パイプの製造方法及びパイプの製造装置
【課題】ロール矯正加工時にバリや切粉の巻き込みによる素管表面の傷つきを防止することができるパイプの製造方法を提供すること。
【解決手段】パイプの製造方法は、引抜き加工により得られた素管1についてその両端部のうち少なくとも一方の端部2を切除する管端切除工程と、管端切除工程を経た素管1についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程とを含む。素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されている。素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されている。管端切除工程では、素管1の端部2の外側において素管1の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃15を、素管1の周方向に素管1に対して相対的に移動させながら素管1の内側に送ることにより、素管1の端部2の切除を行う。
【解決手段】パイプの製造方法は、引抜き加工により得られた素管1についてその両端部のうち少なくとも一方の端部2を切除する管端切除工程と、管端切除工程を経た素管1についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程とを含む。素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されている。素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されている。管端切除工程では、素管1の端部2の外側において素管1の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃15を、素管1の周方向に素管1に対して相対的に移動させながら素管1の内側に送ることにより、素管1の端部2の切除を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密パイプ等のパイプの製造方法及びパイプの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子複写機、レーザプリンタ等の感光ドラムにおける、セレンや有機感光体等の光導電性の感光体層を支持する感光ドラム基体は、アルミニウム(その合金を含む。)等の金属製パイプから形成されている。このパイプは、高い寸法精度(例:真直度)と、高品質な画像を得るために高い表面(外周面)精度が要求される。
【0003】
ところで、このパイプは、多くの場合、引抜き加工により得られた素管から製作されているが、このような素管は、引抜き加工時に発生する内部応力の不均一性等によって少なからず曲がっていることが多い。そこで、真直度の向上を図るために素管についてロール矯正加工が施されている。
【0004】
このロール矯正加工を行う際に、素管の端部に切粉や汚れた油等の異物が付着している場合には、この異物が矯正ロールと素管の表面(外周面)との間に巻き込まれてしまい、その結果、素管の表面に傷が付くという問題が発生する。特に、素管が、高い表面(外周面)精度が要求される感光ドラム基体用パイプの素管である場合には、この傷が致命的な表面欠陥となり、感光ドラムの製造時において製品の歩留まりが低下する。
【0005】
そこで、従来、この問題を解決するため、まず素管の端部を切除し、次いでこの素管についてロール矯正加工が施されている(例えば特許文献1参照。)。また、この場合における素管の端部(管端)の切除は、プレス切断装置を用いて切断刃(剪断刃)を素管を横断するように直線的に送ることにより、行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−184623号公報(請求項1、第1図(ハ))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、従来の切除方法により素管の端部を切除した場合、素管の切断部における、切断刃(詳述すると切断刃の刃先)が素管の外周面から内周面へと進行して切断された部位には、切断刃の進行に伴い内向きのバリが発生するが、素管の切断部における、切断刃が素管の内周面から外周面へと進行して切断された部位には、切断刃の進行に伴い外向きのバリが発生する。特に、切断刃の管理状態が悪いと、このバリの大きさや発生量が増大する。
【0008】
このように外向きのバリが素管の切断部に発生した場合には、上記と同じ問題が発生する。すなわち、ロール矯正加工時にこのバリが矯正ロールにより擦り落とされて該バリが矯正ロールと素管の表面との間に巻き込まれてしまい、その結果、素管の表面に傷が付くという問題が発生する。
【0009】
また、従来、管端の切除は、突切り刃からなる切断刃(剪断刃)を用いたプレス切断法により行われていたため、切除時に素管の切断部が切断力を受けて扁平状に変形するなど、素管の切断部が局部的に変形することがあった。このように素管の切断部が変形すると、ロール矯正加工時において真直度の向上を図ることが困難になる。
【0010】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロール矯正加工時にバリや切粉の巻き込みによる素管表面の傷つきを防止することができるパイプの製造方法、これにより製造されたパイプ、及び前記パイプの製造方法に好適に用いられるパイプの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の手段を提供する。
【0012】
[1] 引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除工程と、前記管端切除工程を経た素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程と、を含むパイプの製造方法において、前記管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことを特徴とするパイプの製造方法。
【0013】
[2] 前記切断刃の先端角が30〜80°の範囲に設定されている前項1記載のパイプの製造方法。
【0014】
[3] 前記切断刃の個数は3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されている前項1又は2記載のパイプの製造方法。
【0015】
[4] 前記管端切除工程では、切断刃の素管周りの公転数を400〜800rpmの範囲に設定して、素管の端部の切除を行う前項1〜3のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0016】
[5] 前記管端切除工程では、切断刃の送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定して、素管の端部の切除を行う前項1〜4のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0017】
[6] 前記管端切除工程では、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を行う前項1〜5のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0018】
[7] 前記管端切除工程では、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を、送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定して行う前項1〜5のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0019】
[8] パイプは、精密パイプである前項1〜7のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0020】
[9] パイプは、感光ドラム基体用パイプである前項1〜7のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0021】
[10] 前項1〜9のいずれか1項記載のパイプの製造方法により製造されたパイプ。
【0022】
[11] 引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除装置と、前記管端切除装置により端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工装置と、を備えたパイプの製造装置において、前記管端切除装置は、切断される素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を備えるとともに、前記切断刃が素管の周方向に素管に対して相対的に移動されながら素管の外側から内側に送られるように構成されていることを特徴とするパイプの製造装置。
【0023】
[12] 前記切断刃の先端角が30〜80°の範囲に設定されている前項11記載のパイプの製造装置。
【0024】
[13] 前記切断刃の個数は3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されている前項11又は12記載のパイプの製造装置。
【0025】
[14] パイプは、精密パイプである前項11〜13のいずれか1項記載のパイプの製造装置。
【0026】
[15] パイプは、感光ドラム基体用パイプである前項11〜13のいずれか1項記載のパイプの製造装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明は次の効果を奏する。
【0028】
