説明

パターン位相差フィルム、パターン位相差フィルムの製造用金型、及び画像表示装置

【課題】パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルムに関して、高い精度により簡易かつ大量に作製することができるパターン位相差フィルム、このパターン位相差フィルムを使用した画像表示装置、パターン位相差フィルム製造用の金型を提案する。
【解決手段】配向膜に、微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域(A)と、これとは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域(B)とを順次交互に帯状に形成し、第1及び第2の領域(A)及び(B)の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域(C)を設け、この領域(C)により、第1及び第2の領域(A)及び(B)の境界に第1及び第2の領域(A)及び(B)の緩衝領域(C)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイは、従来、2次元表示のものが主流であった。しかしながら、近年、3次元表示可能なフラットパネルディスプレイが注目を集めており、一部市販もされている。そして今後のフラットパネルディスプレイは3次元表示可能であることが当然に求められる傾向にあり、3次元表示可能なフラットパネルディスプレイの検討が幅広い分野において進められている。
【0003】
フラットパネルディスプレイにおいて3次元表示をするには、通常、何らかの方式で右目用の映像と、左目用の映像とを、それぞれ選択的に視聴者の右目及び左目に提供することが必要である。右目用の映像と左目用の映像とを選択的に提供する方法としては、例えば、パッシブ方式が知られている。このパッシブ方式の3次元表示方式について図を参照しながら説明する。図14は、液晶表示パネルを使用したパッシブ方式の3次元表示の一例を示す概略図である。この図14の例では、垂直方向に連続する液晶表示パネルの画素を、順次交互に、右目用及び左目用に割り当て、それぞれ右目用及び左目用の画像データで駆動し、これにより右目用の映像と左目用の映像とを同時に表示する。また液晶表示パネルのパネル面にパターン位相差フィルムを配置し、右目用及び左目用の画素からの直線偏光による出射光を、右目用及び左目用で方向の異なる円偏光に変換する。これによりパッシブ方式では、対応する偏光フィルタを備えてなるめがねを装着して、右目用の映像と左目用の映像とをそれぞれ選択的に視聴者の右目及び左目に提供する。
【0004】
このパッシブ方式は、応答速度の低い液晶表示装置でも適用することができ、さらにパターン位相差フィルムと円偏光メガネとを用いた簡易な構成で3次元表示することができる。このようなことから、パッシブ方式の液晶表示装置は今後の表示装置の中心的存在となるものとして非常に注目されている。
【0005】
ところでパッシブ方式に係るパターン位相差フィルムは、画素の割り当てに対応して透過光に位相差を与えるパターン状の位相差層が必要である。このパターン位相差フィルムは、まだ広く研究、開発が行われておらず、標準的な技術としても確立されているものがないのが現状である。
【0006】
このパターン位相差フィルムに関して、特許文献1には、配向規制力を制御した光配向膜をガラス基板上に形成し、この光配向膜により液晶の配列をパターンニングする製造方法が開示されている。しかしながらこの特許文献1に開示の方法は、ガラス基板を使用することが必要であることから、パターン位相差フィルムが高価になり、大面積のものを大量生産し難い問題がある。
【0007】
またパターン位相差フィルムに関して、特許文献2には、レーザーの照射によりロール版の周囲に微細な凹凸形状を形成し、この凹凸形状を転写してパターン状に配向規制力を制御した光配向膜を作成する方法が開示されている。この特許文献2に開示の方法では、レーザーの走査によりロール版の全周に漏れ無くレーザーを照射することが必要である。従ってロール版の作製に時間を要する問題がある。また高価なレーザー加工装置を使用しなければならない問題もある。
【0008】
またパターン位相差フィルムは、液晶表示パネルにおける画素の割り当てに対応して精度良く位相差層をパターンニングすることが必要であり、精度の劣化により右目用及び左目用の映像間でいわゆるクロストークが発生し、著しく画質が劣化する問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−49865号公報
【特許文献2】特開2010−152296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルムに関して、高い精度により簡易かつ大量に作製することができるパターン位相差フィルム、パターン位相差フィルムの製造用金型、このパターン位相差フィルムを使用した画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、一方向へのライン状の凹凸形状を作製していない領域を、位相差を付与する帯状領域の境界に設ける、との着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1) 透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングし、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムにおいて、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、順次交互に帯状に形成され、
前記第1及び第2の領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域により、前記第1及び第2の領域の境界に、前記第1及び第2の領域の緩衝領域が設けられた
パターン位相差フィルム。
【0013】
(1)では、第1及び第2の領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域を設け、この領域により、第1及び第2の領域の境界に緩衝領域を設けることにより、この凹凸形状の作製に供する金型では、第1及び第2の領域の凹凸形状に対応する凹凸形状を密接させて作製する必要がなく、これにより密接させて作製する際の各種の不都合を回避して金型の生産性を向上することができ、その結果、パターン位相差フィルムを高い精度により簡易かつ大量に作製することができる。
