説明

バナジウム酸化物蛍光体

【課題】紫外・近紫外線を励起光として白色発光するバナジウム酸化物蛍光体を提供する。
【解決手段】
組成式A
(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示し、yが1、zが3.4−3.6のときは、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)で表されるバナジウム酸化物からなることを特徴とする蛍光体。Aには、Li、Na、及びNHからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい。また、Mn2+、Sb3+、Bi3+や、希土類イオンを少なくとも1種以上付活させていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバナジウム酸化物からなる蛍光体に関するものであり、とくに白色LEDに好適なバナジウム酸化物からなる蛍光体に関するものである。また、本発明は紫外・近紫外域の光を励起光として白色発光する、組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示し、yが1、zが3.4−3.6のときは、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)で表されるバナジウム酸化物からなる蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDは携帯電話や様々な表示装置に用いられると同時に省エネルギーなどの観点から蛍光灯の代わりの室内照明装置としても注目されている。白色LEDは近紫外や青色LEDを励起光源とし、種々の波長に発光強度を持つ蛍光体を組み合わせて白色光を生み出している。具体的には青色LEDを励起光に黄色や、緑色、赤色蛍光体を発光させて白色光を得るというものである。(特許文献1)
【0003】
しかしながら複数の蛍光体を組み合わせて得る白色LEDの白色光には色抜けや特定波長のみに強い発光を示すなどの問題点もあり、室内照明として使用するには演色性を向上させるための努力が必要となる。そのため、照明用白色LEDに用いる蛍光体は発光波長が幅広い波長に広がり、特定波長に急峻な発光ピークがなく、さらには出来うる限り少ない蛍光体の組み合わせで白色蛍光を示すことが最も望ましい。近年青色LEDによって励起されるα―サイアロン蛍光体など比較的広い発光波長を持つ蛍光体(特許文献2)が開発されているが、発光スペクトル範囲が充分に広くないために、それだけでは白色にならず、さらにいくつかの蛍光体との組み合わせで白色を得ることができる。このように単一物質で出来るだけ演色性の良い白色蛍光を示すことは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−31845号公報
【特許文献2】特開2006−257326号公報
【非特許文献1】J.Inorg.Nucl.Chem.40(1978)215.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、上記のように青色もしくは紫外線LEDを励起光源とする蛍光体のうち、単一物質だけで演色性の良い白色蛍光を示すものはなく、複数物質の種々の蛍光波長の組み合わせで白色を得てきたが、照明用の用途の場合には演色性、さらには製造コストの点からも単一物質で白色蛍光を示す物質を開発することが望まれる。
そこで、本発明は単一物質で白色光を発光する蛍光体を提供することにある。また、単一物質で紫外・近紫外線により励起し白色光を発光する蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、いろいろと工夫する中、蛍光体物質でよく用いられるf電子を持つ希土類イオンからの発光は、周囲の配位環境に大きく依存せず、導入したイオンのエネルギー準位に対応した発光スペクトルを示すために比較的半値幅の狭い発光ピークを示すことに、着目した。そして、本発明者らは上記課題を解決するために、f電子系発光中心イオン等に因らないブロードな蛍光発光を示す蛍光体の合成に取り組んだ。まず、バナジウム酸化物(以下、V酸化物ということがある)はYVOやMg(VOなどにおいて(VO3−の電荷移動遷移による発光を示すことが知られているので(非特許文献1)、VO四面体を構造中に含む物質を探索したところ、意外にも、発光中心イオンを付活していないAVO(AはK、Rb、Csを示す)が250〜390nmの紫外・近紫外光励起により蛍光スペクトルが490〜495nm付近に極大を持ち390〜680nmの範囲にブロードに広がる強い白色蛍光を発することを見出した。本発明者らは、この知見に基づいてさらに研究を重ね、ついに本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のようにまとめられる。
請求項1記載の発明は、組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示し、yが1、zが3.4−3.6のときは、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)で表されるバナジウム酸化物からなることを特徴とする蛍光体である。
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の蛍光体において、組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して一次元鎖を形成し、前記一次元鎖から形成される二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする。 より詳しくは、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の蛍光体において、組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して一次元鎖を形成し、その一次元鎖同士が整列して二次元層を形成し、二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする発明でもある。
