説明

パイロット噴射量補正方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置

【課題】パイロット噴射量補正処理において生ずる補正誤差が噴射特性へ及ぼす悪影響を極力抑圧し、より信頼性の高いパイロット噴射を可能とする。
【解決手段】無噴射状態において微小噴射量の複数の噴射を行い、その際生ずるエンジン回転変動に対応する周波数成分に基づいて、燃料噴射弁の基準となる基準通電時間と実際通電時間との差分を学習することで、通電時間、通電タイミングの補正を行うパイロット燃料噴射量補正制御が実行されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置において、学習値として得られた基準通電時間と前記微少噴射の際の通電時間との差分を、所定の演算式により算出された分割率にしたがって分割し、基準通電時間の前後に配し補正通電時間を得ることで補正誤差が噴射特性へ及ぼす悪影響を抑圧可能としてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置におけるパイロット噴射量を補正する方法に係り、特に、補正精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射制御においては、インジェクタ(燃料噴射弁)の特性のばらつきや劣化等による実燃料噴射量と目標燃料噴射量とのずれを補正するための燃料噴射量補正技術が従来から種々提案されている。
例えば、噴射量の学習処理を行うよう構成された燃料噴射制御装置によるパイロット噴射制御において、学習のための噴射を実施した場合と、学習のための噴射を実施しなかった場合のエンジン回転数の変動量を検出し、検出された回転数変動量を基にインジェクタにおいて実際に噴射されたであろう燃料噴射量(実燃料噴射量)を演算算出し、実燃料噴射量と指令燃料噴射量との差を補正量として、燃料噴射量の補正を行い、実燃料噴射量が指令燃料噴射量に一致するようにしたものなどが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、実燃料噴射量を直接計測することは実際には困難であるため、上述のようにエンジンの回転数変動量に基づいて実燃料噴射量を算出する手法は、比較的簡易に実燃料噴射量を得ることができることから、従前から用いられている手法である。
このような回転変動量を求める手法としては、例えば、車両がいわゆるオーバーラン(無噴射状態)において、微小噴射量の噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動を、エンジン回転数の周波数成分の変化として検出し、その周波数成分の変化から実噴射量を推定する手法もあり、かかる手法に基づいた燃料噴射量の補正も行われている。
【0004】
すなわち、上述のようなエンジンの回転変動量を抽出して噴射量補正を行う従来の手法においては、インジェクタの噴射量のずれは、換言すれば、通電時間のずれであるとして、通電時間を補正することで、燃料噴射量の補正を行っており、例えば、パイロット噴射量の補正にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36788号公報(第7−11頁、図1−図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなエンジンの回転変動量に基づく通電時間の補正は、通常、補正量に応じて通電開始タイミングを変化させる手法が採られるが、エンジンの回転変動量に基づいて求められる通電時間の補正量は、補正誤差が含まない訳ではないため、特に、上述の補正方法をパイロット噴射量の補正に適用する場合、補正誤差分だけ実際の噴射特性とのずれが生ずることによる他の噴射に与える影響が無視できなくなる。
すなわち、複数段のパイロット噴射を行うものにあって、例えば、通電時間の補正量が正の値で比較的大きい場合には、噴射開始位置が前側に大きくずれるような補正がなされる結果、前段のパイロット噴射と重なってしまう虞があった。そのため、パイロット噴射の相互の間隔を予め広めに採る必要があったが、広く採りすぎると、通電時間の補正量が負の値で比較的大きくなった場合には、補正の結果、噴射間隔が広がりすぎて、失火などの燃焼不安定を招く虞があった。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、パイロット噴射量の補正を、エンジンの回転変動量を基に得られる通電時間のずれ量によって通電時間を補正することでパイロット噴射量の補正を行う補正処理において生ずる補正誤差が噴射特性へ及ぼす悪影響を抑圧、防止し、より信頼性の高いパイロット噴射量補正方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るパイロット噴射量補正方法は、
