説明

バッファーガス混合比設定方法、原子発振器の周波数調整方法、及び原子発振器

【課題】ガスセルの温度を一義的に定めることで原子発振器の中心周波数を微小に調整す
ることができる原子発振器の周波数調整方法を提供する。
【解決手段】半導体レーザにより構成される光源1と、所定の混合比のバッファーガス及
びアルカリ金属原子を封入したガスセル2と、ガスセル2を所定の温度に加熱するヒータ
ー8と、所望の周波数になるようにヒーター8の温度を設定する温度設定回路10と、ヒ
ーター8の温度を検知する温度センサー7と、ヒーター8を温度設定回路10により設定
された温度に保持する温度制御回路9と、ガスセル2の透過光を検出する光検出回路3と
、光検出回路3により検出されたEIT信号に基づいて同期制御を行なう制御回路4と、
制御回路4からの制御信号に従い、出力周波数が制御される電圧制御水晶発振器5と、電
圧制御水晶発振器6の出力信号を逓倍してマイクロ波を発生するマイクロ波発生回路6と
、を備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッファーガス混合比設定方法、原子発振器の周波数調整方法、及び原子発
振器に関し、さらに詳しくは、原子発振器の出力周波数を微小な範囲で安定に調整する技
術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子発振器は、ガスセル(アルカリ金属原子を封入したガスセル)に励起光を照射して
その透過光を観測することで基準周波数を得ている。即ち、二重共鳴方式のガスセルには
マイクロ波を照射して、このマイクロ波の周波数をスイープしたとき、その周波数がある
一定値を通過する際に透過光はガスセルに吸収されて小さくなる。つまり、この様子をマ
イクロ波の周波数を横軸としてプロットすると、ある周波数でインパルス的に透過光量が
変化するプロファイルが得られる。しかし、このインパルス的なピークは、アルカリ金属
原子の気体が熱運動をするためにドップラー効果により、インパルス的ピークのスペクト
ル幅が広くなってしまう。そこで、ガスセルにはバッファーガス(He、Ne、Arなど
)を封入してドップラー効果を軽減し、スペクトル幅が広がらないようにしている。しか
し、このプロファイルのピーク周波数は、ガスセルに封入したバッファーガスの温度特性
によって周波数がシフトすることが知られており、この現象を回避するために、互いに温
度特性を打ち消す2種類のバッファーガスを所定の混合比で混合する手法がとられている
。この手法により、スペクトル幅が広がらないようにすると共に、その温度特性を打ち消
す混合比にしてバッファーガスを封入して中心周波数を安定化している。更に、中心周波
数を調整するために、別途、周波数調整機構を付加する必要があった。
この原子発振器の周波数調整機構として、特許文献1のようにデジタルシンセサイザ(
DDS)を用いた方法がある。また、古典的な方法として、特許文献1に開示されている
ように、ガスセルを囲むように配置したコイルにより発生した磁場の強度を変化させると
いった手法がとられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献2】特開2002−271197公報
【特許文献3】実開平4−5729公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、回路が複雑化するばかりでなく、集
積回路などの高価な部品を使用しなければならない。また、特許文献2に開示されている
従来技術は、コイルに流す電流を1mA変化させただけで磁場の強度が1e−8変化して
しまうため、微小な範囲の周波数調整が困難であるばかりでなく、磁場電流を安定して変
化させるための定電流回路が必要であるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ガスセルに封入されたバッファー
ガスの温度特性を有効に利用するために、使用するガスセルにおける2種類のバッファー
ガスの温度係数を実験的に求め、原子発振器として得たい温度係数から2種類のバッファ
ーガスの混合比を計算し、計算された混合比のバッファーガスとアルカリ金属原子を封入
したガスセルを原子発振器に備えることにより、ガスセルの温度を定めることで原子発振
器の中心周波数を一義的に微小に調整することが可能な原子発振器の周波数調整方法を提
供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量
子干渉効果を利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子
