説明

バルブゲート式金型装置

【課題】バルブゲート式金型装置による射出成形によって車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するにあたり、形成されるゲートマークが意匠性を損なうことがなく且つ光学的な悪影響を与えることがないようなバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【解決手段】カバーレンズ3は、光源から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面と、意匠面の縁部から立ち上がって後方のハウジング側に環状に延びる環状部と、環状部の一部のハウジング側端部で屈曲して意匠面と概略同様の方向に延びる段差部とを有し、金型装置20のキャビティ51の、前記カバーレンズにおける段差部を形成する段差部形成領域54にバルブゲート60を設けると共に、バルブゲート60とキャビティ51の、カバーレンズにおける環状部を形成する環状部形成領域53とで挟まれた領域に冷却液が流通する冷却液流路57aを配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形時に金型のキャビティ内にバルブゲートを介して溶融した成形樹脂を注入するバルブゲート式金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両用灯具(特に、前照灯)は、内部に複数の光源を収容して大型化及び異形化が進み、それに伴って車両用灯具を構成するカバーレンズも大型化になると共に、車両の車高方向及び車幅方向にスラント(傾斜)した形状を有するものとなっている。また、照射光が透過する面(意匠面)は透過損失を抑制して高い光透過率を確保するために、他の部分よりも肉厚を薄くしている。
【0003】
このようなカバーレンズは、透明性、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能に優れたポリカーボネート樹脂を用いた射出成形により形成されるが、ポリカーボネート樹脂は射出成形時の溶融粘度が高く流動性が悪い。そのため、成形サイクルを短くして生産効率を上げると共に成形品の品質を高めるために、キャビティ内に充填する成形材料を、キャビティの、成形品の意匠面となる薄肉部を形成する部分から該キャビティ内に注入することが考えられる。
【0004】
具体的には、例えば図12に示す車両用灯具100に見られるように、車両用灯具100を構成する素通しレンズ(カバーレンズ)101において、成形金型のゲート102の位置を素通しレンズ101の表面(意匠面)103上で且つ光軸Z−Z上に位置させ、成形時にその位置に形成されるゲートマーク104をセンターマークとして利用し得るようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−106008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この場合、素通しレンズ101の表面103は外観上の意匠性が優れていることが要求され、センターマークも意匠の一部を構成するものとして洗練されたデザインが求められる。それに対しゲートマーク104によるセンターマークはデザインの自由度が殆どなく、必ずしもセンターマークに求められるデザインを満足することができるとは限らない。それどころか、場合によっては素通しレンズ101の表面103の意匠性を損なうものとなる恐れがある。
【0007】
また、素通しレンズ101の表面103は、光源バルブ105から発せられてレフレクタ106の反射面107で所定の配光特性に変換された反射光を透過して外部に照射し、その照射光によって所望の配光パターンを形成する光学的な透光機能を有している。そのため、素通しレンズ101の表面103の中央部に位置するゲートマーク104は、透過する照射光の光路を乱すこととなり、車両用灯具100の配光特性に光学的な悪影響を与えることになる。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、バルブゲート式金型装置による射出成形によって車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するにあたり、形成されるゲートマークが意匠性を損なうことがなく且つ光学的な悪影響を与えることがないようなバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、前記車両用灯具は、前記カバーレンズがハウジングに装着固定されて灯室が形成されると共に該灯室内に光源が収容された構成とされ、前記カバーレンズは、前記光源から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面と、前記意匠面の縁部から立ち上がって後方のハウジング側に環状に延びる環状部と、該環状部の一部のハウジング側端部で屈曲して前記意匠面と概略同様の方向に延びる段差部とを有し、前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける前記段差部を形成する段差部形成領域に設けられ、前記バルブゲートと前記キャビティの、前記カバーレンズにおける前記環状部を形成する環状部形成領域とで挟まれた領域に冷却液が流通する冷却液流路が配設されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記バルブゲートは該バルブゲートのゲート内部に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンを有し、前記バルブピンはその先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、光源から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面と、意匠面の縁部から立ち上がって後方のハウジング側に環状に延びる環状部と、環状部の一部のハウジング側端部で屈曲して意匠面と概略同様の方向に延びる段差部とを有するカバーレンズにおける段差部を形成する、成形金型のキャビティの段差部形成領域にバルブゲートを配設すると共に、バルブゲートとキャビティの、カバーレンズにおける環状部を形成する環状部形成領域とで挟まれた領域に冷却液が流通する冷却液流路を配設した。