燃料噴射弁が無噴射状態において、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記微小噴射の際に噴射されたであろうと推定される推定噴射量を求める一方、レール圧と燃料噴射量を入力パラメータとして、種々のレール圧及び燃料噴射量に対する燃料噴射弁の取付の際に取得された通電時間が基準通電時間として読み出し可能に構成された基準通電時間マップから得られる、前記推定噴射量及び前記微小噴射の際のレール圧に対応する基準通電時間と、前記微小噴射の際の通電時間との差分を得、学習値として更新可能に記憶し、以後、パイロット燃料噴射の際に、前記基準通電時間を前記学習値により補正した値を通電時間とすることで、燃料噴射弁の噴射特性のずれに起因する燃料噴射量のずれを補正可能とし、前記エンジン回転数の変動量は、エンジン回転信号の周波数成分の変動分である回転変動周波数成分を基に算出されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置におけるパイロット燃料噴射量補正方法であって、
前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分を、所定の演算式により算出された分割率にしたがって分割し、前記基準通電時間の前後に配し補正通電時間を得るよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットであって、燃料噴射弁の無噴射状態において、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記微小噴射の際に噴射されたであろうと推定される推定噴射量を算出する一方、レール圧と燃料噴射量を入力パラメータとして、種々のレール圧及び燃料噴射量に対する燃料噴射弁の取付の際に取得された通電時間が基準通電時間として読み出し可能に構成された基準通電時間マップから得られる、前記推定噴射量及び前記微小噴射の際のレール圧に対応する基準通電時間と、前記微小噴射の際の通電時間との差分を算出し、当該算出結果を学習値として更新可能に記憶し、以後、パイロット燃料噴射の際に、前記基準通電時間を前記学習値により補正した値を通電時間とすることで、燃料噴射弁の噴射特性のずれに起因する燃料噴射量のずれを補正可能とし、前記エンジン回転数の変動量は、エンジン回転信号の周波数成分の変動分である回転変動周波数成分を基に算出されるよう構成されてなる電子制御ユニットを有してなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分を、所定の演算式により算出された分割率にしたがって分割し、前記基準通電時間の前後に配し補正通電時間を得るよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パイロット噴射量の補正量を、基準となる通電時間の前後に分割することで、補正量に含まれる誤差を分散させることができ、パイロット噴射の間隔を従来よりも狭くすることができる。換言すれば、パイロット噴射の間隔設定の際に考慮が必要となる補正分のマージンを小さくすることができるので、インジェクタの噴射特性に沿った理想的な噴射間隔に近づけることができ、補正誤差による噴射特性への影響をより小さくし、パイロット噴射のみならず、主噴射の確実性、信頼性向上を図ることができという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置において前提とされる従来の燃料噴射量補正制御の概略を説明するための模式図である。
【図3】図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置を構成する電子制御ユニットにより実行される本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図4】従来のパイロット噴射量補正処理による通電時間の補正の仕方を模式的に示す模式図であり、図4(A)は基準通電時間を示す模式図、図4(B)は差分通電時間学習値ΔETが正の値の場合の補正の様子を示す模式図、図4(C)は差分通電時間学習値ΔETが負の値の場合の補正の様子を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正処理による通電時間の補正の仕方を模式的に示す模式図であり、図5(A)は基準通電時間を示す模式図、図5(B)は補正量が正の場合に補正値分割率に基づいて補正した場合の通電時間を示す模式図、図5(C)は補正量が負の場合に補正値分割率に基づいて補正した場合の通電時間を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正方法が適用される燃料噴射制御装置の一構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置は、いわゆるコモンレール式燃料噴射制御装置であり、かかるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料をディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)3の気筒へ噴射供給する複数のインジェクタ2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述する圧力センサ診断処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0012】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0013】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