【0014】
(2) (1)において、前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
(1)に記載のパターン位相差フィルム。
【0015】
(2)によれば、液晶表示パネル等の画素間の遮光部より緩衝領域が飛び出さないようにし、かつ具体的に、金型製造工程における生産性の低下を防止することができる。
【0016】
(3) (1)又は(2)において、前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域である。
【0017】
(3)によれば、ラビング処理、研磨処理等を局所的に中止することにより、緩衝領域を作成することができる。
【0018】
(4) (1)又は(2)において、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記第1の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状と、前記第2の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状とが重複して形成された領域である。
【0019】
(4)によれば、第1及び第2の領域におけるラビング処理、研磨処理を局所的に重複させることにより、緩衝領域を作成することができる。
【0020】
(5) (1)、(2)、又は(3)において、
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられ、
前記第2の領域及び前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記凹部に割り当てられる。
【0021】
(5)によれば、全面に一方向に延長する凹凸形状を作製した後、マスクを用いてさらに1方の領域に対応する凹凸形状を作製して、配向膜作製用の金型を作製する場合に、この1方の領域に係る凹凸形状を作製する際の生産性を向上することができる。
【0022】
(6) (1)又は(2)において、
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられると共に、前記第2の領域が、前記凹部に割り当てられて、前記第1及び第2の領域の間には、テーパ面による段差が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記段差の領域である。
【0023】
(6)よれば、エッチングの際に発生する段差を有効に利用して緩衝領域を作成することができる。
【0024】
(7) 透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングし、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムの製造用金型において、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、順次交互に帯状に形成され、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型は、
表面形状の転写により、前記第1及び第2の領域の凹凸形状を前記配向膜に形成し、
前記第1及び第2の領域に対応する領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域により、前記パターン位相差フィルムの前記第1及び第2の領域の境界に、前記第1及び第2の領域の緩衝領域を形成する。
【0025】
(7)によれば、第1及び第2の領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域を設け、この領域により、第1及び第2の領域の境界に緩衝領域を設けることにより、この凹凸形状の作製に供する金型では、第1及び第2の領域の凹凸形状に対応する凹凸形状を密接させて作製する必要がなく、これにより密接させて作製する際に各種の不都合を回避して生産性を向上することができ、その結果、パターン位相差フィルムを高い精度により簡易かつ大量に作製することができる。
【0026】
(8) 前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
(7)に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【0027】
(8)によれば、液晶表示パネル等の画素間の遮光部より緩衝領域が飛び出さないようにし、かつ具体的に、金型製造工程における生産性の低下を防止することができる。
【0028】
(9) (7)又は(8)において、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域である。
【0029】
(9)によれば、ラビング処理、研磨処理等を局所的に中止することにより、緩衝領域を作成することができる。
【0030】
(10) (7)又は(8)において、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記第1の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状と、前記第2の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状とが重複して形成された領域である。
【0031】
(10)によれば、第1及び第2の領域におけるラビング処理、研磨処理を局所的に重複させることにより、緩衝領域を作成することができる。
【0032】
(11) (7)、(8)、又は(9)において、
前記凹凸形状の転写に供する部位には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域に対応する領域が、前記凹部に割り当てられ、
前記第2の領域に対応する領域及び前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記凸部に割り当てられる。
【0033】
(11)によれば、全面に一方向に延長する凹凸形状を作製した後、マスクを用いてさらに1方の領域に対応する凹凸形状を作製して、配向膜作製用の金型を作製する場合に、この1方の領域に係る凹凸形状を作製する際の生産性を向上することができる。
【0034】
(12) (7)、又は(8)において、
