説明

バッテリの冷却装置

【課題】電気自動車またはハイブリッド車に搭載された高電圧バッテリを、空調装置の冷凍サイクルを用いて効率良く冷却してバッテリ性能を維持する。
【解決手段】電気自動車又はハイブリッド車用のバッテリ31と、電動コンプレッサ10、室外熱交換機11、室内熱交換機13及びこれらの制御装置4を備えた空調システム1の搭載車両におけるバッテリの冷却装置であり、第1の冷媒を流す空調システム1の冷媒路17に、室内熱交換機13をバイパスする分流路18を設け、分流路18には熱交換器33を設け、熱交換器33にはバッテリ31の冷却用の第2の冷媒を流す媒体路38を接続し、冷媒路17と分流路18に流す第1の冷媒量を調整する冷却制御装置5を設け、冷却制御装置5が冷媒路17と媒体路37の両方に第1の冷媒を流す場合には、冷却制御装置5は電動コンプレッサ10の目標回転数を増大させるようにしたバッテリの冷却装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバッテリの冷却装置に関し、特に、電気自動車あるいはハイブリッド車両に搭載されるバッテリを、車両に搭載された空気調和装置の冷媒を利用して冷却すると共に、空気調和装置による乗員の快適な空調フィーリングを損なわないようにしたバッテリの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV車)やハイブリッド車両(HV車)が実用化されるにつれて、これらの車両に搭載されるバッテリの容量が大きくなり、出力電圧も高くなってきている。そして、HV車やEV車はバッテリを多数搭載して動力源としているので、バッテリ性能は重要であり、バッテリがその性能を十分に発揮できるようにするために、バッテリ温度を適正温度に保持することが重要である。
【0003】
一方、HV車やEV車では、バッテリの充電時や放電時に熱が発生するので、このような場合にはバッテリが高温になることがあり、バッテリ性能の確保のためにバッテリを冷却することが必要となる。従来の内燃機関の動力で走行する車両のバッテリの冷却は自然風による空冷で十分であったが、HV車やEV車に搭載された電圧が12Vよりも高い高電圧バッテリの冷却は、自然風による空冷では不十分である。
【0004】
そこで、HV車やEV車において、車載の空気調和装置の冷凍サイクルにより、効率良くバッテリを冷却するバッテリ冷却装置が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示のバッテリ冷却装置では、ベースと複数の伝熱フィンから構成したバッテリ冷却器を用意し、2枚の伝熱フィンの間にバッテリを配置すると共に、ベース内部に設けた冷媒通路に空気調和装置の冷凍サイクルで使用する冷媒を分岐して通すことによって、バッテリを冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−105843号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のバッテリ冷却装置では、空気調和装置の冷凍サイクルで使用する冷媒をバッテリ冷却器に流している間は、冷媒が空気調和装置側に流れないようになっているので、バッテリの冷却時に空気調和装置の冷房能力が低下してしまい、車室内への空気調和装置からの冷却風の吹き出し温度が上昇してしまうという問題点がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、車載の空気調和装置の冷凍サイクルの冷媒を使用して車両に搭載されたバッテリを冷却する場合でも、車室内への冷却風の吹き出し温度の変動を抑制し、乗員の快適な空調フィーリングを維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、電気自動車又はハイブリッド車に搭載されるバッテリ(31)と、電動コンプレッサ(10)、室外熱交換機(11)、室内熱交換機(13)及びこれらの制御手段(4)を備えた空調システム(1)とを搭載する車両におけるバッテリの冷却装置であって、第1の冷媒を流す前記空調システム(1)の冷媒路(17)に、前記室外熱交換機(11)の下流側と前記電動コンプレッサ(10)の上流側を結ぶ分流路(18)を設け、前記分流路(18)には熱交換器(33)を取り付け、前記熱交換器(33)には前記バッテリ(31)を冷却するための第2の冷媒を流す媒体路(38)を接続し、前記冷媒路(17)と前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の流量を調整する冷却制御手段(5)を設け、前記冷却制御手段(5)が前記冷媒路(17)と前記分流路(18)の両方に前記第1の冷媒を流す場合には、前記冷却制御手段(5)は前記制御手段(4)に前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0009】