インジェクタ2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。かかる本発明の実施の形態におけるインジェクタ2−1〜2−nは、例えば、従来から用いられているいわゆる電磁弁タイプのものなどが好適である。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
【0015】
次に、電子制御ユニット4によって実行される本発明の実施の形態のパイロット噴射量補正処理について、図2乃至図5を参照しつつ説明する。
まず、本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、次述するような基本となるパイロット燃料噴射量補正制御が電子制御ユニット4により実行されるよう構成されてなるものであることを前提としている。
本発明の実施の形態において前提とされるパイロット燃料噴射量補正制御は、従来装置においても行われているもので、インジェクタ2−1〜2−nの劣化や故障等に起因して、特に、パイロット噴射における燃料噴射量の本来の燃料噴射量からずれを補正するものである。
【0016】
すなわち、かかるパイロット燃料噴射量補正制御について概説すれば、まず、エンジン3がオーバーラン状態(無噴射状態)にある場合に、レール圧に応じた微小の噴射量が設定されて、その微小噴射量による燃料噴射、すなわち、微小噴射が数十回程度実行され、その際に生ずるエンジン回転数の変動の周波数成分が平均値として抽出される。なお、かかる処理は、各インジェクタ2−1〜2−n毎に行われるものとなっている。
次いで、その変動周波数成分を基に、その時に実際に噴射されたであろう燃料量の推定値(推定噴射量)が算出される。
【0017】
そして、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を上回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって下降してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が減じられつつ推定噴射量の取得が繰り返される一方、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を下回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって上昇してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が増加されつつ推定噴射量の取得が繰り返され、所定の閾値に収束した際の推定噴射量を得るに要した通電時間ETと、基準通電時間との差ΔETが、差分通電時間学習値として通電時間学習値マップに記憶される。
【0018】
ここで、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの各々の使用開始時点における通電時間である。換言すれば、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間であり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する通電時間がマップ化(以下、便宜的に「基準通電時間マップ」と称する)されて、電子制御ユニット4に予め記憶されているものである。
【0019】
しかして、差分通電時間学習値ΔETが取得された際の燃料噴射量での噴射の際には、基準通電時間が差分通電時間学習値ΔETによって補正された時間が通電時間として用いられ、燃料噴射量と通電時間のずれを補正可能としたものである。なお、以下、説明の便宜上、基準通電時間を差分通電時間学習値ΔETによって補正して求められた通電時間を、「通電時間学習値」と称することとする。
【0020】
図2には、上述のパイロット燃料噴射量補正制御を模式的に表した模式図が示されており、以下、同図について説明する。
同図において、「オーバーラン較正」と表記されると共に符号M2−1が付された箇所は、先に説明した、微小噴射から始まり、所定の閾値に収束せしめられた推定噴射量を得るに要した通電時間ETが算出されるまでの一連の処理を模式的に表している。
【0021】
また、図2において、符号M2−2が付された部分は、基準通電時間マップを模式的に表したものである。かかる基準通電時間マップは、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間(基準通電時間)が記憶されたものであり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する基準通電時間がマップ化されたものである。
この基準通電時間マップから読み出される基準通電時間と上述の通電時間ETは、減算処理(図2の符号M2−3が付された箇所)により差分ΔETが求められるようになっている。
【0022】
そして、上述のようにして得られた差分ΔETの内、所定の制限範囲(符号M2−4参照)にあるもののみが符号M2−5が付された通常時間学習値マップに差分通電時間学習値ΔETとして書き込まれるようになっている。
学習値が取得された以後は、該当する目標レール圧、燃料噴射量における通電時間は、基準通電時間を学習値で補正したもの、すなわち、基準通電時間と差分通電時間学習値ΔETとの加算結果とされ(図2の符号M2−6参照)、インジェクタ2−1〜2−nの劣化等による通電時間、燃料噴射量のずれが補正されるようになっている。
