説明

パニック発作を治療するためのシステム及び方法

パニック発作を軽減するためのシステム及び方法を提供する。そのような方法は、患者に薬物を、薬物が皮膚表面下にデポー(22)を形成するように送達するステップ(薬物は、薬学的に有効な量が患者の全身循環に送達されればパニック発作を軽減するのに適切である);及び患者がパニック発作の発症を経験したら皮膚表面に熱(28)を印加し、それによって薬学的に有効な量の薬物を迅速にデポーから全身循環に流入させるステップを含みうる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、パニック発作をその発症時に軽減又は中断するためのシステム及び方法に関する。本発明はまた、パニック発作の発症時又はその直後に患者の全身循環に増加させた用量の薬物を迅速送達して現在進行中のパニック発作を軽減するだけでなく、ベースライン濃度の薬物を送達してパニック発作の予防も提供するシステム及び方法にも関する。
発明の背景
数百万人の人がパニック発作(パニック障害)に苦しんでいる。パニック障害を患う人の中には心臓発作又は異常感覚のような症状を経験する人もいる。その他の症状としては、心悸亢進、胸痛又は胸部不快感、発汗、振戦、刺痛感(tingling sensations)、窒息感、死の恐怖、理性喪失の恐怖、及び現実離れ感などが挙げられる。パニック障害は、安心感の喪失を招きやすい開放及び/又は閉鎖空間、人混み、見知らぬ場所、及び孤独に対する恐怖である広場恐怖症に伴って起こることが多い。
【0002】
典型的なパニック発作は、通常約10分以内にピークに達する劇的及び急性症状を有するが、数時間持続することもある。症状は患者に医学的症状として知覚されうるもので、しばしば強度の自律神経放電(autonomic discharge)、例えば、動悸、胸痛、振戦、窒息、腹痛、発汗、めまい、統合困難、混乱、恐怖、切迫した破滅感又は恐怖感などを特徴とする。発作は、人混み、閉鎖空間などのような引き金になるイベントによって開始されうる。パニック発作は稀なことも1日数回起こることもある。
【0003】
現在の療法は、進行中の発作を軽減又は中断するというより、パニック発作の発生を予防するための薬物使用が中心である。そのような療法は様々なタイプの薬物の使用を含む。例えば、ロラゼパム、プラゼパム、フルラゼパム、クロナゼパム、トリアゾラム、クロルジアゼポキシド、ハラゼパム、テマゼパム、オキサゼパム、クロラゼパート、ジアゼパム、及びアルプラゾラムなどのベンゾジアゼピン;セレギリン、イソカルボキサジド、フェネルジン及びトラニルシプロミンのようなモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO);パロキセチン、フルオキセチン、及びセルトラリンのような選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI);クロミプラミン、ノルトリプチリン、アミトリプチリン、イミプラミン、及びデシプラミンのような三環系抗うつ薬;並びにベンラファキシン及びネファキサドンのようなその他の抗うつ薬などである。これらの薬物は、パニック発作の発生の削減に効果的であるが、いずれもパニック発作を完全にそして安全に予防するのに有効であるとは示されていない。試みられた一つのアプローチは、前述の薬物のいくつかを高用量で使用することであった。高用量の薬物送達はパニック発作の予防に有効でありうるが、薬物の用量は通常それらの有害副作用のために制限されている。例えば、高すぎる用量のベンゾジアゼピンは、重度の眠気及び心臓血管系に関連する合併症を起こしかねない。従って、高用量の進行中投与によるより効果的な予防法は通常実用的でない。
【0004】
パニック発作を完全に予防できる薬物は現在入手できない上にパニック発作は患者の生活に非常に破壊的影響を与えるものなので、パニック発作を患う患者に、発作発症時に緩和を提供するために投与できる方法又は薬物が提供できれば望ましいであろう。
発明の要旨
時たま若しくは頻繁なパニック発作に苦しむ患者にとって、発作を発症時に軽減又は中断するシステム及び方法があれば有益であろうことは認識されている。また、パニック発作の発生を削減するのも有益であろう。
【0005】
こうした認識に従って、ベンゾジアゼピンを使用して患者の皮膚表面又は皮膚表面下に適用できる製剤を製造する。製剤は皮膚表面下にベンゾジアゼピンのデポーを形成する。デポーが形成されたら、パニック発作発症時に熱又は制御熱を皮膚表面に印加することによってベンゾジアゼピンをデポーから全身循環に流入させ、それによってパニック発作を軽減する。
【0006】
別の態様において、製剤中のベンゾジアゼピンのデポーは患者の全身循環内にベースライン濃度のベンゾジアゼピンを生じ、それによってパニック発作の発生を削減する。
別の態様において、パニック発作軽減のためのシステムは、ベンゾジアゼピン送達装置と加熱装置を含みうる。ベンゾジアゼピン送達装置は、患者の皮膚表面下にベンゾジアゼピンのデポーを形成するように構成することができる。ベンゾジアゼピンは、薬学的に有効な量が患者の全身循環に送達された場合、パニック発作の軽減に適切である。加熱装置は、パニック発作発症時に皮膚表面に熱を印加するように構成することができ、それによって薬学的に有効な量のベンゾジアゼピンをデポーから全身循環に流入させる。
【0007】
さらに別の態様において、パニック発作をその発症時に軽減するだけでなくパニック発作の発生を削減するためのシステムは、ベンゾジアゼピン送達装置と加熱装置を含みうる。ベンゾジアゼピン送達装置は、患者の全身循環内にベースライン濃度のベンゾジアゼピンを生じるように、そして要求あり次第全身循環に送達可能なベンゾジアゼピンのデポーを患者の皮膚表面下に形成し、熱の印加によって患者に増加したベンゾジアゼピン濃度を迅速にもたらすように構成することができる。ベンゾジアゼピンは、ベースライン濃度で送達されている場合、パニック発作の発生を削減するのに適切であり得、またデポーから追加用量の薬物が全身循環に送達された場合、パニック発作の発症時の症状を軽減するのにも適切であり得る。加熱装置は、パニック発作の発症時に熱を、例えば制御熱(controlled heat)の形態で皮膚表面に印加するように構成することができる。
【0008】
本発明の追加の特徴及び利点は、本発明の特徴を例証している以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
好適な態様の詳細な説明
