる。
【0039】
さらに好ましい実施形態では、Mg2+濃度0.1〜100mM、好ましくは1〜10mMのマグネシウムイオンの添加により、バクテリオファージ液は安定化される。極めて特に好ましい実施形態では、マグネシウムイオンとヒト血清アルブミンの組み合わせを添加することで安定化が実現される。
【0040】
以下の実施例は本発明を説明するためのものである。
【実施例1】
【0041】
発酵槽でのファージ製造
1.1 微生物
発酵用細菌
MRSA M.03.02.0028株は、凍結培養液がフライブルクのダシュナー教授から提供された。この菌株はブダペスト条約に基づき、German Collection of Microorganisms and Cell Culturesに番号18421で寄託されている。
【0042】
プラーク試験用細菌
黄色ブドウ球菌M.03.02.0008株はフライブルクのダシュナー教授から提供された。上記菌株はブダペスト条約に基づき、German Collection of Microorganisms and Cell Culturesに番号DSM18421で寄託されている。
【0043】
ファージ
ファージIは初めに滅菌ろ過された。
濃度:1×1010PFU/ml
2種のバクテリオファージKP3株(DSM18723)およびMP13.3株(DSM18722)はそれぞれ別々に培養された。
【0044】
1.2 栄養培地
a)APS LB培地
既製品培地(Becton Dickinson、バッチ番号430510)20gを秤量し、脱イオン水で溶解してから、つぎ足して最終容量1lとした。この方法で作製された培地のそのままのpHはおよそ6.8で、調整は必要なかった。培地を121℃で20分間滅菌した後、室温(RT;20〜22℃)に置いた。
【0045】
b)APS LB培地(発酵)
既製品培地(上記参照)20g+MgSO(Roth、保証品)2.5gを秤量し、脱イオン水で溶解してから、つぎ足して最終容量1lとした。培地をMediaPrep調製器で121℃で20分間滅菌した後、滅菌した培養容器に直接注入した。
【0046】
c)LB培地
カゼイン由来トリプトン(Roth、微生物学用)10g、NaCl(Roth、保証品)および酵母エキス(Roth、細菌学用)各5gを脱イオン水で溶解してから、つぎ足して最終容量1lとした。
固体栄養培地を作製するため、15g/lの寒天(Roth、高純度)を添加した。培地を121℃で20分間滅菌した。寒天プレートは室温に置かれた。この条件で最大で1週間保存されたプレートを試験に用いた。
【0047】
d)フォーゲル・ジョンソン寒天
既製品培地(Merck)58gを熱脱イオン水1lに溶解した後、121℃で20分間滅菌した。培地をおよそ50℃まで冷却後、0.24g/lのテルル酸カリウム(滅菌ろ過溶液)を添加した。培地をペトリ皿に注ぎ、クリーンベンチで30分間乾燥してから4℃で保存した。
【0048】
e)LB上層寒天
カゼイン由来トリプトン 1.0g、
NaCl 0.5g、
寒天 0.8g、
を脱イオン水で溶解し、混合物をつぎ足して100mlとした後、121℃で20分間滅菌した。使用するまで、60℃の乾燥キャビネットで保存した。
【0049】
1.3 バッファー
a)0.85%NaCl
NaCl 0.85gを脱イオン水で溶解し、つぎ足して最終容量100mlとした。バッファーを121℃で20分間滅菌した。
【0050】
b)ファージバッファー
