説明

パラジウムナノ粒子およびその製造方法

【課題】高い帯磁率を有するパラジウムナノ粒子を提供すること。
【解決手段】パラジウムを含有するターゲットに重水中でレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記重水中でパラジウムナノ粒子を形成させることを特徴とするパラジウムナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムナノ粒子およびその製造方法に関し、より詳しくは、液相レーザーアブレーションを利用したパラジウムナノ粒子の製造方法およびこの方法により得られたパラジウムナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属ナノ粒子の製造方法の1つとして液相レーザーアブレーションを利用した方法が注目されており、パラジウムナノ粒子においても、純水中で板状のパラジウム材料にレーザーアブレーションを施して製造する方法が提案されている(T.Okadaら、Applied Surface Science、253(2007)、7840〜7847頁(非特許文献1)参照)。
【0003】
一方、金属ナノ粒子はバルクの金属とは異なる特性を示すことが知られており、パラジウムナノ粒子についてもバルクのパラジウムとは異なる特性を示すことが期待される。しかしながら、上記のように、純水中でパラジウム材料にレーザーアブレーションを施して形成したパラジウムナノ粒子は、帯磁率の点においては従来のパラジウム材料と同等のものであった。
【非特許文献1】T.Okadaら、Applied Surface Science、253(2007)、7840〜7847頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い帯磁率を有するパラジウムナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、パラジウムを含有するターゲットに重水中でレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行うことにより、高い帯磁率を有するパラジウムナノ粒子が形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法は、パラジウムを含有するターゲットに重水中でレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記重水中でパラジウムナノ粒子を形成させることを特徴とする方法である。
【0007】
また、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法においては、前記重水中に形成させた前記パラジウムナノ粒子を沈殿させ、得られた沈殿物を乾燥させることが好ましい。この場合の乾燥温度としては10〜80℃が好ましい。
【0008】
本発明のパラジウムナノ粒子は、前記本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法により得られたものであり、高い帯磁率を有することを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明の製造方法によってパラジウムナノ粒子の帯磁率が高くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法においては、重水中でパラジウムを含有するターゲットにレーザー光を照射することによってプラズマ化したパラジウム微粒子が形成され、このプラズマ化したパラジウム微粒子が他のプラズマ化したパラジウム微粒子と衝突を繰り返して結晶化したパラジウムナノ粒子が形成される。このとき、パラジウム微粒子の周囲には多くの重水が存在するため、前記結晶化したパラジウムナノ粒子が形成される際にこの重水が取り込まれるものと推察される。また、一般に、レーザー照射されたターゲットではプラズマ化した微粒子が体積膨張し、その反動でターゲットから前記微粒子が飛散しようとする。ところが、このようなレーザーアブレーションを液相中で実施すると、飛散しようとした前記微粒子の周囲に液体が存在するため、前記微粒子は飛散できず、周囲の液体によって再びターゲットに閉じ込められる。このとき、閉じ込められた微粒子の周囲は局所的に高温高圧の状態になる。本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法においても、レーザー照射されたターゲットから飛散しようとしたパラジウム微粒子の周囲は局所的に高温高圧の状態になっていると推察される。このような高温高圧の領域に存在する重水は重水素と酸素に分解され、この重水素は、上記と同様に結晶化したパラジウムナノ粒子が形成される際に、パラジウムナノ粒子に取り込まれるものと推察される。そして、このように取り込まれた重水や重水素の作用により、パラジウムナノ粒子の帯磁率が高くなるものと推察される。
