説明

パッケージングにおけるX線検出

【課題】パッケージング内の剤形、たとえばブリスターパック内の錠剤を含む医薬製品の試験を、剤形をパッケージングから取り出すことなく行う。
【解決手段】パッケージング内の剤形、たとえばブリスターパック内の錠剤を含む医薬製品を、剤形をパッケージングから取り出すことなく試験するために角度分散X線回折が使用される。剤形は、X線を生成するX線源、X線光学系およびX線検出用のX線検出器を有する測定システムと整列させられる。次いで、剤形上の所定の位置において少なくとも一つのX線シグネチャが測定される。測定されたX線シグネチャはデータ・ライブラリ内の基準X線シグネチャと比較される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出に、より詳細には医薬のような包装された製品のX線回折の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬剤形(pharmaceutical dosage form)は典型的には、有効な医薬成分(API: active pharmaceutical ingredient)、賦形剤および任意的な被覆剤を含む。APIは、通例時限放出薬において用いられる結晶形であってもよいし、あるいはしばしばより速い放出の薬において用いられる非晶質であってもよい。薬物はまた、ワクチンのような、低密度をもつ凍結乾燥された非晶質粉末の形であってもよい。剤形は固体、粉末、顆粒、微小錠剤(microtablet)またはゲルであってもよい。
【0003】
医薬製品は、パッケージング内に一つまたは複数の薬物剤形を含む。最も一般的には、パッケージングはブリスターパックであるが、瓶、バイアル瓶および他の担体も可能である。ブリスター材料は通例アルミニウムまたはポリマーであり、他のパッケージングについてはポリマーまたはガラスであってよい。そのような内側包装は通常、追加的情報と一緒に厚紙の箱のような外側包装内に含まれる。
【0004】
偽装薬物の問題が増しつつある――流通経路にはいる偽装薬物製品の数が増え続けている。残念ながら、これは、パッケージングの中身が医薬製品を全く含んでいない、異なる賦形剤または明細にあるものとは完全に違う新規の物質を含んでいることがありうるということを意味している。
【0005】
残念ながら、内側パッケージングを開いて試験のために薬物を取り出すということは、その薬物製品は顧客に届けることができないということを意味するので、日常的に薬物を試験することは可能ではない。よって、現在のところ、たとえば税関国境検査所において薬物を検査することは実際的ではない。
【0006】
したがって、内側パッケージングを開けることなく薬物製品が何であるかを厳密に検査することが必要とされている。
【0007】
偽装薬の製造者にとって、主要目的は金儲けである。いくつもの異なる洗練レベルが含まれる。
【0008】
ローエンドでは、薬物内容が完全に偽物であることがある。しかしながら、しばしば治療効能がないことが購入者に明白になるので、これは販売者にとって危険である。したがって、そのようなローエンドの偽物が出回る可能性があるのは、多くの小規模購買者および再販売者をもつ統制のない市場において、あるいは可能性としてはインターネット販売を介してのみである。
【0009】
ローエンドの偽物は有意なAPIを含まず、代わりの賦形剤およびただ正しい色にするために設計された被覆剤を含む。
【0010】
中間レベルでは、偽装薬物は何らかの形のAPI、しばしば何らかの形の医薬効果をもつ安価な代替物を含むことがある。しかしながら、APIの結晶性が正しくないこともある。特に本物の薬が非晶質APIをもつ場合にそうである。賦形剤は正しいこともあるし、代替のこともある。ここでもまた、被覆剤は色を再現するよう選ばれるであろう。そのような中間レベルの偽物はリアルなパッケージングおよびラベリングを使用するが、正確ではないことがある。
【0011】
ハイエンドの偽物は、できるだけ剤形を再現しようと試みる。こうした偽物については、パッケージングおよび偽の説明書の正確な再現に多大な努力が払われる。しかしながら、剤形そのものは、時折の検査に耐え、何らかの治療効能を生じるよう設計される。よって、APIは通常正しいであろうが、可能性としては結晶性は違っている。ハイエンドの偽物は、非常に高価で販売できよって犯罪者にとって多大な利益になりうる場合には、米国または欧州のような発達した市場について格別な問題である。
【0012】
患者が偽装薬物を消費すると、治療効能がないこと、あるいは間違った服用/成分に起因する致死まで含む合併症、あるいは過少服用の場合にはその型の薬物に耐性のある新しい形のウイルスの発達につながりうる。この最後のものは、ウイルス感染の流行性の広まりの源として特に危険である。
【0013】
したがって、ローエンドの偽物だけでなく、真正な医薬製品を正確に再現しない中間レベルおよびハイエンドの偽物も検出する、パッケージング内の薬物を検査する手段を提供することが望ましい。