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の蛍光体において、 組成式A(式中、yが1、zが3.4−3.6、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して二量体を形成し、前記二量体から形成される二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする。 より詳しくは、請求項3記載の発明は、請求項1に記載の蛍光体において、組成式A(式中、yが1、zが3.4−3.6、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して二量体を形成し、其の二量体が整列して111結晶軸に対してほぼ垂直な面内において二次元層を形成し、二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする発明でもある。
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載の蛍光体において、AにはLi、Na、及びNHからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよいことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか記載の蛍光体において、Mn2+、Sb3+、Bi3+、及び希土類イオンから選ばれる1種又は2種以上で付活されていることを特徴とする。
【0008】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか記載の蛍光体において、該蛍光体が紫外・近紫外光励起により蛍光スペクトルが390〜680nmの範囲にブロードに広がる白色蛍光を発することを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の蛍光体において、蛍光スペクトルが490〜495nm付近に極大を持つことを特徴とする。
請求項8記載の発明は、請求項6又は7記載の蛍光体において、紫外・近紫外光が250〜390nmの紫外・近紫外光であることを特徴とする。
請求項9記載の発明は、請求項1〜5のいずれか記載の蛍光体を、紫外・近紫外線励起発光素子を用いて励起することを特徴とし、請求項1〜5のいずれか記載の蛍光体を、電子線線励起発光素子を用いて励起することを特徴とする発明が請求項10記載の発明である。紫外・近紫外線励起蛍光体の発明であり、
請求項11記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする白色LEDの発明である。請求項12記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする表示器具の発明であり、請求項13記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする照明器具の発明である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうバナジウム酸化物は、組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示し、yが1、zが3.4−3.6のときは、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。前記Aには、Li、Na、NHからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよく、それらが含まれる量は、本発明の所期の効果がもたらされる範囲内であれば、特に制限されない。
上記バナジウム組成物は、バナジウム原子、酸素原子及び上記Aを構成する原子がらなり、それら原子の組成比が原子当量比で上記数値を満足するバナジウム酸化物を意味する。その中でも、特に好ましいバナジウム酸化物は、AVO、Aなどが挙げられる。
【0010】
上記V酸化物の中では、次のような結晶構造を有するV酸化物が好ましい効果をもたらす。その結晶構造を図1に基づいて説明すると、VO四面体を構造中に含み、VO四面体同士が頂点共有して一次元鎖を形成し、その一次元鎖同士が整列して二次元層を形成し、二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を持つ。この結晶請構造はすでに知られており、所謂VO四面体を内包した結晶構造でもある。なお、図1のa及びbは結晶軸を示すもので。aとbは直交あるいはほぼ直交し、b軸は層状構造に対して垂直あるいはほぼ垂直、a軸は層に対して平行方向を示している。
上記V酸化物の中では、次のような結晶構造を有するV酸化物も好ましい効果をもたらす。その結晶構造を図2に基づいて説明すると、VO四面体同士が頂点共有して二量体を形成し、其の二量体が整列して111結晶軸に対してほぼ垂直な面内において二次元層を形成し、二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有する。この結晶請構造はすでに知られており、所謂VO四面体を内包した結晶構造でもある。なお、図2において、[01−1]planeは、01−1結晶軸方向から見た平面を示す。
【0011】
この結晶構造は既知の結晶構造を確認する方法を用いて容易に確認することが出来る。例えば、作製したV酸化物のX線回折データから結晶構造を容易に確認することができる。
【0012】
この結晶構造を有するV酸化物の製造方法は公知の方法を応用して製造することが出来る。
その一例を示すと、酸化バナジウムV粉末及びAイオンを含む炭酸塩ACO粉末をA:Vの組成比が1:1〜1.05:1(原子当量比からAを5%まで増やす。)となるように秤量し、粉砕・混合する。Aを5%まで増やすのは焼成過程でA成分が昇華しやすく、このように原子当量比から増やすことにより、A:V=1:1(原子当量比)のV酸化物が出来やすいためである。本発明ではA:V=1:1(原子当量比)に限定されない。
