説明

バンプレス調節弁操作

【課題】操作の安全性および弁の耐久性確保に不可欠な要件であるバンプレス調節弁操作を実現する手法を提供する。
【解決手段】制御系の開ループ手動操作で、適切なリセット時間で発生する操作量のランプ(傾斜)変化と、これに対する制御量応答とを計測および解析する。解析結果から、操作量から制御量までの定位性制御対象信号伝達特性値、すなわちゲイン定数Kと遅れ時間(等価時定数T+等価むだ時間L)とより、最適リセット時間RoをRo=4*|K|*(T+L)とする。ワンパラメータ(R)チューニングによりバンプレスな調節弁操作を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロセス制御など、制御の操作端として調節弁を使用する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
操作端として使用する調節弁に対するバンプレス操作要求は極めて強い。
其の主たる理由として下記二点が挙げられている。
(1)安全性 :調節弁のバンプ操作は“ウオターハンマー”操作ともいわれ、
特に大口径で操作流体密度が高いときは極めて危険である。
(2)耐久性 :調節弁のバンプ操作は“脈動流”が発生しやすく、
其に基因する部材振動疲労のため耐久性が低下する。
調節弁操作はそれ自体一つの制御系と考えられる。
調節弁操作は上位系からの命令(目標値)を受け、信号(操作量)を出して弁を駆動し、該調節弁を流れる流体流量(制御量)を正確かつ迅速に、命令に対応せしめる役割を有している。
【0003】
調節弁の該操作量から該制御量までの信号伝達特性は定位性である。
一般に、定位性制御対象を制御するフイードバック調節器が具備すべき必須要件は、調節器入力である偏差(目標値−制御量)が零に収束したとき、調節器出力(操作量)は偏差が零になる寸前の値を保持しなければならない。この事は、数学積分演算の必須要件である積分定数要件と一致する。
つまり、定位性制御対象を制御するフイードバック制御の基本動作は比例動作ではなく、積分動作であり、積分性制御対象を制御するフイードバック制御の基本動作が比例動作であると考えられる。
【0004】
現在、フイードバック制御の主流はPID制御である。
PID制御でバンプレス調節弁操作要件を解決すべく古くから種々の提案がなされている。
微分先行型PID制御、二自由度型PID制御等である。しかし、完全な解決策とは考えにくい。その理由として次の点が考えられる。
PID制御は比例動作を基本とし、三つのパラメータ(比例帯PB、積分時間TI、微分時間TD)で制御演算がなされる。入力信号(目標値−制御量=偏差)に対する制御演算を伝達関数で示すと下記となる。
C(s)=(100/PB)[ 1 + 1/(TIs) + TDs ]
この制御演算式からわかる如く、PID制御は、比例動作を基本としており、積分動作、あるいわ、微分動作を消去することは可能(TI=∞ あるいわ TD=0)であるが、比例動作を消去することは出来ない。つまり、調節弁に送られる信号である操作量には必ず比例動作の信号が存在し、目標値が突変した場合、調節弁には其れに基づくバンプ操作が発生する。
また、制御対象が定位性信号伝達特性の場合、PIDパラメータの最適値を得るためには、操作量から制御量までの、制御対象信号伝達特性のKTL同定値(ゲイン定数K,等価時定数T,等価むだ時間L)計測が必要で、その常套手段である開ループで実施するステップ応答法によるKTL計測手法自体も亦調節弁をバンプ操作(ステップ変化)している。
【0005】
本発明は、調節弁に対する上位系からの命令を目標値とし、調節弁流入流量(通常、流出流量より高精度で流量計測が可能)を計測してこれを制御量とし、積分制御動作のみによるフイードバック制御系を構築して、確実なバンプレス調節弁操作を実現するものである。更に、本発明の積分制御動作の強弱を与えるパラメータは、リセット時間 R のみである。つまり本発明は、所謂ワンパラメータチューニング手法によるバンプレス調節弁操作である。
図1が本発明のバンプレス調節弁操作の設計例である。
図1の設計例では、偏差演算、積分制御演算にオペアンプを使用しているが、オペアンプに限定するものではなく、要は比例動作、微分動作無しの、積分制御(リセット)動作のみによる制御演算であることが基本で、其の制御動作の強弱は、リセット時間(積分時間)R(本設計例では、R = 可変抵抗値 r × 静電容量値 C )のみで与えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のフイードバック制御系の制御演算は、上述の如くリセット時間 R のみで定まる積分制御演算である。そして、制御対象信号伝達特性(ゲイン定数 K 等価時定数 T および 等価むだ時間 L )が既知の場合の積分制御最適リセット時間 Ro は既に