【0014】
医薬物質についての伝統的なX線回折実験は知られている。まず、試料が平坦な粉末層として用意される。これは、薬物をすりつぶして、反射配位なら平坦な表面上に、透過配位では二つの透明箔の間に、位置および厚さに注意しながら注意深く事前載置することを含む。
【0015】
次いで、試料は回折計内でビーム経路内に精確に整列され、測定および分析が実行される。
【0016】
分析は、物質が粉末の形で利用できず、しばしば曲がった形をもつ固体錠剤として事前成形されているときにはずっと難しくなる。そのような場合には、そこそこの品質のデータを得るには、特別な光学的セットアップおよび幾何学的配置が必要とされる。そのようなセットアップの例は非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3がある。
【0017】
この型の実験は、錠剤に直接アクセスすることおよびゴニオメータ軸を試料と注意深く整列できることを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】V・コーガン(Kogan)、D・ベッカーズ(Beckers)、「医薬化合物の特徴付けのための高度なXRPDシステム(Advanced XRPD System for the Characterization of Pharmaceutical Compounds)」、PPXRD、2006年
【非特許文献2】V・コーガン、D・ベッカーズ、T・デーゲン(Degen)、「固体剤形の非破壊特徴付けのためのPXRD(PXRD for nondestructive characterization of solid dosage forms)」、PPXRD、2007年
【非特許文献3】V・コーガン、D・ベッカーズ、J・ニコリッチ(Nicolich)、「PXRDによる調合剤および薬物製品の特徴付け(Characterization of formulations and drug products by PXRD)」、IWPCPS、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そのようなプロセスが薬物をパッケージングから取り出すことなくしては不可能であることはすぐ理解されるであろう。実際、パッケージングから剤形を取り出すことなくしては、剤形はパッケージング内で固定されておらず、厳密な要求される厚さの試料を用意するどころか、精確な整列さえ大きな問題になる。
【0020】
最近、包装された医薬製品をスキャンするためのEDXRDシステムが提案された。このシステムについての出願人に入手可能な技術情報はほとんどない。
【0021】
しかしながら、EDXRDシステムはそれにまつわる困難があり、特に薬物剤形のコンポーネントの位相(phase)を決定するのには好適ではない。さらに、その角度解像度は比較的限られており、角度分散XRDシステムおよび著しく高いバックグラウンド・レベルである。この差は、医薬品の特徴付けのために通例使用される大きなd間隔(角度分散XRDにおける低い2θ範囲)の位置合わせ(registration)については特に強い。したがって、これらのシステムは、中間レベルまたはハイエンドの偽物のような比較的洗練された偽装薬物を本物の製品から区別するのには好適ではない。これらのシステムはまた、医薬剤形においてごく普通に使用されうる非晶質材料を検出する機能も比較的低いことがありうる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、請求項1記載の装置が提供される。
【0023】
測定システムを剤形の所定の部分と整列させることによって、良好なX線回折測定が得られる。下記に、これがいかに重要かを示しつつ、結果を呈示する。
【0024】
収束および/または平行ビームをもつX線光学系の選択は、剤形が厳密に整列されていない場合、透過配位においてビームが錠剤の厚い部分を貫く場合、および反射配位において曲がった錠剤表面の場合に測定を改善する。X線をエネルギーの関数として測定する従来技術のEDXRDシステムとは異なり、本発明は角度の関数としてのX線を測定されるX線シグネチャとして使う。すなわち、角度分散X線回折(angle-dispersive X-ray diffraction)である。
【0025】
良好な解像度を達成し、パッケージ内で固定されていないことがありうる剤形を厳密に整列させられないにもかかわらず基準に対して結果を再現できるために、あるいは実際、測定のための試料の最適厚さを選ぶために、本装置は、測定のために剤形の少なくとも一つの所定の部分を測定システムと整列させるコントローラを含む。各医薬製品の所定の部分の選択は、製品の各型についてのデータおよび個別の手順とともに、データ・ライブラリに記憶されていてもよい。
【0026】
重要なことに、XRDは、錠剤内の物質の複雑な属性の直接的なフィンガープリントを提供する。一方、RFID技術、コード化されたラベリング、バーコードのような他の偽造方策は、再現するのが難しい薬物製品への付加に取り組むのみである。
