バルブ構造
【課題】異音の発生を阻止することができるバルブ構造を提供することである。
【解決手段】上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、バルブディスク1と、バルブディスク1に設けられて一方室R1と他方室R2とを連通する複数の一方側ポート2と他方側ポート3と、バルブディスク1の他方室側端に積層されて一方側ポート2のみを開閉する一方側リーフバルブ4と、バルブディスク1の一方室側端に積層されて他方側ポート3のみを開閉する他方側リーフバルブ5とを備えたバルブ構造において、バルブディスク1の一方室側端であって全ての他方側ポート3の開口の内周側から開口して一方側ポート2に連通される通孔6を設けた。
【解決手段】上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、バルブディスク1と、バルブディスク1に設けられて一方室R1と他方室R2とを連通する複数の一方側ポート2と他方側ポート3と、バルブディスク1の他方室側端に積層されて一方側ポート2のみを開閉する一方側リーフバルブ4と、バルブディスク1の一方室側端に積層されて他方側ポート3のみを開閉する他方側リーフバルブ5とを備えたバルブ構造において、バルブディスク1の一方室側端であって全ての他方側ポート3の開口の内周側から開口して一方側ポート2に連通される通孔6を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のバルブ構造にあっては、たとえば、車両用の緩衝器のピストン部等に具現化されており、図10に示すように、緩衝器のシリンダC内に摺動自在に挿入されてシリンダC内を伸側室ERと圧側室CRとに区画するピストンPと、ピストンPに設けられて伸側室ERと圧側室CRとを連通する複数の伸側ポートEPと圧側ポートCPと、ピストンPの圧側室側端に積層されて伸側ポートEPのみを開閉する環状の伸側リーフバルブELと、ピストンPの伸側室側端に積層されて圧側ポートCPのみを開閉する環状の圧側リーフバルブCLとを備え、伸側ポートEPと圧側ポートCPがピストンPに周方向で交互に配置されたバルブ構造が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このバルブ構造を適用した緩衝器にあっては、たとえば、ピストンPが下方へ移動する収縮作動を呈する場合、図11に示すように、圧縮される圧側室CRの作動油が圧側リーフバルブCLを押して撓ませ、圧側ポートCPを介して拡大される伸側室ERへ移動する。この収縮作動時において圧側リーフバルブCLが大きく撓むと、圧側リーフバルブCLは、圧側ポートCPより内周側においてピストンPとの間に隙間を形成するが、この隙間に作動油中に入り込んでいる鉄粉やダストといったコンタミナントCoが入り込む場合がある。すると、ピストンPが上方へ移動する緩衝器の伸長作動の際に、圧側リーフバルブCLが復元力で撓みが解消されると、圧側リーフバルブCLとピストンPとの間にコンタミナントCoが挟み込まれて、圧側ポートCPを完全に閉塞できなくなる。
【0005】
この状態で、緩衝器が伸長作動を呈すると、圧側リーフバルブCLの外周が上記したコンタミナントCoによってピストンPから浮いた状態となっているので、圧縮される伸側室ER内の作動油は、伸側ポートEPだけでなく圧側ポートCPをも通過して圧側室CRへ移動するようになる。
【0006】
すると、この緩衝器の伸長作動時に、圧側ポートCLを通過する作動油の流れによって、ピストンPから浮いている圧側リーフバルブCLの外周が振動して、大きな異音が発生する問題が生じる。
【0007】
緩衝器を構成する部材には、切削加工を必要とするものがあり、切削加工による鉄粉が部材に付着したまま取り残されることがあり、また、部品にダストが付着したままとなっていたりして、コンタミナントCoを完全に取り除くことは難しい。
【0008】
また、特開2005−76856号公報には、ピストンやシリンダの端部に装着されるバルブケースに、コンタミナントCoを収集するための袋孔状やポケット状の異物溜りを設ける提案もあるが、作動油が異物溜りへ流れこむことができないので、コンタミナントCoを収集することは難しい。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、異音の発生を阻止することができるバルブ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、緩衝器内に一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、当該バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の一方側ポートと、同じく上記バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の他方側ポートと、上記バルブディスクの他方室側端に積層されて上記一方側ポートのみを開閉する環状の一方側リーフバルブと、上記バルブディスクの一方室側端に積層されて上記他方側ポートのみを開閉する環状の他方側リーフバルブとを備え、上記一方側ポートと上記他方側ポートが上記バルブディスクに周方向で交互に配置されたバルブ構造において、上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側から開口して上記一方側ポートに連通される複数の通孔を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとバルブディスクとの間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止され、他方側リーフバルブのバルブディスクからの浮き上がりが阻止されるから、緩衝器の作動方向が切り替わっても、他方側リーフバルブの外周が振動することがなく、大きな異音の発生も阻止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における縦断面図である。
【図2】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの平面図である。
【図3】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの底面図である。
【図4】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの正面図である。