特許第4164817
が示すごとく公知である。
本発明が解決しようとする課題は、確実なバンプレス調節弁操作で、制御対象の信号伝達特性を掌握し、最適リセット時間 Ro を算出する、ワンパラメータチューニングの最適値算出手法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
二つの手法(それぞれ,請求項1、請求項2)を発明した。
請求項1 ランプ(傾斜)応答法
従来のステップ応答法に変わる制御対象信号伝達特性計測手法
請求項2 (積分動作型)限界感度法
従来の比例動作のみによる手法に代わる、積分動作のみによる限界感度法
【作用】
【0008】
調節弁に対して実施する二つの手法の実施順序は、
最初 請求項1のランプ応答法、次に請求項2の限界感度法を実施する。
理由は、限界感度法はランプ応答法の結果を使用するからである。
後述するごとく、ランプ応答法のみでも、ある程度確実な最適設定ができる。
【0009】
ランプ応答法
図1の制御系を開ループ、つまり手動制御(AMスイッチをM)にする。
操作量MVの上昇/下降はUDスイッチで選択する。
操作量MVの上昇/下降速度はSV値で与える。SV=0でMVは停止する。
操作量MV および 制御量PVのトレンド記録装置を稼動する。
予め、操作量MVの適切な初期値と最終値と(ランプ変化範囲)を定めておき、
次の手順で、調節弁ランプ(傾斜)応答を記録する:
(1)リセット時間 R を、最適リセット時間推定値に設定。
(2)MVを初期値に合わせて、SV=0にし、PVが定常値に収束するのを待つ。
(3)PV定常値に収束してから、SVに一定電圧を与え、MVをランプ変化させる。
(4)MVが最終値に達した時、SV=0にし、PVが定常値に収束するのを待つ。
以上の作用で、図2下段に示すようなランプ応答記録が得られる。
【0010】
限界感度法
図1の制御系を閉ループ、つまり自動制御(AMスイッチをA)にする。
操作量MV増加で制御量PVも増加する弁作動特性の場合は、UDスィッチをUとする。
操作量MV増加で制御量PVが減少する弁作動特性の場合は、UDスィッチをDとする。
操作量MV および 制御量PVのトレンド記録装置を稼動し、制御応答を観察する。
予め適切な目標SV値を定めておき、
次の手順で、限界感度状態(一定振幅の振動)をつくる:
(1)リセット時間 R を、むだ時間推定値×|K|に設定。
(2)SV値を目標値近傍で変えたときのPV応答状態を観察する。
(3)PV応答状態に応じてリセット時間 R を順次修正する。
即ち、PVの振動振幅が;
減衰振動の場合はリセット時間 R を減少。
発散振動の場合はリセット時間 R を増大。
(4)一定振幅振動が得られたとき作用終了:
そのときのリセット時間 = 限界リセット時間 Ru とし、
そのときの振動周期 = 限界振動周期 Pu とする。
以上の作用で、図3に示す限界振動解析に必要な Ru と Pu とが得られる。
【実施例】
【0011】
上記作用で収得した結果から、下記解析実施で最適リセット時間 Roを算出する。
【0012】
ランプ応答法作用結果の解析
図2に示すごとく、入力MVの折れ線に対して、通常出力PVは湾曲した曲線となる。
次の手法で解析する:
(1)PV曲線の変曲点(最も傾斜の大なる点)を定める。
(2)変曲点を通り、其の点でPV曲線に接する接線を引く。
(3)該接線とPV初期値線との交点時刻を出し、MV傾斜発生時刻との差を算出。
(4)該接線とPV最終値線との交点時刻を出し、MV傾斜終了時刻との差を算出。
(5)(3)と(4)との平均値 = 調節弁の等価遅れ時間(L+T) とする。
(6)(PV最終値−PV初期値)/(MV最終値−MV初期値)
= 調節弁のゲイン定数 K とする。
定位性信号伝達特性を有する制御対象を、積分調節演算のみでフイードバック制御するときの最適リセット時間 Ro は公知(特許4164817)である。
Ro=K(4T+eL)
ただし eは自然対数の底(2.7186・・・・)
しかし、ランプ応答法作用結果解析で得られるのは、K と(L+T)とである。
一般に、積分制御動作の制御結果は、リセット時間がその最適値を境にして、小なるほど制御系は不安定(発散)となり、大なるほど収束は遅くなるが制御系はより安定となる。
そこで、ランプ応答法のみでチューニングするときの最適リセット時間 Ro は、安定を重視して下記で算出する。
Ro=4K(T+L)
【0013】
限界感度法作用結果の解析
図3に示すごとく、得られた限界振動を振幅一定の正弦波形と仮定し、交流ベクトル解析手法で媒介変数 θ を介して解析すると次の三角函数関係式が成立する。