【0027】
本発明の実施形態についてこれから、付属の図面を参照しつつ、純粋に例として、述べる。
【0028】
同じまたは類似の構成要素は異なる図面でも同じ参照符号を与えられている。

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態に基づく装置を示す図である。
【図2】本発明に基づく方法の第一の実施形態のフローチャートである。
【図3】整列段の間に取られた測定値を示す図である。
【図4】異なる試料について整列段の間に取られた測定値を示す図である。
【図5】垂直整列のための配位を示す図である。
【図6】本発明を使って得られた結果を示す図である。
【図7】本発明を使って得られたX線粉末回折結果を示す図である。
【図8】小角度X線散乱結果を示す図である。
【図9】本発明の第二の実施形態を示す図である。
【図10】測定位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第一の実施形態に基づく測定システムおよび方法について、図1ないし図5を参照して述べる。
【0031】
図1を参照すると、測定システム2はX線源4、X線検出器6およびX線光学系8を含む。個別的な実施形態では、X線光学系8は収束X線ビームを生成するビーム調整器(beam conditioner)である。X線源4およびX線検出器6は、中央の同じ位置のまわりの相対運動のための独立したゴニオメータ上にマウントされている。ビームストップ9はいくつかの測定配位について使用される。
【0032】
垂直(z方向)にかつxおよびy方向に水平に動かせるX線テーブル10上にマウントされた試料ホルダー12が、使用される試料をマウントするために使用される。試料はパッケージング内の剤形を含む医薬製品であることが意図されている。
【0033】
コンピュータ16が設けられ、メモリ20にコンピュータ・プログラム・プロダクト18が記憶される。コンピュータ16は、測定を実行するために測定システムおよびX線テーブルを制御するコントローラとしてはたらく。コンピュータ・プログラム・プロダクトはコンピュータ16に、下記でさらに詳細に述べるような方法を実行させるはたらきをする。コンピュータ16はまた、測定された結果の比較を実行するための比較手段としてはたらく。
【0034】
多数の医薬製品に関するデータを含むデータ・ライブラリ22が設けられる。データ・ライブラリ22は別個に示されているが、もちろん、コンピュータ16内に含まれていてもよい。データは、X線シグネチャのほか、剤形に対する最適測定位置および手順詳細を与えるデータを含む。
【0035】
使用においては、図2のフローチャートを参照すると、薬物剤形を含んでいるブリスターパックの形の試料14が試料ホルダー12によってX線テーブル10上に保持される(ステップ30)。
【0036】
次に、予備的なxy整列が行われる(ステップ32)。X線源4、X線光学系8およびX線検出器は縦に整列するよう、すなわち0散乱角度位置に動かされ、X線ビームが本質的に垂直方向に試料14を通って送出される。
【0037】
X線テーブルはxおよびy方向に動かされ、直接ビーム強度が位置の関数として測定される。可能な結果が図3および図4に示されている。図3は、X線にとって透明な薄い曲がった錠剤に対して測定された結果を示し、図4は、中央部分においてX線に対して透明でない大きな錠剤からの結果を示す。X線テーブルは次いで最適測定のために位置される。薄い曲がった錠剤の例(図3)では、最適位置は錠剤の中央である。図4のより大きな錠剤については、端に近い領域が選ばれる。
【0038】
代替的な実施形態では、予備的なxy配向が、光学カメラを使って得られる。これは、透明なブリスターの場合に特に有用である。
【0039】
次のステップは、垂直な、すなわちz方向の整列を実行することである(ステップ34)。
【0040】
包装がブリスターパックであり、剤形が錠剤(tablet)である例が与えられる。
【0041】
第一のアプローチは、便利にはデータ・ライブラリ22に記憶されていてもよいブリスター空洞および錠剤形のモデルを得て、これをX線テーブルをz方向に正しく整列させるために使うことである。
【0042】
従われる数学的手順は、まず剤形の外側表面をデカルト座標でztab=tablet(x,y)として定義してもよい。ここで、tablet()は剤形を定義する関数である。ブリスター空洞(blister cavity)の形が同様にzblister=blister(x,y)として定義されてもよい。ここで、blister()は同じ座標におけるブリスターの形を定義する関数である。いずれの場合にも、テーブル12は0垂直位置z=0にセットされる。
【0043】
重力は垂直下向きであると想定される。
【0044】
すると、テーブルの正しい高さzは、二つの表面の交差のx、yにおいて取られた関数z=abs(tablet(x,y)−blister(x,y))によって見出されうる。
