説明

バチルス属細菌由来の改変プロモーター

【課題】バチルス属細菌において機能する改変プロモーター及びその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】バチルス属細菌において機能する改変プロモーターであって、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されていることによりプロモーター活性が天然型プロモーターに比べて向上していることを特徴とする改変プロモーターが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改変プロモーターに関する。詳しくは、バチルス属細菌のプロモーターを基に構築された改変プロモーター及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス(Bacillus)属細菌は古くから発酵食品に利用されている。また、プロテアーゼやアミラーゼを始めとする多くの酵素を分泌することでも知られている。一方、異種蛋白質生産あるいは蛋白質高生産を目的として現在一般的に広く利用されている遺伝子組み換え技術においては、遺伝子組換え生物の宿主微生物として、細菌に限っては大腸菌が最も頻繁に利用されている。遺伝子組換え技術の宿主微生物としての観点からバチルス属細菌を考えると、大腸菌と異なりエンドトキシンのような発熱物質は生産せず病原性がないこと、また、前述したように古くから発酵産業に利用されてきた経緯があること、さらには、物質分泌能が高いことなど数多くの利点を有し、産業への利用が大いに期待される。
【0003】
バチルス属細菌を宿主微生物として産業利用した例は大腸菌に比べて非常に少ない。数十年前からバチルス・サチルス(Bacillus subtilis)の発現系の開発がなされ、ベクターの発見や形質転換法の確立、また数多くの遺伝子のクローニングがなされているものの、バチルス属細菌を利用した発現系の産業への普及は進んでいない。その一因は目的蛋白質高生産に適した発現系、ひいては目的蛋白質高生産に適した発現ベクターが構築されていないことにある。この産業普及の障害を克服するための有望な方策の一つは高発現プロモーターを開発すること、即ちプロモーターを改変し、その活性を高めることである。実際、プロモーターの改良に対する要望は高く、様々な試みがなされている(例えば特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3529774号公報
【特許文献2】特開2002−272466号公報
【特許文献3】特表2002−504379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、バチルス属細菌を利用した高発現系を実現すべく、バチルス属細菌において機能する改変プロモーター(高発現するように改良されたプロモーター)及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて本発明者らは検討を重ねた。まず、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)をα−アミラーゼ生産菌として変異処理を行うことによって、α−アミラーゼ生産性が向上した変異株の獲得に成功した。変異株中のα−アミラーゼ遺伝子およびそのプロモーターの塩基配列を同定したところ、プロモーターの塩基配列の一部が天然型(野生型)の配列と相違することが確認された。詳細に調べた結果、この改変部位はプロモーター3'末端より80bp上流付近であり、これまでの報告におけるα−アミラーゼプロモーター改変部位(プロモーター3’末端近傍であり、主に3'末端より30bp上流までの領域。特許文献1、2を参照)とは大きく異なることが明らかとなった。特筆すべきことは、今回見出された改変部位は、RNAポリメラーゼが認識する「-35領域」よりも上流の位置にあり、一見したところではプロモーターの機能に影響する部位であるとは考えられない点である。つまり、技術常識からすれば注目に値しない新規な改変部位を見出すことに成功した。
【0007】
一方、新たに見出された改変部位に注目し、各種の改変とプロモーター活性の向上効果との関係を調べた。その結果、プロモーター活性の向上をもたらす複数の改変態様が特定された。換言すれば、複数の高発現プロモーターを構築することに成功した。また、これらの高発現プロモーターが汎用性に優れることを確認した。
【0008】
上記成果に基づき、以下の発明を提供する。
[1]バチルス属細菌において機能する改変プロモーターであって、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されていることによりプロモーター活性が天然型プロモーターに比べて向上していることを特徴とする、改変プロモーター。
[2]バチルス属細菌において機能する改変プロモーターであって、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて-35領域の上流且つ近傍に存在する配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されていることを特徴とする、改変プロモーター。
[3]-35領域を含む配列として、配列番号1〜3のいずれかの配列を含む、[2]に記載の改変プロモーター。
[4]-35領域及び-10領域を含む配列として、配列番号4〜6のいずれかの配列を含む、[2]に記載の改変プロモーター。
[5]配列番号7〜9のいずれかの配列を含む、[2]に記載の改変プロモーター。
[6]以下の(1)〜(3)のいずれかの配列からなる、[2]に記載の改変プロモーター:
(1)配列番号10の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列;
(2)配列番号11の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、104番塩基〜117番塩基の領域、124番塩基〜144番塩基の領域、及び151番塩基〜180番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列;
(3)配列番号12の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列。
[7]前記天然型プロモーターが、バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーターである、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の改変プロモーター。
[8]前記α−アミラーゼプロモーターが、配列番号13の配列からなる、[7]に記載の改変プロモーター。
[9]-35領域及び-10領域を含む配列として、配列番号14の配列を含む、バチルス属細菌において機能する改変プロモーター。
[10]配列番号15又は16の配列を含む、[9]に記載の改変プロモーター。
[11]配列番号17又は18の配列からなる、[9]に記載の改変プロモーター。
[12][1]〜[11]のいずれか一項に記載の改変プロモーターと、該改変プロモーターに作動可能に連結した、ポリペプチドをコードする塩基配列と、を含む発現コンストラクト。