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられると共に、前記第2の領域が、前記凹部に割り当てられて、前記第1及び第2の領域の間には、テーパ面による段差が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記段差の領域である。
【0035】
(12)よれば、エッチングの際に発生する段差を有効に利用して緩衝領域を作成することができる。
【0036】
(13) 垂直方向に連続する画素が、順次交互に右目用及び左目用の画素に割り当てられてそれぞれ対応する画像データにより駆動され、
(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、又は(6)に記載のパターン位相差フィルムにより、前記右目用及び左目用の画素からの出射光に、それぞれ前記第1及び第2の領域により対応する位相差を与えて出射する。
【0037】
(13)では、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、又は(6)に記載のパターン位相差フィルムを使用して、パッシブ方式により立体画像を表示する画像表示装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0038】
高い精度により簡易かつ大量にパターン位相差フィルムを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパターン位相差フィルムを示す図である。
【図2】図1のパターン位相差フィルムにおける緩衝領域の説明に供する図である。
【図3】図2の測定系による測定結果を示す図である。
【図4】図1のパターン位相差フィルムの製造工程を示す図である。
【図5】図4の続きを示す図である。
【図6】図1のパターン位相差フィルムの生産に使用する金型の作製工程を示す図である。
【図7】図6の続きを示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るパターン位相差フィルムの生産に使用する金型の作製工程を示す図である。
【図9】図8の続きを示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係るパターン位相差フィルムの生産に使用する金型の作製工程を示す図である。
【図11】図10の続きを示す図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係るパターン位相差フィルムの生産に使用する金型の作製工程を示す図である。
【図13】図12の続きを示す図である。
【図14】パッシブ方式による3次元画像表示の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る画像表示装置に適用されるパターン位相差フィルムを示す図である。この第1実施形態に係る画像表示装置は、垂直方向に連続する液晶表示パネルの画素を、順次交互に、右目用及び左目用に割り当て、それぞれ右目用及び左目用の画像データで駆動し、これにより右目用の映像と左目用の映像とを同時に表示する。この画像表示装置は、この液晶表示パネルのパネル面に、この図1に示すパターン位相差フィルム1が配置され、このパターン位相差フィルム1により右目用及び左目用の画素からの出射光にそれぞれ対応する位相差を与える。これによりこの画像表示装置は、パッシブ方式により所望の立体画像を表示する。
【0041】
ここでパターン位相差フィルム1は、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムによる基材2に、配向膜3、位相差層4が順次作製される。パターン位相差フィルム1は、位相差層4が液晶材料により形成され、この液晶材料の配向を配向膜3の配向規制力によりパターンニングする。なおこの液晶分子の配向を図1では細長い楕円により示す。このパターンニングにより、パターン位相差フィルム1は、液晶表示パネルにおける画素の割り当てに対応して、一定の幅により、右目用の領域Aと、左目用の領域Bとが順次交互に帯状に形成され、右目用及び左目用の画素からの出射光にそれぞれ対応する位相差を与える。
【0042】
パターン位相差フィルム1は、基材2の表面に紫外線硬化性樹脂5が塗布された後、この紫外線硬化性樹脂5の表面に微小な凹凸形状が形成され、これにより紫外線硬化性樹脂を介して基材2の表面に凹凸形状が形成される。パターン位相差フィルム1は、この紫外線硬化性樹脂5の表面の凹凸形状により配向膜3が形成される。パターン位相差フィルム1は、後述する金型の表面に作製された微小な凹凸形状を転写して、配向膜3に係る微小な凹凸形状が作製され、この凹凸形状による配向規制力により液晶層4をパターンニングする。このため配向膜3は、右目用及び左目用の帯状領域A及びBにそれぞれ対応する帯状の領域が順次交互に形成され、それぞれ微小な凹凸形状が作製される。ここでこの微小な凹凸形状は、一方向に延長するライン状の凹凸形状により形成され、この一方向に延長する方向が第1及び第2の領域で90度異なる方向となるように、かつ各領域の延長方向に対して45度傾くように形成される。なおこの各領域の延長方向に対する傾きにあっては、基材2のリタデーションが無視できない程度に大きい場合には、リタデーション値に応じて、適宜、増減される。
【0043】
この実施形態のパターン位相差フィルム1は、この帯状領域の各境界に、一方向へのライン状の凹凸形状を作製していない領域が配向膜3に設けられ、この領域により、右目用領域A及び左目用領域B間に緩衝領域Cが設けられる。この実施形態では、何らライン状の凹凸形状を作成していない平坦な領域により、この緩衝領域Cが形成される。ここで緩衝領域Cは、配向膜3の作製に供する金型の作製工程を簡略化するために設けられる。なおこの金型の作製に関する構成は、後に詳細に説明する。さらに緩衝領域Cを設けることにより、隣接する領域間で、配向膜3による配向規制力が影響を及ぼし合わないようにし、各領域A及びBにおける位相差層4の乱れを低減することもできる。
【0044】
なおパターン位相差フィルム1は、図1において部分的に拡大して示すように、配向膜3に微小な段差hが設けられ、この段差hによる凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、右目用の領域Aに対応する凹凸形状の領域が、この凸部に割り当てられ、左目用の領域Bに対応する凹凸形状の領域及び平坦な領域が、凹部に割り当てられる。
【0045】