【0023】
なお、差分通電時間学習値ΔET自体は、正負双方を採り得るので、差分通電時間学習値ΔET自体が正の値の場合には、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際に加算処理となるが、差分通電時間学習値ΔET自体が負の値の場合、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際には減算処理となる。
【0024】
次に、本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正方法について概括的に説明すれば、このパイロット噴射量補正処理は、先に説明したパイロット燃料噴射量補正処理により得られた通電時間のずれ、すなわち、補正量である差分通電時間学習値ΔETで基準通電時間を補正するに際して、補正量を所定の条件で通電時間の前後に按分して配することで基準通電時間の補正を行うようにしたものである。
【0025】
次に、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるパイロット噴射量補正処理の手順について図3を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初にパイロット噴射量補正量の取得が完了したか否かが判定される(図3のステップS102参照)。
すなわち、先に図2を参照しつつ説明したパイロット噴射量補正制御処理の実行により、差分通電時間学習値ΔETが取得されているか否かが判定され、取得されていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進む一方、差分通電時間学習値ΔETが未だ取得されていないと判定された場合(NOの場合)には、以後の一連の処理を実行する状態ではないとして、処理を終了し、一旦、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【0026】
ステップS104においては、補正値誤差割合の算出が行われる。
ここで、”補正値誤差割合”とは、上述のように取得された差分通電時間学習値ΔETがどの程度の誤差を含んでいるかを、例えば、百分率等により表したものである。この補正値誤差割合は、試験やシミュレーション結果等に基づいてシステムトレランス等を考慮し設定された所定の演算式を用いて算出されるもので、かかる所定の演算式には、例えば、差分通電時間学習値ΔETが取得された際のエンジン回転数、レール圧等の種々のパラメータが入力され、演算されるものとなっている。
【0027】
次いで、上述のようにして算出された補正値誤差割合が予め定められた閾値を超えているか否かが判定され(図3のステップS106参照)、閾値を超えていると判定された場合(YESの場合)には、後述するステップS108の処理へ進む一方、閾値を越えていないと判定された場合(NOの場合)には、通常の補正で足りるとしてステップS112の処理へ進むこととなる。
【0028】
すなわち、ステップS112においては、従来同様、差分通電時間学習値ΔETを、基準通電時間(図4(A)参照)の通電開始タイミングを基準に、差分通電時間学習値ΔETが正の値であれば、基準通電時間にΔETを加算した値が補正後の通電時間(補正通電時間)とされると共に、その通電開始タイミングは、基準通電時間に設定された通電開始タイミングよりもΔET分早めるられることとなる(図4(A)及び図4(B)参照)。
【0029】
一方、差分通電時間学習値ΔETが負の値であれば、基準通電時間から差分通電時間学習値ΔETを減算した値が補正後の通電時間(補正通電時間)とされると共に、その通電開始タイミングは、基準通電時間に設定された通電開始タイミングよりΔET分遅延される(図4(A)及び図4(C)参照)。
【0030】
なお、図4(A)は基準通電時間を、図4(B)は差分通電時間学習値ΔETが正の値の場合に補正された基準通電時間を、図4(C)は差分通電時間学習値ΔETが負の値の場合に補正された基準通電時間を、それぞれ模式的に示した模式図である。
上述のようにステップS112の処理が行われた後は、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0031】
一方、ステップS108においては、補正値分割率の算出が行われる。
ここで、”補正値分割率”とは、差分通電時間学習値ΔETを、基準通電時間の前後に配する割合である。
この補正値分割率は、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定された演算式により求められるものとなっている。
次いで、演算算出された補正値分割率に基づく基準通電時間への補正値(差分通電時間学習値)の反映が行われ、補正通電時間が決定される(図3のステップS110参照)。
【0032】
すなわち、例えば、ステップS108において、補正値分割率が、a%:b%と算出されたと仮定する。この場合、差分通電時間学習値ΔETは、ΔETを正の補正値とすると、ΔETa=ΔET×(a/100)とΔETb=ΔET×(b/100)に分割されて、基準通電時間(図5(A)参照)の前側にΔETaが付加される一方、基準通電時間の後ろ側にΔETbが付加されることとなる(図5(B)参照)。したがって、補正通電時間の通電開始タイミングは、基準通電時間のみの場合の通電開始タイミングよりもΔETaだけ早くなり、通電終了時は、基準通電時間の終了時よりもΔETbだけ遅れることとなる。