【0010】
また、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法においては、重水や重水素を取り込んだパラジウムナノ粒子を静置して沈殿させ、さらに室温付近で乾燥しているため、パラジウムナノ粒子内部の重水や重水素は放出されず、乾燥後もパラジウムナノ粒子内部に留まっているものと推察される。このため、このような重水や重水素の作用により、乾燥したパラジウムナノ粒子においても帯磁率が高く保持されるものと推察される。
【0011】
一方、純水中での液相レーザーアブレーションにより製造されたパラジウムナノ粒子は結晶化したものであると推察されるが、その製造過程において、重水や重水素を内部に取り込むことができる環境がないため、このような重水や重水素の作用による高い帯磁率は示さないものと推察される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い帯磁率を有するパラジウムナノ粒子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法について説明する。本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法は、パラジウムを含有するターゲットに重水中でレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記重水中でパラジウムナノ粒子を形成させることを特徴とする方法である。
【0015】
本発明に用いられる重水としては、DO濃度が50質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものがより好ましい。DO濃度が前記下限未満になるとパラジウムナノ粒子の帯磁率が向上しない傾向にある。この原因は、レーザーアブレーションにより生成したパラジウムナノ粒子の近傍に十分な量のDO分子が存在しないため、ナノ粒子中に重水または重水素が取り込まれないためであると推察される。従って、DO濃度の上限は特に限定されないが、100質量%が好ましい。
【0016】
本発明に用いられるパラジウムを含有するターゲットとしては、レーザー光の照射によりパラジウム原子を含む微粒子を発生させるものであれば特に制限はないが、例えば、板状(より好ましくは円板状)のパラジウム含有材料が好ましい。このようなターゲットにおいてパラジウムの含有率としては99質量%以上が好ましい。パラジウム含有率が前記下限未満になるとレーザー光照射によりパラジウム原子以外の他の原子が発生し、パラジウムナノ粒子が形成される際に前記他の原子が取り込まれるため、得られるパラジウムナノ粒子のパラジウム純度が低下する傾向にある。従って、前記ターゲットのパラジウム含有率の上限は特に制限はないが、100質量%が好ましい。
【0017】
本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法に用いられる好適な装置としては、図1に示す液相レーザーアブレーション装置が挙げられる。以下、図面を参照しながら本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明に使用可能な液相レーザーアブレーション装置は図1に示されるものに限定されない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
先ず、図1に示した液相レーザーアブレーション装置について説明する。図1に示す液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器(図示なし)と、側面にレーザー入射窓1Aを備える反応容器1と、前記レーザー入射窓1Aの前面に配置された集光レンズ2と、パラジウムを含有するターゲット3と、ターゲット駆動装置4と、前記ターゲット3と前記ターゲット駆動装置4とを接続するターゲット支持体5とを備えるものである。このような液相レーザーアブレーション装置においては、重水6が反応容器1内に保持され、前記ターゲット3は重水6中に浸漬するように保持されている。
【0019】
本発明に用いられるレーザー発振器としては、パルス幅が100ピコ秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射できるレーザー発生装置が好ましく、例えば、YAGレーザー装置、エキシマレーザー装置などが挙げられ、中でも、YAGレーザー装置が好ましい。
【0020】