【0013】
その結果、熱変形や歪の少ない成形品(カバーレンズ)を高い品質で形成することができると共に成形サイクルを短縮して生産効率を高めることも可能となった。また、このカバーレンズを備えた灯具は、車両に取り付けたときに光学性能が良好で所望の配光パターンが確実に得られると共に見栄えが良好で商品性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車両用灯具の概略説明図である。
【図2】車両用灯具を上方から見たときの説明図である。
【図3】車両用灯具を構成するカバーレンズの射出成形金型装置の断面説明図である。
【図4】バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図である。
【図5】バルブゲートのゲート部からバルブピンを離脱したときの説明図である。
【図6】ゲート部にバルブピンを挿通したときの説明図である。
【図7】同じく、ゲート部にバルブピンを挿通したときの説明図である。
【図8】バルブピンによる溶融樹脂流路の閉塞時に該バルブピンが受ける力の説明図である。
【図9】同じく、バルブピンによる溶融樹脂流路の閉塞時に該バルブピンが受ける力の説明図である。
【図10】灯具を車両に取り付けた状態を示す説明図である。
【図11】バルブピンの他の形状の先端部の説明図である。
【図12】従来例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図11を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0016】
図1は車両用灯具の概略説明図、図2は車両に取り付けた車両用灯具を上方から見た説明図、図3は車両用灯具を構成するカバーレンズを射出成形する成形金型装置の断面説明図である。
【0017】
車両用灯具(以下、灯具と略称する)1は、例えば図1に示すように、ハウジング2にカバーレンズ3が装着されて灯室4が形成され、灯室4内に光源5が収容された構成となっている。
【0018】
カバーレンズ3は一端開口を有し、光源5から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面6と、該カバーレンズ3をハウジング2に支持固定する脚部7を備えている。そのうち、脚部7は意匠面6の縁部から立ち上がって後方のハウジング2側に環状に延びる環状部8と、該環状部の一部のハウジング2側端部で屈曲して意匠面6と概略同様の方向に延びる段差部(意匠面よりもハウジング2側で該意匠面6に対して段差となる位置にある部分)9とを有している。ハウジング2は開口を有すると共に開口端部10に環状にシール溝11を備えている。
【0019】
そして、シール溝11にシール材12を充填し、カバーレンズ3の環状の脚部7の先端部に設けられた環状のシールリブ13を該シール溝11に挿入してシール材12に浸漬させることにより、ハウジング2のシール溝11にシール材12を介してカバーレンズ3のシールリブ13が気密に嵌合固定された構成となっている。
【0020】
ところで、灯具1を構成するカバーレンズ3は図2に示すように、灯具1を車両のボディ15に取り付けた状態においては車両の外観の一部を構成するものであり、車両の外観を損なわないように且つ斬新な意匠性を醸し出すように、ボディ15と一体化するようなデザインに形成される。そのため、車両の車高方向に対しては、上部側が車両後方側に傾斜した傾斜面となり、車両の車幅方向に対しては車両の前面から側方に回り込む湾曲面となっている。
【0021】
また、カバーレンズ3は上述したように、光源からの光を透過して外部に向けて照射する意匠面6を有している。そのため、透明性に優れると共にその他、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能にも優れたポリカーボネート樹脂を用いて形成される。
【0022】
そこで、このような形状のカバーレンズをポリカーボネート樹脂を用いて作製するにあたっては、本発明のバルブゲート方式の成形金型装置を用いた射出成形で行うのが有効な方法である。以下に、そのバルブゲート式金型装置について詳細に説明する。
【0023】
バルブゲート方式の成形金型装置(以下、金型装置と略称する)20は、図3に示すように、固定金型(キャビティ金型)30と可動金型(コア金型)40とが図中に示す位置に突き合わせ面(以下、パーティング面と呼称する)50を有している。固定金型30と可動金型40とで形成されるキャビティ51は、カバーレンズの意匠面を形成する領域(意匠面形成領域)52がパーティング面50と概略同様の方向を向く面となっており、脚部の環状部を形成する領域(環状部形成領域)53がパーティング面50と概略垂直な方向を向く面となると共に段差部を形成する領域(段差部形成領域)54がパーティング面50と概略同様な方向を向く面となっている。
【0024】
換言すると、キャビティ51の意匠面形成領域52と段差部形成領域54が矢印で示す型開き方向に対して概略垂直の方向を向く面となっており、キャビティ51の環状部形成領域53が矢印で示す型開き方向に対して概略同様の方向を向く面となっている。
