説明

バーコードの読取方法

【課題】3値バーコードの読取安定性向上。
【解決手段】読取光に対する反射率が相互に相違する第1バーとスペースの配列により構成されるバーコードの読取方法において、読取光によってバーコードを走査したときの反射光を検知することで検知信号を生成する手順と、単一のバーコードの走査に要する時間をTとして、T/60以下の時定数τをもって検知信号の包絡線検波信号を生成する手順と、包絡線検波信号を所定の割合で減衰させることで基準信号を生成する手順と、検知信号から基準信号を差し引くことで得られる平均値信号に基づいて第1バーに対応する第1バー信号を生成する手順とを実行する。さらに、平均値信号に対する微分信号を生成する手順と、第1バーと第2バーに対応する遅延混合信号を生成する手順と、第1バー、遅延混合信号に基づき第2バーに対応する第2バー信号を生成する手順を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーコードの読取方法に関し、特に、高密度の情報記録が可能な3値バーコードを高速で読み取ることができるバーコードの読取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動生産ラインや自動倉庫における物品の移動制御に用いられているバーコード認識システムでは、記録容量の増大とバーコード検知(読取)の高速化が求められている。
【0003】
記憶容量を増大させる手法としては、高密度2値2次元バーコードやカラー2次元バーコードの使用が考えられるが、2次元画像を光電変換し画像信号の認識処理をソフト的に行うCCD検知方式では、限界走査速度が50scan/sec程度と遅く、高速走査を必要とする自動生産ラインや自動倉庫では使用できない問題がある。
【0004】
検知速度の高速化の面ではレーザースキャナを用いたシステムが有利であるが、当該システムは2値バーコードへの適用が実用化されているのみであり、レーザースキャナを用いたカラーバーコードやハーフトーンバーコードの検知手法は未だ確立されていないのが現状である。
【非特許文献1】H. Wakaumi and C. Nagasawa, "A Ternary Bar-Code Detection System with Pattern-Adaptable Dual Threshold", Proceedings of EUROSENSORS XIX, MP43, September 2005.
【非特許文献2】H. Wakaumi and C. Nagasawa, "A ternary barcode detection system with pattern-adaptable dual threshold", Sensors and Actuators A: Physical, vol. 130-131, pp176-183, August 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大容量の情報を記録したバーコードの高速読取を実現すること、より詳細には、大容量の情報を記録可能な3値バーコードの高速読取を実現することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、読取光に対する反射率が相互に相違する第1バーとスペースの配列により構成されるバーコードの読取方法であって、
読取光によって前記バーコードを走査したときの反射光を検知することで検知信号を生成する検知信号生成手順と、
単一の前記バーコードの走査に要する時間をTとして、T/60以下の時定数τをもって前記検知信号の包絡線検波信号を生成する包絡線検波手順と、
前記包絡線検波信号を所定の割合で減衰させることで基準信号を生成する基準信号生成手順と、
前記検知信号から前記基準信号を差し引くことで得られる平均値信号に基づいて前記第1バーに対応する第1バー信号を生成する第1バー信号生成手順とを備えることを特徴とする読取方法(請求項1)である。
【0007】
本発明における「読取光」は、バーコードに照射されたときに第1バー及びスペースからそれぞれ異なる反射率で反射光を反射させる任意の光であり、好ましい実施形態ではレーザー光が使用される。
【0008】
本発明における「バーコード」は、読取光に対する反射率が相互に相違する第1バーとスペースの配列により構成されるものであり、その典型例には、黒色の第1バーと白色のスペースが1次元方向に配列された単一ラインバーコードが含まれる。
【0009】
本発明では、読取光を走査する方式でバーコード検知(読取)が行われるため、自動生産ラインや自動倉庫等での使用に耐える高速読取が実現できる。
【0010】
また、本発明では、バーコードからの検知信号の時定数τを所定範囲の値としたときの包絡線検波信号(弱包絡線検波信号)を所定割合で減衰させた信号(基準信号)を検知信号から差し引くことにより得られる平均値信号に基づいてバーコードの読取を行う構成を採用することにより、バーコードの読取精度及び読取安定性の向上が達成されている。
【0011】
従って、バー幅がより小さく、より記憶密度の高いバーコードの安定な読取が可能となり、また、バーコード検知が可能な距離(読取光光源とバーコードの距離)の広範囲化が達成される。
【0012】
なお、本発明の弱包絡線検波信号を生成する際の時定数τは、単一のバーコードの走査に要する時間をTとして、T/60以下とすることが好ましく、本発明の基準信号を生成する際の弱包絡線検波信号の減衰率は、20%〜70%の範囲が好ましい。
【0013】