発振器におけるガスセルのバッファーガス混合比設定方法であって、正の温度係数を有す
るバッファーガスAの共鳴周波数に対する周波数温度係数をXa、負の温度係数を有する
バッファーガスBの共鳴周波数に対する周波数温度係数をXb、アルカリ金属原子に前記
バッファーガスA及び前記バッファーガスBを混合したときに所望する共鳴周波数の周波
数温度係数をZとしたときに、前記バッファーガスAの混合比A´をA´=(Xb−Z)
/(Xb−Xa)として求め、前記バッファーガスBの混合比B´をB´=(Z−Xa)
/(Xb−Xa)として求め、前記周波数温度係数Zは、ゼロを除く前記バッファーガス
AとバッファーガスBの混合バッファーガスの温度係数範囲内であることを特徴とする。
【0007】
バッファーガスA、Bの混合比を周波数温度係数Zになるように計算して求めると、混
合された混合バッファーガスの温度特性は、ガスセルの温度で一義的に周波数を決定する
特性となる。従って、正の温度係数を有するバッファーガスAの共鳴周波数に対する周波
数温度係数Xaと、負の温度係数を有するバッファーガスBの共鳴周波数に対する周波数
温度係数Xbを実験により求め、要求する共鳴周波数の周波数温度係数をZとしたときに
、それぞれの混合比A´、B´はA´=(Xb−Z)/(Xb−Xa)、B´=(Z−X
a)/(Xb−Xa)として求めることができる。但し、周波数温度係数Zは、ゼロを除
くバッファーガスAとバッファーガスBの混合バッファーガスの温度係数範囲内である。
これにより、予め周波数温度係数XaとXbを実験により求めておけば、簡単な計算で所
望とする混合比を求めることができる。
【0008】
[適用例2]前記アルカリ金属原子はセシウム又はルビジウムの何れか一つであり、前
記バッファーガスAが窒素(N2)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)の何れか一つで
あり、前記バッファーガスBがアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)の何れか一つであ
ることを特徴とする。
【0009】
アルカリ金属原子とは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ル
ビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)の6元素の単体の総称であ
るが、原子発振器の場合はセシウム又はルビジウムが多く使用される。そして、セシウム
又はルビジウムと共にガスセルに封入する正の温度係数を有するバッファーガスAは、窒
素(N2)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)であり、負の温度係数を有するバッファ
ーガスBは、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)が最適である。これにより、バッフ
ァーガスの組み合わせにより、広い温度係数の範囲をカバーすることができる。
【0010】
[適用例3]共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量
子干渉効果を利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子
発振器の周波数調整方法であって、正の温度係数を有するバッファーガスAとアルカリ金
属原子とを封入したガスセルAを用意する手順と、負の温度係数を有するバッファーガス
Bと前記アルカリ金属原子とを封入したガスセルBを用意する手順と、前記ガスセルAの
周波数温度特性を取得する手順と、前記ガスセルBの周波数温度特性を取得する手順と、
前記ガスセルAの周波数温度係数Xaを計算する手順と、前記ガスセルBの周波数温度係
数Xbを計算する手順と、前記バッファーガスAの混合比A´、及び前記バッファーガス
Bの混合比B´を計算する手順と、前記混合比A´及び前記混合比B´に基づいて混合し
たバッファーガスA及びバッファーガスBと前記アルカリ金属原子をガスセルに封入する
手順と、前記ガスセルの設定温度を変化させ、原子発振器の周波数を所望の周波数に調整
する手順と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明では、原子発振器の周波数を調整するための手順を提供する。まず、バッファー
ガスAとBの周波数温度特性を取得する前準備として、バッファーガスAとアルカリ金属