20mM tris(pH7.4)、(Roth、超品質)、
100mM NaCl、
10mM MgSO×7H
滅菌保存溶液と滅菌脱イオン水から作製した。室温で保存した。
【0051】
c)1M NaOH
NaOH(Roth)40.01gを脱イオン水で溶解してから、つぎ足して最終容量1lとした。溶液を121℃で20分間滅菌した後、室温で保存した。
【0052】
d)pH較正液
pH4.01(Mettler Toledo)
pH7.00(Mettler Toledo)
【0053】
e)酸素プローブ(pOプローブ;培地中の酸素分圧を測定)
pOプローブを較正するため、初めにタスクバーの較正ボタンをクリックした後、次のウィンドウのpOボタンをクリックした。この時、温度値を室温に設定するか、溶液の温度を入力した。
【0054】
f)光学濃度プローブ
ODプローブは較正をせず、新たに測定する毎に所定の培地で単純にゼロにリセットした。プローブは未だ線形化されていなかったため、光度計で測定するようなOD600の外部比較は不要であった。
【0055】
g)pH測定
pHメーターは測定前に電源を入れ、必要な温度に設定した。pHメーターの較正状態をチェックし、必要な場合はメーカーの使用説明書に従って較正を行った。プローブを3MのKCl溶液から取り出し、脱イオン水で洗い流して洗浄した。ペーパータオルでプローブの水気を取ってから溶液中に保持して測定を行った。溶液を揺り動かしたり撹拌したりすることで測定プロセスを速めることができた。測定値を記録した後、プローブを溶液から取り出して70%エタノール、続いて脱イオン水でよく洗い流し、ペーパータオルで水気を取ってから、3MのKCl溶液に戻して保持した。
【0056】
1.5 細菌株の増殖
− 1.1で指定した菌株の発酵用に調製した凍結グリセリン培養液を−80℃の冷凍キャビネットから取り出し、クリーンベンチで解凍した。
− 白金耳2つ分の細胞材料をAPS LB培地20mlに接種し、200rpmで振とうしながら37℃で一晩培養した。
【0057】
1.6 発酵
− 37℃で動作している振とう培養器から培養液を取り出した。
− 光学濃度測定用に0.1mlを採取し、1+9になるよう培地で希釈して(APS−LB0.9ml+培養液0.1ml)、平均OD600値1.363を測定した。
− フレキシブル採取チューブで培地からサンプルを取り、エピ(Eppendorf社の反応容器)に注入した。LB寒天とフォーゲル・ジョンソン寒天に500μlずつ播種し、37℃で一晩培養した。
【0058】
1.7 一晩培養液のOD 8.0への調整
− 培養液は滅菌ファルコンチューブで培地と混合し、滅菌培地で希釈して光学濃度がおよそ8.0になるように調整した。
【0059】
1.8 細菌/ファージの培養
− (1.1)で使用されるファージを、エピ内でファージバッファーにより2×10−2になるように希釈した(最終容量=2×10−2希釈液 2ml)。
− 容器内の温度が安定したら、調整済の細菌培養液15mlとファージ2mlをファルコンチューブ内で混合し、37℃で20分間インキュベートした。
− 細菌とファージとの混合物を注射針を通じて20mlシリンジに採取し、培養容器カバーのセプタムを介して注入した。
− 3分間かき混ぜた後、発酵の初発測定値を測定した。
【0060】
1.9 CFU/mlの測定
− 培養液をOD8.0に調整し、下記の仕様でピペットによる10倍段階希釈を行った。
【0061】
【表1】



