説明

バルーン付きアブレーションカテーテル

【課題】バルーン収縮時のバルーンの細径化及び熱電対温度センサーの信頼性向上を併せて達成すると同時に、バルーン内に吐出される加熱用液体の影響受けづらく高い精度でバルーン表面温度を制御することが可能な、バルーン付きアブレーションカテーテルを提供する。
【解決手段】ルーメンを有するシャフト6と、ルーメンが内部に連通しているバルーンと、温度センサーリード線9がシャフト6の長軸方向に沿って固定されるように、高周波電力供給リード線8とシャフト6との間に温度センサーリード線9を挟みながら、高周波電力供給リード線8をシャフト6にコイル状に巻きつけて形成される高周波通電用電極3と、を備え、高周波通電用電極を構成する高周波電力供給リード線8と温度センサーリード線9とが、長軸方向の後端側からみて最初に接触する点に熱電対温度センサー4aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーン付きアブレーションカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルアブレーションは、心腔内にアブレーションカテーテルを挿入し、カテーテルの先端に取り付けられた電極により心筋組織を焼灼して不整脈を治療する方法である。
【0003】
近年、カテーテルの先端側に取り付けられたバルーンを経皮的に下大静脈に導入し、心臓の右心房から心房中隔を経て左心房へと到達させ、そこで膨張させたバルーンを高周波電力によって加熱して心筋組織を焼灼するバルーン付きアブレーションカテーテルが開発され(特許文献1及び2)、カテーテルアブレーションの主流になっている。
【0004】
バルーン付きアブレーションカテーテルは、カテーテルの先端に取り付けられたバルーンを加熱用液体で膨張させてから、患者の体外の対極板と、バルーン内部に配置された高周波通電用電極との間に高周波電流を通電して加熱用液体を加熱し、バルーン表面と接触した心筋組織全体を焼灼するものである。バルーン表面の温度は、バルーン内部に配置された温度センサーにより制御され、さらに振動印加装置等によってバルーン内の加熱用液体が撹拌されることで均一化される。
【0005】
バルーン付きアブレーションカテーテルの温度センサーは、高周波通電用電極に高周波電力を供給する金属線に、異種金属線を点接合した熱電対温度センサーが用いられることが多い。この場合、熱電対を高周波通電用電極の後端近傍かつ表面上に配置すれば、熱電対は確実にバルーン内部に位置することとなり、検出温度の信頼性がより高まると言われている(特許文献3)。しかし同時に、熱電対温度センサーはバルーン内部に連通したルーメンの近傍にも位置することになるため、撹拌のためにバルーン内に吐出される加熱用液体による冷却の影響を直接的に受けやすく、バルーン表面温度の制御が不安定化する問題が生じることも知られている。
【0006】
その一方で、バルーン内に吐出される加熱用液体による冷却の影響を抑制することを目的として、熱電対温度センサーを高周波通電用電極の先端側に配置する試みがなされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−78809号公報
【特許文献2】特許第4062935号公報
【特許文献3】特許第4226040号公報
【特許文献4】特許第4222152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱電対温度センサーを高周波通電用電極の先端側に配置しようとすると、バルーン内部において異種金属線をより先端側へ延伸しなければならなくなり、この場合には、異種金属線を延伸した範囲のカテーテルの柔軟性が損なわれるばかりか、バルーンを収縮したときの高周波通電用電極近傍のバルーン径が大きくなるため、バルーン付きアブレーションカテーテルの患者の体内への導入を困難とし、カテーテル操作及び患者負担の面で不都合を生じさせるものであった。
【0009】
また、熱電対温度センサーを高周波通電用電極の表面のいずれに配置したにせよ、異種金属線を点接合させるためにははんだ付け等による確実な接着が必要となり、この接着がバルーン収縮時におけるバルーン径を大きくする要因の一つとなっていた。さらに、異種金属線を点接合した熱電対は、その強度に不安が残ることは不可避であるため、断線等のリスクを抑制する対策が急務であり、熱電対温度センサーの信頼性向上が求められていた。
【0010】
そこで本発明は、バルーン収縮時のバルーンの細径化及び熱電対温度センサーの信頼性向上を併せて達成すると同時に、バルーン内に吐出される加熱用液体の影響を受けづらく、高い精度でバルーン表面温度を制御することが可能なバルーン付きアブレーションカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)〜(4)の発明を見出した。