【図5】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの圧側ポートの配置を説明する図である。
【図6】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンにピストンリングを装着した状態を示す正面図である。
【図7】一実施の形態の一変形例におけるバルブ構造が具現化されたピストンの正面図である。
【図8】一実施の形態の一変形例におけるバルブ構造が具現化されたピストンにピストンリングを装着した状態を示す正面図である。
【図9】作動油の流れを説明する図である。
【図10】従来のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部の縦断面図である。
【図11】従来のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における圧側リーフバルブが撓んだ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の緩衝器のバルブ構造を図に基づいて説明する。一実施の形態における緩衝器のバルブ構造は、図1から図4に示すように、緩衝器のピストン部に具現化されており、緩衝器内に一方室としての伸側室R1と他方室としての圧側室R2とを区画するバルブディスクとしてのピストン1と、当該ピストン1に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通する複数の一方側ポートとしての伸側ポート2と、同じくピストン1に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通する複数の他方側ポートとしての圧側ポート3と、ピストン1の他方室側端としての圧側室側端bに積層されて伸側ポート2のみを開閉する環状の一方側リーフバルブとしての伸側リーフバルブ4と、ピストン1の一方室側端としての伸側室側端aに積層されて圧側ポート3のみを開閉する環状の他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5と、ピストン1の伸側室側端1aであって全ての圧側ポート3の開口の内周側から開口して伸側ポート2に連通される複数の通孔6とを備えて構成されている。なお、伸側室R1とは、緩衝器が伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、緩衝器が収縮作動する際に圧縮される室のことである。また、図1のピストン1の断面図は、図2に示したように、ピストン1のAA矢視断面図を示している。
【0014】
他方、バルブ構造が具現化される緩衝器は、周知であるので詳細には図示して説明しないが、具体的にたとえば、シリンダ40と、シリンダ40の上端を封止するヘッド部材(図示せず)と、ヘッド部材(図示せず)を摺動自在に貫通する組付ロッドとしてのピストンロッド10と、ピストンロッド10の端部に設けた上記ピストン1と、シリンダ40内にピストン1で隔成される2つの圧力室たる伸側室R1と圧側室R2と、シリンダ40の下端を封止する封止部材(図示せず)と、シリンダ40から出没するピストンロッド10の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいはエア室とを備えて構成され、シリンダ40内には流体、具体的には作動油が充填されている。また、緩衝器は、片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0015】
そして、上記バルブ構造にあっては、シリンダ40に対してピストン1が図1中上方に移動するときに、伸側室R1内の圧力が上昇して伸側室R1から圧側室R2へ伸側ポート2を介して作動油が移動するときに、その作動油の移動に伸側リーフバルブ4で抵抗を与えるようになっており、反対に、シリンダ40に対してピストン1が図1中下方に移動するときに、圧側室R2内の圧力が上昇して圧側室R2から伸側室R1へ圧側ポート3を介して作動油が移動するときに、その作動油の移動に圧側リーフバルブ5で抵抗を与えるようになっている。
【0016】
以下、このバルブ構造について詳しく説明すると、バルブディスクたるピストン1は、図1から図4に示すように、環状とされ、内方にピストンロッド10の先端に形成の小径部10aが挿通されて、当該ピストンロッド10に組付けられていて、外周をシリンダ40の内周に摺接させている。そして、このピストン1は、シリンダ40内を伸側室R1と圧側室R2とに仕切っている。
【0017】
より詳しくは、ピストン1は、有底筒状であって、この実施の形態では、その底部1aに、ピストンロッド10が挿通される挿通孔1eと、四つの伸側ポート2と、四つの圧側ポート3が設けられている。伸側ポート2と圧側ポート3はそれぞれピストン1における底部1aを軸方向となる上下方向に貫いており、伸側室R1と圧側室R2とを連通している。また、伸側ポート2は、ピストン1の底部1aに周方向に等間隔に配置されており、圧側ポート3もまたピストン1の底部1aに周方向に等間隔に配置されている。
【0018】
伸側ポート2と圧側ポート3は、ピストン1の周方向に交互に配置されている。そして、ピストン1の底部1aの伸側室側端aには、四つの圧側ポート3をそれぞれ他から独立して取り囲む弁座8を備えている。この弁座8は、底部1aから伸側室側へ向けて突出しており、上記挿通孔1e回りを取り囲む環状部8aと、環状部8aに連なる四つの平面視で扇状のシート部8bとを備え、底部1aにおける弁座8が設けられていない部位、つまり、シート部8bとシート部8bとの周方向間は、圧側室側へ凹んだ形状となっていて、シート部8b,8bの周方向間に伸側ポート2が開口している。また、底部1aには、弁座8のシート部8bとシート部8bの周方向間には、それぞれ突起1fが設けられている。より具体的には、圧側ポート3の伸側室側端には、それぞれ独立窓3aが設けられており、弁座8におけるシート部8bは、これら独立窓3aの四方を取り囲んでいる。また、この実施の形態では、図5に示すように、圧側ポート3が設けられる円環帯状のゾーンZ(図中斜線で示した部分)よりも内周側に伸側ポート2が配置されるようになっている。
【0019】
さらに、ピストン1の底部1aの圧側室側端bには、図1および図3に示すように、四つの伸側ポート2の圧側室側端の全てに連通される環状凹部でなる環状窓7が設けられており、この環状窓7の外周であって全ての圧側ポート3よりも内周側には環状弁座9が設けられている。この実施の形態では、圧側ポート3が設けられる円環帯状のゾーンよりも内周側に伸側ポート2が配置されているので、環状弁座9で伸側ポート2の出口に連なる環状窓7を取り囲むことができ、後述する伸側リーフバルブ4の全周に伸側室R1内の圧力を均等に作用させることができるようになっている。
