説明

バルーン付きアブレーションカテーテル及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステム

【課題】カテーテルアブレーションによる治療時に、アブレーションカテーテル本体の交換をすることなく、バルーンアブレーションとスポットアブレーションを一台のアブレーションカテーテルで行うこと。
【解決手段】カテーテルシャフト3と、カテーテルシャフト3の長手方向における先端側に取り付けられたバルーン2と、長手方向における後端側の端面からバルーン2に連通するルーメンと、バルーン2の内部に配置されたバルーン内電極10及びバルーン内温度センサ11と、長手方向における先端側の端面を含む先端領域に取り付けられた先端部電極14及び先端部温度センサ15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーン付きアブレーションカテーテル及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カテーテルアブレーションは、心腔内にアブレーション用カテーテルを挿入し、先端部電極と対極板の間で熱を加えて心筋組織を焼灼し、不整脈を治療する方法である。カテーテルアブレーションは、主に、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房粗動、発作性心室頻拍などの頻脈性不整脈の治療のために施され、心臓電気生理学的検査で不整脈の発生機序及び発生部位を診断した後に、アブレーション用カテーテルの電極を心腔内から不整脈の発生部位へと到達させ、そこで原因となる心筋組織に電極を押し当て、50〜65℃で約60秒間温める操作を繰り返す手法である。
【0003】
現在使用されているアブレーション用カテーテルの多くは、カテーテルの先端部に金属製電極を有するものであって、金属製電極を心筋組織に点状に接触させ、少しずつ移動させながら焼灼ラインを形成し、不整脈の発生部位を隔離する手法をとるのが一般的である(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、金属製電極を有するアブレーション用カテーテルでは、焼灼ラインを形成して不整脈の発生部位を隔離するのに数十回のアブレーションを繰り返す必要があるため、手技が長時間化し、患者に多大な負担をかけるという問題点があった。また、アブレーション用カテーテルで焼灼ラインを形成するには、小さな金属製電極を心筋組織の標的部位に正確に接触させる必要があるため、医師にアブレーション用カテーテルを操る高度な技術が必要であった。さらに、心筋組織は点状に焼灼されるため、焼灼部位間に隙間のある不十分な焼灼ラインが形成されてしまうことがあり、この場合には、不整脈の発生部位を完全に隔離できず、不整脈を再発させてしまう可能性があった。
【0005】
上記問題を解決すべく、近年、カテーテルシャフトの先端部にバルーンを有するバルーン付きアブレーションカテーテルが開発され、高周波発生装置及びバルーン表面温度均一化装置を備えたバルーン付きアブレーションカテーテルシステムが報告されている(特許文献2及び3)。
【0006】
バルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、カテーテルシャフトの先端側に取り付けられたバルーンを加熱用液体で膨張させ、高周波発生装置から通電された高周波電流によって加熱用液体を加熱し、バルーン表面と接触した心筋組織全体を焼灼(以下、バルーンアブレーション)するシステムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4151910号公報
【特許文献2】特許第3607231号公報
【特許文献3】特許第3892438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを用いても、不整脈の発生部位を完全に隔離できないケースが多々あり、バルーンが到達できない部位の場合には、金属製電極を有するアブレーション用カテーテルを用いて追加の点状の焼灼(以下、スポットアブレーション)を施さねばならないのが現状である。この場合には、バルーン付きアブレーションカテーテルを患者から抜去した上で、別途、予め用意しておいた金属製電極を有するアブレーションカテーテルを心腔内に再度挿入する必要が生じ、手技の長時間化により医師及び患者に多大な負担をかけることとなっている。
【0009】
そこで本発明は、カテーテルアブレーションによる治療時に、アブレーションカテーテル本体の交換をすることなく、バルーンアブレーションとスポットアブレーションを一本のアブレーション用カテーテルで行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、スポットアブレーション機能を備えるバルーン付きアブレーションカテーテルの作製に成功し、以下の発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトの長手方向における先端側に取り付けられたバルーンと、上記長手方向における後端側の端面から上記バルーンに連通するルーメンと、上記バルーンの内部に配置されたバルーン内電極及びバルーン内温度センサと、上記長手方向における先端側の端面を含む先端領域に取り付けられた先端部電極及び先端部温度センサとを備える、バルーン付きアブレーションカテーテルを提供する。
【0012】
上記のバルーン付きアブレーションカテーテルは、アブレーションカテーテル本体を交換することなく、バルーンアブレーションとスポットアブレーションの双方を実施可能とする。
【0013】
上記カテーテルシャフトの長手方向における先端側の端面から上記長手方向における上記先端部電極の先端までの距離は、4〜10mmであることが好ましい。
【0014】
上記カテーテルシャフトの長手方向における先端側の端面から上記長手方向における上記先端部電極の先端までの距離を4〜10mmにすれば、バルーンアブレーション時に、先端部電極と接触した組織や血液の意図しない異常発熱を防止できる。
【0015】
