説明

バルブゲート式金型装置

【課題】車両用灯具を構成するカバーレンズを射出成形するにあたり、成形金型のキャビティに対する溶融樹脂の流動性を良好に確保すると同時に、該カバーレンズ装着の灯具を車両に搭載したときに、バルブゲートのバルブピンの先端部によって残る成形品(カバーレンズ)に対する押圧跡が見栄えを損なうことがないようなバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【解決手段】照射光が透過する意匠面と該意匠面から立ち上がり内面にローレットを有する環状の脚部を備えたカバーレンズを成形する金型キャビティ50の、前記カバーレンズにおける脚部のローレットを形成するローレット部形成領域53の該ローレットを形成するローレット形成部83と反対側に、溶融樹脂68の注入を制御するバルブゲート60を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形時に金型のキャビティ内にバルブゲートを介して溶融した成形樹脂を注入するバルブゲート式金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルブゲート式金型装置としては、例えば、特開2002−36305号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
それは、射出成形時に溶融した成形樹脂が通過するゲートを開閉することによりキャビティ内への成形樹脂の流入を制御するバルブピンの先端面を凸球面状に形成するものである。このバルブピンは、バルブゲートのゲートを開放することによりキャビティ内に成形材料を流入させ、キャビティ内が成形材料で完全充填されたところで該バルブピンによってゲートを閉塞するものである。これにより、型開き時などにゲートから溶融した成形材料が漏出するのを防止するものである。
【0004】
この場合、ゲートの開閉は筒状ゲートの内部空間へのバルブピンの挿脱によって行われ、そのうち、ゲートの閉塞時にはバルブピンがゲート内に内挿されると共に先端部が若干キャビティ内に突出ることにより成形品のゲート跡にバリが生じないようにされる。
【0005】
すると、ゲートの閉塞時に、キャビティ内に充填された成形材料の、バルブピンに対応する位置の部分がバルブピンの先端部で押されて押圧を受ける。その際、バルブピンの先端部が凸球面状を呈しているため成形材料に対するバルブピンの先端部による押圧が放射状に分散される。そのため、成形材料の、バルブピンの先端部で押された部分に局部的に過度な押圧が加わることが抑制される。
【0006】
その結果、バルブピンの先端部に成形材料が強固に付着することが抑制され、型開き後の成形品の離型時にバルブピンからの離型が円滑に行われると共に、バルブピンからの離型部分に盛り上がりや剥離を生じることが防止される。それと同時に、バルブピンの先端部へ付着した成形材料が次の成形サイクルの障害となるといったような不具合を生じることがなく、成形品の良品歩留りを高めることができる、とされるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−36305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の車両用灯具(特に、前照灯)は、内部に複数の光源を収容して大型化及び異形化が進み、それに伴って車両用灯具を構成するカバーレンズも大型化になると共に、車両の車高方向及び車幅方向にスラント(傾斜)した形状を有するものとなっている。また、照射光が透過する面(意匠面)は透過損失を抑制して高い光透過率を確保するために、他の部分よりも肉厚を薄くしている。
【0009】
このようなカバーレンズは一般的に、透明性、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能に優れたポリカーボネート樹脂を用いた射出成形により形成されるが、ポリカーボネート樹脂は射出成形時の溶融粘度が高く流動性が悪い。そのため、成形サイクルを短くして生産効率を上げると共に成形品の良品歩留りを高めるためには、キャビティ内に充填する成形材料を、キャビティの、成形品の意匠面となる薄肉部を形成する部分から該キャビティ内に流入することが好ましい。
【0010】
但し、カバーレンズの意匠面の位置で成形材料の流入を行うと、成形品の意匠面にバルブピンの先端部による押圧跡(ゲート跡)が鮮明に残ることになり、透過する照射光の光路を乱して車両用灯具の配光特性に光学的な悪影響を与えると共に車両用灯具としての見栄えを損なうことにもなる。
【0011】
そのため、成形材料を、キャビティの、成形品の意匠面に近い位置の脚部となる肉厚部を形成する領域から該キャビティに流入することにより、キャビティに対する成形材料の流動性を確保することが考えられる。しかしながらこの場合、図14のように、このカバーレンズ100を装着した車両用灯具を車両前方から該カバーレンズ100の意匠面101を通して見ると、バルブピンの先端部による押圧跡102がカバーレンズ100の肉厚の脚部103を導光されて観視者に見えてしまい、車両用灯具としての見栄えが損なわれると共に商品性が低下することになる。図中の符号104は車両のボディを示している。