本発明を開示し説明する前に、本発明は、本明細書中に開示されている特定のプロセスステップや材料に限定されないことは当然理解されるはずである。なぜならば、そのようなプロセスステップや材料は多少の変動がありうるからである。また当然のことながら、本明細書中で使用されている専門用語は、特別の態様を説明するためだけに使用されている。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ制限されることを意図しており、用語に制限的意味はない。
【0009】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている単数形の“a”、“an”、及び“the”は、内容が明らかにそうでない場合を示していない限り、指示されている語の複数形も含む。
【0010】
“ベースライン(baseline)”及び“ベースライン濃度(baseline level)”という用語は、患者の全身循環への比較的一定した濃度の薬物送達を意味する。特定の薬物のベースライン濃度は、薬物、送達システム及び/又は個々の患者によって異なりうる。
【0011】
“デポー(depot)”という用語は、皮膚表面下の薬物の集積を意味する。デポーは、注射又は埋込み、又は経皮送達によって形成できる。経皮送達の場合、薬物は皮膚の外防壁、すなわち角質層を越えて浸透し、生活可能な(viable)表皮及び真皮層に到達する。多くの薬物の場合、薬物の一部はその後毛細血管に吸収されて全身循環に入るが、薬物の別の部分は皮膚表面に近い組織に蓄えられてデポーを形成する。十分な適用時間の後、経皮送達システムは比較的定常的な薬物輸送状態に到達できる。すなわち薬物がデポーに入る速度と薬物がデポーを出る速度がほぼ等しくなることを意味する。この時点でデポーは十分に満たされた又は十分に形成されたと言われる。デポーは、薬物を受け取り全身循環に引き渡す薬物の貯蔵所(レザバー)として働く。熱をデポー直上の皮膚表面に印加すると、デポーを通過する及びデポー周囲の血液循環が劇的に増加する。従って、ほぼ直ちにデポーからの薬物は全身循環に送達される。この薬物のボーラス投与は経皮浸透プロセスを含まないので、追加用量の薬物は、典型的な経皮プロセスの場合よりもずっと速く、そして静脈注射の場合とほぼ同じくらいの速度で全身循環に送達される。デポーの規模は、送達速度及び薬物分子の性質、例えばその親油性に応じて変動しうる。所定の薬物の場合、経皮送達システムは、十分な量の薬物を送達して有用なデポーを形成するように構成される。この技術によって、パニック発作を軽減するための薬学的に有効な量の薬物が迅速に全身循環に送達できる。
【0012】
“レザバーパッチ(reservoir patch)”は、典型的には4層を含む経皮送達システムのことである。4層は、機械的支持を提供する不透過性裏打ちフィルム;薬物の溶液、ゲル、又は懸濁液を含有する液体コンパートメント;半透膜;及び皮膚表面に接触し接着する接着層を含む。
【0013】
これに対し、“単層の接着剤中薬物パッチ(single-layer drug-in-adhesive patch)”は、マトリックスパッチのタイプであるが、皮膚に接触する接着剤中に直接薬物を含む。この製剤における接着剤は二つの機能を果たすことができる。第一はシステムを皮膚に貼付することであり、第二は裏打ちフィルム下で薬物及び任意のその他の成分又は賦形剤を含有する基盤としての役割である。
【0014】
別のタイプのパッチは、“半固体パッチ(semisolid patch)”又は“ゲルパッチ(gel patch)”である。このタイプのパッチは、薬物懸濁液を含有する半固体相又はヒドロゲルを含む。薬物を含有する半固体相又はヒドロゲルは通常皮膚に直接接触する。皮膚接着成分は、薬物懸濁液又はヒドロゲル自体に配合されていてもよいし、薬物含有半固体相又はヒドロゲルの周囲に集中的又は外周的配置で存在していてもよい。一態様においてゲルパッチはゲル化エマルジョンを保持でき、別の態様においてゲルパッチはゲル化マイクロエマルジョンを保持できる。
【0015】
“制御加熱(controlled heating)”及び“制御熱(controlled geat)”という用語は、皮膚表面を予め決められた狭い温度範囲に予め決められた時間加熱することが可能な熱の印加と定義される。
【0016】
“マイクロエマルジョン”という用語は、水、油、及び界面活性剤(一つ又は複数)の系で、ある重量比で混合された場合、典型的には透明な又はさもなければ透き通った熱力学的に安定な液体を形成する系と定義できる。典型的にはマイクロエマルジョンは、油滴が可視光線の波長、例えば約400nm〜約800nmより小さいので透明である。一態様において、マイクロエマルジョンはゲル化され、薬物送達マトリックスパッチ、レザバーパッチ、又はゲルパッチに入れることができる。ゲル化されない場合、マイクロエマルジョンはレザバーパッチに入れることができる。
【0017】
“エマルジョン”という用語は、連続相及び不連続相を含む系と定義できる。典型的には分散された液滴(不連続相)が別の液体(連続相)中に存在しうる。乳化剤は存在していてもしていなくてもよい。乳化系の稠度は、比較的低粘度系、例えばローションからより半固体系、例えばクリームまで様々であり得る。これらのエマルジョンは、薬物送達マトリックスパッチ、レザバーパッチ、又はゲルパッチに入れることができる。
【0018】
一部の公知薬物はパニック発作の発症の軽減だけでなく中断にも効果的であり得るが、パニック発作発症の予測不能性及び短い持続時間のために、パニック発作を予防又は中断するに足る早い段階で患者に有効な薬物を投与することが困難である。薬物を迅速に患者の血液循環に送達する一つの方法は静脈注射である。しかしながら、パニック発作は通常予測できないときに発生し、また患者が自己静脈(IV)注射をするのが難しいので、IV投与法はパニック発作の発症を治療するのに実用的でない。反対に、パニック発作の発症を予防するために経口投与された薬物も、全身循環に入るのに時間がかかりすぎるので(例えば典型的には30分よりも多くかかる)、実用的でなかろう。パニック発作の発症は典型的には10分未満で起こるので、経口薬物も理想的でない。
【0019】
そこで本発明はパニック発作を軽減し、及び/又はその発生を削減するシステム及び方法に関する。これに従って、パニック発作を軽減するための方法は、薬物を患者に、薬物が皮膚表面下にデポーを形成するように送達するステップを含みうる。ここで、薬物は、薬学的に有効な量が患者の全身循環に送達されれば、パニック発作を軽減するのに適切である。デポーが形成されたら、患者がパニック発作の発症を経験したときに皮膚表面に熱を印加するステップを実施でき、それによって薬学的に有効な追加用量の薬物をデポーから全身循環に流入させる。
【0020】