これにより、冷媒路と分流路の両方に第1の冷媒が流れる場合には、電動コンプレッサの目標回転数が増大するので、バッテリの冷却を空調システムの第1の冷媒を使用して行っても、車室内の空調が損なわれない。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記冷却制御手段(5)は、前記冷媒路(17)と前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の流量を調整する流量調整弁(15,16)を備えており、前記制御手段(4)による前記空調システム(1)の制御が優先する場合には、前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して、前記第1の冷媒を全量前記冷媒路(17)に流すようにし、前記制御手段(4)による前記空調システム(1)の制御よりも、前記冷却制御手段(5)による前記バッテリ(31)の冷却を優先させる場合には、前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して、前記バッテリ(31)の冷却優先度が高いほど、前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の量を増大させ、前記バッテリ(31)の冷却優先度が所定レベルより大きい時には、前記第1の冷媒を全量前記分流路(18)に流すことを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0011】
これにより、空調システムの制御が優先する場合には第1の冷媒が全量冷媒路を流れ、空調システムよりもバッテリの冷却を優先させる場合には、バッテリの冷却優先度が高いほど分流路に流す第1の冷媒の量が増大し、バッテリの冷却優先度が所定レベルより大きい時には第1の冷媒が全量分流路に流れるので、バッテリ冷却優先度が大きい場合及びバッテリ冷却優先度が小さい場合の何れにおいてもバッテリの冷却と空調を良好に行うことができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記冷却制御手段(5)は、前記第2の冷媒の温度または前記バッテリ(31)の温度に応じて前記バッテリ(31)の冷却優先度を決定しており、前記バッテリ(31)の冷却優先度が高いほど、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0013】
これにより、電動コンプレッサの目標回転数が、第2の冷媒温度またはバッテリの温度に応じて変化するので、バッテリの冷却が第2の冷媒温度またはバッテリの温度に応じて効率的に行われる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1から3の何れかの発明において、前記冷却制御手段(5)は、外気温が所定温度より高くなれば、外気温に応じて前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0015】
これにより、電動コンプレッサの目標回転数が、外気の温度に応じて変化するので、バッテリの冷却が外気の温度に応じて効率的に行われる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れかの発明において、前記冷却制御手段(5)は、車速が所定速度より高くなれば、車速に応じて、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0017】
これにより、電動コンプレッサの目標回転数が、車速に応じて変化するので、バッテリの冷却が車速に応じて効率的に行われる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1または2の発明において、前記冷却制御手段(5)は、前記第2の冷媒の温度、前記バッテリ(31)の温度、外気温及び車速の組み合わせに応じて、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させる程度を決定することを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0019】