− 10−6〜10−8希釈液2×100μlをLB寒天に播種した(コンラージ棒で)。
− 翌日、プレートを37℃で一晩培養した。
【0062】
1.10 発酵
− 発酵が開始したら、場合によって30〜60分毎に、パラメーターを読み取りまたは測定した。
− OD600の測定は発酵培地をブランク値として行った。
− 発酵中のサンプリング(1回あたり8ml)は毎回滅菌10mlシリンジを用いてフレキシブル採取チューブを通じて行った。
− 8mlのうち、1mlをOD600外部の測定に使用し(キュベットに直接導入またはエピに注入)、残りをpH外部の測定に使用した。
【0063】
【表2】

【0064】
1.11 結果
使用された一晩培養液は、ODを8.0に調整した後、濃度8.5×10CFU/ml(CFU=コロニー形成単位)を示した。
【0065】
MOI値の計算
細菌: 15ml×8.5×10CFU=1.3×1010細菌/ml
ファージ: 2ml×5×10PFU/ml(2×10−2希釈での算出値)=1×10PFU(プラーク形成単位/ml)
MOI: 1/130(ファージ/細菌)=0.0077
【0066】
この時、溶菌は3時間未満で開始した。発酵を繰り返した場合にも同じ時点で発生したことから、これが想定される溶菌開始時期と思われる。毎回2時間15分後に酸素分圧が0.0%まで低下し、30分後に再び>0.0%になることから、発酵プロセスは高度に再現性があるものと思われる。上記プロセスで所定の時間間隔をおいて測定したODもまた、ほとんど同一であった。毎回、細菌は最高値でOD1.5に達した。7時間15分後に発酵を中止した際、OD600は0.179(A12:OD600 0.22)と依然として測定可能だった。しかし、フォーゲル・ジョンソン寒天(セクション5.1.2参照)における発酵産物中の生存ブドウ球菌数の多さは、発酵/溶菌が完全に完了しなかったことを意味していた。
【0067】
上記発酵で見られたファージ濃度5.4×10PFU/mlは、他の発酵で得られた値(3.3×10PFU/mlおよび8.3×10PFU/ml)の間であった。また振とうフラスコでも5×10PFU/mlという収率を得たが、これは完全に満足できる結果であったことを意味する。4℃で引き続き溶菌を行うと、より高い収率を達成することができる。
【実施例2】
【0068】
バクテリオファージ混合物の製造
製造菌株であるGerman Collection of Microorganisms and Cell Culturesに番号18421で寄託されているメチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株は、最初に温度30℃でおよそ250mlの栄養培地を用いて一晩培養した。増殖させた細菌培養液を新鮮な滅菌培地で希釈して、光学濃度がおよそ1.0になるように調整した。続いて細菌に対するファージの割合がおよそ1になるよう、希釈細菌培養液を適量のバクテリオファージと混合した。その後、細菌とバクテリオファージの混合物を30℃でおよそ5時間、前培養した。
【0069】
5時間前培養した後、37℃で光学濃度2.0になるまで発酵した上述のメチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株が入っている10リットルの発酵槽に細菌/バクテリオファージ混合物を移した。前培養液と混合した後、発酵前細菌を37℃でさらに12時間発酵した。その後、発酵を停止して、細菌、細菌残留物およびファージを含む発酵培養液をまず深層ろ過により事前精製した。深層ろ過では、バクテリオファージが容易に通過できる孔径のろ材で発酵培養液をろ過した。多くの場合バクテリオファージは負に帯電していることから、ろ材への不要なバクテリオファージ吸着を防ぐため、ろ材は負の帯電を有していた。