[13]ポリペプチドが、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、カルボキシエステラーゼ又はシュウ酸デカルボキシラーゼである、[12]に記載の発現コンストラクト。
[14][12]又は[13]に記載の発現コンストラクトが挿入された発現ベクター。
[15][1]〜[11]のいずれか一項に記載の改変プロモーターと、該改変プロモーターの制御下に配置されたクローニングサイト、を含む発現ベクター。
[16][14]に記載の発現ベクターで宿主細菌を形質転換して得られた形質転換体。
[17]宿主細菌がバチルス属である、[16]に記載の形質転換体。
[18][16]又は[17]に記載の形質転換体を培養し、前記ポリペプチドを発現させる第1ステップと、
発現した前記ポリペプチドを回収する第2ステップと、を含む、ポリペプチドの製造法。
[19]第1ステップが、形質転換体を培養し、増殖させるステップと、前記ポリペプチドの発現を誘導するステップとを含む、[18]に記載のポリペプチドの製造法。
[20]バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて-35領域の上流且つ近傍に存在する配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAAAAA、配列AAAAATTA、配列AAAAAATA及び配列AAAAAATAA、からなる群より選択されるいずれかの配列に置換されるように改変することを特徴とする、プロモーターの改変法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シャトルベクターpUBC1の構築方法を示す図。
【図2】バチルス・アミロリケファシエンスの天然型α−アミラーゼプロモーターの配列を示す図。
【図3】天然型α−アミラーゼプロモーターと変異型α−アミラーゼプロモーターの配列を比較した図。変異部位を下線で示した。
【図4】改変型プロモーター1〜4の変異部位(下線)及びその近傍の配列(上から順に配列番号23〜26)を示す図。
【図5】遺伝子組換え菌の構築方法を示す図。
【図6】カルボキシエステラーゼ発現プラスミドベクターの構成を示す図。
【図7】β-アミラーゼ発現プラスミドベクターの構成を示す図。
【図8】改変型α-アミラーゼプロモーターを含むカルボキシエステラーゼ発現プラスミドベクターの構成を示す図。
【図9】改変型α-アミラーゼプロモーターを含むβアミラーゼ発現プラスミドベクターの構成を示す図。
【図10】カルボキシエステラーゼ活性の測定結果。エステラーゼ相対活性(下段のグラフ)を各プロモーターの活性の相対値(上段の表)として比較した。
【図11】β−アミラーゼ活性の測定結果。β−アミラーゼ相対活性(下段のグラフ)を各プロモーターの活性の相対値(上段の表)として比較した。
【図12】各組換え菌が保有する改変プロモーターと導入遺伝子を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(改変プロモーター)
本発明の第1の局面は改変プロモーターに関する。「改変プロモーター」とは、天然型(野生型)プロモーターを部分的に改変することによって構築されるプロモーターをいう。但し、その調製法は特に限定されない。従って、天然型プロモーターに直接改変処理を施して得られるものに限らず、天然型プロモーター以外の材料を用いて構築されたものであっても「改変プロモーター」に該当し得る。改変プロモーターは天然型プロモーターに基づいて設計ないし調製されるものであるゆえに、由来となる天然型プロモーターとの間に高い配列相同性を示す。一方、改変された結果として、改変プロモーターは基になるプロモーター(天然型プロモーター)よりも活性が向上している。
【0011】
本発明の改変プロモーターの特徴の一つは、バチルス属細菌において機能することである。「バチルス属細菌において機能する」とは、バチルス属細菌に導入された際にプロモーター活性を発揮し得ることをいう。言い換えれば、バチルス属細菌を宿主とした発現系において目的ポリペプチドを発現することに利用可能なプロモーターであることを意味する。ここでのバチルス属細菌は特に限定されない。バチルス属細菌の例として、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・シュリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)を挙げることができる。尚、本発明の改変プロモーターはバチルス属細菌において機能するものであるが、他の細菌(例えば大腸菌)を宿主とした発現系においても機能することを妨げない。
【0012】
本発明の改変プロモーターはバチルス属細菌の天然型プロモーターに由来する。即ち、本発明の改変プロモーターはバチルス属細菌の天然型プロモーターが改変されたものに相当する。本発明の改変プロモーターでは、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されている。この特徴によってプロモーター活性が天然型プロモーターに比べて向上している。天然型プロモーターにおける配列AAAAATAAは-35領域の上流且つ近傍に存在する。-35領域はRNAポリメラーゼが結合する部位でありプロモーター活性に重要である。実際、プロモーター活性を向上する目的の下、当該部位を標的とした改変が試みられている(例えば特許文献3)。上記の通り、本発明では-35領域ではなく、その上流且つ近傍の領域に改変を施す点において、これまでの改良技術と顕著に相違する。基になるプロモーター、即ち、改変プロモーターの由来となる天然型プロモーターは、バチルス属細菌が保有するものである限り、特に限定されない。一例として、バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーターの配列を配列番号13に示す。当該配列では、-35領域の上流且つ近傍である96番塩基〜103番塩基に配列AAAAATAAが存在する。
【0013】
基になる天然型プロモーターの改変領域と、改変プロモーターの対応する領域とを比較すると、両者の間に相違が認められ、改変領域が別の配列に置き換えられたものと見ることができることから、上記の通り本明細書では、本発明に係る改変のことを「置換されている」と表現する。実際は、天然型プロモーターの改変領域において部分的な置換(1塩基又は2塩基の置換)、挿入、欠失などが生じることによって本発明の改変プロモーターが構築される。
【0014】
上記の通り本発明では、3種類の改変態様(配列AAAAATAAから配列AAAAAAATAへの置換、配列AAAAATAAから配列AAAAATTAへの置換、配列AAAAATAAから配列AAAAAATAAへの置換)が提供される。第1の改変態様(配列AAAAATAAから配列AAAAAAATAへの置換)の場合の改変プロモーターは好ましくは配列番号1の配列を含んで構成される。当該配列はバチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーターに由来するものであり、改変部位と-35領域及びこの両者を連結する領域を含む。さらに好ましい改変プロモーターは、改変部位と-10領域及びこの両者を連結する領域(-35領域を含む)を包含する配列(配列番号4)を含む。より一層好ましい改変プロモーターは、-10領域に連なる3'末端領域までをも包含する配列(配列番号7)を含む。