これにより、電動コンプレッサの目標回転数が、第2の冷媒温度、バッテリ温度、外気温及び車速の組み合わせに応じて決定されるので、バッテリの冷却が第2の冷媒温度、外気温及び車速の組み合わせに応じて効率的に行われる。
【0020】
請求項7の発明は、請求項1から6の何れかの発明において、前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流し、更に前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させる場合には、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数の増大を先に行い、所定時間が経過した後に、前記流量調整弁(15,16)を調整して前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流すことを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0021】
これにより、電動コンプレッサの目標回転数が増大して電動コンプレッサの回転が高くなった後に、第1の冷媒が分流路に分流してバッテリが冷却されるので、空調システム側の第1の冷媒の流量が減っても、空調システムの空調動作の低下が抑えられる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流した後に、前記第2の冷媒の流量を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置である。
【0023】
これにより、バッテリの冷却時に第2の冷媒の流量が増えるので、バッテリの冷却を素早く効率的に行うことができる。
【0024】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のバッテリの冷却装置の構成の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示した制御装置によるバッテリの冷却制御の一実施例の手順を示すフローチャートである。
【図3】図2に示した制御手順におけるエアコン優先制御の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】図2に示した制御手順におけるバッテリ冷却優先度小制御の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図2に示した制御手順におけるバッテリ冷却優先度大制御の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図6】図1に示したバッテリの冷却装置にある電動コンプレッサの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】図1に示したバッテリの冷却装置にある電動コンプレッサの制御手順の別の例を示すフローチャートである。
【図8】電動コンプレッサ制御における目標回転数補正におけるバッテリ冷却要求レベルとこの要求レベルに応じた目標回転数補正値の関係を示すマップ図である。
【図9】本発明のバッテリの冷却装置のバッテリ冷却システムの別の実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を行う。また、本実施形態に記載のエアコンはエアコンディショナ(空気調和装置)の略であり、実際の車両用のエアコンには、内気/外気の切替ダンパ、送風機、エアミックスダンパ、吹き出し口切換ダンパ等が含まれるが、これらは本発明には直接関係がないので、図示は省略してある。
【0027】
図1は、本発明のバッテリの冷却装置50の一実施形態の構成を示すものである。本実施形態のバッテリの冷却装置50は、ハイブリッド車、或いは電気自動車に搭載されるものであり、バッテリとしては12Vよりも出力電圧の大きい高電圧バッテリ31が搭載される。また、本実施形態のバッテリの冷却装置50は、空調システム1、バッテリ冷却システム3、空調システム1の動作を制御する制御装置であるエアコンECU4及びバッテリ冷却システム3の冷却制御装置であるバッテリ冷却ECU5を備える。
【0028】
空調システム1は、冷媒(第1の冷媒)を流す冷媒路17で接続された電動コンプレッサ10、室外熱交換機11、膨張弁12及び室内熱交換機13を有する冷凍サイクル6と、媒体路20で接続されたヒータコア21、電気ウォータヒータ22及びウォータポンプ23とPTCヒータ24とを有する目標吹出温度補正システム2を備えている。電動コンプレッサ10はエアコンECU1によって制御されるインバータ14によって動作制御される。電動コンプレッサ10及びインバータ14の構成は公知であるのでここでは説明を省略する。