(1) 長軸方向に貫通したルーメンを有するシャフトと、上記シャフトに固定され、上記ルーメンが内部に連通しているバルーンと、上記バルーンの内部に配置され、電力供給手段に測定信号を供給する温度センサーリード線が上記シャフトの長軸方向に沿って固定されるように、上記電力供給手段から高周波電力を供給する高周波電力供給リード線と上記シャフトとの間に該温度センサーリード線を挟みながら、上記高周波電力供給リード線を上記シャフトにコイル状に巻きつけて形成される高周波通電用電極と、を備え、上記高周波通電用電極を構成する上記高周波電力供給リード線と上記温度センサーリード線とが長軸方向の後端側からみて最初に接触する点に熱電対温度センサーが形成される、バルーン付きアブレーションカテーテル。
(2) 上記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を繰り返して上記バルーン内の加熱用液体に振動を付与する振動付与装置を備える、(1)記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
(3) 上記熱電対温度センサーは、上記高周波通電用電極の後端部に形成される、(1)又は(2)記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
(4) 上記温度センサーリード線は、上記高周波通電用電極の先端部まで到達している、(1)〜(3)のいずれかに記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルによれば、バルーン収縮時におけるバルーンのさらなる細径化が可能となり、バルーン付きアブレーションカテーテルを体内に導入する際の患者負担を軽減できる。また、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルの熱電対温度センサーは、バルーン内に吐出される加熱用液体の影響を受けづらく、断線等のリスクが抑制されているため、高い精度でバルーン表面温度を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの概略図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルのシャフト部分のA−A’線における断面を示す概略図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図5】比較例1のバルーン付きアブレーションカテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。
【図6】比較例1のバルーン付きアブレーションカテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図7】比較例2のバルーン付きアブレーションカテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。
【図8】比較例2のバルーン付きアブレーションカテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【図9】バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための評価系を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとして、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
【0015】
本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルは、長軸方向に貫通したルーメンを有するシャフトと、上記シャフトに固定され、上記ルーメンが内部に連通しているバルーンと、上記バルーンの内部に配置され、電力供給手段に測定信号を供給する温度センサーリード線が上記シャフトの長軸方向に沿って固定されるように、上記電力供給手段から高周波電力を供給する高周波電力供給リード線と上記シャフトとの間に該温度センサーリード線を挟みながら、上記高周波電力供給リード線を上記シャフトにコイル状に巻きつけて形成される高周波通電用電極と、を備え、上記高周波通電用電極を構成する上記高周波電力供給リード線と上記温度センサーリード線とが、長軸方向の後端側からみて最初に接触する点に熱電対温度センサーが形成される、ことを特徴としている。
【0016】
図1は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの概略図である。また、図2は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルのシャフト部分のA−A’線における断面を示す概略図である。
【0017】
図1に示されるバルーン付きアブレーションカテーテル1は、先端側に膨張及び収縮可能なバルーン2を、バルーン2の内部に高周波通電用電極3及び熱電対温度センサーを、外筒シャフト5のルーメンに内筒シャフト6が挿入された二重筒式のシャフトを、後端側に高周波電力発生装置接続コネクター7を、それぞれ備える。また、図2に示される外筒シャフト5と内筒シャフト6との間の空間すなわちルーメンがバルーン2の内部に連通し、該空間に高周波電力供給用リード線8及び温度センサー用リード線9が挿通している。