【0020】
そして、図1、図2に示すように、ピストン1の底部1aの伸側室側端aの圧側ポート3の端部である各独立窓3aの内周側から開口して伸側ポート2に通じる四つの通孔6が設けられている。具体的には、通孔6は、ピストン1の底部1aを軸方向となる図1中上下方向に沿って貫いており、その圧側室側端は、環状窓7に通じていて、当該環状窓7を介して伸側ポート2へ通じている。また、通孔6の伸側室側端は、ピストン1の底部1aに設けた平面図で略矩形の窪み13に通じており、この窪み13は、中心へ向けて深さが徐々に深くなるようになっていて最深部に伸側ポート2が開口しており、ピストン1の底部1aに上記した独立窓3aに干渉せず当該独立窓3aの内周側に設けられていて弁座8におけるシート部8bで四方が囲まれている。
【0021】
なお、伸側ポート2、圧側ポート3の設置数は、上記した四つに限られるものではなく、任意の決定することができ、通孔6は、圧側ポート3の設置数に対応する数を設けるようにすればよく、また、通孔6は、複数ある伸側ポート2のうち、いずれかに連通されればよい。
【0022】
また、図4に示すように、ピストン1の筒部1bの外周には、複数の環状溝1cが設けられており、この筒部1bの外周に、図1、図4および図6に示すように、合成樹脂のピストンリング11が装着される。具体的には、ピストンリング11は、円盤状の合成樹脂母材をピストン1の筒部1bの外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて装着される。なお、図7および図8に示すように、筒部1bに、環状凹部1dを設けておき、当該環状凹部1d内に割り入り環状のピストンリング12を装着するようにすることも当然に可能である。なお、図4、図6、図7は、図示するところでは、ピストン1の正面図を示しているが、背面図、左側面図および右側面図は、正面図と同一である。
【0023】
このように構成されたピストン1には、上記したようにピストンロッド10の小径部10aに組み付けられる。ピストンロッド10は、その先端の小径部10aをピストン1の図1中下方側に突出させてあり、小径部10aのさらに先端には螺子部10bが設けられ、小径部10aの図1中上方側が小径部10aより大径とされているので、この小径部10aと小径部10aより上方との境に段部10cが形成されている。
【0024】
そして、ピストン1の図1中上端となる伸側室側端aには、環状の圧側リーフバルブ5、環状の間座14および環状のバルブストッパ15が順に積層され、ピストン1の図1中下端となる圧側室側端bには、環状の伸側リーフバルブ4および環状の間座16が積層されて、これらの部品が全て上記ピストンロッド10の小径部10aに組みつけられる。ピストンロッド10の小径部10aに設けた螺子部10bに螺着されるピストンナット17によって、図1中上から順に、バルブストッパ15、間座14、圧側リーフバルブ5、ピストン1、伸側リーフバルブ4および間座16がピストンロッド10に固定される。より詳しくは、バルブストッパ15、間座14、圧側リーフバルブ5、ピストン1、伸側リーフバルブ4および間座16がピストンナット17とピストンロッド10の段部10cに挟持されて、ピストンロッド10に固定される。
【0025】
伸側リーフバルブ4は、この実施の形態では、複数の環状板を積層して構成されており、内周側がピストンロッド10に固定されていて、その外周の撓みが許容されるようになっている。そして、何ら負荷が作用しない場合、伸側リーフバルブ4におけるピストン1の底部1aに接触する図1中最上段の環状板は、環状弁座9に着座して伸側ポート2を閉塞するが、その外径は、環状弁座9の外周に配置される圧側ポート3を閉塞しない径に設定されていて、伸側ポート3の圧側室側端には干渉しないようになっている。また、伸側リーフバルブ4は、伸側ポート2を介して作用する伸側室R1の圧力で押されて撓むと環状弁座9から離れて伸側ポート2を開くようになっている。
【0026】
これに対して、圧側リーフバルブ5は、この実施の形態では、伸側リーフバルブ4と同様に、複数の環状板を積層して構成されており、内周側がピストンロッド10に固定されていて、その外周の撓みが許容されるようになっている。そして、何ら負荷が作用しない場合、圧側リーフバルブ5におけるピストン1の底部1aに接触する図1中最下段の環状板は、弁座8に着座して圧側ポート3を閉塞するが、弁座8のシート部8b,8bの周方向は凹んでおり、そこに伸側ポート2が開口しているので、圧側リーフバルブ5は、圧側ポート3を閉塞しても伸側ポート2を閉塞しないようになっている。また、圧側リーフバルブ5は、圧側ポート3を介して作用する圧側室R2の圧力で押されて撓むと弁座8のシート部8bから離れて圧側ポート3を開くようになっている。
【0027】
なお、上述したように、ピストン1の底部1aであって弁座8のシート部8b間は凹んでおり、圧側リーフバルブ5が伸側室R1の圧力を受けるとシート部8bによって支えられていない部位が伸側ポート2を閉塞する方向へ撓もうとするが、シート部8b間には、突起1fが突設されていて圧側リーフバルブ5を支えるので、上記の如く撓んで伸側ポート2への流路面積を制限しないようになっている。
【0028】
なお、伸側リーフバルブ4および圧側リーフバルブ5は、複数の環状板を積層して構成されていて、当該環状板の積層枚数で撓み剛性を調節することができるようになっているが、緩衝器に要求される減衰特性(緩衝器のピストン速度に対して発生する減衰力の特性)に応じて環状板の積層枚数を任意に設定することが可能である。
【0029】
さて、このように構成されたバルブ構造では、ピストン1が図1中下方に移動する緩衝器の収縮作動時において、圧縮される圧側室R2の圧力が上昇して圧側リーフバルブ5の外周が撓んで圧側ポート3を開く際に、作動油中に紛れ込んでいるコンタミナントが圧側ポート3を通過する作動油の流れによって、圧側リーフバルブ5とピストン1に設けた弁座8との間であって圧側ポート3よりも内周側へ入り込んでも、圧側ポート3よりも内周側が通孔6を介して伸側ポート2へ通じていて、伸側ポート2における圧側室側端は圧側室R2の圧力でピストン1に押しつけられる伸側リーフバルブ4によって閉塞されて反対の伸側室側端が伸側室R1に常時通じているため、図9に示すように、図中矢印にしめしたように、通孔6、伸側ポート2を通過して伸側室R1へ至る作動油の流れが生じる。そのため、コンタミナントは、圧側リーフバルブ5とピストン1に設けた弁座8との間の隙間にとどまることなく、上記した作動油の流れによって、通孔6へ排出される。