【0070】
深層ろ過の後、発酵培養液をおよそ直径0.1〜1μmの孔径を持つフィルターでろ過して、細菌および細菌成分、特に膜成分を除去した。
【0071】
精密ろ過で得られたバクテリオファージ含有液は非常に量が多かったことから、限外ろ過で容量を相当量減少させた。限外ろ過では発酵培養液の溶媒、すなわち水とその中に溶解した栄養培地成分だけがろ過で除去されるようにフィルター孔径を選択した。これがバクテリオファージ濃度を大いに増加させ、通常バクテリオファージ濃度は100〜10,000倍になる。
【0072】
その後、濃縮されたバクテリオファージ混合物をベンゾナーゼと混合し、残存する細菌の核酸を除去した。続いてバクテリオファージ液をイオン交換樹脂に吸着させてから、塩のグラジエントで溶出した。さらにゲルクロマトグラフィーでバクテリオファージを含む画分を精製して、このようにして得たバクテリオファージ液を所望のバクテリオファージ濃度に調整した。混合物を製造するため、本発明による好ましい2種のバクテリオファージを別々に増殖、精製した後、混ぜ合わせた。
【0073】
その後、バクテリオファージ混合物は所望の形態、すなわち適用可能な溶液、軟膏、粉末または粒状材料に加工され、容器に入れた後、使用可能になった。
【実施例3】
【0074】
4℃、室温および37℃におけるバクテリオファージ調製物の安定性
以下の組成のファージバッファーを保存バッファーとして用いた:20mM tris(pH7.4)、100mM NaCl、10mM MgSO×7HO。滅菌保存溶液および滅菌脱イオン水を用いて製造した。濃度1g/lのヒト血清アルブミン(HAS)を安定剤として使用した。この製品はBaxterから購入した。
【0075】
2種のバクテリオファージ、MP13.3およびKP3を試験した。
【0076】
PFU測定のため、German Collection of Microorganisms and Cell Culturesに番号18421で寄託されている黄色ブドウ球菌をLB培地で増殖させた。一晩培養液を用いて、20mlのLB培地を入れた100ml容量の三角フラスコにOD600が0.2になるように接種した。その後、振とう培養器で37℃で200rpm、OD600が0.8〜1になる時間まで培養液をインキュベートした。
【0077】
測定対象のファージ液から、ファージバッファーでの10倍段階希釈液を調製した(ファージ100μl+ファージバッファー900μl)。
【0078】
希釈ファージ液のそれぞれからサンプル100μlを2連で、滅菌フィルターシリンジ付きのピペットで採取し、滅菌してラベルを付けた遠心チューブの底部に入れた。対照としてファージバッファー100μlをチューブに入れた。続いてDSM18421 100μl(OD600 0.8〜1.0)を全てのチューブに入れて混合した。チューブはアルミニウムキャップで封し、注意して振とうして、培養器で関連の寒天プレートと共に37℃で20分間、前培養を行った。
【0079】
前培養終了のおよそ2分前に、60℃に加熱したキャビネットからLB上層寒天を取り出し、マグネチックスターラーで室温で1〜2分間混合した。培養後、温めたプレート、チューブおよび上層寒天をクリーンベンチに置いた。
【0080】
上層寒天6mlを5mlピペットで取り(正確には5mlの線を越えて計量)、2つの遠心チューブにそれぞれ3mlずつ分注した。チューブをボルテクサーで2秒混合した後、関連の寒天プレートに手早く注いで播種した。寒天プレートをクリーンベンチで少なくとも10分間乾燥させてから37℃の培養器に移し、上下を逆にして一晩培養した。
【0081】
【表3】