反応容器1としては、側面にレーザー入射窓1Aを備え、内部に重水6を保持でき、この重水6内にターゲット3を保持して液相レーザーアブレーションを行うことができるものであれば特に制限はない。このような反応容器の材質や形状などはその目的などに合わせて適宜選定することができ、例えば、ポリプロピレン製の容器などを使用することができる。また、反応容器1は、密閉型のものであっても、開放型のものであってもよい。前記レーザー入射窓1Aとしては特に制限はなく、レーザー光を透過させるものであれば公知のものを使用することができる。このようなレーザー入射窓1Aとしては、石英製のものが挙げられる。
【0021】
集光レンズ2としては特に制限はないが、ターゲット3に照射されるレーザー光Lの照射強度を10〜1010W/cmとすることが可能な集光レンズが好ましく、10〜10W/cmとすることが可能な集光レンズがより好ましい。また、集光サイズを10〜1mmとすることができる集光レンズが好ましく、5〜2mmとすることができる集光レンズがより好ましい。集光レンズ2の焦点距離としては特に制限はないが、例えば200〜30mmが好ましい。この焦点距離を変更することによりレーザー光Lの集光サイズを調整することができ、種々の粒子径のパラジウムナノ粒子を得ることができる。
【0022】
本発明の製造方法において、ターゲット駆動装置4は、レーザー光Lがターゲット3の表面の同じ位置に繰り返し照射されてターゲット3に穴が開くことを防ぐために用いられるものであり、ターゲット3を回転移動させたり平行移動させたりすることができるものである。このようなターゲット駆動装置4としては特に制限はなく、公知の装置を用いることができるが、パルスモーターを用いることが好ましい。なお、本実施形態においては、ターゲット駆動装置4によりレーザー光Lの照射位置にターゲット3の新鮮な面(レーザー光未照射面)順次繰り出されるようになっている。また、このターゲット駆動装置4にはターゲット支持体5の一端が接続され、ターゲット支持体5のもう一端には前記ターゲット3が接続されている。
【0023】
次に、図1に示した液相レーザーアブレーション装置を用いてパラジウムナノ粒子を製造する方法について説明する。先ず、反応容器1に重水6を装入し、ターゲット3を重水6中に浸漬されるように保持する。反応容器内の温度および圧力は特に制限はなく、例えば、室温、大気圧下で本発明の製造方法を実施することができる。
【0024】
次いで、重水6中に保持したターゲット3に対してレーザー光Lを照射して液相(重水)中でレーザーアブレーションを行う。すなわち、レーザー発振器からレーザー光Lを出射させ、そのレーザー光Lを光路上に配置された集光レンズ2を通過させて所定の焦点距離に集光させながらレーザー入射窓1Aを介して反応容器1内に導入し、重水6内を通過させてターゲット3に照射させる。このとき、ターゲット3の同じ位置にレーザー光Lが繰り返し照射されてターゲット3に穴が開くことを防ぐために、ターゲット駆動装置4を用いてターゲット3を回転移動や平行移動させながらレーザー光Lを照射することが好ましい。ターゲット3の回転数などの移動速度はレーザー光Lの照射強度などによって適宜設定することができる。
【0025】
レーザー光Lの照射強度としては10〜1010W/cmが好ましく、10〜10W/cmがより好ましい。レーザー光Lの照射強度が前記下限未満になると十分にアブレートされず、パラジウムナノ粒子が形成しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶媒である重水によるレーザー光の吸収やレーザー入射窓と溶媒との間の多重反射による吸収のためターゲット3への入射エネルギーが不十分となる傾向にある。また、レーザー光Lの照射時間は5分〜1時間が好ましい。レーザー光Lの照射時間が前記下限未満になると酸化したパラジウム含有ターゲット3表面の最表面層だけがアブレートし、結晶化したパラジウムナノ粒子が十分に得られなかったり、パラジウムナノ粒子の生成量が少なくなったりする傾向にあり、他方、前記上限を超えると重水6中に生成したパラジウムナノ粒子がレーザー光Lによって再びアブレートされ、粒子が非常に細かくなる傾向にある。
【0026】
このようにターゲット3にレーザー光Lが照射されるとターゲット3上にプラズマが発生し、重水6中にパラジウム原子を含むナノメートルサイズ(好ましくは数nm〜数十nm)の微粒子(ナノ粒子)が形成される。前記ナノ粒子の大きさは、レーザー光Lの集光サイズを調整することによって制御することができる。集光サイズとしては10〜1mmが好ましく、5〜2mmがより好ましい。集光サイズが前記下限未満になるとレーザー光Lの照射強度が高くなりすぎて溶媒である重水によってレーザー光が著しく吸収され、必要なレーザーエネルギーがターゲット3に到達せず、そのため、パラジウムナノ粒子が形成されない傾向にあり、他方、前記上限を超えるとレーザー光の照射強度が低くなりすぎてターゲット3のアブレートが起こらず、パラジウムナノ粒子が形成されない傾向にある。なお、レーザー光Lの集光サイズは集光レンズ2の焦点距離を変更することによって調整することができる。
【0027】