【0029】
バッテリ冷却システム3は、高電圧バッテリ31を冷却するものであり、高電圧バッテリ31には冷却用の配管(図示せず)が設けられており、この配管には冷媒(第2の冷媒)として例えば循環する水が供給され、高電圧バッテリ31を冷却する。高電圧バッテリ31の冷却用配管に接続する循環路(水路)37には、ウォータポンプ32と熱交換機35が設けられており、高電圧バッテリ31の冷却用配管を出た水はウォータポンプ32によって循環路37を流れ、熱交換機35で冷却されて高電圧バッテリ31の冷却用配管に戻り、高電圧バッテリ31を冷却する。循環路37には、DC/DCコンバータ36を冷却するための並列水路39が、循環路37を分岐して設けられる。
【0030】
以上のように構成されたバッテリ冷却システム3に、本実施形態では熱交換機35をバイパスする分岐水路38を、三方切換バルブ34を介して設け、分岐水路38の途中には水熱交換機33を取り付ける。水熱交換機33は、分岐水路38を流れて水熱交換機33に流入する水(第2の冷媒)を、同じく水熱交換機33を流れる別の冷媒(第1の冷媒)によって冷却するように構成される。従って、本実施形態では、ウォータポンプ32から吐出されて循環路37を流れる水は、三方切換バルブ38の切り換えにより、熱交換機35か水熱交換機33の何れかによって冷却されて高電圧バッテリ31を冷却する。
【0031】
そして、本実施形態では、空調システム1の室内熱交換器11と膨張弁12の間の冷媒路17を分岐した分流路18を設け、この分流路18を水熱交換機33の冷媒入口側に接続する。水熱交換機33の冷媒出口側に接続する分流路18の他端は、室内熱交換器13と電動コンプレッサ10の間の冷媒路17に接続する。更に分流路18の水熱交換機33の上流側にはバルブ16を設け、分流路18の分岐点の下流側でかつ膨張弁12の上流側の冷媒路17にはバルブ15を設ける。バルブ15、16は、冷媒路17と分流路18に流す冷媒の流量を調整する流量調整弁であり、バルブ15、16の開閉はバッテリ冷却ECU5によって行わせる。
【0032】
また、高電圧バッテリ31には高電圧バッテリ31の温度を監視するバッテリ温度センサ41を設け、循環路37にも循環路37を流れる冷却水の水温を監視する冷却水温センサ42を設ける。バッテリ温度センサ41と冷却水温センサ42はバッテリ冷却ECU5に接続する。更に、バッテリ冷却ECU5には外気温センサ43と車速センサ44を接続し、バッテリ冷却ECU5が外気温と車速を監視できるようにする。
【0033】
ここで、図1のように構成されたバッテリ冷却装置50におけるエアコンECUとバッテリ冷却ECU5による空調システム1とバッテリ冷却システム3の制御手順について、図2から図7に示したフローチャートを用いて説明する。なお、この空調システム1とバッテリ冷却システム3の制御手順はあくまでも一例であり、図1のように構成されたバッテリ冷却装置50におけるエアコンECUとバッテリ冷却ECU5による空調システム1とバッテリ冷却システム3の制御手順は、この実施例に限定されるものではない。
【0034】
図2は、図1に示した制御装置であるエアコンECU4と冷却制御装置であるバッテリ冷却ECU5による、空調システム1とバッテリ冷却システム3の冷却制御の一実施例の手順を示すフローチャートであるが、本制御手順の名称はバッテリ冷却制御と簡略化してある。本制御手順は所定時間毎に実行される。
【0035】
ステップ201では、バッテリ冷却ECU5がエアコンECU4と通信を行う。そして、ステップ202ではバッテリ冷却要求があるか否かを判定する。バッテリ冷却要求は、空調システム1の制御よりもバッテリ冷却ECU5によるバッテリ31の冷却を優先させる場合に発せられる。ステップ202の判定が、バッテリ冷却要求無しの場合(NO)はステップ204に進み、エアコン優先の制御を実施してこのルーチンを終了する。一方、ステップ202の判定が、バッテリ冷却要求有りの場合(YES)はステップ203に進み、バッテリ冷却優先度が大かどうかを判定する。バッテリ冷却優先度が大とは、バッテリ31の冷却優先度が所定レベルよりも大きい場合のことである。
【0036】
一方、この実施例では、バッテリ冷却優先度が大でない場合をバッテリ冷却優先度が小としているが、この場合は、バッテリ31の冷却優先度が所定レベルよりも小さい場合である。そして、ステップ203の判定が、バッテリ冷却優先度が小の場合(NO)はステップ205に進んでバッテリ冷却優先度小の制御を実施し、バッテリ冷却優先度が大の場合(YES)はステップ206に進んでバッテリ冷却優先度大の制御を実施してこのルーチンを終了する。バッテリ冷却優先度小の制御とバッテリ冷却優先度大の制御の詳細については後述する。