【0030】
本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5とバルブディスクとしてのピストン1との間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止され、圧側リーフバルブ5のピストン1からの浮き上がりが阻止されるから、緩衝器の作動方向が切り替わっても、圧側リーフバルブ5の外周が振動することがなく、大きな異音の発生も阻止される。
【0031】
また、本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5とバルブディスクとしてのピストン1との間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止されるため、圧側リーフバルブ5は確実に圧側ポート3を閉塞することができ、緩衝器の伸長作動時に減衰力不足を招くことがなく、減衰力も安定する。
【0032】
さらに、この実施の形態では、全ての圧側ポート3の開口の内周側のそれぞれに窪み13を設け、通孔6が窪み13に開口するようになっており、窪み13があることで、圧側リーフバルブ5とピストン1における弁座8との間の隙間に入り込んだコンタミナントを速やかに通孔6へ導くことができ、また、緩衝器が収縮作動から伸長作動へ切換り、圧側リーフバルブ5が撓んだ後に復元力で弁座8に着座した際にも、コンタミナントを通孔6へ導くことができ、コンタミナントの圧側リーフバルブ5とピストン1との間での挟み込みを確実に阻止することが可能であり、仮に窪み13にコンタミナントが残ったとしても、圧側リーフバルブ5の弁座8からの浮き上がりを防止することができる。
【0033】
またさらに、バルブディスクとしてのピストン1の圧側室側端bに全ての一方側ポートとしての伸側ポート2の他方室側の開口に通じる環状窓7を設け、通孔6が当該環状窓7を介して伸側ポート2に連通されるようにすることで、通孔6をピストン1に対して軸方向に沿って形成することができるので、通孔6を穿設する孔開け加工が簡単となり、バルブ構造が具現化されるバルブディスクの製造コストが低減される。なお、通孔6が上記のように構成されることで種々の利点があるが、通孔6は、他方側ポートとしての圧側ポート3の内周側から開口して一方側ポートとしての伸側ポート2へ通じればよいので、上記した構造に限定されるものではなく、ピストン1の軸方向に対して斜めに設けられてもよいし、途中で曲っていてもよい。
【0034】
なお、上記したところでは、一方室を伸側室R1とし、他方室を圧側室R2とし、一方側ポートを伸側ポート2とし、他方側ポートを圧側ポート3とし、一方側リーフバルブを伸側リーフバルブ4とし、他方側リーフバルブを圧側リーフバルブ5としているが、一方室を圧側室R2とし、他方室を伸側室R1とし、一方側ポートを圧側ポート3とし、他方側ポートを伸側ポート2とし、一方側リーフバルブを圧側リーフバルブ5とし、他方側リーフバルブを伸側リーフバルブ4としてもよく、この場合は、たとえば、ピストン1の底部1aの構造を図1中天地逆にすることで実現できる。
【0035】
ピストン1の底部1aにおける伸側室側端aに各圧側ポート3を独立して取り囲む花弁型の弁座を設けるとともに、ピストン1の底部1aにおける圧側室側端bに各伸側ポート2を独立して取り囲む花弁型の弁座を設けることも可能であり、この場合には、通孔は、圧側ポート3の内周側から開口して伸側ポート2へ通じるものと、伸側ポート2の内周側から開口して圧側ポート3へ通じるものを設けることで、圧側リーフバルブ5の浮き上がりのみならず伸側リーフバルブ4の浮き上がりを阻止することができる。
【0036】
また、上記したところでは、バルブ構造が緩衝器のピストン部に具現化した場合について説明したが、本発明のバルブ構造は、一方室と他方室の一方を緩衝器の圧側室とし、一方室と他方室の一方を緩衝器の体積補償用のリザーバとし、バルブディスクを緩衝器のシリンダの端部に取付られて圧側室とリザーバとを区画する仕切るベースバルブのバルブケースとすることも可能である。
【0037】
なお、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のバルブ構造は、緩衝器のバルブに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 バルブディスクとしてのピストン
2 一方側ポートとしての伸側ポート
3 他方側ポートとしての圧側ポート
4 一方側リーフバルブとしての伸側リーフバルブ
5 他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ
6 通孔
7 環状窓
13 窪み
R1 一方室としての伸側室
R2 他方室としての圧側室
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のバルブ構造にあっては、たとえば、車両用の緩衝器のピストン部等に具現化されており、図10に示すように、緩衝器のシリンダC内に摺動自在に挿入されてシリンダC内を伸側室ERと圧側室CRとに区画するピストンPと、ピストンPに設けられて伸側室ERと圧側室CRとを連通する複数の伸側ポートEPと圧側ポートCPと、ピストンPの圧側室側端に積層されて伸側ポートEPのみを開閉する環状の伸側リーフバルブELと、ピストンPの伸側室側端に積層されて圧側ポートCPのみを開閉する環状の圧側リーフバルブCLとを備え、伸側ポートEPと圧側ポートCPがピストンPに周方向で交互に配置されたバルブ構造が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このバルブ構造を適用した緩衝器にあっては、たとえば、ピストンPが下方へ移動する収縮作動を呈する場合、図11に示すように、圧縮される圧側室CRの作動油が圧側リーフバルブCLを押して撓ませ、圧側ポートCPを介して拡大される伸側室ERへ移動する。この収縮作動時において圧側リーフバルブCLが大きく撓むと、圧側リーフバルブCLは、圧側ポートCPより内周側においてピストンPとの間に隙間を形成するが、この隙間に作動油中に入り込んでいる鉄粉やダストといったコンタミナントCoが入り込む場合がある。すると、ピストンPが上方へ移動する緩衝器の伸長作動の際に、圧側リーフバルブCLが復元力で撓みが解消されると、圧側リーフバルブCLとピストンPとの間にコンタミナントCoが挟み込まれて、圧側ポートCPを完全に閉塞できなくなる。