原子とを封入したガスセルAを用意する。同じく、バッファーガスBとアルカリ金属原子
とを封入したガスセルBを用意する。次に、ガスセルAを原子発振器にセットしてガスセ
ルAの加熱手段にて設定温度を変化させたときの周波数温度データを取得する。同じく、
ガスセルBを原子発振器にセットしてガスセルBの加熱手段にて設定温度を変化させたと
きの周波数温度データを取得する。この周波数温度データから周波数温度係数Xa、Xb
(特性直線の勾配)を求める。次に、要求する共鳴周波数の周波数温度係数をZとしたと
き、バッファーガスAの混合比A´をA´=(Xb−Z)/(Xb−Xa)として求め、
バッファーガスBの混合比B´をB´=(Z−Xa)/(Xb−Xa)として求める。次
に、求めた混合比のバッファーガスとアルカリ金属原子をガスセルに封入して、ガスセル
の設定温度を変化させ、原子発振器の周波数を所望の周波数に調整する。これにより、予
めバッファーガスA、Bの温度係数を実験により求めておけば、ガスセルの設定温度を変
化させることにより一義的に原子発振器の周波数を調整することができる。
【0012】
[適用例4]共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量
子干渉効果を利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子
発振器であって、適用例1又は2に記載のバッファーガス混合比設定方法により混合され
たバッファーガス及びアルカリ金属原子を封入したガスセルと、該ガスセルを所定の温度
に加熱する加熱手段と、所望の周波数になるように前記加熱手段の温度を設定する温度設
定手段と、前記加熱手段を前記温度設定手段により設定された温度に保持する温度制御手
段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の原子発振器は、二重共鳴法又はCPT法による原子発振器に適用が可能である
。そして最も特徴的な点は、本発明のバッファーガス混合比設定方法により混合されたバ
ッファーガス及びアルカリ金属原子を封入したガスセルにある。即ち、従来のガスセルに
封入されたバッファーガスは、バッファーガスの温度特性を打ち消すために、温度特性が
ゼロとなるように混合比が設定されているが、本発明では、故意に混合比を所定の温度特
性になるように設定している。そして、加熱手段の温度を設定する温度設定手段を備え、
ガスセルの温度から一義的に原子発振器の周波数を設定するものである。これにより、ガ
スセルの温度を定めることで原子発振器の中心周波数を一義的に微小に調整することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る二重共鳴方式による原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図2】RbガスセルとCsガスセルに封入したときのHe、Ne、N2、Ar、Krの温度特性の一例を示す図である。
【図3】一例として窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合比を42:58にしたときの周波数温度特性を示す図である。
【図4】バッファーガスの温度係数を測定する手順を説明するフローチャートである。
【図5】バッファーガスAとBにそれぞれRbガスを封入したガスセルを模式化した図である。
【図6】ガスセルAとガスセルBの温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記
載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限
り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の実施形態に係る二重共鳴方式による原子発振器の構成を示すブロック図
である。この原子発振器50は、半導体レーザにより構成される光源1と、後述するバッ
ファーガス混合比設定方法により混合されたバッファーガス及びアルカリ金属原子を封入
したガスセル2と、ガスセル2を所定の温度に加熱するヒーター(加熱手段)8と、所望
の周波数になるようにヒーター8の温度を設定する温度設定回路(温度設定手段)10と
、ヒーター8の温度を検知する温度センサー7と、ヒーター8を温度設定回路10により
設定された温度に保持する温度制御回路(温度制御手段)9と、ガスセル2の透過光を検
出する光検出回路3と、光検出回路3により検出されたEIT信号に基づいて同期制御を
行なう制御回路4と、制御回路4からの制御信号に従い、出力周波数が制御される電圧制