【0037】
図3は、図2に示したステップ205におけるエアコン優先制御の手順の詳細を示すフローチャートである。エアコン優先制御では、ステップ301において空調用電磁弁(図1のバルブ15)がバッテリ冷却ECU5によってONされて開弁する。続くステップ302では、バッテリ冷却用電磁弁(図1のバルブ16)がバッテリ冷却ECU5によってOFFされて閉弁する。ステップ303では、バッテリ冷却ECU5の動作による電磁弁15,16の開閉状態がエアコンECU4に連絡される。ステップ304ではエアコンECU4が電動コンプレッサ10を制御して通常のエアコン制御が実施される。通常のエアコン制御では、冷媒(第1の冷媒)が全量冷媒路17を流れる。このときの冷媒(第1の冷媒)の経路を実線で示す。
【0038】
図4は、図2に示したステップ206におけるバッテリ冷却優先度小の時の制御の手順の詳細を示すフローチャートである。バッテリ冷却優先度小の制御では、ステップ401において空調用電磁弁(図1のバルブ15)がバッテリ冷却ECU5によってONされて開弁する。続くステップ402では、バッテリ冷却用電磁弁(図1のバルブ16)がバッテリ冷却ECU5によってまずOFFされて閉弁する。ステップ403では、バッテリ冷却ECU5の動作による空調用電磁弁15のONと、バッテリ冷却用電磁弁16がOFFからONに制御される情報がエアコンECU4に連絡される。
【0039】
ステップ404では、バッテリ冷却用電磁弁16がOFFからONに制御される情報が伝えられたエアコンECU4が、電動コンプレッサ10の目標回転数補正制御する。目標回転数補正制御は、電動コンプレッサ目標回転数最終出力IVoutにバッテリ冷却要求における電動コンプレッサ目標値補正量f1(IVObc)を加味することにより、バッテリ冷却における冷房能力不足を補正(補充)して、冷房能力低下(吹き出し温度上昇)を防止するものである。
【0040】
図8は、バッテリの冷却要求レベル(%で示される)に応じて、電動コンプレッサ目標値補正量f1(IVObc)を算出する根拠となるマップを示している。電動コンプレッサ目標回転数最終出力IVoutは、IVout=IVon+f1(IVObc)で表される。IVonは通常のエアコン制御における電動コンプレッサの目標回転数である。電動コンプレッサ目標値補正量f1(IVObc)は、バッテリ冷却要求レベルに応じて、図8に示すマップを用いて算出される。
【0041】
バッテリ冷却要求レベルが1以上では、バッテリ冷却要求レベルが高くなるにつれて、電動コンプレッサ目標値補正量f1(IVObc)が大きくなる。このようにして算出された電動コンプレッサ目標回転数最終出力IVoutは、通常のエアコン制御における電動コンプレッサの目標回転数IVonよりも大きく、電動コンプレッサ10の回転数を増大させると、空調システム1の冷房能力が増大する。
【0042】
ステップ405はステップ404において電動コンプレッサ10の目標回転数補正制御が実施されてから所定時間α秒が経過したか否かを判定するものであり、α秒が経過していない場合(NO)はステップ404における電動コンプレッサ10の目標回転数補正制御が継続して実施される。ステップ405においてα秒経過したと判定された場合(YES)はステップ406に進み、バッテリ冷却用電磁弁(図1のバルブ16)がバッテリ冷却ECU5によってONされて開弁する。所定時間α秒の値は電動コンプレッサ10の機種によって異なる。バッテリ冷却優先度小制御においては冷媒(第1の冷媒)は冷媒路17と分流路18の両方を流れる。この時の冷媒(第1の冷媒)の経路を破線で示す。
【0043】
このように、冷媒(第1の冷媒)が冷媒路17と分流路18の両方を流れる場合は、ステップ404の制御により電動コンプレッサ10の目標回転数補正制御が実施されて電動コンプレッサ10の回転数がバッテリ冷却要求のレベルに応じて増大し、空調システム1の冷房能力が増大する。このため、分流路18に冷媒の一部が分流して流れても、空調システム1における冷房能力(冷房風の吹出温度上昇)が通常時に比べて大きく落ち込むことがなくなり、車両の乗員が冷房能力不足で不快感を感じる虞がなくなり、乗員の快適な空調フィーリングが損なわれない。
【0044】
