説明

バシラス属芽胞形成菌の静菌剤

【課題】低カロリー性で、安全性に優れたバシラス属芽胞形成菌の静菌剤及び食品の腐敗防止方法を提供する。
【解決手段】植物を灰化して抽出した水溶性ミネラルを含有するバシラス属芽胞形成菌の静菌剤。水溶性ミネラルが植物の灰化物を水で抽出したミネラル含有水溶液であるバシラス属芽胞形成菌の静菌剤。鉱物より抽出又は薬品より調整した少くともナトリウム、カリウム、塩素及び硫黄を含む水溶性ミネラルを含有するバシラス属芽胞形成菌の静菌剤。食品又は飲料と、バシラス属芽胞形成菌静菌剤とを接触させる食品の腐敗防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バシラス属芽胞形成菌の静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造における100℃以下での加熱殺菌では、耐熱性のバシラス属芽胞(胞子)が残存し、缶詰製品、缶飲料、瓶詰め製品、レトルトパック製品の離水や変敗(フラットサワー)の原因となることが多い。これは滅菌あるいは殺菌工程で完全に死滅できなかった芽胞が、流通・保管あるいはホットベンダー内の加温によって増殖し、上記製品中の糖類を有機酸に変換することによる。
現況、抗菌剤として汎用されているショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と食用油脂由来の脂肪酸からなる非イオン性界面活性剤である(例えば、特許文献1)。ショ糖脂肪酸エステルは乳化剤として優れた機能を有するが、ヒトに対するメタボリックシンドローム予防の観点からみると、消費者が日常、継続的に摂取することは好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−267632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、低カロリー性で、人体に対する安全性に優れたバシラス属芽胞形成菌の静菌剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、植物を灰化して水で抽出した水溶性ミネラルを静菌剤又は後の食品に添加することにより、食品中のバシラス属芽胞形成菌の増殖が抑制され、上記本発明の課題が解決されることを見出し、さらに鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] 植物を灰化して抽出した水溶性ミネラルを含むことを特徴とするバシラス属芽胞形成菌の静菌剤、
[2] 水溶性ミネラルが植物の灰化物を水で抽出したミネラル含有水溶液であることを特徴とする上記[1]記載の静菌剤、
[3] 水溶性ミネラルがミネラル含有水溶液より水分を除去したパウダー状のミネラルであることを特徴とする上記[2]記載の静菌剤、
[4] 1種類または2種類以上の植物を用いることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の静菌剤、
[5] 植物が野草、樹木枝葉、又は海藻類であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の静菌剤、
[6] 鉱物より抽出又は薬品より調整した少なくともナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、及び硫黄(S)を含む水溶性ミネラルを含むことを特徴とするバシラス属芽胞形成菌の静菌剤、
[7] 食品または飲料と上記[1]〜[6]のいずれかに記載の静菌剤とを接触させることを特徴とする食品の腐敗防止方法、
[8] 食品または飲料がカン、ビン、又はレトルトパックの包装形態で保存されていることを特徴とする上記[7]記載の食品の腐敗防止方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低カロリー性で、人体に対する安全性に優れた、例えば野草を含む植物等を灰化して抽出した水溶性ミネラルを含むバシラス属芽胞静菌剤が提供される。上記水溶性ミネラルは、食品素材であり安全性が高く、元来動物をはじめとする生物が摂取を必要とするミネラルであるので、ヒトと環境に優しい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のバシラス属芽胞静菌剤の主成分は植物体中に存在する元素から構成され、主として植物由来のミネラルを含有する水溶液、又は該水溶液から水を除去して得られる粉末である。
【0009】
魚介類等の動物や海草・海藻類、陸上の植物を灰化して多種類のミネラルを抽出する方法は、古くから特開昭51−121562号、特公昭61−8721号、特公平6−92273号等に示される方法が知られている。
【0010】
また上記のように灰化抽出した植物ミネラルは加熱によって気化又は昇華された元素を除く、原材料が含有するすべてのミネラルを含み、さらに難溶性又は不溶性のミネラルを含む総合ミネラルであるが、この抽出ミネラルに水を加えて撹拌し、水分と固体成分とを分離して得た水溶液は、水溶性ミネラルのみを含んだミネラル含有水溶液である。
【0011】
本発明で使用される植物としては、特に限定されるものではなく、例えば野草類(クズ、イタドリ、ドクダミ、ヨモギ等)、樹木枝葉類(マツ枝葉、ヒノキ枝葉、スギ枝葉、イチョウ葉等)、海藻類(ホンダワラ、コンブ等)、竹、熊笹、苔類、シダ類等が対象となる。植物は人工的に育成されたものではなく、自然の条件下で育った野性のものが、多様なミネラル成分を比較的多量に含む点で望ましい。