【0015】
第2の改変態様(配列AAAAATAAから配列AAAAATTAへの置換)及び第3の改変態様(配列AAAAATAAから配列AAAAAATAA)への置換についても第1の改変態様の場合と同様であり、即ち、第2の改変態様の改変プロモーターは好ましくは配列番号2の配列(改変部位と-35領域及びこの両者を連結する領域)を含んで構成され、第3の改変態様の改変プロモーターは好ましくは配列番号3の配列(改変部位と-35領域及びこの両者を連結する領域)を含んで構成される。更に好ましくは、第2の改変態様では、配列番号5の配列を含んで構成され(改変部位と-10領域及びこの両者を連結する領域を包含する配列)、第3の改変態様では配列番号6の配列(改変部位と-10領域及びこの両者を連結する領域を包含する配列)を含んで構成される。より一層好ましくは、第2の改変態様では、配列番号8の配列を含んで構成され(-10領域に連なる3'末端領域までをも包含する配列)、第3の改変態様では配列番号9の配列(-10領域に連なる3'末端領域までをも包含する配列)を含んで構成される。
【0016】
本発明の改変プロモーターの全長を規定する配列の例として配列番号10の配列、配列番号11の配列、及び配列番号12の配列を挙げることができる。配列番号10の配列はバチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーター全長を含む配列(配列番号13)に対して上記で規定した第1の改変態様に係る改変が施された配列である。同じように、配列番号11の配列は第2の改変態様に係る改変が同様に施された配列であり、配列番号12の配列は第3の改変態様に係る改変が同様に施された配列である。
【0017】
ここで、一般に、塩基配列の一部が相違しても同等の機能を有することがある。即ち塩基配列の相違が機能に実質的に影響を与えないことがある。当該技術常識を踏まえ、本発明は他の態様として、基準の塩基配列(配列番号10の配列、配列番号11の配列、配列番号12の配列)と等価な塩基配列からなり、本発明に必須の特徴、即ち「バチルス属細菌において機能するプロモーターであること」を備える改変プロモーターを提供する。この態様の改変プロモーターでは、基準の塩基配列においてプロモーター活性に重要でないと考えられる以下の領域(いずれか一つ又は複数)において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されている。
(1)配列番号10の配列が基準塩基配列の場合
配列番号10の1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域
(2)配列番号11の配列が基準塩基配列の場合
配列番号11の1番塩基〜95番塩基の領域、104番塩基〜117番塩基の領域、124番塩基〜144番塩基の領域、及び151番塩基〜180番塩基の領域
(3)配列番号12の配列が基準塩基配列の場合
配列番号12の1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域
【0018】
以上のような等価な塩基配列は所望の改変が生ずるように遺伝子工学的手法(例えば部位特異的変異法)によって得ることができる。また、紫外線照射などによる変異処理によっても得ることが可能である。
【0019】
後述の実施例に示す通り、上掲の各種改変プロモーター以外にも、本発明者らは有効な改変プロモーターの取得に成功した。当該成果に基づき本発明は、以下に規定する改変プロモーターも提供する。
(1)-35領域及び-10領域を含む配列として配列番号14の配列を含んで構成される改変プロモーター
(2)-35領域及び-10領域に加え、-10領域に連なる3'末端領域までをも包含する配列(配列番号15)を含んで構成される改変プロモーター
(3)-35領域及び-10領域に加え、-10領域に連なる3'末端領域までをも包含する配列(配列番号16)を含んで構成される改変プロモーター
(4)バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーター全長を含む配列(配列番号13)中の配列AAAAATAAが配列AAAAAAAAに置換された配列(配列番号17の配列)からなる改変プロモーター
(5)バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーター全長を含む配列(配列番号13)中の配列AAAAATAAが配列AAAAAATAに置換された配列(配列番号18の配列)からなる改変プロモーター
【0020】
本発明の改変プロモーターは、例えば、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法(部位特異的突然変異法など)によって調製することができる。後述の実施例では、バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーターを取得した後、これに変異を施すことによって改変プロモーターを構築した。同様の手法により、バチルス属細菌由来の各種プロモーターを基にして、所望の改変プロモーターを構築することが可能である。
【0021】
(発現コンストラクト)
本発明の第2の局面は本発明の改変プロモーターの用途に関し、改変プロモーターを用いた発現コンストラクトを提供する。「発現コンストラクト」とは、それを宿主に導入することによって当該宿主内で目的のポリペプチドを生成させ得る構造体をいう。本発明の発現コンストラクトは本発明の改変プロモーターとポリペプチドをコードする塩基配列を含む。ポリペプチドをコードする配列は改変プロモーターと作動可能に連結している。ここで、「作動可能に連結している」とは、「制御下に配置されている」ことと同義であり、ポリペプチドをコードする配列が改変プロモーターと機能的に連結していることを意味する。このような連結が達成されることによって、ポリペプチドをコードする配列の転写が改変プロモーターの制御(調節)を受ける。典型的には改変プロモーターに対して、ポリペプチドをコードする配列が直接連結されるが、ポリペプチドをコードする配列が改変プロモーターに転写制御される限りにおいて、両者の間に他の配列が介在していてもよい。
【0022】
本発明の発現コンストラクト内にポリA付加シグナル配列又はポリA配列、エンハンサー配列、選択マーカー配列、タグ配列等を配置することもできる。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列の使用によって、発現コンストラクトから生ずるmRNAの安定性が向上する。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列は、下流側において本発明のポリヌクレオチドに連結される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。また、選択マーカー配列を含有する発現コンストラクトを使用すれば、選択マーカーを利用して発現コンストラクトの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0023】