【0012】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、バルブゲート式金型装置による射出成形によって、車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するにあたり、金型のキャビティに対する成形材料の流動性を良好に確保すると同時に成形品(カバーレンズ)にバルブピンの先端部によって残る押圧跡が見栄えを損なうことがないようなバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、前記カバーレンズは照射光が透過する意匠面と該意匠面から立ち上がり内面にローレットを有する環状の脚部を備え、前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける脚部の前記ローレットを形成する領域の該ローレットを形成する側と反対側に設けられることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記バルブゲートは該バルブゲートのゲート内部に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンを有し、前記バルブピンはその先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、照射光が透過する意匠面と該意匠面から立ち上がり内面にローレットを有する環状の脚部を備えたカバーレンズを形成する成形金型において、キャビティの、前記カバーレンズにおける脚部のローレットを形成する領域の該ローレットを形成する側と反対側に溶融樹脂の注入を制御するバルブゲートを設けた。また、バルブゲートのゲート部に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンの先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面とした。
【0017】
その結果、キャビティのローレット部形成領域が溶融樹脂の溶融樹脂流路として機能してキャビティ全体に対して溶融樹脂の充填が円滑に且つ確実に行われ、ショートショットやウェルドの発生が抑制された射出成形が行われる。
また、バルブピンの先端部による凹状の押圧跡が、脚部のローレットと対向する側(外側)に形成されるため、カバーレンズを装着した灯具を車両前方からカバーレンズの意匠面を通して見たときに、カバーレンズの脚部に形成されたローレットによって光学的に遮られて観視者には見えることがなく、見栄えが良好で商品性に優れたものとなる。
更に、バルブゲートのゲート部や固定金型に設けられた樹脂注入孔にバルブピンによる偏った力が加わらないため、耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両用灯具の概略説明図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】車両用灯具を上方から見たときの説明図である。
【図4】車両用灯具を構成するカバーレンズの射出成形金型装置の断面説明図である。
【図5】バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図である。
【図6】バルブゲートのゲート部からバルブピンを離脱したときの説明図である。
【図7】ゲート部にバルブピンを挿通したときの説明図である。
【図8】バルブピンによる溶融樹脂流路の閉塞時に該バルブピンが受ける力の説明図である。
【図9】同じく、バルブピンによる溶融樹脂流路の閉塞時に該バルブピンが受ける力の説明図である。
【図10】キャビティ内に注入された溶融樹脂の流れを示す説明図である。
【図11】バルブピンの先端部の位置を示す説明図である。
【図12】成形品に対する説明図である。
【図13】バルブピンの他の形状の先端部の説明図である。
【図14】従来例の成形品に対する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図13を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0020】
図1は車両用灯具の概略説明図、図2は図1のA−A断面図、図3は車両に取り付けた車両用灯具を上方から見た説明図、図4は車両用灯具を構成するカバーレンズを射出成形するための成形金型装置の断面説明図である。
【0021】
車両用灯具(以下、灯具と略称する)1は、例えば図1に示すように、ハウジング2にカバーレンズ3が装着されて灯室4が形成され、灯室4内に光源5が収容された構成となっている。
【0022】
カバーレンズ3は一端開口を有し、光源5から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面6と、該意匠面6の縁部から立ち上がって後方のハウジング2側に延びる環状の脚部7を有しており、ハウジング2は開口を有すると共に開口端部8に環状にシール溝9を備えている。そして、シール溝9にシール材10を充填し、カバーレンズ3の環状の脚部7の先端部に設けられた環状のシールリブ11を該シール溝9に挿入してシール材10に浸漬させることにより、ハウジング2のシール溝9にシール材10を介してカバーレンズ3のシールリブ11が気密に嵌合固定された構成となっている。
【0023】
カバーレンズ3の脚部7には少なくともその一部、特に、後方に長く延びる領域の内面に、意匠面6の縁部の厚肉の立ち上がり部から後方向に延びる、複数の凸部の繰り返しからなるローレット12が形成されている(図2参照)。また、このローレット12が形成された領域は機能上及び意匠上、屈曲部13を有する形状とされている。
【0024】
ところで、灯具1を構成するカバーレンズ3は図3に示すように、灯具1を車両のボディ14に取り付けた状態においては車両の外観の一部を構成するものであり、車両の外観を損なわないように且つ斬新な意匠性を醸し出すように、ボディ14と一体化するようなデザインに形成される。そのため、車両の車高方向に対しては、上部側が車両後方側に傾斜した傾斜面となり、車両の車幅方向に対しては車両の前面から側方に回り込む湾曲面となっている。
