説明

バックアップリング及びこれを備えたタンク

【課題】Oリング等のシール部材を補強したり、はみ出し等を防止し、且つ不意に円周方向に開くことを抑制し、シール性を向上することが可能なバックアップリング及びこれを備えたタンクを提供する。
【解決手段】切断によって形成された一方の切断面11Aと他方の切断面11Bとを接触させて環状体となり、切断面11Aに係合凸部12Aを形成し、切断面11Bに係合凸部12Aと着脱可能に係合する係合凹部12Bを形成し、両者が係合した際に、切断面11Aと切断面11Bとが接触すると共に、切断面11Bが切断面11Aに対して、円周方向に相対的に移動することを阻止するバックアップリング1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材であるOリング等の補強や、はみ出し等を防止するバックアップリングの改良、及びこのバックアップリングを備えたタンクの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シール部材であるOリング等の補強や、はみ出し等を防止する目的で、バックアップリングが使用されている。このバックアップリングは、Oリングを傷付けることを抑制するため、一般的に、テフロン(登録商標)(フッ素樹脂)、ナイロン(ポリアミド樹脂)、合成樹脂、皮、硬質ゴム、軽金属等、比較的柔らかい材料から構成されており、円周方向の一ヵ所を切断することによって、大径に開くことができるようにし、装着部に容易に装着できるようにしている。
【0003】
このようなバックアップリングとして、例えば、バックアップリングの円周方向の一ヵ所を、径方向に対し鋭角(斜め)に切断(バイアスカット)することにより、装着部よりも大径に開くことができるようにし、装着溝への装着性を向上させたものが紹介されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このような従来のバックアップリングは、例えば、高圧がかけられた際に、前記切断部分が開き、この開いた部分にOリングが入り込んで損傷したり、シール性が低下する等の虞がある。
【0005】
そこで、バックアップリングの前記切断により形成された一端に、ファスナーの雄を形成し、他端に雌を形成し、これらの雄雌の掛け合わせにより、当該バックアップリングが径方向に開かないように結合させたものも紹介されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
そしてまた、外周に溝が形成され、移動部材を支承するシャフトと、前記溝に嵌着される輪環部材とを備え、前記輪環部材の開口端の両側に互いに嵌合する嵌合部を形成した係止リング構造も紹介されている。(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらにまた、前記切断により形成された両端末部を互いに凹凸係合させることで、当該両端部の径方向の相対ずれを防止するものが紹介されている。(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−114007号公報
【特許文献2】実開平6−20958号公報
【特許文献3】特開平8−61341号公報
【特許文献4】実開昭58−65464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した特許文献2に記載されたバックアップリングは、両端部に各々形成された雄雌の掛け合わせにより、バックアップリングが径方向に開かないように結合させるものであり、バックアップリングが円周方向に開くことを抑制することについては、考慮されていない。また、Oリングは、前記バックアップリングの雄雌を掛け合わせた際に形成される雄雌の切れ目(境界)が露出する面に配設される。ここで、前記雄雌の切れ目部分に段差が形成されていると、Oリングに負担がかかるが、特許文献2にかかるバックアップリングは、雄雌が形成されていないバックアップリングの切断部分による直線的な切れ目に比べ、前記切れ目が長く形状も複雑であるため、Oリングに対する負担が直線的な切れ目よりも大きくなる虞もある。
【0009】
また、前述した特許文献3に記載された係止リングは、移動部材をなすピニオンギヤの移動規制を行なう、または、シャフトの軸方向の移動を係止するものであり、Oリングの補強や、はみ出し等を防止する目的で使用されるもの(バックアップリング)ではない。したがって、当然のことながら、シール性を考慮したり、Oリングに負担をかけないように考慮する等、Oリングと共に使用されるための工夫はなされていない。
【0010】