【0012】
本発明の水溶性ミネラルとしてはナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、硫黄(S)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、セレン(Se)、コバルト(Co)、鉛(Pb)等、人体に必須のミネラルが挙げられる。
植物の灰化は、原材料毎に洗浄及び乾燥後、例えば、焼却炉を用いて200〜2000℃の温度下で1次的に灰化させ、さらにその灰化物を同様に加熱して残存未燃焼有機物を除去する2次加熱工程を経て、粗粉砕後20メッシュの篩にかけて選別し、金属探知機による金属除去工程を経て、ローラーミル等を用いて約60メッシュの篩を通過する粒径となるように微粉砕して上記植物ミネラルを得ることができる。
多種類の原料を用いることにより、ミネラル成分の種類を豊富にし、植物ミネラルを生産毎に概ね同一の成分とすることができる。また上記灰化物は所定のミネラルバランスに対応した配分量となるよう1種類または2種類以上の乾燥原料を予め混合して灰化してもよいが、原料毎に灰化したものを所定のミネラルバランスを考慮して適量ずつ配合して用いてもよい。後者の方法によれば、生産毎に得られる植物ミネラルの成分がより均一化される。
【0013】
前記植物ミネラル原末に加水して加熱抽出を行い、該抽出液を粗ろ過等により固液分離後、得た抽出液を1次濃縮し水溶性ミネラルが得ることができる。さらにこの水溶性ミネラルを遠心脱水及び乾燥の2次濃縮工程を経て、水溶性ミネラルの粉末を得ることができる。尚、本発明に使用される水は、清澄な水が好ましい。
【0014】
本発明で使用される鉱物としては、上記ミネラルを含む天然の鉱物を対象とし、例えばドロマイト、カルマイト等が挙げられる。本発明で使用される薬品としては、上記ミネラルを含む固体、又は液体の薬品を対象とし、例えば塩化ナトリウム試薬、塩化カリウム試薬、硫酸ナトリウム試薬、硫酸カリウム試薬等が挙げられる。
【0015】
本発明のバシラス属芽胞形成菌としては、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・パミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・レンタス(Bacillus lentus)、バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バシラス・スファエリクス(Bacillus sphaericus)等のバシラス属菌が挙げられる。
本発明のバシラス属芽胞形成菌の静菌剤は、上記の水溶性ミネラルあるいは粉末単独として、または適宜の希釈剤を加え混合することによって製造される。静菌剤形は、固形剤、及び液剤を包含する。希釈剤としては、例えばグルコース、デキストリン、アラビアガムのような固体希釈剤、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、界面活性剤のような液体希釈剤が挙げられる。
本発明の静菌剤は、所望により水溶性ミネラル以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、従来技術に従ってよく、例えば甘味料、香料、調味料、着色料、乳化剤、殺菌剤等が挙げられる。
【0016】
本発明の静菌剤が静菌目的で使用される食品または飲料としては、特に限定されるものではなく、例えばラーメン、しるこのような缶詰製品、佃煮のような瓶詰製品、スープ、カレー、リゾットのようなレトルト食品、茶飲料、コーヒー飲料、甘酒のような缶飲料等が挙げられる。
本発明の静菌剤と食品とを接触させる方法としては、食品の製造時、加熱処理の後に食品に静菌剤を添加することが挙げられる。
静菌剤全体に対する上記水溶性ミネラルあるいは粉末の含有量は一概には言えないが、通常約1〜80%(wt)、好ましくは約1〜40%(wt)である。
食品に対する該静菌剤の添加量は、通常約0.01〜50%(wt)、好ましくは約0.01〜20%(wt)である。
【実施例】
【0017】
次に本発明の試験に使用する水溶性ミネラルまたはその粉末の製法について、実施例により説明するが、本発明の権利範囲は、そのような例によって限定して解釈されるべきものでない。
1.水溶性ミネラルの製造方法
(1)植物ミネラル原末の製造方法
原料としてはクズ、イタドリ、ドクダミ、及びヨモギ(以上、野草類)、マツ枝葉、ヒノキ枝葉、スギ枝葉、イチョウ葉(以上、樹木枝葉類)、ホンダワラ、コンブ(以上、海藻類)、竹、熊笹、苔類、シダ類(以上、その他の植物類)の自然の条件下で育った野性の植物を用いた。これらの植物を原料毎に洗浄及び天日乾燥後、焼却炉を用いて200〜1300℃の温度下で1次的に灰化させ、さらにその灰化物を同様に加熱して残存未燃焼有機物を除去する2次加熱工程を経て、粗粉砕後20メッシュの篩にかけて選別し、金属探知機による金属除去工程を経て、ローラーミル等を用いて約60メッシュの篩を通過する粒径となるように微粉砕した。上記のように原料毎に灰化したものを所定のミネラルバランスを考慮して適量ずつ配合し、植物ミネラル原末を得た。上記方法によって得られた植物ミネラル原末の成分は下記表1に示す通りである。
【0018】
【表1】