【0018】
バルーン2の形状は、血管にフィットできる形状であればよいが、例えば、直径20〜40mmの球形が好ましい。また、バルーン2の膜厚としては、20〜120μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0019】
バルーン2の材料としては、抗血栓性に優れた伸縮性のある材料が好ましく、ポリウレタン系の高分子材料がより好ましい。ポリウレタン系の高分子材料としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルウレタン、ポリエーテルポリウレタンウレア、フッ素ポリエーテルウレタンウレア、ポリエーテルポリウレタンウレア樹脂又はポリエーテルポリウレタンウレアアミドが挙げられる。
【0020】
「長軸方向に貫通したルーメンを有するシャフト」は、図1に示されるように、外筒シャフト5のルーメンに内筒シャフト6が挿入されている、二重管式のシャフトであることが好ましい。
【0021】
バルーン2を外筒シャフト5又は内筒シャフト6に固定化する方法としては、溶着が好ましい。ここで、図1に示されるようにバルーン2の先端部が内筒シャフト6の長軸方向における先端部に固定され、バルーン2の後端部が外筒シャフト5の長軸方向における先端部に固定されれば、内筒シャフト6と外筒シャフト5のスライドによってバルーン2の長軸方向の長さを変えられることとなるため、好ましい。一方で、バルーン2の両端部を内筒シャフト6又は外筒シャフト5のいずれかにのみ固定をしても構わない。
【0022】
外筒シャフト5及び内筒シャフト6の長さは、500〜1700mmが好ましく、600〜1200mmがより好ましい。また、外筒シャフト5及び内筒シャフト6の材料としては、抗血栓性に優れる可撓性材料が好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリイミド樹脂等が挙げられる。外筒シャフト5の外径は3.0〜4.0mmが好ましく、内径は2.5〜3.5mmが好ましい。内筒シャフト6の外径は1.5〜1.7mmが好ましく、内径は1.2〜1.3mmが好ましい。なお、外筒シャフト5は多層構造であっても構わない。
【0023】
図3は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。また、図4は、本発明の第一実施形態に係るバルーン付きアブレーションカテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【0024】
高周波通電用電極3は、バルーン2内部に配置されるものであるが、「長軸方向に貫通したルーメンを有するシャフト」が図1に示されるような二重管式のシャフトである場合には、図4に示されるように、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻きつけて形成されることが好ましい。高周波通電用電極3を形成する高周波電力供給用リード線8の直径は、0.1〜1mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。高周波電力供給用リード線8の材料としては、例えば、銅、銀、金、白金、タングステン又は合金等の高導電率金属が挙げられるが、短絡を防止するために、高周波通電用電極3を形成する部分を除いてフッ素樹脂等の電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0025】
熱電対温度センサー4aは、高周波電力供給リード線8と内筒シャフト6との間に温度センサーリード線9を挟みながら、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻きつけて形成する際に、高周波電力供給リード線8と温度センサーリード線9とが、長軸方向の後端側からみて最初に接触する点に形成される熱電対温度センサーである。
【0026】
熱電対温度センサー4aは、高周波電力供給リード線8と内筒シャフト6との間に温度センサーリード線9を挟みながら形成されるものであり、必然的に高周波通電用電極3と内筒シャフト6との間、すなわち高周波通電用電極3の内面に配置されることとなる。
【0027】
本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルは、バルーン内部に連通しているルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を繰り返して上記バルーン内の加熱用液体に振動を付与する振動付与装置を備えることが好ましい。
【0028】
バルーン内の加熱用液体に振動を付与する振動付与装置としては、例えば、ローラーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ベーンポンプ、遠心ポンプ又はピストンとシリンダの組み合わせからなるポンプを備える装置が挙げられる。
【0029】