そしてまた、前述した特許文献4に記載されたバックアップリングは、両端部の径方向の相対ずれを防止することはできるが、バックアップリングが円周方向に開くことを抑制することについては、考慮されていない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、Oリング等のシール部材を補強したり、はみ出し等を防止することは勿論のこと、不意に円周方向に開くことを抑制し、シール性を向上することが可能なバックアップリング、及びこのバックアップリングを備えたタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため本発明は、切断によって形成された一方の切断面と他方の切断面とを接触させて環状体となるバックアップリングであって、前記一方の切断面に、第1の係合部を形成し、前記他方の切断面に、前記第1の係合部と着脱可能に係合し、当該第1の係合部と係合した際に、前記一方の切断面と他方の切断面とが接触すると共に、当該他方の切断面が、前記一方の切断面に対して、円周方向に相対的に移動することを阻止する第2の係合部を形成してなるバックアップリングを提供するものである。
【0013】
この構成を備えたバックアップリングは、一方の切断面に形成された第1の係合部と、他方の切断面に形成された第2の係合部とが係合した際に、環状体となり、且つ、当該環状体となった際に、他方の切断面が一方の切断面に対して円周方向に相対的に移動することを阻止することができる。したがって、使用中に、バックアップリングが不意に円周方向に開くことを抑制することができ、常に最適な環状(リング形状)を維持することができる。
【0014】
また、本発明にかかるバックアップリングは、前記一方の切断面と、前記他方の切断面は、軸方向において互いに重なり合う領域を有するよう構成することができる。そして、この場合、前記第1の係合部及び第2の係合部は、前記軸方向において互いに重なり合う領域に形成することができる。このようにすることで、前記第1の係合部及び第2の係合部が、バックアップリングの軸方向となる面に形成されることがない。したがって、バックアップリングの軸方向となる面には、前記切断によって形成された切れ目のみが現れることになるため、仮に、前記切れ目がこの面に配設されるOリング等のシール部材にある程度の負担をかけるとしても、この負担を必要最低限に抑制することができる。
【0015】
そしてまた、本発明にかかるバックアップリングは、前記第1の係合部と第2の係合部とが係合した際に、当該バックアップリングの軸方向となる面が平面となるよう構成することもできる。すなわち、前記一方の切断面と、他方の切断面とを接触させて環状体とした際に、バックアップリングの軸方向となる面において、一方の切断面と、他方の切断面との境界部分に段差が形成されることを抑制することができるため、この面に配設されるOリング等のシール部材に悪影響を及ぼすことがない。
【0016】
また、本発明にかかるバックアップリングは、前記一方の切断面に、第3の係合部をさらに形成し、前記他方の切断面に、前記第3の係合部と着脱可能に係合し、当該第3の係合部と係合した際に、当該他方の切断面が、前記一方の切断面に対して、円周方向に相対的に移動することを阻止する第4の係合部をさらに形成した構成を備えることもできる。この構成を備えたバックアップリングは、前述した両切断面の円周方向への相対的な移動が、前記第1の係合部と第2の係合部とによる係合、及び前記第3の係合部と第4の係合部との係合によって、より確実に阻止される。したがって、使用中に、バックアップリングが不意に円周方向に開くことをさらに確実に抑制することができる。
【0017】
そして、この構成の場合、前記第3の係合部及び第4の係合部は、前記軸方向において互いに重なり合う領域に形成することができる。このようにすることで、前記第3の係合部及び第4の係合部が、バックアップリングの軸方向となる面に形成されることがなく、この面には、前記切断によって形成された切れ目のみが現れることになるため、仮に、前記切れ目がこの面に配設されるOリング等のシール部材にある程度の負担をかけるとしても、この負担を必要最低限に抑制することができる。
【0018】
また、本発明は、前述した本発明にかかるバックアップリングを備えたタンクを提供するものである。このタンクは、バックアップリングが、円周方向に不意に開くことがないため、当該バックアップリングは、このバックアップリングと共に配設されるOリング等のシール部材に対し、最適な状態で接触することになる。したがって、前記シール部材の寿命を向上させると共に、シール性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかるバックアップリングは、第1の係合部と第2の係合部とが係合することにより、円周方向に不意に開くことがないため、このバックアップリングと共に配設されるOリング等のシール部材に対し、最適な状態で接触することができる。この結果、シール部材を補強したり、はみ出し等を防止することは勿論のこと、当該シール部材の寿命を向上させると共に、シール性を向上することができる。
【0020】
また、また、本発明にかかるタンクは、構成要素であるバックアップリングが、円周方向に不意に開くことがないため、当該バックアップリングは、このバックアップリングと共に配設されるOリング等のシール部材に対し、最適な状態で接触することになる。この結果、前記シール部材の寿命を向上させると共に、シール性を向上することができ、信頼性の高いタンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかるバックアップリング、及びこのバックアップリングが配設されたタンクについて図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0022】