御水晶発振器5と、電圧制御水晶発振器5の出力信号を逓倍してマイクロ波を発生するマ
イクロ波発生回路6と、を備えて構成される。
【0016】
原子発振器50はガスセル2に励起光を照射して、その透過光を観測することで基準周
波数を得ている。ガスセル2にはマイクロ波発生回路6からマイクロ波を照射しており、
このマイクロ波の周波数をスイープし、周波数がある一定値を通過するとき透過光はガス
セル2に吸収されて透過光が小さくなる。即ち、この様子をマイクロ波の周波数を横軸に
プロットするとある周波数でインパルス的に透過光量が変化するなピークを持つようなプ
ロファイルが得られる。ところで、このプロファイルのピークの周波数は、ガスセル2に
封入したアルカリ金属原子と共に封入したバッファーガス(He、Ne、Arなど)によ
って周波数がシフトすることが知られている。ここで、ガスセル2にバッファーガスを封
入する理由は、バッファーガスを封入しない場合、前述のインパルス的なピークはアルカ
リ金属原子の気体が熱運動をするためにドップラー効果によって、インパルス的ピークの
スペクトル幅が広くなってしまう。原子発振器はそのピークの先端の周波数を基準にして
いるので、幅が広がってしまうことは周波数基準としての性能を低下させてしまう。その
ため、ガスセル2にはバッファーガスを封入してドップラー効果を軽減し、スペクトル幅
が広がってしまわないようにしている。(二重共鳴方式の原子発振器では一般的な方法)

【0017】
しかし、ガスセル2にバッファーガスを封入すると、ガスセル2の温度に対して前述の
ピークの現れる周波数が変化してしまうという温度特性(Hz/℃)を持ってしまう。と
ころで、バッファーガスの種類によってこの温度特性の値は異なっており、例えば、図2
に示すような値が報告されている(Reference 電気学会報告技報(II)第15号)。
図2で注目すべきことは、バッファーガスの種類によって温度特性の値が正の値と負の値
があることである。そこで、バッファーガスを封入したことによる温度特性を補正し、温
度係数を0に見せかけるため、正の係数のガスと負の係数のガスを適当な比率で混合させ
ることで、温度係数を0に近づけることができる。例えば、図2の値から、Rbセルの場
合でKrとNeの混合ガスを封入する場合、KrをNeの約2.1倍程度の圧力(Kr:
Ne=2.1:1.0)で封入すると、温度特性はゼロに近くなり、温度に対して安定な
周波数特性が得られる。
【0018】
本発明の原子発振器50は、二重共鳴法又はCPT法による原子発振器に適用が可能で
ある。そして最も特徴的な点は、本発明のバッファーガス混合比設定方法により混合され
たバッファーガス及びアルカリ金属原子を封入したガスセル2にある。即ち、従来のガス
セルに封入されたバッファーガスは、バッファーガスの温度特性を打ち消すために、温度
特性がゼロとなるように混合比が設定されているが、本発明では、故意に混合比を所定の
温度特性になるように設定している。そして、ヒーター8の温度を設定する温度設定回路
10を備え、ガスセル2の温度から原子発振器50の周波数を設定するものである。これ
により、ガスセル2の温度を一義的に定めることで原子発振器50の中心周波数を微小に
調整することができる。尚、図示は省略するが、原子発振器出力13の周波数を基準とな
る周波数と比較して、自動的に基準周波数に対する温度に追い込む回路を構成しても良い

【0019】
図3は、一例として窒素(N2)とアルゴン(Ar)を混合し、その圧力比を42:5
8から変化させたときの周波数温度特性を示す図である。縦軸に温度係数(Hz/℃・T
orr)、横軸に窒素(N2)とアルゴン(Ar)の圧力比を示す。ここで、窒素(N2
)とアルゴン(Ar)の圧力比が42:58である状態を基準(=0%)としている。例
えば、温度係数をゼロ(符号11)とするためには、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の
圧力比を−3%(N2:Ar=39:61)に設定すればよい。また、温度係数を0.0
1(Hz/℃・Torr)(符号12)とするには、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の
圧力比を−2%(N2:Ar=40:60)に設定すればよいことがわかる。そこで、上
記のバッファーガスの温度特性を所定の温度係数を持つ混合比にすると、ガスセルの温度
で周波数調整できる。即ち、微小な温度係数も、混合比を最適に調整すれば容易に実現で
きる。例えば、Rbガスセルの場合、クリプトン(Kr)とネオン(Ne)の混合比を、
