説明

パイプの接続構造

【課題】パイプに生じる局部腐食(孔食)の発生をより確実に抑制する。
【解決手段】パイプ100はゴムホース10の端面10Aとパイプ100のスプール106とが当接した状態であっても、塗装層110の塗装端110Aとゴムホース10の端面10Aとの間にLmmの距離があいている。よって、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100との間に流れる電流の電流密度が小さくなる。したがって、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100との間に局部的に電流が流れることによるパイプ100に生じる局部腐食(孔食)の発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプの接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック等の導電性充填剤を含有するエチレン−α−オレフィン系ゴムで最外層が形成されてなるブレーキホースにアルミニウム合金製の口金を取り付けた場合、口金に接触腐食(電池作用腐食)や局部腐食(孔食)が発生することがある。
【0003】
これは、ブレーキホースを構成するエチレン−α−オレフィン系ゴムに導電性のカーボンブラック(酸化還元電位:約+1.2V)等の導電性充填剤が含有されているので、絶縁体(高抵抗値体)であるはずのゴム製のブレーキホースが導電性を有するためとされている。
【0004】
具体的には、接触腐食(電池作用腐食)は、アルミニウム合金は卑金属(酸化還元電位は約−1.66V)であり、口金とブレーキホースとの間の電位差が大きくなくなることから、口金がアノード、ブレーキホースがカソードとなり、この結果、腐食性環境において、アノードとなる口金がこれと接触したカソードとなるブレーキホースによって電子を吸い上げられることによって起こるとされている。
【0005】
一方、局部腐食(孔食)は、水等が口金の表面に付着すること等によって、局部的に電流が集中して流れることによって、アルミニウム合金表面に形成された不動態膜が局部的に破壊されることによって起こるとされている。
【0006】
よって、エチレン−α−オレフィン系ゴム中の導電性充填剤の含有量を減少させることにより、ブレーキホースと口金との間に発生する腐食電流を、口金の不動態保持電流値以下とすることで、口金に生じる接触腐食(電池作用腐食)や局部腐食(孔食)の発生を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−42367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、パイプに生じる局部腐食(孔食)の発生をより確実に抑制することが求められている。
【0009】
よって、本発明は、パイプに生じる局部腐食(孔食)の発生をより確実に抑制するパイプの接続構造を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、導電性充填剤が分散されたゴムホースに先端部が挿入されるアルミニウム合金製のパイプの接続構造であって、パイプ表面に形成されたクラッド層と、前記ゴムホースの内径よりも大きく拡径され前記ゴムホースの端面に当る拡径部と、前記クラッド層の外側に施され、前記ゴムホースに挿入される前記先端部側の前記拡径部の拡径開始端よりも前記先端部から遠い側に塗装端が設定された塗装層と、を備える。
【0011】
したがって、ゴムホースにパイプの先端部が挿入されゴムホースの端面にパイプの拡径部が当接された状態において、ゴムホースの端面と塗装端との間の距離が十分に確保される。よって、ゴムホースの端面とパイプとの間に流れる電流の電流密度が小さく、ゴムホースの端面とパイプとの間に局部的に集中して電流が流れにくい状態となる。したがって、局部的に電流が流れることによるパイプに生じる局部腐食(孔食)の発生が抑制される。
【0012】
また、何らかの原因でゴムホースの端面とパイプの拡径部との間に若干の隙間があいた状態となっても、ゴムホースの端面と塗装端との間の距離が十分に確保されているので、同様に局部的に電流が流れることによるパイプに生じる局部腐食(孔食)の発生が抑制される。
【0013】
請求項2の発明は、前記塗装層の端面は、前記先端部側に向かって先細のテーパー状の傾斜面とされている。
【0014】