【0025】
また、固定金型30には、成形樹脂のポリカーボネート樹脂を溶融状態でキャビティ51内に注入するバルブゲート60が設けられている。このバルブゲート60は、溶融樹脂の注入部となる筒状のゲート部61をキャビティ51の段差部形成領域54に位置させると共に、ゲート部61の筒内62に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピン63の挿脱方向を、金型装置20の型開き方向と同一方向としている。
【0026】
つまり、バルブゲート60はキャビティ51の環状部形成領域53の近傍に配置され、且つ、その長手方向(バルブピン63の挿脱方向)を環状部形成領域53に沿った方向としている。バルブゲート60の長手方向は、キャビティ51の段差部形成領域54の、ゲート部61が配置された位置における該段差部形成領域54の面方向に対しては、概略垂直な方向となっている。
【0027】
バルブピン63は、先端部を固定金型30に設けられた略筒形のバルブ本体部64の筒内65に移動可能に配設され、バルブピン63の外周面とバルブ本体部64の内周面との間隙には溶融樹脂が通る樹脂流路66が設けられている。また、バルブピン63は図4(バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図)に示すように、その先端部67の形状を凸球状とすると共に先端面68は複数の凹部と凸部で構成される凹凸面とされている。この場合、凹部の深さは10μm程度とされている。
【0028】
図3に戻って、固定金型30及び可動金型40の夫々には、キャビティ51内に充填された溶融樹脂を冷却して固化を促進するための冷却液55が流通する冷却液流路56が適宜な位置に配設されており、これによりキャビティ51内に充填された溶融樹脂が迅速に冷却されて固化が促進され、その結果、成形品の成形サイクルが短縮されて生産効率が高められる。
【0029】
それと同時に、バルブゲート60のバルブ本体部64の近傍にもゲート部61側の位置に冷却液55が流通する冷却液流路57が設けられている。冷却液流路57のうち一部の冷却液流路57aは、バルブゲート60のバルブ本体部64とキャビティ51の環状部形成領域53とで挟まれた領域に配設されている。
【0030】
そこで、キャビティ51内にポリカーボネート樹脂の溶融樹脂70を充填するにあたっては、図5(バルブゲートのゲート部からにバルブピンを離脱した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61と反対方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62から離脱して筒内62が開放され、筒内62が溶融樹脂70の樹脂流路71として確保される。
【0031】
すると、バルブ本体部64の樹脂流路66及びゲート部61の樹脂流路71を通ってバルブゲート60から注入された溶融樹脂70が、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を介してキャビティ51内に注入され、該キャビティ51内全体が溶融樹脂70により充填される。
【0032】
その後、図6(バルブゲートのゲート部にバルブピンを挿通した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61の方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62に挿通されて筒内62が閉塞され、樹脂流路71が塞がれてキャビティ51内への溶融樹脂70の注入が停止される。
【0033】
それと同時に、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70は、冷却液流路56(図示せず)及び冷却液流路57、57aを流れる冷却液55によって冷却固化が進行する。その場合、上述したように、バルブゲート60のバルブ本体部64の近傍にはゲート部61側の位置に冷却液55が流通する冷却液流路57、57aが設けられている。
【0034】
この冷却液流路57、57aはその一部(冷却液流路57a)が、上述したように、バルブゲート60のバルブ本体部64とキャビティ51の環状部形成領域53で挟まれた領域にも配設されており、この冷却液流路57aに流通する冷却液55によってキャビティ51内に充填された溶融樹脂70の、バルブゲート60のゲート部61の近傍に位置する部分と、環状部形成領域53及び意匠面形成領域52の夫々の冷却液流路57aの近傍に位置する部分が効率的に冷却される。
【0035】
そのため、固定金型30及び可動金型40の夫々のキャビティ51近傍に配設されたそれ以外(冷却液流路57、57a以外)の冷却液流路56に流通する冷却液55と共に、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70全体が均一に且つ効率的に冷却される。その結果、熱変形や歪の少ない成形品(カバーレンズ)を高い品質で形成することができると共に成形サイクルを短縮して生産効率を高めることも可能となる。
【0036】
そこで仮に図7(バルブゲートのゲート部にバルブピンを挿通した状態を示す説明図)のように、バルブゲート60のバルブ本体部64とキャビティ51の環状部形成領域53とで挟まれた領域に上記冷却液流路(57a)が配設されていない場合を考えると、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70の充填後の冷却においては、キャビティ51の環状部形成領域53内及び意匠面形成領域52内の、ゲートバルブ60のバルブ本体部64と接近した部分の溶融樹脂70は、ゲートバルブ60内の成形樹脂を常に溶融状態に保つために加熱されたバルブ本体部64の熱が、固定金型30の、バルブ本体部64と環状部形成領域53で挟まれた領域、及び、バルブ本体部64と意匠面形成領域52で挟まれた領域を伝導して受熱状態となる。そのため、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70のこの受熱部分は、冷却液流路56を流通する冷却液55で冷却される部分よりも冷却効果が低いものとなる。