Kr:Ne=2.0:1.0とすると、図2からKrの温度特性が−2.0Hz/℃であ
り、Neの温度特性が+4.2Hz/℃であるので、結果的に0.2Hz/℃の温度係数
のガスセルを実現することができる。このように、ガスセルの温度は温度制御回路9の抵
抗を変えるだけで行えるので非常にリーズナブルである。
【0020】
図4はバッファーガスの温度係数を測定する手順を説明するフローチャートである。ま
ず、バッファーガスAとバッファーガスBの何れか一つとアルカリ金属原子封入したガス
セルを用意する(図5のガスセル20と21)(S1)。このとき、バッファーガスAは
正の温度係数を有し、バッファーガスBは負の温度係数を有する。次に、図6のように、
ガスセルA、Bごとに設定温度を変化させたときの原子発振器の出力周波数データを取得
する(S2)。例えば、図6のように、ガスセルAの設定温度をt1からt2に変化させ
たときの原子発振器出力周波数がΔf変化すると、2点a、bを結んだ直線22がガスセ
ルAの特性であり、同じく直線23がガスセルBの特性である。次に、図6の直線からガ
スセルAとBの周波数温度係数を計算する(S3)。例えば、t2−t1=1℃のときに
出力周波数がΔf変化したと仮定すると、ガスセルAの周波数温度係数XaはΔfとなる
。同じようにガスセルBの周波数温度係数Xbについても計算する。次に、バッファーガ
スAとBの混合比を計算する(S4)。混合比の計算方法は、バッファーガスA、Bの混
合比をA’、B’とし、原子発振器として得たい所望の温度係数をZ[Hz/℃・Tor
r]とすると、
Xa×A’+Xb×B’=Z ・・・(1)
A’+B’=1 ・・・(2)
上記(1)、(2)式より、混合比A’、B’を計算して、
A’=(Xb−Z)/(Xb−Xa)
B’=(Z−Xa)/(Xb−Xa)
により求める。次に、(1)、(2)式より求めた混合比A’、B’のバッファーガスA
、Bとアルカリ金属原子をガスセル2に封入する(S5)。最後に、ガスセル2を図1の
構成にセッティングして、温度設定回路10にてガスセル2の温度を所定温度に設定し、
原子発振器の出力周波数13を確認する。そして、出力周波数13が所望の周波数からず
れていた場合、温度設定回路9にてガスセル2の設定温度を変更し、原子発振器50の出
力周波数13が所望の周波数となるように調整する(S6)。
【0021】
即ち、本フローチャートでは、原子発振器50の周波数を調整するための手順を提供す
る。まず、バッファーガスAとBの周波数温度特性を取得する前準備として、バッファー
ガスAとアルカリ金属原子とを封入したガスセルAを用意する。同じく、バッファーガス
Bとアルカリ金属原子とを封入したガスセルBを用意する。次に、ガスセルAを原子発振
器にセットしてガスセルのヒーター8にて設定温度を変化させたときの周波数温度データ
を取得する(図6の22)。同じく、ガスセルBを原子発振器にセットしてガスセルのヒ
ーター8にて設定温度を変化させたときの周波数温度データを取得する(図6の23)。
この周波数温度データから周波数温度係数Xa、Xb(特性直線の勾配)を求める。次に
、要求する共鳴周波数の周波数温度係数をZとしたとき、バッファーガスAの混合比A´
をA´=(Xb−Z)/(Xb−Xa)として求め、バッファーガスBの混合比B´をB
´=(Z−Xa)/(Xb−Xa)として求める。次に、求めた混合比のバッファーガス
とアルカリ金属原子をガスセル2に封入して、ガスセル2の設定温度を変化させ、原子発
振器50の周波数を所望の周波数に調整する。これにより、予めバッファーガスA、Bの
温度係数を実験により求めておけば、ガスセル2の設定温度を変化させることにより一義
的に原子発振器50の周波数を調整することができる。
【0022】
また、バッファーガスA、Bの混合比を周波数温度係数Zになるように計算して求める
と、混合された混合バッファーガスの温度特性は、ガスセル2の温度で一義的に周波数を
決定する特性となる。従って、正の温度係数を有するバッファーガスAの共鳴周波数に対
する周波数温度係数Xaと、負の温度係数を有するバッファーガスBの共鳴周波数に対す
る周波数温度係数Xbを実験により求め、要求する共鳴周波数の周波数温度係数をZとし
たときに、それぞれの混合比A´、B´はA´=(Xb−Z)/(Xb−Xa)、B´=
(Z−Xa)/(Xb−Xa)として求めることができる。但し、周波数温度係数Zは、
ゼロを除くバッファーガスAとバッファーガスBの混合バッファーガスの温度係数範囲内
である。これにより、予め周波数温度係数XaとXbを実験により求めておけば、簡単な