別の態様において、パニック発作をその発症時に軽減するだけでなくパニック発作の発生を削減するための方法は、薬物をパニック発作の病歴を有する患者に、薬物が患者の全身循環内にベースライン濃度の薬物を生じ、熱の印加によって全身循環に送達可能な薬物のデポーを患者の皮膚表面下に形成するように送達するステップを含みうる。薬物はベースライン濃度で送達されている場合、パニック発作の発生を削減するのに適切であると言え、またデポーから追加用量の薬物が全身循環に送達された場合、パニック発作の発症時の症状を軽減するのにも適切であると言える。パニック発作の症状を経験したら皮膚表面に熱を印加するステップが患者によって実施され、パニック発作の発症を治療することができる。
【0021】
別の態様において、パニック発作を軽減するためのシステムは、薬物送達装置と加熱装置を含みうる。薬物送達装置は、患者の皮膚表面下に薬物のデポーを形成するように構成することができる。薬物は、薬学的に有効な量が患者の全身循環に、発作の発症に気づいた直後、すなわち5〜10分以内に送達されれば、パニック発作を軽減するのに適切でありうる。加熱装置は、制御熱のような熱をパニック発作の発症時に皮膚表面に印加するように構成することができ、それによって薬学的に有効な量の薬物をデポーから全身循環に流入させる。
【0022】
さらに別の態様において、パニック発作をその発症時に軽減するだけでなくパニック発作の発生を削減するためのシステムは、薬物送達装置と加熱装置を含みうる。薬物送達装置は、患者の全身循環内にベースライン濃度の薬物を生じ、熱の印加によって全身循環に送達可能な薬物のデポーを患者の皮膚表面下に形成するように構成することができる。薬物はベースライン濃度で送達されている場合、パニック発作の発生を削減するのに適切であり得、またデポーから追加用量が全身循環に送達された場合、パニック発作の発症時の症状を軽減するのにも適切であり得る。加熱装置は、パニック発作の発症時に皮膚表面に制御熱を印加するように構成することができる。
【0023】
次に、これらの態様に従ってあるシステムを例示するために図1を参照する。図1は、不透過性裏打ち10、速度制限膜12、ベンゾジアゼピン薬物溶液のレザバー14、及び透過性接着層16を有するレザバー式経皮送達システムを図式的に描いている。透過性接着層16は、速度制限膜と皮膚18との間の連続相として組み込まれてもよいし、膜の周囲に集中的又は外周的に配置されてもよい。装置は皮膚18に接着され、ベンゾジアゼピンは、速度制限膜と接着層を通り、皮膚表面を通って輸送され、次にその一部は経路24に沿って毛細血管経由で全身循環に入る。一方、別の部分は皮膚表面付近の組織に留まって薬物デポー22を形成する。図示されていないが、本発明の態様に従って、その下にデポーが存在する皮膚表面に熱を印加し、全身循環に送達されるベンゾジアゼピンの濃度を増加させることができる。
【0024】
図2は図1に記載したのと類似のシステムを描いているが、薬物送達システムがレザバーパッチではなくマトリックスパッチである。具体的に、図2は、不透過性裏打ち10とベンゾジアゼピン薬物溶液及び接着剤のマトリックス26を有するマトリックス式経皮送達システムを図式的に描いている。本態様において、ベンゾジアゼピン含有マトリックスは皮膚18に直接接着され、ベンゾジアゼピンは第一の送達経路20に沿って皮膚表面を通って輸送され、それによって皮膚表面の下、例えば表皮、真皮、及び/又は皮下層内に薬物デポー22を形成する。薬物の一部は全身循環に直接入り、一部はデポーを形成するが、いずれも皮膚の同じ部分を透過する。該態様におけるベンゾジアゼピン送達の増加は本発明の態様に従って熱27の印加によって提供される。
【0025】
図3は図2に記載したのと類似のシステムを描いているが、薬物送達システムがマトリックスパッチではなくゲルパッチである。従って、接着はマトリックス全体にわたる接着剤ではなく外周接着剤によって提供できる。さらに、ベンゾジアゼピン薬は好ましくはエマルジョン又はマイクロエマルジョンの不連続な油相中に位置し、連続水性相は半固体又はゲルの形態である。より具体的には、図3は、不透過性裏打ち10、ベンゾジアゼピン薬のマイクロエマルジョン又はエマルジョンのゲル28、及び接着層16を有するゲルパッチ式経皮送達システムを図式的に描いている。接着層16は、皮膚と不透過性裏打ちとの接触点にゲルを囲んで集中的又は外周的に配置されている。装置は皮膚18に接着され、ベンゾジアゼピンは皮膚表面を通って輸送され、そこで一部は毛細血管経由で全身循環に入り、別の部分は皮膚表面付近の組織に留まって薬物デポー22を形成する。図示されていないが、本発明の態様に従って、その下にデポーが存在する皮膚表面に熱を印加し、全身循環に送達されるベンゾジアゼピンの濃度を増加させることができる。
【0026】
パニック発作をその発症時に軽減するだけでなくパニック発作の発生を削減するためのシステム及び方法に関し、全身循環中のベースライン濃度の薬物はパニック発作の発生率を低下させるが、そのような濃度ではパニック発作の全ての症状発現を予防できそうにない。そこで皮膚表面下の薬物又は薬物デポーの存在が、ほぼ直ちに全身循環に入る準備を整えた状態にあればよい。
【0027】
一態様を説明するために、薬物のデポーを皮下に送達する経皮パッチを考えることができる。経皮パッチを装着している患者がパニック発作の発症を感じたら、患者は制御加熱装置をデポー上の皮膚、例えば薬物パッチの上又は上方に置いて皮膚を加熱することができる。皮膚温度の上昇は、デポー中及びデポー周辺の血液循環に劇的な増加を起こすことができる。次に増加した循環は、デポー中の薬物を全身循環に迅速に“どっと放出”させることができるので、血流中の薬物濃度は急激に上昇する。血流中の増加した薬物濃度は、次に脳の作用部位における薬物濃度を急速に増加できるので、パニック発作が軽減又は中断できる。デポーのドサッと放出による血液循環中の薬物濃度の増加の規模及び速度は、パニック発作を発症時又は発症間近に軽減するのに有効であり得る。
【0028】
別の態様において、薬物デポーは経皮送達による以外の方法で提供することもできる。例えば、デポーは皮膚表面下への薬物の注射又は埋込みによって形成することができる。一態様において、制御又は持続放出機構を含むインプラントを形成することができる。一態様において、インプラントは熱の印加で薬物を全身的に送達するデポーを形成できる。別の態様において、薬物はデポーからベースライン濃度で送達でき、該濃度は熱の印加によって迅速に増加させることができる。ベースライン濃度の薬物の持続放出は、数日間、数週間、又はさらには数ヶ月間にわたって送達されうる。被験者又は患者がパニック発作の発症を感じたら、被験者は制御加熱装置をデポー周辺の皮膚領域上又はデポーに接触させて適用することができる。記載したように、熱は製剤から全身循環への薬物の放出速度を、製剤周辺の体液循環を増加させることによって及び/又は製剤の性質を変化させることによって(製剤の放出機構が感温性に設計されている場合、例えば感熱性サーモゲル)、非常に増加させることができる。