ステップ406における制御で図1のバルブ16が開弁し、第1の冷媒が水熱交換機33を流れるようになると、次のステップ407で図1に示すバッテリ冷却システム3にあるウォータポンプ32の作動制御が行われる。ウォータポンプ32の作動制御では、まず三方切換バルブ34がバッテリ冷却ECU5によって切り換えられ、第2の冷媒である水が分岐水路38を流れて水熱交換機33によって冷却される。次いでウォータポンプ32の吐出量がバッテリ冷却ECU5によって増大され、第1の冷媒によって冷却された第2の冷媒(水)が高電圧バッテリ31を流れて高電圧バッテリ31が冷却される。この時、ウォータポンプ32の吐出量は、任意の流量変化率をもって徐々に増加させ、バッテリ冷却側の図示しない熱交換器の負荷の急激な上昇を防止する。
【0045】
ステップ408は、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達したか否かを判定するものであり、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達していない場合(NO)はステップ407に戻ってウォータポンプ32の吐出量を徐々に増加させる制御を継続し、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達したら(YES)ステップ409に進み、ウォータポンプ32の吐出量の増大を停止してこのルーチンを終了する。この制御により、高電圧バッテリ31の冷却時間を短縮できる。
【0046】
図5は、図2に示したステップ207におけるバッテリ冷却優先度大制御の手順の詳細を示すフローチャートである。バッテリ冷却優先度大制御では、ステップ501において空調用電磁弁(図1のバルブ15)がバッテリ冷却ECU5によってOFFされて閉弁する。続くステップ502では、バッテリ冷却用電磁弁(図1のバルブ16)がバッテリ冷却ECU5によってONされて開弁する。ステップ503では、バッテリ冷却ECU5の動作による電磁弁15,16の開閉状態がエアコンECU4に連絡される。エアコンECU4は、バルブ15が閉じているので、電動コンプレッサ10を高電圧バッテリ31を冷却するバッテリ冷却制御で運転する。バッテリ冷却制御において冷媒路17と分流路18を流れる冷媒(第1の冷媒)の経路を一点鎖線で示す。この時は、冷媒(第1の冷媒)が全量分流路18を流れる。
【0047】
ステップ502における制御で図1のバルブ15が閉弁してバルブ16が開弁し、第1の冷媒が水熱交換機33を流れるようになると、次のステップ504で図1に示すバッテリ冷却システム3にあるウォータポンプ32の作動制御が行われる。ウォータポンプ32の作動制御では、まず三方切換バルブ34がバッテリ冷却ECU5によって切り換えられ、第2の冷媒である水が分岐水路38を流れて水熱交換機33によって冷却される。次いでウォータポンプ32の吐出量がバッテリ冷却ECU5によって増加され、第1の冷媒によって冷却された第2の冷媒(水)が高電圧バッテリ31を流れて高電圧バッテリ31が冷却される。この時、ウォータポンプ32の吐出量は、任意の流量変化率をもって徐々に増加させ、バッテリ冷却側の図示しない熱交換器の負荷の急激な上昇を防止する。
【0048】
ステップ505は、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達したか否かを判定するものであり、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達していない場合(NO)はステップ504に戻ってウォータポンプ32の吐出量を徐々に増加させる制御を継続し、ウォータポンプ32の吐出量が目標冷却水量に達したら(YES)ステップ506に進み、ウォータポンプ32の吐出量の増大を停止してこのルーチンを終了する。この制御により、高電圧バッテリ31の冷却時間を短縮できる。
【0049】
図6は、図1に示したバッテリの冷却装置50にある電動コンプレッサ10の、バッテリ冷却時の制御手順の一例を示すフローチャートである。この制御は先に説明したステップ206又はステップ207の中で行われるものである。ステップ601ではバッテリ冷却要求レベルを検出する。次に、ステップ602においてバッテリ冷却水温度を検出する。バッテリ冷却水の温度は、図1に示した冷却温センサ42によって検出することができる。次のステップ603では電動コンプレッサ10の目標回転数が算出される。この目標回転数は、ステップ601で検出したバッテリ冷却要求レベルとステップ602で検出したバッテリ冷却水温度を加味して算出される。
【0050】
なお、図6に示す制御手順では、電動コンプレッサ10の目標回転数を、ステップ601で検出したバッテリ冷却要求レベルとステップ602で検出したバッテリ冷却水温度を加味して算出しているが、ステップ602において、バッテリ冷却水の温度を冷却温センサ42によって検出する代わりに、バッテリ31の温度を温度センサ41で検出しても良い。