また本発明は、上記のバルーン付きアブレーションカテーテルと、下記a)の第1のバルーン加熱回路と下記b)の先端加熱回路を切り換える回路切換スイッチとを備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを提供し、このバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、上記第1のバルーン加熱回路又は上記先端加熱回路のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置を備えていることが好ましい。
a) 上記バルーン内電極、対電極、上記バルーン内温度センサ及び高周波発生装置からなる第1のバルーン加熱回路
b) 上記先端部電極、上記対電極、上記先端部温度センサ及び上記高周波発生装置からなる先端加熱回路
【0016】
上記のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムにより、バルーンアブレーション実施中における上記バルーンの表面温度を、目的とする温度に均一に維持することができ、上記回路切換スイッチによりバルーンアブレーションとスポットアブレーションを選択的に切り換えることができる。
【0017】
また、上記第1のバルーン加熱回路のインピーダンス測定により、上記バルーンにピンホールが発生した場合のインピーダンス変化を容易に検知できる。その結果、損傷を受けた上記バルーン付きアブレーションカテーテルでの治療を中断し、すぐにカテーテル交換ができるため、患者負担を低減することができる。また、上記先端加熱回路のインピーダンス測定により、焼灼部位における適切な治療完了時期が判断できるため、過剰な焼灼を防止し、合併症の発生を防止できる。
【0018】
また、上記バルーン内電極は、2個配置されていることが好ましい。
【0019】
バルーン内電極が2個配置されていれば、バルーンの内部でのみ高周波電流が通電し、先端部電極に高周波電流が通電しないことから、上記カテーテルシャフトの長手方向における先端側の端面から上記長手方向における上記先端部電極の先端までの距離に関わらず、バルーンアブレーション時に、先端部電極と接触した組織や血液の意図しない異常発熱を防止できる。
【0020】
また本発明は、バルーン内電極が2個配置されている上記のバルーン付きアブレーションカテーテルと、下記b)の先端加熱回路と下記c)の第2のバルーン加熱回路を切り換える回路切換スイッチとを備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムを提供し、このバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、上記先端加熱回路のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置を備えていることが好ましい。
b) 上記先端部電極、対電極、上記先端部温度センサ及び高周波発生装置からなる先端加熱回路
c) 上記バルーン内電極、上記バルーン内温度センサ及び上記高周波発生装置からなる第2のバルーン加熱回路
【0021】
上記バルーン付きアブレーションカテーテルシステムにより、バルーンアブレーション実施中における上記バルーンの表面温度を、目的とする温度に均一に維持することができ、上記回路切換スイッチにより、バルーンアブレーションとスポットアブレーションを選択的に切り換えることができる。
【0022】
また、上記先端加熱回路のインピーダンス測定により、焼灼部位における適切な治療完了時期が判断できるため、過剰な焼灼を防止し、合併症の発生を防止できる。
【0023】
上記のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、上記バルーン内電極と対電極との間、上記バルーン内電極間又は上記先端部電極と上記対電極との間で高周波を通電する高周波発生装置と、上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して上記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置とを備えることが好ましく、上記振動付与装置は、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ及びピストンとシリンダを組み合わせたポンプからなる群から選択されるポンプを備えることが好ましい。
【0024】
上記のポンプを備えることにより、上記ルーメンと上記バルーン内部に充填された上記加熱用液体に、吸引と吐出を周期的に繰り返す振動を付与することができるため、上記バルーンの表面温度を、より効果的に均一に維持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、表面が均一に加熱されたバルーン部分で広範囲に組織をアブレーションした後、カテーテル本体を交換することなく、バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの先端部電極で部分的なスポットアブレーションを実施でき、手技時間の大幅な短縮とそれに伴う患者負担の大幅な低減を達成できる。また本発明によれば、バルーン加熱回路に高周波電流を通電してバルーンアブレーションを実施している最中に、先端部電極と接触した組織や血液が意図せず異常に発熱することを防止できるため、血栓塞栓症、肺静脈狭窄、食道穿孔などの重大な合併症を防ぎ、アブレーション手技の安全性向上が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルを示す概略図である。
【図2】図1のバルーン付きアブレーションカテーテルに使用されるカテーテルシャフトのa−a’線における断面を示す概略図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムを示す概略図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの回路切換スイッチを示す概略図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムを示す概略図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの第二の実施形態の回路切換スイッチを示す概略図である。