【0005】
この状態で、緩衝器が伸長作動を呈すると、圧側リーフバルブCLの外周が上記したコンタミナントCoによってピストンPから浮いた状態となっているので、圧縮される伸側室ER内の作動油は、伸側ポートEPだけでなく圧側ポートCPをも通過して圧側室CRへ移動するようになる。
【0006】
すると、この緩衝器の伸長作動時に、圧側ポートCLを通過する作動油の流れによって、ピストンPから浮いている圧側リーフバルブCLの外周が振動して、大きな異音が発生する問題が生じる。
【0007】
緩衝器を構成する部材には、切削加工を必要とするものがあり、切削加工による鉄粉が部材に付着したまま取り残されることがあり、また、部品にダストが付着したままとなっていたりして、コンタミナントCoを完全に取り除くことは難しい。
【0008】
また、特開2005−76856号公報には、ピストンやシリンダの端部に装着されるバルブケースに、コンタミナントCoを収集するための袋孔状やポケット状の異物溜りを設ける提案もあるが、作動油が異物溜りへ流れこむことができないので、コンタミナントCoを収集することは難しい。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、異音の発生を阻止することができるバルブ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、緩衝器内に一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、当該バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の一方側ポートと、同じく上記バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の他方側ポートと、上記バルブディスクの他方室側端に積層されて上記一方側ポートのみを開閉する環状の一方側リーフバルブと、上記バルブディスクの一方室側端に積層されて上記他方側ポートのみを開閉する環状の他方側リーフバルブとを備え、上記一方側ポートと上記他方側ポートが上記バルブディスクに周方向で交互に配置されたバルブ構造において、上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側から開口して上記一方側ポートに連通される複数の通孔を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとバルブディスクとの間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止され、他方側リーフバルブのバルブディスクからの浮き上がりが阻止されるから、緩衝器の作動方向が切り替わっても、他方側リーフバルブの外周が振動することがなく、大きな異音の発生も阻止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における縦断面図である。
【図2】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの平面図である。
【図3】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの底面図である。
【図4】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの正面図である。
【図5】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンの圧側ポートの配置を説明する図である。
【図6】一実施の形態におけるバルブ構造が具現化されたピストンにピストンリングを装着した状態を示す正面図である。
【図7】一実施の形態の一変形例におけるバルブ構造が具現化されたピストンの正面図である。
【図8】一実施の形態の一変形例におけるバルブ構造が具現化されたピストンにピストンリングを装着した状態を示す正面図である。
【図9】作動油の流れを説明する図である。
【図10】従来のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部の縦断面図である。
【図11】従来のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における圧側リーフバルブが撓んだ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の緩衝器のバルブ構造を図に基づいて説明する。一実施の形態における緩衝器のバルブ構造は、図1から図4に示すように、緩衝器のピストン部に具現化されており、緩衝器内に一方室としての伸側室R1と他方室としての圧側室R2とを区画するバルブディスクとしてのピストン1と、当該ピストン1に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通する複数の一方側ポートとしての伸側ポート2と、同じくピストン1に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通する複数の他方側ポートとしての圧側ポート3と、ピストン1の他方室側端としての圧側室側端bに積層されて伸側ポート2のみを開閉する環状の一方側リーフバルブとしての伸側リーフバルブ4と、ピストン1の一方室側端としての伸側室側端aに積層されて圧側ポート3のみを開閉する環状の他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5と、ピストン1の伸側室側端1aであって全ての圧側ポート3の開口の内周側から開口して伸側ポート2に連通される複数の通孔6とを備えて構成されている。なお、伸側室R1とは、緩衝器が伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、緩衝器が収縮作動する際に圧縮される室のことである。また、図1のピストン1の断面図は、図2に示したように、ピストン1のAA矢視断面図を示している。
【0014】
