説明

バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器

【課題】 広い2つの通過帯域およびその間に形成された減衰極を有するバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供する。
【解決手段】 第1の通過帯域を形成する第1〜第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第1,第3の共振電極30a,30cに結合する共振電極結合導体35と、第2の通過帯域を形成する第1,第2の複合共振電極29a,29bと、第1の共振電極30aに結合する第1の入出力結合電極40aと、第1の複合共振電極29aの第1の突起部28aに結合する第2の入出力結合電極41aと、第3の共振電極30cに結合する第3の入出力結合電極40bと、第2の複合共振電極29bの第2の突起部28bに結合する第4の入出力結合電極41bとを備え、第4の共振電極30dは1/2波長共振器であり、その他の共振電極は1/4波長共振器であるバンドパスフィルタとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものであり、特に、2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい通信手段としてUWBが着目されている。UWBは10m程度の短い距離において広い周波数帯域を使用して大容量のデータ転送を実現するものであり、例えば米国FCC(Federal Communication Commission)の規定によると3.1〜10.6GHzの周波数帯域を使用する計画となっている。このようにUWBの特徴は非常に広い周波数帯域を用いることである。
【0003】
このようなUWBに使用可能な超広帯域のフィルタに関する研究は近年盛んに行なわれており、例えば、方向性結合器の原理を応用したバンドパスフィルタによって、通過帯域幅が比帯域(帯域幅/中心周波数)で100%を超える広帯域な特性が得られたとの報告がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、従来よく使用されるフィルタとして、複数の1/4波長ストリップライン共振器を併設して相互に結合させて構成したバンドパスフィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−180032号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「マイクロストリップ−CPWブロードサイド結合構造を用いた超広帯域バンドパスフィルタ」2005年3月電子情報通信学会総合大会講演論文集 C-2-114 p.147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタはそれぞれ問題点を有しており、UWB用のバンドパスフィルタには適さないものであった。
【0008】
例えば、非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎるという問題があった。すなわち、UWBは基本的には3.1GHz〜10.6GHzの周波数帯域を使用するが、国際電気通信連合無線通信部門では、IEEE802.11.aで使用する5.3GHzを避ける形で3.1〜4.7GHz程度の帯域を使用するLow Band(ローバンド)と6GHz〜10.6GHz程度の帯域を使用するHigh Band(ハイバンド)とに分割した企画が立案されている。よって、UWBのLow BandおよびHigh Bandに使用されるフィルタには、それぞれ比帯域で40%〜50%程度の通過帯域幅と5.3GHzにおける減衰が同時に要求されるため、通過帯域幅が比帯域で100%を超えるような特性を有する非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎて使えないものであった。
【0009】
また、従来の1/4波長共振器を使用したバンドパスフィルタの通過帯域幅は狭すぎ、広帯域化を図った特許文献1に記載のバンドパスフィルタの通過帯域幅であっても比帯域で10%にも満たないものであった。よって、比帯域で40%〜50%に相当する広い通過帯域幅を要求されるUWB用のバンドパスフィルタとして使えるものではなかった。
【0010】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、UWBのLow Band用フィルタおよびHigh Band用フィルタを1つのフィルタでまかなうことが可能な、広い2つの通過帯域を有するとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されたバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のバンドパスフィルタは、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、基部ならびに帯状の第1および第2の突起部によってそれぞれ構成された第1および第2の複合共振電極であって、前記基部の一方端が接地され、前記第1および第2の突起部が前記基部の他方端に各々の一方端が接続されて横並びに配置され、前記基部の前記一方端が各々の前記複合共振電極の一方端となり、前記突起部の他方端が各々の前記複合共振電極の他方端となり、各々の前記複合共振電極の前記基部および前記突起部を合わせた全体が第1の周波数で共振する共振器として機能するとともに、各々の前記複合共振電極の前記突起部が前記第1の周波数よりも高い第2の周波数で共振する共振器として機能し、各々の前記複合共振電極の前記一方端が逆側に位置するとともに前記第1の複合共振電極の前記第2の突起部および前記第2の複合共振電極の前記第1の突起部が隣接するように前記積層体の第1の層間に横並びに配置された、第1および第2の複合共振電極と、前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第3の共振電極と、前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第2の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第3の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第4の共振電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合するとともに、電気信号が入力または出力される第1の入出力点を有する第1の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1の複合共振電極における前記第1の突起部と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第3の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合するとともに、電気信号が入力または出力される第2の入出力点を有する第3の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第2の複合共振電極における前記第2の突起部と対向して電磁界結合する第4の入出力結合電極と、前記積層体の前