【図7】本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの振動付与装置の一実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルを構成する先端部電極の長手方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの長手方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図10】アブレーション温度の試験系の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0028】
本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルは、カテーテルシャフトと、上記カテーテルシャフトの長手方向における先端側に取り付けられたバルーンと、上記長手方向における後端側の端面から上記バルーンに連通するルーメンと、上記バルーンの内部に配置されたバルーン内電極及びバルーン内温度センサと、上記長手方向における先端側の端面を含む先端領域に取り付けられた先端部電極及び先端部温度センサと、を備えることを特徴としている。
【0029】
図1は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルを示す概略図である。図2は、図1のバルーン付きアブレーションカテーテルに使用されるカテーテルシャフトのa−a’線における断面を示す概略図である。
【0030】
図1に示されるバルーン付きアブレーションカテーテル1Aは、外側カテーテルシャフト3を長手方向に貫通するルーメンA5に、内側カテーテルシャフト4が挿入された二重筒式カテーテルシャフトを備え、二重筒式カテーテルシャフトの長手方向における先端側に、膨張及び収縮可能なバルーン2が取り付けられている。なお、バルーン2の先端部は内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端部に固定され、バルーン2の後端部は外側カテーテルシャフト3の長手方向における先端部に固定されており、外側カテーテルシャフト3と内側カテーテルシャフト4との間の空間は、バルーン2の内部と連通している。
【0031】
内側カテーテルシャフト4の長手方向における後端部は、ハンドル6の内部で固定されており、外側カテーテルシャフト3と内側カテーテルシャフト4との間の空間は、ハンドル6の内部とサイドポート7とを経由して、三方活栓8とシリンジ9とに連通している。
【0032】
バルーン内電極10は、バルーン2の内部で、内側カテーテルシャフト4に取り付けられており、バルーン内温度センサ11は、バルーン内電極10の後端に取り付けられている。バルーン内電極10に接続されたバルーン内電極リード線12と、バルーン内温度センサ11に接続されたバルーン内温度センサリード線13とは、内側カテーテルシャフト4を長手方向に貫通するルーメンB19及びハンドル6の内部を挿通している。
【0033】
先端部電極14は、バルーン2の外部で、内側カテーテルシャフト4の先端領域に取り付けられており、先端部温度センサ15は、先端部電極14の内部に埋設するように取り付けられている。先端部電極14に接続された先端部電極リード線16と、先端部温度センサ15に接続された先端部度センサリード線17とは、内側カテーテルシャフト4のルーメンB19及びハンドル6の内部を挿通している。
【0034】
バルーン2の材料としては、抗血栓性に優れた伸縮性のある材料が好ましく、ポリウレタン系の高分子材料がより好ましい。
【0035】
ポリウレタン系の高分子材料としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルウレタン、ポリエーテルポリウレタンウレア、フッ素ポリエーテルウレタンウレア、ポリエーテルポリウレタンウレア樹脂又はポリエーテルポリウレタンウレアアミドが挙げられる。
【0036】
不整脈の発生部位に密着できる観点から、バルーン2の直径としては20〜40mmが好ましく、形状としては球形が好ましく、膜厚としては20〜100μmが好ましい。
【0037】
外側カテーテルシャフト3及び内側カテーテルシャフト4の長さとしては、バルーン2を心筋組織へ到達させる観点から、0.5〜2mが好ましい。
【0038】
外側カテーテルシャフト3及び内側カテーテルシャフト4の直径としては、血管内へ挿入する観点から、2〜5mmであることが好ましい。
【0039】
外側カテーテルシャフト3及び内側カテーテルシャフト4の材料としては、抗血栓性に優れる可撓性のある材料が好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリイミド樹脂が挙げられる。
【0040】
外側カテーテルシャフト3の長軸方向に対して垂直な断面におけるルーメンA5の断面積としては、三方活栓8からシリンジ9を用いて加熱用液体を円滑に供給できる観点から、3〜12mmであることが好ましい。なお、図2に示すようにルーメンA5が円形であれば、その内径としては、2〜4mmが好ましい。
【0041】
バルーン内電極10を、内側カテーテルシャフト4に取り付ける方法としては、例えば、かしめ、接着、溶着又は熱収縮チューブが挙げられる。
【0042】
バルーン内電極10の形状としては、長さが5〜20mmの筒状の形状が好ましく、バルーン内電極10が固定された範囲の可撓性を向上させる観点から、コイル状の形状又は複数個に分割することがより好ましい。
【0043】
コイル状のバルーン内電極10の電線、バルーン内電極リード線12及び先端部電極リード線16の直径としては、0.1〜1mmが好ましい。
【0044】
バルーン内電極10及び先端部電極14の材料としては、例えば、金、銀、プラチナ若しくは銅又はこれら金属の合金が挙げられる。
【0045】
バルーン内電極リード線12及び先端部電極リード線16の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0046】
バルーン内温度センサ11は、バルーン2の内部温度を安定して測定する観点から、バルーン内電極10又は内側カテーテルシャフト4に固定されていることが好ましいが、バルーン2の表面温度を測定する観点から、バルーン2の内面に固定されていても構わない。
【0047】
バルーン内温度センサ11及び先端部温度センサ15としては、例えば、熱電対又は測温抵抗体が挙げられる。
【0048】
バルーン内温度センサリード線13及び先端部温度センサリード線17の直径としては、0.05〜0.5mmが好ましい。