粉砕・混合する手段は既知の方法を用いればよい。例えば、ボールミル、ジェットミル等の通常用いられる粉砕機により粉砕・混合する。
次いで、該混合物を大気圧下300℃前後で一度仮焼し、その後450℃程度で焼成する。加熱手段は公知の手段を採用すればよい。例えば、一般的な電気炉を用いればよいのである。昇温速度は200℃/時程度が望ましい。昇温速度が速すぎると自己の反応熱により溶解してしまう場合があり、昇温速度が遅すぎると製造効率が悪く不都合である。
本発明のV酸化物の上記と異なる製造方法は水溶液中から析出させる方法もある。
【0013】
本発明でいうV酸化物の結晶構造には、VO四面体からなる層間にあるAが欠損する場合も含み、電荷補償のためにOもわずかに欠損している場合も含む。Aの欠損の程度は、V酸化物の製法、蛍光体とするときの操作等により受ける影響の度合いにより異なるのであって、例えば本発明の目的を達成することができる程度まで欠損されていてもよい。Oの欠損の程度もAの欠損の程度に大きく影響されるが、本発明の目的を達成することができる程度まで欠損されていてもよい。
結晶構造をとるV酸化物の組成式はAVOで表されるとともに、そのAとOの欠損ためA/Vは1(原子当量比)以下であって、しかもO/Vとが3(原子当量比)以下であって、本発明の目的を達成することができる範囲のものまで含まれる。
【0014】
上記V酸化物をそのまま蛍光体としてもよいが、上記V酸化物にMn2+、Sb3+、Bi3+及び希土類イオン等を少なくとも1種以上付活させてもよい。前記希土類イオンはスカンジウム族元素(アクチノイドは除く)とランタノイド元素のイオンを言い、具体的には、Pr3+、Ce3+、Eu3+、Eu2+、Sm3+、Tb3+、Yb3+などが挙げられる。
上記V酸化物を賦活する手段は特に制限されないのであって、すでに知られている方法を適宜採用すればよい。例えば、Mn2+、Sb3+、Bi3+、及び希土類イオン等を含む物質を所定量秤量し、蛍光体製造原料と混合して、焼成処理する方法がある。
【0015】
本発明の蛍光体は励起され、可視光領域にブロードに広がる、特に白色を示す蛍光スペクトルを有することに一つの大きな特徴を有する。また、本発明の蛍光体は励起され、390〜680nmの範囲にブロードに広がる可視光領域にブロードに広がる白色蛍光を発することに一つの大きな特徴を有する。さらに、蛍光スペクトルが490〜495nm付近に極大を持ち390〜680nmの範囲にブロードに広がる白色蛍光を発することが特徴である。励起される手段は特に制限されないが、例えば紫外・近紫外光により励起され、特に、250〜390nmの紫外・近紫外光励起による励起手段が好ましい。白色LEDの励起光源である紫外・近紫外LEDによって励起出来る。このように、本発明の単一の物質が、広範囲のスペクトルの広がりを持つことは、従来からの蛍光体と比較しても画期的なことである。
【0016】
本発明の蛍光体の詳細な発光機構はまだ明らかでないが、おそらく(VO3−の電荷移動遷移が発光起源であると考えられる。また、合成されたAVO(AはRbである)に対して、誘導結合プラズマ法(ICP法)により元素分析を行ったところRb:Vがほぼ1:1(原子当量比)であったことも欠損による不純物準位による色中心の形成よりも、前記(VO3−の電荷移動遷移が有力であることを支持する。
【0017】
かくして得られたV酸化物は、そのまま蛍光体として有効であるが、公知の方法を応用して蛍光体膜を作製することも出来る。
【0018】
本発明の蛍光体は、紫外・近紫外光を発光する発光ダイオードと組合わせて白色ダイオード(以下、白色LEDということがある)を製造することができる。
白色LEDの要部の一例をより具体的に説明すると、光源としての紫外発光ダイオードを本発明の蛍光体で覆う構造を取る。前記蛍光体で覆う構造を取るための方法・手段は特に制限されない。
紫外線発光ダイオードから放射された紫外・近紫外の波長光は、蛍光体の中に入射した後、蛍光体内で吸収され、励起されたエネルギーが外部へ白色光として放射される。 従来から知られている白色LEDにおいて、白色とは、人の目で白色に見えるという意味である。人の目には、光の三原色の混合や補色関係にある二色の混合も白色に見える。この場合、連続したスペクトルにより実現される白色光とやや異なる。
それに対して本発明の白色LEDは、紫外線励起で青〜赤までの発光を示す蛍光体を光らせて白色を作るタイプであり、連続したスペクトルにより実現される白色光ということができる。
【0019】
本発明の蛍光体は、紫外・近紫外線励起発光素子により励起されてもよい。ここで、紫外・近紫外線励起発光素子は公知のものであり、本発明においては、初期の目的を達成することができる限り、どのような発光素子を用いることができる。具体的には蛍光体の性能や、使用目的に応じて、適宜最適な紫外・近紫外線励起発光素子を使用すればよく、例えば、紫外線を発する有機EL素子などが挙げられるが、本発明はその素子に限定されない。
【0020】
本発明の蛍光体は、紫外・近紫外線励起だけでなく、電子線励起発光素子により励起されてもよい。ここで、電子線励起発光素子は公知のものであり、本発明においては、初期の目的を達成することができる限り、どのような発光素子を用いることができる。具体的には蛍光体の性能や、使用目的に応じて、適宜最適な電子線励起発光素子を使用すればよく、例えば、フィールドエミッションディスプレイなどに用いられる各種エミッターなどが挙げられるが、本発明はその素子に限定されない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の蛍光体は励起され、可視光領域にブロードに広がる、特に白色を示す蛍光スペクトルを有する。特に250〜390nmの範囲に励起スペクトルを持つ励起光によって本発明の蛍光体から発せられる蛍光スペクトルは390〜680nmに広がり、白色に発光する。この蛍光スペクトルは現在民生で使われている照明器具、通常の蛍光灯のスペクトルに近い発光スペクトルである。そのため本発明の蛍光体単独で白色LED用の蛍光体として使用することが出来、極めて好都合である。発光スペクトルのピークは490〜495nmの範囲にあるため色温度は高い。さらに、長波長側に強い発光を持つ蛍光体とを組み合わせることも可能であり、より暖色系の白色が得ることもできる。また水銀や鉛などを含まないため、環境・人体への悪影響も少ない。
さらに、紫外線LEDや青色LEDを励起源とする蛍光体の多くは、その合成に酸化物であれば空気中1300℃以上、酸窒化物や窒化物であれば10気圧程度の高窒素圧下1600℃の高温が必要とされる場合が多い。一方、本発明の蛍光体は大気圧で450℃程度の温和な条件で製造することができるので、製造プロセスの簡易さ、製造コストの低さなどの点も有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。実施例中のデータについて、X線回折はマックサイエンス社製MXP21ディフラクトメーターを用い、蛍光及び励起スペクトル測定は島津製作所製、RF5300PCスペクトルメーターを用いて測定し、組成分析はHORIBA製 JY138KH ULTRACEを用いて行った。
【実施例1】
【0023】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸ルビジウムRbCO粉末(レアメタリック社)をRb:Vの金属組成比を1:1からRb量をVに対して5%多く混合し(RbCO:V=1.05g:0.7875g)、300℃で6時間仮焼し、その後450℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。加熱処理は特に断らない限り加圧していない(以下、同様)。このV酸化物についてICP法を用いた組成分析を行ったところRb:V=0.99(1):1.00(1)の比となり、本発明の一般式に対応するRbVOが形成されていることを確認した。このRbVOについてのX線回折結果を図3に示す。
また、得られたRbVOを250〜390nmの紫外光で励起したところ490nmに極大を持ち、390〜680nmの範囲にブロードに発光スペクトルが広がった白色蛍光を示した。(図4)なお、図3中の「PL」は蛍光を意味し、「PLE」は励起光を意味する(以下、同様)。
【実施例2】
【0024】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸カリウムKCO粉末(レアメタリック社)をK:Vの金属組成比を1:1からK量をVに対して5%多く混合し(KCO:V=1.05g:1.3159g)、300℃で6時間仮焼し、その後450℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はKVOであること分かった。このKVOについてのX線回折結果を図5に示す。
また、得られたKVOを250〜390nmの紫外光で励起したところ500nmに極大を持ち、390〜680nmの範囲にブロードに発光スペクトルが広がった白色蛍光を示した。(図6)
【実施例3】
【0025】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸セシウムCsCO粉末(レアメタリック社)をCs:Vの金属組成比を1:1からCs量をVに対して5%多く混合し(CsCO:V=1.05g:0.5582g)、300℃で6時間仮焼し、その後450℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はCsVOであること分かった。
このCsVOについてX線回折結果を図7に示す。また、得られたCsVOを250〜390nmの紫外光で励起したところ490nmに極大を持ち、390〜680nmの範囲にブロードに発光スペクトルが広がった白色蛍光を示した。(図8)
【実施例4】
【0026】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸ルビジウムRbCO粉末(レアメタリック社)をRb:Vの金属組成比を1:1からRb量をVに対して5%多く混合し(RbCO:V=1.05g:0.7875g)、Sb(レアメタリック社)を5mol%(0.0631g)添加して混合し、300℃で6時間仮焼し、その後450℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はRbVOであること分かった。このRbVO:Sb5%について250〜390nmの紫外光で励起したところ490nmに極大を持ち、390〜680nmの範囲にブロードに発光スペクトルが広がった白色蛍光を示した(図9)。
【実施例5】
【0027】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸ルビジウムRbCO粉末(レアメタリック社)をRb:Vの金属組成比を1:1からRb量をVに対して5%多く混合し(RbCO:V=1.05g:0.7875g)、MnCO(レアメタリック社)を5mol%(0.0249g)添加して混合し、300℃で6時間仮焼し、その後450℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はRbVO:Mn5%であること分かった。
このRbVO:Mn5%について250〜390nmの紫外光で励起したところ502nmに極大を持ち、390〜680nmの範囲にブロードに発光スペクトルが広がった白色蛍光を示した。(図10)
(比較例1)
【0028】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸リチウムLiCO粉末(レアメタリック社)をLi:Vの金属組成比を1:1からLi量をVに対して5%多く混合し(LiCO:V=1.05g:2.4616g)、400℃で6時間仮焼し、その後500℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はLiVOであること分かった。
このLiVOについてX線回折結果を図11に示す。得られたLiVOについて220〜550nmの紫外光を照射したところ360〜500nm付近に非常に弱い蛍光が観測されたが、肉眼で確認出来る発光は得られなかった。
(比較例2)
【0029】