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第1および第3の共振電極にそれぞれ対向して主に容量性の電磁界結合をする領域を有する共振電極結合導体とを備え、前記第1の共振電極の前記一方端と前記第2の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第2の共振電極の前記一方端と前記第4の共振電極の前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第3の共振電極の前記一方端と前記第4の共振電極の前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1の共振電極との対向部の中央よりも前記第1の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、前記第2の入出力点は、前記第3の入出力結合電極の長さ方向において、前記第3の共振電極との対向部の中央よりも前記第3の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、前記第1乃至第3の共振電極と各々の前記複合共振電極における各々の前記突起部とは前記積層体の積層方向から見て互いに直交するように配置されており、前記第2の入出力結合電極は前記第1の入出力結合電極の前記第1の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも前記第1の入出力点から遠い側に接続されて前記第1の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力されるとともに、前記第4の入出力結合電極は前記第3の入出力結合電極の前記第3の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも前記第2の入出力点から遠い側に接続されて前記第3の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力され、通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第1および第2の複合共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のバンドパスフィルタは、上記構成において、前記第2の入出力結合電極は前記積層体の積層方向から見て前記第1の共振電極の長さ方向の中央よりも前記一方端側と交わるように配置されており、前記第4の入出力結合電極は前記積層体の積層方向から見て前記第3の共振電極の長さ方向の中央よりも前記一方端側と交わるように配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の無線通信モジュールは、上記各構成のいずれかの本発明のバンドパスフィルタを備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の無線通信機器は、上記各構成のいずれかの本発明のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバンドパスフィルタによれば、基部および突起部を合わせた全体が第1の周波数で共振する共振器として機能するとともに、突起部が第1の周波数よりも高い第2の周波数で共振する第1および第2の複合共振電極を用いて第2の通過帯域を形成する。これにより、第1および第2の周波数をある程度任意に設定することが可能である。このため、第2の通過帯域の広さを所望の値に設定することが容易なバンドパスフィルタを得ることができる。
【0016】
また、本発明のバンドパスフィルタは、一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する第1乃至第3の共振電極と、第2の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する第1部分および第3の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する第2部分ならびに第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第4の共振電極と、第1および第3の共振電極にそれぞれ対向して主に容量性の電磁界結合をする領域を有する共振電極結合導体とを備えている。また、第1の共振電極の一方端と第2の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、第2の共振電極の一方端と第4の共振電極の第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、第3の共振電極の一方端と第4の共振電極の第2部分の他方端とが同じ側に位置している。これにより、第1および第3の共振電極の間で、共振電極結合導体を介して伝達された電気信号と、隣り合う第1乃至第4の共振電極同士の電磁気的な結合によって伝達された電気信号との間に位相差が生じて互いに打ち消し合う現象を、通過帯域の両側近傍の周波数で生じさせることができる。このため、バンドパスフィルタの通過特性において、第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域の両側近傍において信号が殆ど伝達されない減衰極を形成することができる。
【0017】
さらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第3の共振電極と各々の複合共振電極における各々の突起部とは積層体の積層方向から見て互いに直交するように配置されている。これにより、積層体の厚みが薄くて第1乃至第4の共振電極と第1および第2の複合共振電極が近接する場合においても、第1乃至第4の共振電極と第1および第2の複合共振電極における突起部との間に生じる電磁界結合を最小限にすることができる。このため、第1乃至第4の共振電極と第1および第2の複合共振電極とが強く電磁界結合することによって生じる通過特性の悪化を防止することができる。
【0018】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極は、第1の入出力結合電極の第1の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも第1の入出力点から遠い側に接続されて、第1の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力される。また、第4の入出力結合電極は、第3の入出力結合電極の第3の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも第2の入出力点から遠い側に接続されて、第3の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力される。これにより、第1の入出力結合電極と第1の共振電極との電磁界結合を強くすることができるとともに、第3の入出力結合電極と第3の共振電極との電磁界結合を強めることができるので、第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域を、広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失なものにすることができる。
【0019】