【0051】
そして次のステップ605では、ステップ604で算出した電動コンプレッサ10の目標回転数に応じて、電動コンプレッサ10の回転数を増速する制御が実施される。そして、ステップ605で電動コンプレッサ10の回転数が目標増速回転数に達したか否かを判定し、目標増速回転数に達していない場合(NO)はステップ604の電動コンプレッサ10の回転数を増速する制御を引き続き実行し、目標増速回転数に達した場合(YES)はステップ606に進んで電動コンプレッサ10の回転数の増速制御を停止してこのルーチンを終了する。
【0052】
更に、ステップ602のバッテリ冷却水温度検出の代わりに、ステップ602Aに示すように外気温度を検出したり、ステップ602Bに示すように車速を検出し、ステップ603において、電動コンプレッサ10の目標増速回転数を、バッテリ冷却要求レベルと外気温度、或いはバッテリ冷却要求レベルと車速を加味して算出するようにしても良い。
【0053】
図7は、図1に示したバッテリの冷却装置50にある電動コンプレッサ10の、バッテリ冷却時の制御手順の別の例を示すフローチャートである。図6で説明したバッテリ冷却時の電動コンプレッサ10の目標増速回転数の算出は、バッテリ冷却要求レベルと、バッテリ冷却水温度、外気温度、或いは車速の何れかの組み合わせによって行っていた。
【0054】
一方、図7に示す別の実施例では、ステップ701でバッテリ冷却水温度、外気温度及び車速の全てを検出し、ステップ702において、バッテリ冷却時の電動コンプレッサ10の目標増速回転数の算出を、バッテリ冷却要求レベル、バッテリ冷却水温度、外気温度、及び車速を全て加味して行っている。バッテリ冷却水温度の代わりに、バッテリ31の温度を検出するようにしても良い。これ以外の制御手順は図6で説明した制御手順と同じであるので、同じ制御手順には同じステップ番号を付してその説明を省略する。図7に示す別の実施例では、バッテリ冷却時の電動コンプレッサ10の目標増速回転数の算出を一層正確に行うことができる。
【0055】
図9は、図1に示した本発明のバッテリの冷却装置50のバッテリ冷却システム3の別の実施形態を示す構成図である。図9に示す実施形態では、高電圧バッテリ31に、熱交換により高電圧バッテリ31を冷却するバッテリ冷却器7を設け、バッテリ冷却器7の冷媒入口側をバルブ16に接続し、バッテリ冷却器7の冷媒出口側を電動コンプレッサ10と室内熱交換機13の間の冷媒路17に戻している。高電圧バッテリ31の温度を検出するバッテリ温度センサ41が設けられてバッテリ冷却ECUに接続される点は図1と同様である。更に、バッテリ冷却器7の冷媒入口側には、バッテリ冷却ECUに接続される冷媒温度センサ45が設けられている。
【0056】
このような構成のバッテリ冷却システム3にも本発明は適用することができ、以上説明した制御と同様の制御を実施することにより、高電圧バッテリ31の冷却時にも空調システム1における冷房能力を低下させないようにすることが可能である。即ち、冷媒路17と分流路18の両方に第1の冷媒を流す場合でも、電動コンプレッサ10の目標回転数を増大させることによって、高電圧バッテリ31の冷却時にも空調システム1における冷房能力を低下させないようにすることが可能である。
【0057】
このように、本発明のバッテリの冷却装置を搭載したハイブリッド車または電気自動車では、冷凍サイクルを流れる冷媒を利用して、高電圧バッテリを冷却して高電圧バッテリの性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 空調システム
2 目標吹出温度補正システム
3 バッテリ冷却システム
4 エアコンデECU
5 バッテリ冷却ECU
7 バッテリ冷却器
10 コンプレッサ
11 室外熱交換機
14 インバータ
15、16 バルブ
17 冷媒路
18 分流路
23,32 ウォータポンプ
31 高電圧バッテリ
33 水熱交換機
34 三方切換バルブ
37 水路
38 分岐水路
41 バッテリ温度センサ
42 冷却水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車又はハイブリッド車に搭載されるバッテリ(31)と、電動コンプレッサ(10)、室外熱交換機(11)、室内熱交換機(13)及びこれらの制御手段(4)を備えた空調システム(1)とを搭載する車両におけるバッテリの冷却装置であって、
第1の冷媒を流す前記空調システム(1)の冷媒路(17)に、前記室外熱交換機(11)の下流側と前記電動コンプレッサ(10)の上流側を結ぶ分流路(18)を設け、