【0082】
MP13.3バクテリオファージを例として、ヒト血清アルブミンの添加により得られた安定化の結果を表3に示す。表3で使用されている表記はファージ濃度を表す別の表示方法である。したがって、例えば3.10E+0.9は溶液1mlあたりのファージが3.10・10PFUであることを意味する。
【0083】
また長期安定性試験もMP4を例として行われ、4℃で32週まで調製物の測定を行った。結果を表4に示す。Mファージ(MP)という略語はMP13.3バクテリオファージ(DSM18722)を、Kファージという略語はKP3バクテリオファージ(DSM18723)を表す。
【0084】
【表4】



【実施例4】
【0085】
特異的活性の測定
a) タンパク質濃度の測定
酸性媒体中でクーマシーブルーG−250はタンパク質と共に、マイクロタイターリーダーを用いてλ=595nmで光度的に定量することができる青色の複合体を形成する(マイクロタイタープレートあたり96ウェル、1ウェルあたり300μl)。
【0086】
材料:
PierceのCoomassie(登録商標)タンパク質アッセイ試薬(既製溶液)(製品番号:23200)
標準物質(1mg/mlの一定量500μl)
・ γグロブリン(例えばBioRad、カタログ番号:500−0005)
・ ウシ血清アルブミン(BSA)(例えばBioRad、カタログ番号:500−0007)
【0087】
手順:
適切に希釈した一定量のサンプルを試薬に加え、規定の時間間隔で光度測定を行った。総タンパク質濃度mg/lまたはμg/lは希釈倍率をしかるべく考慮し、標準曲線から算出した。
【0088】
b) ファージ活性
試験の原理:
ファージ懸濁液の感染力/活性はプラークアッセイで定量的に測定される。当該アッセイの原理は、使用するファージが有する黄色ブドウ球菌に特異的な溶菌効果である。宿主細胞が一面に広がった中でファージが複製すると、いわゆるプラークと言われる透明な活性中心を形成するが、プラークは肉眼スケールで見ることができ、明確に周囲より目立つものである。
【0089】
MOI(感染多重度)が適切な場合、正確に1つのプラークが1つの感染性ファージによる細菌細胞の感染に起因しうる。PFU(プラーク形成単位)/mlでのファージ活性は、使用サンプルの量、サンプル希釈率およびプレートあたりのプラーク数から算出することができる。
【0090】
測定するサンプルのファージ力価がわかっている場合は、寒天プレートあたりのプラーク数が50〜250になるようにサンプルの希釈倍率と容量を選択する。サンプルの正確なファージ力価が不明な場合は、サンプル容量または希釈の勾配により相当に広範囲に広げる必要がある。
【0091】
材料:
黄色ブドウ球菌 DSM18421
【0092】
手順:
黄色ブドウ球菌は2段階の振とう培養で増殖させた。
一定量のサンプルを一定量のブドウ球菌培養液と短時間インキュベートした。
懸濁液を液体寒天と混合し、調製した寒天アッセイプレートに播種した。
寒天アッセイプレートは18〜22時間培養した。
プラークを計数した。
活性をPFU/mlで算出した。
【0093】
c) 特異的活性
特異的活性はタンパク質に対する活性の割合、PFU/μgタンパク質で規定する。測定値は以下の通りであった。
【0094】
【表5】



【0095】
使用する溶液において、本発明により用いられるファージは少なくとも10PFU/μgタンパク質の特異的活性を有することが好ましく、特に好ましくは、Kファージの場合は9・10(0.09E+10に対応)、Mファージの場合は2.4・10(0.24E+10)(それぞれPFU/μgタンパク質)の特異的活性を有する。以下の値は異なるバッチでの結果である。
【0096】
【表6】



【実施例5】
【0097】
ベンゾナーゼの使用
ベンゾナーゼはDNAおよびRNAを極めて小さい単位まで高効率で分解するエンドヌクレアーゼである。この酵素は主に粘性を低減させるために用いられる。
【0098】
もう1つの主要な使用分野は、DNAと高分子タンパク質との相互作用の防止である。かかる相互作用により効率的な精製が困難になり、または完全に阻害されることさえありうる。これは特に、ファージに非常に巨大なタンパク質膜を形成させる本プロセスに影響すると思われる。ベンゾナーゼ非処理で1回、ベンゾナーゼ処理で1回、本発明による方法を実施した。結果を表7および表8に示す。
【0099】
【表7】



【0100】
【表8】



【実施例6】
【0101】
混合物の有効性
本発明によるバクテリオファージ混合物が驚くべき性質を有することを示すため、病院由来の様々な問題病原菌を試験した。多抗生物質耐性を示す黄色ブドウ球菌菌株として病院から提供された分離株を使用した。
【0102】
様々な黄色ブドウ球菌分離株の溶菌可能性について、MP13.4ファージで1回、KP4ファージで1回、MP13.4とKP4の1:1混合物で1回、試験を行った。
【0103】
単一のバクテリオファージでは溶解できなかった黄色ブドウ球菌菌株であっても、ファージ混合物を用いると溶菌できたことを以下の表9に示す。多抗生物質耐性ブドウ球菌菌株を病院で処理する際、できる限り迅速かつ効果的にこれら病原菌を溶菌する必要があることから、バクテリオファージ混合物ができる限り多くの異なる問題細菌を溶菌し、それゆえに破壊できることは計り知れない利点である。
【0104】
【表9】



【実施例7】
【0105】
唾液中での黄色ブドウ球菌DSM18421の溶菌
7.1 唾液混合物の製造
− 異なる個人から朝の唾液(朝食前かつ歯磨き前)を採取した。
− 唾液サンプルを12,000rpmで5分間、室温で遠心分離した。
− 上清液体を除去し、滅菌ろ過した(0.8μmのプレフィルター、その後0.22μmのフィルター)。
− 滅菌容器で唾液サンプルを1:1で混合した。
【0106】
7.2 溶菌のための調製物培養
− 上述のように調製した唾液に以下も添加した:
およそ1×10CFU/mlのDSM18421(一晩培養液の適切な希釈液から)、
およそ1×10PFU/mlのファージ(Simba Top、精製したMおよびKファージの1:1混合物)。
− 加えてセラリシン(100U/ml)、ドルナーゼ(25U/ml)もしくはベンゾナーゼ(25U/ml)またはこれら酵素の混合物を使用した。
− 酵素は培養開始直後に添加した。
− ファージを同量の保存バッファー(組成は下を参照)添加で置き換えた対照を同時に培養した。
− 全調製物の総容量は2mlであった。
− 10ml容量のガラス製ペニシリンボトル中で37℃、200rpmで培養した(振とう培養器内で)。
【0107】
7.3 6時間後の生存細胞数(CFU/ml)の測定
− 6時間の培養後、各調製物から一定量を取り、10倍段階希釈を調製した。
− 各段階希釈から2〜5の適切な希釈を選び、それぞれ2×100μl(2連サンプル)を播種した(コンラージ棒で)。
− ファージを含まない調製物の場合はLB寒天に、ファージを含む調製物の場合は0.01%クエン酸塩を含有するLB寒天に播種した。
− 37℃で少なくとも16時間培養した後、各プレートのコロニー形成単位(CFU)を計数した。
− 少なくとも20CFUあるプレートのみ、CFU/mlの数値計算に使用した。
− 培養時間に対してCFU/ml(対数期)をプロットしてグラフ形式で表した。
【0108】
結果を表10〜12に示す。
【0109】
【表10】



【0110】
表10(バクテリオファージ添加/非添加のセラリシン)は、セラリシン単独およびバクテリオファージ(DSM18722とDSM18723の混合物)と組み合わせた場合の唾液中黄色ブドウ球菌濃度に対する効果を明らかにする例である。表に示されるように、セラリシン単独ではコロニー数を減少させなかった。バクテリオファージ混合物はコロニー数を67.4%に減少させた。バクテリオファージとセラリシンを組み合わせると、コロニー数は18.7%まで低減した。このように相乗的効果が認められた。
【0111】
【表11】



【0112】
表11(ドルナーゼαとベンゾナーゼの比較)は、ヌクレアーゼのドルナーゼαおよびベンゾナーゼの唾液中黄色ブドウ球菌濃度に対する効果を明らかにする例である。バクテリオファージの使用によりコロニー数は18.7%に減少した。バクテリオファージとヌクレアーゼの組み合わせは、ドルナーゼαの場合は8.88%、ベンゾナーゼの場合は6.37%にコロニー数を減少させた。
【0113】
【表12】



