説明

バーミキュライト含有組成物

【課題】バーミキュライトが有する性質を最大限に利用し、バーミキュライトを石膏ボード等の骨材に用いるよりも、より高い断熱効果、吸音効果を発揮でき、従来の酢酸ビニルやウレタンをバインダーとして用いたものよりも建材としての信頼性が高いバーミキュライト含有組成物を作製する。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル及びウレタンの混合樹脂からなる有機バインダーと、膨張済みのバーミキュライトとからなるバーミキュライト含有組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に建材に用いて断熱、吸音、結露防止などの効果を得ることができる、バーミキュライトを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バーミキュライトは、ヒル石を焼結膨張させた材料である。膨張により多孔質の構造となっていることから、保水性、保肥性が高いため、園芸用土壌の材料として一般に用いられている。また、壁面に用いる石膏ボードの骨材としても使われている。例えば特許文献1には、バーミキュライトをセメントや珪酸カルシウム、スラグ石膏などと配合した建材組成物が記載されている。このようなバーミキュライトを含む建材は、バーミキュライトの比重が軽いために軽量であるという利点を有し、また、内部に空気の層を含むことから一定の断熱効果、吸音効果を発揮する。石膏ボードは現在の建築現場においては安価な壁材として広く使われており、安価に有益な効果を付加できるバーミキュライト含有建材は有用である。
【0003】
ただし、バーミキュライトを骨材として用いた建材組成物は、バーミキュライトによる断熱効果や吸音効果があるものの、バーミキュライトの周囲をセメントなどが覆っており、そのセメントなどが建材の両面を繋げているので、それらが熱や音を伝達してしまい、場合によっては断熱効果や吸音効果が不十分になる場合があった。このため、内壁の結露防止剤として用いてもその効果は限定的なものであった。
【0004】
これに対して、ポリ酢酸ビニルなどの接着剤を用いてバーミキュライトを固めた塗装用組成物が考案されている(特許文献2[0016])。このような組成物からなる層を建材の表面に形成させることで、セメントなどを含む場合よりも熱や音がより伝達しにくい、より空気含有率の高い層を有する建材とすることができる。また、バーミキュライト自体は鉱物であるので、接着剤の含有量が少なければ難燃材としても利用することができる。
【0005】
また、未膨張のバーミキュライトをポリ酢酸ビニルやウレタンなどの有機バインダーと混合した塗装用組成物(特許文献3)や、未焼成バーミキュライトを水ガラスで固めたものが開示されている。これらは建材に用いるものの、上記のものとは使用目的が異なり、耐火性を目的としたものである。火事の際の高熱環境では未膨張であったバーミキュライトが、埋め込まれた建材内部で膨張することで、緊急時に耐火性を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−106671号公報
【特許文献2】特開2004−307778号公報
【特許文献3】特開2002−285037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酢酸ビニルを接着剤としてバーミキュライトを固めたものは、酢酸ビニルの耐熱性が十分ではないので、夏場の直射日光に曝されるビルのような80℃ほどにもなる環境では溶けてしまい、形状が維持できなくなるおそれがあった。また、酢酸ビニルは耐水性も不十分であるため、建材の外側に向けることはできず、外壁の内面側に用いるしかなかった。しかし、建材自体がひび割れて水が浸入してきた場合には劣化することが避けられず、直接水が浸入しなくても湿気が外壁と内壁との間に充満した場合には同様に劣化してしまった。
【0008】
また、未膨張のバーミキュライトを用いたものは、膨張するまでは軽量でも多孔質でもないため、断熱効果、吸音効果などは発揮できなかった。また、有機バインダーとして酢酸ビニルを用いた場合は上記と同様に耐熱性、耐水性の問題があり、有機バインダーとしてウレタンを用いた場合には疎水性であるためにバーミキュライトが十分に保持できずに剥落する場合があった。
【0009】