[1]の発明によれば、管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことから、素管の切断部にはその全周に亘って外向きのバリが発生しないし、切除時に切粉が殆ど発生しない。したがって、こうして端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すことにより、バリや切粉の巻き込みによる素管表面の傷つきを防止することができ、もって高い表面精度を有するパイプを得ることができる。また、切除時に生じることのある素管の切断部の変形を防止することができる。さらに、素管の切断部を内側に丸く加工することができる。そのため、素管のロール矯正加工装置への投入をスムーズに行うことができるし、ロール矯正加工後においてパイプのフレを小さくし得て製品の歩留まりを向上させることができる。
【0029】
[2]の発明によれば、切断刃の先端角が所定範囲に設定されていることにより、バリや切粉の発生を確実に防止することができるし、素管の切断部を確実に丸く加工することができる。
【0030】
[3]の発明によれば、切断刃の個数が3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されていることにより、管端切除開始時に素管の端部をこの3個の切断歯で把持することができる。そのため、管端の切除作業を能率良く行うことができる。
【0031】
[4]の発明によれば、切断刃の素管周りの公転数を所定範囲に設定して、素管の端部の切除を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0032】
[5]の発明によれば、切断刃の送り速度を所定範囲に設定して、素管の端部の切除を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0033】
[6]の発明によれば、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0034】
[7]の発明によれば、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を、送り量を所定範囲に設定して行うことにより、上記の効果を更に確実に奏し得る。
【0035】
[8]の発明によれば、精密パイプを製造することができる。
【0036】
[9]の発明によれば、感光ドラム基体用パイプを製造することができる。
【0037】
[10]の発明によれば、高い表面精度を有するパイプを提供できる。
【0038】
[11]〜[15]の発明によれば、本発明に係るパイプの製造方法に好適に用いることができるパイプの製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパイプの製造方法を説明するための図で、パイプの素管について行われた引抜き加工を示す素管の部分断面側面図である。
【図2】同素管の全体側面図である。
【図3】(a)は本発明の第1実施形態に係る管端切除装置の側面図、(b)は管端切除装置の正面図である。
【図4】(a)は管端切除装置の切断刃の側面図、(b)は切断刃の正面図である。
【図5】(a)は切除時の管端切除装置の側面図、(b)は(a)中のX−X線から見た管端切除装置の正面図である。
【図6】切除後の素管の切断部の拡大側面図である。
【図7】切除後の素管の全体側面図である。
【図8】(a)は矯正開始時の状態を示すロール矯正加工装置の側面図、(b)は矯正途中の状態を示すロール矯正加工装置の側面図である。
【図9】(a)は本発明の第2実施形態に係る管端切除装置の側面図、(b)は(a)中のX−X線から見た管端切除装置の正面図である。
【図10】実施例36(本発明)のパイプの表面不良の発生率と、比較例1(従来例)のパイプの表面不良の発生率を示す図(グラフ)である。
【図11】(a)は実施例37及び比較例2に用いられたパイプの全体側面図、(b)は実施例37におけるフレの測定結果を示す図(グラフ)、(c)は比較例2におけるフレの測定結果を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0041】
図1〜図8は、本発明の第1実施形態に係るパイプの製造方法及びパイプの製造装置を説明するための図である。
【0042】
本実施形態に係るパイプの製造方法により製造されるパイプは、精密パイプであり、詳述すると、電子複写機、レーザプリンタ、FAX装置等に搭載される感光ドラムの基体に用いられるパイプ、即ち感光ドラム基体用パイプである。
【0043】
図2において、(1)は、感光ドラム基体用パイプの素管である。この素管(1)は、断面円形状のものであり、引抜き加工装置(40)としてドローベンチを用いた引抜き加工により得られたアルミニウム(その合金を含む。以下同じ。)製の長尺な無切削引抜き管からなる。この素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)には口付け部(2a)が形成されている。この口付け部(2a)は、図1に示すように、引抜き加工時において、引抜き加工装置(40)の引抜き用ダイス(41)の成形孔(41a)に素管(1)の端部を通すために素管(1)の端部を縮形加工(例:スエージング加工)することによって形成されたものである。引抜き加工時には、この口付け部(2a)は引抜き用ダイス(41)の成形孔(41a)に通されたのちキャリッジ(42)のチャック部(43)でチャックされる。そして、このチャック状態で引抜き加工が施されることによって素管(1)が得られる。なお図1において、(44)はプラグ、(45)はその支持棒である。
【0044】
なお本発明では、素管(1)は、アルミニウム製のものに限定されるものではなく、他の金属製のものであっても良いし、他の材料製のものであっても良い。また、素管(1)は、ドローベンチを用いた引抜き加工により得られたものに限定されるものではなく、他の引抜き加工装置を用いた引抜き加工により得られたものであっても良い。
【0045】
本実施形態では、この素管(1)の両端部(2)(2)は、図3に示した本発明の第1実施形態の管端切除装置(10)によりそれぞれ切除(切断除去)される[管端切除工程]。図2において、(L)は素管(1)の端部(2)の切断予定線である。次いで、この素管(1)について、図8に示した本発明の第1実施形態のロール矯正加工装置(20)によって、曲がり矯正のためのロール矯正加工が施される[ロール矯正加工工程]。以上の工程を順次経て、所望するパイプ(5)が製造される。したがって、本実施形態のパイプの製造装置(30)は管端切除装置(10)とロール矯正加工装置(20)を備えており、このパイプの製造装置(30)によって所望するパイプ(5)が製造される。
【0046】
まず、管端切除装置(10)の構成について以下に説明する。
【0047】
管端切除装置(10)は、図3(a)及び(b)に示すように、駆動モータ(図示せず)により回転駆動される回転体(11)と、3個の回転自在な円板状切断刃(15)とを備える。
【0048】
回転体(11)は、切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)させるためのものである。この回転体(11)の前面の回転中心部には、切断される素管(1)の端部(2)が挿入される断面円形状の素管挿入孔(12)が回転軸方向に延びて設けられている。
【0049】
また、回転体(11)の前面における素管挿入孔(12)の周囲には、3個の切断刃支持部材(13)が、周方向に等間隔に配置されるとともに、素管挿入孔(12)に挿入される素管(1)の端部(2)の半径方向にスライド自在に設けられている。各切断刃支持部材(13)は、駆動源(図示せず)からの駆動力を受けてスライドされるものとなされている。この駆動源としては、モータや流体圧シリンダ(例:油圧シリンダ、ガスシリンダ)等が用いられる。
【0050】
切断刃(15)は、対応する切断刃支持部材(13)に支持軸(14)を介して回転自在に軸支されている。このようにして、3個の切断刃(15)は、素管挿入孔(12)に挿入された素管(1)の端部(2)の外側において素管(1)の軸に垂直な面内に素管(1)の周方向に等間隔に配置されている。そして、切断刃支持部材(13)が素管(1)の中心に向かって素管(1)の半径方向にスライドされることにより、切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の外側から内側に送られ、詳述すると切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の半径方向に送られるものとなされている。さらに、回転体(11)を回転駆動させることにより、切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)されるものとなされている。なお、切断刃(15)は、上述したように回転自在に軸支されたものであり、すなわち回転駆動されるものではない。
【0051】
切断刃(15)は、図4(a)及び(b)に示すように、その周縁の全周に切れ刃(16)(刃先)が形成された円板状のものである。この切断刃(15)の切れ刃(16)は、その両面に刃面(16a)(16a)が形成された両刃からなる。図4(a)に示すように、切断刃(15)の先端角αは、30〜80°の範囲に設定されていることが望ましく、特に45〜70°の範囲に設定されていることが望ましい。この理由は後述する。
【0052】
切断刃(15)の材質としては、工具鋼、超硬合金工具鋼、セラミック、ダイヤモンド等が挙げられる。切断刃(15)の大きさは、素管(1)の径や肉厚に応じて適宜選択される。例えば、切断刃(15)の直径は50〜100mmの範囲に設定され、切断刃(15)の厚さは2〜20mmの範囲に設定される。ただし本発明では、切断刃(15)の直径や厚さはこのような範囲であることに限定されるものではない。