ランプ応答法で得られるゲイン定数Kを代入して(T/L)が算出でき、その結果と、ランプ応答法で得られる(T+L)とから、K、T、L すべての値が求まり;
確実な最適リセット時間 Ro(特許4164817)
Ro=K(4T+eL)
が算出できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による調節弁操作の効果:
(1)耐久性/安全性
手動運転/自動運転の如何を問わず、如何なる場合でも弁は積分動作によって、 バンプレスで作動する。その結果調節弁の耐久性が向上し、安全性が確保される 。
(2)チュウニング
請求項1のランプ応答法のみでも、比較的安定した制御結果が得られる。
請求項2の積分制御限界感度法と併用すれば、確実な最適設定が得られる。
(3)ワンパラメータ作動
調節弁の手動運転/自動運転の如何を問わず、操作の強弱は只一つのパラメータ (リセット時間 R )のみで与えられるので、保守点検作業が容易である。
最適設定作業もワンパラメータ チュウニングである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】バンプレス調節弁操作 図1は、本発明基本構想の設計例を示すものである。調節弁(CV)の流入流量を計測(FT)、それを制御量PVとするフイードバック制御系を構築し、自動操作(A)、手動操作(M)、いずれの場合も、リセット時間Rの積分調節演算によって操作量MVを算出する操作器(図1の点線部)で調節弁を駆動することが基本である。該操作器の入力は自動操作では目標値SVと制御量PV、手動操作では設定値SVと零点(接地電位)である。そして極性(U、D)を夫々、自動操作の場合は弁の正逆作動特性、手動操作の場合は操作量MVの増減方向、によって選択する。該操作器の出力は二つの入力値の差DV(自動操作では偏差、手動操作では増減量)を、リセット時間R(可変)で積分演算し、それを線型変換したものである。図1の設計例では積分演算した値(V)が:負飽和値のとき操作量MV=4mA,正飽和値のとき操作量MV=20mAである。
【図2】ランプ応答法 図2上段はランプ応答解析の原理である。操作量MVにランプ変化を与えると、制御量PVは過渡応答ののち定常応答に達する。調節弁の操作量MVから調節弁流入流量PVまでの定位性信号伝達を三要素(K、L,T)に分割、ランプ入力 at に対し、定常応答における夫々の時間函数が、図2の上段に示されている。つまり、PV定常応答時間函数は、操作量MVに対し(L+T)秒遅れる。図2下段はランプ応答記録の解析である。操作量MVに与えるランプ時間を、推定される遅れ時間(L+T)より充分長いとすると、制御量PVランプ応答曲線の変曲点接線が、PV定常応答時間函数となる。そこで、図2下段に示すごとく、二か所で(L+T)を算出し、その平均をとって(L+T)とする。操作量MVと制御量PV、それぞれの初期値と最終値とからゲイン定数 K を算出する。
【図3】限界感度法 図3上段は限界振動生成時の操作器および定位性信号伝達三要素(K、L、T)からなる閉ループブロックダイヤグラムを示しており、図3中段に限界振動を正弦波交流と仮定した場合の各伝達要素間の交流信号値、および其れ等の交流ベクトル表示が示されている。図3下段に限界感度解析の結論である媒介変数 θ を介した上述の 三角函数関係式 が成立することが示されている。

【特許請求の範囲】
調節弁の流入流量を計測して制御量とし、自動操作時は該制御量と其れに対する目標値との偏差を、手動操作時は手動操作設定値を、リセット時間Rで積分演算した値を操作量として該調節弁を操作する積分単項動作調節弁操作によるフイードバック制御系を構築し:
【請求項1】
該制御系の開ループ手動操作で、適切なリセット時間で発生する該操作量のランプ(傾斜)変化と、其れに対する該制御量応答とを計測し、其れを解析して得られる操作量から制御量までの定位性制御対象信号伝達特性値、ゲイン定数Kと遅れ時間(等価時定数T + 等価むだ時間L )とより、最適リセット時間Roを
Ro= 4 * |K| * (T+L)
とするワンパラメータ(R)チューニングによるバンプレス調節弁操作。
【請求項2】
該制御系の閉ループ自動操作で、リセット時間Rを調整して振幅一定の限界振動を生成せしめ、そのときの、リセット時間Ruと、振動周期Pu、および請求項1で得られる諸量とより、定位性制御対象信号伝達特性値、ゲイン定数Kと等価時定数Tおよび等価むだ時間Lとを算出し、最適リセット時間Roを
Ro = |K|*( 4 * T + e * L )
ただし e = 自然対数の底
とするワンパラメータ(R)チューニングによるバンプレス調節弁操作。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate