説明

バラスト水の濾過装置

【課題】バラスト水から特に高比重異物を分離、除去する遠心分離型の濾過装置を提供する。
【解決手段】取水したバラスト水から汚泥をはじめとする高比重汚泥を分離、除去する遠心分離型の濾過装置1であって、円筒本体11は下方に入口管路12、上方に出口管路13を接続し、入口管路12から送り込んだバラスト水Wを側面111に沿って旋回させながら上昇させ、出口管路13から送り出すようにして、前記側面111にバラスト水Wの旋回方向に交差するスリット16を設け、汚泥をはじめとする高比重異物を、バラスト水Wと共に旋回することによる遠心力を利用し、前記スリット16から円筒本体11の外部に離脱させて、除去するバラスト水Wの濾過装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取水したバラスト水から汚泥をはじめとする高比重異物を分離、除去する遠心分離型の濾過装置に関する。本発明に言う「高比重異物」は、バラスト水(海水)に比べて比重が高く、濾過により物理的にバラスト水と分離可能な異物を意味する。
【背景技術】
【0002】
船舶において、取水したバラスト水から異物を分離、除去するため、取水口からバラストタンクへ至る取水経路に濾過装置を介在させる。特に汚泥をはじめとする高比重異物(以下、高比重異物で代表)は、バラストタンクの容積を減少させたり、バラストタンク内の発錆を招くことから、十分に除去されることが望まれる。こうした高比重異物を分離、除去する濾過装置としては、例えば特許文献1に見られるように、単純に「こし網(スクリーンフィルタ)」を用いる構成がある。しかし、スクリーンフィルタは目詰まりしやすいため、バラスト水から高比重異物を分離、除去する濾過装置としては、特許文献2に見られる遠心分離型が好ましい。
【0003】
遠心分離型の濾過装置は、下方に絞り形状の略円錐本体に送り込んだバラスト水を旋回させ、遠心力により高比重異物を半径方向外側にあたる側面に集め(遠心分離作用)、旋回中心付近のバラスト水から前記高比重異物を分離する。略円錐本体は下方に絞り形状になっているから、旋回する高比重異物は失速しながら沈降し、略円錐本体の底面から除去される。特許文献2が開示する濾過装置(サイクロンセパレータ)は、略円錐本体からバラストタンクに延びる出口管路(給水管)を絞ることにより、略円錐本体からバラスト水を送り出しにくくし、バラスト水からの高比重異物の分離効果を高めるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開平05-116675号公報
【特許文献2】特開平05-124573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠心分離型の濾過装置は、遠心分離作用により、バラスト水と高比重異物とを半径方向内外に分離する。高比重異物を除去するには、旋回する高比重異物を失速させながら沈降させる必要があるが、バラスト水中における高比重異物の沈降は緩慢であり、再びバラスト水中に混ざり合う虞がある。特許文献2にいう「高比重異物を分離したバラスト水を送り出しにくくして分離効果を高める」とは、バラスト水の送り出しに伴う高比重異物の吸い上げを防止する働きを意味すると考えられるが、依然高比重異物の除去は沈降に頼っている。そこで、バラスト水から特に高比重異物を分離、除去する遠心分離型の濾過装置について、前記高比重異物を分離後、確実に除去する構成又は構造を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検討の結果開発したものが、取水したバラスト水から汚泥をはじめとする高比重汚泥を分離、除去する遠心分離型の濾過装置であって、円筒本体は下方に入口管路、上方に出口管路を接続し、入口管路から送り込んだバラスト水を側面に沿って旋回させながら上昇させ、出口管路から送り出すようにして、前記側面にバラスト水の旋回方向に交差するスリットを設け、汚泥をはじめとする高比重異物を、バラスト水と共に旋回することによる遠心力を利用し、前記スリットから円筒本体の外部に離脱させて、除去するバラスト水の濾過装置である。スリットから円筒本体の外部に離脱した高比重異物は、例えば円筒本体に付設した異物溜まりに蓄積させ、一定量蓄積した後に適宜廃棄すればよい。
【0007】