図2に示すように、偏光フィルタ6A、6Bによる直交ニコルにパターン位相差フィルム1を配置して、パターン位相差フィルム1に対する直交ニコルの傾きを変化させ、その透過光をビデオカメラ7で撮影した。パターン位相差フィルム1に対して直交ニコルを45度傾けた状態で、右目用及び左目用の領域A及びBは、黒レベルで撮影されるのに対し、緩衝領域Cは一定の輝度レベルで撮影された。これによりこの緩衝領域Cは、何ら凹凸形状を作製することなく平坦に配向膜3を作製して、配向膜3に配向規制力を付与していないにも係わらず、位相差層4により透過光に位相差が与えられ、またこの位相差が領域A及びBによる位相差と異なることが判った。
【0046】
この緩衝領域Cは、余りに幅広の場合、右目用画素及び左目用画素からの透過光に意図しない位相差を与え、その結果、右目用映像と左目用映像との間でいわゆるクロストークを発生させ、画質を著しく劣化させる。しかしながらこの領域幅が極端に小さいと、配向膜3を作製する金型の作製が困難になる。従ってこの緩衝領域Cは、その幅を適切に設定することが望まれる。
【0047】
図3は、この緩衝領域Cの幅設定の説明に供する図である。この図3は、図2によるビデオカメラ7による撮像結果を1ライン分抽出して輝度レベルを示す図である。なおこの1ラインは、領域A及びBを横切る方向である。この図3に示すように、撮像結果では、緩衝領域Cに対応して周期的に輝度レベルが立ち上がる。この実施形態では、この周期的に立ち上がる輝度レベルのピーク値を平均値化し、この平均値が値1になるように、検出した輝度レベルを正規化した。またこの正規化した輝度レベルを、しきい値THで判定し、しきい値TH以上に立ち上がる領域を緩衝領域Cと定義した。なおこのような正規化してしきい値THにより判定する代わりに、ピーク値の平均値によりしきい値を設定して判定しても良い。
【0048】
この実施形態では、しきい値THを0.01に設定して検出される緩衝領域Cの幅が、2μm以上100μm以下となるように設定した。ここで100μm以下としたのは、パターン位相差フィルム1が配置される液晶表示パネルでは、画素間の漏洩光を防止する目的で、画素間に遮光部(いわゆるブラックストライプである)がライン状に設けられており、この遮光部より緩衝領域Cが飛び出さないようにするためである。従って上限値を100μmに設定すれば、概ね各種の液晶表示パネルに適用することができるものの、パターン位相差フィルム1を配置する液晶表示パネルにおける遮光部の幅に応じて、この上限値は種々に変更することができる。またパターン位相差フィルム1は、この実施形態では、液晶表示パネルのパネル面に貼り付けて使用されることから、この貼り付け時における位置ずれの許容量を充分に確保して生産性を向上する観点からは、より小さい値が望まれる。これに対して下限値は、後述する金型製造工程における生産性の観点より決定される。従って生産性の低下を防止する観点からは、より下限値を増大させても良い。
【0049】
これらによりこの緩衝領域Cは、より好ましくは、5μm以上50μm以下となるように設定して、画質の劣化を防止して画像表示装置、パターン位相差フィルム1の生産性を充分に確保することができる。さらにより好ましくは10μm以上30μm以下となるように設定して、一段と画質の劣化を防止して、一段と画像表示装置、パターン位相差フィルム1の生産性を確保することができる。
【0050】
図4は、このパターン位相差フィルム1の製造工程を示す図である。この製造工程は、基材2が所定形状により供給され(図4(a))、この基材2の表面に紫外線硬化性樹脂5が所定膜厚により塗布される(図4(b))。続いてこの紫外線硬化性樹脂5の表面に金型14が押し付けられる(図4(c))。ここで金型14は、配向膜3に係る凹凸形状が表面に形成された転写用金型である。この製造工程は、紫外線硬化性樹脂5を金型14により押圧した状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂5を硬化し、これにより紫外線硬化性樹脂5の表面に配向膜3に係る凹凸形状を作製する。
【0051】
その後、図5に示すように、この製造工程は、金型14から基材2を取り外して配向膜3に液晶材料を塗布した後、紫外線の照射により液晶材料を硬化させ、これにより位相差層4を作製する。パターン位相差フィルム1は、その後、必要に応じて粘着層、反射防止層等が形成された後、所望の大きさに切断して作製される。これによりパターン位相差フィルム1は、平盤による金型14を用いた凹凸形状の転写により、基材2を処理して効率良く作製される。
【0052】
図6及び図7は、金型14の製造手順を示す図である。なおこの図6及び図7において、パターン位相差フィルム1の領域A、B、Cに対応する領域を、それぞれ符号ARA、ARB、ARCにより示す。この製造工程では、母材20の表面を研磨して平滑化した後(図6(a))、その略全面に微小なライン状凹凸形状による第1凹凸領域22を形成する。ここで母材20は、後述するレジスト層24等を剥離除去可能に積層できるものであれば特に限定されるものではなく、ニッケル等の各種金属材料、SiO等の各種無機酸化物等を広く適用することができるものの、後述するレジスト層24等を剥離除去可能に積層する観点から、金属材料、DLC等であることが好ましく、ニッケル、クロム、DLCであることがより好ましい。
【0053】
第1凹凸領域22は、母材20の表面に、配向膜3の右目用領域又は左目用領域の凹凸形状に対応する微小な凹凸形状を作製して形成される。具体的に、この実施形態では、研磨処理等により作製される。
【0054】
続いて金型14は、レジスト剤を塗布して露光、現像処理することにより、配向膜3の凹部に係る領域をマスクし、かつ配向膜3の凸部に係る領域ARAを露出させたマスクをレジスト層23により作製する(図6(C))。なおレジスト材料としては特に限定されるものではなく、ポジ型レジスト材料、ネガ型レジスト材料のいずれも用いることができる。また塗布方法、露光方法にあっても種々の手法を広く適用することができる。
【0055】
続いて図7(d)に示すように、全面に、無機材料の第2層膜24が、好ましくは0.01μm以上1μm以下で薄膜形成される。これによりレジスト層23によりマスクされていない領域であって、かつ配向膜3の凸部に対応する領域に、第2層膜24からなる第2層パターンが形成される。ここでこの第2層パターンは、下層に形成された凹凸形状をマスクし、配向膜3の凸部に対応する凹凸形状を作製するために成膜される。従ってこの第2層膜24は、膜厚が0.01μm未満であると下層の凹凸形状を充分に平坦にマスクすることが困難になる。しかしながら膜厚が大きい場合には、配向膜3における段差h(図1)が大きくなり、段差が1μmを超えるとこの段差による位相差が位相差層4の配向に影響を与える。従って膜厚は、0.01μmから1μmの範囲で、後述する緩衝領域Cの幅設定に係る条件を加味して所望の厚みに設定される。