【0045】
代替的なアプローチは、X線源4、X線光学系8および検出器6を、源4および検出器6が直射直線上にあるが垂直方向に対して角度θをなす図5に示される位置に動かすことである。次いで、テーブル12が垂直に(z方向に)動かされ、xy整列におけるのと同様の、位置に対する吸収の測定がなされる。
【0046】
次いで剤形の最適整列が選ばれる。最大吸収の位置または平坦な吸収の中心である。
【0047】
次のステップでは、必要であればさらなる調節が実行される(ステップ36)。
【0048】
厚さtの薄い層(被覆材またはブリスターの壁としての)に入射角αで入射するX線の吸収は、典型的には
I=I0 exp(−μt/cosα)
として表される。ここで、μは物質の線吸収係数である。
【0049】
これまでのステップは剤形の中心を測定設備の中心と整列させる。しかしながら、錠剤または他の剤形の最適位置は剤形に、特に剤形の厚さに依存する。透過配位における測定のための最適な厚さは通常、μ・t〜1、よってexponent(μ・t)〜eによって与えられる。ここで、eは数値定数(約2.7)、μは線吸収係数、tは厚さである。
【0050】
よって、最適測定は、X線の50%ないし80%が吸収されることを要求し、3mmより厚い錠剤は材料に依存してこれより多く吸収することもありうる。したがって、より厚い錠剤については、テーブル12は特定の錠剤についての最適位置に動かされることができ、最適位置は、より大きな錠剤については中心位置から離れていることがありうる。
【0051】
測定のための剤形の選ばれた個別的な位置は、いくつかの因子を考慮に入れる。整列の厳密な選択は医薬製品に依存することになり、ライブラリ22において各医薬製品について記録される。整列の最良の選択についてのいくつかの考察は次のとおりである。
【0052】
ブリスター内の錠剤の実際の測定のためには、錠剤の内部におけるAPIおよび賦形剤からの吸収、錠剤の被覆剤における吸収およびブリスターにおける吸収を組み込んだ複雑な吸収因子を扱うことになる。すべての因子は入射X線ビームおよび出射X線ビームのブリスターおよびタブレットに対する位置、錠剤の配位およびブリスター壁の配位に依存する。
【0053】
錠剤の被覆剤は、吸収の高い(有機物に比して)物質を含むことがあり、ブリスターの材料は典型的にはおそらくは傾いた壁をもつポリマーまたは金属(アルミニウム)でありえ、金属箔中のビーム経路はきわめて長く、吸収にとって重要となる。
【0054】
パッケージング内の錠剤の厚さは変更できないという事実は、システムを幅広い範囲の医薬製品に一般に適用可能にするにあたって深刻な障害である。したがって、その代わりに、最適でない厚さの負の影響を最小限にするために、システムが正しい位置において測定を行わなければならない。
【0055】
剤形はパッケージング内で固定されておらず、一般にその実際の位置は未知である。使用される整列プロセスは、良好な角度分散X線回折測定のための十分な整列を保証する。
【0056】
錠剤または他の剤形の形はしばしば凸形であるので、測定は入射ビームが錠剤に当たる領域に依存する。
【0057】
したがって、結論として、各医薬製品について選ばれる整列は、おそらくは強く吸収する領域を含む完全なパッケージングの吸収プロファイル内における、剤形の既知の吸収プロファイルを考慮に入れる。この情報は、整列のため、正しい配向(傾きなし)の検査のため、および大きさの測定のために使用されうる。
【0058】
整列のために重要なさらなる因子は剤形の配向である。しばしば、最良の配向は、最良の可能な解像度を与えるものとして、試料を通じた最短経路を通じることである。平坦な錠剤のような平坦な剤形については、最良の配向は、錠剤を平坦にして、X線を本質的に垂直にすることでありうる。対照的に、円柱形の剤形については、円柱が水平であるべきであり、X線は垂直に円柱を横切るべきである。
【0059】
ブリスターパックが平坦にマウントされる場合、通常、剤形の配向をさらに調節することは可能ではない。通常、X線源4および検出器6の垂直な配向は正しい結果を与えるが、場合によっては、X線ビームの最適な配向が、水平なビーム、またさらには他の何らかの角度を用いて得られる。
【0060】
さらなる実施形態では、あるいは特定の医薬製品については、ブリスターパックは垂直にマウントされて、剤形が重力のもとで落ちてブリスター空洞の端に安置されるようにしてもよい。このようにして、パッケージング内で剤形の位置をより精確に知ることができ、これは結果を改善できる。
【0061】
剤形の特定の位置に対して分析が行われることは、記憶されている薬物シグネチャとの比較を大幅に簡単にするとともに、より精確な測定を許容するので、重要な特徴である。
【0062】
最適位置が特定の医薬製品に依存するので、最適位置への移動(ステップ36)は試験される医薬製品を事前に知ることを必要とする。これは通常は、製品パッケージングに示されている医薬製品であろう。