【0053】
次に、ロール矯正加工装置(20)の構成について以下に説明する。
【0054】
ロール矯正加工装置(20)は、図8に示すように、従来より用いられている、いわゆる傾斜ロール式と称される矯正装置である。すなわち、このロール矯正加工装置(20)は、その基本的な構成として、つづみ形ないし太鼓形の複数の傾斜状態に配置された矯正ロール(21)を備える。このロール矯正加工装置(20)では、素管(1)をその端部から複数の矯正ロール(21)間に通すことにより、矯正ロール(21)の作用で素管(1)を引き込みつつ、素管(1)に従動回転を付与しながら素管(1)を真直に矯正し、そして前方へ送り出していく方式のものである。
【0055】
次に、上記管端切除装置(10)とロール矯正加工装置(20)を用いてパイプを製造する方法について、以下に説明する。
【0056】
まず、素管(1)として、図2に示すように、上述したアルミニウム製の長尺な無切削引抜き管からなるものを準備する。例えば、この素管(1)の長さは4〜10mの範囲に設定され、その外径は12〜50mmの範囲に設定され、その肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されている。さらに、この素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)には口付け部(2a)が形成されている。
【0057】
この素管(1)の口付け部(2a)を含む端部(2)を切除するため、図5に示すように、素管(1)の端部(2)を管端切除装置(10)の素管挿入孔(12)に挿入配置する。そして、素管(1)が自軸回転しないように固定具(図示せず)により素管(1)を固定する。次いで、3個の切断刃支持部材(13)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の半径方向にスライドさせることにより、3個の切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の外周面に押し付ける。これにより、素管(1)の端部(2)が3個の切断刃(15)で把持される。このように素管(1)の端部(2)を把持することにより、管端の切除作業を能率良く行うことができる。
【0058】
次いで、回転体(11)を回転駆動させることにより切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)させながら、切断刃支持部材(13)を素管(1)の端部(2)の中心に向かってスライドさせることにより切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の外側から内側に、詳述すると切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の端部(2)の半径方向に送る。この送り操作により、素管(1)の端部(2)の周壁部が全周に亘って切断刃(15)で剪断され、もって素管(1)の端部(2)が切除される。図6は、切除後の素管(1)の切断部の拡大側面図である。
【0059】
以上のように管端の切除が行われることにより、素管(1)の切断部にはその全周に亘って外向きのバリが発生ぜす、また切除時において切粉の発生を防止することができて素管(1)に切粉が付着することもない。さらに、切除時に生じることのある素管(1)の切断部の変形を防止することができる。さらに、図6に示すように、素管(1)の切断部を内側に丸く加工することができる。同図中の(3)は、素管(1)の切断部に形成された内向きの丸み部である。また、Kは、素管(1)の外周面に対する丸み部(3)の丸み量である。
【0060】
さらに、こうして素管(1)の端部(2)を切除したのち、引き続き切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の内側に送る送り操作、詳述すると切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の端部(2)の半径方向に送る送り操作を行うことが望ましい。こうすることにより、外向きのバリの発生を確実に防止することができるし、素管(1)の切断部を内側に確実に丸く加工することができる。また、引き続き行われる切断刃(15)の送り操作において、送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましい。
【0061】
さらに、切断刃(15)の先端角αは、上述したように30〜80°の範囲に設定されていることが望ましい。αをこの範囲に設定することにより、バリや切粉の発生を更に確実に防止することができるし、素管(1)の切断部を更に確実に丸く加工することができる。特に、αは45〜70°の範囲に設定されていることが望ましい。
【0062】
さらに、管端切除工程において、切断刃(15)の素管周りの公転数を400〜800rpm(特に好ましくは500〜700rpm)の範囲に設定することが望ましい。
【0063】
さらに、切断刃(15)の送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましい。
【0064】
次いで、素管(1)の他方の端部(2)を、上記管端切除装置(10)を用いて上記と同じ切除方法により切除する。これにより、図7に示すように、両端部がそれぞれ切除された素管(1)が得られる。
【0065】
次いで、図8に示すように、この素管(1)についてロール矯正加工装置(20)によりロール矯正加工を施し、素管(1)の曲がりを矯正して真直度を向上させる。この矯正方法について以下に説明する。
【0066】
すなわち、図8(a)に示すように、素管(1)をいずれか一方の端部(2)からロール矯正加工装置(20)に投入して複数の矯正ロール(21)間に通すことにより、矯正ロール(21)の作用で素管(1)を引き込みつつ、素管(1)に従動回転を付与しながら素管(1)を真直に矯正する。矯正された素管(1)は図8(b)に示すように前方へ送り出される。このようにして、素管(1)についてロール矯正加工を全長に亘って施すことにより、所望するパイプ(5)が製造される。なお、同図中の矢印Zは、素管(1)のロール矯正加工装置(20)への投入方向を示している。
【0067】
このロール矯正加工時において、素管(1)の切断部には上述したようにその全周に亘って外向きのバリが生じていないし、素管(1)に切粉が付着していないので、素管(1)の表面(外周面)にバリや切粉の巻き込みによる傷が付くことはない。したがって、高い表面精度を有するパイプ(5)を製造することができる。
【0068】
なお、素管(1)の切断部には内向きのバリが生じているが、このバリは矯正ロール(21)と直接接触することはないので、このバリは矯正ロール(21)では擦り落とされることはない。したがって、内向きのバリでは、該バリの巻き込みによる素管(1)表面の傷つきは殆ど生じない。
【0069】
さらに、上述したように、素管(1)の切断部が内側に丸く加工されているので、素管(1)のロール矯正加工装置(20)への投入をスムーズに行うことができて作業能率が向上する。さらに、ロール矯正加工後においてパイプ(5)のフレを小さくし得て製品の歩留まりを向上させることができるし、パイプ(5)のウネリを小さくすることができる。
【0070】
次いで必要に応じて、このパイプ(5)は、その長さ方向において、感光ドラム基体(パイプ製品)に対応する長さに複数個に切断される。こうして得られたパイプ切断品が感光ドラム基体用パイプとして用いられる。
【0071】
図9は、本発明の第2実施形態に係るパイプの製造装置における管端切除装置を説明するための図である。
【0072】
本実施形態の管端切除装置(10A)は、素管(1)を自軸回転させる回転駆動手段(17)を備える。本実施形態では、回転駆動手段(17)として、駆動モータ(図示せず)により駆動される環状の回転駆動部材(18)を備えている。回転駆動部手段(17)は、この回転駆動部材(18)を素管(1)に装着して該回転駆動部材(18)を回転駆動させることにより素管(1)を自軸回転させるものとなされている。なお本発明では、回転駆動手段(17)は、これ以外の構成のものであっても良く、例えば、素管(1)の外周面に当接して素管(1)を自軸回転させる駆動ローラから構成されていても良いし、素管(1)の端部(2)をチャックした状態で素管(1)を自軸回転させる回転駆動可能なチャック装置から構成されていても良い。この管端切除装置(10A)の他の構成は、上記管端切除装置(10)と同じである。
【0073】
この管端切除装置(10A)を用いた管端切除工程では、回転体(11)を回転駆動させずに素管(1)を回転駆動手段(17)により自軸回転させながら切断刃(15)を素管(1)の外側から内側に送ることにより、素管(1)の端部(2)の切除が行われる。
【0074】
以上で、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に設定変更可能である。
【0075】
例えば、本発明に係るパイプの製造装置の管端切除装置(10)では、切断刃(15)の個数は1個であっても良いし、2個であっても良いし、4個以上であっても良い。また、管端切除工程では、素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)だけを切除するものであっても良い。
【0076】
また、本発明に係るパイプの製造方法で製作されるパイプ(5)は、感光ドラム基体用パイプに限定されるものではなく、例えば、高い表面(外周面)精度や高い真直度が要求される、光学機器(例:カメラ)の鏡筒用パイプ等の精密パイプであっても良い。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の具体的実施例及び比較例を示す。