また、高周波通電用電極において高周波電力が最も集中し易い場所は電極の端部であることから、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルの熱電対温度センサーは、高周波通電用電極の端部に形成されることが好ましく、高周波通電用電極の後端部に形成されることが好ましい。
【0030】
ここで、バルーン付きアブレーションカテーテル1が上記の振動付与装置を備え、かつ、図4に示されるように熱電対温度センサー4aが高周波通電用電極3の後端部に形成された場合には、熱電対温度センサー4aはバルーン2の内部に連通したルーメンの近傍に位置することになる。しかしながら、熱電対温度センサー4aは高周波通電用電極3の表面に配置されたものではなく、高周波通電用電極3の内面に配置されているものであるから、高周波通電用電極3からの熱伝導の影響を大きく受ける一方で、撹拌のためにバルーン2内に吐出される加熱用液体による冷却の影響を受けづらい。この結果、高周波通電用電極3に対し安定した高周波電力が供給されることとなり、バルーン2の表面温度を顕著に安定化することが可能となる。
【0031】
熱電対温度センサー4aは、温度センサーリード線9が内筒シャフト6の長軸方向に沿って固定されるように、高周波電力供給リード線8と内筒シャフト6との間に温度センサーリード線9を挟みながら、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻きつけて固定化されていることから、従来技術の熱電対のようにはんだ付け等の必要が一切ない。この結果、バルーン2の収縮時のバルーン径をより小さくすることが可能となり、患者の体内にバルーン付きアブレーションカテーテル1を容易に導入することが可能となる。
【0032】
熱電対温度センサー4aは、温度センサーリード線9が内筒シャフト6の長軸方向に沿って固定されるように、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6との間に温度センサーリード線9を挟みながら、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻きつけて固定化されている。このため、温度センサーリード線9は内筒シャフト6と高周波電力供給リード線8の間を挿通し、熱電対温度センサー4aの位置からみて長軸方向の先端側に向かって延伸されることになる。ここで、温度センサーリード線9は高周波通電用電極3を形成する高周波電力供給リード線8と複数の点で接触していることが好ましい。また、図4に示すように、温度センサーリード線9は高周波通電用電極の全長に渡って高周波電力供給リード線8と連続的に接触していることがより好ましい。すなわち、温度センサーリード線9は、高周波通電用電極3の先端部まで到達していることがより好ましい。
【0033】
温度センサーリード線9が、内筒シャフト6と高周波電力供給リード線8の間を挿通しながら高周波電力供給リード線8によって内筒シャフト6に固定化されることによって、熱電対温度センサー4aのバルーン付きアブレーションカテーテル1への固定は、はんだ付け等と比較してより強固なものとなる。この結果、熱電対温度センサーとしての強度は格段に向上して断線や接触不良等のリスクが抑制され、その信頼性は顕著に向上する。
【0034】
さらには、温度センサーリード線9は内筒シャフト6と高周波電力供給リード線8の間の僅かな空間にコンパクトに格納されることから、温度センサーリード線9のたわみ等が一切生じることがない。この結果、バルーン2の内部の空間に温度センサーリード線9を延伸した場合と比較してバルーン2の収縮時のバルーン径をより小さくすることが可能となるばかりか、カテーテルの柔軟性が損なわれることがなくなる。
【0035】
温度センサーリード線9の直径は、0.1〜0.6mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。温度センサーリード線9の材料としては、例えば、コンスタンタンが挙げられるが、短絡を防止するために、温度センサー4が形成された部分よりも後端側については、フッ素樹脂等の電気絶縁性保護被覆が施されていることが好ましい。
【0036】
図2に示される外筒シャフト5と内筒シャフト6との間の空間を挿通した高周波電力供給リード線8及び温度センサーリード線9の後端は、いずれもY型コネクター13をさらに挿通し、高周波電力発生装置接続コネクター7に接続されている。
【0037】
Y型コネクター13の材料としては電気絶縁性材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート又はABS樹脂が挙げられる。
【0038】
高周波電力発生装置接続コネクター7はその内部に高伝導率金属ピンを備える。高伝導率金属ピンの材料としては、例えば、銅、銀、金、白金、タングステン又は合金が挙げられる。また、高伝導率金属ピンの外部は電気絶縁性かつ耐薬品性材料で保護されているが、その材料としては、例えば、ポリスルフォン、ポリウレタン、ポリプロピレン又はポリ塩化ビニルが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテルの具体的な実施例を、図を交えて説明する。なお、「長さ」というときには、長軸方向における長さを表すものとする。