さらにまた、本発明のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極は積層体の積層方向から見て第1の共振電極の長さ方向の中央よりも一方端側と交わるように配置されており、第4の入出力結合電極は積層体の積層方向から見て第3の共振電極の長さ方向の中央よりも一方端側と交わるように配置されているときには、第2の入出力結合電極と第1の共振電極との間の電界による結合を小さくするとともに、第4の入出力結合電極と第3の共振電極との電界による結合を小さくすることができるので、第2の入出力結合電極と第1の共振電極との電界による結合および第4の入出力結合電極と第3の共振電極との電界による結合が大きくなることに起因するフィルタ特性の悪化を防止することができる。
【0020】
本発明の無線通信モジュールおよび本発明の無線通信機器によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って通過する信号の損失が小さく、且つ2つの通過帯域の間に形成された減衰極によって減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタを通信信号の濾波に用いることにより、バンドパスフィルタを通過する通信信号の減衰が少なくなるとともにノイズも減少する。このため、受信感度が向上するとともに通信信号の増幅度を小さくできるため増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、本発明のバンドパスフィルタで2つの通信帯域の信号を濾波することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。
【図2】図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。
【図3】図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図4】図1のP−P’線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。
【図6】図5に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。
【図7】図5に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図8】図5のQ−Q’線断面図である。
【図9】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。
【図10】図9に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。
【図11】図9に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図12】図9のR−R’線断面図である。
【図13】本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュールおよび無線通信機器を模式的に示すブロック図である。
【図14】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のバンドパスフィルタを添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態の第1の例)
図1は、本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。図2は、図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。図3は、図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図4は、図1のP−P’線断面図である。
【0023】
本例のバンドパスフィルタは、図1〜図4に示すように、積層体10と、第1の接地電極21と、第2の接地電極22と、第1の環状接地電極23と、第2の環状接地電極24と、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第1および第2の複合共振電極29a,29bと、第1および第2の入出力結合電極40a,41aと、第3および第4の入出力結合電極40b,41bと、共振電極結合導体35と第1の入出力端子電極60aと、第2の入出力端子電極60bとを備えている。
【0024】
積層体10は、複数の誘電体層11が積層されてなる。第1の接地電極21は、積層体10の下面に配置されている。第2の接地電極22は、積層体10の上面に配置されている。第1の環状接地電極23は、積層体10の第1の層間に、第1および第2の複合共振電極29a,29bの周囲を囲むように配置されている。第2の環状接地電極24は、積層体10の第2の層間に、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの周囲を囲むように配置されている。
【0025】
第1および第2の複合共振電極29a,29bは、積層体10の第1の層間に配置されており、基部27ならびに帯状の第1および第2の突起部28a,28bによってそれぞれ構成されている。基部27の一方端は第1の環状接地電極23に接続されており、第1の環状接地電極23を介して接地される。第1および第2の突起部28a,28bは基部27の他方端に各々の一方端が接続されて横並びに配置されている。よって、基部27の一方端が各々の複合共振電極29a,29bの一方端となり、第1および第2の突起部28a,28bの他方端が各々の複合共振電極29a,29bの他方端となっている。そして、各々の複合共振電極29a,29bの一方端が接地されることにより、基部27ならびに第1および第2の突起部28a,28bを合わせた全体が第1の周波数で共振する共振器として機能するとともに、各々の突起部28a,28bが第1の周波数よりも高い第2の周波数で共振する共振器として機能する。このような第1および第2の複合共振電極29a,29bは、各々の一方端が逆側に位置するとともに、第1の複合共振電極29aの第2の突起部28bと第2の複合共振電極29bの第1の突起部28aとが隣接するように横並びに配置されている。
【0026】
第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは、積層体10の第2の層間に横並びに順次配置されている。第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの一方端は第2の環状接地電極24に接続されており、第2の環状接地電極24を介して接地されることにより1/4波長共振器として機能する。
【0027】
第4の共振電極30dは、第2の層間を間に挟んで第1の層間と反対側に位置する層間Aに配置されている。また、第4の共振電極30dは、第2の共振電極30bに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分30d1と、第3の共振電極30cに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分30d2と、第1および第2部分30d1,30d2の一方端同士を接続する接続部30d3とからなる。第4の共振電極30dの両端は開放端となっており1/2波長共振器として機能する。
【0028】