【0078】
<実施例1〜7>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、素管(1)の端部(2)を上記第1実施形態の管端切除装置(10)を用いて切除した。この切除工程で用いた管端切除装置(10)の切断刃(15)の先端角αを表1に示す。そして、素管(1)の切断部に生じた外向きのバリの発生量と、切粉の発生量とを目視にて評価するとともに、素管(1)の切断部に形成された丸み部(3)の丸み量Kを投影機を用いて調べた。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
なお、表1中の「バリ・切粉」の欄では、外向きのバリ及び切粉の発生量が少ない順に◎、○、△及び×が付されている。また、「丸み」の欄では、丸み部(3)の丸み量Kが大きい順に○、△及び×が付されている。
【0081】
表1に示すように、切断刃(15)の先端角αを30〜80°(特に好ましくは45〜70°)の範囲に設定することにより、バリ及び切粉の発生を確実に防止できるし、丸み部(3)の丸み量Kを確実に大きくすることができる、すなわち素管(1)の切断部を確実に丸く加工することができることを確認し得た。
【0082】
<実施例8〜35>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を3個準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、各素管(1)の端部(2)を上記第1実施形態の管端切除装置(10)を用いて切除した。この切除工程で用いた管端切除装置(10)の切断刃(15)の先端角αは30〜80°の範囲に設定されている。また、この切除工程で用いた切断刃(15)の素管周りの公転数と、送り速度と、切除後の送り量とを表2に示す。そして、素管(1)の切断部の形状と、素管(1)の切断部に生じた外向きのバリの発生量とを目視にて評価するとともに、素管(1)の切断部に形成された丸み部(3)の丸み量Kを投影機を用いて調べた。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
なお、表2において「公転数」とは、切断刃(15)の素管周りの公転数である。「送り速度」とは、素管(1)の端部(2)を切除するために適用した切断刃(15)の送り速度である。「送り量」とは、切除後の送り量であり、すなわち素管(1)の端部(2)の切除を行った後の切断刃(15)の送り量である。また、表2中の「切断部」の欄において「1」、「2」及び「3」は、任意に付した素管の番号である。
【0085】
また、表2中の「切断部の形状」の欄では、素管(1)の切断部の変形量が小さい順に○、△、×及び××が付されている。また、「切断部のバリ」の欄では、外向きのバリの発生量が少ない順に○、×及び××が付されている。また、「総合評価」の欄では、総合評価が良い順に○、△及び×が付されている。また、「丸み」の欄では、丸み部(3)の丸み量Kの平均値が大きい順に○、△及び×が付されている。
【0086】
表2に示すように、素管(1)の切断部の変形を防止するためには、送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1m/minの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。さらに、切除後の送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0087】
また、外向きのバリの発生を防止するためには、切除後の送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0088】
また、丸み部(3)の丸み量Kを大きくするためには、送り速度を0.5〜1.5m/minmの範囲に設定することが望ましく、特に1〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。さらに、切除後の送り量を0.5〜2.5mmに設定することが望ましく、特に1.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0089】
<実施例36>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を10万個準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、この素管(1)を用いて、上記第1実施形態のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。そして、このパイプ(5)について表面(外周面)不良の発生率を調べた。なお、パイプ(5)の表面(外周面)にバリ及び切粉の巻き込みによる傷(詳述すると、長さ0.1mm以上の傷)が付いているものを表面不良として判定した。その結果、パイプの表面不良の発生率は約0.15%であった。
【0090】
<比較例1>
上記実施例1で用いた素管(1)と同じものを10万個準備した。次いで、この素管(1)を用いて、従来のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。すなわち、プレス切断装置を用いて切断刃を、素管(1)を横断するように直線的に送ることにより、素管(1)の端部(2)の切除を行った。その後、この素管(1)についてロール矯正加工を施すことにより、感光ドラム基体用パイプを製造した。そして、このパイプ(5)について表面不良の発生率を調べた。その結果、パイプの表面不良の発生率は約0.41%であった。
【0091】
図10は、実施例36におけるパイプの表面不良の発生率と、比較例1におけるパイプの表面不良の発生率をグラフ化したものである。同図に示すように、実施例36ではパイプの表面不良の発生率を比較例1よりも大幅に低減できることを確認し得た。
【0092】
<実施例37>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、この素管(1)を用いて、上記第1実施形態のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。このパイプ(5)を図11(a)に示す。このパイプ(5)の長さは6mである。なお、同図中の矢印Zは、ロール矯正加工工程で適用された、このパイプ(5)のロール矯正加工装置(20)への投入方向を示している。そして、このパイプ(5)をその長さ方向において感光ドラム基体に対応する長さに15個に切断した。こうして得られた各パイプ切断品についてフレを測定した。その結果を図11(b)に示す。
【0093】
<比較例2>
上記実施例37で用いた素管と同じものを準備した。次いで、この素管(1)を用いて、従来のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。そして、上記実施例37と同様に、このパイプ(5)をその長さ方向において感光ドラム基体に対応する長さに15個に切断した。こうして得られた各パイプ切断品についてフレを測定した。その結果を図11(c)に示す。
【0094】
なお、図11(b)及び図11(c)において、縦軸はフレの管理値を1としたときのフレの相対値である。
【0095】
図11(b)と図11(c)の対比から分かるように、実施例37ではパイプ切断品のフレを比較例2よりも小さくすることができ、したがって感光ドラムの歩留まりを向上させ得ることを確認し得た。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、精密パイプ(例:感光ドラム基体用パイプ、光学機器の鏡筒用パイプ)等のパイプの製造方法及びパイプの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…素管
2…端部
2a…口付け部
3…丸み部
5…パイプ
10…管端切除装置
11…回転体
12…素管挿入孔
13…切断刃支持部材
14…支持軸
15…切断刃
17…回転駆動手段
20…ロール矯正加工装置
21…矯正ロール
30…パイプの製造装置
40…引抜き加工装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密パイプ等のパイプの製造方法及びパイプの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子複写機、レーザプリンタ等の感光ドラムにおける、セレンや有機感光体等の光導電性の感光体層を支持する感光ドラム基体は、アルミニウム(その合金を含む。)等の金属製パイプから形成されている。このパイプは、高い寸法精度(例:真直度)と、高品質な画像を得るために高い表面(外周面)精度が要求される。
【0003】
ところで、このパイプは、多くの場合、引抜き加工により得られた素管から製作されているが、このような素管は、引抜き加工時に発生する内部応力の不均一性等によって少なからず曲がっていることが多い。そこで、真直度の向上を図るために素管についてロール矯正加工が施されている。
【0004】
このロール矯正加工を行う際に、素管の端部に切粉や汚れた油等の異物が付着している場合には、この異物が矯正ロールと素管の表面(外周面)との間に巻き込まれてしまい、その結果、素管の表面に傷が付くという問題が発生する。特に、素管が、高い表面(外周面)精度が要求される感光ドラム基体用パイプの素管である場合には、この傷が致命的な表面欠陥となり、感光ドラムの製造時において製品の歩留まりが低下する。
【0005】