制御加熱
本発明のシステム及び方法に従って使用できる制御加熱装置は、活性化されたら速やかに発熱するように構成することができる。迅速な発熱は、パニック発作に対して早期に影響を行使できるほどの速さで全身循環への薬物送達を増加させるのを促進することができる。一態様において、加熱装置は、体温よりは高いが不可逆的皮膚損傷、すなわち熱傷を起こすような温度よりは低い温度の熱を提供できる。使用のために実行できる例示的温度範囲は約37℃〜約47℃である。約47℃より高すぎる温度は皮膚に損傷を与えかねず、37℃よりずっと低い温度は十分な治療的効果をもたらせない。一態様において、より好適な温度範囲は約40℃〜43℃であろう。
【0029】
加熱時間は特定の必要性によって決定できる。望ましくないほど長時間の加熱は、迅速送達のために追加の効果に至らなかったり、薬物の浪費と過剰投与関連の有害副作用をもたらしたりしかねない。一方、短すぎる加熱時間は、デポーから全身循環への薬物の適切な放出に至らず、従ってパニック発作の治療に効果的でないこともある。一態様において印加時間は1〜30分間、さらに特定の態様においては5〜15分間であろう。いずれの態様においてもパニック発作の発症の5又は10分以内の加熱に利点がある。
【0030】
本発明の態様に従って使用される制御加熱装置は、いくつかの機構の一つによって熱を発生及び提供できる。一つの機構はある種の金属、例えば鉄の酸化による発熱が関与する。そのような機構は、制御加熱装置内の成分、例えば鉄と周囲空気中の酸素間の酸化反応によって発熱するように構成することができる。本態様による加熱装置は以下の実施例9及び10にさらに十分に記載されている。米国特許出願公開第09/878,558号(引用によってその全体を本明細書に援用する)にもそのような加熱装置が記載されている。その他の加熱機構、例えば電熱、相転移による加熱(例えば酢酸ナトリウム溶液の相転移)、赤外線加熱、及びマイクロ波加熱も使用できる。
パニック障害治療のための有効成分及び製剤
本発明の別の側面は、ベンゾジアゼピン及びその他の薬物を経皮送達するための活性成分又はパニック発作をその発症時に軽減及び/又はパニック発作の発生回数を削減できる活性成分に関する。
【0031】
ベンゾジアゼピンはパニック発作の治療に広く使用されているクラスの薬物であるが、一般的に経口投与されており、パニック発作の発症の軽減に特に成功しているとは言えない。しかしながら、そのような薬物の一つ以上がパニック発作の発症時に迅速に全身循環に送達されていれば、パニック発作の発症は軽減又は中断できるであろう。この目的のために使用される典型的なベンゾジアゼピンは、アルプラゾラム、ロラゼパム、クロナゼパム、ジアゼパム、及びミダゾラムなどであるが、その他のベンゾジアゼピンも有効であり得る。記載したように、これらの薬物を使用して、例えば経皮送達、注射、又は埋込みによって皮膚表面下にデポーを形成させることができる。
【0032】
記載のように、“流束(flux)”は、単位面積及び単位時間あたり皮膚を透過する薬物の量と定義できる。例えば、ポリイソブチレン(PIB)膠剤は経皮薬物送達用のパッチに使用されている一般的な成分であり、PIB膠剤ベースのパッチは、多くのその他の薬物に対して満足のいく経皮流束を生み出している。しかしながら、PIB製剤中のアルプラゾラムは極めて低い経皮流束しか生じなかった。そのように経皮流束が乏しい一つの理由は低溶解度のためであり得る。アルプラゾラムは、水及び一部の溶媒ベースの感圧接着剤に極めて低い溶解度しか持たず、これが水ベース及びPIBベースの経皮アルプラゾラム製剤もそのように低い流束しか生じない理由を少なくとも一部説明している。
【0033】
実験を通して、アルプラゾラムは下記液体中で水より少なくとも5倍高い溶解度を有することが分かった。すなわち、オイゲノール(丁子油)、ローズ油、n−メチル−ピロリドン、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、オレイルアルコール、シトロネラ油、及びイソプロピルアルコール、ラブラソール(Labrasol)、ウィンターグリーン油、オクチルドデカノール、オレイン酸エチル、月見草油、及びオレンジ油である。さらに、下記液体は水より少なくとも20倍高い溶解度を提供した。すなわち、ウィンターグリーン油、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、エタノール、シトロネラ油、ローズ油、ユージノール、n−メチルピロリドン、イソプロピルアルコールである。なおさらに、下記液体は水より100倍以上高い溶解度を提供した。すなわち、エタノール、シトロネラ油、ローズ油、n−メチルピロリドン、及びイソプロピルアルコールである。上記可溶化剤はアルプラゾラムに特異的であることは強調しなければならない。従って、このリストはこの特定の薬物に対して適用可能である。こう記載したが、好ましい可溶化特性を有するとしてリストアップした可溶化剤の中には、本発明の態様によるその他の親油性薬物ともうまく働くのもあることは当業者であれば容易に確認できる通りである。どの組成物が皮膚送達装置に使用するためのこれら及びその他の同様の可溶性薬物を可溶化するのに使用できるかを知るのは有用なことであるが、液体製剤を皮膚に直接塗布することは、皮膚送達装置のような一部の装置には非実用的であろう。これは、皮膚との接触領域があまり明確化されていないことによって起こりうる薬物送達量の変動が発生しやすいためである。さらに、液体製剤は、衣服のような外的物体によって皮膚から払拭されやすい。
【0034】
この問題に対する一つの解決策は、活性成分又は薬物を上記可溶化液体の一つに可溶化し、次いで可溶化された薬物を経皮送達のためにゲルの形態に含めることである。しかしながら、アルプラゾラムを可溶化できるとしてリストした液体はゲル化できる物質であるとは知られていない。別のアプローチは、溶媒に可溶化された活性成分を含む液体製剤をレザバーパッチの構成に組み込むことであろう。典型的なレザバーパッチでは、薬物製剤は薄いコンパートメントに保持され、コンパートメントの片側は薬物に対して透過性の速度制限膜を含む。速度制限膜は通常、薬物を通過させ、そして皮膚に接触する接着剤によって皮膚に接着されている。換言すれば、薬物は皮膚に到達する前に速度制限膜と接着層を透過しなければならない。しかしながら、アルプラゾラム製剤のある種の可溶化液体は接着層と著しく相互作用しかねないので、このアプローチを実用困難なものにしている。さらに、製剤成分、すなわち可溶化液体と接着層との間の不適合性はその他の製剤でも問題になりうる。一般的に、有効であるために、レザバーパッチの接着層は、製剤中の薬物に対して透過性があり、また製品の貯蔵寿命を通して製剤の成分と適合性がなくてはならない。
【0035】