第1の入出力結合電極40aは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間に位置する層間Bに配置されており、第1の共振電極30aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。また、第1の入出力結合電極40aは、積層体10の上面に配置された第1の入出力端子電極60aに貫通導体50を介して接続されている。この第1の入出力結合電極40aと貫通導体50との接続点は、第1の入出力結合電極40aにおいて電気信号が入力または出力される点である第1の入出力点45aとなっている。
【0029】
第2の入出力結合電極41aは、積層体10の層間Bに、第1の複合共振電極29aにおける第1の突起部28aと平行に対向して電磁界結合するように配置されている。また、第2の入出力結合電極41aの一方端は第1の入出力結合電極40aに接続されており、第2の入出力結合電極41aの他方端は、第1の複合共振電極29aの第1の突起部28aの他方端と反対側に位置している。
【0030】
第3の入出力結合電極40bは、積層体10の層間Bに配置されており、第3の共振電極30cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。また、第3の入出力結合電極40bは、積層体10の上面に配置された第2の入出力端子電極60bに貫通導体50を介して接続されている。この第3の入出力結合電極40bと貫通導体50との接続点は、第3の入出力結合電極40bにおいて電気信号が入力または出力される点である第2の入出力点45bとなっている。
【0031】
第4の入出力結合電極41bは、積層体10の層間Bに、第2の複合共振電極29bにおける第2の突起部28bと平行に対向して電磁界結合するように配置されている。また、第4の入出力結合電極41bの一方端は第3の入出力結合電極40bに接続されており、第4の入出力結合電極41bの他方端は、第2の複合共振電極29bの第1の突起部28aの他方端と反対側に位置している。
【0032】
共振電極結合導体35は、積層体10の第2の層間を間に挟んで第1の層間と反対側に位置する層間Cに配置されており、第1の共振電極30aに対向して主に容量性の電磁界結合をする第1の結合部35aと、第3の共振電極30cに対向して主に容量性の電磁界結合をする第2の結合部35bと、第1の結合部35a及び第2の結合部35bを接続する接続部35cとによって構成されている。
【0033】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタは、例えば、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第1の共振電極30aが励振されることによって、相互に電磁界結合する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振し、第4の共振電極30dと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振する周波数を含む周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第1の通過帯域が形成される。
【0034】
また、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aに接続された第2の入出力結合電極41aと電磁界結合する第1の複合共振電極29aが励振されることによって相互に電磁界結合する第1および第2の複合共振電極29a,29bが共振し、第2の複合共振電極29bと電磁界結合する第4の入出力結合電極41bが接続された第3の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第1および第2の複合共振電極29a,29bが共振する周波数を含む周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第2の通過帯域が形成される。
【0035】
このようにして、本例のバンドパスフィルタは、周波数の異なる2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタとして機能する。
【0036】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、基部27ならびに第1および第2の突起部28a,28bを合わせた全体が第1の周波数で共振する共振器として機能するとともに、第1および第2の突起部28a,28bが第1の周波数よりも高い第2の周波数で共振する複合共振電極29a,29bを用いて第2の通過帯域を形成する。これにより、第1および第2の周波数をある程度任意に設定することが可能である。このため、第1および第2の複合共振電極29a,29bによって形成する第2の通過帯域の広さを所望の値に設定することが容易なバンドパスフィルタを得ることができる。
【0037】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは、隣接する共振器同士が互いにインターデジタル型に配置されて主に容量性の電磁界結合をしている。また、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは1/4波長共振器として機能しており、第4の共振電極30dは1/2波長共振器として機能している。さらに、共振電極結合導体35は、第1の共振電極30aおよび第3の共振電極30cと主に容量性の電磁界結合をしている。このような構成により、第1の共振電極30aと第3の共振電極との間で、共振電極結合導体35を介して伝達された電気信号と、隣り合う第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30d同士の電磁気的な結合によって伝達された電気信号との間に位相差が生じて互いに打ち消し合う現象を、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される通過帯域の両側近傍の周波数で生じさせることができる。このため、バンドパスフィルタの通過特性において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される第1の通過帯域の両側近傍に、信号が殆ど伝達されない減衰極を形成することができる。
【0038】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cならびに第4の共振電極30dの第1部分30d1および第2部分30d2ならびに第1および第2の入出力結合電極40a,41aは、第1および第2の複合共振電極29a,29bにおける第1および第2の突起部28a,28bに跨って対向するように配置されている。これにより、複数のルートで伝達された電気信号同士が互いの位相差によって打ち消し合う現象を、第1および第2の複合共振電極29a,29bによって形成される第2の通過帯域の両側近傍の周波数で生じさせることができる。このため、バンドパスフィルタの通過特性において、第1および第2の複合共振電極29a,29bによって形成される第2の通過帯域の両側近傍に、信号が殆ど伝達されない減衰極を形成することができる。
【0039】
またさらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1および第2の入出力結合電極40a,41aと第3および第4の入出力結合電極40b,41bとの間に、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第2の通過帯域を形成する第1および第2の複合共振電極29a,29bとが電気的に並列に接続されている。また、第1および第2の複合共振電極29a,29bにおいて、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。さらに、第1および第3の入出力結合電極40a,40bは第1および第3の共振電極30a,30cとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第2の入出力結合電極41aは第1の複合共振電極29aの第1の突起部28aとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第4の入出力結合電極41bは第2の複合共振電極29bの第2の突起部28bとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。またさらに、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cならびに第1および第2の複合共振電極29a,29bは1/4波長共振器として機能し、第4の共振器は1/2波長共振器として機能する。このような構成により、複数のルートで伝達された電気信号同士が互いの位相差によって打ち消し合う現象を、前述した第1の通過帯域の高周波側近傍の減衰極と、前述した第2の通過帯域の低周波側近傍の減衰極との間に位置する周波数領域において生じさせることができる。このため、バンドパスフィルタの通過特性において、第1の通過帯域の高周波側近傍の減衰極と、第2の通過帯域の低周波側近傍の減衰極との間に位置する周波数領域に、信号が殆ど伝達されない減衰極を形成することができる。
【0040】
よって、本例のバンドパスフィルタによれば、通過特性において、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域に3つの減衰極を形成することができるので、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間における減衰量が確保された良好な通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0041】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cならびに第4の共振電極30dの第1部分30d1および第2部分30d2と各々の複合共振電極29a,29bにおける各々の突起部28a,28bとは、積層体10の積層方向から見て互いに直交するように配置されている。これにより、積層体10の厚みが薄くて第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第1および第2の複合共振電極29a,29bが近接する場合においても、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第1および第2の複合共振電極29a,29bにおける各々の突起部28a,28bとの間に生じる電磁界結合を最小限にすることができる。このため、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第1および第2の複合共振電極29a,29bとが強く電磁界結合することによって生じる通過特性の悪化を防止することができる。
【0042】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極41aは、第1の入出力結合電極40aの第1の共振電極30aとの対向部における長さ方向の中央よりも第1の入出力点45aから遠い側に接続されて、第1の入出力結合電極40aを介して電気信号が入力または出力される。また、第4の入出力結合電極41bは、第3の入出力結合電極40bの第3の共振電極30cとの対向部における長さ方向の中央よりも第2の入出力点45bから遠い側に接続されて、第3の入出力結合電極40bを介して電気信号が入力または出力される。これにより、第1の入出力結合電極40aと第1の共振電極30aとの電磁界結合を強くすることができるとともに、第3の入出力結合電極40bと第3の共振電極30cとの電磁界結合を強くすることができるので、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される第1の通過帯域を、広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失なものにすることができる。
【0043】
この効果は、発明者が種々の検討によって見出したものであるが、この効果が得られる理由は、第1の入出力点45aが第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極41aとの分岐点にある場合と比較して、第1の入力結合電極の第1の共振電極30aとの対向部を流れる電流を多くできるとともに、第2の入出力点45bが第3の入出力結合電極40bと第4の入出力結合電極41bとの分岐点にある場合と比較して、第3の入出力結合電極40bの第3の共振電極30cとの対向部を流れる電流を多くできるためではないかと考えられる。
【0044】
またさらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極41aは積層体の積層方向から見て第1の共振電極30aの長さ方向の中央よりも一方端側と交わるように配置されており、第4の入出力結合電極41bは積層体の積層方向から見て第3の共振電極30cの長さ方向の中央よりも一方端側と交わるように配置されているときには、第2の入出力結合電極41aと第1の共振電極30aとの間の電界による結合を小さくするとともに、第4の入出力結合電極41bと第3の共振電極30cとの電界による結合を小さくすることができるので、第2の入出力結合電極41aと第1の共振電極30aとの電界による結合および第4の入出力結合電極41bと第3の共振電極30cとの電界による結合が大きくなることに起因するフィルタ特性の悪化を防止することができる。
【0045】
なお、本例のバンドパスフィルタにおいて、第1および第2の複合共振電極29a,29bの第1の突起部28aの長さと第2の突起部28bの長さとは、等しくしても良いが、ある程度異なるようにするのが望ましい。すなわち、第2の入出力結合電極41aと電磁界結合する第1の複合共振電極29aの第1の突起部28aの長さは、第1の複合共振電極29aの第2の突起部28bの長さよりも短くするのが望ましい。これにより、第2の入出力結合電極41aとの電磁界結合に起因する第1の複合共振電極29aの第1の突起部28aの共振周波数の低下を補正することができる。同様に、第4の入出力結合電極41bと電磁界結合する第2の複合共振電極29bの第2の突起部28bの長さは第2の複合共振電極29bの第1の突起部28aの長さよりも短くするのが望ましい。これにより、第4の入出力結合電極41bとの電磁界結合に起因する第2の複合共振電極29bの第2の突起部28bの共振周波数の低下を補正することができる。
【0046】