したがって、塗装層の塗装端が直線状又は略直線状となり、塗装層の塗装端とゴムホースの端面との距離が周方向で均一又は略均一となる。よって、ゴムホースの端面とパイプとの間に局部的に電流が流れることが抑制され(電流が集中しにくくなり、局部的に電流が流れることによるパイプに生じる局部腐食(孔食)の発生が更に抑制される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、塗装端がパイプの拡径部の拡径開始端に設定された構造又は拡径開始端の近傍に設定された構造と比較し、パイプに生じる局部腐食(孔食)の発生を抑制することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、塗装層の端面が傾斜面でない構造と比較し、パイプに生じる局部腐食(孔食)の発生を更に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るパイプにゴムホースが接続された状態を一部断面で示すパイプの軸方向と直交する方向から見た図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパイプにゴムホースが接続されていない状態を一部断面で示すパイプの軸方向と直交する方向から見た図である。
【図3】図1と図2に示す本実施形態のパイプに塗装する工程を説明する(A)はマスキングキャップを被せた状態を一部断面で示す部分拡大図であり、(B)はマスキングキャップを取った状態を一部断面で示す部分拡大図である。
【図4】(A)は図1と図2に示す本実施形態のパイプのスプールがゴムホースの端面に当接した状態におけるパイプとゴムホースとの間に流れる電流の電流密度を説明する説明図であり、(B)はパイプのスプールとゴムホースの端面とに若干の隙間がある状態におけるパイプとゴムホースとの間に流れる電流の電流密度を説明する説明図であり、(C)は参考例のパイプのスプールとゴムホースの端面とに若干の隙間がある状態におけるパイプとゴムホースとの間に流れる電流の電流密度を説明する説明図である。
【図5】(A)は参考例のパイプにゴムホースが接続された状態を一部断面で示すパイプの軸方向と直交する方向から見た図であり、(B)はゴムホースの端面と塗装層の塗装端との境界部分を拡大した図である。
【図6】参考例のパイプに塗装する工程を説明する(A)はマスキングキャップを被せた状態を一部断面で示す部分拡大図であり、(B)はマスキングキャップを取った状態を一部断面で示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のパイプの接続構造が適用された実施形態のパイプについて図1〜図3を用いて説明する。なお、本実施形態では、車両に用いられるエンジン潤滑用オイルを冷却するオイルクーラ(図示略)のパイプ100とされている。なお、図1及び図2では判り易くするためゴムホース10及び後述するクリップ800は断面で図示し、パイプ100は断面で図示していない。
【0019】
図1と図2とに示すように、パイプ100は、先端部102がゴムホース10の中に挿入されることで、パイプ100とゴムホース10とが接続される(図2を参照)。なお、ゴムホース10は、カーボンブラック等の導電性充填剤が分散されたゴム製のホースとされている。
【0020】
パイプ100はアルミニウム合金製とされている。パイプ100に使用するアルミニウム合金としては、汎用のものを使用可能である。パイプ100の表面には、耐食性を高める等の目的のためにクラッド層(犠牲層)100Sが形成されている。またクラッド層(犠牲層)100Sは、公知の技術や方法等によって形成することができる。
【0021】
パイプ100の端部には、ゴムホース10の内径よりも大きく拡径されたスプール104とスプール106とが形成されている。スプール104はゴムホース10に挿入される側の先端部分に形成され、スプール106はスプール104に対して軸方向に間隔をあけて形成されている。
【0022】
図1に示すように、スプール104は、ゴムホース10の中に挿入され、パイプ100がゴムホース10から抜け出ることを防止する抜け止め用としての機能を果たすように構成されている。なお、本実施形態では、更にクリップ800で、ゴムホース10がパイプ100に固定されている。
【0023】
一方、スプール106は、ゴムホース10の開口部の端面10Aに当ることで、ゴムホース10に挿入するパイプ100の先端部102の挿入量を規定する。言い換えると、パイプ100の先端100Sからスプール106のゴムホース10側の拡径開始端106Aまでが、ゴムホース10に挿入される先端部102とされている。
【0024】
図1と図2とに示すように、パイプ100のパイプ表面、すなわちクラッド層100Sの外側には、防錆や意匠性(見栄え、黒色化)等の目的のため塗装され、塗装層(塗装膜)110が形成されている。この塗装層110の先端側の塗装端110Aは、スプール106の拡径開始端106Aよりもゴムホース10の端面10Aから遠い側に設定されている。なお、この塗装端110Aは拡径開始端106AからLmm離れた位置とされ、本実施形態ではこのLは約20mmに設定されている。