【0056】
続いて図7(e)に示すように、第1凹凸領域22と異なる方向に、全面を研磨して、第2層膜24の表面に凹凸形状を作製する。その後、製造工程は、図7(f)に示すように、レジスト層23を、その上層の第2層膜24と共に除去し、これにより2回の研磨により配向膜3の領域A及びBに対応する凹凸形状を作製する。
【0057】
ここでこのように全面に凹凸形状を作製した後、レジスト層23によりマスクして部分的に凹凸形状を作製する場合、レジスト層23のパターンニングに係る位置決め精度の劣化を防止することができる長所がある。しかしながらこのようにして順次凹凸形状を作製する場合にあって、領域A及びBを密接して作製する場合には、2回目の研磨工程における作業が難しくなることが判った。
【0058】
すなわちこの2回目の研磨では、レジスト層23によりマスクされていない部位に研磨痕を作製することが必要であり、このレジスト層23と研磨対象箇所との間には、レジスト層23の厚みの分、段差が発生する。これによりレジスト層23による段差の近傍では、他の部位に比して研磨痕を作製することが困難になり、この部位に研磨痕を充分に作製するためには極めて大きな押圧力により押圧して研磨することが必要になる。しかしながらこのように大きな押圧力により押圧して研磨する場合には、レジスト層23をも研磨することになり、その結果、レジスト層23によりマスクされている部位までも研磨痕が発生することが判った。なおこのように他の部位まで進入して研磨痕が発生すると、パターン位相差フィルム1では右目用又は左目用の領域で正しく位相差を付与することが困難になり、画像表示装置において、クロストークが発生することになる。
【0059】
そこでこの実施形態では、領域A及びBに対応する凹凸形状の境界に、何ら凹凸形状を作製していない平坦な領域ARCを作製する。またこの平坦な領域ARCにより、パターン位相差フィルム1について上述した緩衝領域Cを形成する。ここでこの平坦な領域ARCは、研磨処理時の押圧力、レジスト層23の膜厚を選定することにより、対応する緩衝領域Cの幅が目的の幅となるように、設定される。これによりこの実施形態では、金型14の生産性を向上し、かつ不良品の発生、パターン位相差フィルム1の精度の低下を防止して、パターン位相差フィルム1を量産することができる。
【0060】
なお領域ARCと領域ARAとの間の段差の壁面は、垂直面、又は垂直面より領域C側に傾いたいわゆるテーパ面となることが好ましい。このような垂直面、又はテーパ面とすることにより、金型からの離型性を向上することができる。因みに垂直面、テーパ面とする場合には、マスク23を作成する際の露光処理に供する光源の設定により、露光に供する光を種々に調整して実行することができる。
【0061】
〔第2実施形態〕
ここで第1の実施形態によるパターン位相差フィルム1の緩衝領域Cについてより詳細に検討した。巨視的な観点より、各部における光軸の向きを観察すると、領域A及びBでは位相差層における光軸の方向が領域A又はBの延長方向に対して斜め45度の角度を成すのに対し、緩衝領域Cでは、領域Aから領域Bに向かうに従って徐々に領域Aの向きから領域Bの向きに光軸の向きが変化していることが確認された。これにより緩衝領域Cにより、隣接する領域間で、配向膜3による配向規制力が影響を及ぼし合わないようにし、各領域A及びBにおける位相差層4の乱れを低減できることが確認された。
【0062】
また直交二コル配置(図2)による偏光板の間にパターン位相差フィルム1を配置して、パターン位相差フィルム1を徐々に回転させて緩衝領域Cを拡大観察したところ、パターン位相差フィルム1の回転により明暗が脈動する不規則な形状による微小領域が密接して配置されていることが判った。これによりこの緩衝領域Cでは、隣接する領域A及びBによる配向規制力により液晶材料の配向が若干なりとも影響を受けてはいるものの、概ね、配向膜からの配向規制力を受けていない塗布したままの状態である、液晶分分子同士が相互に影響を与え合いながらランダムな向きに液晶分子が配置されている状態で、液晶材料がそのまま固化していると判断される。
【0063】
これにより緩衝領域Cは、要は、配向膜に配向規制力を設けないようにすることにより作成することができ、このような配向規制力を設けていない領域を、右目用領域ARA及び左目用領域ARB間に設けるようにすれば、第1の実施形態以外の各種の手法によりパターン位相差フィルムの製造用金型を作成する場合にも、第1の実施形態と同様に、領域ARA、ARBを密接させて作成する際の種々の不都合を有効に回避して、金型の作成を簡略化することができる。
【0064】
図8及び図9は、本発明の第2実施形態に係る金型の製造工程を示す図である。この実施形態では、この図8及び図9に示す工程によって作成された金型を使用してパターン位相差フィルムを製造する点を除いて、第1実施形態と同一に構成される。なお以下において、図6及び図7について上述した構成と同一の構成は、対応する符号を付して示し、重複した説明は省略する。また以下においては、領域ARA及びARBをそれぞれ幅400μm、緩衝領Cを幅20μmにより作成する場合を例に、各部の寸法を示す。
【0065】
ここでこの製造工程は、図8(a)により示すように、銅による母材40の表面を研磨して平滑化した後、その表面にスパッタリングによりクロムを膜厚100nm堆積して金属層41を作成する。
【0066】
続いてこの製造工程は、図8(b)により示すように、ポジ型レジストを膜厚5μmにより塗付した後、露光、現像処理することにより、左目用領域ARBの研磨処理に供するマスク42を表面に作成する。ここでマスク42は、右目用領域ARAをマスクし、左目用領域ARB及び緩衝領域ARCを露出させるように、この実施形態では右目用領域ARAをマスクする部位が400μmの幅により作成され、左目用領域ARB及び緩衝領域ARCを露出させる部位が440μmの幅によりスリット状に250本形成される。
【0067】
続いてこの製造工程は、図8(c)により示すように、マスク42を使用した研磨処理により、マスク42により覆われていない左目用領域ARB及び緩衝領域ARCに、左目用領域ARB及び緩衝領域ARCの延長方向に対して、斜め45度の方向に延長するライン状の凹凸形状を作成する。なおここでこの研磨処理は、例えばレーヨン布を使用して実行される。続いてこの工程は、マスク42を除去する。
【0068】