そこで、従来、この問題を解決するため、まず素管の端部を切除し、次いでこの素管についてロール矯正加工が施されている(例えば特許文献1参照。)。また、この場合における素管の端部(管端)の切除は、プレス切断装置を用いて切断刃(剪断刃)を素管を横断するように直線的に送ることにより、行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−184623号公報(請求項1、第1図(ハ))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、従来の切除方法により素管の端部を切除した場合、素管の切断部における、切断刃(詳述すると切断刃の刃先)が素管の外周面から内周面へと進行して切断された部位には、切断刃の進行に伴い内向きのバリが発生するが、素管の切断部における、切断刃が素管の内周面から外周面へと進行して切断された部位には、切断刃の進行に伴い外向きのバリが発生する。特に、切断刃の管理状態が悪いと、このバリの大きさや発生量が増大する。
【0008】
このように外向きのバリが素管の切断部に発生した場合には、上記と同じ問題が発生する。すなわち、ロール矯正加工時にこのバリが矯正ロールにより擦り落とされて該バリが矯正ロールと素管の表面との間に巻き込まれてしまい、その結果、素管の表面に傷が付くという問題が発生する。
【0009】
また、従来、管端の切除は、突切り刃からなる切断刃(剪断刃)を用いたプレス切断法により行われていたため、切除時に素管の切断部が切断力を受けて扁平状に変形するなど、素管の切断部が局部的に変形することがあった。このように素管の切断部が変形すると、ロール矯正加工時において真直度の向上を図ることが困難になる。
【0010】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロール矯正加工時にバリや切粉の巻き込みによる素管表面の傷つきを防止することができるパイプの製造方法、これにより製造されたパイプ、及び前記パイプの製造方法に好適に用いられるパイプの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の手段を提供する。
【0012】
[1] 引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除工程と、前記管端切除工程を経た素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程と、を含むパイプの製造方法において、前記管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことを特徴とするパイプの製造方法。
【0013】
[2] 前記切断刃の先端角が30〜80°の範囲に設定されている前項1記載のパイプの製造方法。
【0014】
[3] 前記切断刃の個数は3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されている前項1又は2記載のパイプの製造方法。
【0015】
[4] 前記管端切除工程では、切断刃の素管周りの公転数を400〜800rpmの範囲に設定して、素管の端部の切除を行う前項1〜3のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0016】
[5] 前記管端切除工程では、切断刃の送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定して、素管の端部の切除を行う前項1〜4のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0017】
[6] 前記管端切除工程では、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を行う前項1〜5のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0018】
[7] 前記管端切除工程では、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を、送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定して行う前項1〜5のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0019】
[8] パイプは、精密パイプである前項1〜7のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0020】
[9] パイプは、感光ドラム基体用パイプである前項1〜7のいずれか1項記載のパイプの製造方法。
【0021】
[10] 前項1〜9のいずれか1項記載のパイプの製造方法により製造されたパイプ。
【0022】
[11] 引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除装置と、前記管端切除装置により端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工装置と、を備えたパイプの製造装置において、前記管端切除装置は、切断される素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を備えるとともに、前記切断刃が素管の周方向に素管に対して相対的に移動されながら素管の外側から内側に送られるように構成されていることを特徴とするパイプの製造装置。
【0023】
[12] 前記切断刃の先端角が30〜80°の範囲に設定されている前項11記載のパイプの製造装置。
【0024】
[13] 前記切断刃の個数は3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されている前項11又は12記載のパイプの製造装置。
【0025】
[14] パイプは、精密パイプである前項11〜13のいずれか1項記載のパイプの製造装置。
【0026】
[15] パイプは、感光ドラム基体用パイプである前項11〜13のいずれか1項記載のパイプの製造装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明は次の効果を奏する。
【0028】
[1]の発明によれば、管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置された1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことから、素管の切断部にはその全周に亘って外向きのバリが発生しないし、切除時に切粉が殆ど発生しない。したがって、こうして端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すことにより、バリや切粉の巻き込みによる素管表面の傷つきを防止することができ、もって高い表面精度を有するパイプを得ることができる。また、切除時に生じることのある素管の切断部の変形を防止することができる。さらに、素管の切断部を内側に丸く加工することができる。そのため、素管のロール矯正加工装置への投入をスムーズに行うことができるし、ロール矯正加工後においてパイプのフレを小さくし得て製品の歩留まりを向上させることができる。
【0029】
[2]の発明によれば、切断刃の先端角が所定範囲に設定されていることにより、バリや切粉の発生を確実に防止することができるし、素管の切断部を確実に丸く加工することができる。
【0030】
[3]の発明によれば、切断刃の個数が3個であり、この3個の切断刃が素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に素管の周方向に間隔をおいて配置されていることにより、管端切除開始時に素管の端部をこの3個の切断歯で把持することができる。そのため、管端の切除作業を能率良く行うことができる。
【0031】
[4]の発明によれば、切断刃の素管周りの公転数を所定範囲に設定して、素管の端部の切除を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0032】
[5]の発明によれば、切断刃の送り速度を所定範囲に設定して、素管の端部の切除を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0033】
[6]の発明によれば、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を行うことにより、上記の効果を確実に奏し得る。
【0034】
[7]の発明によれば、切断刃を素管の内側に送る送り操作を行うことにより、素管の端部の切除を行ったのち、引き続きこの送り操作を、送り量を所定範囲に設定して行うことにより、上記の効果を更に確実に奏し得る。
【0035】
[8]の発明によれば、精密パイプを製造することができる。
【0036】
[9]の発明によれば、感光ドラム基体用パイプを製造することができる。
【0037】
[10]の発明によれば、高い表面精度を有するパイプを提供できる。
【0038】
[11]〜[15]の発明によれば、本発明に係るパイプの製造方法に好適に用いることができるパイプの製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパイプの製造方法を説明するための図で、パイプの素管について行われた引抜き加工を示す素管の部分断面側面図である。
【図2】同素管の全体側面図である。
【図3】(a)は本発明の第1実施形態に係る管端切除装置の側面図、(b)は管端切除装置の正面図である。
【図4】(a)は管端切除装置の切断刃の側面図、(b)は切断刃の正面図である。
【図5】(a)は切除時の管端切除装置の側面図、(b)は(a)中のX−X線から見た管端切除装置の正面図である。
