説明

バックラッシュ調整機構及びそれを備えたロボット

【課題】円錐歯車においてバックラッシュを簡単に調整できるようにし、ロボットにおいてもその調整を簡単に行えるようにする。
【解決手段】円錐歯車7におけるバックラッシュを調整するため、円錐歯車の回転軸に設けられた穴部に挿入され、円錐歯車を摺動可能に支持する動力軸3と、動力軸3の周囲に設けられたネジ部5に係合され、円錐歯車7の端部と当接する位置決め用ナット6と、円錐歯車7を動力軸3に対して固定する固定用ボルト8と、を備え、位置決めナット6をネジ部5で位置調整することで、円錐歯車7の動力軸3に対する回転軸方向の位置を移動させ、バックラッシュを調整するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックラッシュを調整するバックラッシュ調整機構に関し、特にそれをロボットに適用するものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ロボット腕駆動用アクチュエータなどにおいては、腕の位置決め精度がとりわけ高く要求されるため、アクチュエータのロータリーエンコーダなどにより得られる軸の回転角を用いて、位置制御を行うことが多い。
一方、駆動電動機を小型化するため、一般にアクチュエータは歯車減速機を備えているが、反負荷歯面側のすきまであるバックラッシュは、誤差や変形を吸収するため歯車装置には不可欠な反面、これによるすきまの分、軸の回転角が不定となる。これは制御により解消困難なため、バックラッシュの存在はアクチュエータの位置決め精度悪化要因の一つとなっている。
【0003】
こういったバックラッシュを低減するために、既存技術として円錐歯車を使用した構成が提案されている。円錐歯車は、円筒歯車の転位係数を軸方向に直線的に変化させた歯車であり、円錐歯車、コニカルギヤとも呼ばれる。転位係数の変化に応じて歯圧も軸方向に変化するため、歯車を軸方向に移動させることにより、バックラッシュを調整することが可能となる。ところが、このような歯車位置調整機構は、一般に調整手順が煩雑であるため、小型、かつ複数の軸構造が集積された場合に適用が困難である。また、長期間使用した結果、歯面が磨耗するとバックラッシュが増加してしまうと言う問題もある。
【0004】
この問題に対して、例えば特許文献1のような構造が提案されている。すなわち、円錐歯車の一方を軸方向に可動とし、この可動円錐歯車を軸方向に付勢するばねを設けることにより、円錐歯車同どうしの両歯面を密着させてバックラッシュを0とする構造である。
また、特許文献2のように、モータと歯車箱との間に弾性体のスペーサを挟みこむことで円錐歯車どうしの両歯面を密着させてバックラッシュを0とする構造も開示されている。
【0005】
また、多関節ロボットの腕構造においてバックラッシュを調整する機構には、偏芯フランジ及びシザーズギヤを用いていた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−257660
【特許文献2】特開2006−101605
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な多関節ロボットの腕構造では、図1に示すように、複数の軸駆動部を集め、その駆動部より伝達シャフト等にて動作箇所まで動力を伝達する方法が取られていることが多い。これは、ロボットの腕先端部に重量の大きな駆動部を配置すると、ロボットの基幹部により大きな動力が必要となることや、駆動元であるモータの配線を短くすることに基づいている。
従来のロボット腕構造では、上記のように偏芯フランジ、及び、シザーズギヤを用いたバックラッシュ機構を用いていたが、偏芯フランジを用いた構造では伝達シャフトに倒れが生じるため、カップリング等により倒れに対応する手段を備えるか、伝達シャフト自体の強度を高めるか、もしくは伝達シャフトを長くして応力を分散させることにより、伝達シャフトの破損を防ぐ必要があった。
また、2枚の平行歯車によってバックラッシュを調整するシザーズギヤ構造では、部品点数の増加が生じる問題があった。