本例のバンドパスフィルタにおいて、誘電体層11の材質としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂や例えば誘電体セラミックス等のセラミックスを用いることができる。例えば、BaTiO,PbFeNb12,TiO等の誘電体セラミック材料と、B,SiO,Al,ZnO等のガラス材料とからなり、800〜1200℃程度の比較的低い温度で焼成が可能なガラス−セラミック材料が好適に用いられる。また、誘電体層11の厚みとしては、例えば0.01〜0.1mm程度に設定される。
【0047】
前述した各種の電極および貫通導体の材質としては、例えば、Ag,Ag−Pd,Ag−Pt等のAg合金を主成分とする導電材料やCu系,W系,Mo系,Pd系導電材料等が好適に用いられる。各種の電極の厚みは、例えば0.001〜0.2mmに設定される。
【0048】
本例のバンドパスフィルタは、例えば次のようにして作製することができる。まず、セラミック原料粉末に適当な有機溶剤等を添加・混合して泥漿を作製するとともに、ドクターブレード法によってセラミックグリーンシートを形成する。次に、得られたセラミックグリーンシートにパンチングマシーン等を用いて貫通導体を形成するための貫通孔を形成し、Ag,Ag−Pd,Au,Cu等の導体を含む導体ペーストを充填するとともにセラミックグリーンシートの表面に印刷法を用いて前述したのと同様の導体ペーストを塗布して導体ペースト付きセラミックグリーンシートを作製する。次に、これらの導体ペースト付きセラミックグリーンシートを積層し、ホットプレス装置を用いて圧着し、800℃〜1050℃程度のピーク温度で焼成することにより作製される。
(実施の形態の第2の例)
図5は、本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。図6は、図5に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。図7は、図5に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図8は、図5のQ−Q’線断面図である。なお、本例においては前述した第1の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0049】
本例のバンドパスフィルタは、図5〜図8に示すように、共振補助電極32a,32b,32c,32d1,32d2を備えている。共振補助電極32a,32b,32cは、積層体10の層間Bに、第2の環状接地電極24と対向するように配置されており、それぞれ、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの他方端部に貫通導体50を介して接続されている。また、共振補助電極32d1,32d2は、積層体10の層間Aを間に挟んで層間Cと反対側に位置する層間Dに、第1の接地電極21と対向するように配置されており、それぞれ、第4の共振電極30dの第1部分30d1および第2部分30d2の他方端部に貫通導体50を介して接続されている。
【0050】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、共振補助電極32a,32b,32cと第2の環状接地電極24との間に生じる静電容量により、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの長さを短縮することができる。また、共振補助電極32d1,32d2と第1の接地電極21との間に生じる静電容量により、第4の共振電極30d長さを短縮することができる。よって、より小型のバンドパスフィルタを得ることができる。
【0051】
また、本例のバンドパスフィルタは、第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bを備えている。第1の結合補助電極46aは、積層体10の第1の層間に、共振補助電極32aと対向するように配置されている。また、第1の結合補助電極46aは、一方端部が貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第1の入出力端子電極60aに接続されている。第2の結合補助電極46bは、積層体10の第1の層間に、共振補助電極32cと対向するように配置されている。また、第2の結合補助電極46bは、一方端部が貫通導体50を介して第3の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第2の入出力端子電極60bに接続されている。
【0052】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振電極30aおよび共振補助電極32aの接合体と、第1の入出力結合電極40aおよび第1の結合補助電極46aの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。また、第3の共振電極30cおよび共振補助電極32cの接合体と、第3の入出力結合電極40bおよび第2の結合補助電極46bの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。これにより、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される広い第1の通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な、優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
(実施の形態の第3の例)
図9は、本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。図10は、図9に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。図11は、図9に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図12は、図9のR−R’線断面図である。なお、本例においては前述した第2の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0053】
本例のバンドパスフィルタによれば、図9〜12に示すように、第2の入出力結合電極41aおよび第4の入出力結合電極41bは、積層体10の第1の層間と層間Bとの間に位置する層間Eに配置されており、第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bは、積層体10の層間Eと層間Bとの間に位置する層間Fに配置されている。なお、第2の入出力結合電極41aは、貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aに接続されており、第4の入出力結合電極41bは、貫通導体50を介して第3の入出力結合電極40bに接続されている。
【0054】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aおよび第3の入出力結合電極40bと第1の共振電極30aおよび第3の共振電極30cとの間隔ならびに第2の入出力結合電極41aおよび第4の入出力結合電極41bと第1の複合共振電極29aおよび第2の複合共振電極29bとの間隔を維持したままで、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第1および第2の複合共振電極29a,29bとの間隔を大きくすることができる。これにより、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第1および第2の複合共振電極29a,29bとの電磁界結合が強くなりすぎることによる悪影響をさらに低減することができる。