経皮送達によるベンゾジアゼピン投与の提供に有効であることが見出された製剤はエマルジョンの使用を含む。第一の態様では、ベンゾジアゼピンを可溶化できる液体源を選択して使用できる。液体源は一般的に水と非混和性の油である。ベンゾジアゼピンは油に少なくとも一部溶解して油相を形成できる。水性相のゲルを形成するのに使用できる少なくとも一つのゲル化剤を含む水性溶液も製造できる。次に油相と水性相を乳化できる。所望であれば適当な乳化剤を使用してもよい。乳化段階になったら、次にゲル化剤と相互作用する組成物を用いて水性相をゲル化できる。
【0036】
この製剤の特定の態様を例証するために下記の製造スキームを実施することができる。水性相は以下のようにして製造できる。(a)20wt%のポリビニルアルコール(PVA、ゲル化剤)を水に溶解し、(b)0.4%のPemulen TR2(アクリレート/C10−30アルキルアクリレートクロスポリマー、乳化剤、Noveon,Inc.、オハイオ州クリーブランド)を水に溶解する。この二つの水溶液を1:1の比率で完全に混合するまで混合する。油相は過剰量のアルプラゾラムをユージノールに溶解することによって製造できる。次に薬物が存在する油相を水性相に加え、撹拌してエマルジョンを形成させる。乳化剤は水性相に存在するが、同様に又は代替的に油相に含めてもよい。あるいは、乳化剤は油相と水性相を合わせるときにその中に混合してもよい。エマルジョンは、形成されたら、ホウ酸ナトリウムを染み込ませた繊維材料に流し込む。ホウ酸ナトリウムは流し込まれたエマルジョン層に浸透し、ポリビニルアルコールと架橋反応を起こすことによって水性相をゲル化する作用をする。エマルジョン製剤中では水性相は連続相で油相は不連続相なので、水性相のゲル化によって全製剤が凝固し軟固体の密着した層になる。この状態で、該組成物はベンゾジアゼピン活性剤の送達のために皮膚に適用できる。
【0037】
この製造法に従うと、一態様において、エマルジョンは架橋プロセスによって30分以内にゲル化できる。ひとたび油相と水性相が乳化され、水性相がゲル化されると、エマルジョンはゲル化された水性相の固体特性のために形成されたままの状態を保つ。従って、水性相を相分離が発生しうる前に十分ゲル化できるのであれば、乳化剤の使用は厳密には要求されない。相分離の鈍化は、水性相の粘度を粘度増加剤を加えて増加することによって補助することができる。乳化剤の使用要件を排除することによって、製剤のその他の成分の選択により大きい自由度が実現できる。さらに、エマルジョンの一つの凝固手段としてゲル化を記載したが、その他の技術、例えばポリビニルアルコールを用いる凍結融解サイクル、又は、例えばポリビニルピロリドン、2−メチル1−プロパンスルホン酸アクリルアミド、及びヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトンを用いる放射などが使用できる。
【0038】
水中油エマルジョンの水性相を、水性相のゲル化剤を使用することによってゲル化し、熱可逆性ゲルを形成することもできる。そのようなゲルは、加熱すれば液化し、冷却後は再凝固するように構成できる。例えば、カラゲニン(carrageenin)を水中でゲル化剤として使用すると、加熱すなわち60℃を超えると融解し、冷却されると凝固するゲルが製造できる。そのようなエマルジョン製剤の加熱又は融解形は液体であり得るので流延して薄層にすることができる。そのような層を冷却すると製剤を凝固できる。
【0039】
ゲル化製剤の粘着性を増大する薬剤を加えることもできる。これらの薬剤は、ポリビニルピロリドン、アクリルポリマー、及びそれらの誘導体などであるが、これらに限定されない。
【0040】
ベンゾジアゼピンの経皮送達のための別のタイプの実用的システムは、薬物をマイクロエマルジョン系に配合し、該マイクロエマルジョン系をレザバーパッチ構成に入れることである。マイクロエマルジョンは、水、油、及び界面活性剤の系で、混合されると単一の透明な等方性の熱力学的に安定な液体溶液を形成する系と定義される。成分の物理化学的性質によって、マイクロエマルジョンの形成は、広範囲の油−水−界面活性剤組成物にわたって出現しうる。
【0041】
マイクロエマルジョンを得るために通常満たされる条件は、低い油−水界面張力の生成;界面における高液体性界面活性剤膜の形成;及び油相分子と界面における界面活性剤膜との会合などである。マイクロエマルジョン製剤を使用する主な利点は、薬物を水又は油相に配合(薬物の親油性に応じて)することによって薬物活性を増大させる能力である。
【0042】
マイクロエマルジョン製剤を製造する際に使用されうる考慮事項は、様々な液体におけるベンゾジアゼピンの溶解度の判定、及び使用する適当な液体の選択である。許容可能な溶解度の液体は、マイクロエマルジョン製剤に包含できる成分として識別される。一態様において、選択された油及び/又は界面活性剤成分は、次にいくつかの異なる固定比で混合できる。次に、水(固定量の共界面活性剤を含んでいても含んでいなくても)を油/界面活性剤混合物に加え、マイクロエマルジョン相が形成されるまで穏やかに撹拌する。マイクロエマルジョン系には通常比較的大量の界面活性剤が使用されるので、そして界面活性剤はある種のゲル化剤の機能を妨害しうるので、マイクロエマルジョン製剤は典型的にはマトリックスパッチに容易にゲル化されない。このように記載したが、マイクロエマルジョンはレザバーパッチと同様にゲルパッチにおける使用から除外されない。
実施例
以下の実施例で現在最も良く知られている本発明の態様を説明する。しかしながら、以下は本発明の原理の適用の単なる例示又は実例に過ぎないことは理解されるべきである。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から離れることなく多数の変更及び代替の組成物、方法、及びシステムが考案可能である。添付の特許請求の範囲がそのような変更及びアレンジをカバーするものとする。従って、上で本発明を詳細に記載してきたが、以下の実施例で、現在本発明の最も実用的及び好適な態様とみなされていることに関してさらに詳細を提供する。
実施例1−皮膚透過の方法論
溶媒がアルプラゾラムの皮膚透過性に及ぼす影響を評価するために、様々な液体製剤中のアルプラゾラムのインビトロ皮膚流束を試験した。全ての液体製剤は溶液中に過剰のアルプラゾラムを含有していた。研究では無毛マウスの皮膚(HMS)をインビトロ試験に使用した。腹部から摘出したばかりの表皮をフランツ拡散セルの2個のセル間に注意深くマウントした。セルの受け器にはpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を満たした。実験は、HMSの角質層(SC)側に試験製剤を置くことによって開始した。フランツセルは37℃に維持されたフランツ拡散セルコンソール(Logan Instruments Corp.Model #:FDC−24)に入れた。予定の時間間隔で800μLの分量を抜き出し、新鮮なPBS溶液で置換した。時間に対するベンゾジアゼピンの累積透過量のプロットの定常勾配から皮膚流束(μg/cm2/h)を決定した。