(発現ベクター)
本発明の第3の局面は改変プロモーターを用いた発現ベクターに関する。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。本発明の発現ベクターには本発明の改変プロモーターが組み込まれている。
【0024】
本発明の発現ベクターの一態様は、本発明の発現コンストラクトが挿入された発現ベクターである。当該発現ベクターを利用すれば、目的のポリペプチドをバチルス属細菌内において強制発現(生産)することができる。本発明の他の態様では、本発明の改変プロモーターの制御下にクローニングサイトが設けられている。当該発現ベクターの場合、クローニングサイトを利用して様々な遺伝子(ポリペプチドをコードする塩基配列)を挿入することができる。汎用性や利便性を向上させるため、クローニングサイトとしてマルチクローニングサイト(MCS)を採用するとよい。クローニングサイトとして利用できる制限酵素サイト(認識部位、切断部位)に特別の制限はない。制限酵素サイトの例を挙げると、BamHI、XbaI、SmaI、XmaI、PstI、SacI、DraI、EcoNI、Bsaである。この態様の場合、発現ベクター内にポリA付加シグナル配列、ポリA配列、エンハンサー配列、選択マーカー配列、タグ配列等を配置することにしてもよい。
【0025】
組換え操作(遺伝子、プロモーター、選択マーカー遺伝子等のベクターへの挿入等)には、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた方法等、標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる)を利用することができる。
【0026】
(形質転換体)
本発明は更に、本発明の発現ベクターでバチルス属の宿主細菌を形質転換して得られる形質転換体を提供する。当該形質転換体は後述の通り、典型的には、目的のペプチドの生産に利用される。発現ベクターの宿主細菌への導入は公知の方法で行うことができる。形質転換には例えばプロトプラスト形質転換法(Chang,S.&Cohen,S.N. Mol.Gen.Genet.168,111-115(1979)などを参照)やコンピテントセル法(Spizizen,J. Proc.Natl.Acad.Sci.USA.44,1072-1078(1958)などを参照)などが利用できる。
【0027】
宿主細菌としては、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)を例示できる。中でも、バチルス・サチルスが好ましく、バチルス・サチルス168株が特に好ましい。本発明の発現ベクターがバチルス属以外の細菌においても機能する改変プロモーターを有する場合には、バチルス属以外の細菌、例えば大腸菌等を宿主細菌として採用することもできる。大腸菌の具体例としてJM109株、MC1061株、DH5α株、BL21株を挙げることができる。尚、宿主細菌はATCC (American Type Culture Collection)等から容易に入手可能である。
【0028】
(ポリペプチドの製造法)
上記の形質転換体を利用すれば、目的のポリペプチドをバチルス属細菌内外で製造することができる。そこで本発明の更なる局面は、上記の形質転換体を用いた、ポリペプチドの製造法を提供する。本発明の製造法では上記の形質転換体を培養し、形質転換体に導入された、目的のポリペプチドをコードする配列を発現させるステップ(第1ステップ)を行う。バチルス属細菌を宿主とした培養条件は公知であり(例えばDNA cloning, Volume II, IRL Pressなどが参考になる)、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。
【0029】
当該第1ステップを、形質転換体を培養し、増殖させるステップと、目的のポリペプチドの発現を誘導するステップの2段階で実施することにしてもよい。この態様によれば製造効率の向上が図られる。
【0030】
発現誘導のタイミングは特に限定されないが、目的のポリペプチドの産生量を増大させるという観点から、対数増殖期又は定常期に誘導することが好ましい。特に、対数増殖期の後期〜定常期の中期の間に誘導することが好ましい。培養開始時に発現誘導することにしてもよい。尚、当業者であれば予備実験によって適当な培養条件を設定することが可能である。
【0031】
経時的に培養液をサンプリングし、濁度(又は吸光度)などの計測によって菌数を算出すれば、生育ステージ(対数増殖期や定常期など)を決定することができる。勿論、予備培養によって生育曲線を作成し、それを利用して生育ステージを決定することにしてもよい。
【0032】
その他の培養条件(培地、培養温度、培養時間など)は、培養に供する組換え菌に合わせて適宜設定すればよい。尚、予備実験によって適当な培養条件を設定することが可能である。
【0033】
培養に供する組換え菌が生育可能であるという条件を満たす限り、培地の組成は特に限定されない。培地の炭素源として例えば、マルトース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。また、窒素源として例えば硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等を用いることができる。無機塩としてカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等を用いることができる。組換え菌の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを添加した培地を使用してもよい。
【0034】
培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約6〜8程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約27〜37℃程度で、1〜15日間、好ましくは1〜3日間程度培養する。通常、好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、回転培養法、通気撹拌培養法等を利用できる。
【0035】
培養ステップに続き、発現した目的のポリペプチドを回収するステップを行う。培養後の培養液又は菌体内より目的のポリペプチドを回収することができる。即ち、菌体外に産生された場合には培養液より、それ以外であれば菌体内より回収することができる。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理して不溶物を除去した後、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなど)などを組み合わせて分離、精製を行うことにより目的のポリペプチドを取得することができる。他方、菌体内から回収する場合には例えば、菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより目的のポリペプチドを取得することができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
