説明

バーチカルエンジンの潤滑装置

【課題】 バーチカルエンジンにおけるエンジンの潤滑性能を向上する。
【解決手段】 クランクケース11の下端部には潤滑油Lを収容するオイルパン13が設けられており、クランク軸14はクランクケース11に上下方向を向いて回転自在に装着される。クランク軸14には潤滑油Lを撥ね上げるスクレーパ60が取り付けられ、天壁部12bには下方に突出する滴下用突起70と滴下用突起70に向けて下方に傾斜する傾斜面71とが設けられる。滴下用突起70はクランクウェブ14cの回転範囲の上方に配置され、滴下用突起70から滴下された潤滑油Lはクランクウェブ14cによりシリンダ18に向けて跳ね飛ばされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクランク軸が上下方向を向いてクランクケースに装着されるバーチカルエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バーチカルエンジンはクランク軸が上下方向となってクランクケースに装着されるタイプのエンジンであって、バーチカルシャフトエンジンないし縦軸エンジンとも言われ、草刈り機(芝刈り機)や刈払機などの動力源として使用されている。このようなバーチカルエンジンにおいては、クランクケースの下端部は潤滑油を収容するオイルパンとなっており、オイルパン内の潤滑油がクランク軸を回転自在に支持する軸受やクランク軸のジャーナル部等の摺動面に供給される。
【0003】
オイルパン内の潤滑油を垂直方向のクランク軸の下端部を支持する軸受部に供給するために、特許文献1には、クランクケース内に動弁カム軸により回転駆動される潤滑油跳ね上げ具を取り付けるようにした潤滑装置が記載されている。また、特許文献2にはクランク軸に対して直角に配置されたガバナーのガバナーホルダをクランク軸により回転駆動するとともに、ガバナーホルダの外周にオイルパンの潤滑油に浸漬されるオイルディッパ(オイルスクレーパ)を設けるようにした潤滑装置が記載されている。
【特許文献1】実開平5−32705号公報
【特許文献2】特開平8−177441号公報(図5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のように、クランクケース内に専用の潤滑油跳ね上げ具を設けると、エンジンの部品点数が増加してエンジン構造が複雑化し、エンジンの製造コストを低減することができない。また、特許文献2記載のように、ガバナーホルダに設けられたオイルディッパにより潤滑油を掻き上げるようにすると、ガバナーホルダの外周面に付着した潤滑油が掻き上げられるに過ぎず、潤滑油を充分に所望の潤滑油要求部に供給することができない。特に、吸排気バルブを駆動するための動弁機構をOHV型やOHC型としたバーチカルエンジンにおいては、燃焼圧力がサイドバルブ型のエンジンに比して高いので、クランク軸のジャーナル部に加わる負荷が大きくなり、摺動面の潤滑性能を高める必要がある。
【0005】
そこで、クランク軸にオイルスクレーパを取り付け、このオイルスクレーパを潤滑油に浸した状態でクランク軸とともに回転させることにより潤滑油を撥ね上げるようにした潤滑装置が開発されている。しかしながら、クランク軸とともに回転するオイルスクレーパによると、撥ね上げられた潤滑油はクランク軸を中心とした360度全方向に飛び散ることになるので、潤滑効率がよくない。特に、スクランクケースに対して所定の方向に突出して設けられるシリンダの内面に潤滑油を効率よく供給することは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、バーチカルエンジンにおけるエンジンの潤滑性能を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバーチカルエンジンの潤滑装置は、ピストンにより回転駆動されるクランク軸が上下方向を向いて装着されるクランクケースに、前記クランク軸の下端部を回転自在に支持するとともに潤滑油を収容するオイルパンを設けてなるバーチカルエンジンの潤滑装置であって、前記オイルパンに収容された潤滑油を撥ね上げるスクレーパを前記クランク軸に取り付け、前記クランクケースの天壁部に下方に突出する滴下用突起と前記滴下用突起に向けて下方に傾斜する傾斜面とを設け、前記傾斜面に付着した潤滑油を前記滴下用突起から滴下させるとともに前記滴下用突起から滴下する潤滑油を前記クランク軸により前記ピストンが装着されるシリンダに向けて跳ね飛ばすことを特徴とする。
【0008】