【0049】
バルーン内温度センサリード線13及び先端部温度センサリード線17の材料としては、バルーン内温度センサ11が測温抵抗体であれば、例えば、銅、銀、金、白金若しくはタングステン又はこれら金属の合金が挙げられるが、短絡を防止する観点から、フッ素樹脂などの電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。また、バルーン内温度センサ11が熱電対であれば、熱電対と同じ材料であることが好ましく、例えば、T型熱電対の場合には銅とコンスタンタン、K型熱電対の場合にはクロメルとアルメルが挙げられる。
【0050】
先端部電極14を、内側カテーテルシャフト4に取り付ける方法としては、例えば、かしめ、接着、溶着又は圧入が挙げられる。
【0051】
内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極14の先端までの距離は、バルーンアブレーション時に先端部電極14と接触した組織や血液の意図しない異常発熱を防止する観点から、4mm以上が好ましく、4〜10mmがより好ましい。
【0052】
先端部電極14の先端の形状としては、接触する組織の損傷を防止する観点から、半球状が好ましい。
【0053】
先端部温度センサ15は、先端部電極14の近傍温度を安定して測定する観点から、先端部電極14の内部に埋設するように取り付けられていることが好ましい。
【0054】
加熱用液体としては、膨張したバルーン2がX線透視画像で確認できる観点から、造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。なお、バルーン内電極10に高周波電流を供給する場合には、導電性を有する観点から、イオン系造影剤又は生理食塩水で希釈した造影剤が好ましい。
【0055】
また、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、a)バルーン内電極、対電極、バルーン内温度センサ及び高周波発生装置からなる第1のバルーン加熱回路と、b)先端部電極、対電極、先端部温度センサ及び高周波発生装置からなる先端加熱回路と、を切り換える回路切換スイッチを備えることを特徴としている。
【0056】
図3は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。また、図4は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの回路切換スイッチを示す概略図である。
【0057】
バルーン付きアブレーションカテーテルシステム20Aの構成は、バルーン付きアブレーションカテーテル1A、高周波発生装置21及び振動付与装置22に大別される。
【0058】
内側カテーテルシャフト4のルーメンB19及びハンドル6の内部を挿通した、バルーン内電極リード線12、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17は、回路切換スイッチ23Aに接続されている。
【0059】
先端加熱回路24Aと、第1のバルーン加熱回路25Aとを切り換え可能である回路切換スイッチ23Aに接続された高周波電流リード線26及び測温信号伝達リード線27の他端は、高周波発生装置21に接続される。さらに、患者の体表面に貼り付ける対電極28に接続されたリード線の他端も、高周波発生装置21に接続される。
【0060】
先端加熱回路24Aには、先端部電極リード線16、高周波電流リード線26、先端部温度センサリード線17及び測温信号伝達リード線27が接続されており、対電極28と先端部電極14との間で高周波電流が通電されることで、先端部電極14によるスポットアブレーションが可能となる。
【0061】
スポットアブレーション中は、先端部温度センサ15の測温信号に基づいて、高周波発生装置21内の温度制御ユニットが高周波電流の出力を自動制御する。
【0062】
第1のバルーン加熱回路25Aには、バルーン内電極リード線12、高周波電流リード線26、バルーン内温度センサリード線13及び測温信号伝達リード線27が接続されており、対電極28とバルーン内電極10との間で高周波電流が通電されることで、バルーン2によるバルーンアブレーションが可能となる。
【0063】
バルーンアブレーション中は、バルーン内温度センサ11の測温信号に基づいて高周波発生装置21内の温度制御ユニットが高周波電流の出力を自動制御する。
【0064】
高周波発生装置21の高周波電流の周波数としては、患者の感電を防ぐ観点から、100kHz以上が好ましく、先端加熱回路24A及び第1のバルーン加熱回路25Aの双方を効率良く通電する観点から、1〜5MHzがより好ましい。
【0065】
本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、第1のバルーン加熱回路又は先端加熱回路のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置を備えることが好ましい。
【0066】
インピーダンス測定装置は高周波発生装置21の内部に配置されていることが好ましく、インピーダンスの測定値に応じて、高周波電流の出力を自動制御又は遮断できることが好ましい。
【0067】
スポットアブレーション中、インピーダンス測定装置は、対電極28から先端部電極14までの装置回路及び対電極28と先端部電極14との間の体組織のインピーダンスの和を測定するが、組織壊死等により生じた体組織のインピーダンス変化に基づき、適切なタイミングでスポットアブレーションを終了可能である。
【0068】
バルーンアブレーション中、インピーダンス測定装置は、対電極28からバルーン内電極10までの装置回路並びに対電極28とバルーン内電極との間の挟まれた加熱用液体、バルーン2及び体組織のインピーダンスの和を測定するが、ピンホール等により生じた加熱用液体及びバルーン2のインピーダンスに変化に基づき、直ちにバルーンアブレーションを中断し、患者負担を低減可能である。
【0069】
また、バルーン内電極が2個配置されている本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、b)先端部電極、対電極、先端部温度センサ及び高周波発生装置からなる先端加熱回路と、c)バルーン内電極、バルーン内温度センサ及び高周波発生装置からなる第2のバルーン加熱回路と、を切り換える回路切換スイッチを備えることを特徴としている。