【0025】
また、カバーレンズ3は上述したように、光源からの光を透過して外部に向けて照射する意匠面を有している。そのため、透明性に優れると共にその他、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能にも優れたポリカーボネート樹脂を用いて形成される。
【0026】
そこで、このような形状のカバーレンズをポリカーボネート樹脂を用いて作製するにあたっては、本発明のバルブゲート方式の成形金型装置を用いた射出成形で行うのが有効な方法である。以下に、そのバルブゲート式金型装置について詳細に説明する。
【0027】
バルブゲート方式の成形金型装置(以下、金型装置と略称する)20は、図4に示すように、固定金型(キャビティ金型)30と可動金型(コア金型)40とが図中に示す位置に突き合わせ面(以下、パーティング面と呼称する)45を有しており、固定金型30と可動金型40とで形成されるキャビティ50は、カバーレンズの意匠面となる薄肉部を形成する領域(意匠面形成領域)51がパーティング面45に対して傾斜した面となっている。換言すると、矢印で示す型開き方向に対する垂直面に対して傾斜した面となっている。
【0028】
また、カバーレンズの脚部となる厚肉部を形成する領域(脚部形成領域)52がパーティング面45に対して略垂直な面となっている。換言すると、矢印で示す型開き方向に対して略平行な面となっている。脚部のローレットは可動金型40により形成される。
【0029】
また、固定金型30には、成形樹脂のポリカーボネート樹脂を溶融状態でキャビティ50内に注入するバルブゲート60が設けられている。このバルブゲート60は、溶融樹脂の注入部となる筒状のゲート部61をキャビティ50の脚部形成領域52の、可動金型40のローレット形成部83に対向する位置に位置させると共に、ゲート部61の筒内62に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピン63の挿脱方向を、金型装置20の型開き方向と略垂直方向としている。
【0030】
つまり、バルブピン63の挿脱方向(移動方向)は、キャビティ50の脚部形成領域52の、ゲート部61が配置された位置における該脚部形成領域52の面方向の略垂直方向となるものである。
【0031】
バルブピン63は、先端部を固定金型30に設けられた略筒形のバルブ本体部64の筒内65に移動可能に配設され、バルブピン63の外周面とバルブ本体部64の内周面との間隙には溶融樹脂が通る樹脂流路66が設けられている。また、バルブピン63は、図5(バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図)に示すように、その先端部の形状を凸球状とすると共に先端面67は複数の凹部と凸部で構成される凹凸面とされている。この場合、凹部の深さは10μm程度とされている。
【0032】
図4に戻って、固定金型30及び可動金型40の夫々には、キャビティ50内に充填された溶融樹脂を冷却して固化を促進するための冷却液55が流通する冷却液流路56が適宜な位置に配設されており、これにより成形品の成形サイクルが短縮されて生産効率が高められる。
【0033】
そこで、キャビティ50内にポリカーボネート樹脂の溶融樹脂68を充填するにあたっては、図6(バルブゲートのゲート部からにバルブピンを離脱した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61と反対方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62から離脱して筒内62が開放され、筒内62が溶融樹脂68の樹脂流路69として確保される。
【0034】
すると、バルブ本体部64の樹脂流路66及びゲート部61の樹脂流路69を通ってバルブゲート60から注入された溶融樹脂68が、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を介してキャビティ50内に注入され、該キャビティ50内全体が溶融樹脂68により充填される。
【0035】
その後、図7(バルブゲートのゲート部にバルブピンを挿通した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61の方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62に挿通されて筒内62が閉塞され、樹脂流路69が塞がれる。それと共に、バルブピン63は更に固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を挿通し、先端部70がキャビティ50内に突出する。
【0036】
この時、キャビティ50内に充填された溶融樹脂68は冷却液流路56を流れる冷却液55によって冷却固化が始まっており、バルブピン63の先端部70が突出する部分の溶融樹脂68は半固化状態となっている。
【0037】
そのため、例えば、溶融樹脂68の、バルブピン63の先端部70が当接する部分の半固化状態が均一でない場合、突出したバルブピン63の先端部70の一部が当接した部分の溶融樹脂が相対的に硬化度が低くて比較的柔らかい方向(68a)に向かう。すると、半固化状態の溶融樹脂68に当接したバルブピン63の先端部70は、図8(バルブピンで溶融樹脂の流路を閉塞するときに該バルブピンが受ける力を示す説明図)に示すように、矢印Aで示すバルブピン63の突出方向に向かう突出力と、矢印Bで示す半固化状態の溶融樹脂68の柔らかい方向(68a)に向かう滑り力との合成力によって矢印Cの方向に向かう力が加わる。なお、(68b)は、突出したバルブピン63の先端部70の一部が当接した部分の溶融樹脂が相対的に硬化度が高くて比較的硬い方向を示す。