【0036】
本発明の製造法により製造されるポリペプチドは特に限定されない。但し、本発明の製造法は酵素の製造に有用である。例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、カルボキシエステラーゼ、シュウ酸デカルボキシラーゼ等の製造に本発明の製造法を適用可能である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
1.シャトルベクターpUBC1の構築(図1)
バチルス・サチルス168株(Bacillus subtilis 168)を宿主微生物として遺伝子組み換え技術を使用する際、バチルス属細菌発現系において一般的に使用されているpUB110ベクター(ATCC(American Type Culture Collection))を利用した。pUB110ベクターをそのまま使用するのではなく、遺伝子組換え微生物構築の際の形質転換効率を向上させるため、まず、大腸菌中で発現プラスミドを構築することを考え、大腸菌用ベクターpUC18とpUB110とのシャトルベクターを構築した。実際は、pUC18とpUB110を制限酵素AflIIIとXbaIにて処理し、互いの複製開始点を含む断片を取得した。次いで、得られた断片同士をリガーゼで連結し、シャトルベクターpUBC1とした。
【0038】
2.α−アミラーゼプロモーターの取得
α−アミラーゼプロモーターをバチルス・アミロリケファシエンスより取得した。まず、バチルス・アミロリケファシエンス野生株と、変異処理してα−アミラーゼ生産性が向上した変異株よりそれぞれ染色体DNAを常法により取得した。データベース上のα−アミラーゼ遺伝子(GenBank Accesion No. J01542)の配列を参考にしてα−アミラーゼプロモーター領域(配列番号13)を特異的に増幅するプライマーを設計した。なお、5'側プライマーにはXbaIの制限酵素サイトを付加してある。また、3’側プライマーには、α−アミラーゼプロモーター3'末端配列およびカルボキシエステラーゼ遺伝子5'末端を付加した。
5'側プライマー(プライマー1):5’−CGGCTCTAGATGGATCGATTGTTTGAG−3’(配列番号19)
3'側プライマー(プライマー2):5’−CAGGGTTTCAATTTTAGACATGTTTCCTCTCCCTCTCA−3’(配列番号20)
【0039】
取得した染色体DNAを鋳型として、5'側プライマーと3'側プライマーによりα−アミラーゼプロモーターを増幅し、α−アミラーゼプロモーター断片を獲得した。天然型α−アミラーゼプロモーターの配列(配列番号13)を図2に示す。変異処理によってα−アミラーゼ生産性の向上したバチルス・アミロリケファシエンスから取得されたα−アミラーゼプロモーター(変異型プロモーター。全長の配列を配列番号10に示す)では、図2の下線で示した箇所に変異が認められた。変異部位及びその近傍の配列を天然型(配列番号21)と変異型(配列番号22)の間で比較した(図3)。
【0040】
変異型配列中の変異点は1箇所ではなく、2塩基の置換と1塩基の挿入が生じていた。最も効果的にプロモーター活性を増加させる変異点を特定するため、プロモーター変異部位の配列が異なる4種の改変型プロモーター(図4)を作製し、それらのプロモーター活性を確認することにした(以下の3.〜14.の欄)。α−アミラーゼプロモーター中の変異によるプロモーター活性への影響を確認するため、α−アミラーゼプロモーターにβ−アミラーゼ遺伝子又はカルボキシエステラーゼ遺伝子を連結した。そして、これらの遺伝子の発現量から、各改変プロモーターのプロモーター活性を推定した。尚、宿主微生物細胞内で発現、蓄積させる際のプロモーター活性を確認するためにバチルス・シュリンジエンシス(Bacillus thuringiensis NBRC 13866(以前の番号はIFO 13866))由来のカルボキシエステラーゼ遺伝子(配列番号39)を使用し、他方、宿主微生物細胞外へと分泌させる際のプロモーター活性を確認するためにバチルス・フレクサス(Bacillus flexus APC9451)由来のβ−アミラーゼ遺伝子(配列番号40)を使用した。尚、NBRC 13866株は所定の手続きによって独立行政法人製品評価技術基盤機構から容易に入手可能である。また、APC9451株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。
寄託機関:NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)
寄託日:2008年4月9日
受託番号:NITE BP-548
【0041】
3.カルボキシエステラーゼ遺伝子の取得
カルボキシエステラーゼ遺伝子をバチルス・シュリンジエンシスより取得した。まず、バチルス・シュリンジエンシス野生株より染色体DNAを常法により取得した。データベース上の遺伝子配列を参考にしてカルボキシエステラーゼ遺伝子領域を特異的に増幅するプライマーを設計した。なお、3'側プライマーにはXbaIの制限酵素サイトを付加してある。
5'側プライマー(プライマー3):5’−TATAAAACTGCAGGATGTCTAAAATTGAAACCCCTGT−3’(配列番号27)
3'側プライマー(プライマー4):5’−ACTAGTCTAGATTATTTAATTTTCTTAAATGCAAGCG−3’(配列番号28)
【0042】
取得した染色体DNAを鋳型として、5'側プライマーと3'側プライマーによりカルボキシエステラーゼ遺伝子を増幅し、カルボキシエステラーゼ遺伝子断片を獲得した。
【0043】
4.α−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子の連結
pUBC1へと挿入するα−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子はPCRによって連結した。PCRにより得られた天然型α−アミラーゼプロモーターあるいは変異型α−アミラーゼプロモーターとPCRにより得られたカルボキシエステラーゼ遺伝子を混合し、プライマー1、4を用いてPCRを行うことで、α−アミラーゼプロモーター直後にカルボキシエステラーゼ遺伝子が連結された断片を取得した。
【0044】
5.遺伝子組換え菌No.1、No.2の構築(図5)
シャトルベクターpUBC1およびα−アミラーゼプロモーター(天然型あるいは変異型)カルボキシエステラーゼ遺伝子連結断片をXbaIで処理した後、リガーゼで連結することによってカルボキシエステラーゼ遺伝子発現プラスミドベクターpUBCkik3x(天然型)およびpUBCkik2x(変異型)を得た(図6)。続いて、当該ベクターで大腸菌JM109株を形質転換した。本組換え大腸菌より当該ベクターを大量に調製した後、プロトプラスト-PEG-フュージョン法によって、当該ベクターでバチルス・サチルス168株を形質転換し、カルボキシエステラーゼ遺伝子組み換え菌(天然型あるいは変異型)とした。天然型α−アミラーゼプロモーターを保有する組換え菌を組換え菌No.1、変異型α−アミラーゼプロモーターを保有する組み換え菌を組換え菌No.2とした。