他方、バルブ構造が具現化される緩衝器は、周知であるので詳細には図示して説明しないが、具体的にたとえば、シリンダ40と、シリンダ40の上端を封止するヘッド部材(図示せず)と、ヘッド部材(図示せず)を摺動自在に貫通する組付ロッドとしてのピストンロッド10と、ピストンロッド10の端部に設けた上記ピストン1と、シリンダ40内にピストン1で隔成される2つの圧力室たる伸側室R1と圧側室R2と、シリンダ40の下端を封止する封止部材(図示せず)と、シリンダ40から出没するピストンロッド10の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいはエア室とを備えて構成され、シリンダ40内には流体、具体的には作動油が充填されている。また、緩衝器は、片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0015】
そして、上記バルブ構造にあっては、シリンダ40に対してピストン1が図1中上方に移動するときに、伸側室R1内の圧力が上昇して伸側室R1から圧側室R2へ伸側ポート2を介して作動油が移動するときに、その作動油の移動に伸側リーフバルブ4で抵抗を与えるようになっており、反対に、シリンダ40に対してピストン1が図1中下方に移動するときに、圧側室R2内の圧力が上昇して圧側室R2から伸側室R1へ圧側ポート3を介して作動油が移動するときに、その作動油の移動に圧側リーフバルブ5で抵抗を与えるようになっている。
【0016】
以下、このバルブ構造について詳しく説明すると、バルブディスクたるピストン1は、図1から図4に示すように、環状とされ、内方にピストンロッド10の先端に形成の小径部10aが挿通されて、当該ピストンロッド10に組付けられていて、外周をシリンダ40の内周に摺接させている。そして、このピストン1は、シリンダ40内を伸側室R1と圧側室R2とに仕切っている。
【0017】
より詳しくは、ピストン1は、有底筒状であって、この実施の形態では、その底部1aに、ピストンロッド10が挿通される挿通孔1eと、四つの伸側ポート2と、四つの圧側ポート3が設けられている。伸側ポート2と圧側ポート3はそれぞれピストン1における底部1aを軸方向となる上下方向に貫いており、伸側室R1と圧側室R2とを連通している。また、伸側ポート2は、ピストン1の底部1aに周方向に等間隔に配置されており、圧側ポート3もまたピストン1の底部1aに周方向に等間隔に配置されている。
【0018】
伸側ポート2と圧側ポート3は、ピストン1の周方向に交互に配置されている。そして、ピストン1の底部1aの伸側室側端aには、四つの圧側ポート3をそれぞれ他から独立して取り囲む弁座8を備えている。この弁座8は、底部1aから伸側室側へ向けて突出しており、上記挿通孔1e回りを取り囲む環状部8aと、環状部8aに連なる四つの平面視で扇状のシート部8bとを備え、底部1aにおける弁座8が設けられていない部位、つまり、シート部8bとシート部8bとの周方向間は、圧側室側へ凹んだ形状となっていて、シート部8b,8bの周方向間に伸側ポート2が開口している。また、底部1aには、弁座8のシート部8bとシート部8bの周方向間には、それぞれ突起1fが設けられている。より具体的には、圧側ポート3の伸側室側端には、それぞれ独立窓3aが設けられており、弁座8におけるシート部8bは、これら独立窓3aの四方を取り囲んでいる。また、この実施の形態では、図5に示すように、圧側ポート3が設けられる円環帯状のゾーンZ(図中斜線で示した部分)よりも内周側に伸側ポート2が配置されるようになっている。
【0019】
さらに、ピストン1の底部1aの圧側室側端bには、図1および図3に示すように、四つの伸側ポート2の圧側室側端の全てに連通される環状凹部でなる環状窓7が設けられており、この環状窓7の外周であって全ての圧側ポート3よりも内周側には環状弁座9が設けられている。この実施の形態では、圧側ポート3が設けられる円環帯状のゾーンよりも内周側に伸側ポート2が配置されているので、環状弁座9で伸側ポート2の出口に連なる環状窓7を取り囲むことができ、後述する伸側リーフバルブ4の全周に伸側室R1内の圧力を均等に作用させることができるようになっている。
【0020】
そして、図1、図2に示すように、ピストン1の底部1aの伸側室側端aの圧側ポート3の端部である各独立窓3aの内周側から開口して伸側ポート2に通じる四つの通孔6が設けられている。具体的には、通孔6は、ピストン1の底部1aを軸方向となる図1中上下方向に沿って貫いており、その圧側室側端は、環状窓7に通じていて、当該環状窓7を介して伸側ポート2へ通じている。また、通孔6の伸側室側端は、ピストン1の底部1aに設けた平面図で略矩形の窪み13に通じており、この窪み13は、中心へ向けて深さが徐々に深くなるようになっていて最深部に伸側ポート2が開口しており、ピストン1の底部1aに上記した独立窓3aに干渉せず当該独立窓3aの内周側に設けられていて弁座8におけるシート部8bで四方が囲まれている。
【0021】
なお、伸側ポート2、圧側ポート3の設置数は、上記した四つに限られるものではなく、任意の決定することができ、通孔6は、圧側ポート3の設置数に対応する数を設けるようにすればよく、また、通孔6は、複数ある伸側ポート2のうち、いずれかに連通されればよい。
【0022】
また、図4に示すように、ピストン1の筒部1bの外周には、複数の環状溝1cが設けられており、この筒部1bの外周に、図1、図4および図6に示すように、合成樹脂のピストンリング11が装着される。具体的には、ピストンリング11は、円盤状の合成樹脂母材をピストン1の筒部1bの外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて装着される。なお、図7および図8に示すように、筒部1bに、環状凹部1dを設けておき、当該環状凹部1d内に割り入り環状のピストンリング12を装着するようにすることも当然に可能である。なお、図4、図6、図7は、図示するところでは、ピストン1の正面図を示しているが、背面図、左側面図および右側面図は、正面図と同一である。
【0023】
このように構成されたピストン1には、上記したようにピストンロッド10の小径部10aに組み付けられる。ピストンロッド10は、その先端の小径部10aをピストン1の図1中下方側に突出させてあり、小径部10aのさらに先端には螺子部10bが設けられ、小径部10aの図1中上方側が小径部10aより大径とされているので、この小径部10aと小径部10aより上方との境に段部10cが形成されている。
【0024】