【0038】
この矢印Cの方向に向かう合成力は、矢印Bの方向に加わる滑り力を阻止できない場合は、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力として作用し、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0039】
これに対し、本発明においては、図5を参照して説明したように、バルブピン63の先端部70が凸球状を呈しており、且つ先端面67が凹凸面となっている。そのため、半固化状態の溶融樹脂68に押し込まれたバルブピン63の先端部70は、球形状によって溶融樹脂68に対する押圧が均等に分散されると共に先端面67の一部の凹凸面に該凹凸面と接する溶融樹脂68の、相対的に硬化度が高くて比較的硬い部分が食い込んだ状態となる。
【0040】
そのため、半固化状態の溶融樹脂68に押し込まれたバルブピン63の先端部70は、溶融樹脂68の相対的に硬化度が低くて比較的柔らかい方向(68a)に向かう滑り力が抑制されてバルブピン63の突出力による突出方向のみの力が加わり、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力が加わらないため、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0041】
また、例えば、バルブピン63の挿脱方向(移動方向)が、キャビティ50の脚部形成領域の、バルブゲート60のゲート部61が配置された位置における該脚部形成領域の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向となる場合、半固化状態の溶融樹脂68に当接したバルブピン63の先端部70は、図9(バルブピンで溶融樹脂の流路を閉塞するときに該バルブピンが受ける力を示す説明図)に示すように、矢印Aで示すバルブピン63の突出方向に向かう突出力と、矢印Bで示す半固化状態の溶融樹脂68の面方向に向かう滑り力との合成力によって矢印Cの方向に向かう力が加わる。
【0042】
この矢印Cの方向に向かう合成力は、矢印Bの方向に加わる滑り力を阻止できない場合は、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力として作用し、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0043】
これに対し、本発明においては、図5を参照して説明したように、バルブピン63の先端部70が凸球状を呈しており、且つ先端面67が凹凸面となっている。そのため、半固化状態の溶融樹脂68に押し込まれたバルブピン63の先端部70は、球形状によって溶融樹脂68に対する押圧が均等に分散されると共に先端面67の凹凸面に該凹凸面と接する溶融樹脂68の部分が食い込んだ状態となる。
【0044】
そのため、半固化状態の溶融樹脂68に押し込まれたバルブピン63の先端部70は、溶融樹脂68の面方向に向かう滑り力が抑制されてバルブピン63の突出力による突出方向のみの力が加わり、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力が加わらないため、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0045】
なお、図10(バルブゲートを介してキャビティ内に注入された溶融樹脂の流れを示す説明図)に示すように、キャビティ50に対する溶融樹脂68の注入部となるバルブゲート60の筒状のゲート部61をキャビティ50の脚部形成領域52の、可動金型40のローレット形成部83に対向する位置に位置させることにより、キャビティ50のローレット形成部83を含むローレット部形成領域53が、注入した溶融樹脂68の溶融樹脂流路として有効に機能する。そのため、成形品(カバーレンズ)の意匠面となる薄肉の意匠面形成領域51及び脚部となる厚肉の脚部形成領域52のいずれに対しても溶融樹脂68の流動性が改善され、キャビティ50全体に対して溶融樹脂68の充填が円滑に且つ確実に行われる。そのため、キャビティのいずれの部分にもショートショットが生じることがなく、且つ、ウェルドの発生が低減されてウェルドラインの目立ちが抑制される。
【0046】
そして、キャビティ50内に充填された溶融樹脂68が冷却されて固化した後、 図11(バルブピンの先端部がキャビティ内から引き抜かれた状態を示す説明図)に示すように、バルブピン63を、バルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61と反対方向に移動させ、バルブピン63の先端部70をキャビティ50内から引き抜く。
【0047】
この場合、バルブピン63の移動距離は、該バルブピン63の先端部70がキャビティ50内から若干引き抜かれる程度とし、このとき、バルブゲート60のゲート部61の筒内62及び固定金型30に設けられた樹脂注入孔31は挿通されたバルブピン63によって閉塞されて樹脂流路69が塞がれた状態に維持される。
【0048】
これにより、冷却固化した成形品を金型装置20から取り出すにあたり、離型時の成形品の取り出し方向(突出方向)に対してバルブピン63の先端部70がアンダーカット部となることが回避され、金型装置20からの成形品の取り出しを容易に行うことができる。
【0049】
