説明

バルブ装置

【課題】応答性能を高めることができると共に、流体の流量制御が可能であり、宇宙機用スラスタに好適なバルブ装置を提供する。
【解決手段】流体の入口側から出口側に至る流路の途中に、流路の一部となる流通孔5を有するバルブシート6を備え、バルブシート6の流路入口側に、流通孔5を閉塞する状態に弾性保持したボール7を備えると共に、バルブシート6の流路出口側に、流通孔5を通してボール7を押動するポペット8と、ポペット8を往復駆動する圧電アクチュエータ2を備えた構成により、応答性能を高めて、レギュレータを用いずに流体の流量制御を行うことを可能にし、宇宙機用スラスタに好適なバルブ装置Vとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流通制御を行うのに用いるバルブ装置に関し、例えば、宇宙機用スラスタ等の流体機器に用いるのに好適なバルブ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のバルブ装置としては、例えば、ガスジェネレータからのガスを噴射するノズルに対して、同ノズルを開閉するポペットを備えたフローティングポペットバルブや、流体の入口側から出口側に至る流通経路の途中を開閉するソレノイドバルブを用いたものがあった(非特許文献1参照)。
【0003】
フローティングポペットバルブは、ノズルに連通するシリンダにポペットを往復動可能に収容し、シリンダ内壁とポペット外周との間にオリフィスを形成すると共に、ポペットの背後に圧力室を形成し、圧力室に連通するブリード通路と、ブリード通路を開閉するパイロットバルブを備えている。そして、パイロットバルブを閉じると、ガスジェネレータからのガスがオリフィスを経て圧力室に導入され、その圧力でポペットが前進してノズルを閉塞する。また、パイロットバルブを開くと、圧力室からガスが放出され、ポペットが後退してノズルを開放する。
【非特許文献1】2nd Annual AIAA SDIO Interceptor Technology Conference (June 6-9,1993)「AIAA93-2641 Solid Propulsion Approaches For Terminal Steering」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、宇宙機用スラスタに使用するバルブ装置には、宇宙機の推進機能や姿勢制御機能の高精度化を図るうえで、より高い応答性能や推力制御性能が要求されている。
【0005】
ところが、上記したような従来のバルブ装置は、その応答性能が充分であるとは言い難く、しかも、流路の開度が一定であるため、流体の流量を変化させるには、流体供給源とバルブの間にレギュレータを設けて流体の流量調整(圧力調整)をする必要があり、これにより装置構造や制御系が複雑化するという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであって、応答性能を高めることができると共に、流体の流量制御が可能であり、宇宙機用スラスタ等の流体機器に好適なバルブ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバルブ装置は、流体の入口側から出口側に至る流路の途中に、流路の一部となる流通孔を有するバルブシートを備え、バルブシートの流路入口側に、流通孔を閉塞する状態に弾性保持したボールを備えると共に、バルブシートの流路出口側に、流通孔を通してボールを押動するポペットと、ポペットを往復駆動する圧電アクチュエータを備えた構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバルブ装置は、上記構成を採用したことにより、応答性能を高めることができるうえに、レギュレータを用いることなく流体の流量制御を行うことが可能となり、宇宙機用スラスタ等の流体機器に好適であって、装置構造や制御系の簡略化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本発明のバルブ装置の一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図1に示す姿勢において上下方向を表すと共に、図2の下側を正面側としているが、上下方向は必ずしも重力方向ではない。
【0010】
図1〜図3に示すバルブ装置Vは、流体の入口側から出口側に至る流路を形成するバルブボディ1と、圧電アクチュエータ2を収容した角筒状の保護カバー3とで主な外観を構成し、保護カバー3の下端部に、ホルダ4を介してバルブボディ1が連結してある。
【0011】
バルブ装置Vは、バルブボディ1に形成した流路の途中に、流路の一部となる流通孔5を有するバルブシート6を備え、バルブシート6の流路入口側(下側)に、流通孔5を閉塞する状態に弾性保持したボール7を備えると共に、バルブシート6の流路出口側(上側)に、流通孔5を通してボール7を押動するポペット8と、ポペット8を往復駆動する圧電アクチュエータ2を備えている。
【0012】
より詳しく説明すると、バルブボディ1は、上下に開放された中空部と、複数の連結ポートP1〜P5を備えたブロック状の部材であって、この実施形態では、中空部の下側を流路入口側となる第1連結ポートP1としている。
【0013】