そこでこの発明は、バーミキュライトが有する性質を最大限に利用し、バーミキュライトを石膏ボード等の骨材に用いるよりも、より高い断熱効果、吸音効果を発揮でき、従来の酢酸ビニルやウレタンをバインダーとして用いたものよりも建材としての信頼性が高いバーミキュライト含有組成物を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、バーミキュライトをエチレン−酢酸ビニル共重合体とウレタンとの混合樹脂と混合した組成物を用いることにより、上記の課題を解決したのである。エチレン−酢酸ビニル共重合体は親水性と疎水性の両方の性質を有しており、また、ポリ酢酸ビニルよりも耐熱性及び耐水性に優れている。しかし、それだけではバーミキュライトを固める接着剤としては不十分であり、ウレタンと混合することで、上記の問題を解決しうる混合樹脂として、バーミキュライトを好適に固めることができる。また、ポリ酢酸ビニルを単独で使用するよりも高い接着力を発揮するため、不燃材としても利用しやすい。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を石膏ボードなどの建材表面に塗工することで、水と接触したり、高湿度の大気に曝されたり、高温環境下に置かれたとしても、バーミキュライトが剥落しにくい断熱吸音層を形成させることができる。このような断熱吸音層を形成させた建材を用いることで、壁面の結露を防止し、高い防音効果を発揮する、耐久性の高い壁材となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を塗工した板材の斜視写真
【図2】この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を塗工した板材の塗工表面写真
【図3】この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を塗工した板材の断面写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について具体的な実施形態を説明する。
この発明は、エチレン−酢酸ビニル及びウレタンの混合樹脂からなる有機バインダーと、膨張済みのバーミキュライトとからなるバーミキュライト含有組成物である。
【0014】
上記バーミキュライトとは、ヒル石を加熱して膨張させたものであり、多孔質で嵩比重が0.20kg/l以下のものである。主な成分はSiO、MgO、Al、Feなどからなる。粒子の大きさは0.1〜10mm程度のものが一般的である。具体的な製品としては、例えば、ヒルイシ化学工業(株)製:ヒルコンが挙げられる。
【0015】
この発明で用いるバーミキュライトとしては、嵩比重が0.07kg/l以上0.11kg/l以下であり、メッシュ幅が1.2mmである14メッシュの篩を通る粒子の重量百分率が、1%以上99%以下であるものが好ましい。小さすぎると嵩比重が大きくなって密になり、断熱吸音効果が不十分になるおそれがあり、大きすぎると建材として表面が粗くなりすぎてしまうおそれがある。
【0016】
上記有機バインダーを構成する上記エチレン−酢酸ビニルのエチレンと酢酸ビニルとのモル比は1:99〜99:1であることが好ましい。この範囲から外れると、共重合体としての性質が発揮されず、ポリエチレン、又はポリ酢酸ビニルとしての性質しか発揮できなくなってしまう。
【0017】
また、上記有機バインダーを構成する混合樹脂は、エチレン−酢酸ビニルとウレタンとを個々に重合してから混合したものでもよいし、一連の高分子として重合させたものでもよいが、エチレン−酢酸ビニル共重合体を得た後、その高分子にウレタン重合により分子鎖を延ばして一体のものとしたものが、親水性及び疎水性の両立の面から好ましい。
【0018】
上記有機バインダーは、有機溶剤と水とを溶媒として、エマルジョンであると望ましい。この場合、有機溶剤の含有量は2〜3重量%程度であると好ましい。塗工後に乾燥させるものであるため、有機溶剤が少ない方が、建材から発生する有機物が少なくて済む。
【0019】
上記有機バインダーと上記バーミキュライトとの配合比は、500:100〜30:100であると好ましい。500:100よりも上記有機バインダーが多いと、バーミキュライトの粒径を小さなものとしても、バーミキュライトが少なすぎて樹脂の成分が多くなるために、塗工しても樹脂層としての性質が強くでてしまい、断熱吸音効果が十分に発揮されなくなってしまう。一方で、30:100よりも上記バーミキュライトが多いと、粒径が比較的大きなバーミキュライトを用いたとしても、塗工後の組成物を上記有機バインダーで保持しきれずに剥落を起こしやすくなってしまう。
【0020】
さらに、上記バーミキュライトの塗工厚みは2〜6mm程度であるのが好ましい。3mm以下では薄すぎて断熱効果及び吸音効果が十分に発揮されない。