【0043】
37℃に維持されたHMSを通過した試験製剤からのアルプラゾラムの定常流束を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から分かるように、アルプラゾラムを単に水溶液(PBS)又はPEG400に入れただけでは十分な流束からは程遠い製剤しか得られなかった(パニック障害を効果的に予防するには1日0.5mg〜7mgのアルプラゾラムを使用できると仮定)。アルプラゾラムに対して優れた溶媒特性を有するエタノールを使用すると、流束は著しく増加する。マイクロエマルジョン製剤も適当な流束を生じた。
実施例2−PVAヒドロゲルからのアルプラゾラムのインビトロ皮膚流束
過剰のアルプラゾラムを有するいくつかのポリビニルアルコールヒドロゲル製剤を以下のように製造した。
【0046】
製剤1
パートA:水中5wt%ユージノールエマルジョン、0.4wt% TR−2乳化剤、及び過剰量のアルプラゾラム。
【0047】
パートB:水中17wt%ポリビニルアルコール。
製剤1は、1重量部(one weight portion)のパートAと1重量部のパートBを激しく混合することによって得られた。
【0048】
製剤2
パートA:水中10wt%ユージノールエマルジョン、0.4wt% TR−2乳化剤、及び過剰量のアルプラゾラム。
【0049】
パートB:水中17wt%ポリビニルアルコール。
製剤2は、1重量部のパートAと1重量部のパートBを激しく混合することによって得られた。
【0050】
製剤3
パートA:34wt% IPM(ミリスチン酸イソプロピル)、24wt%エタノール、24wt%水、18wt% Tween 80、及び過剰量のアルプラゾラムのエマルジョン。
【0051】
パートB:水中17wt%ポリビニルアルコール。
製剤3は、1重量部のパートAと1重量部のパートBを激しく混合することによって得られた。
【0052】
製剤4
6wt% PVA、34wt%水、60wt% N−メチルピロリドン(NMP)、及び過剰量のアルプラゾラム。
【0053】
製剤5
13.5wt%ポリビニルアルコール、77.5wt%水、10wt% N−メチルピロリドン(NMP)、及び過剰量のアルプラゾラム。
【0054】
製剤6
28%ポリビニルアルコール、65%水、7%ローズ油、及び過剰アルプラゾラム。
6種類の粘稠溶液をそれぞれ、2wt%のホウ酸ナトリウム溶液1mLで予備処理した25cm2のDexter不織布材料片上で処理した。各場合とも溶液はおよそ30分以内に凝固ゲルを形成した。各ゲル化製剤を2cm2片にカットして角質層(SC)上に置き、実施例1に記載のように流束測定のために拡散セルにマウントした。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2から分かるように、製剤中にたとえ比較的少量でもユージノール又はローズ油が含まれていると、流束は著しく増加した。本実施例に記載の製剤は、マトリックスパッチ又はゲルパッチに配合するためにゲル化して薄層にすることができる。
実施例3−積層複合材からのアルプラゾラムのインビトロ皮膚流束
様々な量のアルプラゾラムと溶媒ベースのポリイソブチレン接着剤(Adhesive Research MA−31)を徹底的に混合して均一懸濁液を得た。この混合物の50ミクロン厚のフィルムを8パスアプリケータ(eight path applicator)で剥離裏紙(3M 1022)上に流延した。流延フィルムは一晩放置して有機溶媒(トルエン、酢酸ビニル、酢酸エチル、及びエタノール)を蒸発させた。翌日、裏打ちフィルム(3M CoTran 9720)を製剤上に置き、フィルムを2cm2切片に打抜いた。剥離裏紙を除去し、フィルムをHMSの切除角質層(SC)上に置き、実施例1に記載のように流束測定のために拡散セルにマウントした。これらの試験結果を以下の表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
この実施例から分かるように、PIB接着剤にアルプラゾラムを加えると不適当な流束しか得られない。
実施例4−様々な液体製剤からのロラゼパム製剤のインビトロ皮膚流束
ロラゼパム製剤を実施例1に記載のように製造し試験した。これらの製剤の詳細とインビトロ流束実験の結果を以下の表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
ロラゼパムの推定日用量は0.5〜4mg/日である。表4から分かるように、水性ベースの製剤は不十分な流束しか生じない。エタノールを加えてロラゼパムを可溶化すると皮膚流束が著しく増加する。マイクロエマルジョンも適当な流束を生じている。さらに、別の許容可能なロラゼパムの可溶化剤であるNMPをPEG400に加えたのも適当な皮膚流束を生じている。
実施例5−ポリビニルアルコールヒドロゲルからのロラゼパムのインビトロ皮膚流束
ロラゼパムポリビニルアルコール製剤を、5wt%のロラゼパムを水中15wt%ポリビニルアルコール溶液に加え、混合物を撹拌することによって製造した。溶液に蓋をして室温で24時間放置した。24時間後、サンプルをゲル化し、インビトロ流束を実施例2に概要を示したようにして測定した。これらの製剤の詳細とインビトロ流束実験の結果を以下の表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5に示された結果から、ロラゼパムはPVAゲル中では十分な流束を提供するに足る活性(溶解性)を持たないことが分かる。15wt%のポリビニルアルコール溶液からのロラゼパムのインビトロ流束は、表4のPBSからのロラゼパムのインビトロ流束と違わない。
実施例6−積層複合材からのロラゼパムのインビトロ皮膚流束
シリコーンPSAに分散させたロラゼパムを実施例3に概要を示したようにして製造した。BIO−PSA 7−4301(Dow Corning)は、シリコーンベースの感圧接着剤で、蒸発性溶媒としてヘプタンを含む。これらの製剤の詳細とインビトロ流束実験の結果を以下の表6に示す。
【0063】
【表6】

【0064】
結果は、シリコーンベースのPSAは十分なロラゼパム流束を生じないことを示している。
実施例7−液体製剤からのクロナゼパム製剤のインビトロ皮膚流束
クロナゼパム製剤を実施例1のように製造し試験した。これらの製剤の詳細とインビトロ流束実験の結果を以下の表7に示す。
【0065】
【表7】

【0066】