【0063】
いくつかの用途については、医薬製品はわかっていないことがありうる。この場合、試料の素性〔試料が何であるか〕に対する第一の近似を得、次いでステップ36に戻って位置を最適化し、その最適位置で測定を繰り返すというステップを実行することによる、逐次的な手順が採用されてもよい。
【0064】
代替的なアプローチは、複数位置で測定を行い、測定値を得たのちにX線シグネチャとの比較によって測定のうちの最適なものを決定することである。
【0065】
これらのアプローチのいくつかが一緒に使用されてもよい。第二の実施形態を参照してさらなる整列技法が以下で記載される。これらが前記の第一の実施形態の技法と組み合わされてもよい。
【0066】
前記実施形態は、こうして、測定されるシグネチャがライブラリに記憶されているシグネチャとすぐ比較できるようにするため、ブリスター・パッケージ内で錠剤を所定の整列をもって整列させる整列を含む。
【0067】
整列が完了されると、測定が行われうる(ステップ38)。整列ステップおよび測定ステップ36、38は繰り返されて複数の測定が行われてもよいことを注意しておく。このことは、図2の点線矢印によって示されている。
【0068】
剤形は一般には平坦ではなく、曲がった表面をもつ。曲がった表面をもつ非晶質(amorphous)試料に対するよりよい結果を得るためには、特別な幾何学的配位が採用される。その幾何学的配位は検出器上に合焦される収束ビームを使う透過配位である。
【0069】
典型的には、15〜20°まで、あるいはCu Kα放射を使うときには40°までの比較的小さな角度2θが使用される。
【0070】
光学系8がビームを図1に示される紙面内の線上に合焦する収束線配位が使用されることは、この実施形態の格別な特徴である。これは、良好な解像度および十分なスピードを与える。
【0071】
ある好ましい実装では、X線ビームを横切る方向に測った試料のところでのX線のビーム・サイズは0.2mmまたはそれ未満に、好ましくは0.1mmまたはそれ未満にできる。このようにして、試料に対して精確な位置および大きさが取られることができる。
【0072】
ある特定の実施形態では、小角度透過配位が使用される。X線源4および光学系8が、検出器6に合焦される収束X線を供給するよう構成される。ビームストップ9は直接ビームを遮断するために使われ、X線を角度の関数として測定するために検出器位置はゴニオメータ上で変えられる。
【0073】
図6にはいくつかの測定された結果が呈示されている。これは、ブリスター内のレビトラ(登録商標)(Levitra)の錠剤を表している。
【0074】
図6は具体的には、より厚い錠剤の中央(下の曲線)および端付近(上の曲線)においてなされた測定を示している。下の曲線は有用な情報を与えず、本質的には純粋なノイズであることが見て取れるであろう。このことは、正しい位置の選択の重要性を立証する。6Aは、三つの錠剤のそれぞれについて測定位置、中央位置および端位置を示す。
【0075】
ある個別的な実装では、ある種の医薬品について、X線シグネチャはX線粉末回折(XRPD: X-ray powder diffraction)パターンである。図7は、同じ薬物だが異なる国で調製された二つの本物の薬物製品および似たようなブランドの一つの偽装薬物についてX線粉末回折パターンを示している。
【0076】
本物の製品に対してよりも偽装薬物製品についてのほうがピークはずっと大きい。APIからのピークは矢印で示されているが、本物の製品は非晶質APIをもつが偽装製品は結晶性のAPIをもつことが示されている。XRPDの使用はピークが本物の製品および偽装製品の両方において見られることを許容し、本物の製品と偽装製品との間の明確な区別がなされることを許容する。
【0077】
小さな角度では(2θの値が約12°未満)、APIからの寄与が見られる。ブリスターパックからの寄与はより大きな角度で、たとえば25°より上での特有のピークとして見られる。
【0078】
試験された例では、同じことは、より大きな角度でピークを生じる賦形剤にもあてはまる。ここでもまた、今の例では、賦形剤は偽装製品では高度に結晶性である。
【0079】
代替的または追加的に、小角度X線散乱(SAXS: small angle X-ray scattering)測定がX線シグネチャとして使用されてもよい。
【0080】
図8は、APIの二つのバッチ(batch)について非常に小さな角度で測定された二つのX線回折パターンを示している。二つのバッチは、最も低い散乱角度範囲におけるほかは同じように見える。最も低い角度範囲では一方のバッチにはピークがあり、他方にはない。これは、二つのバッチを製造するために使用された異なる技術的プロセスの結果である。このように、SAXSの使用は偽物の判別を許容し、本物の製品における非晶質APIと非常によく似た非晶質APIを使ったハイエンドの偽物の判別さえも許容する。
【0081】