【0021】
その中で、塗工厚みを4〜6mm程度に厚くする場合には比較的粒径の大きいバーミキュライトを用いるのが好適である。また、上記有機バインダーの量を重量混合比で、(有機バインダー:バーミキュライト)=80:100よりも少なくする場合も、比較的粒径の大きいバーミキュライトを用いるとよい。このような比較的粒径の大きいバーミキュライトとは、カサ比重が0.07〜0.09kg/lで、8メッシュ(粗さ2.5mm)の篩の透過率が20〜80重量%であるものがよい。
【0022】
一方で、塗工厚みを2〜4mm程度に薄くする場合には、比較的粒径の小さなバーミキュライトを用いるのが好適である。また、上記有機バインダーの量を重量混合比で、(有機バインダー:バーミキュライト)=80:100よりも多くする場合も、比較的粒径の小さいバーミキュライトを用いるとよい。このような比較的粒径の小さいバーミキュライトとは、カサ比重が0.09〜0.11kg/lで、28メッシュ(粗さ0.6mm)の篩の透過率が20〜80重量%であるものがよい。
【0023】
ただし、塗工厚みが3〜5mm程度であるのが使用量及び断熱吸音効果のバランス上好ましい。この場合、重量混合比で(有機バインダー:バーミキュライト)=120:100〜50:100程度であると好ましい。また、用いるバーミキュライトはカサ比重が0.08kg/l以上0.10kg/l以下であり、メッシュ幅が1.2mmである14メッシュの篩を通る粒子の重量百分率が、10%以上50%以下であると、後述する噴射による塗工でも好適な密度での塗工ができる。
【0024】
この発明にかかるバーミキュライト含有組成物は、建材の表面に塗工することで、断熱、吸音、結露防止効果を発揮する多機能板材を得ることができる。塗工する対象となる建材としては、木材板、石膏ボード、コンクリート壁面、アルミ板、スチール板など、特に限定されることなく用いることができる。上記有機バインダーが疎水性と親水性との両方の性質を有するため、広範な対象に対して用いることができる。
【0025】
この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を塗工する方法としては、特に限定されるものではなく、孔径が2〜6mm程度のエアガンを用いて噴射する方法や、刷毛による塗布、組成物中への浸漬など、いずれの方法も用いることができる。ただし、建材用途であるため、現場では噴射が好適な手段であり、予め組成物を塗工した建材を工場で製造する場合には噴射又は浸漬が有効となる。
【0026】
この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を塗工する際に、上記有機バインダーである樹脂の塗工量が170g/m以下であると、不燃材としても利用可能である。従来の酢酸ビニルのみの重合体をバインダーとすると接着力が足りず、不燃材として利用可能な塗工量では十分にバーミキュライトを保持できないものとなっていたが、上記のような混合樹脂を用いることで現実的な利用が可能となる接着力を発揮する。
【0027】
この発明にかかるバーミキュライト含有組成物を、上記建材の表面に塗工し、水分や有機溶媒を蒸発させて固めることで、断熱吸音性建材とすることができる。
具体例として、アルミ板上にエアガンでバーミキュライト含有組成物を噴射して得られた断熱吸音性建材の斜視図写真を図1に、表面の写真を図2に、断面写真を図3に示す。
【実施例】
【0028】
以下、この発明を実施した例を具体的に示す。まず、使用した材料について説明する。
・バーミキュライト(ヒルイシ化学工業(株)製:S−2、カサ比重0.08〜0.10kg/l)(4,8,14,28,48,100メッシュの各篩に留まる重量百分率が下記表1の通り)
・有機バインダー(コニシ(株)製:ボンド CVC33N、ビニル共重合樹脂系エマルジョン型接着剤)(組成……エチレン−酢酸ビニル:20〜30重量%、ウレタン:15〜25重量%、有機溶媒:2〜3%、水:40〜60%)
・ポリ酢酸ビニル(昭和高分子(株)製)
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例1)
バーミキュライトを100重量部、有機バインダーを80重量部とを混合し、バーミキュライト含有組成物を作製した。このバーミキュライト含有組成物を、ホッパーを備えた孔径3mmのエアガンを用いて10cm×10cm×2mmのアルミ板に吹きつけ、厚さ5mmのバーミキュライト層を形成した断熱吸音性材料を製造した。
【0031】
(比較例1)