また、弾性体を使用した円錐歯車によるバックラッシュ調整方法では、駆動軸間の剛性が低下してしまうため、大きな負荷が掛かる場合にはロボットの手先位置精度の悪化が生じ、早く動作させる際にはロボットの応答性や制御性が悪化してしまうという問題がある。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、円錐歯車を利用した高剛性なバックラッシュ低減機構を有するとともに、駆動軸を分解することなくバックラッシュの調整が可能な機構を有する、バックラッシュ調整機構とこれを用いたロボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、円錐歯車におけるバックラッシュを調整するためのバックラッシュ調整機構において、前記円錐歯車の回転軸に設けられた穴部に挿入され、前記円錐歯車を前記回転軸方向に摺動可能に支持する動力軸と、前記動力軸の周囲に設けられたネジ部に係合され、前記円錐歯車の端部と当接する位置決め用ナットと、前記円錐歯車を前記動力軸に対して固定する固定用ボルトと、を備え、前記位置決めナットを前記ネジ部で位置調整することで、前記円錐歯車の前記動力軸に対する前記回転軸方向の位置を移動させ、前記バックラッシュを調整するバックラッシュ調整機構とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のバックラッシュ調整機構を備えたロボットとするものである。
請求項3に記載の発明は、円錐歯車におけるバックラッシュを調整するためのバックラッシュ調整機構をアームの内部に有するロボットにおいて、前記アーム先端の手首部を回転させる円錐歯車の回転軸に設けられた穴部に挿入され、前記円錐歯車を前記回転軸方向に摺動可能に支持する動力軸と、前記動力軸の周囲に設けられたネジ部に係合され、前記円錐歯車の端部と当接する位置決め用ナットと、前記円錐歯車を前記動力軸に対して固定する固定用ボルトと、前記固定用ボルトと、前記位置決めナットと、前記円錐歯車とを、前記アームの外部から調整可能にする前記アームに設けられた開口部と、を備え、前記開口部を介して、前記位置決めナットを前記ネジ部で位置調整することで、前記円錐歯車の前記動力軸に対する前記回転軸方向の位置を移動させ、前記バックラッシュを調整するよう構成されたロボットとするものである。
請求項4に記載の発明は、前記開口部に、前記開口部を閉塞するカバーが備えられた請求項3記載のロボットとするものである。

【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によると、円錐歯車を動力軸に対して所望の位置に簡単に調整することができ、それによりバックラッシュの調整が可能である。
請求項2に記載の発明によると、ロボットのように複雑な機構を備えたものでも簡単にバックラッシュの調整ができて、ロボットの位置決め精度を向上させることができる。
請求項3及び4に記載の発明によると、アームのような部材に収容されている箇所でも、アームや歯車部分を分解を伴うことなく開口部を介してバックラッシュの調整ができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明のバックラッシュ調整機構とこれを用いたロボットアームの内部構造図である。
図1において、1は多関節ロボットのアームを示しており、その一部が断面図で示されている。アーム1は略円筒状であってその内部に、以下で説明する機構を収納している。アーム1の端部にはギヤケース2が設けられているが、ギヤケース2はアーム1から延在する円筒状部材であるから実質的にアーム1と同等である。そのギヤケース2の端部には、手首部19が備えられている。手首部19は後述する第1乃至第3の大円錐歯車の回転によって回転する。
【0012】
アーム1の延在方向に沿ってその内部に装架される動力軸(動力伝達軸)3はアーム1に固定されたベアリング4によって軸支され、図示しないがアーム1の後方(図の右側)に設けられたモータ及び減速機からの回転動力によって回転駆動する。位置決め用ナット6は、動力軸3の周囲に施されたネジ部5によって動力軸3と噛み合う。動力軸3の先端には円錐歯車7が装着されている。円錐歯車7には動力軸3の先端部が挿入される穴部が形成されていて、この穴部に動力軸3の先端が挿入される。また、円錐歯車7の端部にはネジ挿入穴が形成されており、一方、動力軸3の先端にはネジ穴が形成されていて、この部分に固定用ボルト8が挿入される。上記で説明した位置決めナット6は、円錐歯車7の後端と当接する位置に存在するよう上記ネジ部5が施されている。したがって、円錐歯車7は、位置決めナット6に後端が当接した状態で、固定用ボルト8によって動力軸3に対して固定される。すなわち、固定用ボルト8を緩め、位置決めナット6をネジ部5によって位置調整することで、円錐歯車7は、動力軸3及び円錐歯車7自身の軸方向に沿って摺動可能である。