本発明では、前記バーコードが、前記読取光に対する反射率が前記第1バーと前記スペースの中間の値である第2バーを更に有する3値バーコードであり、前記平均値信号に対する微分信号を生成する微分信号生成手順と、前記微分信号に基づいて、前記第1バー及び前記第2バーに対応する遅延混合信号を生成する遅延混合信号生成手順と、前記第1バー信号及び前記遅延混合信号に基づいて前記第2バーに対応する第2バー信号を生成する第2バー信号生成手順とを更に備えるものとすること(請求項2)、或いは更に、前記遅延混合信号生成手順は、前記微分信号を第1、第2の閾値と比較することにより第1、第2パルス信号を生成するパルス信号生成手順と、前記第1パルス信号と同期して立ち下がり、前記前記第2パルス信号と同期して立ち上がる混合信号を生成する混合信号生成手順と、前記第1バー信号に同期するように前記混合信号を遅延させることにより前記遅延混合信号を生成する信号遅延手順とを含み、前記第2バー信号生成手順は、前記遅延混合信号と前記第1バー信号が同期して立ち下がったときに立ち下がり、前記遅延混合信号が単独で立ち下がったときに立ち上がる選択信号を生成する選択信号生成手順と、前記遅延混合信号と前記選択信号の論理積を取ることにより第2バー信号を生成する論理積手順とを含むむものとすること(請求項3)が好ましい。
【0014】
かかる発明では、より高密度での情報記録が可能な3値バーコードの読取を実現することができる。
【0015】
また、本発明では、平均値信号の微分信号を用いることでコントラストの小さいパターンに対する検知能力が向上するため、3値バーコードの読取安定性を向上させることができる。
【0016】
本発明における「第2バー」は、読取光に対してスペースと第1バーの中間の値の反射率を有するものであり、例えば、黒色の第1バー及び白色のスペースを使用した場合には、第2バーをグレイとすることが考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るバーコード読取方法を実行することができるバーコード読取装置を示す説明図であり、図2は、当該読取方法の説明図である。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態の読取装置では、レーザーダイオードスキャナ1からのレーザー光によりバーコード2が走査され、バーコード2からの反射光はフォトダイオード/増幅器3により検出される。
【0019】
バーコード2は、図2(a)に示すように、所定幅の黒色バー(第1バー)2a、グレイバー(第2バー)2b及びスペース2cが1次元方向に配列された単一ライン3値バーコードである。
【0020】
図2(b)には、フォトダイオード/増幅器3の出力である検知信号S1の波形が示されているが、バーコード2におけるバー幅が狭くなるにつれて、走査光(レーザ光等)のビーム幅が狭いバー幅を超えるようになるために、広バーと狭バーとで実質的に反射光量が異なり、信号レベルの違いが生じる。従って、検知信号S1には図示のような不規則な信号歪が生じるため、非特許文献1、2に示される手法では、安定なバーコード読取を行うことは困難となる。
【0021】
このため、本発明では、単一のバーコード2の走査に要する時間をTとして、T/60以下の時定数τをもって発生させた包絡線検波信号を用いて検知信号S1における歪の除去が行われる。
【0022】
即ち、フォトダイオード/増幅器3からの検知信号S1は包絡線検波器4に入力され、所定の時定数τをもって包絡線検波信号S2が出力される。図2(c)は、バーコード2の走査周期Tが3msecである場合に時定数τを7μsecとしたときの検知信号S1に対する包絡線検波信号S2の波形である。
【0023】
包絡線検波器4からの包絡線検波信号S2は60%減衰器5において減衰を受けて基準信号S3として出力され、これがフォトダイオード/増幅器3から出力された検知信号S1から差し引かれ、更に、利得1.3の増幅器6による増幅を受けて平均値信号S4として黒レベル比較器7及び微分回路8に供給される。なお、増幅器6による増幅は、検知信号S1から基準信号S3を差し引くことによる信号強度の低下を補うことを意図したものである。
【0024】
図2(d)には、平均値信号S4の波形が示されている。図2(b)の検知信号S1との比較で明らかなように、検知信号S1から上記のように生成された基準信号S3を差し引くことにより、検知信号S1における不規則な歪を効果的に除去することが可能である。
【0025】
また、平均値信号S4における黒色バー2aの信号レベルは比較的安定しており、グレイバー2bの信号レベルに対する相違も十分な大きさに保たれている。従って、黒レベル比較器7において平均値信号S4を所定の閾値VT1と比較することにより、黒色バー2aに対応する黒コード信号(第1バー信号)S5を生成することが可能である(図2(j))。
【0026】
一方で、バー幅寸法の極めて小さい高密度バーコード2を使用した場合には、平均値信号S4におけるグレイバー2bの信号強度は小さくなるため、黒コード信号S5と同様の方法ではグレイバー2bを安定に検出することは困難となる。
【0027】
このため、本実施形態では、平均値信号S4に微分法を適用することによりグレイバー2b検出の安定化が図られている。すなわち、微分回路8は平均値信号S4を微分することにより微分信号S6を2値比較器9に出力し、2値比較器9はこの微分信号S6を所定の閾値VT2、VT3と比較することにより、第1、第2パルス信号S7、S8を出力する。
【0028】
ここで、微分信号S6及び第1、第2パルス信号S7、S8の波形はそれぞれ図2(e)〜(g)に示されており、第1パルス信号S7は、白色領域から黒色又はグレイ領域への遷移を検出するものであり、第2パルス信号S8は、黒色又はグレイ領域から白色領域への遷移を検出するものである。従って、プリセット−リセット回路10が、第1、第2パルス信号S7、S8の先行する立ち下がりエッジ(白色領域から黒色又はグレイ領域への遷移に対応する)においてプリセット動作を行い、それに続く立ち下がりエッジ(黒色又はグレイ領域から白色領域への遷移に対応する)においてリセット動作を行うことにより、黒色バー2a及びグレイバー2bに対応する混合信号S9(図2(h))を生成することができる。