【0019】
(2)水溶性ミネラルまたは粉末の製造
水100Lに対し前記植物ミネラル原末30kgの割合で加えて、100℃で加熱抽出を行い、該抽出液を粗ろ過等により固液分離後、得た抽出液を1次濃縮し水溶性ミネラルを得た。さらにこの水溶性ミネラルを遠心脱水及び乾燥の2次濃縮工程を経て得られた粉末を粉砕後60メッシュ篩にかけて選別して水溶性ミネラル粉末を得た。
水溶性ミネラル粉末の成分は下記表2に示す通りである。なお水溶性ミネラル及び水溶性ミネラル粉末が含有するミネラルのバランスは、水溶性ミネラルより水分のみを除去したものが水溶性ミネラル粉末であることから、ほぼ等しいものである。よってバシラス属芽胞静菌剤としてミネラルを用いる場合は、水溶性ミネラル含有水溶液、粉末ともに同様の効果が得られる。
【0020】
【表2】

【0021】
[試験例1]
(1)実験試料
水溶性ミネラルとしては、上記製造方法により製造された水溶性ミネラル粉末を用いた。使用菌としては、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)を用いた。バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)は、55℃を最適生育温度とする有胞子性乳酸菌で、耐熱性に優れており、フラットサワーの原因となる微生物である。培地としては、トリプトソーヤブイヨン培地(日水製薬株式会社)、及び標準寒天培地(日水製薬株式会社)を用いた。
(2)実験方法
バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)を標準寒天培地にて55℃で1晩静地培養した。続いて、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)の生菌数が10〜10個/mLになるように、下記配合比率で培地調整した。この培地を用いて55℃で振とう培養し、経時的(0、5、24時間後)に菌数を測定した。静菌剤なしのコントロールとして、水溶性ミネラル5mLの代わりに生理食塩水5mLを用いた。
【0022】
【表3】

*試験に用いた水溶性ミネラルの濃度
0.001%、0.01%、0.1%、1%、10%
したがって、培地中の水溶性ミネラルの最終濃度は以下の通り。
0.0005%(5ppm)、0.005%(50ppm)、0.05%(500ppm)、0.5%(5000ppm)、5%(50000ppm)

(3)実験結果
【0023】
【表4】

(4)結論
55℃、24時間振とう培養後のバシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)の生菌数は、水溶性植物ミネラルの最終濃度5%、0.5%の試験区において10オーダー、0.05%の試験区において10オーダーであり、静菌効果が確認された。0.005%以下の濃度では、10以上を示し、静菌効果は確認できなかった。
【0024】
[試験例2]
(1)実験試料
水溶性ミネラルとしては、上記製造方法により製造された水溶性ミネラル粉末を用いた。使用菌としては、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)を用いた。培地としては、普通ブイヨン(Becton, Dickinson and Company)、及びBCP(ブロムクレゾールパープル:和光純薬工業株式会社)を加えた標準寒天培地(栄研化学株式会社)を用いた。
(2)実験方法
バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)を培地(Nutrient broth)中で1晩培養後、1白金耳を別の普通ブイヨンに植え継ぎ一晩培養したものを菌液とした。沖縄ソーキそば缶(株式会社ライフトラスト製)の内容物を下記の表5に従って、無菌的に100gずつ分け、下記表5に従って水溶性ミネラルを添加し、また生菌数8.0×10個/gとなるように菌液を添加した。各サンプルはそれぞれ2組用意し、55℃の高温水槽で2週間高温保管した後、試料を段階希釈し、BCP加標準寒天培地を用い、45℃、48時間培養を行って、菌数を計数した。
【0025】
【表5】

(3)実験結果
【0026】
【表6】

【0027】
(4)結論
水溶性ミネラルが0%(2区)、0.05%(3区)、及び0.1%(4区)では、それぞれ菌の増加が見られたが、水溶性ミネラルが0.5%(5区)では菌は検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を灰化して抽出した水溶性ミネラルを含むことを特徴とするバシラス属芽胞形成菌の静菌剤。
【請求項2】
水溶性ミネラルが植物の灰化物を水で抽出したミネラル含有水溶液であることを特徴とする請求項1記載の静菌剤。
【請求項3】
水溶性ミネラルがミネラル含有水溶液より水分を除去したパウダー状のミネラルであることを特徴とする請求項2記載の静菌剤。
【請求項4】
1種類または2種類以上の植物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静菌剤。
【請求項5】
植物が野草、樹木枝葉、又は海藻類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の静菌剤。
【請求項6】
鉱物より抽出又は薬品より調整した少なくともナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、及び硫黄(S)を含む水溶性ミネラルを含むことを特徴とするバシラス属芽胞形成菌の静菌剤。
【請求項7】
食品または飲料と請求項1〜6のいずれかに記載の静菌剤とを接触させることを特徴とする食品の腐敗防止方法。
【請求項8】
食品または飲料がカン、ビン、又はレトルトパックの包装形態で保存されていることを特徴とする請求項7記載の食品の腐敗防止方法。