【0114】
表12(ドルナーゼαおよびセラリシンの組み合わせと個々の酵素との比較)は、ヌクレアーゼのドルナーゼαとプロテイナーゼのセラリシンが有するバクテリオファージとの相乗効果に対する効果を、個別および組み合わせで比較した例である。酵素はそれ自体の活性として、唾液中の黄色ブドウ球菌のコロニー数を54.3%(ドルナーゼα)、28.2%(セラリシン)に減少させた。上記2つの酵素の組み合わせはコロニー数をさらに20.0%に減少させた。
【実施例8】
【0115】
バクテリオファージDSM18722とDSM18723との組み合わせが免疫抑制マウスの致死性黄色ブドウ球菌による肺感染症に及ぼす効果の証拠:
抗生物質使用の比較および異なる時点でのバクテリオファージ投与の比較
バクテリオファージDSM18722とDSM18723との混合物のin vivoでの有効性を動物モデル(免疫抑制マウス、黄色ブドウ球菌病原性株を気管内投与)で示した。非感受性抗生物質(シプロフロキサシン)および感受性抗生物質(バンコマイシン)も比較するために用いた。
【0116】
1群あたり体重およそ25gのマウス20匹からなる4群をまず免疫抑制にして、黄色ブドウ球菌に適切に感染することの確認を行った。細菌感染の4日前にシクロフォスファミドを投与して免疫抑制を開始した。さらに1日前に、単回のみのコルチゾン投与と共に、シクロフォスファミドを投与した。シクロフォスファミドでの免疫抑制は3日間隔で繰り返された。
【0117】
既存の病原性細菌が(予備試験で見られたケースのように)免疫抑制されたマウスで致死性と判明するような好ましくない効果を有する可能性があるため、試験期間中、抗生物質のシプロフロキサシンで動物を保護した。感染用に選ばれた黄色ブドウ球菌菌株はこの抗生物質に耐性であった。
【0118】
感染用に選ばれた黄色ブドウ球菌菌株(内部番号M.06.02.0071)はヴェルニゲローデのRobert−Koch−Institutから提供された分離株であった。この黄色ブドウ球菌は、病原性因子PVLを有することから特に病原性が高いと考えられているUSA300株(MRSA、ST8)のグループの1つである。選ばれた菌株はとりわけシプロフロキサシンに耐性であったが、バンコマイシン、クリンダマイシンおよびその他ある種の抗生物質には感受性であった。
【0119】
0日目に、マウスに1.5×10CFUの黄色ブドウ球菌を麻酔下で気管内投与した。
【0120】
薬剤として、感染の1時間前または感染から1時間後のいずれかで、5.5×1010PFUのバクテリオファージDSM18722とDSM18723との1:1混合物を一度だけ麻酔下で気管内投与した。1つの群には、感染の1日前からバンコマイシンも1日2回皮下投与した。
【0121】
主要パラメーターは試験開始から経過した時間に応じた致死率の測定であった。試験期間は14日間であった。
【0122】
試験結果を表13に示す。
【0123】
【表13】



【0124】
バクテリオファージは致死率に明確な効果を及ぼすことが認められる。特に感染前にバクテリオファージを投与すると急性期の死亡率がかなり減少した。感染後にバクテリオファージを投与した効果もまた認められる。同様に、感染前のバクテリオファージ単回投与の場合よりやや少ないものの、抗生物質バンコマイシンの事前およびその後の継続的な投与もまた、プラセボと比較した急性期の死亡率の減少を達成した。
【0125】
抗生物質バンコマイシンの防御的な継続投与の効果と比べ、感染前のバクテリオファージ単回投与の保護効果は、試験の終期(14日目より後)でかなり顕著であった。
【0126】
抗生物質シプロフロキサシンの防御的およびその後の継続的な投与と比較して、黄色ブドウ球菌感染症の治療選択肢としてのバクテリオファージの効果は特に明確に認められる。
【実施例9】
【0127】
ナノ熱量測定
微生物の活性を試験するもう1つの感度の良好な方法として、ナノ熱量測定の形式が利用できる。この技術では、代謝活動を産生する熱で測定する。熱産生は、熱電対で生成した電圧[μV]から測定される。代謝活動の活性化剤および阻害剤は熱産生に影響し、それゆえに熱電対の電圧に影響する。
【0128】
使用される測定システムと手順の詳細な説明は、J.Lerchner他、Thermochimica Acta 477、2008年、48〜53ページで見つけることができる。
【0129】
バクテリオファージの有効性試験の一部として、以下のナノ熱量測定調査を行った。
− 黄色ブドウ球菌DSM18421の代謝に及ぼすバクテリオファージDSM18722とDSM18723との1:1混合物の効果
− 黄色ブドウ球菌DSM18421の代謝に及ぼす抗生物質バンコマイシンとクリンダマイシンの効果
− 黄色ブドウ球菌M.06.02.0071の代謝に及ぼすバクテリオファージDSM18722とDSM18723との1:1混合物の効果
− 黄色ブドウ球菌M.06.02.0071の代謝に及ぼす抗生物質バンコマイシンとクリンダマイシンの効果
− バクテリオファージDSM18722とDSM18723との1:1混合物、および抗生物質バンコマイシン、クリンダマイシンが、マウス肺炎モデルで使用され、肺組織から分離された後の黄色ブドウ球菌DSM18421の代謝に及ぼす効果
【0130】
黄色ブドウ球菌DSM18421株およびそのM.06.02.0071株はいずれも、バクテリオファージDSM18722とDSM18723の個々に対して、および抗生物質バンコマイシン、クリンダマイシンに対して感受性である。
【0131】
調査を行うため、バンコマイシンとクリンダマイシンをそれぞれ濃度10μg/ml(予備試験で見られたMICの10倍超に相当)で使用した。バクテリオファージ濃度は4×10PFU/mlであった。
【0132】
測定結果を表14〜16に示す。これらの結果から細菌の場合、抗生物質により静止状態の指標と解釈できる残存活性が生じたことが理解できる。最小発育阻止濃度(MIC)を下回ると、細菌は再び増殖した。これが耐性の獲得または不十分な治療のリスクを引き起こす。
【0133】
他方、バクテリオファージの効果は細菌の溶解による不可逆的な不活化を実際にもたらしており、したがって増殖再開の可能性が排除される。少量残存した熱産生は、生物材料の分解に関与する酵素的プロセスに起因するものであった。
【0134】
ナノ熱量測定により、使用された抗生物質の効果よりバクテリオファージの効果が優れていたことが示された。
【0135】
【表14】