本発明の濾過装置は、遠心分離作用により半径方向外側にあたる側面に集まる高比重異物を、前記側面に設けたスリットから円筒本体の外部に離脱させて分離し、同時に除去する。これから、スリットはバラスト水の旋回方向に交差して延在する、好ましくは前記旋回方向に略直交して延在することが望ましい。こうしたスリットによる高比重異物の分離、除去を用いたことにより、本発明の濾過装置は、バラスト水から分離した高比重異物を失速させて沈降させる必要がなく、入口管路の下方の延在部分を省略して、小型化できる。また、高比重異物を失速させる必要がないから、装置本体も略円錐本体ではなく、円筒本体として、小型化を図りながら必要十分な容積を確保できる。
【0008】
旋回途中のバラスト水から直接高比重異物を分離、除去する本発明の濾過装置は、入口管路は、円筒本体の側面の下方にこの側面の接線方向に接続し、出口管路は、円筒本体の上面に接続する。これは、従来の遠心分離型の濾過装置が、入口管路より出口管路の開口端を低くしている構成と異なる。これにより、バラスト水は旋回しながら上昇していくため、円筒本体の内部上方の旋回中心付近は高比重異物を含まないバラスト水のみとなり、高比重異物を分離したバラスト水のみを出口管路から送り出すことができる。
【0009】
また、本発明の濾過装置では、旋回するバラスト水をそのまま送り出すことが考えられる。この場合、入口管路は、円筒本体の側面の下方にこの側面の接線方向に接続し、出口管路は、前記側面の上方にこの側面の接線方向かつ前記入口管路と逆方向に接続する。ここで、出口管路を「入口管路と逆方向に接続する」とは、入口管路から送り込まれたバラスト水がそのまま送り出される方向に、出口管路を接続することを意味する。入口管路と出口管路は上下方向に離隔しているから、平面視で周方向同位置の側面に入口管路及び出口管路が接続していれば両者は同一直線上に並び、平面視で周方向180度の離れた位置の側面に入口管路及び出口管路が接続していれば両者は同方向かつ平行に延びる。
【0010】
高比重異物は、遠心力によってスリットから円筒本体の外部へ離脱するが、側面に沿って旋回していることから、旋回速度によってスリットを通過してしまう割合が増加してしまう虞もある。そこで、スリットは、バラスト水の旋回方向下流側にある縦縁部に沿って半径方向内向きに突出する誘導板を設けておくとよい。この誘導板は、半径方向に突出する範囲で、側面に沿ってバラスト水と共に旋回する高比重異物を衝突させて、前記高比重異物がスリットを通過しないようにする。また、誘導板は、前記衝突した高比重異物をスリットから円筒本体の外部へ導く働きを有する。こうした誘導板は、円筒本体の側面を切り起こすことで、スリットの形成と同時に設けることができる。
【0011】
上記半径方向内向きに突出する誘導板は、少なからず旋回するバラスト水の抵抗となる。そこで、スリットは、バラスト水の旋回方向上流側にある縦縁部に沿って半径方向外向きに突出する誘導板を設けてもよい。この半径外向きの誘導板は、側面に沿ってバラスト水と共に旋回する高比重異物を衝突させるのではなく、遠心力を利用して円筒本体の側面より外側へ高比重異物を導くことにより、前記高比重異物がスリットを通過しないようにする。
【0012】
ここで、バラスト水の旋回速度が低い場合(例えばバラスト水を送り込み始めた段階等)、高比重異物に十分な遠心力が働かず、スリットから分離及び除去できなくなる虞がある。もっとも、この場合は従来同様に、高比重異物は失速して沈降することから、円筒本体は、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間と底面とを隔てる通水性の下部フィルタ区画を設けておき、失速して沈降する高比重異物を底面に堆積させて、バラスト水から分離するとよい。底面に堆積した高比重異物は、適宜回収する。本発明は、沈降した高比重異物が堆積する底面を、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間と下部フィルタ区画により隔てることで、バラスト水の旋回により高比重異物が巻き上げられ、再びバラスト水に混ざり込む機会をなくしている。
【0013】
下部フィルタ区画は、沈降する高比重異物を通過させながら、旋回するバラスト水による前記高比重異物の巻き上げを防止できる範囲で通水性を有すればよい。具体的な下部フィルタ区画としては、パンチングメタル又はエキスパンドメタルからなるスクリーンフィルタを例示できる。この場合、円筒本体の側面に接続した入口管路直下に前記スクリーンフィルタを設けると、この入口管路から送り込まれるバラスト水が底面側に流れ込まなくなり、流れ方向が上向きの旋回方向に特定付けられる利点がある。
【0014】