上記実施例1において、有機バインダーの変わりにポリ酢酸ビニルを用いて同様にバーミキュライト含有組成物及び断熱吸音性材料を製造した。
【0032】
<恒温恒湿試験>
85±2℃、90%RHの環境に、実施例1及び比較例1の断熱吸音性材料を置き、1日後と3日後に、目視による接着状況の観察と質量変化率の測定を行った。その結果を表2に示す。実施例1では1日後も3日後も黄変を認めるが接着剥がれは認められなかった。また、比較例1では外観上の変化や接着剥がれはいずれも見かけられなかった。また、質量変化率は誤差の範囲に留まった。
【0033】
【表2】

【0034】
<促進老化試験>
JIS K 3257中「促進劣化試験A−2法」に基づいて試験を行い、30分間整地後、外観の観察及び質量変化率の変化を測定した。その結果を表3に示す。また、質量変化率は誤差の範囲に留まった。
【0035】
【表3】

【0036】
<恒温恒湿処理後の浸漬試験>
JIS K 3258中に準拠し、上記恒温恒湿試験を3日間行った後の断熱吸音性材料について、イオン交換水(70±2℃)で所定の時間(1日、6日、9日、12日)に亘って浸漬試験を行い、10分間静置した後、目視により外観観察をし、直接接触して強度の変化を確認した。その結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
<吸音試験>
実施例1及び比較例1のそれぞれの断熱吸音性材料を用いて、1m×1m×1mの箱を作製した。なお、塗工したバーミキュライト及び有機バインダーの層は箱の内面側を向いており、接合部分は端部の上記層を斜め45度強にカットして、上記層同士が密着するようにした上で、外側のアルミ板を市販の粘着テープで接合した。この箱の中に市販の目覚まし時計を10分後に鳴るようにセットして密封したところ、実施例1及び比較例1のいずれでも箱の外1メートルの箇所では音が聞こえなかった。
【0039】
<断熱試験>
上記吸音試験で用いた箱の一つの角に、電源ケーブルと温度測定ケーブルが通るだけの隙間を設けて、箱の中に市販の600W電気ヒーターをセットするとともに、底部の別の角に温度センサを取り付け、外部から内部の温度が計測できるようにした。電気ヒーターを1時間加熱した後、内部の温度センサの温度を確認したところ、80℃となったが、外表面に取り付けた同じ温度センサの温度は95℃となった。また、実施例1の材料はバーミキュライトの層に異変は無かったが、比較例1の材料は一部の形状がゆがんでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル及びウレタンの混合樹脂からなる有機バインダーと、膨張済みのバーミキュライトとからなるバーミキュライト含有組成物。
【請求項2】
上記バーミキュライトは、嵩比重が0.07kg/l以上0.11kg/l以下であり、メッシュ幅が1.2mmである14メッシュの篩を通る粒子の重量百分率が、1%以上99%以下であるバーミキュライト含有組成物。
【請求項3】
上記バーミキュライトは、嵩比重が0.08kg/l以上0.10kg/l以下であり、メッシュ幅が1.2mmである14メッシュの篩を通る粒子の重量百分率が、10%以上50%以下であるバーミキュライト含有組成物。
【請求項4】
上記有機バインダーとバーミキュライトとの重量混合比が500:100〜30:100である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバーミキュライト含有組成物。
【請求項5】
性状がエマルジョン状である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバーミキュライト含有組成物。
【請求項6】
上記有機バインダーは、エチレン−酢酸ビニル重合体を20重量%以上30重量%以下有し、ウレタンを15重量%以上25重量%以下有し、残余が水と有機溶媒からなる請求項5項に記載のバーミキュライト含有組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバーミキュライト含有組成物を建材表面に塗工した、断熱吸音性建材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−174060(P2010−174060A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15382(P2009−15382)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(509027825)
【Fターム(参考)】