【0040】
(実施例)
ポリウレタン製のチューブを引き延ばしながらそのルーメンにエアーを注入するブロー成形によって、直径30mm、厚み20μmのポリウレタン製のバルーン2を製作した。
【0041】
外径4mm、内径3mm、全長1000mmのポリウレタン製チューブを外筒シャフト5とし、その後端に設けたルアーロック12にY型コネクター13を内挿嵌合してから接着固定した。また、外径1.8mm、内径1.4mm、全長1100mmのポリイミド製チューブを内筒シャフト6とした。
【0042】
電気絶縁性保護被覆が施された直径0.3mmの銅線を高周波電力供給リード線8とし、電気絶縁性保護被覆が施された直径0.1mmのコンスタンタン線を温度センサーリード線9とした。
【0043】
高周波電力供給リード線8及び温度センサーリード線9に施された電気絶縁性保護被覆の一部をそれぞれ剥ぎ、内筒シャフト6の先端から20mmの位置を開始点として、高周波電力供給リード線8と内筒シャフト6の間に温度センサーリード線9を挟みながら高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻きつけて、長さ13mmのコイル状の高周波通電用電極3及び高周波通電用電極3の後端部に配置された熱電対温度センサー4aを形成した。
【0044】
形成した高周波通電用電極3の先端及び後端は、ポリウレタンチューブで内筒シャフト6に溶着固定した。
【0045】
内筒シャフト6を外筒シャフト5に挿入し、バルーン2の先端部を内筒シャフト6の先端から10mmの位置に、バルーン2の後端部を外筒シャフト5の先端部に、それぞれ溶着固定した。
【0046】
高周波電力供給リード線8及び温度センサーリード線9を外筒シャフト5と内筒シャフト6との間の空間及びY型コネクター13を挿通させ、それらの後端をいずれも高周波電力発生装置接続コネクター7と接続して、本発明のバルーン付きアブレーションカテーテル(以下、「実施例カテーテル」)を完成した。
【0047】
(比較例1)
高周波通電用電極及び熱電対温度センサーの形成方法を除いて、実施例と同様の方法でバルーン付きアブレーションカテーテル(以下、「比較例1カテーテル」)を完成した。図5は、比較例1カテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。また、図6は、比較例1カテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【0048】
比較例1カテーテルの高周波通電用電極3及び熱電対温度センサー4bは、以下のように形成した。まず、高周波電力供給リード線8及び温度センサーリード線9に施された電気絶縁性保護被覆の一部をそれぞれ剥ぎ、内筒シャフト6の先端から20mmの位置を開始点として、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻き付けて、長さ10mmのコイル状の高周波通電用電極3を形成した。次に、直径0.1mmのコンスタンタン線9の先端を、高周波通電用電極3の後端から2mmの位置で高周波電力供給リード線8の表面にはんだ付けで点接合させ、熱電対温度センサー4bを形成した。形成した高周波通電用電極3の先端及び後端は、熱収縮チューブで内筒シャフト6に固定した。
【0049】
(比較例2)
高周波通電用電極及び熱電対温度センサーの形成方法を除いて、実施例と同様の方法でバルーン付きアブレーションカテーテル(以下、「比較例2カテーテル」)を完成した。図7は、比較例2カテーテルの先端近傍の外観を示す概略図である。また、図8は、比較例2カテーテルの高周波通電用電極近傍の長軸方向に対して水平な断面を示す概略図である。
【0050】
比較例2カテーテルの高周波通電用電極3及び熱電対温度センサー4cは、以下のように形成した。まず、高周波電力供給リード線8及び温度センサーリード線9に施された電気絶縁性保護被覆の一部をそれぞれ剥ぎ、内筒シャフト6の先端から20mmの位置を開始点として、高周波電力供給リード線8を内筒シャフト6にコイル状に巻き付けて、長さ12mmのコイル状の高周波通電用電極3を形成した。次に、直径0.1mmのコンスタンタン線9の先端を、高周波通電用電極3の先端表面にはんだ付けで点接合させ、熱電対温度センサー4cを形成した。高周波通電用電極3の先端及び後端は、熱収縮チューブで内筒シャフト6に固定した。
【0051】
(バルーン表面温度の測定)
図9は、バルーン付きアブレーションカテーテルのバルーン表面温度を測定するための評価系を示した概略図である。
【0052】
実施例カテーテルのバルーン2を希釈造影剤(生理食塩水で2倍希釈)でバルーン径28mmまで拡張した。また、内筒シャフト6と外筒シャフト5のスライドによってバルーン2の長さ(以下、「バルーン長」)が30mmになるように調整をした。
【0053】
バルーン2を生理食塩水で満たした水槽の中に浸漬させ、バルーン2をアクリル系高分子材料で疑似的に製作した肺静脈14に挿入し、バルーン表面温度測定用熱電対15をバルーン2の上下の表面に接触するように設置した。
【0054】
高周波電流を通電するための対極板16を水槽の中に浸漬させ、実施例カテーテルの高周波電力発生装置接続コネクター7及び対極板16を高周波電力発生装置17に接続した。実施例カテーテルの内筒シャフト6には、ガイドワイヤー18を挿通させた。
【0055】
高周波電力(周波数1.8MHz、最大電力150W、設定温度70℃)を通電し、通電中のバルーン表面温度を熱電対データロガー19に記録し、高周波出力及び熱電対温度センサー4aで測定したバルーン内部の温度を高周波電力発生装置17に記録した。
【0056】
バルーン長を25mmにしたこと(熱電対温度センサー4aが、バルーン内に吐出される加熱用液体による冷却の影響をより受けやすい状態になる)を除き、上記と同様の方法で高周波電力通電中のバルーン表面温度を記録した。
【0057】
比較例1カテーテル及び比較例2カテーテルについても、上記と同様の方法で、バルーン長30mm及びバルーン長25mmのそれぞれの場合の高周波電力通電中のバルーン表面温度を記録した。
【0058】
実施例カテーテル、比較例1カテーテル及び比較例2カテーテルのそれぞれについて、高周波電力通電中のバルーン表面の最高温度を表1に示す。実施例カテーテル及び比較例2カテーテルは、バルーン長を変化させてもバルーン表面の最高温度にはほとんど影響がない。しかしながら、比較例1カテーテルのみは、バルーン長を25mmにした場合のバルーン表面の最高温度が66.1℃となり、バルーン長が30mmの場合と比べて約4℃近くも高くなった。また、この最高温度は、肺静脈狭窄を生じさせかねない加熱温度である、65℃を上回るものであった。
【0059】
【表1】

【0060】
(バルーン最大径の測定)
実施例カテーテル、比較例1カテーテル及び比較例2カテーテルのそれぞれについて、収縮時におけるバルーン2の最大径を測定した。その結果、バルーン2の最大径は実施例カテーテルが2.38mm、比較例1カテーテルが2.68mm、比較例2カテーテルが2.64mmとなり、実施例カテーテルは比較例1カテーテル及び比較例2カテーテルに対して約0.3mmもの細径化が達成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は医療分野において、心房細動等の不整脈、子宮内膜症、癌細胞又は高血圧等の治療を行うためのバルーン付きアブレーションカテーテルとして用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1・・・バルーン付きアブレーションカテーテル(実施例)、2・・・バルーン、3・・・高周波通電用電極、4a,4b,4c・・・熱電対温度センサー、5・・・外筒シャフト、6・・・内筒シャフト、7・・・高周波電力発生装置接続コネクター、8・・・高周波電力供給リード線、9・・・温度センサーリード線、12・・・ルアーロック、13・・・Y型コネクター、14・・・疑似肺静脈、15・・・バルーン表面温度測定用熱電対、16・・・対極板、17・・・高周波電力発生装置、18・・・ガイドワイヤー、19・・・熱電対データロガー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸方向に貫通したルーメンを有するシャフトと、
前記シャフトに固定され、前記ルーメンが内部に連通しているバルーンと、
前記バルーンの内部に配置され、電力供給手段に測定信号を供給する温度センサーリード線が前記シャフトの長軸方向に沿って固定されるように、前記電力供給手段から高周波電力を供給する高周波電力供給リード線と前記シャフトとの間に該温度センサーリード線を挟みながら、前記高周波電力供給リード線を前記シャフトにコイル状に巻きつけて形成される高周波通電用電極と、を備え、
前記高周波通電用電極を構成する前記高周波電力供給リード線と前記温度センサーリード線とが長軸方向の後端側からみて最初に接触する点に熱電対温度センサーが形成される、バルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項2】
前記ルーメンから加熱用液体の吸引と吐出を繰り返して前記バルーン内の加熱用液体に振動を付与する振動付与装置を備える、請求項1記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項3】
前記熱電対温度センサーは、前記高周波通電用電極の後端部に形成される、請求項1又は2記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。
【請求項4】
前記温度センサーリード線は、前記高周波通電用電極の先端部まで到達している、請求項1〜3のいずれか1項記載のバルーン付きアブレーションカテーテル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−254140(P2012−254140A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128052(P2011−128052)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】