【0037】
そのため、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70に対して部分的に不均一な冷却が行われることになり、成形品のカバーレンズに変形や歪等の不具合が生じて品質を低下させる恐れがある。また、冷却によって溶融樹脂70全体を完全固化させるまでには時間を要するものとなり、成形サイクルが長くなって生産効率が低下するといった問題もある。
【0038】
これに対し、金型装置を図6のように、バルブゲート60のバルブ本体部64とキャビティ51の環状部形成領域53とで挟まれた領域に冷却液55が流通する冷却液流路57aを配設した構成とすることにより、上記不具合や問題点を抑制することができる。
【0039】
ところで、キャビティ51内への溶融樹脂70の注入停止時に、バルブゲート60のバルブピン63は、バルブゲート60のゲート部61の筒内62及び固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を挿通されて先端部67がキャビティ51内に突出する。
【0040】
この時、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70は冷却液流路56(図示せず)及び冷却液流路57、57aを流れる冷却液55によって冷却固化が始まっており、バルブピン63の先端部67が突出する部分の溶融樹脂70は半固化状態となっている。
【0041】
そのため、万一、溶融樹脂70の、バルブピン63の先端部67が当接する部分の半固化状態が均一でない場合、突出したバルブピン63の先端部67の一部が当接した部分の溶融樹脂が相対的に硬化度が低くて比較的柔らかい方向(70a)に向かう。すると、半固化状態の溶融樹脂70に当接したバルブピン63の先端部67は、図8(バルブピンで溶融樹脂の流路を閉塞するときに該バルブピンが受ける力を示す説明図)に示すように、矢印Aで示すバルブピン63の突出方向に向かう突出力と、矢印Bで示す半固化状態の溶融樹脂70の柔らかい方向(70a)に向かう滑り力との合成力によって矢印Cの方向に向かう力が加わる。なお、(70b)は、突出したバルブピン63の先端部67の一部が当接した部分の溶融樹脂が相対的に硬化度が高くて比較的硬い方向を示す。
【0042】
この矢印Cの方向に向かう合成力は、矢印Bの方向に加わる滑り力を阻止できない場合は、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力として作用し、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0043】
これに対し、本発明においては、図4を参照して説明したように、バルブピン63の先端部67が凸球状を呈しており、且つ先端面68が凹凸面となっている。そのため、半固化状態の溶融樹脂70に押し込まれたバルブピン63の先端部67は、球形状によって溶融樹脂70に対する押圧が均等に分散されると共に先端面68の一部の凹凸面に該凹凸面と接する溶融樹脂70の、相対的に硬化度が高くて比較的硬い部分が食い込んだ状態となる。
【0044】
そのため、半固化状態の溶融樹脂70に押し込まれたバルブピン63の先端部67は、溶融樹脂70の相対的に硬化度が低くて比較的柔らかい方向(70a)に向かう滑り力が抑制されてバルブピン63の突出力による突出方向のみの力が加わり、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力が加わらないため、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0045】
また、例えば、バルブピン63の挿脱方向(移動方向)が、キャビティ51の段差部形成領域の、バルブゲート60のゲート部61が配置された位置における該段差部形成領域の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向となる場合、半固化状態の溶融樹脂70に当接したバルブピン63の先端部67は、図9(バルブピンで溶融樹脂の流路を閉塞するときに該バルブピンが受ける力を示す説明図)に示すように、矢印Aで示すバルブピン63の突出方向に向かう突出力と、矢印Bで示す半固化状態の溶融樹脂70の面方向に向かう滑り力との合成力によって矢印Cの方向に向かう力が加わる。
【0046】
この矢印Cの方向に向かう合成力は、矢印Bの方向に加わる滑り力を阻止できない場合は、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力として作用し、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0047】
これに対し、本発明においては、図4を参照して説明したように、バルブピン63の先端部67が凸球状を呈しており、且つ先端面68が凹凸面となっている。そのため、半固化状態の溶融樹脂70に押し込まれたバルブピン63の先端部67は、球形状によって溶融樹脂70に対する押圧が均等に分散されると共に先端面68の凹凸面に該凹凸面と接する溶融樹脂70の部分が食い込んだ状態となる。
【0048】