ところで、成形品(カバーレンズ3)80には、脚部7のローレット12と対向する側(外側)に、バルブピン63の先端部70による凹状の押圧跡81が形成される。しかしながらこの押圧跡81は、図12ように、車両に取り付けた灯具を車両前方からカバーレンズ3の意匠面6を通して見たときに、カバーレンズ3の屈曲する脚部7及び脚部7の内面に形成されたローレット12に光学的に遮られて観視者には見えることはない。図中の符号82は車両のボディを示している。
【0050】
その結果、上述のバルブゲート式金型装置を用いて射出成形したカバーレンズを装着した灯具は、車両に取り付けたときに光学性能が良好で所望の配光パターンが確実に得られると共に見栄えが良好で商品性に優れたものとなる。
【0051】
以上説明したように、本発明は、車両用灯具のカバーレンズをポリカーボネート樹脂の射出成形で形成するための射出成形金型としてバルブゲート方式の成形金型を採用し、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティにおけるレンズカバーの、屈曲部及び内面にローレットを有する厚肉の脚部となる領域(脚部形成領域)にバルブゲートのゲート部を位置させるものである。
【0052】
これにより、キャビティのローレット形成部を含むローレット部形成領域が溶融樹脂の溶融樹脂流路として有効に機能してキャビティ全体に対して溶融樹脂の充填が円滑に且つ確実に行われ、ショートショットやウェルドの発生が抑制された射出成形が行われる。
【0053】
また、バルブピンの先端部による凹状の押圧跡が、脚部のローレットと対向する側(外側)に形成されるため、車両に取り付けた灯具を車両前方からカバーレンズの意匠面を通して見たときに、カバーレンズの屈曲する脚部及び脚部の内面に形成されたローレットに光学的に遮られて観視者には見えることはない。
【0054】
その結果、このカバーレンズを装着した灯具は、車両に取り付けたときに光学性能が良好で所望の配光パターンが確実に得られると共に見栄えが良好で商品性に優れたものとなる。
【0055】
更に、バルブゲートの樹脂流路の閉時に、キャビティの脚部形成領域に充填された溶融樹脂中に押し込まれるバルブピンの先端部の形状を凸球状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面とした。その結果、バルブゲートのゲート部や固定金型に設けられた樹脂注入孔にバルブピンによる偏った力が加わらないため、耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0056】
なお、バルブピン63の先端形状を上述した凸球状に限られるものではなく、図13(バルブピンの他の形状の先端部の説明図)に示すような、円錐形状にしてもよい。この場合も、先端面67を複数の凹部と凸部で構成した凹凸面とすることが好ましい。
【0057】
これにより、上記バルブピンの先端形状を凸球状とした場合と同様の作用、効果を得ることができる。
【0058】
また、ローレット部形成領域53に対応する位置をゲート部61とすることで、押圧跡が目立たなくなる。更に、バリ等の外観を損なう不具合がゲート部61又はその近傍のローレット部形成領域53に現われた場合でもそれらの不具合を目立ちにくくすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1… 車両用灯具
2… ハウジング
3… カバーレンズ
4… 灯室
5… 光源
6… 意匠面
7… 脚部
8… 開口端部
9… シール溝
10… シール材
11… シールリブ
12… ローレット
13… 屈曲部
14… ボディ
20… 金型装置
30… 固定金型(キャビティ金型)
31… 樹脂注入孔
40… 可動金型(コア金型)
45… 突き合わせ面(パーティング面)
50… キャビティ
51… 意匠面形成領域
52… 脚部形成領域
53… ローレット部形成領域
55… 冷却液
56… 冷却液流路
60… バルブゲート
61… ゲート部
62… 筒内
63… バルブピン
64… バルブ本体部
65… 筒内
66… 樹脂流路
67… 先端面
68… 溶融樹脂
69… 樹脂流路
70… 先端部
80… 成形品
81… 押圧跡
82… ボディ
83… ローレット形成部
84… 内側面
85… 内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、
前記カバーレンズは照射光が透過する意匠面と該意匠面から立ち上がり内面にローレットを有する環状の脚部を備え、
前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける脚部の前記ローレットを形成する領域の該ローレットを形成する側と反対側に設けられることを特徴とするバルブゲート式金型装置。
【請求項2】
前記バルブゲートは該バルブゲートのゲート内部に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンを有し、前記バルブピンはその先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とする請求項1に記載のバルブゲート式金型装置。
【請求項3】
前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバルブゲート式金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−6361(P2013−6361A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140953(P2011−140953)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】