そして、ピストン1の図1中上端となる伸側室側端aには、環状の圧側リーフバルブ5、環状の間座14および環状のバルブストッパ15が順に積層され、ピストン1の図1中下端となる圧側室側端bには、環状の伸側リーフバルブ4および環状の間座16が積層されて、これらの部品が全て上記ピストンロッド10の小径部10aに組みつけられる。ピストンロッド10の小径部10aに設けた螺子部10bに螺着されるピストンナット17によって、図1中上から順に、バルブストッパ15、間座14、圧側リーフバルブ5、ピストン1、伸側リーフバルブ4および間座16がピストンロッド10に固定される。より詳しくは、バルブストッパ15、間座14、圧側リーフバルブ5、ピストン1、伸側リーフバルブ4および間座16がピストンナット17とピストンロッド10の段部10cに挟持されて、ピストンロッド10に固定される。
【0025】
伸側リーフバルブ4は、この実施の形態では、複数の環状板を積層して構成されており、内周側がピストンロッド10に固定されていて、その外周の撓みが許容されるようになっている。そして、何ら負荷が作用しない場合、伸側リーフバルブ4におけるピストン1の底部1aに接触する図1中最上段の環状板は、環状弁座9に着座して伸側ポート2を閉塞するが、その外径は、環状弁座9の外周に配置される圧側ポート3を閉塞しない径に設定されていて、伸側ポート3の圧側室側端には干渉しないようになっている。また、伸側リーフバルブ4は、伸側ポート2を介して作用する伸側室R1の圧力で押されて撓むと環状弁座9から離れて伸側ポート2を開くようになっている。
【0026】
これに対して、圧側リーフバルブ5は、この実施の形態では、伸側リーフバルブ4と同様に、複数の環状板を積層して構成されており、内周側がピストンロッド10に固定されていて、その外周の撓みが許容されるようになっている。そして、何ら負荷が作用しない場合、圧側リーフバルブ5におけるピストン1の底部1aに接触する図1中最下段の環状板は、弁座8に着座して圧側ポート3を閉塞するが、弁座8のシート部8b,8bの周方向は凹んでおり、そこに伸側ポート2が開口しているので、圧側リーフバルブ5は、圧側ポート3を閉塞しても伸側ポート2を閉塞しないようになっている。また、圧側リーフバルブ5は、圧側ポート3を介して作用する圧側室R2の圧力で押されて撓むと弁座8のシート部8bから離れて圧側ポート3を開くようになっている。
【0027】
なお、上述したように、ピストン1の底部1aであって弁座8のシート部8b間は凹んでおり、圧側リーフバルブ5が伸側室R1の圧力を受けるとシート部8bによって支えられていない部位が伸側ポート2を閉塞する方向へ撓もうとするが、シート部8b間には、突起1fが突設されていて圧側リーフバルブ5を支えるので、上記の如く撓んで伸側ポート2への流路面積を制限しないようになっている。
【0028】
なお、伸側リーフバルブ4および圧側リーフバルブ5は、複数の環状板を積層して構成されていて、当該環状板の積層枚数で撓み剛性を調節することができるようになっているが、緩衝器に要求される減衰特性(緩衝器のピストン速度に対して発生する減衰力の特性)に応じて環状板の積層枚数を任意に設定することが可能である。
【0029】
さて、このように構成されたバルブ構造では、ピストン1が図1中下方に移動する緩衝器の収縮作動時において、圧縮される圧側室R2の圧力が上昇して圧側リーフバルブ5の外周が撓んで圧側ポート3を開く際に、作動油中に紛れ込んでいるコンタミナントが圧側ポート3を通過する作動油の流れによって、圧側リーフバルブ5とピストン1に設けた弁座8との間であって圧側ポート3よりも内周側へ入り込んでも、圧側ポート3よりも内周側が通孔6を介して伸側ポート2へ通じていて、伸側ポート2における圧側室側端は圧側室R2の圧力でピストン1に押しつけられる伸側リーフバルブ4によって閉塞されて反対の伸側室側端が伸側室R1に常時通じているため、図9に示すように、図中矢印にしめしたように、通孔6、伸側ポート2を通過して伸側室R1へ至る作動油の流れが生じる。そのため、コンタミナントは、圧側リーフバルブ5とピストン1に設けた弁座8との間の隙間にとどまることなく、上記した作動油の流れによって、通孔6へ排出される。
【0030】
本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5とバルブディスクとしてのピストン1との間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止され、圧側リーフバルブ5のピストン1からの浮き上がりが阻止されるから、緩衝器の作動方向が切り替わっても、圧側リーフバルブ5の外周が振動することがなく、大きな異音の発生も阻止される。
【0031】
また、本発明のバルブ構造によれば、他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ5とバルブディスクとしてのピストン1との間にコンタミナントが挟み込まれることが阻止されるため、圧側リーフバルブ5は確実に圧側ポート3を閉塞することができ、緩衝器の伸長作動時に減衰力不足を招くことがなく、減衰力も安定する。
【0032】
さらに、この実施の形態では、全ての圧側ポート3の開口の内周側のそれぞれに窪み13を設け、通孔6が窪み13に開口するようになっており、窪み13があることで、圧側リーフバルブ5とピストン1における弁座8との間の隙間に入り込んだコンタミナントを速やかに通孔6へ導くことができ、また、緩衝器が収縮作動から伸長作動へ切換り、圧側リーフバルブ5が撓んだ後に復元力で弁座8に着座した際にも、コンタミナントを通孔6へ導くことができ、コンタミナントの圧側リーフバルブ5とピストン1との間での挟み込みを確実に阻止することが可能であり、仮に窪み13にコンタミナントが残ったとしても、圧側リーフバルブ5の弁座8からの浮き上がりを防止することができる。
【0033】
またさらに、バルブディスクとしてのピストン1の圧側室側端bに全ての一方側ポートとしての伸側ポート2の他方室側の開口に通じる環状窓7を設け、通孔6が当該環状窓7を介して伸側ポート2に連通されるようにすることで、通孔6をピストン1に対して軸方向に沿って形成することができるので、通孔6を穿設する孔開け加工が簡単となり、バルブ構造が具現化されるバルブディスクの製造コストが低減される。なお、通孔6が上記のように構成されることで種々の利点があるが、通孔6は、他方側ポートとしての圧側ポート3の内周側から開口して一方側ポートとしての伸側ポート2へ通じればよいので、上記した構造に限定されるものではなく、ピストン1の軸方向に対して斜めに設けられてもよいし、途中で曲っていてもよい。
【0034】