【0070】
図5は、本発明の第二実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの概略図である。また、図6は、本発明の第二実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの回路切換スイッチを示す概略図である。
【0071】
バルーン付きアブレーションカテーテルシステム20Bの構成は、バルーン付きアブレーションカテーテル1B、高周波発生装置21及び振動付与装置22に大別される。
【0072】
内側カテーテルシャフト4のルーメンB19及びハンドル6の内部を挿通した、バルーン内電極リード線12、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17は、回路切換スイッチ23Bに接続されている。さらに、バルーン内電極10より先端側に取り付けられた追加バルーン内電極37に接続された追加バルーン内電極リード線38は、内側カテーテルシャフト4のルーメンB19及びハンドル6の内部を挿通し、回路切換スイッチ23Bに接続されている。
【0073】
先端加熱回路24Bと、第2のバルーン加熱回路25Bとを切り換え可能である回路切換スイッチ23Bに接続された高周波電流リード線26及び測温信号伝達リード線27の他端は、高周波発生装置21に接続される。さらに、患者の体表面に貼り付ける対電極28に接続されたリード線の他端も、高周波発生装置21に接続される。
【0074】
第2のバルーン加熱回路25Bには、バルーン内電極リード線12、追加バルーン内電極リード線38、高周波電流リード線26、バルーン内温度センサリード線13及び測温信号伝達リード線27が接続されており、バルーン内電極10と追加バルーン内電極37との間で高周波電流が通電されることで、バルーン2によるバルーンアブレーションが可能となる。なお、この場合には、対電極28に高周波電流は通電しない。
【0075】
バルーンアブレーション中は、バルーン内温度センサ11の測温信号に基づいて高周波発生装置21内の温度制御ユニットが高周波電流の出力を自動制御する。
【0076】
また、バルーン加熱回路25Bによれば、バルーン内電極10と追加バルーン内電極37との間でのみ高周波電流が通電されることから、先端部電極14への高周波電流漏れは一切なく、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極14の先端までの距離が4mm未満であっても、先端部電極14と接触した組織や血液の意図しない異常発熱は生じ得ない。
【0077】
また、本発明の第二実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、先端加熱回路のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置を備えることが好ましい。
【0078】
インピーダンス測定装置は高周波発生装置21の内部に配置されていることが好ましく、インピーダンスの測定値に応じて、高周波電流の出力を自動制御又は遮断できることが好ましい。
【0079】
スポットアブレーション中、インピーダンス測定装置は、対電極28から先端部電極14までの装置回路及び対電極28と先端部電極14との間の体組織のインピーダンスの和を測定するが、組織壊死等により生じた体組織のインピーダンス変化に基づき、適切なタイミングでスポットアブレーションを終了可能である。
【0080】
さらに、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステムは、バルーン内電極と対電極との間、バルーン内電極間又は先端部電極と対電極との間で高周波を通電する高周波発生装置と、ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、を備えることを特徴としている。
【0081】
図7は、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルの振動付与装置の一実施形態を示す概略図である。
【0082】
ローラー30は、回転軸31を中心として、モータにより回転駆動される。ローラー30がガイド面32と相対向すると、弾性チューブ33の相対向する管壁同士が密着し、弾性チューブ33が遮断されてリザーバ部34が加圧される。一方、ローラー30がガイド面32と相対向していなければ、弾性チューブ33は弾性復帰作用により元の径に拡径されて、弾性チューブ33が連通状態となってリザーバ部34の圧力が解放される。このように、ローラー30の回転によりリザーバ部34からバルーン2へ向けて液体の吸引と吐出を周期的に繰り返すことで、加熱用液体に振動を付与することが可能である。なお、スポットアブレーション中は、加熱用液体への振動付与は不要である。
【0083】
弾性チューブ33の材料としては、弾性復帰が容易な観点から、シリコーンが好ましい。
【0084】
耐圧延長チューブ29としては、内径2〜4mm、長さ0.5〜2mのポリアミド樹脂又はポリ塩化ビニル製チューブが好ましい。
【0085】
振動付与装置22は、三方活栓8及び耐圧延長チューブ29を介して、バルーン付きアブレーションカテーテル1Aと接続されている。
【0086】
振動付与装置としては、バルーン2の内部で効果的に渦状の流れを発生させて、短時間にバルーンの表面温度を均一化する観点から、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置が好ましい。
【0087】
加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に1〜5回繰り返すことが可能である装置としては、動作の効率性、形態性及び経済性の観点から、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ、ピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプからなる群から選択されるポンプを備える装置が好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテル及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムの具体的な実施例を、図を交えて説明する。なお、「長さ」というときは、長軸方向における長さを表すものとする。