【0033】
一方、ΔETが負の補正値の場合には、通電時間は、基準通電時間からΔET分だけ短くなると共に、通電開始タイミングはΔETaだけ遅延される一方、通電終了時が基準通電時間の通電終了時よりもΔETb分早まることとなる(図5(A)及び図5(C)参照)。
なお、図5(A)は基準通電時間を、図5(B)は補正量が正の場合に補正値分割率に基づいて基準通電時間を補正した場合の様子を、図5(C)は補正量が負の場合に補正値分割率に基づいて基準通電時間を補正した場合の様子を、それぞれ模式的に示した模式図である
上述のようにして補正通電時間が決定された後は、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
従来に比してより安定性、信頼性の高いパイロット噴射が所望される燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0035】
1…コモンレール
2−1〜2−n…インジェクタ
3…エンジン
4…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁が無噴射状態において、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記微小噴射の際に噴射されたであろうと推定される推定噴射量を求める一方、レール圧と燃料噴射量を入力パラメータとして、種々のレール圧及び燃料噴射量に対する燃料噴射弁の取付の際に取得された通電時間が基準通電時間として読み出し可能に構成された基準通電時間マップから得られる、前記推定噴射量及び前記微小噴射の際のレール圧に対応する基準通電時間と、前記微小噴射の際の通電時間との差分を得、学習値として更新可能に記憶し、以後、パイロット燃料噴射の際に、前記基準通電時間を前記学習値により補正した値を通電時間とすることで、燃料噴射弁の噴射特性のずれに起因する燃料噴射量のずれを補正可能とし、前記エンジン回転数の変動量は、エンジン回転信号の周波数成分の変動分である回転変動周波数成分を基に算出されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置におけるパイロット燃料噴射量補正方法であって、
前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分を、所定の演算式により算出された分割率にしたがって分割し、前記基準通電時間の前後に配し補正通電時間を得ることを特徴とするパイロット燃料噴射量補正方法。
【請求項2】
前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分が、所定の閾値を超える誤差を含む場合に、前記差分を分割して、前記基準通電時間の前後に配することを特徴とする請求項1記載のパイロット燃料噴射量補正方法。
【請求項3】
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットであって、燃料噴射弁の無噴射状態において、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記微小噴射の際に噴射されたであろうと推定される推定噴射量を算出する一方、レール圧と燃料噴射量を入力パラメータとして、種々のレール圧及び燃料噴射量に対する燃料噴射弁の取付の際に取得された通電時間が基準通電時間として読み出し可能に構成された基準通電時間マップから得られる、前記推定噴射量及び前記微小噴射の際のレール圧に対応する基準通電時間と、前記微小噴射の際の通電時間との差分を算出し、当該算出結果を学習値として更新可能に記憶し、以後、パイロット燃料噴射の際に、前記基準通電時間を前記学習値により補正した値を通電時間とすることで、燃料噴射弁の噴射特性のずれに起因する燃料噴射量のずれを補正可能とし、前記エンジン回転数の変動量は、エンジン回転信号の周波数成分の変動分である回転変動周波数成分を基に算出されるよう構成されてなる電子制御ユニットを有してなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分を、所定の演算式により算出された分割率にしたがって分割し、前記基準通電時間の前後に配し補正通電時間を得るよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項4】
電子制御ユニットは、前記学習値として得られた基準通電時間と前記微小噴射の際の通電時間との差分が、所定の閾値を超える誤差を含むか否かの判定を行い、所定の閾値を超える誤差を含むと判定された場合に前記差分を分割して、前記基準通電時間の前後に配するよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15076(P2013−15076A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148393(P2011−148393)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】