本発明のバーチカルエンジンの潤滑装置は、前記シリンダの軸方向に対して前記クランク軸の回転方向とは逆側に向けた40度から100度の範囲に前記滴下用突起を配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スクレーパにより撥ね上げられてクランクケースの天壁部に付着した潤滑油は滴下用突起から滴下されるとともにクランク軸によりシリンダに向けて跳ね飛ばされるので、シリンダに効率的に潤滑油を供給することができる。
【0010】
また、本発明によれば、シリンダに潤滑油を供給するための専用の潤滑油跳ね上げ具等を用いることなく、滴下用突起と傾斜面とを設けるだけの簡単な構造でシリンダに効率的に潤滑油を供給することができるので、エンジンの製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1はバーチカルエンジンを示す縦断面図であり、図2は図1におけるA−A線に沿う断面図であり、図3は図1および図2に示したバーチカルエンジンの吸排気系を示す概略図であり、図4は図2におけるB−B線に沿う断面図である。
【0012】
このバーチカルエンジン10のクランクケース11は、図2に示すようにほぼ筒形となった側壁部12a、および図1に示すように側壁部12aの上部に一体に設けられた天壁部12bを有するケース本体12と、側壁部12aの下部に取り付けられるオイルパン13とを備えており、内部にはクランク室11aが形成されている。クランクケース11内にはクランク軸14が上下方向つまり垂直方向を向いて装着されており、クランク軸14の上端部は天壁部12bにボール軸受15を介して回転自在に支持され、下端部はオイルパン13に設けられた円筒部16に回転自在に支持されている。クランク軸14にはクランクピン14aが設けられ、このクランクピン14aは一対のクランクアーム14bによりクランク軸14の軸心に対して径方向にずれて配置され、各クランクアーム14bにはそれぞれクランクピン14aに対して反体側に突出するクランクウェブ14c(カウンターウエイト)が設けられている。オイルパン13内には、エンジンを構成する各部材の摺動部つまり潤滑油要求部に供給される潤滑油Lが収容され、潤滑油Lがクランク軸14とオイルパン13との間から漏れるのを防止するためにオイルパン13にはオイルシール17が装着されている。このバーチカルエンジン10が草刈り(芝刈り)機や刈払機の動力源として使用される場合には、クランク軸14の下端部には草刈り用の切刃が直接、或いは、図示しないシャフトを介して連結される。
【0013】
ケース本体12にはシリンダ18が一体に設けられており、このシリンダ18に水平方向を向いて形成されたシリンダボア19内にはピストン20が水平方向に往復動自在に装着され、ピストン20はコネクティングロッド21によりクランクピン14aに連結され、ピストン20の往復動によりクランク軸14は回転駆動される。シリンダ18にはシリンダヘッド22が取り付けられており、シリンダヘッド22とシリンダ18とピストン20により燃焼室23が形成される。シリンダヘッド22には、図3に示すように、燃焼室23に混合気を供給する吸気ポート24と、燃焼排ガスを排出する排気ポート25とが形成され、吸気ポート24に連通する吸気管26と排気ポート25に連通する排気管27とがシリンダヘッド22に装着されている。シリンダヘッド22には燃焼室23内の混合気を点火するための点火プラグ30が図1に示すように取り付けられている。
【0014】
図3に示すように、シリンダヘッド22には吸気ポート24を開閉する吸気バルブ31と排気ポート25を開閉する排気バルブ32が装着されるとともに、動弁カム33を有するカムシャフト34が回転自在に組み付けられており、図2に示すようにクランク軸14に固定された駆動側スプロケット35とカムシャフト34に固定された従動側スプロケット36との間にはチェーン37が掛け渡され、カムシャフト34はクランク軸14により回転駆動され、クランク軸14が2回転するとカムシャフト34は1回転する。図3に示すようにシリンダヘッド22に設けられたロッカーシャフト38には、動弁カム33の回転により所定のタイミングで吸気バルブ31を開閉駆動するロッカーアーム39aと、排気バルブ32を開閉駆動するロッカーアーム39bとが揺動自在に装着されている。このように、吸気バルブ31と排気バルブ32とを開閉駆動する動弁機構は、これらのバルブ31,32と動弁カム33がシリンダヘッド22に装着されており、OHC型となっている。
【0015】