図8の測定が例であることを注意しておく。これらの測定は実際にはブリスターパックがあるときに測定されたものではない。しかしながら、ブリスターパックの追加が小角度での基本的状況を変えるとは期待されず、むしろより高い角度にさらなるピークが追加されるであろう。
【0082】
ブリスター内の錠剤の測定をするときに生じうる一つの問題は、貧弱な粒子統計およびテクスチャーである。大きな晶子(crystallite)をもつ物質からの反射は、測定に対して、強くゆがめられた、スパイクのあるパターンを示すことがある。
【0083】
この問題に対処するため、同じ錠剤の種々の部分に対して、そして種々の錠剤に対して複数の反復的測定がなされうる。その後、測定されたシグネチャを基準シグネチャと比較する前に、総和および平均が行われる。
【0084】
図10は、バリウム(Valium)(登録商標)の、使用されうるあるブリスターについての測定位置を示している。点が測定位置を示す。
【0085】
使用されうる一つの改良は、パッケージング内の医薬の位置を調節するためにテーブルを揺らすまたは動かし、それから測定を繰り返すことである。このようにして、複数の測定が行える。次いで最終結果が平均され、一つの位置における個別的なアーチファクトの効果を軽減することができる。
【0086】
注意すべきさらなる点は、試料上への合焦をもつX線ビームの収束線配位は、透過型測定および反射型測定の両方を行うことを許容するということである。単に検出器6を試料に対して源4と同じ側にあるよう動かすことによって、あるいは試料表面を90°回転させることによって、同じ装置が使用できる。
【0087】
試料をxy平面内で動かし、吸収を測定することによって、小さなスポットを使って医薬のサイズを探査できる。試料のサイズは測定されたシグネチャとして使うことができ、これは基準シグネチャとしての医薬の既知のサイズと比較されることができる。
【0088】
測定されうるもう一つのシグネチャは、直接ビーム位置における試料の吸収である。ここで、X線ビームは回折されずに試料を通過する。
【0089】
第一の実施形態は、X線シグネチャを、透過係数、小角度X線散乱または両方とともに使用して、非晶質材料の測定値を得る。直接ビーム透過測定は、二つのX線エネルギーを用いることで特に信頼できるものとなる。というのも、これにより二つの測定がなされることが許容され、よって測定がずっと信頼できるものとなりうるからである。各医薬製品について好適な測定の型(単数または複数)は、同じ方法で取得された基準X線シグネチャと一緒に、ライブラリ22に記憶されている。
【0090】
基準シグネチャは、パッケージング内での測定から得る必要はない。基準シグネチャは剤形、剤形を粉末にしたもの、剤形コア、被覆材のみ、パッケージングのみ、パッケージング内の剤形、純粋な形のAPI、プラセボおよびAPIのないプラセボから得られてもよい。実際、好ましくは、偽物をより簡単に検出するために複数のそのような基準シグネチャが使用される。
【0091】
基準シグネチャは、加熱した後に得られてもよい。これは、非晶質APIを結晶化させ、よってピークをより明白にすることができる。さらに、製品中のAPIが特定の状態にある場合、これが測定前に得られることができる。
【0092】
測定されたシグネチャはライブラリ22に記憶されている基準シグネチャと比較される(ステップ40)。
【0093】
ある好ましい実装では、いくつかの異なる測定されたシグネチャが基準シグネチャと比較される。測定されるシグネチャはSAXS測定、XRPD、医薬品の幾何学的な大きさ、吸収、またパッケージングのみの測定を含んでいてもよい。複数のパラメータの使用は精度を改善する。
【0094】
これらの比較の最終結果が出力される結果であり(ステップ42)、出力される結果は典型的には単に、測定値と基準の良好な一致を示すには緑、偽物を示すには赤、不確かさを示すには黄色であってもよい。そのような単純な出力は、設備を操作するのがそれほど訓練されていない人員である現実世界の応用では便利である。
【0095】
第二の実施形態では、二つのX線エネルギー、すなわち硬X線および軟X線が使用される。これは、厚い錠剤および薄い錠剤の両方について本システムの使用を許容し、また、本システムがガラス瓶にはいった製品のような他の医薬製品とともに使われることも許容する。
【0096】
この場合、より高いエネルギーの(硬)X線はより厚い錠剤、瓶および広口瓶でも貫通する。より薄い錠剤についてでさえも、異なるエネルギーにおける二つのX線シグネチャは改善された弁別を与えることができる。
【0097】
二つのX線エネルギーの使用は、非常に小さなピークしか与えないことがある非晶質APIをもつ試料を測定するときに特に重要である。
【0098】
第三の実施形態は、ブリスター・パケットのより精密な整列を許容する。
【0099】
ステップ32において、ブリスター・パッケージ中の錠剤の好適な測定位置への整列のために、まず、源および検出器の両方を垂直に配向して直接垂直ビームを使って、ブリスター内の錠剤の位置がブリスターパックのx、yスキャンによって決定される。