【0089】
(実施例1)
ペレセン(ダウ・ケミカル社製)を材料として、ブロー成型法により外径25mm、膜厚40μmのポリウレタン製のバルーン2を作製した。
【0090】
外径3.3mm、内径2.5mm、長さ800mmのポリウレタン製の外側カテーテルシャフト3を作製した。また、ダイアミド(ダイセル・エボニック社製)を材料として、押し出し成型により外径1.7mm、内径1.3mm、長さ930mmの内側カテーテルシャフト4を作製して、外側カテーテルシャフト3のルーメンA5に挿入した。
【0091】
内側カテーテルシャフト4の先端から長さ15mmの位置を開始点として、銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を内側カテーテルシャフト4の後端方向に向かって巻き付けて、長さ15mmのコイル状のバルーン内電極10を形成した。
【0092】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線をバルーン内電極リード線12として、バルーン内電極10の後端に接続して半田で固定した。
【0093】
外径0.1mmの極細熱電対銅線を一方のバルーン内温度センサリード線13とし、外径0.1mmの極細熱電対コンスタンタン線を他方のバルーン内温度センサリード線13として、バルーン内温度センサリード線13の先端同士を接続して半田で固定して得られたT型熱電対をバルーン内温度センサ11とした。バルーン内温度センサ11は、バルーン内電極10の後端に接着剤で固定した。
【0094】
内側カテーテルシャフト4の先端から長さ10mmの位置にバルーン2の先端部を合わせて、バルーン2の先端側を内側カテーテルシャフト4の外周に、バルーン2の後端側を外側カテーテルシャフト3の先端部の外周に熱溶着して固定した。
【0095】
プラチナを材料として、長さ7mm、直径1.7mmの円柱を作製し、円柱の先端を半球状に、円柱の後端から先端側に長さ2mmまでの部分(埋め込み部41)を直径1.3mmに、それぞれ加工して、さらに円柱の後端から先端側に直径0.3mm、長さ5mmの穴39を切削して、図8に示す先端部電極14を作製した。
【0096】
バルーン内温度センサ11と同様に、温度センサリード線17から作製したT型熱電対である先端部温度センサ15を穴39に挿入し、接着剤を充填して固定した。
【0097】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を先端部電極リード線16として、埋め込み部41の端面に接続して半田で固定した。
【0098】
バルーン内電極リード線12、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17にそれぞれテフロン(登録商標)樹脂による被覆を施し、内側カテーテルシャフト4のルーメンB19に挿通した。
【0099】
図9に示すように、先端部電極14の埋め込み部41を内側カテーテルシャフト4の先端部に押し込んで、先端部電極14の先端から長さ5mmの部分、すなわち、露出部40が露出するように接着剤で固定した。この場合、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極14の先端までの距離は、5mmである。
【0100】
内側カテーテルシャフト4のルーメンB19に挿通したバルーン内電極リード線12、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17の他端を封止部材42に貫通させてから、外側カテーテルシャフト3及び内側カテーテルシャフト4の後端部をポリエチレン製のハンドル6の内部に挿入し、接着剤で固定してバルーン付きアブレーションカテーテル1Aを作製した。
【0101】
封止部材42を貫通した、バルーン内電極リード線12、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17を、図4に示すように、回路切換スイッチ23Aの端子に接続して、半田で固定した。
【0102】
外径0.5mmの被覆銅線を用いた高周波電流リード線26を介して、回路切換スイッチ23Aと1.8MHzの高周波発生装置21とを接続した。また、外径0.5mmの被覆銅線及び外径0.5mmの被覆コンスタンタン線を用いた一対の測温信号伝達リード線27を介して、回路切換スイッチ23Aと高周波発生装置21内の温度制御ユニットとを接続した。さらに、リード線を介して、対電極28(型番354;ValleyLab社製)と高周波発生装置21とを接続した。
【0103】
ハンドル6のサイドポート7に三方活栓8を取り付け、三方活栓8には、シリンジ9と、長さ1m、内径2mm、外径4mmのポリ塩化ビニル製チューブである耐圧延長チューブ29をそれぞれ接続した。耐圧延長チューブ29の他端は、接続用コネクタ35を介して、3回転/秒で回転する振動付与装置22、すなわち、加熱用液体の吸引と吐出を1秒間に3回繰り返す振動付与装置22に接続して、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム20A(以下、実施例1カテーテルシステム)を完成した。
【0104】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で作製したバルーン2、外側カテーテルシャフト3、内側カテーテルシャフト4、バルーン内温度センサ11、先端部電極14及び先端部温度センサ15を用いて、下記の通りバルーン付きアブレーションカテーテル1Bを作製した。
【0105】
内側カテーテルシャフト4の先端から長さ3mmの位置を開始点として、銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を内側カテーテルシャフト4の後端方向に向かって巻き付けて、長さ7mmのコイル状の追加バルーン内電極37を形成した。
【0106】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を追加バルーン内電極リード線38として、追加バルーン内電極37の後端に接続して半田で固定した。
【0107】