クロナゼパムの日用量は0.5〜4mg/日であろう。可溶化剤としてHPβCD及びNMP、並びに過飽和剤(PVP)を含有する水性ベースの製剤(製剤番号1〜3、及び6)からのクロナゼパム流束は十分な流束を持たない。PEGベースの製剤(製剤番号5)及びマイクロエマルジョン(製剤番号4)は十分な流束を生じた。
実施例8−積層複合材からのクロナゼパム製剤のインビトロ皮膚流束
シリコーンPSAに分散させたクロナゼパムを実施例3に概要を示したようにして製造した。BIO−PSA 7−4301(Dow Corning)はシリコーンベースの感圧接着剤で、蒸発性溶媒としてヘプタンを含む。クロナゼパム製剤を実施例3のように製造し試験した。これらの製剤の詳細とインビトロ流束実験の結果を以下の表8に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
表8に掲載のいずれの製剤も十分なクロナゼパム流束を持たなかった。クロナゼパムを用いたこれらの接着剤中薬物製剤は、適切な流束を達成するために適当な可溶化剤、例えばNMPを含んでいなかった。
実施例9−典型的な鉄酸化型制御加熱装置(CHADD)
図4に一般的に示されているCHADD制御加熱装置を製造した。これは、皮膚温度を約37℃〜47℃の範囲に約15分間上げるための制御熱を提供できる薄型フレキシブルのパッチである。CHADD加熱パッチは発熱媒体を有する加熱ポッド(heating pod)30を含有していた。この場合、発熱媒体は、発熱性の鉄酸化反応が可能な粉末充填パウチ組成物を含んでいた。加熱ポッドは2枚の空気不透過性フィルム、すなわちトップカバーフィルム32とボトムカバーフィルム34の間に積層され、2枚のフィルムは辺縁部で最終的に閉じられた(図示せず)。トップカバーは、加熱ポッドに進入できる周囲酸素の量を制御するための有限数の正確なサイズの孔36(実物大でない)を有していた。この態様ではCHADD加熱パッチは30cm2の加熱面積を有するように設計された。トップカバーフィルム及びボトムカバーフィルムはそれぞれ例えば単一被覆メディカルテープから製造できる。トップカバーフィルムは発熱調節のために機能でき、ボトムカバーフィルムは酸素に対して不透過性であり得る。すなわち孔を持たない。加熱ポッドは、発熱媒体を充填したヒートシール可能なろ紙から製造できる。CHADD加熱パッチを気密性パウチから取り出すと、周囲空気中の酸素がトップカバー上の孔から発熱媒体に流入し、発熱性の鉄酸化反応を開始した。加熱温度特性を制御する反応速度は、孔の数、サイズ、及び形状によって決定された。初期の温度上昇後、皮膚及び皮下組織の温度は、制御された温度範囲内に到達し予定時間の間維持された。発熱媒体が尽きたら温度は次第に通常に戻った。
【0069】
周囲酸素との相互作用で熱を発生させるのに使用できる例示的組成物を以下の表9に示す。
【0070】
【表9】

【0071】
CHADD加熱ポッド30は、上記の混合粉末4gをろ紙パウチに入れることによって形成した。次にCHADD加熱ポッドをボトムカバーフィルム34上に置き、CHADD加熱ポッドに水を施した。次いでトップカバーフィルム32を直ちにCHADD加熱ポッドの上に積層した。完成したCHADD加熱パッチは直ちにヒートシールバリアフィルムパウチに包装された。ヒトの皮膚で試験したCHADD加熱パッチの温度特性を図5に提供する。
実施例10−経皮送達パッチからベンゾジアゼピンを送達するためのCHADD加熱パッチの使用
パニック障害を患う患者に、パニック発作の発生率を低下させるためにベースライン濃度のアルプラゾラムを送達するように構成された経皮アルプラゾラムパッチを装着させる。経皮アルプラゾラムパッチは、アルプラゾラムを全身循環に送達し、比較的一定の血中アルプラゾラム濃度を患者にもたらす。ベースライン濃度のアルプラゾラムは実際パニック発作の発生率を低下させるが、ベースライン濃度で全てのパニック発作の発生が完全に予防されるわけではない。ベースライン濃度が送達されているので、アルプラゾラムの一部は皮膚に吸収され、皮膚表面の直下、例えば表皮、真皮、及び/又は皮下層、及び/又は皮下組織にアルプラゾラムのデポーの形態で貯蔵される。通常は全てのパニック発作がベースライン濃度のアルプラゾラム投与によって予防されるわけではないので、患者はパッチ装着中にパニック発作の発症を感じたら、直ちに熱を当ててアルプラゾラムをデポーから全身循環に放出させ、それによって薬物の全身濃度を迅速に増加させることができる。アルプラゾラムパッチの上に載せたCHADD加熱装置(実施例9に記載したのと類似のもの)を使用して所望の熱を与えることができる。CHADD加熱装置は、気密容器から取り出した後、装置内の鉄粉と周囲酸素の反応によって発熱する。アルプラゾラムパッチ下の皮膚は約15分間39℃〜43℃の範囲の温度に加熱できる。皮膚温度の上昇はデポーが存在する組織内の血流を劇的に増加できるので、迅速にアルプラゾラムをデポーから血液循環に運ぶことができる。結果として、血中アルプラゾラム濃度はCHADD加熱パッチの適用から数分以内に著しく増加し、パニック発作をうまく軽減又は中断することができる。
【0072】
本発明をある好適な態様を参照しながら説明してきたが、当業者であれば本発明の精神から離れることなく様々な変更、変化、省略、及び置換ができることは分かるであろう。従って、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】皮膚表面に接着されたレザバーパッチを示す概略図であり、レザバーはベンゾジアゼピンを含む非ゲル化マイクロエマルジョンを含む。
【図2】皮膚表面に接着されたマトリックスパッチを示す概略図であり、マトリックスはベンゾジアゼピンと接着剤マトリックスを含む。
【図3】皮膚表面に接着されたゲルパッチを示す概略図であり、ゲルはベンゾジアゼピンを含む。
【図4】本発明の態様に従って使用できる制御熱補助薬物送達(以後“CHADD”)加熱装置を示す概略図である。そして
【図5】ヒト皮膚で試験したCHADD加熱パッチの3回の独立した適用から得られた平均温度特性を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 不透過性裏打ち、12 速度制限膜、14 レザバー、16 接着層、18 皮膚、20 送達経路、22 薬物デポー、24 経路、26 マトリックス、28 ゲル、30 加熱ポッド、32 トップカバーフィルム、34 ボトムカバーフィルム、36 孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚表面又は皮膚表面下に適用されてパニック発作の軽減に使用される製剤の製造におけるベンゾジアゼピンの使用であって、前記製剤は皮膚表面下にベンゾジアゼピンのデポーを形成し、前記患者がパニック発作の発症を経験したら、患者の皮膚表面に熱を印加することによってデポーから薬学的に有効な量のベンゾジアゼピンを全身循環に流入させ、それによってパニック発作を軽減するベンゾジアゼピンの使用。