【0045】
6.β−アミラーゼ遺伝子の取得
β−アミラーゼ遺伝子をバチルス・フレクサスより取得した。まず、バチルス・フレクサス野生株より染色体DNAを常法により取得した。解読の完了したβ−アミラーゼ遺伝子塩基配列を参考にしてβ−アミラーゼ遺伝子領域を特異的に増幅するプライマーを設計した。なお、5’側プライマーにはBspLU11Iの制限酵素サイトを、3'側プライマーにはPstIの制限酵素サイトを付加してある。
5'側プライマー(プライマー5):5’−GGAATTACATGTACAAGCCAATTAAAAAG−3’(配列番号29)
3'側プライマー(プライマー6):5’−TGGCCCTCACTGCAGAACAGC−3’(配列番号30)
【0046】
取得した染色体DNAを鋳型として、5'側プライマーと3'側プライマーによりβ−アミラーゼ遺伝子を増幅し、β−アミラーゼ遺伝子断片を獲得した。
【0047】
7.遺伝子組換え菌No.7、No.8の構築(図5)
カルボキシエステラーゼ遺伝子発現プラスミドpUBCkik3xあるいはpUBCkik2xおよびβ−アミラーゼ遺伝子断片をBspLU11IとPstIで処理した後、リガーゼで連結することによってβ−アミラーゼ遺伝子発現プラスミドベクターpUBCOBA-1(天然型)およびpUBCMBA-1(変異型)を得た(図7)。続いて、当該ベクターで大腸菌JM109株を形質転換した。本組換え大腸菌より当該ベクターを大量に調製した後、プロトプラスト-PEG-フュージョン法によって、当該ベクターでバチルス・サチルス168株を形質転換し、β−アミラーゼ遺伝子組み換え菌(天然型あるいは変異型)とした。天然型α−アミラーゼプロモーターを保有する組換え菌を組換え菌No.7、変異型α−アミラーゼプロモーターを保有する組み換え菌を組換え菌No.8とした。
【0048】
8.改変型α−アミラーゼプロモーターを保有する発現プラスミドベクターの構築(図5)
改変型α−アミラーゼプロモーターの構築は、Stratagene社QuikChange II Site-Directed Mutagenesis Kitを使用して行った。それぞれの改変に対応するようにプライマー(プライマー7〜14)を作成し、pUBCOBA-1を鋳型として、部位特異的突然変異を導入した。尚、改変型プロモーター1の全長の配列を配列番号17に、改変型プロモーター2の全長の配列を配列番号11に、改変型プロモーター3の全長の配列を配列番号18に、改変型プロモーター4の全長の配列を配列番号12にそれぞれ示した。
改変型プロモーター1用5'側プライマー(プライマー7):5’−GACTGTCCGCTGTGTAAAAAAAAGGAATAAAGGGGGGTTG−3’(配列番号31)
改変型プロモーター1用3'側プライマー(プライマー8):5’−CAACCCCCCTTTATTCCTTTTTTTTACACAGCGGACAGTC−3’(配列番号32)
改変型プロモーター2用5'側プライマー(プライマー9):5’−GACTGTCCGCTGTGTAAAAATTAGGAATAAAGGGGGGTTG−3’(配列番号33)
改変型プロモーター2用3'側プライマー(プライマー10):5’−CAACCCCCCTTTATTCCTAATTTTTACACAGCGGACAGTC−3’(配列番号34)
改変型プロモーター3用5'側プライマー(プライマー11):5’−GACTGTCCGCTGTGTAAAAAATAGGAATAAAGGGGGGTTG−3’(配列番号35)
改変型プロモーター3用3'側プライマー(プライマー12):5’−CAACCCCCCTTTATTCCTATTTTTTACACAGCGGACAGTC−3’(配列番号36)
改変型プロモーター4用5'側プライマー(プライマー13):5’−GACTGTCCGCTGTGTAAAAAATAAGGAATAAAGGGGGGTTG−3’(配列番号37)
改変型プロモーター4用3'側プライマー(プライマー14):5’−CAACCCCCCTTTATTCCTTATTTTTTACACAGCGGACAGTC−3’(配列番号38)
【0049】
突然変異の導入された各種改変型α−アミラーゼプロモーターを含む発現プラスミドベクターで大腸菌JM109株を形質転換し、組換え大腸菌より改変型α−アミラーゼプロモーターを含む発現プラスミドベクターを大量に調製した。改変型プロモーター1を保有する発現プラスミドベクターをpUBCDBA-1(−)、改変型プロモーター2を保有する発現プラスミドベクターをpUBCDBA-2(−)、改変型プロモーター3を保有する発現プラスミドベクターをpUBCDBA-3(−)、改変型プロモーター4を保有する発現プラスミドベクターをpUBCDBA-4(−)とした。
【0050】
9.各種改変型α−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子の連結(図5)
各種改変型α−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子をPCRにより連結した。まず、pUBCDBA-1(−)、pUBCDBA-2(−)、pUBCDBA-3(−)、pUBCDBA-4(−)をそれぞれ鋳型として、プライマー1、2を用いてPCRを行うことで各種改変型α−アミラーゼプロモーターを取得した。次いで、得られた各種改変型α−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子を混合し、プライマー1、4を用いてPCRを行うことで、各種改変型α−アミラーゼプロモーター直後にカルボキシエステラーゼ遺伝子が連結された断片を取得した。
【0051】
10.改変型α−アミラーゼプロモーターを保有する発現プラスミドベクターの構築
シャトルベクターpUBC1および各種改変型α−アミラーゼプロモーターとカルボキシエステラーゼ遺伝子断片をXbaIで処理した後、リガーゼで連結することによってカルボキシエステラーゼ遺伝子発現プラスミドベクターを得た。次いで、得られた当該プラスミドベクターで大腸菌JM109株を形質転換し、組換え大腸菌より当該プラスミドベクターを大量に調製した。改変型プロモーター1を保有する発現プラスミドベクターをpUBCkik4-1(−)、改変型プロモーター2を保有する発現プラスミドベクターをpUBCkik4-2(−)、改変型プロモーター3を保有する発現プラスミドベクターをpUBCkik4-3(−)、改変型プロモーター4を保有する発現プラスミドベクターをpUBCkik4-4(−)とした。
【0052】
11.遺伝子組換え菌No.3、No.4、No.5、No.6の構築