続いてこの製造工程は、図9(d)により示すように、ポジ型レジストを膜厚5μmにより塗付した後、露光、現像処理することにより、右目用領域ARAの研磨処理に供するマスク42を表面に作成する。ここでマスク42は、左目用領域ARBをマスクし、右目用領域ARA及び緩衝領域ARCを露出させるように、この実施形態では左目用領域ARBをマスクする部位が400μmの幅により作成され、右目用領域ARA及び緩衝領域ARCを露出させる部位が440μmの幅によりスリット状に250本形成される。なおこの実施形態では、図8(b)ついて上述したマスク42を作成する際の露光位置を、420μmだけ領域ARA、ARBの繰り返し方向(幅方向)にシフトさせて露光処理することにより、マスク44が作成される。
【0069】
続いてこの製造工程は、図9(e)により示すように、マスク44を使用した研磨処理により、マスク44により覆われていない右目用領域ARA及び緩衝領域ARCに、左目用領域ARB及び緩衝領域ARCの延長方向に対して、斜め45度の方向であって、左目用領域ARBに形成したライン状の凹凸形状と直交する方向に延長するライン状の凹凸形状を作成する。なおここでこの研磨処理は、例えばレーヨン布を使用して実行される。
【0070】
続いてこの工程は、図9(f)により示すように、マスク44を除去する。これによりこの実施形態では、領域ARA及びARBの間の領域においては、2回の研磨処理により、延長方向が直交するライン状の凹凸形状が重複して作成される。これによりこの部位においては、液晶の配向をランダムな向きとすることができ、これにより緩衝領域ARCを形成することができる。なお実際にパターン位相差フィルムを作成して計測した結果では、上述の寸法によりマスク42、44を作成したところ、緩衝領域ARCは、幅18μm〜21μmにより作成することができた。
【0071】
この実施形態によれば、方向の異なる研磨処理の重複により配向規制力を生じさせないようにして緩衝領域を作成する場合でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。またこの場合、緩衝領域ARCについては、段差が生じないことにより、第1実施形態に比して金型からの離型性を向上することができ、生産性を向上し、さらには金型の寿命を延ばすことができる。
【0072】
〔第3実施形態〕
図10及び図11は、本発明の第3実施形態に係る金型の製造工程を示す図である。この実施形態では、この図10及び図11に示す工程によって作成された金型を使用してパターン位相差フィルムを製造する点を除いて、第1実施形態又は第2実施形態と同一に構成される。なお以下において、上述した各実施形態と同一の構成は、対応する符号を付して示し、重複した説明は省略する。また以下においては、領域ARA及びARBをそれぞれ幅400μm、緩衝領Cを幅20μmにより作成する場合を例に、各部の寸法を示す。
【0073】
ここでこの製造工程は、図10(a)により示すように、銅による母材40の表面を研磨して平滑化した後、その表面にスパッタリングによりクロムを膜厚100nm堆積して金属層41を作成する。
【0074】
続いてこの製造工程は、図10(b)により示すように、ポジ型レジストを膜厚5μmにより塗付した後、露光、現像処理することにより、左目用領域ARBの研磨処理に供するマスク52を表面に作成する。ここでマスク52は、右目用領域ARA及び緩衝領域ARCをマスクし、左目用領域ARBを露出させるように、この実施形態では右目用領域ARA及び緩衝領域ARCをマスクする部位が440μmの幅により作成され、左目用領域ARBを露出させる部位が400μmの幅によりスリット状に250本形成される。
【0075】
続いてこの製造工程は、図10(c)により示すように、マスク52を使用した研磨処理により、マスク52により覆われていない左目用領域ARBに、左目用領域ARBの延長方向に対して、斜め45度の方向に延長するライン状の凹凸形状を作成する。なおここでこの研磨処理は、例えばレーヨン布を使用して実行される。続いてこの工程は、マスク52を除去する。
【0076】
続いてこの製造工程は、図11(d)により示すように、ポジ型レジストを膜厚5μmにより塗付した後、露光、現像処理することにより、右目用領域ARAの研磨処理に供するマスク54を表面に作成する。ここでマスク54は、左目用領域ARB及び緩衝領域ARCをマスクし、右目用領域ARAを露出させるように、この実施形態では左目用領域ARB及び緩衝領域ARCをマスクする部位が440μmの幅により作成され、右目用領域ARAを露出させる部位が400μmの幅によりスリット状に250本形成される。なおこの実施形態では、図10(b)ついて上述したマスク52を作成する際の露光位置を、420μmだけ領域ARA、ARBの繰り返し方向(幅方向)にシフトさせて露光処理することにより、マスク54が作成される。
【0077】
続いてこの製造工程は、図11(e)により示すように、マスク54を使用した研磨処理により、マスク54により覆われていない右目用領域ARAに、右目用領域ARAの延長方向に対して、斜め45度の方向であって、左目用領域ARBに形成したライン状の凹凸形状と直交する方向に延長するライン状の凹凸形状を作成する。なおここでこの研磨処理は、例えばレーヨン布を使用して実行される。
【0078】
続いてこの工程は、図11(f)により示すように、マスク54を除去する。これによりこの実施形態では、領域ARA及びARBの間の領域においては、何ら研磨処理されていない平坦な領域が作成される。これによりこの平坦な領域においては、液晶の配向をランダムな向きとすることができ、これにより緩衝領域ARCを形成することができる。なお実際にパターン位相差フィルムを作成して計測した結果では、上述の寸法によりマスク52、54を作成したところ、緩衝領域ARCは、幅18μm〜21μmにより作成することができた。
【0079】
この実施形態によれば、繰り返しのラビング処理において、局所的に研磨処理を中止して配向規制力を生じさせない緩衝領域を作成する場合にも、第1実施形態又は第2実施形態と同様の効果を得ることができる。またこの場合、緩衝領域ARCについては、段差が生じないことにより、第1実施形態に比して金型からの離型性を向上することができ、生産性を向上し、さらには金型の寿命を延ばすことができる。
【0080】
〔第4実施形態〕