【0013】
円錐歯車7の歯面と係合する位置に第1の大円錐歯車9が設けられている。第1の大円錐歯車9は円錐歯車7と円錐角が等しく、ベアリング10に軸支されたシャフト11に固定され、動力軸3の回転軸と平行な回転軸12回りに回転駆動する。
また、図示しないが、上記で説明した動力軸3らと同等の機構がアーム1内にさらに別に備えられており、この別の動力軸の円錐歯車と係合する位置であって、第1の大円錐歯車9と同軸で回転可能となるように第2の大円錐歯車13が設けられている。第2の大円錐歯車13はベアリング15に軸支され、シャフト14を回転軸12周りに回転駆動する。
また、同じく、第3の大円錐歯車16はギヤケース2に固定されたベアリング18に軸支され、シャフト17を回転軸12周りに回転駆動する。
上記の構成によって、手首部19は回転する。
【0014】
ギヤケース2の周囲には、外部からその内部へ貫通する開口部20と、開口部20を閉塞するカバー21とが設けられている。開口部20は、少なくともユーザが、固定用ボルト8を緩めたり締めたりすることが可能で、位置決めナット6の位置調整が可能で、円錐歯車7を摺動させることが可能であるだけの開口を有する。
【0015】
そして、開口部20より治具等を用いて固定用ボルト8を緩め、位置決めナット6を回転させることによって、動力軸3の回転軸方向に対して円錐歯車7を摺動させてその位置を調整する。その位置は、当然ながら第1の大円錐歯車9と円錐歯車7とのバックラッシュを所望の量にする位置である。そして、固定用ボルト8を締めることによって円錐歯車7を動力軸3に固定し、カバー21で開口部20を閉塞する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のバックラッシュ調整機構を備えた産業用ロボットのアーム側断面図
【符号の説明】
【0017】
1 アーム
2 ギヤケース
3 動力軸
4、10、15、18 ベアリング
5 ネジ部
6 位置決め用ナット
7 円錐歯車
8 固定用ボルト
9、13、16 大円錐歯車
11、14、17 シャフト
12 回転軸
19 手首部
20 開口部
21 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐歯車におけるバックラッシュを調整するためのバックラッシュ調整機構において、
前記円錐歯車の回転軸に設けられた穴部に挿入され、前記円錐歯車を前記回転軸方向に摺動可能に支持する動力軸と、
前記動力軸の周囲に設けられたネジ部に係合され、前記円錐歯車の端部と当接する位置決め用ナットと、
前記円錐歯車を前記動力軸に対して固定する固定用ボルトと、を備え、
前記位置決めナットを前記ネジ部で位置調整することで、前記円錐歯車の前記動力軸に対する前記回転軸方向の位置を移動させ、前記バックラッシュを調整すること、を特徴とするバックラッシュ調整機構。
【請求項2】
請求項1記載のバックラッシュ調整機構を備えたことを特徴とするロボット。
【請求項3】
円錐歯車におけるバックラッシュを調整するためのバックラッシュ調整機構をアームの内部に有するロボットにおいて、
前記アーム先端の手首部を回転させる円錐歯車の回転軸に設けられた穴部に挿入され、前記円錐歯車を前記回転軸方向に摺動可能に支持する動力軸と、
前記動力軸の周囲に設けられたネジ部に係合され、前記円錐歯車の端部と当接する位置決め用ナットと、
前記円錐歯車を前記動力軸に対して固定する固定用ボルトと、
前記固定用ボルトと、前記位置決めナットと、前記円錐歯車とを、前記アームの外部から調整可能にする前記アームに設けられた開口部と、を備え、
前記開口部を介して、前記位置決めナットを前記ネジ部で位置調整することで、前記円錐歯車の前記動力軸に対する前記回転軸方向の位置を移動させ、前記バックラッシュを調整するよう構成されたこと、を特徴とするロボット。
【請求項4】
前記開口部に、前記開口部を閉塞するカバーが備えられたことを特徴とする請求項3記載のロボット。

【図1】
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