説明

パッチアンテナ

【課題】天頂方向の利得を向上させることができる小型のパッチアンテナを提供する。
【解決手段】パッチアンテナ10は、誘電体基板11と、誘電体基板11の一方の表面に設けられた地導体と、前記誘電体基板の他方の表面に設けられた矩形の放射導体12と、放射導体12と電気的に接続され、放射導体12に励振信号を供給する給電点14とを備え、放射導体12の一辺の長さHがほぼ0.5(2m−1)λgであり、放射導体12の前記一辺に垂直な他辺の長さWがほぼ0.5(2n−1)λgである。ここで、λgは前記励振信号の周波数の実効波長、mは任意の正の整数、nはmと異なる任意の正の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッチアンテナに関し、特に直線偏波を放射する矩形のパッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
パッチアンテナは、薄型に構成することが容易なため、小型の情報通信機器用のアンテナとして広く用いられている。典型的なパッチアンテナは、誘電体基板の一方の表面に地導体を備え、他方の表面に正方形の放射導体を備える。放射導体は、励振方向の長さが共振周波数の1/2波長の奇数倍となるように形成される。この放射導体に励振信号が供給されると、励振方向に電流定在波が発生し、この電流定在波から電波が放射される。縮退分離素子が装荷されていない正方形又は円形の放射導体に単一の給電点から給電することにより、放射される電波は直線偏波となる。
【0003】
パッチアンテナにおける技術的課題の一つは放射導体表面に垂直な天頂方向における利得の改善である。放射導体に発生する電流定在波は放射導体の寸法によって変化するため、天頂方向における利得は放射導体の各辺の寸法に応じて変化する。例えば、特開2000−312112号公報(特許文献1)には、矩形の放射導体の一辺の長さを変化させることにより、基本モードで共振する放射導体よりも天頂方向での利得が改善することが記載されている。
【0004】
パッチアンテナを高利得化するための他の方法として、複数のパッチアンテナ素子を組み合わせてアレイ化する技術が知られている。この種のアレイ化されたパッチアンテナが、同じく特許文献1にて開示されている。特許文献1に記載されたアレイ化されたパッチアンテナは、パッチアンテナとして機能する複数のアンテナ素子を同一平面上に備え、このアンテナ素子に分配器を介して給電することで、電波が各アンテナ素子から放射される。したがって、放射導体の天頂方向では、これらの複数のアンテナ素子から放射された電波を重ね合わせた放射特性が得られる。各アンテナ素子に給電される励振信号の位相を調整したり、アンテナ素子の配置を工夫することにより、単一のパッチアンテナ素子が基本モードで共振する場合よりも天頂方向の利得を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−312112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パッチアンテナをアレイ化すると、高周波信号源から各アンテナ素子までの配線が複雑になるため、小型化の妨げとなる。また、特にマイクロ波やミリ波等の高周波信号で励振する場合には、高周波信号源とアンテナ素子との間に配置される分配器や配線における損失が、単一のアンテナ素子を用いる場合よりも大きくなる。
【0007】
そこで、本発明の様々な実施態様は、アンテナ素子をアレイ化することなく、基本モードで共振する正方形のパッチアンテナよりも天頂方向における利得を向上させることができるパッチアンテナを提供する。その他の課題は、下記の詳細な説明、添付図面等の記載から理解される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様に係るパッチアンテナは、誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の表面に設けられた地導体と、前記誘電体基板の他方の表面に設けられた矩形の放射導体と、前記放射導体と電気的に接続され、前記放射導体に励振信号を供給する給電点と、を備え、前記放射導体の一辺の長さがほぼ0.5(2m−1)λgであり、前記放射導体の前記一辺に垂直な他辺の長さがほぼ0.5(2n−1)λgである。