【図6】切除後の素管の切断部の拡大側面図である。
【図7】切除後の素管の全体側面図である。
【図8】(a)は矯正開始時の状態を示すロール矯正加工装置の側面図、(b)は矯正途中の状態を示すロール矯正加工装置の側面図である。
【図9】(a)は本発明の第2実施形態に係る管端切除装置の側面図、(b)は(a)中のX−X線から見た管端切除装置の正面図である。
【図10】実施例36(本発明)のパイプの表面不良の発生率と、比較例1(従来例)のパイプの表面不良の発生率を示す図(グラフ)である。
【図11】(a)は実施例37及び比較例2に用いられたパイプの全体側面図、(b)は実施例37におけるフレの測定結果を示す図(グラフ)、(c)は比較例2におけるフレの測定結果を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0041】
図1〜図8は、本発明の第1実施形態に係るパイプの製造方法及びパイプの製造装置を説明するための図である。
【0042】
本実施形態に係るパイプの製造方法により製造されるパイプは、精密パイプであり、詳述すると、電子複写機、レーザプリンタ、FAX装置等に搭載される感光ドラムの基体に用いられるパイプ、即ち感光ドラム基体用パイプである。
【0043】
図2において、(1)は、感光ドラム基体用パイプの素管である。この素管(1)は、断面円形状のものであり、引抜き加工装置(40)としてドローベンチを用いた引抜き加工により得られたアルミニウム(その合金を含む。以下同じ。)製の長尺な無切削引抜き管からなる。この素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)には口付け部(2a)が形成されている。この口付け部(2a)は、図1に示すように、引抜き加工時において、引抜き加工装置(40)の引抜き用ダイス(41)の成形孔(41a)に素管(1)の端部を通すために素管(1)の端部を縮形加工(例:スエージング加工)することによって形成されたものである。引抜き加工時には、この口付け部(2a)は引抜き用ダイス(41)の成形孔(41a)に通されたのちキャリッジ(42)のチャック部(43)でチャックされる。そして、このチャック状態で引抜き加工が施されることによって素管(1)が得られる。なお図1において、(44)はプラグ、(45)はその支持棒である。
【0044】
なお本発明では、素管(1)は、アルミニウム製のものに限定されるものではなく、他の金属製のものであっても良いし、他の材料製のものであっても良い。また、素管(1)は、ドローベンチを用いた引抜き加工により得られたものに限定されるものではなく、他の引抜き加工装置を用いた引抜き加工により得られたものであっても良い。
【0045】
本実施形態では、この素管(1)の両端部(2)(2)は、図3に示した本発明の第1実施形態の管端切除装置(10)によりそれぞれ切除(切断除去)される[管端切除工程]。図2において、(L)は素管(1)の端部(2)の切断予定線である。次いで、この素管(1)について、図8に示した本発明の第1実施形態のロール矯正加工装置(20)によって、曲がり矯正のためのロール矯正加工が施される[ロール矯正加工工程]。以上の工程を順次経て、所望するパイプ(5)が製造される。したがって、本実施形態のパイプの製造装置(30)は管端切除装置(10)とロール矯正加工装置(20)を備えており、このパイプの製造装置(30)によって所望するパイプ(5)が製造される。
【0046】
まず、管端切除装置(10)の構成について以下に説明する。
【0047】
管端切除装置(10)は、図3(a)及び(b)に示すように、駆動モータ(図示せず)により回転駆動される回転体(11)と、3個の回転自在な円板状切断刃(15)とを備える。
【0048】
回転体(11)は、切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)させるためのものである。この回転体(11)の前面の回転中心部には、切断される素管(1)の端部(2)が挿入される断面円形状の素管挿入孔(12)が回転軸方向に延びて設けられている。
【0049】
また、回転体(11)の前面における素管挿入孔(12)の周囲には、3個の切断刃支持部材(13)が、周方向に等間隔に配置されるとともに、素管挿入孔(12)に挿入される素管(1)の端部(2)の半径方向にスライド自在に設けられている。各切断刃支持部材(13)は、駆動源(図示せず)からの駆動力を受けてスライドされるものとなされている。この駆動源としては、モータや流体圧シリンダ(例:油圧シリンダ、ガスシリンダ)等が用いられる。
【0050】
切断刃(15)は、対応する切断刃支持部材(13)に支持軸(14)を介して回転自在に軸支されている。このようにして、3個の切断刃(15)は、素管挿入孔(12)に挿入された素管(1)の端部(2)の外側において素管(1)の軸に垂直な面内に素管(1)の周方向に等間隔に配置されている。そして、切断刃支持部材(13)が素管(1)の中心に向かって素管(1)の半径方向にスライドされることにより、切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の外側から内側に送られ、詳述すると切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の半径方向に送られるものとなされている。さらに、回転体(11)を回転駆動させることにより、切断刃(15)が素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)されるものとなされている。なお、切断刃(15)は、上述したように回転自在に軸支されたものであり、すなわち回転駆動されるものではない。
【0051】
切断刃(15)は、図4(a)及び(b)に示すように、その周縁の全周に切れ刃(16)(刃先)が形成された円板状のものである。この切断刃(15)の切れ刃(16)は、その両面に刃面(16a)(16a)が形成された両刃からなる。図4(a)に示すように、切断刃(15)の先端角αは、30〜80°の範囲に設定されていることが望ましく、特に45〜70°の範囲に設定されていることが望ましい。この理由は後述する。
【0052】
切断刃(15)の材質としては、工具鋼、超硬合金工具鋼、セラミック、ダイヤモンド等が挙げられる。切断刃(15)の大きさは、素管(1)の径や肉厚に応じて適宜選択される。例えば、切断刃(15)の直径は50〜100mmの範囲に設定され、切断刃(15)の厚さは2〜20mmの範囲に設定される。ただし本発明では、切断刃(15)の直径や厚さはこのような範囲であることに限定されるものではない。
【0053】
次に、ロール矯正加工装置(20)の構成について以下に説明する。
【0054】
ロール矯正加工装置(20)は、図8に示すように、従来より用いられている、いわゆる傾斜ロール式と称される矯正装置である。すなわち、このロール矯正加工装置(20)は、その基本的な構成として、つづみ形ないし太鼓形の複数の傾斜状態に配置された矯正ロール(21)を備える。このロール矯正加工装置(20)では、素管(1)をその端部から複数の矯正ロール(21)間に通すことにより、矯正ロール(21)の作用で素管(1)を引き込みつつ、素管(1)に従動回転を付与しながら素管(1)を真直に矯正し、そして前方へ送り出していく方式のものである。
【0055】
次に、上記管端切除装置(10)とロール矯正加工装置(20)を用いてパイプを製造する方法について、以下に説明する。
【0056】
まず、素管(1)として、図2に示すように、上述したアルミニウム製の長尺な無切削引抜き管からなるものを準備する。例えば、この素管(1)の長さは4〜10mの範囲に設定され、その外径は12〜50mmの範囲に設定され、その肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されている。さらに、この素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)には口付け部(2a)が形成されている。
【0057】
この素管(1)の口付け部(2a)を含む端部(2)を切除するため、図5に示すように、素管(1)の端部(2)を管端切除装置(10)の素管挿入孔(12)に挿入配置する。そして、素管(1)が自軸回転しないように固定具(図示せず)により素管(1)を固定する。次いで、3個の切断刃支持部材(13)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の半径方向にスライドさせることにより、3個の切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の外周面に押し付ける。これにより、素管(1)の端部(2)が3個の切断刃(15)で把持される。このように素管(1)の端部(2)を把持することにより、管端の切除作業を能率良く行うことができる。
【0058】
次いで、回転体(11)を回転駆動させることにより切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の周方向に移動(公転)させながら、切断刃支持部材(13)を素管(1)の端部(2)の中心に向かってスライドさせることにより切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の外側から内側に、詳述すると切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の端部(2)の半径方向に送る。この送り操作により、素管(1)の端部(2)の周壁部が全周に亘って切断刃(15)で剪断され、もって素管(1)の端部(2)が切除される。図6は、切除後の素管(1)の切断部の拡大側面図である。
【0059】