また、バルブボディ1は、図2に示すように、正面側に、流路出口側に連通する第2連結ポートP2を備えると共に、左側に、流路入口側に連通する第3連結ポートP3を備えており、背面側に、流路入口側及び流路出口側と個別に連通する第4連結ポートP4を備えると共に、右側に、流路出口側に連通する第5連結ポートP5を備えている。
【0014】
さらに、バルブボディ1は、中空部のほぼ中間に環状突出部9を有し、環状突出部9の上側に、前記バルブシート7と、その上側となる概略円筒状のポペットガイド10が同軸状態で収容してあり、環状突出部9の内側に、その内径よりも小さい直径を有する前記ボール7が収容してある。
【0015】
さらに、バルブボディ1は、第1連結ポートP1に、軸線上に流体ポート11を有する連結部材12が固定してあり、バルブボディ1と連結部材12との間の空間に、ボール7の下側を受けるボールリテーナ13と、ボールリテーナ13を上方向へ付勢するバルブスプリング14と、バルブスプリング14の内側に配置したフィルタリテーナ15及びフィルタ16が収容してある。
【0016】
上記の構成により、ボール7は、バルブスプリング14の反発力でボールリテーナ13とともに上方向に付勢され、バルブシート6の流通孔5を閉塞する状態に弾性保持されている。また、ボールリテーナ13及びフィルタリテーナ15は、いずれも上下方向の貫通孔を有し、各貫通孔が流路の一部を形成している。
【0017】
次に、前記保護カバー3は、下端部を前記ホルダ4に連結すると共に、上端部に固定板17が設けてあり、圧電アクチュエータ2、支柱18,19及びアクチュエータリテーナ20等を収容している。
【0018】
固定板17は、その中央に、ナット21と、ナット21に螺合貫通するスピンドル22が設けてある。スピンドル22の下端部には、ジョイント23を介してアクチュエータリテーナ20が連結してある。
【0019】
支柱18,19は、互いに平行に配置され、夫々の下端部をホルダ4に連結すると共に、夫々の上端部を固定板17に連結している。
【0020】
圧電アクチュエータ2は、複数の圧電素子を積層して成る積層型であり、駆動電圧の印加をオン・オフすることで伸縮駆動されると共に、駆動電圧の増減により伸長量を調整することが可能である。圧電アクチュエータ2は、下側となる先端部に前記ポペット8を連結し、ポペット8を前記ポペットガイド10に摺動自在に挿入した状態にして、上側となる後端部をアクチュエータリテーナ20に連結している。
【0021】
また、ポペット8は、バルブシート6の流通孔5の内径よりも充分に小さい直径の小径先端部を有し、流通孔5を通して前記ボール7を押動する。
【0022】
上記の構成により、スピンドル22を回転操作すると、アクチュエータリテーナ20を介して圧電アクチュエータ2の軸線方向の位置を微調整することができる。圧電アクチュエータ2は、スピンドル22及びアクチュエータリテーナ20により定位置に保持されている。また、保護ケース3の上端部には、スピンドル22等を被うキャップ25が取付けてある。
【0023】
ここで、図示例のバルブ装置Vは、例えば、宇宙航行体などの宇宙機用スラスタに用いられるものであって、流路入口側である第1連結ポートP1の連結部材12に、流体の供給源26が直接連結してあり、流体出口側に通じる第5連結ポートP5に、流体の噴射ノズル27が螺着してある。
【0024】
また、第2連結ポートP2には、流路出口側の圧力を測定する圧力センサ(図示せず)が連結してあると共に、第3連結ポートP3には、流路入口側の圧力を測定する圧力センサ(図示せず)が連結してあり、第4連結ポートP4には、流路入口側及び流路出口側の個々の温度を測定する温度センサS1,S2が連結してある。
【0025】
宇宙機用スラスタは、宇宙機の三軸方向及び三軸回り方向の姿勢制御を行うので、複数のバルブ装置Vを使用し、各噴射ノズル27が所定の方向となるように各バルブ装置Vを配置することとなる。
【0026】
上記構成を備えたバルブ装置Vは、各構成部位の材料がとくに限定されるものではないが、例えば、圧電アクチュエータ2の圧電素子には、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の圧電セラミックスなどを用いることができる。また、ボール7には、窒化ケイ素セラミックス等のセラミックス材料を使用することがより望ましい。さらに、流体としては、宇宙機用スラスタに適用する場合、GNやLPG等の気体又は液体が用いられる。
【0027】
なお、図示の構成において、バルブボディ1とバルブシート6の間、バルブボディ1とポペットガイド10の間、バルブボディ1と連結部材12の間、及びバルブボディ1と噴射ノズル27の間は、夫々Oリングを介装して気密性を保持している。また、各図中の符号28は、圧電アクチュエータ2と図外の電源との接続するリード線である。
【0028】
上記構成を備えたバルブ装置Vは、圧電アクチュエータ2に駆動電圧を印加していない状態では、流体の流路の途中に設けたバルブシート6において、その流通孔5をボール7で閉塞している。
【0029】
また、バルブ装置Vは、圧電アクチュエータ2に駆動電圧を印加すると、圧電アクチュエータ2が伸長するのに伴ってポペット8が前進(下降)し、このポペット8でボール7を下方向へ押動し、バルブシート6の流通孔5を開放する。これにより、供給源26からの流体が、フィルタリテーナ15及びボールリテーナ13の各貫通孔、バルブシート6の流通孔5を経て、噴射ノズル27から噴出することとなる。
【0030】