ただし、λgは前記励振信号の周波数の実効波長、mは任意の正の整数、nはmと異なる4以下の任意の正の整数である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の様々な実施態様によって、アンテナ素子をアレイ化することなく、基本モードで共振する正方形のパッチアンテナよりも天頂方向における利得を向上させることができるパッチアンテナが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの平面図
【図2】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの断面図
【図3】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの放射導体の拡大図
【図4】パッチアンテナの放射導体の幅方向寸法と天頂方向における利得との関係を示す図
【図5】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの放射特性を示す図
【図6】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの放射特性を示す図
【図7】本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの放射特性を従来のパッチアンテナの放射特性と比較して示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細な実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るパッチアンテナ10を表す平面図であり、図2はパッチアンテナ10のy軸に沿った断面図である。図示のとおり、本発明の一実施形態におけるパッチアンテナ10は、誘電体基板11と、誘電体基板11の一方の表面に載置された矩形の放射導体12と、誘電体基板11の他方の表面に載置された地導体13とを備える。このパッチアンテナ10は、他のアンテナ素子とアレイ化せずに単独で用いることができる。
【0012】
誘電体基板11は、マイクロ波帯でよく使われるFR4や、ミリ波帯でよく使われるテフロン材等の公知の材料から成る。また、透明アンテナの場合、ガラス,PET,PEN等の高分子フィルムが材料から成る。放射導体12及び地導体13は、この誘電体基板11の一方及び他方の表面に金や銅などの導体を印刷して形成される。透明アンテナにはITOやZnO,InGaZnOなどの透明導電性酸化物や微細な金属,カーボンナノチューブやグラフェンなどを用いた透明電極材料を使用する。放射導体12は、後述の寸法に関する要求を満たす範囲で誘電体基板11及び地導体13よりも一回り小さく形成されてもよい。誘電体基板11、放射導体12、及び地導体13の寸法、材料及び形成方法は本明細書で明示されるものに限られず、本発明の範囲を逸脱しない限り任意の寸法、材料及び方法を用いることができる。
【0013】
放射導体12において、長辺12bの垂直二等分線上(つまり、図1のy軸上)には給電点14が設けられている。給電点14は、放射導体12の中心15、又は、その中心15から長辺12bの垂直二等分線に沿って偏寄した位置に配置される。給電点14は、例えば、長辺12bの垂直二等分線上において、放射導体12が給電側とインピーダンス整合する位置に設けられる。給電点14の位置は本明細書で明示されるものに限られず、本発明の範囲を逸脱しない限り、放射導体12においてy軸方向の両端を除く任意の位置に配置することができる。
【0014】
図2に示されている通り、給電点14の下方には、誘電体基板11、放射導体12及び地導体13を貫く貫通孔が形成されており、この貫通孔に沿ってビア電極16が設けられている。ビア電極16は、給電点14で放射導体12と電気的に接続されており、不図示の高周波信号源から供給される励振信号を給電点14経由で放射導体12へ伝送する。ビア電極16は、地導体13から絶縁されている。励振信号は、放射導体12の共振周波数に相当する周波数の交流信号であり、例えば、ミリ波やマイクロ波の交流信号である。放射導体12の共振周波数は、放射導体12の寸法や誘電体基板11の比誘電率等に基づいて決まる。