そのため、半固化状態の溶融樹脂70に押し込まれたバルブピン63の先端部67は、溶融樹脂70の面方向に向かう滑り力が抑制されてバルブピン63の突出力による突出方向のみの力が加わり、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力が加わらないため、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0049】
ところで、図10(灯具を車両に取り付けた状態を示す説明図)に示すように、成形品のカバーレンズ3をハウジング2に装着してなる灯具1を車両に取り付けて該灯具1を車両前方から見た場合、カバーレンズ3は、意匠面6以外の部分が車両ボディ15によって隠された状態になる。そのため、灯具1の内部(灯室4内)及びボディ15内部は意匠面6を通してみることになるが、カバーレンズ3の段差部9に形成された、射出成形時にバルブピン63の先端部67による押圧跡81は、観視者には光学的に意匠面6を通して見えることはない。
【0050】
そのため、バルブピン63による押圧跡81が灯具1の光学性能を損なうことがなく且つ見栄も損なうことがない。そのため、所望の配光パターンを確実に得ることができると共に良好な商品性を確保することができる。
【0051】
以上説明したように、本発明は、車両用灯具のカバーレンズをポリカーボネート樹脂の射出成形で形成するための射出成形金型としてバルブゲート方式の成形金型を採用し、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティにおける成形品のレンズカバーの段差部となる領域(段差部形成領域)にバルブゲートのゲート部を位置させるものである。
【0052】
それと同時に、バルブゲート60のバルブ本体部64とキャビティ51の環状部形成領域53で挟まれた領域に冷却液流路57aを配設し、この冷却液流路57aとそれ以外の冷却液流路56、57に流通する冷却液55によって、キャビティ51内に充填された溶融樹脂70全体を均一に且つ効率的に冷却するものである。その結果、熱変形や歪の少ない成形品(カバーレンズ)を高い品質で形成することができると共に成形サイクルを短縮して生産効率を高めることも可能となる。
【0053】
また、このカバーレンズを備えた灯具は、車両に取り付けたときに光学性能が良好で所望の配光パターンが確実に得られると共に見栄えが良好で商品性に優れたものとなる。
【0054】
なお、バルブピン63の先端形状を上述した凸球状に限られるものではなく、図11(バルブピンの他の形状の先端部の説明図)に示すような、円錐形状にしてもよい。この場合も、先端面68を複数の凹部と凸部で構成した凹凸面とすることが好ましい。
【0055】
これにより、上記バルブピンの先端形状を凸球状とした場合と同様の作用、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1… 車両用灯具
2… ハウジング
3… カバーレンズ
4… 灯室
5… 光源
6… 意匠面
7… 脚部
8… 環状部
9… 段差部
10… 開口端部
11… シール溝
12… シール材
13… シールリブ
15… ボディ
20… 金型装置
30… 固定金型(キャビティ金型)
31… 樹脂注入孔
40… 可動金型(コア金型)
50… 突き合わせ面(パーティング面)
51… キャビティ
52… 意匠面形成領域
53… 環状部形成領域
54… 段差部形成領域
55… 冷却液
56… 冷却液流路
57… 冷却液流路
60… バルブゲート
61… ゲート部
62… 筒内
63… バルブピン
64… バルブ本体部
65… 筒内
66… 樹脂流路
67… 先端部
68… 先端面
70… 溶融樹脂
71… 樹脂流路
81… 押圧跡
84… 内側面
85… 内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、
前記車両用灯具は、前記カバーレンズがハウジングに装着固定されて灯室が形成されると共に該灯室内に光源が収容された構成とされ、
前記カバーレンズは、前記光源から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面と、前記意匠面の縁部から立ち上がって後方のハウジング側に環状に延びる環状部と、該環状部の一部のハウジング側端部で屈曲して前記意匠面と概略同様の方向に延びる段差部とを有し、
前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける前記段差部を形成する段差部形成領域に設けられ、
前記バルブゲートと前記キャビティの、前記カバーレンズにおける前記環状部を形成する環状部形成領域とで挟まれた領域に冷却液が流通する冷却液流路が配設されていることを特徴とするバルブゲート式金型装置。
【請求項2】
前記バルブゲートは該バルブゲートのゲート内部に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンを有し、前記バルブピンはその先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とする請求項1に記載のバルブゲート式金型装置。
【請求項3】
前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバルブゲート式金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−22753(P2013−22753A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156653(P2011−156653)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】