pUBCkik4-1(−)、pUBCkik4-2(−)、pUBCkik4-3(−)、pUBCkik4-4(−)中のカルボキシエステラーゼ遺伝子はPCRにより増幅したため、PCRの際に偶然的にエラーが導入される可能性がある。そこで、エラーの可能性を少なくするため、配列確認を完了させたpUBCkik3x中のカルボキシエステラーゼ遺伝子とpUBCkik4-1(−)、pUBCkik4-2(−)、pUBCkik4-3(−)、pUBCkik4-4(−)中のカルボキシエステラーゼ遺伝子をそれぞれ交換した。つまり、pUBCkik3x、pUBCkik4-1(−)、pUBCkik4-2(−)、pUBCkik4-3(−)、pUBCkik4-4(−)をそれぞれBspLU11Iで処理し、pUBCkik3xについてはカルボキシエステラーゼ遺伝子を、pUBCkik4-1(−)、pUBCkik4-2(−)、pUBCkik4-3(−)、pUBCkik4-4(−)については、α−アミラーゼプロモーターを含むベクター部分を取得した。ついで、BspLU11I処理したpUBCkik4-1(−)、pUBCkik4-2(−)、pUBCkik4-3(−)、pUBCkik4-4(−)それぞれについて、pUBCkik3xから取得したカルボキシエステラーゼ遺伝子断片をリガーゼにより連結した。これらで大腸菌JM109株を形質転換し、プラスミドベクターを大量に調製した。得られた各種発現プラスミドベクター(図8)をpUBCkik4-1、pUBCkik4-2、pUBCkik4-3、pUBCkik4-4とした。
【0053】
次に、得られたpUBCkik4-1、pUBCkik4-2、pUBCkik4-3、pUBCkik4-4それぞれで、プロトプラスト-PEG-フュージョン法を利用してバチルス・サチルス168株を形質転換し、各種プラスミドベクターを有する遺伝子組み換え菌を得た。得られた遺伝子組み換え菌を、pUBCkik4-1についてNo.3、pUBCkik4-2についてNo.4、pUBCkik4-3についてNo.5、pUBCkik4-4についてNo.6とした。
【0054】
12.遺伝子組換え菌No.9、No.10、No.11、No.12の構築(図5)
pUBCOBA-1をBspLU11IとPstIで処理し、β−アミラーゼ遺伝子を取得した。また、pUBCkik4-1、pUBCkik4-2、pUBCkik4-3、pUBCkik4-4それぞれをBspLU11IとPstIで処理し、α−アミラーゼプロモーターを含むベクター部分を取得した。次いで、β−アミラーゼ遺伝子と各種改変型α−アミラーゼプロモーターを含むベクターをリガーゼにより連結し、β−アミラーゼ遺伝子発現プラスミドベクターを構築した。構築した発現プラスミドベクターで大腸菌JM109株を形質転換し、それぞれの発現プラスミドベクターを大量に調製した。得られた各種発現プラスミドベクター(図9)をpUBCDBA-1、pUBCDBA-2、pUBCDBA-3、pUBCDBA-4とした。
【0055】
次に、得られたpUBCDBA-1、pUBCDBA-2、pUBCDBA-3、pUBCDBA-4それぞれで、プロトプラスト-PEG-フュージョン法を利用してバチルス・サチルス168株を形質転換し、各種プラスミドベクターを有する遺伝子組み換え菌を得た。得られた遺伝子組み換え菌を、pUBCDBA-1についてNo.9、pUBCDBA-2についてNo.10、pUBCDBA-3についてNo.11、pUBCDBA-4についてNo.12とした。
【0056】
13.カルボキシエステラーゼ遺伝子組み換え菌No.1〜No.6の培養および活性測定
獲得した全6種のカルボキシエステラーゼ遺伝子組み換え菌No.1〜No.6のエステラーゼ生産性を確認した。組換え菌の培養方法は、1晩前培養を行い、次いで、2晩本培養を行った。前培地および本培地の培地としてLB培地を使用した。なお、前培地には、終濃度が20μg/mLとなるようにカナマイシンを添加した。組換え菌のコロニーから前培地へ接種し、37℃、180rpmで約16時間培養を行った。
【0057】
前培養培地(カナマイシンを終濃度20μg/mLで添加)
【表1】

【0058】
また、α−アミラーゼプロモーターは二糖以上の糖類により誘導されることから、本培地には、終濃度が1%となるようにマルトースを加えて培養を行った。前培養液500μLを本培地へ接種し、37℃、200rpmで約48時間培養を行った。
【0059】
本培地(マルトースを終濃度1%で添加)
【表2】

【0060】
培養後、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体について、10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)で洗浄した後、10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)バッファーに菌体を懸濁し、適量のガラスビーズを加え、マルチビーズショッカー(安井機械)にて菌体破砕を行なった(60秒間運転・30秒間停止のサイクルで600秒間。回転数2,000rpm)。菌体破砕後、遠心分離し、上清を回収し、カルボキシエステラーゼ活性測定用サンプルとした。
【0061】
活性測定は次のようにして行なった。p-nitrophenol chrysanthemate(pNPC)2.9mgに9mLの4%Triton X-100を加え加温溶解後、1mLの1M Tris溶液(pH8.5)を1mL加え、基質溶液とした。基質溶液0.2mLと10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)で適宜希釈した活性測定用サンプル0.2mLを混合し、40℃で30分間反応を行なった。反応の終了は0.6mLのエタノールを添加することで行なった。反応停止したサンプルについて、吸収波長405nmでの吸光を測定し、下記計算式より活性値を算出した。なお、1分間に1μmolのChrysanthemic acidを遊離する酵素量を1uとした。
【数1】

【0062】
カルボキシエステラーゼ活性測定結果を図10に示す。尚、天然型α−アミラーゼプロモーターの活性値を100%とした相対値で示した。変異型および全ての改変型プロモーターで、天然型プロモーターよりも高い値を示した。特に変異型、改変型2、改変型3のプロモーターで2倍以上の活性の上昇が確認された。
【0063】
14.β−アミラーゼ遺伝子組み換え菌No.7〜No.12の培養および活性測定
獲得した全6種のβ−アミラーゼ遺伝子組み換え菌No.7〜No.12のβ−アミラーゼ生産性を確認した。組換え菌の培養方法は、1晩前培養を行い、次いで、2晩本培養を行った。前培地および本培地の培地としてLB培地を使用した。なお、前培地には、終濃度が20μg/mLとなるようにカナマイシンを添加した。組換え菌のコロニーから前培地へ接種し、37℃、180rpmで約16時間培養を行った。
【0064】
前培養培地(カナマイシンを終濃度20μg/mLで添加)
【表3】

【0065】
また、α−アミラーゼプロモーターは二糖以上の糖類により誘導されることから、本培地には、終濃度が1%となるようにマルトースを加えて培養を行った。前培養液500μLを本培地へ接種し、37℃、200rpmで約48時間培養を行った。
【0066】
本培地(マルトースを終濃度1%で添加)
【表4】

【0067】