以上のように管端の切除が行われることにより、素管(1)の切断部にはその全周に亘って外向きのバリが発生ぜす、また切除時において切粉の発生を防止することができて素管(1)に切粉が付着することもない。さらに、切除時に生じることのある素管(1)の切断部の変形を防止することができる。さらに、図6に示すように、素管(1)の切断部を内側に丸く加工することができる。同図中の(3)は、素管(1)の切断部に形成された内向きの丸み部である。また、Kは、素管(1)の外周面に対する丸み部(3)の丸み量である。
【0060】
さらに、こうして素管(1)の端部(2)を切除したのち、引き続き切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の内側に送る送り操作、詳述すると切断刃(15)を素管(1)の端部(2)の中心に向かって素管(1)の端部(2)の半径方向に送る送り操作を行うことが望ましい。こうすることにより、外向きのバリの発生を確実に防止することができるし、素管(1)の切断部を内側に確実に丸く加工することができる。また、引き続き行われる切断刃(15)の送り操作において、送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましい。
【0061】
さらに、切断刃(15)の先端角αは、上述したように30〜80°の範囲に設定されていることが望ましい。αをこの範囲に設定することにより、バリや切粉の発生を更に確実に防止することができるし、素管(1)の切断部を更に確実に丸く加工することができる。特に、αは45〜70°の範囲に設定されていることが望ましい。
【0062】
さらに、管端切除工程において、切断刃(15)の素管周りの公転数を400〜800rpm(特に好ましくは500〜700rpm)の範囲に設定することが望ましい。
【0063】
さらに、切断刃(15)の送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましい。
【0064】
次いで、素管(1)の他方の端部(2)を、上記管端切除装置(10)を用いて上記と同じ切除方法により切除する。これにより、図7に示すように、両端部がそれぞれ切除された素管(1)が得られる。
【0065】
次いで、図8に示すように、この素管(1)についてロール矯正加工装置(20)によりロール矯正加工を施し、素管(1)の曲がりを矯正して真直度を向上させる。この矯正方法について以下に説明する。
【0066】
すなわち、図8(a)に示すように、素管(1)をいずれか一方の端部(2)からロール矯正加工装置(20)に投入して複数の矯正ロール(21)間に通すことにより、矯正ロール(21)の作用で素管(1)を引き込みつつ、素管(1)に従動回転を付与しながら素管(1)を真直に矯正する。矯正された素管(1)は図8(b)に示すように前方へ送り出される。このようにして、素管(1)についてロール矯正加工を全長に亘って施すことにより、所望するパイプ(5)が製造される。なお、同図中の矢印Zは、素管(1)のロール矯正加工装置(20)への投入方向を示している。
【0067】
このロール矯正加工時において、素管(1)の切断部には上述したようにその全周に亘って外向きのバリが生じていないし、素管(1)に切粉が付着していないので、素管(1)の表面(外周面)にバリや切粉の巻き込みによる傷が付くことはない。したがって、高い表面精度を有するパイプ(5)を製造することができる。
【0068】
なお、素管(1)の切断部には内向きのバリが生じているが、このバリは矯正ロール(21)と直接接触することはないので、このバリは矯正ロール(21)では擦り落とされることはない。したがって、内向きのバリでは、該バリの巻き込みによる素管(1)表面の傷つきは殆ど生じない。
【0069】
さらに、上述したように、素管(1)の切断部が内側に丸く加工されているので、素管(1)のロール矯正加工装置(20)への投入をスムーズに行うことができて作業能率が向上する。さらに、ロール矯正加工後においてパイプ(5)のフレを小さくし得て製品の歩留まりを向上させることができるし、パイプ(5)のウネリを小さくすることができる。
【0070】
次いで必要に応じて、このパイプ(5)は、その長さ方向において、感光ドラム基体(パイプ製品)に対応する長さに複数個に切断される。こうして得られたパイプ切断品が感光ドラム基体用パイプとして用いられる。
【0071】
図9は、本発明の第2実施形態に係るパイプの製造装置における管端切除装置を説明するための図である。
【0072】
本実施形態の管端切除装置(10A)は、素管(1)を自軸回転させる回転駆動手段(17)を備える。本実施形態では、回転駆動手段(17)として、駆動モータ(図示せず)により駆動される環状の回転駆動部材(18)を備えている。回転駆動部手段(17)は、この回転駆動部材(18)を素管(1)に装着して該回転駆動部材(18)を回転駆動させることにより素管(1)を自軸回転させるものとなされている。なお本発明では、回転駆動手段(17)は、これ以外の構成のものであっても良く、例えば、素管(1)の外周面に当接して素管(1)を自軸回転させる駆動ローラから構成されていても良いし、素管(1)の端部(2)をチャックした状態で素管(1)を自軸回転させる回転駆動可能なチャック装置から構成されていても良い。この管端切除装置(10A)の他の構成は、上記管端切除装置(10)と同じである。
【0073】
この管端切除装置(10A)を用いた管端切除工程では、回転体(11)を回転駆動させずに素管(1)を回転駆動手段(17)により自軸回転させながら切断刃(15)を素管(1)の外側から内側に送ることにより、素管(1)の端部(2)の切除が行われる。
【0074】
以上で、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に設定変更可能である。
【0075】
例えば、本発明に係るパイプの製造装置の管端切除装置(10)では、切断刃(15)の個数は1個であっても良いし、2個であっても良いし、4個以上であっても良い。また、管端切除工程では、素管(1)の両端部のうち一方の端部(2)だけを切除するものであっても良い。
【0076】
また、本発明に係るパイプの製造方法で製作されるパイプ(5)は、感光ドラム基体用パイプに限定されるものではなく、例えば、高い表面(外周面)精度や高い真直度が要求される、光学機器(例:カメラ)の鏡筒用パイプ等の精密パイプであっても良い。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の具体的実施例及び比較例を示す。
【0078】
<実施例1〜7>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、素管(1)の端部(2)を上記第1実施形態の管端切除装置(10)を用いて切除した。この切除工程で用いた管端切除装置(10)の切断刃(15)の先端角αを表1に示す。そして、素管(1)の切断部に生じた外向きのバリの発生量と、切粉の発生量とを目視にて評価するとともに、素管(1)の切断部に形成された丸み部(3)の丸み量Kを投影機を用いて調べた。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
なお、表1中の「バリ・切粉」の欄では、外向きのバリ及び切粉の発生量が少ない順に◎、○、△及び×が付されている。また、「丸み」の欄では、丸み部(3)の丸み量Kが大きい順に○、△及び×が付されている。
【0081】
表1に示すように、切断刃(15)の先端角αを30〜80°(特に好ましくは45〜70°)の範囲に設定することにより、バリ及び切粉の発生を確実に防止できるし、丸み部(3)の丸み量Kを確実に大きくすることができる、すなわち素管(1)の切断部を確実に丸く加工することができることを確認し得た。
【0082】
<実施例8〜35>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を3個準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、各素管(1)の端部(2)を上記第1実施形態の管端切除装置(10)を用いて切除した。この切除工程で用いた管端切除装置(10)の切断刃(15)の先端角αは30〜80°の範囲に設定されている。また、この切除工程で用いた切断刃(15)の素管周りの公転数と、送り速度と、切除後の送り量とを表2に示す。そして、素管(1)の切断部の形状と、素管(1)の切断部に生じた外向きのバリの発生量とを目視にて評価するとともに、素管(1)の切断部に形成された丸み部(3)の丸み量Kを投影機を用いて調べた。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
なお、表2において「公転数」とは、切断刃(15)の素管周りの公転数である。「送り速度」とは、素管(1)の端部(2)を切除するために適用した切断刃(15)の送り速度である。「送り量」とは、切除後の送り量であり、すなわち素管(1)の端部(2)の切除を行った後の切断刃(15)の送り量である。また、表2中の「切断部」の欄において「1」、「2」及び「3」は、任意に付した素管の番号である。
【0085】
また、表2中の「切断部の形状」の欄では、素管(1)の切断部の変形量が小さい順に○、△、×及び××が付されている。また、「切断部のバリ」の欄では、外向きのバリの発生量が少ない順に○、×及び××が付されている。また、「総合評価」の欄では、総合評価が良い順に○、△及び×が付されている。また、「丸み」の欄では、丸み部(3)の丸み量Kの平均値が大きい順に○、△及び×が付されている。
【0086】