【0100】
図9は、ブリスターパックの例および直接ビームにおいて記録された典型的なスキャンを示している。記録されたパターンは錠剤を(x-y方向において)直接ビーム中に位置させるために使用されることができる。次いでz整列(ステップ34)が実行される。
【0101】
次いで、複数のさらなる精細位置において、本質的にはステップ36および38を繰り返して複数の測定がなされる。試料のさらなる位置決めのためには、試料位置決め方針についてのデータベースからの情報が必要とされる。データベースは、評価のために代表的なシグネチャのセットを集めるために錠剤をどのように位置決めするかの方針を含んでいる。
【0102】
この実施形態では、種々のx-y位置、またさらには種々のz位置において集められたスキャンのセットが記録されている。次いで測定されたスキャンのセットが、ライブラリ22からの記憶されているシグネチャと比較される。
【0103】
第四の実施形態では、反射を使った錠剤のより精確な整列が、上記した予備的整列後に使用される。
【0104】
この場合、データベースからの基準シグネチャ情報が使用される。基準シグネチャ情報は、強い反射のような、シグネチャにおける特徴的な特性についての情報を含む。ゴニオメータが源を角度θ、検出器を角度2θにして位置決めされる。ここで、θはシグネチャにおける特徴的な特性(たとえば強い反射)の角度である。次いで、テーブル10はx方向およびy方向において調節されて、このピークの強度を最大化する。
【0105】
z方向の位置決めはのちに、測定された2θ‐zマップを、データベース中の以前に集められたシグネチャからの情報と比較することによって行われる(θを0に保って)。
【0106】
第五の実施形態は、上記の実施形態の任意のものを採用し、位置感応検出器6を使う。これは、より高速な測定または改善された測定を許容できる。
【0107】
第六の実施形態では、z方向について異なる整列技法が使用される(ステップ34)。代替的な整列技法では、x‐y整列が上記のように実行される。次いで、システムが測定位置にもってこられ、ライブラリ22から既知の角度2θにおける既知のピークが取られる。整列のために使われる既知のピークは好ましくは強いピークである。
【0108】
次いで、検出器6は、既知のピークについての正しい角度に位置され、検出器6が正しい最大値を拾うまでホルダー10がz方向に動かされる。このようにして、正しい垂直配向が達成される。
【0109】
当業者には、上記の実施形態が単に例であって、多くの修正が可能であることは理解されるであろう。
【0110】
たとえば、上記の実施形態は透過型配位の使用を記載しているが、代替的な実施形態では反射型配位を使うことが適切であることもありうる。
【0111】
医薬パッケージングはブリスターに制限されず、プラスチック袋、バイアル瓶、瓶および広口瓶も可能である。
【0112】
医薬品はパッケージング内で粉末形であってもよい。
【0113】
X線は隠されたバーコード、記号(sign)、シグネチャ(signature)などを識別するために使用されてもよい。
【0114】
X線光学系8は多層構造、ポリキャピラリー光学系(poly-capillary optic)または結晶モノクロメータを使ってもよい。
【0115】
剤形(医薬)は固体、液体、顆粒またはばらばらの粉末であってもよい。

【符号の説明】
【0116】
2 測定システム
4 X線源
6 X線検出器
8 X線光学系
9 ビームストップ
10 X線テーブル
12 試料ホルダー
14 試料
16 コンピュータ
18 コンピュータ・プログラム・プロダクト
20 メモリ
22 データ・ライブラリ
30 試料をマウント
32 xy整列
34 z整列
36 微細な整列
38 測定実行
40 シグネチャ比較
42 結果を出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージング内の医薬剤形を含む医薬製品を検査するシステムであって:
測定されたX線シグネチャを得るためのX線を生成するX線源、X線光学系およびX線検出用のX線検出器を有する測定システムと;
前記測定システムによる測定のために内部に前記剤形をもつ前記パッケージングを担持するホルダーと;
少なくとも一つの医薬製品についての一つまたは複数の基準X線シグネチャを含むデータ・ライブラリと;
測定されたX線シグネチャを前記基準X線シグネチャと比較する比較手段とを有しており、
前記X線光学系は収束および/または平行ビームを生成するよう構成されており;
前記X線検出器は、前記測定されたX線シグネチャとして角度の関数としてのX線を検出するようゴニオメータ上にマウントされていることを特徴とし、
測定のために前記剤形の少なくとも一つの所定の位置を前記測定システムと整列させるよう前記ホルダーを駆動するコントローラを有し、前記データ・ライブラリが少なくとも一つの個別医薬製品について前記剤形に対する前記所定の位置を与えるデータを含んでいることをさらに特徴とする、
システム。