以上、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法の好適な実施態様について説明したが、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法は前記実施態様に限定されるものではない。
【0028】
例えば、図1に示す液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー光Lが重水6の水面に略平行に照射されているが、本発明の製造方法においては、重水6の水面に対して垂直な方向から照射してもよい。これらのうち、重水6中に気泡が生成した場合に、より安定したレーザーアブレーションを実施できるという観点からレーザー光Lは重水6の水面に略平行に照射されることが好ましい。
【0029】
このようにして製造された本発明のパラジウムナノ粒子は、主として5〜20nm粒子径を有するものである。また、このパラジウムナノ粒子は、好ましくは0.001emu/mol以上、より好ましくは0.00175emu/mol以上という従来のパラジウム粒子やパラジウム薄膜、更には軽水(通常の水)中での液相レーザーアブレーションにより製造したパラジウムナノ粒子に比べて非常に高い帯磁率を有することを特徴とするものである。
【0030】
前記製造方法により得られたパラジウムナノ粒子は、通常、重水中に分散した状態で得られる。本発明においては、このパラジウムナノ粒子を含有する分散液から重水を除去してパラジウムナノ粒子を回収することができる。パラジウムナノ粒子の回収方法としては、パラジウムナノ粒子の前記特性を損なわない方法であれば特に制限はないが、以下の方法を適用することが好ましい。
【0031】
すなわち、前記製造方法により得られたパラジウムナノ粒子を含有する分散液を大気圧下で静置してパラジウムナノ粒子を沈殿させる。静置時間としてはパラジウムナノ粒子が沈殿する時間であれば特に制限はないが、1〜30日間が好ましく、2〜14日間がより好ましい。静置時間が前記下限未満になるとパラジウムナノ粒子が十分に沈殿しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると重水との反応が特に起こるわけではないが、静置中に不純物が混入する可能性が高くなったり、作業が非効率となったりする傾向にある。静置温度は特に制限はないが、5〜50℃で静置することが好ましく、10〜30℃で静置することがより好ましい。静置温度が前記下限未満になると溶媒である重水が凝固する可能性があり、重水の凝固によりパラジウムナノ粒子が沈殿しなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとパラジウムナノ粒子中に含まれている重水素がナノ粒子から抜け出る傾向にある。
【0032】
このようにしてパラジウムナノ粒子を沈殿させた後、上澄み液を除去してパラジウムナノ粒子を含有する溶液を濃縮する。本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法においては、さらに、パラジウムナノ粒子を含有する濃縮液を静置して沈殿物を形成させ、上澄み液を除去することが好ましく、この工程を繰り返すことがより好ましい。これにより、十分に重水が除去されたパラジウムナノ粒子の沈殿物を得ることができる。
【0033】
このようにして得られたパラジウムナノ粒子の沈殿物を、好ましくは5〜90℃で、より好ましくは10〜80℃で乾燥させることにより、粉末状のパラジウムナノ粒子を得ることができる。乾燥温度が前記下限未満になると溶媒である重水が凝固する可能性があり、重水の凝固によりパラジウムナノ粒子が沈殿しなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとパラジウムナノ粒子中に含まれている重水素がナノ粒子から抜け出る傾向にある。
【0034】
以上、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法のさらに好適な実施態様について説明したが、本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法は前記実施態様に限定されるものではない。
【0035】
例えば、前記方法においては、パラジウムナノ粒子を含有する溶液を大気圧下で静置することにより沈殿物を形成させたが、パラジウムナノ粒子の特性が損なわれない限り、減圧により重水を除去しながら沈殿物を形成させてもよい。これらのうち、より安定してパラジウムナノ粒子を回収できるという観点から大気圧下で静置することが好ましい。
【0036】
このようにして得られた粉末状のパラジウムナノ粒子は前記特性、特に、高い帯磁率が保持されたものである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて、重水中でパラジウム含有ターゲットにレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行った。