【0015】
図3は、本発明の一実施形態に係る放射導体12の拡大図である。図示のとおり、放射導体12は矩形形状に形成されており、そのx軸方向の一辺の長さWとy軸方向の一辺の長さHとが互いに異なっている。本明細書においては、便宜上、図1又は図3の配置におけるx軸方向を幅方向と称し、y軸方向を高さ方向と称することがある。後述のように、励振信号が供給されるとy軸方向に電流定在波が発生するので、y軸方向が励振方向となる。本明細書において、放射導体12について「矩形」という場合には、縮退分離素子が装荷されていない矩形の形状を意味する。したがって、矩形の放射導体12が給電点14以外に給電点を有しない場合、つまり励振信号が単一の給電点14から給電される場合には、パッチアンテナ10から直線偏波の電波が放射される。
【0016】
一実施形態において、放射導体12の高さ方向の一辺(短辺12a)の長さHはほぼ0.5(2m−1)λgであり、この一辺に垂直な幅方向の他辺(長辺12b)の長さWはほぼ0.5(2n−1)λgである。つまり、放射導体12の高さ方向の長さHと幅方向の長さは、次の式で表される。
H=0.5(2m−1)λg ・・・ (式1)
W=0.5(2n−1)λg ・・・ (式2)
【0017】
ここで、mは任意の正の整数、nはmと異なる任意の正の整数、λgは励振信号の周波数(共振周波数)の実効波長である。一実施形態において、nは4以下とすることが望ましい場合がある。本発明者の行った実験によれば、n=3、m=5としたときに、天頂方向における利得が最も強められる。実効波長λgは、励振信号の自由空間での波長が誘電体基板11の比誘電率に応じて短縮されたものであり、励振信号の自由空間中の波長をλとして、λg=λ/(εr)1/2と表される。図3においては、幅方向の長さWが高さ方向の長さHよりも長くなるように表されているが、これらの寸法は例示に過ぎず、これとは逆に、高さ方向の長さHが幅方向の長さWよりも長くともよい。すなわち、m>nであってもよい。本明細書においては、励振信号の実効波長に言及する場合であっても、表現を簡潔にするために単に波長という文言を用いることがある。本発明の様々な実施形態における放射導体の各辺の長さは、厳密に0.5(2m−1)λg又は0.5(2n−1)λgである必要はない。例えば、本明細書において、「ほぼ0.5(2m−1)λg」の長さには、0.5(2m−1)λg±λgの10%の長さが含まれる。また、「ほぼ0.5(2n−1)λg」の長さには、0.5(2n−1)λg±λgの10%の長さが含まれる。幅方向及び高さ方向の寸法にλgの±10%の誤差があっても、パッチアンテナ上の電流分布は実質的に変化せず、天頂方向にピークを有する放射特性が得られる。
【0018】
以上のように構成された放射導体12に給電点14から励振信号が供給されると、放射導体12に高さ方向(y軸方向)を励振方向とする電流定在波が発生し、この電流定在波の振幅の腹に相当する位置から電波が放射される。このとき、高さ方向の長さHが共振周波数の1/2波長である場合には放射導体12に基本モードの電流定在波が現れ、共振周波数の1/2波長の3倍以上のときには高次モードの電流定在波が現れる。放射導体12の幅方向の長さWが0.5(2n−1)λgとなるように形成されると、後述するように、電流定在波から放射される電波が放射導体12の天頂方向において強め合い、基本モードで共振する正方形のパッチアンテナよりも天頂方向における利得を向上させることができる。
【0019】
図4は、パッチアンテナの放射導体の幅方向寸法と天頂方向における利得との関係を示す。図4のグラフは、電磁場解析ソフトウェアを用い、天頂方向(図1におけるz方向)の利得を演算処理することにより求めた。電磁場解析ソフトウェアとして、米国ペンシルバニア州に本社のあるAnsys社のPlanar