なお、上記したところでは、一方室を伸側室R1とし、他方室を圧側室R2とし、一方側ポートを伸側ポート2とし、他方側ポートを圧側ポート3とし、一方側リーフバルブを伸側リーフバルブ4とし、他方側リーフバルブを圧側リーフバルブ5としているが、一方室を圧側室R2とし、他方室を伸側室R1とし、一方側ポートを圧側ポート3とし、他方側ポートを伸側ポート2とし、一方側リーフバルブを圧側リーフバルブ5とし、他方側リーフバルブを伸側リーフバルブ4としてもよく、この場合は、たとえば、ピストン1の底部1aの構造を図1中天地逆にすることで実現できる。
【0035】
ピストン1の底部1aにおける伸側室側端aに各圧側ポート3を独立して取り囲む花弁型の弁座を設けるとともに、ピストン1の底部1aにおける圧側室側端bに各伸側ポート2を独立して取り囲む花弁型の弁座を設けることも可能であり、この場合には、通孔は、圧側ポート3の内周側から開口して伸側ポート2へ通じるものと、伸側ポート2の内周側から開口して圧側ポート3へ通じるものを設けることで、圧側リーフバルブ5の浮き上がりのみならず伸側リーフバルブ4の浮き上がりを阻止することができる。
【0036】
また、上記したところでは、バルブ構造が緩衝器のピストン部に具現化した場合について説明したが、本発明のバルブ構造は、一方室と他方室の一方を緩衝器の圧側室とし、一方室と他方室の一方を緩衝器の体積補償用のリザーバとし、バルブディスクを緩衝器のシリンダの端部に取付られて圧側室とリザーバとを区画する仕切るベースバルブのバルブケースとすることも可能である。
【0037】
なお、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のバルブ構造は、緩衝器のバルブに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 バルブディスクとしてのピストン
2 一方側ポートとしての伸側ポート
3 他方側ポートとしての圧側ポート
4 一方側リーフバルブとしての伸側リーフバルブ
5 他方側リーフバルブとしての圧側リーフバルブ
6 通孔
7 環状窓
13 窪み
R1 一方室としての伸側室
R2 他方室としての圧側室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器内に一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、当該バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の一方側ポートと、同じく上記バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の他方側ポートと、上記バルブディスクの他方室側端に積層されて上記一方側ポートのみを開閉する環状の一方側リーフバルブと、上記バルブディスクの一方室側端に積層されて上記他方側ポートのみを開閉する環状の他方側リーフバルブとを備え、上記一方側ポートと上記他方側ポートが上記バルブディスクに周方向で交互に配置されたバルブ構造において、上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側から開口して上記一方側ポートに連通される複数の通孔を設けたことを特徴とするバルブ構造。
【請求項2】
上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側のそれぞれに窪みを設け、上記通孔は窪みに開口すること特徴とする請求項1に記載のバルブ構造。
【請求項3】
上記バルブディスクの他方室側端に上記した全ての一方側ポートの他方室側の開口に通じる環状窓を設け、上記通孔は当該環状窓を介して上記一方側ポートに連通されることを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ構造。
【請求項4】
上記バルブディスクは、緩衝器におけるシリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンであって、上記一方室は、上記伸側室であり、上記他方室は、上記圧側室であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバルブ構造。
【請求項1】
緩衝器内に一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、当該バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の一方側ポートと、同じく上記バルブディスクに設けられて上記一方室と上記他方室とを連通する複数の他方側ポートと、上記バルブディスクの他方室側端に積層されて上記一方側ポートのみを開閉する環状の一方側リーフバルブと、上記バルブディスクの一方室側端に積層されて上記他方側ポートのみを開閉する環状の他方側リーフバルブとを備え、上記一方側ポートと上記他方側ポートが上記バルブディスクに周方向で交互に配置されたバルブ構造において、上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側から開口して上記一方側ポートに連通される複数の通孔を設けたことを特徴とするバルブ構造。
【請求項2】
上記バルブディスクの一方室側端であって上記した全ての他方側ポートの開口の内周側のそれぞれに窪みを設け、上記通孔は窪みに開口すること特徴とする請求項1に記載のバルブ構造。
【請求項3】
上記バルブディスクの他方室側端に上記した全ての一方側ポートの他方室側の開口に通じる環状窓を設け、上記通孔は当該環状窓を介して上記一方側ポートに連通されることを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ構造。
【請求項4】
上記バルブディスクは、緩衝器におけるシリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンであって、上記一方室は、上記伸側室であり、上記他方室は、上記圧側室であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバルブ構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−255467(P2012−255467A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127924(P2011−127924)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
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