このように、バルブ装置Vは、圧電アクチュエータ2を採用したことで、フローティングポペットバルブやソレノイドバルブを用いた従来の装置に比べて、応答性能を著しく高めることができ、しかも、圧電アクチュエータ2に印加する駆動電圧の大きさや通電時間を調整すれば、バルブシート6の流通孔5の開度や開閉時間が変化するので、レギュレータを用いることなく流体の流量制御(圧力調整)を行うことができる。つまり、宇宙機用スラスタの推力制御を行うことができる。
【0031】
ところで、圧電アクチュエータを用いる場合、この圧電アクチュエータで往復駆動するポペットによってバルブシートを直接的に開閉する構成も考えられる。しかし、このような場合には、供給源からの流体の圧力がポペットに直接作用するので、例えば、長期的な運用においてポペットの軸線とバルブシートの軸線との間にごく僅かな傾きが生じると、バルブシートとポペットの間から流体が容易に漏出する虞がある。
【0032】
これに対して、当該バルブ装置Vは、流体の流路の途中に、バルブシート6を設けると共に、このバルブシート6の流通孔5を流路入口側から閉塞するボール7を採用しているので、供給源からの流体の圧力が高くても、その圧力がボール7に対して閉塞方向に作用することとなり、しかも、ボール7が回転しても、その軸線とバルブシート6の軸線は常に一致しているので、流体が漏出するような心配は全く無い。
【0033】
したがって、当該バルブ装置Vは、長期間にわたって流体の正確な流量制御を行うことが可能であると共に、高圧力にも対応可能であるから、レギュレータを用いることなく、流体の供給源26として高圧のボンベ類を直接連結することができ、装置構造や制御系の簡略化を図ることができる。
【0034】
また、当該バルブ装置Vは、複数の圧電素子を積層して成る積層型の圧電アクチュエータ2を採用したことから、低い駆動電圧で大きな駆動量を得ることができる。さらに、当該バルブ装置Vは、セラミックス製のボール7を採用したことにより、ポペット8の打痕を防止することができ、流体の漏出阻止機能をより高めることができる。なお、金属製のボール7を用いると、その材質によってはポペット8の打痕が生じる虞がある。
【0035】
さらに、当該バルブ装置Vは、流体の流路を形成するバルブボディ1として、複数の連結ポートP1〜P5を備えたものを採用したことにより、これらの連結ポートP1〜P5を選択的に使用することが可能であって、とくに宇宙機用スラスタに適用する場合に、設計の自由度を高めることができる。また、上記の実施形態では、連結ポートP1〜P5に機能部品を連結した場合を例示したが、とくに必要の無い連結ポートを適当な部材で閉塞しておくことも可能である。
【0036】
このように、当該バルブ装置Vは、応答性能、耐圧性能及び信頼性に優れると共に、レギュレータを用いずに流体の流量制御を行うことが可能であるから、このようなバルブ装置Vを用いた宇宙機用スラスタは、宇宙機の推進機能や姿勢制御機能のさらなる高精度化や、装置構造や制御系の簡略化などを実現することができ、長期的な運用にも充分に耐え得るものとなる。
【0037】
なお、本発明のバルブ装置は、その構成の細部が上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能であり、さらに、宇宙機用スラスタ以外の各種流体機器における流体の流通制御に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のバルブ装置の一実施形態を説明する断面図である。
【図2】図1に示すバルブ装置の平面図である。
【図3】図1に示すバルブ装置の部分破断状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
V バルブ装置
2 圧電アクチュエータ
5 流通孔
6 バルブシート
7 ボール
8 ポペット
26 流体の供給源
27 噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の入口側から出口側に至る流路の途中に、流路の一部となる流通孔を有するバルブシートを備え、バルブシートの流路入口側に、流通孔を閉塞する状態に弾性保持したボールを備えると共に、バルブシートの流路出口側に、流通孔を通してボールを押動するポペットと、ポペットを往復駆動する圧電アクチュエータを備えたことを特徴とするバルブ装置。
【請求項2】
圧電アクチュエータが、複数の圧電素子を積層して成る積層型の圧電アクチュエータであることを特徴とする請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項3】
ボールがセラミックス製であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項4】
流路入口側に流体の供給源を連結すると共に、流路出口側に流体の噴射ノズルを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−287620(P2009−287620A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138883(P2008−138883)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(393019115)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース・エンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】