【0055】
(実施の形態の第4の例)
図13は本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュール80および無線通信機器85を模式的に示すブロック図である。
【0056】
本例の無線通信モジュール80は、ベースバンド信号が処理されるベースバンド部81と、ベースバンド部81に接続されベースバンド信号の変調後および復調前のRF信号が処理されるRF部82とを備えている。RF部82には前述した本発明のバンドパスフィルタ821が含まれており、ベースバンド信号が変調されてなるRF信号または受信したRF信号における通信帯域以外の信号をバンドパスフィルタ821によって減衰させている。
【0057】
具体的な構成としては、ベースバンド部81にはベースバンドIC 811が配置され、RF部82にはバンドパスフィルタ821とベースバンド部81との間にRF IC 822が配置されている。なお、これらの回路間には別の回路が介在していてもよい。そして、無線通信モジュール80のバンドパスフィルタ821にアンテナ84を接続することによってRF信号の送受信がなされる本例の無線通信機器85が構成される。
【0058】
このような構成を有する本例の無線通信モジュール80および無線通信機器85によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って低損失であるとともに、2つの通過帯域の間に3つの減衰極が形成されて減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタ821を用いて、2つの通信帯域の信号の濾波を行なうことができる。これにより、通信信号の減衰を少なくするとともに、ノイズを少なくすることができるため、受信感度が向上するとともに、通信信号の増幅度を小さくすることができるので、増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、2つの通信帯域の濾波を1つのフィルタによって行うことができるので、回路構成を簡略化できるとともに部品点数を削減することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュール80および無線通信機器85を得ることができる。
【0059】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の第1〜第4の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0060】
例えば、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bを備えた例を示した。しかしながら、モジュール基板の中の一領域にバンドパスフィルタが形成される場合等では、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bは必ずしも必要ではなく、例えば、モジュール基板内の外部回路からの配線導体が、第1の入出力結合電極40aおよび第3の入出力結合電極40bに直接接続するようにしても構わない。この場合には、第1の入出力結合電極40aおよび第3の入出力結合電極40bと配線導体との接続点が、第1の入出力点45aおよび第2の入出力点45bとなる。
【0061】
また、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、積層体10の下面に第1の接地電極21を配置し、積層体10の上面に第2の接地電極22を配置した例を示したが、例えば、第1の接地電極21の下にさらに誘電体層を配置しても構わないし、第2の接地電極22の上にさらに誘電体層を配置しても構わない。また、第1の接地電極21および第2の接地電極22の一方のみを備えるようにしても構わない。
【0062】
またさらに、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、バンドパスフィルタが1つの積層体10の中に構成された例を示したが、厚み方向に積層された複数の積層体にまたがってバンドパスフィルタが構成されるようにしてもかまわない。
【0063】
さらにまた、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力結合電極40aと第3の入出力結合電極40bとが積層体10の同じ層間に配置され、第4の共振電極30dの第1部分30d1と第2部分30d2とが積層体10の同じ層間に配置された例を示した。しかしながら、第1の入出力結合電極40aと第3の入出力結合電極40bとは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間であれば、異なる層間に配置されるようにしても構わない。同様に、第4の共振電極30dの第1部分30d1と第2部分30d2とが、積層体10の異なる層間に配置されるようにしても構わない。
【0064】
またさらに、UWBに用いられるバンドパスフィルタを例示してこれまで説明を行なってきたが、他の用途においても本発明のバンドパスフィルタが有効であることは言うまでもない。
【実施例】
【0065】
次に、本発明のバンドパスフィルタの具体例について説明する。
【0066】
図9〜12に示した本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタの電気特性を、有限要素法を用いたシミュレーションによって算出した。そのシミュレーション結果を図14に示す。グラフの横軸は周波数で縦軸は減衰量であり、バンドパスフィルタの通過特性(S21)および反射特性(S11)を示している。
【0067】
図14に示す通過特性においては、2つの広くて平坦な通過帯域が形成されているとともに、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に3つの減衰極が形成されており、2つの通過帯域の間の周波数領域における減衰量が充分に確保されていることがわかる。これにより、本発明の有効性が確認できた。
【0068】
なお、このシミュレーションにおいては、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは幅が0.175mmで長さが4.05mmの矩形状とした。第4の共振電極30dは、幅が0.125mmで長さが3.9mmの第1部分30d1および第2部分30d2と、幅が0.125mmで長さが0.4mmの接続部30d3とを接続したU字型の形状とした。第1の複合共振電極29aは、幅が0.76mmで長さが0.98mmの基部27の他方端に、幅が0.25mmで長さが0.97mmの第1の突起部28aおよび幅が0.25mmで長さが2.22mmの第2の突起部28bが接続された構造とした。第2の複合共振電極29bは、幅が0.76mmで長さが0.98mmの基部27の他方端に、幅が0.25mmで長さが2.22mmの第1の突起部28aおよび幅が0.25mmで長さが0.97mmの第2の突起部28bが接続された構造とした。第1の入出力結合電極40aおよび第3の入出力結合電極40bは、それぞれ幅が0.15mmで長さが3.7mmの矩形状とした。第2の入出力結合電極41aおよび第4の入出力結合電極41bは、それぞれ幅が0.25mmで長さが0.45mmの矩形状とした。共振電極結合導体35は、幅が0.075mmで長さが0.7mmの第1および第2の結合部35a,35bを、幅が0.075mmで長さが0.7mmの接続部35cで接続したクランク状の構造とした。第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bは、それぞれ幅が0.15mmで長さが0.9mmの矩形状とした。各種電極の厚みは0.01mmとした。貫通導体50の直径は0.1mmとした。積層体10は幅が4mmで長さが5mmで厚みが0.49mmの直方体状とした。積層体の上面と第1の層間との間隔(それぞれに配置された各種電極同士の間隔)は0.19mmとし、層間Aと層間Cおよび層間Dとの間隔はそれぞれ0.065mmとし、下面と層間Dとの間隔およびその他の隣り合う層間の間隔はそれぞれ0.015mmとした。誘電体層11の比誘電率は9.45とした。