図1に示すように、クランクケース11の上方にはこれを覆うようにエンジンカバー41が取り付けられており、このエンジンカバー41内にはクランク軸14の上端に固定された冷却ファン42が配置され、クランク軸14の回転によって冷却ファン42によりクランクケース11の外面に沿って流れる冷却風が生成される。エンジンカバー41にはエンジンを始動させるリコイルスタータのリコイルプーリ43が回転自在に装着され、このリコイルプーリ43にはリコイルロープ44が巻き付けられている。一方、クランク軸14には回転筒体45が取り付けられており、リコイルプーリ43には、これを回転させると回転筒体45に係合してリコイルプーリ43の回転をクランク軸14に伝達する係合機構46が設けられている。したがって、作業者がリコイルロープ44を引っ張ってクランク軸14を回転させると、クランク軸14が回転されてエンジンを始動させることができる。
【0016】
ガバナー機構を構成するため、図4に示すように、オイルパン13にはガバナーホルダ51がクランク軸14に平行となって回転自在に装着され、ガバナーホルダ51の外周面には、クランク軸14に固定された駆動歯車52に噛み合う従動歯車53が設けられており、クランク軸14の回転によりガバナーホルダ51は回転駆動される。ガバナーホルダ51には、図4に示すように、2つのガバナーウエイトつまり重り54がそれぞれピン55により揺動自在に取り付けられるとともに、両方の重り54に当接するガバナー軸56が組み込まれており、ガバナー軸56はオイルパン13に設けられた軸部57に軸方向に摺動自在に嵌合している。エンジン回転数が規定回転数よりも高くなると遠心力により重り54は図4に示すように上端部が相互に広がるように揺動してガバナー軸56を押し上げる。クランクケース11には、図2に示されるように、L字形状に折り曲げられたガバナーレバー58が回動自在に装着され図示しないスロットル弁に連接されており、ガバナーレバー58の作動端部はガバナー軸56に対向している。これにより、エンジン回転数が規定回転数よりも高くなると、ガバナー機構によりスロットル弁が閉弁し、エンジン回転数が規定回転数に維持される。
【0017】
図1および図4に示すように、エンジンの各潤滑油要求部に対して潤滑油Lを供給するために、クランク軸14にはスクレーパ60が取り付けられている。スクレーパ60は金属製の板材を折り曲げることにより形成されており、嵌合部61と嵌合部61に対して下向きに折り曲げられて形成される傾斜壁62とを有し、嵌合部61がクランク軸14に圧入嵌合されることによりクランク軸14に取り付けられている。傾斜壁62はクランク軸14の回転方向前方側に向けて下向きに傾斜するとともに回転軌跡の接線方向を向いており、スクレーパ60がクランク軸14に取り付けられた状態のもとでは上端部を除いてオイルパン13内の潤滑油Lに浸漬されている。クランク軸14とともにスクレーパ60が回転すると、傾斜壁62によりオイルパン13に収容された潤滑油Lが上方に撥ね上げられ、所望量の潤滑油Lがエンジンの各潤滑油要求部に向けて供給される。このとき、潤滑油Lはクランクケース11内のクランク軸14周りの360度全方向に向けて上方に飛散し、その一部がクランクケース11の天壁部12bの内面に付着する。
【0018】
図5は図1に示された滴下用突起の詳細を示す断面図であり、図6は図5に示す滴下用突起が設けられる位置を示す断面図である。
【0019】
図1および図5に示すように、クランクケース11の天壁部12bには滴下用突起70が設けられている。滴下用突起70は先端が丸みを帯びた円柱形状に形成されており、天壁部12bの内面から下方に向けて突出している。図6に示すように、滴下用突起70は、これから滴下された潤滑油Lの落下経路がクランクウェブ14cの回転範囲と交差するように、クランク軸14の回転範囲の上方に配置されており、また、クランク軸14の軸方向からの平面視において、シリンダ18の軸方向Cに対して図中矢印で示すクランク軸14の回転方向とは逆側に向けて40度から100度の範囲内(図示する場合では約60度)に配置されている。これにより、滴下用突起70から滴下された潤滑油Lの落下経路と交差するときのクランクウェブ14cの移動方向がシリンダ18に向くように設定されている。
【0020】
図5に示すように、天壁部12bには滴下用突起70を中心とした所定の範囲で傾斜面71が形成され、天壁部12bに付着した潤滑油Lを傾斜面71により滴下用突起70に導くようにしている。傾斜面71は頂点を下に向けて配置された円錐面状に形成されており、滴下用突起70は傾斜面71の頂点の部分に配置され、傾斜面71より低く位置している。つまり、傾斜面71は滴下用突起70を最下点とするように滴下用突起70の周り全体が滴下用突起70に向けて下方に傾斜した形状となっており、これにより、天壁部12bに付着した潤滑油Lは自重(重力)により傾斜面71に沿って下方に流れて滴下用突起70に集められる。
【0021】