表2に示すように、素管(1)の切断部の変形を防止するためには、送り速度を0.5〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1m/minの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。さらに、切除後の送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0087】
また、外向きのバリの発生を防止するためには、切除後の送り量を0.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましく、特に0.5〜1.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0088】
また、丸み部(3)の丸み量Kを大きくするためには、送り速度を0.5〜1.5m/minmの範囲に設定することが望ましく、特に1〜1.5m/minの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。さらに、切除後の送り量を0.5〜2.5mmに設定することが望ましく、特に1.5〜2.5mmの範囲に設定することが望ましいことを確認し得た。
【0089】
<実施例36>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を10万個準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、この素管(1)を用いて、上記第1実施形態のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。そして、このパイプ(5)について表面(外周面)不良の発生率を調べた。なお、パイプ(5)の表面(外周面)にバリ及び切粉の巻き込みによる傷(詳述すると、長さ0.1mm以上の傷)が付いているものを表面不良として判定した。その結果、パイプの表面不良の発生率は約0.15%であった。
【0090】
<比較例1>
上記実施例1で用いた素管(1)と同じものを10万個準備した。次いで、この素管(1)を用いて、従来のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。すなわち、プレス切断装置を用いて切断刃を、素管(1)を横断するように直線的に送ることにより、素管(1)の端部(2)の切除を行った。その後、この素管(1)についてロール矯正加工を施すことにより、感光ドラム基体用パイプを製造した。そして、このパイプ(5)について表面不良の発生率を調べた。その結果、パイプの表面不良の発生率は約0.41%であった。
【0091】
図10は、実施例36におけるパイプの表面不良の発生率と、比較例1におけるパイプの表面不良の発生率をグラフ化したものである。同図に示すように、実施例36ではパイプの表面不良の発生率を比較例1よりも大幅に低減できることを確認し得た。
【0092】
<実施例37>
引抜き加工により得られた、一端部(2)に口付け部(2a)が形成された素管(1)を準備した。この素管(1)は、外径24mm、肉厚0.7mmである。次いで、この素管(1)を用いて、上記第1実施形態のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。このパイプ(5)を図11(a)に示す。このパイプ(5)の長さは6mである。なお、同図中の矢印Zは、ロール矯正加工工程で適用された、このパイプ(5)のロール矯正加工装置(20)への投入方向を示している。そして、このパイプ(5)をその長さ方向において感光ドラム基体に対応する長さに15個に切断した。こうして得られた各パイプ切断品についてフレを測定した。その結果を図11(b)に示す。
【0093】
<比較例2>
上記実施例37で用いた素管と同じものを準備した。次いで、この素管(1)を用いて、従来のパイプの製造方法に従って感光ドラム基体用パイプ(5)を製造した。そして、上記実施例37と同様に、このパイプ(5)をその長さ方向において感光ドラム基体に対応する長さに15個に切断した。こうして得られた各パイプ切断品についてフレを測定した。その結果を図11(c)に示す。
【0094】
なお、図11(b)及び図11(c)において、縦軸はフレの管理値を1としたときのフレの相対値である。
【0095】
図11(b)と図11(c)の対比から分かるように、実施例37ではパイプ切断品のフレを比較例2よりも小さくすることができ、したがって感光ドラムの歩留まりを向上させ得ることを確認し得た。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、精密パイプ(例:感光ドラム基体用パイプ、光学機器の鏡筒用パイプ)等のパイプの製造方法及びパイプの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…素管
2…端部
2a…口付け部
3…丸み部
5…パイプ
10…管端切除装置
11…回転体
12…素管挿入孔
13…切断刃支持部材
14…支持軸
15…切断刃
17…回転駆動手段
20…ロール矯正加工装置
21…矯正ロール
30…パイプの製造装置
40…引抜き加工装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除工程と、
前記管端切除工程を経た素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程と、
を含むパイプの製造方法において、
素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されるとともに、素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されており、
前記管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置され且つ回転駆動しない1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことを特徴とするパイプの製造方法。
【請求項2】
引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除装置と、
前記管端切除装置により端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工装置と、
を備えたパイプの製造装置において、
素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されるとともに、素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されており、
前記管端切除装置は、切断される素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置され且つ回転駆動しない1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を備えるとともに、前記切断刃が素管の周方向に素管に対して相対的に移動されながら素管の外側から内側に送られるように構成されていることを特徴とするパイプの製造装置。
【請求項1】
引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除工程と、
前記管端切除工程を経た素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工工程と、
を含むパイプの製造方法において、
素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されるとともに、素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されており、
前記管端切除工程では、素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置され且つ回転駆動しない1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を、素管の周方向に素管に対して相対的に移動させながら素管の内側に送ることにより、素管の端部の切除を行うことを特徴とするパイプの製造方法。
【請求項2】
引抜き加工により得られた素管についてその両端部のうち少なくとも一方の端部を切除する管端切除装置と、
前記管端切除装置により端部が切除された素管についてロール矯正加工を施すロール矯正加工装置と、
を備えたパイプの製造装置において、
素管の外径は12〜50mmの範囲に設定されるとともに、素管の肉厚は0.5〜1.5mmの範囲に設定されており、
前記管端切除装置は、切断される素管の端部の外側において素管の軸に垂直な面内に配置され且つ回転駆動しない1個又は複数個の回転自在な円板状切断刃を備えるとともに、前記切断刃が素管の周方向に素管に対して相対的に移動されながら素管の外側から内側に送られるように構成されていることを特徴とするパイプの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−76222(P2012−76222A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262363(P2011−262363)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【分割の表示】特願2005−294496(P2005−294496)の分割
【原出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【分割の表示】特願2005−294496(P2005−294496)の分割
【原出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]