培養後、培養液を遠心分離し、上清を回収した。この上清をβ−アミラーゼ活性測定用サンプルとした。活性測定はβアミラーゼ測定キット(Megazyme社製)を改良して行なった。詳しくは、p-nitrophenyl-α-D-maltopentaoside(PNPG5)0.475mg/mLとα−グルコシダーゼ10μ/Lを含む溶液を基質溶液として、基質溶液50μLと蒸留水にて適宜希釈を行なった活性測定用サンプル10μLを混合後、40℃で5分間反応を行なった。また、ブランク反応液として、活性測定用サンプルの代わりに蒸留水で同様の反応を行なった。反応開始5分後、反応停止液として1.5%トリス溶液(pH8.5)150μLを添加し、攪拌することで反応を停止した。反応停止したサンプルについて、吸収波長400nmでの吸光を測定し、下記計算式より活性値を算出した。なお、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する酵素量を1uとした。
【数2】

【0068】
β−アミラーゼ活性測定結果を図11に示す。尚、天然型α−アミラーゼプロモーターの活性値を100%とした相対値で示した。変異型および全ての改変型プロモーターで、天然型プロモーターよりも高い値を示した。特に変異型、改変型2、改変型4のプロモーターで1.5倍以上の活性の上昇が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の改変プロモーターはバチルス属細菌を宿主とした発現系において利用可能である。本発明の改変プロモーターを利用することによって高発現系を構築できる。好ましくは、酵素の生産に本発明の改変プロモーターが利用される。生産される酵素としては、β−アミラーゼ、カルボキシエステラーゼなどが挙げられる。
【0070】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号19、20、27〜38:人工配列の説明:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属細菌において機能する改変プロモーターであって、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されていることによりプロモーター活性が天然型プロモーターに比べて向上していることを特徴とする、改変プロモーター。
【請求項2】
バチルス属細菌において機能する改変プロモーターであって、バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて-35領域の上流且つ近傍に存在する配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAATTA及び配列AAAAAATAAからなる群より選択されるいずれかの配列に置換されていることを特徴とする、改変プロモーター。
【請求項3】
-35領域を含む配列として、配列番号1〜3のいずれかの配列を含む、請求項2に記載の改変プロモーター。
【請求項4】
-35領域及び-10領域を含む配列として、配列番号4〜6のいずれかの配列を含む、請求項2に記載の改変プロモーター。
【請求項5】
配列番号7〜9のいずれかの配列を含む、請求項2に記載の改変プロモーター。
【請求項6】
以下の(1)〜(3)のいずれかの配列からなる、請求項2に記載の改変プロモーター:
(1)配列番号10の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列;
(2)配列番号11の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、104番塩基〜117番塩基の領域、124番塩基〜144番塩基の領域、及び151番塩基〜180番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列;
(3)配列番号12の配列、又は該配列において1番塩基〜95番塩基の領域、105番塩基〜118番塩基の領域、125番塩基〜145番塩基の領域、及び152番塩基〜181番塩基の領域からなる群より選択される1以上の領域において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加された配列からなり、前記天然型プロモーターよりも高い活性を示す配列。
【請求項7】
前記天然型プロモーターが、バチルス・アミロリケファシエンスのα−アミラーゼプロモーターである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の改変プロモーター。
【請求項8】
前記α−アミラーゼプロモーターが、配列番号13の配列からなる、請求項7に記載の改変プロモーター。
【請求項9】
-35領域及び-10領域を含む配列として、配列番号14の配列を含む、バチルス属細菌において機能する改変プロモーター。
【請求項10】
配列番号15又は16の配列を含む、請求項9に記載の改変プロモーター。
【請求項11】
配列番号17又は18の配列からなる、請求項9に記載の改変プロモーター。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の改変プロモーターと、該改変プロモーターに作動可能に連結した、ポリペプチドをコードする塩基配列と、を含む発現コンストラクト。
【請求項13】
ポリペプチドが、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、カルボキシエステラーゼ又はシュウ酸デカルボキシラーゼである、請求項12に記載の発現コンストラクト。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の発現コンストラクトが挿入された発現ベクター。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の改変プロモーターと、該改変プロモーターの制御下に配置されたクローニングサイトと、を含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の発現ベクターで宿主細菌を形質転換して得られた形質転換体。
【請求項17】
宿主細菌がバチルス属である、請求項16に記載の形質転換体。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の形質転換体を培養し、前記ポリペプチドを発現させる第1ステップと、
発現した前記ポリペプチドを回収する第2ステップと、を含む、ポリペプチドの製造法。
【請求項19】
第1ステップが、形質転換体を培養し、増殖させるステップと、前記ポリペプチドの発現を誘導するステップとを含む、請求項18に記載のポリペプチドの製造法。
【請求項20】
バチルス属細菌の天然型プロモーターにおいて-35領域の上流且つ近傍に存在する配列AAAAATAAが、配列AAAAAAATA、配列AAAAAAAA、配列AAAAATTA、配列AAAAAATA及び配列AAAAAATAA、からなる群より選択されるいずれかの配列に置換されるように改変することを特徴とする、プロモーターの改変法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−284130(P2010−284130A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142085(P2009−142085)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】