EMを用いた。電磁場解析ソフトとしては、Ansys社のHFSSを用いることもできる。このPlanar EMに、励振信号の周波数、誘電体基板の比誘電率、アンテナの形状及び寸法、給電点の位置等の条件を入力して演算処理を行った。具体的には、励振信号の周波数を60GHz、誘電体基板の比誘電率を2.17、誘電体厚を0.254mm、誘電正接(tanδ)を0にそれぞれ設定した。放射導体の形状は図3に示したように矩形とし、励振方向の長さHを共振周波数の実効波長の概ね3/2倍である4.79mm(1.43λgに相当)とし、励振方向に垂直な方向の長さWを、0.3mmから26.88mm(0.1から8λg)まで0.1λgずつ段階的に増加させ、それぞれの長さWについて天頂方向の利得を求めた。本発明者の実験によれば、式1でm=2の場合には、Hが1.5λgよりも若干短い1.43λgのときに、一実施形態におけるパッチアンテナが天頂方向において最大の利得を有する。
【0020】
図4において、横軸は放射電極の励振方向に垂直な方向の長さを表し、縦軸は演算で求められた天頂方向の利得の大きさをdB単位で表す。このグラフから、x軸方向の長さが共振周波数の実効波長の概ね1倍、2倍、3.125倍、4.125倍、5.25倍となるときに、天頂方向の利得がヌルになるか又は急激に減少していること、及び、それら以外の寸法において比較的高い利得が得られることがわかった。このシミュレーション結果から、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが共振周波数の1/2波長の概ね偶数倍になるときに天頂方向の利得が著しく小さくなり、逆に、1/2波長の概ね奇数倍になるときに天頂方向において高い利得が得られることが分かった。図4は、励振方向の長さHが共振周波数の概ね3/2倍であるときに得られた結果であるが、励振方向の長さHが共振周波数の3/2倍以外の奇数倍であっても、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さWと天頂方向の利得との関係について図4と同様の結果が得られると考えられる。これは、励振方向の長さHが長くなり高次モードの次数が上がっても、放射導体に現れる電流定在波の励振方向における繰り返し数が1波長分ずつ増加するのみで、励振方向に垂直な方向の長さと天頂方向の利得との関係に実質的に影響を与えないためである。
【0021】
図5は、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが0.5λg、1.5λg、2.5λg、3.5λgのそれぞれの場合におけるxz平面(図1参照)に平行な方向の放射特性を表し、図6は、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが4.5λg、5.5λgのそれぞれの場合におけるxz平面に平行な方向の放射特性を表す。図5及び図6のグラフは、先の例と同様に、Planar EMにおいて、励振信号の周波数を60GHz、誘電体基板の比誘電率を2.17、誘電体厚を0.254mm、誘電正接(tanδ)を0にそれぞれ設定し、放射導体の幅方向のサイズのみが異なる5種類のパッチアンテナについて、図1のxz平面に平行な方向の放射特性を演算処理することにより求めた。評価した6種類のパッチアンテナは、高さ方向の一辺の長さを1.43λgとし、幅方向の一辺の長さを0.5λg、1.5λg、2.5λg、3.5λg、4.5λg、及び5.5λgとした。なお、図5及び図6の放射特性は、Ansys社のHFSSを用いて算出することもできる。
【0022】
図5及び図6において、横軸の角度は、放射導体の表面に垂直な天頂方向(図1のz軸方向)に対する角度を表し、横軸における正の角度は、放射された電波がz軸からx軸の正の方向へ傾いていることを示す。縦軸は利得の大きさをdB単位で表す。図5のシミュレーション結果から、励振方向に垂直な方向の長さが0.5λg、1.5λg、2.5λg、3.5λgの場合に、天頂方向(θ=0°)に利得のピークが現れていることがわかる。これとは逆に、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが4.5λg、5.5λgの場合には、天頂方向よりも約20°ずつx軸の正及び負方向に傾いた位置に利得のピークがあることがわかる。このように、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが共振周波数の1/2波長の奇数倍であっても、x軸方向の長さが共振周波数の1/2波長の9倍以上では利得のピークが天頂方向からシフトすることが分かった。これは、放射導体のx軸方向の長さが長くなるにつれて、励振方向の電流定在波が現れにくくなるためと考えられる。以上より、本発明の一実施形態における放射導体の励振方向に垂直な方向の長さを、共振周波数の1/2波長の9倍より小さい範囲で共振周波数の1/2波長の奇数倍としたとき(つまり、共振周波数の1/2波長の1倍、3倍、5倍、7倍としたとき)に、当該放射導体からの電波の放射特性が天頂方向にピークを有することが分かった。