【0025】
つぎに、パイプ100の塗装層110の形成方法、すなわちパイプ100の塗装工程(塗装方法)について、図3を用いて説明する。なお、図3では判り易くするため塗装層110と後述するマスキングキャップ200とは断面で図示し、パイプ100は断面で図示していない。また、図3の左側がパイプ100の先端部102(先端100S)側である。
【0026】
なお、塗装方式は特に限定されない。例えば、スプレー方式、粉体塗装方式、ディッピング方式等の塗装方式を用いることができる。
【0027】
図3(A)に示すように、パイプ100にマスキングキャップ200を嵌めてマスキングを行なう。なお、マスキングキャップ200は、マスキング端部202Aがスプール106の拡径開始端106A(図1、図2参照)からLmm(本実施形態では約20mm、図1及び図2を参照)の位置になるように構成されている。また、マスキングキャップ200の端部は、先端部102(先端100S)と反対側に向かって径方向外側に傾斜する傾斜面202が形成されている。なお、この傾斜面202におけるパイプ側端部が前述したマスキング端部202Aとなる。
【0028】
そして、マスキングキャップ200をパイプ100に嵌めた状態で塗装を行なうことで、マスキングキャップ200でマスキングされた部分から先に塗装層110が形成される。言い換えると、マスキングキャップ200でマスキングされた領域が非塗装領域となる。
【0029】
塗装層110が乾燥したのち、マスキングキャップ200を取り除く。なお、このとき矢印M1で示すように、マスキングキャップ200の先端部分を径方向外側に向かって切り離すようにして剥がす。言い換えると、マスキングキャップ200の傾斜面202が、塗装層110の端面112の周囲(外側)から先端側(径方向内側)に向かって、徐々に剥がれていくようにする。
【0030】
このようにマスキングキャップ200の端部に傾斜面202を有し、マスキングキャップ200の先端部分を径方向外側に向かって切り離すようにして剥がすことで、図3(B)に示すように、塗装層110の端面112の破壊等が防止又は抑制されると共に、端面112は先端部102側(図1、図2を参照)に向かって先細のテーパー状の傾斜面となる。
【0031】
そして、このように塗装層110の端面112の破壊等が防止又は抑制されることで、塗装層110の塗装端110Aの軸方向の凹凸が低減する。つまり、マスキングキャップ200がきれいに剥がれ、塗装層110の塗装端110Aが周方向に沿って略直線状となる。
【0032】
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0033】
ここで、本発明が適用されていない参考例のパイプ101について、図5及び図6を用いて説明する。なお、図5(A)は図1に対応する図であり、図1と同様にゴムホース10及びクリップ800は断面で図示し、パイプ101は断面で図示していない。また、図6は図3に対応する図であり、図3と同様に塗装層110とマスキングキャップ201とは断面で図示し、パイプ101は断面で図示していない。また、図6においては、スプール106と、塗装層110の層厚及びキャップ201の厚みと、の大きさの関係はこの図とは全く異なり、実際の層厚は非常に薄い。つまり、塗装層110の層厚及びキャップ201の厚みは実際よりも極端に厚く図示している。
【0034】
図5に示すように、参考例のパイプ101における塗装層110の塗装端110Aは、スプール106の拡径開始端106A又は拡径開始端106Aの近傍に設定されている(図6(B)も参照)。
【0035】
また、図6(A)に示すように、マスキングキャップ201の端面203は、パイプ101の軸方向に略直交している、つまり傾斜面となっていない(図3と図6を比較参照)。また、マスキングキャップ201は、矢印M2で示すように、軸方向に引き抜いて取り除く。このような場合、図6(B)に示すように、塗装層110の端面112が破壊され塗装層110の塗装端110Aには軸方向に凹凸が発生する、つまり塗装端110Aが直線でなくギザギザとなる(図5(B)も参照)。
【0036】
よって、図5(B)に示すように、ゴムホース10の端面10Aとパイプ101のスプール106とが当接した状態であっても、塗装層110の塗装端110Aとゴムホース10の端面10Aとの間に微小隙間tが発生する。よって、この微小隙間tに局部的に電流が流れることによって、パイプ201に局部腐食(孔食)が発生する虞がある。
【0037】
更に、図4(C)に示すように、何らからの原因でゴムホース10の端面10Aとパイプ101のスプール106との間に若干の隙間r(例えばrは、2mm以下程度)があいた状態では、ゴムホース10の端面10Aとパイプ101との間に流れる電流の電流密度が大きい。また、上述したように塗装層110の塗装端110Aの凹凸によって電流密度にバラツキが生じる。よって、局部的に電流が更に流れやすい状態となる。したがって、局部的に電流が流れることによって、パイプ201に局部腐食(孔食)が発生する虞が大きい。なお、矢印Dの太さが、電流密度の大きさを表している。
【0038】
これに対して、本実施形態のパイプ100は、図4(A)に示すように、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100のスプール106とが当接した状態であっても、塗装層110の塗装端110Aとゴムホース10の端面10Aとの間にLmm(本実施形態では20mm)の距離があいている。よって、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100との間に流れる電流の電流密度が参考例と比較し小さくなる。したがって、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100との間に局部的に電流が流れることによるパイプ100に生じる局部腐食(孔食)の発生が抑制される。
【0039】
また、図4(B)に示すように、何らからの原因でゴムホース10の端面10Aとパイプ100のスプール106との間に若干の隙間r(例えば、rは2mm以下程度)があいた状態となったとしても、ゴムホース10の端面10Aとパイプ100との間に流れる電流の電流密度は小さいので、図4(A)の状態と同様にパイプ100に生じる局部腐食(孔食)の発生が抑制される。
【0040】
また、塗装層110の塗装端110Aは凹凸が低減され略直線状であるので、距離L(+隙間r)が周方向で略一定となり、電流密度のバラツキが生じないか、生じたとしても非常に小さい(参考例のパイプ101よりも電流密度のバラツキが小さい)。よって、局部的に電流が流れることが更に抑制され、その結果、局部腐食(孔食)の発生が更に抑制される。
【0041】
なお、塗装層110の塗装端110Aとゴムホース10の端面10Aとの間のLmm(本実施形態では20mm)は、パイプ100が露出した状態となっている。しかし、パイプ100の表面にはクラッド層(犠牲層)100Sが形成されているので、パイプ100が露出しても接触腐食(電池作用腐食)等による腐食は抑制される。つまり、本実施形態のパイプ100の端部構造は、局部腐食(孔食)と接触腐食(電池作用腐食)との両方が抑制されている。
【0042】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0043】
例えば、上記実施形態では、パイプ100を塗装する際には、マスキングキャップ200でマスキングしたがこれに限定されない。他の方法等でマスキングしてもよい。例えば、マスキングテープでマスキングしてもよい。
【0044】
また、例えば、上記実施形態では、エンジン潤滑用オイルを冷却するオイルクーラのパイプ100に本発明を適用したが、これに限定されない。ブレーキホース等のゴムホースに挿入され接続される車両用のパイプ全般に本発明を適用することができる。更に、車両以外のパイプにも本発明を適用することができる。
【0045】
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
10 ゴムホース
10A 端面
100 パイプ
100S クラッド層
102 先端部
106 スプール(拡径部)
110 塗装層
110A 塗装端
112 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性充填剤が分散されたゴムホースに先端部が挿入されるアルミニウム合金製のパイプの接続構造であって、
パイプ表面に形成されたクラッド層と、
前記ゴムホースの内径よりも大きく拡径され前記ゴムホースの端面に当る拡径部と、
前記クラッド層の外側に施され、前記ゴムホースに挿入される前記先端部側の前記拡径部の拡径開始端よりも前記先端部から遠い側に塗装端が設定された塗装層と、
を備えるパイプの接続構造。
【請求項2】
前記塗装層の端面は、前記先端部側に向かって先細のテーパー状の傾斜面とされている請求項1に記載のパイプの接続構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−77891(P2012−77891A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225995(P2010−225995)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】