【請求項2】
前記X線源が複数の特性波長においてX線を生成し、前記ライブラリが前記複数の特性波長においてそれぞれの基準X線シグネチャを含む、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラが、剤形および測定システムの複数の所定の位置において複数の測定されたX線シグネチャを取り込むために前記ホルダーを制御するよう構成されており;
前記比較手段が、それらの測定されたX線シグネチャを複数の基準X線シグネチャと比較するよう構成されている、
請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラが異なる型の複数の測定されたX線シグネチャを取り込むために前記ホルダーを制御するよう構成されており;
前記比較手段が、それらの測定されたX線シグネチャを複数の基準X線シグネチャと比較するよう構成されている、
請求項1ないし3のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラが、前記ホルダーの水平位置の関数としてX線吸収の測定値を取り込むために前記ホルダーを制御し、位置の関数としてのX線吸収の取り込まれた測定値から、前記剤形の少なくとも一つの所定の位置を前記測定システムと整列させるよう前記ホルダーを位置合わせするよう構成されている、請求項1ないし4のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項6】
前記ライブラリに記憶されている基準シグネチャが有効医薬成分、賦形剤、被覆剤またはパッケージングの別個のものまたは組み合わせたものに関係する複数の基準信号を含んでいる、請求項1ないし5のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記ホルダーを水平方向に、次いで垂直方向に位置合わせし、次いで前記剤形を前記少なくとも一つの所定の位置において整列させるよう構成されている、請求項1ないし6のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項8】
前記X線光学系が、透過型配位で前記X線シグネチャを測定するよう、前記X線ビームを前記X線検出器上に合焦するよう構成されている、請求項1ないし7のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項9】
前記X線検出器が位置の関数としてX線を測定するピクセル検出器である、請求項1ないし8のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項10】
前記X線シグネチャがX線粉末回折シグネチャを含む、請求項1ないし9のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項11】
前記X線シグネチャが小角度X線散乱シグネチャを含む、請求項1ないし10のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項12】
前記X線シグネチャが前記剤形の幾何学的な寸法を含む、請求項1ないし11のうちいずれか一項記載のシステム。
【請求項13】
パッケージング内に医薬剤形を含む医薬製品を検査する方法であって:
ホルダー上に医薬製品をマウントする段階と;
前記医薬製品を、X線を生成するX線源、X線光学系およびX線検出用のX線検出器を有する測定システムと整列させる段階と;
前記医薬の特定部分を指定する情報をライブラリから得る段階と;
前記医薬の前記特定部分に対するX線シグネチャを回折角度の関数として測定する段階と;
測定されたX線シグネチャを基準X線シグネチャと比較する段階とを含み;
前記データ・ライブラリが少なくとも一つの個別医薬製品について前記医薬の前記特定部分を与えるデータを含んでいる、
方法。
【請求項14】
測定を行う前にパッケージング空洞内の特定の位置に前記医薬を位置させる段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記医薬の複数の異なる特定部分に対する複数のX線シグネチャを回折角度の関数として測定することを含む、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記X線ビームが一方の側から他方の側まで前記試料を通る最短経路を取るよう前記医薬を位置合わせすることをさらに含む、請求項13ないし15のうちいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−192538(P2009−192538A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−31164(P2009−31164)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(503310327)
【Fターム(参考)】