さらに、追加バルーン内電極37の後端から長さ5mmの位置を開始点として、銀メッキを施した外径0.4mmの銅線を内側カテーテルシャフト4の後端方向に向かって巻き付けて、長さ7mmのコイル状のバルーン内電極10を形成した。
【0108】
銀メッキを施した外径0.4mmの銅線をバルーン内電極リード線12として、バルーン内電極10の後端部に接続して半田で固定した。
【0109】
実施例1と同様の方法でバルーン2、バルーン内温度センサ11、先端部電極14及び先端部温度センサ15を固定し、さらに、バルーン内電極リード線12、追加バルーン内電極リード線38、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17にそれぞれテフロン(登録商標)樹脂による被覆を施し、内側カテーテルシャフト4のルーメンB19に挿通した。
【0110】
内側カテーテルシャフト4のルーメンB19を挿通したバルーン内電極リード線12、追加バルーン内電極リード線38、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17の他端を封止部材42に貫通させてから、外側カテーテルシャフト3及び内側カテーテルシャフト4の後端部をポリエチレン製のハンドル6の内部に挿入し、接着剤で固定してバルーン付きアブレーションカテーテル1Bを作製した。
【0111】
封止部材42を貫通した、バルーン内電極リード線12、追加バルーン内電極リード線38、バルーン内温度センサリード線13、先端部電極リード線16及び先端部温度センサリード線17を、図6に示すように、回路切換スイッチ23Bの端子に接続して、半田で固定した。
【0112】
ハンドル6のサイドポート7に三方活栓8を取り付け、三方活栓8には耐圧延長チューブ29をそれぞれ接続した。耐圧延長チューブ29の他端は、接続用コネクタ35を介して、振動付与装置22に接続して、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム20B(以下、実施例2カテーテルシステム)を完成した。
【0113】
(比較例1)
先端部電極を、長さ5mmの円柱を加工及び切削して作製した以外、すなわち、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極14の先端までの距離が3mmになるようにした以外は、実施例1と同様の方法でバルーン付きアブレーションカテーテルシステム(以下、比較例1カテーテルシステム)を完成した。
【0114】
(比較例2)
先端部電極を、長さ5mmの円柱を加工及び切削して作製した以外、すなわち、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極14の先端までの距離が3mmになるようにした以外は、実施例2と同様の方法でバルーン付きアブレーションカテーテルシステム(以下、比較例2カテーテルシステム)を完成した。
【0115】
(バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの準備)
造影剤(ヘキサブリックス(登録商標);ゲルベ・ジャパン社製)と、生理食塩水との、体積比1:1の混合溶液を加熱用液体としてシリンジ9から供給し、バルーン2の内部及びルーメンA5の空気抜き作業を行ってから、バルーン2を最大径が25mmになるように膨張させた。
【0116】
次に、三方活栓8を切り替えて耐圧延長チューブ29内の空気抜き作業を行ってから、さらに三方活栓8を切り替えて、振動付与装置22と、ルーメンA5とを連通させた。
【0117】
(アブレーション温度測定)
図10に、作製した各バルーン付きアブレーションカテーテルシステムのスポットアブレーション及びバルーンアブレーション温度を測定するための実験系を示す。内壁に対電極28を貼り付けた水槽43に生理食塩水を35L入れて、37℃に保温した。
【0118】
透明容器に、最大径が25mmになるように膨張させたバルーン2が嵌合する形状に成形した、ポリアクリルアミド製の疑似心筋組織44を作製し、水槽43内に設置した。
【0119】
バルーン2を水槽43内の生理食塩水に浸漬し、疑似心筋組織44に嵌合してから、バルーン2の円周方向の4ヶ所に等間隔で温度センサA〜Dを配置し、さらに先端部電極14の表面に温度計Eを配置して、それぞれ温度記録計45に接続した。
【0120】
回路切換スイッチ23A又は23Bをバルーン加熱回路25A又は25Bに切り換えてから、高周波発生装置21及び振動付与装置22を同時に作動させ、設定温度70℃でバルーン2を加熱して、温度記録計45で、加熱開始から120秒後の温度センサA〜Dが接するバルーン2の表面の温度及び温度センサEが接する先端部電極14の表面の温度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0121】
バルーン2の内部から加熱用液体を抜き取り、回路切換スイッチ23A又は23Bを先端加熱回路24A又は24Bに切り換えてから、高周波発生装置21を作動させ、設定温度60℃で先端部電極を加熱して、温度記録計45で、加熱開始から30秒後の温度センサEが接する先端部電極14の表面の温度をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
表1に示すように、回路切換スイッチ23A又は23Bをバルーン加熱回路25A又は25Bに切り換えた場合には、各バルーン付きアブレーションカテーテルシステムのバルーン2の表面温度、すなわちバルーンアブレーション温度は、心筋組織の焼灼に好適な温度である50〜65℃の範囲内であった。しかしながら、各バルーン付きアブレーションカテーテルシステムの先端部電極の表面温度、すなわちスポットアブレーション温度は、比較例1カテーテルシステムのみ、これと接触した心筋組織が焼灼されてしまう程度に上昇した。
【0125】
比較例カテーテルシステム1の先端部電極の表面温度上昇は、先端部電極の露出部の長さ、すなわち、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極の先端までの距離の不足による高周波電流の過密な集中によるものと推定される。
【0126】
一方で、比較例カテーテルシステム2については、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極の先端までの距離が比較例カテーテルシステム1と同一であるにも関わらず、表面温度は上昇していない。これは、バルーン内電極が2個を配置されていることよりバルーン2の内部でのみ高周波電流が通電し、先端部電極14に高周波電流が通電しなかったためと推定される。