酸化バナジウムV粉末(レアメタリック社)及び炭酸ナトリウムNaCO粉末(レアメタリック社)をNa:Vの金属組成比を1:1からNa量をVに対して5%多く混合し(NaCO:V=1.05g:1.7160g)、400℃で6時間仮焼し、その後500℃で24時間焼成し、V酸化物を得た。このV酸化物の組成式はNaVOであること分かった。
このNaVOについてX線回折結果を図12に示す。得られたNaVOについて220〜550nmの紫外光を照射したが400〜500nm付近に非常に弱い蛍光が見られるだけで強い発光は得られなかった。
(比較例3)
【0030】
(NH)VO(ジョンソンマッセイ社)について220〜550nmの紫外光を照射したが350〜500nm付近に非常に弱い蛍光が見られるだけで強い発光は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は250〜390nm付近の紫外・近紫外線によって励起され390〜680nmの広範囲に渡って蛍光を示す蛍光体である。そのため、紫外線LED等の励起光源により、白色LEDとしての利用可能性がある。また、他の紫外線を発する有機ELや、その他の紫外線光源、電子線等を励起源とした発光素子としても応用が期待される。本発明の蛍光体の用途は白色光を必要とする日常灯等の照明器具や各種表示機器に用いられるバックライト等の表示器具等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】AVOの結晶構造の一部分を示す模式図である
【図2】Aの結晶構造の一部分を示す模式図である
【図3】実施例1で調整したRbVOのX線回折パターンである。横軸は回折角、縦軸は回折強度を示す(以下、同様)。
【図4】実施例1で調製したRbVOの250〜390nmの紫外光で励起したときの発光スペクトル示す図である。横軸は波長、縦軸は光強度を示す(以下、同様)。
【図5】実施例2で調整したKVOのX線回折パターンである。
【図6】実施例2で調製したKVOを250〜390nmの紫外光で励起したときの発光スペクトル示す図である。
【図7】実施例3で調整したCsVOのX線回折パターンである。
【図8】実施例3で調製したCsVOの250〜390nmの紫外光で励起したときの発光スペクトル示す図である。
【図9】実施例4で調製したRbVO:Sb5%の250〜390nmの紫外光で励起したときの発光スペクトル示す図である。
【図10】実施例5で調製したRbVO:Mn5%の250〜390nmの紫外光で励起したときの発光スペクトル示す図である。
【図11】比較例1で調整したLiVOのX線回折パターンである。
【図12】比較例2で調整したNaVOのX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式A
(式中、yが1、zが2.9−3.1のときは、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示し、yが1、zが3.4−3.6のときは、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)で表されるバナジウム酸化物からなることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
組成式A(式中、yが1、zが2.9−3.1、xが0.8−1.2で、AはK、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して一次元鎖を形成し、前記一次元鎖から形成される二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
組成式A(式中、yが1、zが3.4−3.6、xが0.9−1.1で、AはCa、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を示す。)を形成するVO四面体同士が頂点共有して二量体を形成し、前記二量体から形成される二次元層間にAイオンが配置する結晶構造を有するバナジウム酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
Aには、Li、Na、及びNHからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の蛍光体。
【請求項5】
Mn2+、Sb3+、Bi3+、及び希土類イオンから選ばれる1種又は2種以上で付活されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
蛍光体が、紫外・近紫外光励起により蛍光スペクトルが390〜680nmの範囲にブロードに広がる白色蛍光を発することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項7】
蛍光スペクトルが490〜495nm付近に極大を持つことを特徴とする請求項6に記載の蛍光体。
【請求項8】
紫外・近紫外光が250〜390nmの紫外・近紫外光であることを特徴とする請求項6又は7に記載の蛍光体。
【請求項9】
紫外・近紫外線励起発光素子を用いて励起させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項10】
電子線励起発光素子を用いて励起させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする白色LED。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする表示器具。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体を有することを特徴とする照明器具。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57434(P2009−57434A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224846(P2007−224846)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】