図1は、本実施の形態にかかるバックアップリングの斜視図、図2は、図1に示すバックアップリングの切断部分近傍を拡大して示す側面図、図3は、図2に示すバックアップリングの切断部分を開いた状態を示す側面図、図4は、図1に示すバックアップリングをタンクに適用した状態を示す側面図、図5は、図4に示すタンクを配管に接続した状態を示す一部断面図である。
【0023】
なお、前記各図では、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、説明を判りやすくするため、実際のものとは一致させずに記載した。また、本実施の形態では、バックアップリングの径方向に対し垂直な方向を軸方向と定義した。
【0024】
図1〜図3に示すように、本実施の形態にかかるバックアップリング1は、環状体の一箇所を切断した構成を備えている。この切断によって形成されたバックアップリング1の一方の端部10Aは、この切断によって形成された切断面11Aを有し、他方の端部10Bは、切断面11Bを有している。この切断面11Aと、他方の切断面11Bは、軸方向において互いに重なり合う領域を備えている。
【0025】
切断面11Aの、軸方向において切断面11Bと重なる領域には、当該軸方向に突出した係合凸部12Aと、係合凸部12Aと所定の間隔をおいて配設され且つ係合凸部12Aとは反対の方向に没入した係合凹部13Aが各々形成されている。一方、切断面11Bの、前記軸方向において切断面11Aと重なる領域であって、切断面11Aと切断面11Bとを接触させた際(バックアップリング1を環状にした際)に係合凸部12Aと対向する位置には、係合凸部12Aが着脱可能に係合する係合凹部12Bが形成されており、係合凹部13Aと対向する位置には、係合凹部13Aに着脱可能に係合する係合凸部13Bが形成されている。なお、本実施の形態では、係合凸部12A、係合凹部13A、係合凸部13B、係合凹部13Aは、前記切断によって形成されており、切断面11A及び切断面11Bの一部を構成している。したがって、係合凹部12Bは、係合凸部12Aと相補した形状を有し、係合凸部13Bは、係合凹部13Aと相補した形状を有しており、係合凸部12Aと係合凹部12Bとが係合し、係合凸部13Bと係合凹部13Aとが係合した際には、バックアップリング1の軸方向となる両面2及び3は、平面を呈することができる。
【0026】
この構成を備えたバックアップリング1は、切断面11Aと切断面11Bとを接触させることにより環状体とした際に、係合凸部12Aと係合凹部12Bとが係合し、係合凸部13Bと係合凹部13Aとが係合して、互いに係止し合うため、切断面11Aが切断面11Bに対し、円周方向に相対的に移動することを阻止することができる。したがって、バックアップリング1が不意に円周方向に開くことを抑制できるため、切断面11Aと切断面11Bとの接触部分(切断部分)との間に隙間が形成されることを抑制することができる。
【0027】
このバックアップリング1は、例えば、図4及び図5に示すように、タンク100と配管200とを接続する際に、タンク本体110のガス供給口101の外周面に形成された環状溝102に、Oリング50と共に配設される。なお、バックアップリング1は、Oリング50に対し、低圧側である配管200側に配設した。このバックアップリング1が配設されたタンク100は、前述したようにバックアップリング1が不意に円周方向に開くことが抑制されるため、切断面11Aと切断面11Bとの接触部分(切断部分)との間に隙間が形成されることが殆どない。したがって、常に最適な状態を維持しつつOリング50の補強やはみ出しを抑制することができる。また、バックアップリング1のOリング50が接触する面2(あるいは3)は、バックアップリング1の切断面11Aと切断面11Bとの境界に段差等が形成されることが殆どなく、平面状態が維持されるため、Oリング50に悪影響を及ぼすこともない。このため、Oリング50の寿命を向上させることができ、シール性も向上することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、係合凸部12A及び13B、係合凹部12B及び13Aの形状を、角にRを付けた形状としたが、これに限らず、例えば、図6に示すように、角を残した形状としてもよく、図7に示すように、テーパ状に形成する等、係合凸部12Aと係合凹部12Bとが係合し、係合凸部13Bと係合凹部13Aとが係合した際に、バックアップリング1が不意に円周方向に開くことを抑制できる形状であれば、特に限定されるものではない。
【0029】