【0127】
先端部電極の意図しない表面温度上昇を防止するためには、内側カテーテルシャフト4の長手方向における先端側の端面から上記長手方向における先端部電極の先端までの距離を4mm以上にするか、あるいはバルーン内電極を2個配置してバルーン2の内部でのみ高周波電流を通電させる必要があることは、表1の結果からも明らかである。
【0128】
表2に示すように、回路切換スイッチ23A又は23Bを先端加熱回路24A又は24Bに切り換えた場合には、各バルーン付きアブレーションカテーテルシステム先端部電極の表面温度、すなわちスポットアブレーション温度は、心筋組織の焼灼に好適な温度である50〜65℃の範囲内で、設定温度にコントロールすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、心房細動等の不整脈、子宮内膜症、癌細胞、高血圧などの治療を行うためのバルーン付きアブレーションカテーテル及びバルーン付きアブレーションカテーテルシステムとして用いることができる。
【符号の説明】
【0130】
1A,1B・・・バルーン付きアブレーションカテーテル、2・・・バルーン、3・・・外側カテーテルシャフト、4・・・内側カテーテルシャフト、5・・・ルーメンA、6・・・ハンドル、7・・・サイドポート、8・・・三方活栓、9・・・シリンジ、10・・・バルーン内電極、11・・・バルーン内温度センサ、12・・・バルーン内電極リード線、13・・・バルーン内温度センサリード線、14・・・先端部電極、15・・・先端部温度センサ、16・・・先端部電極リード線、17・・・先端部温度センサリード線、19・・・ルーメンB、20A,20B・・・バルーン付きアブレーションカテーテルシステム、21・・・高周波発生装置、22・・・振動付与装置、23A,23B・・・回路切換スイッチ、24A,24B・・・先端加熱回路、25A,25B・・・バルーン加熱回路、26・・・高周波電流リード線、27・・・測温信号伝達リード線、28・・・対電極、29・・・耐圧延長チューブ、30・・・ローラー、31・・・回転軸、32・・・ガイド面、33・・・弾性チューブ、34・・・リザーバ部、35・・・接続用コネクタ、36・・・封止用コネクタ、37・・・追加バルーン内電極、38・・・追加バルーン内電極リード線、39・・・穴、40・・・露出部、41・・・埋め込み部、42・・・封止部材、43・・・水槽、44・・・疑似心筋組織、45・・・温度記録計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトの長手方向における先端側に取り付けられたバルーンと、
前記長手方向における後端側の端面から前記バルーンに連通するルーメンと、
前記バルーンの内部に配置されたバルーン内電極及びバルーン内温度センサと、
前記長手方向における先端側の端面を含む先端領域に取り付けられた先端部電極及び先端部温度センサと、
を備える、バルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項2】
前記カテーテルシャフトの長手方向における先端側の端面から前記長手方向における前記先端部電極の先端までの距離は、4〜10mmである、請求項1記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項3】
前記バルーン内電極は、2個配置されている、請求項1記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項4】
請求項1又は2記載のバルーン付きアブレーションカテーテルと、
下記a)の第1のバルーン加熱回路と下記b)の先端加熱回路を切り換える回路切換スイッチと、
を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
a) 前記バルーン内電極、対電極、前記バルーン内温度センサ及び高周波発生装置からなる第1のバルーン加熱回路
b) 前記先端部電極、前記対電極、前記先端部温度センサ及び前記高周波発生装置からなる先端加熱回路
【請求項5】
請求項3記載のバルーン付きアブレーションカテーテルと、
下記b)の先端加熱回路と下記c)の第2のバルーン加熱回路を切り換える回路切換スイッチと、
を備える、バルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
b) 前記先端部電極、対電極、前記先端部温度センサ及び高周波発生装置からなる先端加熱回路
c) 前記バルーン内電極、前記バルーン内温度センサ及び前記高周波発生装置からなる第2のバルーン加熱回路
【請求項6】
前記第1のバルーン加熱回路又は前記先端加熱回路のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置を備える、請求項4又は5記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項7】
前記バルーン内電極と前記対電極との間、前記バルーン内電極間又は前記先端部電極と前記対電極との間で高周波を通電する前記高周波発生装置と、
前記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を周期的に繰り返して前記加熱用液体に振動を付与する振動付与装置と、
を備える、請求項4〜6のいずれか一項記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。
【請求項8】
前記振動付与装置は、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ及びピストンとシリンダを組み合わせたポンプからなる群から選択されるポンプを備える、請求項7記載のバルーン付きアブレーションカテーテルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−268933(P2010−268933A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122827(P2009−122827)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】