図5に示すように、天壁部12bに付着した潤滑油Lが傾斜面71により滴下用突起70に集められると、集められた潤滑油Lは順次滴下用突起70から滴下される。滴下用突起70から潤滑油Lが滴下されると、滴下用突起70がクランクウェブ14cの回転範囲の上方に配置されていることから、潤滑油Lは回転するクランクウェブ14cに衝突する。このとき、クランクウェブ14cの移動方向はシリンダ18側を向いているので、潤滑油Lはクランクウェブ14cによりシリンダ18に向けて跳ね飛ばされる。したがって、滴下用突起70から滴下された潤滑油Lは、クランクウェブ14cにより効率的にシリンダ18に供給されることになる。
【0022】
このように、スクレーパ60により撥ね上げられて天壁部12bに付着した潤滑油Lを傾斜面71により滴下用突起70に集め、これをクランクウェブ14cに向けて滴下することにより、潤滑油Lを効率的にシリンダ18に供給することができる。また、クランクケース11の天壁部12bに滴下用突起70と傾斜面71とを設けた簡単な構造でシリンダ18に効率的に潤滑油Lを供給することができるので、このエンジンの製造コストを低減することができる。
【0023】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図示するバーチカルエンジンは草刈り(芝刈り)機や刈払機の動力源として使用されるが、発電機等の他の機器の動力源としても使用することができる。発電機の動力源として使用される場合には、クランク軸14の下端部に発電体が取り付けられることになる。
【0024】
また本実施の形態では、滴下用突起70から滴下された潤滑油Lをクランクウェブ14cにより跳ね飛ばすようにしているが、これに限られず、クランクアーム14bにより跳ね飛ばすようにしてもよい。
【0025】
さらに、本実施の形態では、滴下用突起70は円柱形状に形成されているが、これに限られず、たとえば半球形状など、傾斜面71により集められた潤滑油Lの滴下位置を決め得る形状であればよい。
【0026】
さらに、本実施の形態では、傾斜面71は円錐面とされているが、これに限られず、滴下用突起70の周り全体が滴下用突起70に向けて下方に傾斜する形状であれば、たとえば、傾斜した多数の平面を放射状に組み合わせて傾斜面71を構成するようにしてもよい。
【0027】
さらに、本実施の形態では、スクレーパ60としては傾斜壁62を有するものが用いられるが、これに限られず、オイルパン13に収容された潤滑油Lを撥ね上げることができれば他の形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】バーチカルエンジンを示す縦断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1および図2に示したバーチカルエンジンの吸排気系を示す概略図である。
【図4】図2におけるB−B線に沿う断面図である。
【図5】図1に示された滴下用突起の詳細を示す断面図である。
【図6】図5に示す滴下用突起の位置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 バーチカルエンジン
11 クランクケース
13 オイルパン
14 クランク軸
14c クランクウェブ
60 スクレーパ
70 滴下用突起
71 傾斜面
L 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにより回転駆動されるクランク軸が上下方向を向いて装着されるクランクケースに、前記クランク軸の下端部を回転自在に支持するとともに潤滑油を収容するオイルパンを設けてなるバーチカルエンジンの潤滑装置であって、
前記オイルパンに収容された潤滑油を撥ね上げるスクレーパを前記クランク軸に取り付け、
前記クランクケースの天壁部に下方に突出する滴下用突起と前記滴下用突起に向けて下方に傾斜する傾斜面とを設け、
前記傾斜面に付着した潤滑油を前記滴下用突起から滴下させるとともに前記滴下用突起から滴下する潤滑油を前記クランク軸により前記ピストンが装着されるシリンダに向けて跳ね飛ばすことを特徴とするバーチカルエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
請求項1記載のバーチカルエンジンの潤滑装置において、前記シリンダの軸方向に対して前記クランク軸の回転方向とは逆側に向けた40度から100度の範囲に前記滴下用突起を配置することを特徴とするバーチカルエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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