【符号の説明】
【0069】
10:積層体
11:誘電体層
27:基部
28a:第1の突起部
28b:第2の突起部
29a:第1の複合共振電極
29b:第2の複合共振電極
30a:第1の共振電極
30b:第2の共振電極
30c:第3の共振電極
30d:第4の共振電極
30d1:第1部分
30d2:第2部分
30d3:接続部
35:共振電極結合導体
40a:第1の入出力結合電極
41a:第2の入出力結合電極
40b:第3の入出力結合電極
41b:第4の入出力結合電極
45a:第1の入出力点
45b:第2の入出力点
80:無線通信モジュール
81:ベースバンド部
82:RF部
821:バンドパスフィルタ
84:アンテナ
85:無線通信機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、
基部ならびに帯状の第1および第2の突起部によってそれぞれ構成された第1および第2の複合共振電極であって、前記基部の一方端が接地され、前記第1および第2の突起部が前記基部の他方端に各々の一方端が接続されて横並びに配置され、前記基部の前記一方端が各々の前記複合共振電極の一方端となり、前記突起部の他方端が各々の前記複合共振電極の他方端となり、各々の前記複合共振電極の前記基部および前記突起部を合わせた全体が第1の周波数で共振する共振器として機能するとともに、各々の前記複合共振電極の前記突起部が前記第1の周波数よりも高い第2の周波数で共振する共振器として機能し、各々の前記複合共振電極の前記一方端が逆側に位置するとともに前記第1の複合共振電極の前記第2の突起部および前記第2の複合共振電極の前記第1の突起部が隣接するように前記積層体の第1の層間に横並びに配置された、第1および第2の複合共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第3の共振電極と、
前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第2の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第3の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第4の共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合するとともに、電気信号が入力または出力される第1の入出力点を有する第1の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1の複合共振電極における前記第1の突起部と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第3の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合するとともに、電気信号が入力または出力される第2の入出力点を有する第3の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第2の複合共振電極における前記第2の突起部と対向して電磁界結合する第4の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第1および第3の共振電極にそれぞれ対向して主に容量性の電磁界結合をする領域を有する共振電極結合導体とを備え、
前記第1の共振電極の前記一方端と前記第2の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第2の共振電極の前記一方端と前記第4の共振電極の前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第3の共振電極の前記一方端と前記第4の共振電極の前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、
前記第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1の共振電極との対向部の中央よりも前記第1の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、前記第2の入出力点は、前記第3の入出力結合電極の長さ方向において、前記第3の共振電極との対向部の中央よりも前記第3の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、
前記第1乃至第3の共振電極と各々の前記複合共振電極における各々の前記突起部とは前記積層体の積層方向から見て互いに直交するように配置されており、
前記第2の入出力結合電極は前記第1の入出力結合電極の前記第1の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも前記第1の入出力点から遠い側に接続されて前記第1の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力されるとともに、前記第4の入出力結合電極は前記第3の入出力結合電極の前記第3の共振電極との対向部における長さ方向の中央よりも前記第2の入出力点から遠い側に接続されて前記第3の入出力結合電極を介して電気信号が入力または出力され、
通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第1および第2の複合共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
前記第2の入出力結合電極は前記積層体の積層方向から見て前記第1の共振電極の長さ方向の中央よりも前記一方端側と交わるように配置されており、前記第4の入出力結合電極は前記積層体の積層方向から見て前記第3の共振電極の長さ方向の中央よりも前記一方端側と交わるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のバンドパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバンドパスフィルタを備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−232777(P2010−232777A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75737(P2009−75737)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】