計算で所望とする混合比を求めることができる。
また、アルカリ金属原子とは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K
)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)の6元素の単体の総
称であるが、原子発振器の場合はセシウム又はルビジウムが多く使用される。そして、セ
シウム又はルビジウムと共にガスセルに封入する正の温度係数を有するバッファーガスA
は、図2より、窒素(N2)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)であり、負の温度係数
を有するバッファーガスBは、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)が最適である。こ
れにより、バッファーガスの組み合わせにより、広い温度係数の範囲を実現することがで
きる。
【符号の説明】
【0023】
1 光源、2 ガスセル、3 光検出回路、4 制御回路、5 電圧制御水晶発振器、
6 マイクロ波発生回路、7 温度センサー、8 ヒーター、9 温度制御回路、10
温度設定回路、50 原子発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量子干渉効果を
利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子発振器におけ
るガスセルのバッファーガス混合比設定方法であって、
正の温度係数を有するバッファーガスAの共鳴周波数に対する周波数温度係数をXa、
負の温度係数を有するバッファーガスBの共鳴周波数に対する周波数温度係数をXb、ア
ルカリ金属原子に前記バッファーガスA及び前記バッファーガスBを混合したときに所望
する共鳴周波数の周波数温度係数をZとしたときに、
前記バッファーガスAの混合比A´をA´=(Xb−Z)/(Xb−Xa)として求め
、前記バッファーガスBの混合比B´をB´=(Z−Xa)/(Xb−Xa)として求め

前記周波数温度係数Zは、ゼロを除く前記バッファーガスAとバッファーガスBの混合
バッファーガスの温度係数範囲内であることを特徴とするバッファーガス混合比設定方法

【請求項2】
前記アルカリ金属原子はセシウム又はルビジウムの何れか一つであり、前記バッファー
ガスAが窒素、ヘリウム、ネオンの何れか一つであり、前記バッファーガスBがアルゴン
、クリプトンの何れか一つであることを特徴とする請求項1に記載のバッファーガス混合
比設定方法。
【請求項3】
共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量子干渉効果を
利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子発振器の周波
数調整方法であって、
正の温度係数を有するバッファーガスAとアルカリ金属原子とを封入したガスセルAを
用意する手順と、負の温度係数を有するバッファーガスBと前記アルカリ金属原子とを封
入したガスセルBを用意する手順と、前記ガスセルAの周波数温度特性を取得する手順と
、前記ガスセルBの周波数温度特性を取得する手順と、前記ガスセルAの周波数温度係数
Xaを計算する手順と、前記ガスセルBの周波数温度係数Xbを計算する手順と、前記バ
ッファーガスAの混合比A´、及び前記バッファーガスBの混合比B´を計算する手順と
、前記混合比A´及び前記混合比B´に基づいて混合したバッファーガスA及びバッファ
ーガスBと前記アルカリ金属原子をガスセルに封入する手順と、前記ガスセルの設定温度
を変化させ、原子発信器の周波数を所望の周波数に調整する手順と、を備えたことを特徴
とする原子発振器の周波数調整方法。
【請求項4】
共鳴光とマイクロ波を利用した二重共鳴法、又は2種類の共鳴光による量子干渉効果を
利用したCPT法により、光吸収特性を利用して発振周波数を制御する原子発振器であっ
て、
請求項1又は2に記載のバッファーガス混合比設定方法により混合されたバッファーガ
ス及びアルカリ金属原子を封入したガスセルと、該ガスセルを所定の温度に加熱する加熱
手段と、所望の周波数になるように前記加熱手段の温度を設定する温度設定手段と、前記
加熱手段を前記温度設定手段により設定された温度に保持する温度制御手段と、を備えた
ことを特徴とする原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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