図12及び図13は、本発明の第4実施形態に係る金型の製造手順を示す図である。この実施形態では、この図12及び図13に示す工程によって作成された金型を使用してパターン位相差フィルムを製造する点を除いて、上述の実施形態と同一に構成される。なお以下において、上述した各実施形態と同一の構成は、対応する符号を付して示し、重複した説明は省略する。また以下においては、領域A及びBをそれぞれ幅400μm、緩衝領Cを幅2μmにより、それぞれ作成する場合を例に、各部の寸法を示す。
【0081】
ここでこの製造工程は、図12(a)により示すように、アルミニウムによる母材60の表面に、電解メッキによって膜厚200nmにより銅を堆積させ、これにより下地層61を形成する。続いてこの工程は、表面を平滑に研磨した後、厚み5μmのニッケルによる中間層62を作成する。
【0082】
ここでこの製造工程は、図12(b)により示すように、プラズマCVDによりDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層63を膜厚200nmにより作成する。しかして下地層61、中間層62は、母材60に対するこのDLC層63の密着力を十分に確保するために設けられる。また続いて例えばレーヨン布を使用した研磨処理により、各領域ARA、ARBの延長方向に対して、斜め45度の方向に延長するライン状の凹凸形状を作成する。
【0083】
続いてこの製造工程は、図12(c)により示すように、スパッタリングにより膜厚4μmによるチタン層64を成膜する。また続いて例えばレーヨン布を使用した研磨処理により、DLC層63に形成したライン状の凹凸形状に対して、延長方向が直交するライン状の凹凸形状を作成する。
【0084】
続いてこの製造工程は、図13(d)により示すように、ネガ型のレジストを5μmの膜厚により塗布した後、露光、現像処理することにより、エッチング処理に供するマスク65を作成する。ここでマスク65は、左目用領域ARAをマスクし、左目用領域ARB及び緩衝領域Cを露出させるように、この実施形態では左目用領域ARBをマスクする部位が400μmの幅により作成され、右目用領域ARA及び緩衝領域Cを露出させる部位が404μmの幅によりスリット状に250本形成される。
【0085】
続いてこの製造工程は、図13(e)により示すように、断面にテーパーが形成されるように、エッチング液を使用して室温により10分間エッチングし、選択的にチタン層64を除去する。その後、この工程は、レジストを除去する。ここでこのようにして選択的にチタン層64を除去することにより、チタン層64の端面にあっては、DLC層63の表面からほぼ60度の角度で立ち上がるテーパ面とすることができる。この実施形態では、この斜めに立ち上がる端面により幅約2μmにより緩衝領域Cが形成される。なお実際にパターン位相差フィルムを作成して計測した結果では、緩衝領域ARCは、幅2μm〜3μmにより作成することができた。
【0086】
この実施形態では、2つの領域間にテーパ面を形成し、このテーパ面により配向規制力が生じない領域を形成して緩衝領域を作成するようにしても、上述の実施形態と同一の効果を得ることができる。またこの実施形態では、2つの領域間の段差の部位がテーパ面であることにより、金型からの離型性を向上することができる。
【0087】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を組み合わせ、さらには上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0088】
すなわち上述の実施形態では、段差hに係る凹凸形状により金型、配向膜を作製することにより、この段差hを有効に利用して、帯状領域の境界に平坦な領域を設ける場合等について述べたが、本発明はこれに限らず、配向膜を用いた各種のパターン位相差フィルムに広く適用することができる。
【0089】
具体的に、上述の実施形態以外にも、帯状領域に対応する部位を交互にマスクして凹凸形状を金型に作製し、この金型により配向膜を作製する場合にも広く適用することができる。
【0090】
またこれに代えて、位相差層の厚みにより右目用の領域と左目用の領域とで位相差を設定するパターン位相差フィルムに適用して、緩衝領域を設けるようにしても良い。この場合、通常は全面に一様に研磨痕を作製して配向膜とするところを、マスクを用いた研磨により、配向膜に研磨痕を作製していない平坦な領域を作製し、これにより緩衝領域を作製することができる。この場合は、上述の実施の形態の効果を前提に、厚みの制御に係る位置決め精度を緩和することができる。
【0091】
また上述の実施形態では、研磨痕により配向膜を作製する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、いわゆるラビングの処理により凹凸形状を作製して配向膜を作製する場合にも広く適用することができる。
【0092】
また上述の実施形態では、平板の金型作製に本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ロール版の作製にも適用することができる。
【0093】
また上述の実施形態では、液晶表示パネルの使用を前提としたパターン位相差フィルムを作製する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネルの使用を前提に、偏光フィルタを一体に設ける場合にも広く適用することができ、さらにはこれら有機ELパネル等による画像表示装置に広く適用することができる。また偏光フィルタと一体化する場合のように他の機能を盛り込む場合にあっては、例えば黒色インクの印刷により遮光部を設けるようにして、この遮光部を緩衝領域と重なり合うように設ける場合(いわゆるブラックストライプである)、この遮光部を有効画像表示領域の周囲を囲む形状により設ける場合(いわゆる額縁である)等、種々の構成を適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 パターン位相差フィルム
2 基材
3 配向膜
4 位相差層
5 紫外線硬化性樹脂
6A、6B 変更フィルタ
14 金型
20、40、60 母材
22 第1凹凸領域
23 レジスト層
24 第2層膜
41 金属膜
42、44、52、54、65 マスク
61 下地層
62 中間層
63 DLC膜
64 チタン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングし、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムにおいて、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、順次交互に帯状に形成され、