前記分流路(18)には熱交換器(33)を取り付け、
前記熱交換器(33)には前記バッテリ(31)を冷却するための第2の冷媒を流す媒体路(38)を接続し、
前記冷媒路(17)と前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の流量を調整する冷却制御手段(5)を設け、
前記冷却制御手段(5)が前記冷媒路(17)と前記分流路(18)の両方に前記第1の冷媒を流す場合には、前記冷却制御手段(5)は前記制御手段(4)に前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とするバッテリの冷却装置。
【請求項2】
前記冷却制御手段(5)は、前記冷媒路(17)と前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の流量を調整する流量調整弁(15,16)を備えており、
前記制御手段(4)による前記空調システム(1)の制御が優先する場合には、前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して、前記第1の冷媒を全量前記冷媒路(17)に流すようにし、
前記制御手段(4)による前記空調システム(1)の制御よりも、前記冷却制御手段(5)による前記バッテリ(31)の冷却を優先させる場合には、前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して、前記バッテリ(31)の冷却優先度が高いほど、前記分流路(18)に流す前記第1の冷媒の量を増大させ、前記バッテリ(31)の冷却優先度が所定レベルより大きい時には、前記第1の冷媒を全量前記分流路(18)に流すことを特徴とする請求項1に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項3】
前記冷却制御手段(5)は、前記第2の冷媒の温度または前記バッテリ(31)の温度に応じて前記バッテリ(31)の冷却優先度を決定しており、前記バッテリ(31)の冷却優先度が高いほど、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とする請求項2に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項4】
前記冷却制御手段(5)は、外気温が所定温度より高くなれば、外気温に応じて前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項5】
前記冷却制御手段(5)は、車速が所定速度より高くなれば、車速に応じて、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項6】
前記冷却制御手段(5)は、前記第2の冷媒の温度、前記バッテリ(31)の温度、外気温及び車速の組み合わせに応じて、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させる程度を決定することを特徴とする請求項1または2に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項7】
前記冷却制御手段(5)は、前記流量調整弁(15,16)を調整して前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流し、更に前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数を増大させる場合には、前記電動コンプレッサ(10)の目標回転数の増大を先に行い、所定時間が経過した後に、前記流量調整弁(15,16)を調整して前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流すことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のバッテリの冷却装置。
【請求項8】
前記冷却制御手段(5)は、前記第1の冷媒を前記分流路(18)に流した後に、前記第2の冷媒の流量を増大させることを特徴とする請求項7に記載のバッテリの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−248393(P2012−248393A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119022(P2011−119022)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】