【0136】
【表15】



【0137】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージ混合物の製造方法であって、少なくとも2種の異なるバクテリオファージ株を別々に増殖させ、ブドウ球菌菌株を前培養で、ブドウ球菌を溶菌することができるバクテリオファージ株のそれぞれと共に増殖させてから本培養でさらに増殖させ、次いで精製した後、前記異なる株を混合する、前記方法であって、使用するバクテリオファージ混合物が、ブドウ球菌属の細菌を特異的に溶菌する少なくとも2種の異なる血清型のバクテリオファージを含むこと、およびバクテリオファージの増殖のために使用される細菌株がメチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌菌株がアクセッション番号DSM18421であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前培養で増殖させた細菌とバクテリオファージとの混合物を、事前に増殖させたブドウ球菌培養液に添加し、MOI値が0.01〜1になるようにファージと細菌の比を設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
バクテリオファージの精製がイオン交換クロマトグラフィーおよび/またはベンゾナーゼ処理を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
バクテリオファージ混合物がアクセッション番号DSM18722のバクテリオファージMP13.3およびアクセッション番号DSM18723のバクテリオファージKP3を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ファージが少なくとも10プラーク形成単位/μgタンパク質の特異的活性を有することを特徴とするファージ混合物。
【請求項7】
少なくとも10PFU/μgタンパク質の特異的活性をそれぞれ有するバクテリオファージMP13.3(DSM18722)および/またはバクテリオファージKP3(DSM18723)を含むことを特徴とする、請求項6に記載のファージ混合物。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の方法によって得られる、請求項6または7に記載のファージ混合物。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載のファージ混合物を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項10】
さらにグラム陽性細菌に対して活性を持つ抗生物質を含むことを特徴とする、請求項9に記載の薬剤。
【請求項11】
リシン、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼおよび/もしくはグルコサミニダーゼを含む群から選択される酵素、ならびに/またはヒト血清アルブミンおよび/もしくはMg2+イオンから選択されるバクテリオファージ安定化手段をさらに含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の薬剤。
【請求項12】
抗生物質耐性ブドウ球菌により引き起こされる感染症の治療用薬剤を製造するための、請求項6から8のいずれかに記載のファージ混合物の使用。
【請求項13】
抗生物質耐性ブドウ球菌により引き起こされる感染症を防ぐための予防的処置用薬剤を製造するための、請求項6から8のいずれかに記載のファージ混合物の使用。
【請求項14】
感染症が皮膚および/または粘膜の感染症であることを特徴とする、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
感染症が複数の抗生物質に耐性であるブドウ球菌により引き起こされることを特徴とする、請求項12または13に記載の使用。


【図1】
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【公表番号】特表2011−517557(P2011−517557A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500086(P2011−500086)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001845
【国際公開番号】WO2009/115245
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510251039)フィトライン ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】