【0029】
混合信号S9からのグレイコード信号(第2バー信号)S12の分離は以下のように行われる。
【0030】
黒レベル比較器7からの黒コード信号S5及びプリセット−リセット回路10からの混合信号S9はメモリー11に導かれ、ここで混合信号S9の立ち上がり又は立ち下がりエッジにおける黒コード信号S5と混合信号S9の時間差ΔTが求められ、遅延回路12は、混合信号S9を上記時間差ΔTだけあるいは上記時間差ΔTより若干長めに遅延させることにより遅延混合信号S10を生成する(図2(i))。
【0031】
上記遅延混合信号S10は黒コード信号S5とともにサンプリング回路13に導かれ、遅延混合信号S10の立ち下がりエッジにおいて黒コード信号S5をサンプリングすることにより選択信号S11(図2(l))が生成され、ゲート回路14が遅延混合信号S10と選択信号S11の論理積を取ることにより遅延混合信号S10から黒コード信号S5に対応する部分が除去されたグレイコード信号S12(図2)が出力される。
【0032】
上記により生成された黒コード信号S5とグレイコード信号S12はゲート回路15で加算され、デコード信号として出力される。なお、遅延混合信号S10ではなく黒コード信号S5とグレイコード信号S12の加算信号をデコード信号として用いるのは、遅延混合信号S10内のグレイコード信号の幅が黒コード信号に対してバランスしないため、その調整をグレイコード信号に対して行う必要があるためである。
【0033】
本実施形態のバーコード読取方法によれば、単一ライン4文字(スタート・ストップコードを除く)の1文字当たり9エレメントを含む3値バーコード(グレイバーの反射率:0.52/最小バー幅:0.3mm)を従来のCCD方式の7倍の350scan/secの速度で読み取ることが可能であり、バーコード検知が可能な距離(レーザースキャナ1のポリゴンミラーとバーコード2の距離)の範囲は5.4cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るバーコード読取装置を示す説明図。
【図2】本発明の一実施形態に係るバーコード読取方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0035】
1・・・レーザーダイオードスキャナ
2・・・バーコード
3・・・フォトダイオード/増幅器
4・・・包絡線検波器
5・・・減衰器
5・・・包絡線検波器
6・・・増幅器
7・・・黒レベル比較器
8・・・微分回路
9・・・2値比較器
10・・・リセット回路
11・・・メモリー
12・・・遅延回路
13・・・サンプリング回路
14、15・・・ゲート回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
読取光に対する反射率が相互に相違する第1バーとスペースの配列により構成されるバーコードの読取方法であって、
読取光によって前記バーコードを走査したときの反射光を検知することで検知信号を生成する検知信号生成手順と、
単一の前記バーコードの走査に要する時間をTとして、T/60以下の時定数τをもって前記検知信号の包絡線検波信号を生成する包絡線検波手順と、
前記包絡線検波信号を所定の割合で減衰させることで基準信号を生成する基準信号生成手順と、
前記検知信号から前記基準信号を差し引くことで得られる平均値信号に基づいて前記第1バーに対応する第1バー信号を生成する第1バー信号生成手順とを備えることを特徴とする読取方法。
【請求項2】
前記バーコードが、前記読取光に対する反射率が前記第1バーと前記スペースの中間の値である第2バーを更に有する3値バーコードであり、
前記平均値信号に対する微分信号を生成する微分信号生成手順と、
前記微分信号に基づいて、前記第1バー及び前記第2バーに対応する遅延混合信号を生成する遅延混合信号生成手順と、
前記第1バー信号及び前記遅延混合信号に基づいて前記第2バーに対応する第2バー信号を生成する第2バー信号生成手順とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の読取方法。
【請求項3】
前記遅延混合信号生成手順は、
前記微分信号を第1、第2の閾値と比較することにより第1、第2パルス信号を生成するパルス信号生成手順と、
前記第1パルス信号と同期して立ち下がり、前記前記第2パルス信号と同期して立ち上がる混合信号を生成する混合信号生成手順と、
前記第1バー信号に同期するように前記混合信号を遅延させることにより前記遅延混合信号を生成する信号遅延手順とを含み、
前記第2バー信号生成手順は、
前記遅延混合信号と前記第1バー信号が同期して立ち下がったときに立ち下がり、前記遅延混合信号が単独で立ち下がったときに立ち上がる選択信号を生成する選択信号生成手順と、
前記遅延混合信号と前記選択信号の論理積を取ることにより第2バー信号を生成する論理積手順とを含むことを特徴とする請求項2に記載の読取方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−97569(P2010−97569A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270195(P2008−270195)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会2008年ソサイエティ大会プログラム(予稿集)」に発表
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】