また、バラスト水から完全に高比重異物が分離及び除去できなかったり、仮にバラスト水に巻き上げられた高比重異物がある場合、この高比重異物が出口管路へ送り込まれることを防止するため、円筒本体は、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間とこの円筒本体に接続した出口管路とを隔てる通水性の上部フィルタ区画を設けるとよい。この上部フィルタ区画は、バラスト水を出口管路から送り出す際の抵抗となり、特許文献2同様、バラスト水から高比重異物の分離効果を高める働きも有する。この上部フィルタ区画としては、金属メッシュからなる筒状フィルタを例示できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、バラスト水から汚泥をはじめとする高比重異物を分離後、確実に除去できる遠心分離型の濾過装置が提供できるようになる。これは、バラスト水から分離した高比重異物を沈降によって除去するのではなく、バラスト水と共に旋回する高比重異物を側面のスリットから円筒本体の外部へ離脱させ、前記高比重異物を分離と同時に除去することによる効果である。前記スリットから高比重異物を分離及び除去する効果は、スリットに対して設ける誘導板により、更に高められる。また、スリットから分離、除去する異物は汚泥等の高比重異物に限らず、シストや甲殻類に及ぶことから、本発明はバラスト水の汚染防止に寄与する効果もある。
【0016】
下部フィルタ区画は、円筒本体の底面に堆積する高比重異物を、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間から隔離して、分離した高比重異物が再びバラスト水に混ざることが防止する。また、上部フィルタ区画は、出口管路から送り出されるバラスト水から、スリットからの分離及び除去、そして沈降により分離及び除去できなかった高比重異物を分離及び除去する働きを有する。こうしたスリットからの分離及び除去、下部フィルタ区画を挟んでの沈降による分離及び除去、そして上部フィルタ区画による分離及び除去を合わせることにより、本発明の濾過装置は高い分離効果を実現している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明の濾過装置1を組み込んだバラスト水の取水システムの全体構成を示すブロック図、図2は本発明の濾過装置1の一例を示す断面図、図3は図2中A−A断面図、図4は本例の濾過装置1におけるスリット16付近を表した図3中B矢視部拡大図、図5は別例のスリット17付近を表した図4相当拡大図、図6は別例の濾過装置6を示す断面図であり、そして図7は図6中C−C断面図である。
【0018】
本発明の濾過装置1は単独で使用されるのではなく、例えば図1に見られるように、取水ポスト用の吸入濾過装置3や、微細な異物、すなわち10mm径以下のプランクトン等を除去するバラスト水浄化装置(二次濾過装置)5を併用して、異物のないバラスト水をバラストタンク(図示略)へと取り込む取水システムを構成する。本例の取水システムは、船底に開口した取水口(シーチェスト)2とバラスト水を吸引及び送出するバラストポンプ4との間に前記吸入濾過装置3を介在させ、前記バラストポンプ4とバラスト水浄化装置5との間に本例の濾過装置1を介在させている。これは、本例の濾過装置1がバラスト水浄化装置5に対する一次濾過装置であり、バラスト水浄化装置5が高比重異物を取り込むことにより破損することを防止する保護装置であることを意味する。
【0019】
本例の濾過装置1は、図2及び図3に見られるように、円筒本体11は下方の側面111に接線方向から入口管路12を接続し、また円筒本体11の上方である平坦な上面112に垂直方向から出口管路13を接続している。バラスト水W(各図中白抜矢印で代表、以下同じ)は、入口管路12を側面111の接線方向に接続することにより、側面111に沿った旋回流を円滑に形成する。本例では、入口管路12の開口端121を側面111に寄せて絞り、一種のオリフィスを形成している。これにより、入口管路12から円筒本体11に送り込まれるバラスト水Wの勢いを増し、また側面111に沿った旋回流を下層から押し上げ、バラスト水Wを上昇させるようにしている。
【0020】
円筒本体11は、入口管路12直下に下部フィルタ区画としてスクリーンフィルタ14を設け、円筒本体11の内部空間115と下方に窄んだ漏斗状の底面113とを隔てている。また、円筒本体11は、円筒本体11の上面112に上部フィルタ区画として筒状フィルタ15を設け、円筒本体11の内部空間115と出口管路13とを隔てている。出口管路13は、前記上部フィルタ区画内の上面112に接続している。高比重異物を円筒本体11外部へと離脱させ、除去するスリット16は、高さ方向において、およそ入口管路12と筒状フィルタ15との中間付近の側面111に開口している。
【0021】
下部フィルタ区画であるスクリーンフィルタ14は、円筒本体11の断面形状に等しい円形状のパンチングメタルからなる。このスクリーンフィルタ14を構成するパンチングメタルは、孔径10mm〜12mmを目安とする。本例のスクリーンフィルタ14は、入口管路12直下に配されており、入口管路12から送り込まれたバラスト水Wが下降しないように規制するほか、バラスト水Wが旋回することの影響を受けにくいため、特に円筒本体11に固着しておらず、四方に設けた支持突起141に周縁部を載せているだけである。このため、本例のスクリーンフィルタ14は、必要に応じて着脱自在であり、孔径の異なるパンチングメタルやエキスパンドメタルに交換したり、メンテナンスのため、一時的に取り外すことができる。
【0022】
スクリーンフィルタ14は、既述したように、入口管路12から送り込まれたバラスト水Wが下降しないように規制し、上向きの旋回流を形成することを助ける働きと共に、円筒本体11の内部空間115と底面113とを区画することにより、前記底面113に沈降した高比重異物が巻き上げられることを防ぐ働きを有する。スクリーンフィルタ14を通過して底面113に沈降した高比重異物は、下方に窄んだ漏斗状の底面113の中央最下部から順に堆積する。前記底面113の中央最下部には開閉バルブ(図示略)を接続した底面排出口114が設けてある。この底面排出口114は、前記開閉バルブにより通常閉鎖されており、一定量の高比重異物が堆積した段階で、適宜開閉バルブを開いて高比重異物を回収する。
【0023】
上部フィルタ区画である筒状フィルタ15は、金属メッシュにより構成したメッシュ筒体151で、前記メッシュ筒体151を保形するため、パンチングメタルからなる筒状フレーム152を前記メッシュ筒体151の内側に添わせている。メッシュ筒体151は、後述するスリット16から離脱、除去できなかった高比重異物が出口管路13から出て行かないようにする役割を有するが、取水システム後段のバラスト水浄化装置5に対するプレフィルタの役割も担っている。これから、メッシュ筒体151は、例えば100μm程度までの小さな異物まで遮断できるように目が細かい金属メッシュを用いることが望ましい。
【0024】
また、筒状フィルタ15は、上記下部フィルタ区画であるスクリーンフィルタ14と異なり、旋回するバラスト水Wの影響を受けるため、円筒本体11に設けた十字支持桟153にそれぞれ拘束突起154を取り付け、前記拘束突起154内に下面を嵌め込んで、位置固定している。この筒状フィルタ15における筒状フレーム152は、あくまでフィルタ作用を有するメッシュ筒体151を保形することが目的であるから、パンチングメタルの孔径は大きくても構わないし、パンチングメタルに代えて各種鋼材を用いた骨組フレームで構成してもよい。この筒状フィルタ15の通過を遮られた高比重異物は沈降し、上述のスクリーンフィルタ14を通過して底面113に堆積し、回収される。
【0025】
スリット16は、図4に見られるように、バラスト水Wと共に旋回する汚泥等の高比重異物を半径方向外側に離脱させ、円筒本体11に付設した異物溜まり162に落とし込んで除去し、前記異物溜まり162から適宜回収する。異物溜まり162は、回収するまでに十分な量の高比重異物を堆積できるように、スリット16より下方に空間を有している。本例のスリット16は、バラスト水Wの旋回方向に略直交する鉛直方向に延在する略長方形の開口で、高比重異物を衝突させてスリット16から円筒本体11の外部へ誘導する誘導板161を、バラスト水Wの旋回方向下流側にある縦縁部に沿って半径方向内向きに突出させている。本例の誘導板161は、円筒本体11の側面111を切り起こして構成し、同時にスリット16を開口している。
【0026】
スリット16及び誘導板161の大きさは、円筒本体11の大きさやバラスト水Wの旋回流の速度等を勘案して決定する。例えば、誘導板161を切り起こしてスリット16を形成する本例の構成の場合、目安として、幅D=30mm〜50mmのスリット16に対して突出量T=10mm〜20mmの誘導板161を設ける。これにより、誘導板161がバラスト水Wの旋回を大きく妨げることなく、側面111に沿って移動する高比重異物のみが誘導板161に衝突し、スリット16から異物溜まり162に向けて離脱させ、除去できる。異物溜まり162の底には開閉バルブ(図示略)を接続した溜まり排出口163が設けてある。この溜まり排出口163は、前記開閉バルブにより通常閉鎖されており、一定量の高比重異物が堆積した段階で、適宜開閉バルブを開いて高比重異物を回収する。
【0027】
円筒本体11の大きさや、入口管路12から送り込むバラスト水Wの流速等との兼ね合いから、旋回流に対する抵抗が問題となる場合、例えば図5に見られるように、スリット17に設ける誘導板171は、バラスト水Wの旋回方向上流側にある縦縁部に沿って半径方向外向きに突出させることもできる。この誘導板171は、高比重異物を異物溜まり162に導いて離脱させる働きを有する。これから、ほとんど減速することなく異物溜まり162に進入した高比重異物は、異物溜まり162内の壁面に衝突して初めて減速し、異物溜まり162内に沈降する。複数のスリットを設ける場合、各スリットに設ける誘導板は同種でもよいし、異種(図4及び図5参照)の組み合せでもよい。
【0028】
本例の濾過装置1は、次のように働いて、バラスト水W中から汚泥等の高比重異物を除去、回収する。まず、バラストポンプ4(図1参照)により取水されたバラスト水Wは、同じくバラストポンプ4により入口管路12から円筒本体11に送り込まれる。ここで、既述したように、入口管路12の開口端121は側面111に寄せて絞った形状であるため、円筒本体11に送り込まれるバラスト水Wは流速が増すほか、図2及び図3に見られるように、側面111に沿った旋回流を円滑に形成する。ここで、バラストポンプ4が2kg/cm2〜3kg/cm2の能力を有していれば、円筒本体11に送り込まれるバラスト水Wはおよそ2m/sec〜3m/secの流速で旋回させることができる。バラスト水Wに含まれる高比重異物は、バラスト水Wの旋回に合わせて旋回し始める。
【0029】
バラスト水Wと共に旋回する高比重異物は、遠心力が加わることにより、側面111に集中する。ここで、前記高比重異物がスリット16に達すると、それまで遠心力に抗していた側面111がなくなる。また、前記高比重異物が誘導板161に衝突すると、旋回方向の力が低減又は滅失するため、結果として高比重異物には遠心力のみが働くことになり、図4に見られるように、スリット16を通じて異物溜まり162に高比重異物Xが落とし込まれる。スリット16の長さL(図2参照)がバラスト水Wの旋回流の上昇ピッチより大きければ、スリット16を通じた前記高比重異物の離脱は複数回繰り返されるため、遠心力によって側面111に集中して旋回する高比重異物は、およそすべてをスリット16から異物溜まり162へと離脱させ、除去できる。本発明の濾過装置1は、バラスト水Wの旋回流自身がより下層の旋回流により押し上げられて上昇していくため、上昇ピッチは小さく抑えられており、スリット16の長さLがよほど小さくない限り、スリット16を通じた高比重異物の離脱は複数回生ずる。
【0030】
スリット16から離脱しなかった高比重異物(その他異物を含む)は、スリット16より上に達するが、筒状フィルタ15に遮られて出口管路13からバラスト水浄化装置5に至ることはない。筒状フィルタ15に衝突した高比重異物は、前記衝突により失速し、沈降していく。ここで、図3に見られるように、筒状フィルタ15は円筒本体11の中心に設けられているので、失速して沈降していく高比重異物は、バラスト水Wの旋回流の影響をあまり受けずにスクリーンフィルタ14に達し、このスクリーンフィルタ14を通過して底面113に堆積する。沈降する高比重異物が、仮にバラスト水Wの旋回流に巻き込まれても、新たにスリット16から離脱して除去されるか、再び筒状フィルタ15に遮られ、沈降する。
【0031】
異物溜まり162又は円筒本体11の底面113に堆積した高比重異物は、定期的に底面排出口114又は溜まり排出口163に接続した開閉バルブを開くことにより、排出される。上述したように、バラストポンプ4より圧力をかけてバラスト水Wが送り込まれるため、円筒本体11内部は加圧状態にある。これから、底面排出口114又は溜まり排出口163が常時開口していると前記圧力が抜けてしまい、加圧状態を利用したバラスト水Wの移送を困難にしてしまう。そこで、底面排出口114又は溜まり排出口163は高比重異物を回収する際のみ、それぞれ開放し、堆積した高比重異物を排出すればよい。
【0032】
本発明の濾過装置は、従来の遠心分離型の濾過装置と異なり、高比重異物が沈降するバラスト水の旋回流の中心から前記バラスト水を取り出すのではなく、あくまで旋回過程における高比重異物を直接スリットから離脱させ、除去するものであるから、例えば図6に見られるように、出口管路63をバラスト水Wの旋回方向に接続することもできる。この別例の濾過装置6は、円筒本体61、入口管路62、スリット66及び誘導板661、そしてスクリーンフィルタ64は、上述の例(図1〜図4)と同じであるが、出口管路63も側面611の接線方向から接続している点が異なる。
【0033】
具体的には、図7に見られるように、上下に離隔した入口管路62と出口管路63とが、平面視で周方向180度の離れた位置関係で側面611にそれぞれ接続し、この入口管路62及び出口管路63が同方向かつ平行に延びている。また、この別例の濾過装置6においては、出口管路63に対する上部フィルタ区画として、出口管路63の開口端631に内蔵したスクリーンフィルタ67を用いている。これにより、円筒本体61の内部空間615を大きく取ることができ、バラスト水Wのより円滑な旋回流の形成が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の濾過装置を組み込んだバラスト水の取水システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の濾過装置の一例を示す断面図である。
【図3】図2中A−A断面図である。
【図4】本例の濾過装置におけるスリット付近を表した図3中B矢視部拡大図である。
【図5】別例のスリット付近を表した図4相当拡大図である。
【図6】別例の濾過装置を示す断面図である。
【図7】図6中C−C断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 濾過装置
11 円筒本体
12 入口管路
13 出口管路
14 スクリーンフィルタ
15 筒状フィルタ
16 スリット
161 誘導板
17 別例のスリット
171 別例の誘導板
D スリットの幅
T 誘導板の突出量
L スリットの長さ
W バラスト水
X 高比重異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水したバラスト水から汚泥をはじめとする高比重汚泥を分離、除去する遠心分離型の濾過装置であって、円筒本体は下方に入口管路、上方に出口管路を接続し、入口管路から送り込んだバラスト水を側面に沿って旋回させながら上昇させ、出口管路から送り出すようにしてなり、前記側面にバラスト水の旋回方向に交差するスリットを設け、汚泥をはじめとする高比重異物を、バラスト水と共に旋回することによる遠心力を利用し、前記スリットから円筒本体の外部に離脱させて、除去することを特徴とするバラスト水の濾過装置。
【請求項2】
入口管路は、円筒本体の側面の下方に該側面の接線方向に接続し、出口管路は、円筒本体の上面に接続した請求項1記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項3】
入口管路は、円筒本体の側面の下方に該側面の接線方向に接続し、出口管路は、前記側面の上方に該側面の接線方向かつ前記入口管路と逆方向に接続した請求項1記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項4】
スリットは、バラスト水の旋回方向下流側にある縦縁部に沿って半径方向内向きに突出する誘導板を設けた請求項1〜3いずれか記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項5】
スリットは、バラスト水の旋回方向上流側にある縦縁部に沿って半径方向外向きに突出する誘導板を設けた請求項1〜3いずれか記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項6】
円筒本体は、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間と底面とを隔てる通水性の下部フィルタ区画を設けた請求項1〜5いずれか記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項7】
下部フィルタ区画は、パンチングメタル又はエキスパンドメタルからなるスクリーンフィルタである請求項6記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項8】
円筒本体は、バラスト水が旋回する円筒本体の内部空間と該円筒本体に接続した出口管路とを隔てる通水性の上部フィルタ区画を設けた請求項1〜6いずれか記載のバラスト水の濾過装置。
【請求項9】
上部フィルタ区画は、金属メッシュからなる筒状フィルタである請求項8記載のバラスト水の濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90144(P2007−90144A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279659(P2005−279659)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(395008333)株式会社大晃産業 (12)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】