【請求項2】
前記患者が少なくとも1回のパニック発作の病歴を有する、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項3】
前記デポーが前記皮膚表面の0.5cm以内に配置される、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項4】
熱の印加がパニック発作の発症から5分以内になされる、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項5】
皮膚表面が37℃〜47℃に加熱される、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項6】
製剤の適用が皮膚表面に対してであり、ベンゾジアゼピンは経皮的にデポーを形成する、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項7】
皮膚表面下への製剤の適用が皮膚表面下への製剤の埋込みによるものであり、それによってデポーが形成される、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項8】
患者の皮膚表面に印加される熱が制御加熱装置によって発生され、前記制御加熱装置は、該装置内の成分と周囲空気中の酸素との酸化反応によって熱を発生させる、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項9】
前記制御加熱装置内の前記成分が鉄である、請求項8に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項10】
患者の皮膚表面に印加される熱が、電熱、マイクロ波熱、又は発熱性相転移によって熱を発生させる制御加熱装置によって発生される、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項11】
ベンゾジアゼピンが、アルプラゾラム、ロラゼパム、クロナゼパム、ミダゾラム、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項12】
パニック発作の発症及び熱の印加の前に、ベンゾジアゼピンのデポーがベースライン濃度のベンゾジアゼピンを患者の全身循環内に生み出しており、それによってパニック発作の発生を減少させる、請求項1に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項13】
前記患者がパニック発作の発症を経験したら、熱を印加してベースラインの前記ベンゾジアゼピンに加えて追加の用量をデポーから全身循環に送達せしめ、それによってパニック発作を軽減する、請求項12に記載のベンゾジアゼピンの使用。
【請求項14】
パニック発作を軽減するためのシステムであって、
患者の皮膚表面下にベンゾジアゼピンのデポーを形成するように構成されたベンゾジアゼピン送達装置(前記ベンゾジアゼピンは、薬学的に有効な量が患者の全身循環に送達された場合パニック発作の軽減に適切である)と;そして
パニック発作の発症時に皮膚表面に熱を印加するように構成された加熱装置(それによって薬学的に有効な量のベンゾジアゼピンをデポーから全身循環に流入させる)と
を含むシステム。
【請求項15】
前記システムが、患者が少なくとも1回のパニック発作の病歴を有する場合に患者への送達のために構成されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記デポーが前記皮膚表面の0.5cm以内に配置される、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
熱を印加するステップがパニック発作の発症から5分以内である、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
皮膚表面が37℃〜47℃に加熱される、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
送達ステップが皮膚表面へのベンゾジアゼピンの適用によるものであり、ベンゾジアゼピンは経皮的にデポーを形成する、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
送達ステップが皮膚表面下にベンゾジアゼピンを埋め込んでデポーを形成することによるものである、請求項14に記載のシステム。
【請求項21】
熱を印加するステップが制御加熱装置を用いて達成され、前記制御加熱装置は、該制御加熱装置内の成分と周囲空気中の酸素との酸化反応によって熱を発生させる、請求項14に記載のシステム。
【請求項22】
前記制御加熱装置内の前記成分が鉄である、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
熱を印加するステップが、電熱、マイクロ波熱、又は発熱性相転移によって熱を発生させる制御加熱装置を用いて達成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項24】
ベンゾジアゼピンが、アルプラゾラム、ロラゼパム、クロナゼパム、ミダゾラム、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項14に記載のシステム。
【請求項25】
パニック発作の発症及び熱の印加の前に、ベンゾジアゼピンのデポーがベースライン濃度のベンゾジアゼピンを患者の全身循環内に生み出しており、それによってパニック発作の発生を減少させる、請求項14に記載のシステム。
【請求項26】
前記患者がパニック発作の発症を経験したら、熱を印加してベースラインの前記ベンゾジアゼピンに加えて追加の用量をデポーから全身循環に送達せしめ、それによってパニック発作を軽減する、請求項25に記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2008−501019(P2008−501019A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515338(P2007−515338)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018555
【国際公開番号】WO2005/117905
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(501127213)ザース・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】