また、本実施の形態では、係合凸部12A(第1の係合部)と、これに係合する係合凹部12B(第2の係合部)、及び、係合凸部13B(第3の係合部)と、これに係合する係合凹部13A(第4の係合部)を形成した場合について説明したが、これに限らず、例えば、図8に示すように、所望により、係合凸部12A(第1の係合部)と、これに係合する係合凹部12B(第2の係合部)のみを形成してもよい。そしてまた、図9に示すように、係合凸部12Aを端部10Aの端面に形成し、係合凹部12Bを端部10Bの端面に形成してもよい。この図9に示す構成の場合、係合凸部12Aの基端側を、係合凸部12Aの最大径部よりも狭くする(したがって、係合凹部12Bは、湾曲した蟻溝形状となる)ことで、バックアップリング1が不意に円周方向に開くことが抑制できる。
【0030】
そしてまた、前述した係合凸部12A、係合凹部12B、係合凸部13B、係合凹部13Aの形成位置は、任意により決定してよく、仮に、バックアップリング1のOリング50との接触面に若干の凹凸が形成されていたとしても、Oリング50に悪影響を与えないのであれば、例えば、図10に示すように、係合凸部12A及び係合凹部12B(係合凸部13B及び係合凹部13A)が、面2(3)に呈するように形成してもよい。この場合、係合凸部12A及び係合凹部12B(係合凸部13B及び係合凹部13A)は、切断面11Aと切断面11Bとの境界に段差が形成されることがないように形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態にかかるバックアップリングの斜視図である。
【図2】図1に示すバックアップリングの切断部近傍を拡大して示す側面図である。
【図3】図2に示すバックアップリングの切断部を開いた状態を示す側面図である。
【図4】図1に示すバックアップリングをタンクのガス供給口に適用した状態を示す側面図である。
【図5】図4に示すタンクを配管に接続した状態を示す一部断面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態にかかるバックアップリングの切断部分近傍を拡大して示す側面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態にかかるバックアップリングの切断部分近傍を拡大して示す側面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態にかかるバックアップリングの切断部分近傍を拡大して示す側面図である。
【図9】本発明の他の実施の形態にかかるバックアップリングの切断部分近傍を拡大して示す側面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態にかかるバックアップリングの斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…バックアップリング、 10A、10B…端部、 11A、11B…切断面、 12A、13B…係合凸部、 12B、13A…係合凹部、 50…Oリング、 100…タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断によって形成された一方の切断面と他方の切断面とを接触させて環状体となるバックアップリングであって、
前記一方の切断面に、第1の係合部を形成し、
前記他方の切断面に、前記第1の係合部と着脱可能に係合し、当該第1の係合部と係合した際に、前記一方の切断面と他方の切断面とが接触すると共に、当該他方の切断面が、前記一方の切断面に対して、円周方向に相対的に移動することを阻止する第2の係合部を形成してなるバックアップリング。
【請求項2】
前記一方の切断面と、前記他方の切断面は、軸方向において互いに重なり合う領域を有する請求項1記載のバックアップリング。
【請求項3】
前記第1の係合部及び第2の係合部は、前記軸方向において互いに重なり合う領域に形成されてなる請求項2記載のバックアップリング。
【請求項4】
前記第1の係合部と第2の係合部とが係合した際に、前記環状体の軸方向となる面が平面となる請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のバックアップリング。
【請求項5】
前記一方の切断面に、第3の係合部を形成し、
前記他方の切断面に、前記第3の係合部と着脱可能に係合し、当該第3の係合部と係合した際に、当該他方の切断面が、前記一方の切断面に対して、円周方向に相対的に移動することを阻止する第4の係合部を形成してなる請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のバックアップリング。
【請求項6】
前記第3の係合部及び第4の係合部は、前記軸方向において互いに重なり合う領域に形成されてなる請求項5記載のバックアップリング。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のバックアップリングを備えたタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−115908(P2008−115908A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297886(P2006−297886)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】