【0023】
図7は、本発明の一実施形態に係るパッチアンテナの放射特性を従来のパッチアンテナの放射特性と比較して示す。図7のグラフは、先の例と同様に、Planar EMにおいて、励振信号の周波数を60GHz、誘電体基板の比誘電率を2.17、誘電体厚を0.254mm、誘電正接(tanδ)を0にそれぞれ設定し、実施例1、実施例2、及び比較例1のパッチアンテナのそれぞれについて、図1のxz平面に平行な方向の放射特性を演算処理することにより求めた。なお、図7の放射特性は、Ansys社のHFSSを用いて算出することもできる。実施例1のパッチアンテナは、幅方向の一辺の長さを5.33mm(1.59λgに相当)、高さ方向の一辺の長さを1.51mm(0.45λgに相当)とし、給電点を幅方向の一辺の下辺から0.16mmの位置に配置して構成した。実施例2のパッチアンテナは、幅方向の一辺の長さを15.1mm(4.49λgに相当)、高さ方向の一辺の長さを8.1mm(2.41λgに相当)とし、給電点を幅方向の一辺の下辺から1.68mmの位置に配置して構成した。比較例1のパッチアンテナは、幅方向及び高さ方向の一辺の長さをいずれも4.82mm(1.43λg)とし、給電点を幅方向の一辺の下辺から1.21mmの位置に配置して構成した。いずれのパッチアンテナにおいても、給電点は、励振方向と垂直な方向の一辺の垂直二等分線上に設けた。
【0024】
図7において、横軸の角度は、放射導体の表面に垂直な天頂方向(図1のz軸方向)に対する角度を表し、横軸における正の角度は、放射された電波が、z軸からx軸の正の方向へ傾いていることを示す。縦軸は利得の大きさをdB単位で表す。図7のグラフから、実施例1及び実施例2のパッチアンテナは、天頂方向(θ=0°)において、比較例1のパッチアンテナよりも高い利得を有することが分かった。このように、実施例1及び実施例2の指向性特性は、複数のパッチアンテナをアレイ化した場合の指向性特性(当業者に自明であるため図示省略)と同様に、天頂方向において放射電波が強め合う放射特性を有する。
【0025】
図示のとおり、実施例1及び実施例2のパッチアンテナの天頂方向における利得は、比較例1のパッチアンテナの天頂方向における利得よりも大きくなっている。従来の正方形のパッチアンテナにおいては、放射導体の面積が大きくなるほど天頂方向における利得が大きくなるので、比較例1のパッチアンテナは基本モードで共振する従来の正方形の放射導体(縦方向及び幅方向ともに0.5λg)を有するパッチアンテナよりも、天頂方向における利得が大きい。実施例1のパッチアンテナは、式1、式2においてm=1、n=2とした場合に相当するから、本発明の実施形態に係るパッチアンテナにおいて最も面積が小さい例である。本発明の実施形態に係るパッチアンテナは、式1及び式2の条件を満たしnが4以下である限り、放射導体の面積が大きくなるほど電波放射源が増えて天頂方向における利得も大きくなる。本発明の各実施形態に係るパッチアンテナの面積は実施例1のパッチアンテナの面積と同じかそれ以上であるため、本発明の各実施形態に係るパッチアンテナは、少なくとも従来の基本モードで共振する正方形のパッチアンテナよりも天頂方向における利得が向上することが分かる。
【0026】
方形のパッチアンテナの寸法と天頂方向における利得に関しては、従来、次のように理解されていた。すなわち、放射導体の励振方向(図1ではy軸方向)の長さを励振信号周波数の1/2波長の奇数倍とすると、放射導体に基本モード又は高次モードの電流定在波が生じ、天頂方向においてこの高次モードの次数に応じた利得が得られることが知られている(例えば、特許文献1の第[0089]段落参照)。これに対し、励振方向に垂直な方向(図1ではx軸方向)の寸法と天頂方向の利得との関係については、これまで十分な研究が行われていなかった。本発明者は、方形の放射導体を用いて直線偏波を放射するパッチアンテナにおいて、その励振方向に垂直な方向の寸法が天頂方向の利得に与える影響について検討を行い、垂直方向の寸法がこの垂直方向の寸法が共振周波数の1/2波長の偶数倍になる場合に天頂方向の利得がヌルになり、逆に、垂直方向の寸法がこれ以外の寸法、特に共振周波数の1/2波長の奇数倍になる場合には、放射される直線偏波が天頂方向において強め合うことを発見した。