前記第1及び第2の領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域により、前記第1及び第2の領域の境界に、前記第1及び第2の領域の緩衝領域が設けられた
パターン位相差フィルム。
【請求項2】
前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
請求項1に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項3】
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域である
請求項1又は請求項2に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項4】
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記第1の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状と、前記第2の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状とが重複して形成された領域である
請求項1、又は請求項2に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項5】
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられ、
前記第2の領域及び前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記凹部に割り当てられた
請求項1、請求項2、又は請求項3に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項6】
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられると共に、前記第2の領域が、前記凹部に割り当てられて、前記第1及び第2の領域の間には、テーパ面による段差が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記段差の領域である
請求項1又は請求項2に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項7】
透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングし、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムの製造用金型において、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、順次交互に帯状に形成され、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型は、
表面形状の転写により、前記第1及び第2の領域の凹凸形状を前記配向膜に形成し、
前記第1及び第2の領域に対応する領域の境界に、一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域により、前記パターン位相差フィルムの前記第1及び第2の領域の境界に、前記第1及び第2の領域の緩衝領域を形成する
パターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項8】
前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
請求項7に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項9】
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域である
請求項7又は請求項8に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項10】
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記第1の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状と、前記第2の領域におけるライン状凹凸形状の延長方向に延長するライン状凹凸形状とが重複して形成された領域である
請求項7又は請求項8に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項11】
前記凹凸形状の転写に供する部位には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域に対応する領域が、前記凹部に割り当てられ、
前記第2の領域に対応する領域及び前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記凸部に割り当てられた
請求項7、請求項8、又は請求項9に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項12】
前記配向膜には、凹部と凸部とが帯状に交互に形成され、
前記第1の領域が、前記凸部に割り当てられると共に、前記第2の領域が、前記凹部に割り当てられて、前記第1及び第2の領域の間には、テーパ面による段差が設けられ、
前記一方向へのライン状の凹凸形状が形成されていない領域が、前記段差の領域である
請求項7又は請求項8に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項13】
垂直方向に連続する画素が、順次交互に右目用及び左目用の画素に割り当てられてそれぞれ対応する画像データにより駆動され、
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、又は請求項6に記載のパターン位相差フィルムにより、前記右目用及び左目用の画素からの出射光に、それぞれ前記第1及び第2の領域により対応する位相差を与えて出射する
画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−37354(P2013−37354A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152648(P2012−152648)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】