【0027】
従来、方形のパッチアンテナにおいて、放射導体の励振方向に垂直な方向の寸法は、主に比帯域等の帯域特性と関連して検討されてきた(例えば、特開2002−314325号公報の第[0012]段落)。一方、上述のように、励振方向に垂直な方向の寸法が天頂方向の利得に対して与える影響についての研究例は少なく、本発明者が知る限り、励振方向に垂直な方向の長さを長くするほど天頂方向の利得が増加することを説明する文献が存在するのみである。例えば、特許文献1の第[0087]段落には、垂直方向の長さを長くするほど天頂方向における利得が増加することが示唆されている。しかし、本発明者が得た知見はこれとは異なる。すなわち、本発明者は、放射導体の垂直方向の長さが長くなっても励振方向における共振周波数の1/2波長の偶数倍においては天頂方向にヌル又は利得の著しい減少が生じ、高い利得が得られるとは限らないという事象を発見した。本発明者はさらに、放射導体の励振方向に垂直な方向の長さが、共振周波数の1/2波長の9倍より小さい範囲において共振周波数の1/2波長の奇数倍となるときに、当該放射導体の天頂方向において放射電波が強め合い、天頂方向における高い利得が実現されることを確認した。そして、本発明者は、これらの知見に基づいて、天頂方向において放射電波が強め合う放射導体の寸法を定めた。すなわち、本発明の様々な実施形態における矩形の放射導体の寸法を、mとnを互いに異なる任意の正の整数として、その励振方向に平行な一辺の長さがほぼ0.5(2m−1)λgとなり、前記一辺に垂直な他辺の長さがほぼ0.5(2n−1)λgとなるように定めた。ただし、上述のように、nを4以下とし、励振方向に垂直な方向の長さを共振周波数の1/2波長の9倍より小さい範囲とすることが望ましい。一方、励振方向の長さは励振信号の実効波長の奇数倍でありさえすれば、基本モード又は高次モードの共振が発生するので、mはnと異なる任意の正の整数であればよい。
【0028】
本発明のパッチアンテナは、様々な電子機器のアンテナとして用いることができる。例えば、無線LAN等の通信機器のアンテナとして本発明の実施形態に係るパッチアンテナを利用することができる。
【0029】
本発明の実施形態は、以上明示的に述べた態様に限られず、様々な変更を行うことができる。例えば、放射導体、誘電体基板、地導体、ビア電極の材料、寸法、形成方法は、本明細書にて例を挙げて説明したものに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々な材料、寸法、形成方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 パッチアンテナ
11 誘電体基板
12 放射導体
13 地導体
14 給電点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の表面に設けられた地導体と、
前記誘電体基板の他方の表面に設けられた矩形の放射導体と、
前記放射導体と電気的に接続され、前記放射導体に励振信号を供給する給電点と、を備え、
前記放射導体の一辺の長さがほぼ0.5(2m−1)λgであり、前記放射導体の前記一辺に垂直な他辺の長さがほぼ0.5(2n−1)λgであるパッチアンテナ。
ただし、λgは前記励振信号の周波数の実効波長、mは任意の正の整数、nはmと異なる4以下の任意の正の整数である。
【請求項2】
前記給電点が前記他辺の垂直二等分線上に配置された請求項1に記載のパッチアンテナ。
【請求項3】
前記給電点は、前記放射導体における唯一の給電点として構成される請求項1又は2に記載のパッチアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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