【0039】
先ず、使用した液相レーザーアブレーション装置について説明する。反応容器1としては、側面にレーザー入射窓1A(直径50mm、厚さ5mmの石英板)を備える容積500mlのポリプロピレン製容器を使用し、前記レーザー入射窓1Aの前面に焦点距離50mmの集光レンズ2を設置した。レーザー光Lとしては、Nd−YAGレーザー装置(スペクトラフィジックス(株)製「PRO−290」、図示なし)から2倍の高調波(波長:532nm、パルス幅:8ns)を使用した。パラジウム含有ターゲット3としてはパラジウム製の板材(直径50mm、厚さ5mmの円板、Pd含有率:100質量%)を使用した。このパラジウム含有ターゲット3をターゲット支持体5によりターゲット駆動装置4と接続した。前記ターゲット駆動装置4としては、パルスモーターを使用した。
【0040】
前記反応容器1に200mlの重水(DO濃度:100質量%)を入れ、前記ターゲット3を重水6中に浸漬されるように保持した。前記レーザー光Lを集光レンズ1により集光させ、レーザー入射窓1Aを介して重水6中に保持されたターゲット3に1時間照射した。この場合、ターゲット3上のレーザー光Lの集光サイズは直径3mmとなる。また、レーザー光Lの照射エネルギーは400mJ/shotに設定した。この場合、光学系および重水中でのレーザー光の減衰が非常に少ないと仮定するとターゲット3上でのレーザー光Lの照射強度およびフルエンスはそれぞれ0.7GW/cmおよび5.66J/cmとなる。なお、レーザー照射時は、ターゲット3の同じ位置を照射しないように1回転/分の回転速度でターゲット3を回転させた。
【0041】
このようにして得られた溶液は褐色に着色していた。そこで、この溶液の一部を、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用炭素膜付き銅メッシュ上に滴下してTEM観察を実施したところ、図2に示すように、粒子径が主として5〜20nmの範囲にある結晶性の球状パラジウムナノ粒子が形成していることが確認された。なお、図2の左側の写真はパラジウムナノ粒子のTEM像を示し、真ん中の写真はその拡大写真であり、右側の写真はパラジウムナノ粒子電子線回折像を示す。
【0042】
次に、パラジウムナノ粒子を含む前記溶液を、樹脂製またはガラス製の容器に移し替え、振動のない場所で3日間静置したところ、溶液は黒く濁っていたが沈殿物は少なかった。さらに、30日間静置したところ、溶液中にパラジウムナノ粒子の沈殿が観察された。
【0043】
(実施例2)
集光レンズ2を焦点距離が70mmのものに変更した以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーションを行った。なお、この場合、ターゲット3上の集光サイズは直径1.5mmとなり、ターゲット3上でのレーザー光Lの照射強度およびフルエンスはそれぞれ2.8GW/cmおよび22.6J/cmとなる。
【0044】
得られた溶液は薄い褐色に着色しており、この溶液について実施例1と同様にしてTEM観察を実施したところ、図3に示すように、粒子径が主として5〜20nmの範囲にある結晶性の球状パラジウムナノ粒子が形成していることが確認された。なお、図3の左側の写真はパラジウムナノ粒子のTEM像を示し、真ん中の写真はその拡大写真であり、右側の写真はパラジウムナノ粒子電子線回折像を示す。
【0045】
次に、パラジウムナノ粒子を含む前記溶液を実施例1と同様にして3日間静置したところ、溶液中にパラジウムナノ粒子の沈殿が観察された。さらに、30日間静置したところ、溶液中にパラジウムナノ粒子の凝集が観察された。このことから、実施例2で得たパラジウムナノ粒子は実施例1で得たものに比べて早く沈殿することが確認された。そこで、図2〜3に示したTEM写真を比較したところ、実施例1で得たパラジウムナノ粒子は実施例2で得たものに比べて粒子径の小さいもの(例えば、5nmのもの)の割合が多いことが確認され、これが沈殿形成速度に影響したものと推察された。
【0046】
(実施例3)
実施例2と同一の条件(焦点サイズ:1.5mm、レーザー照射時間:1時間)で液相レーザーアブレーションを6回実施し、パラジウムナノ粒子を含む溶液を6個調製した。この6個の溶液を樹脂製またはガラス製の1個の容器にまとめて入れ、振動のない場所で14日間静置して沈殿物を生成させた後、上澄み液を除去してパラジウムナノ粒子を含む濃縮液を得た。このような濃縮液の静置(14日間)と上澄み液の除去とを4回繰り返してパラジウムナノ粒子の沈殿物を回収した。この沈殿物を室温(20℃)で乾燥させて粉末状のパラジウムナノ粒子を約3.5mg得た。
【0047】
このパラジウムナノ粒子の収量から、単位照射エネルギー当りに製造できるパラジウムナノ粒子の量を算出したところ、
3.5mg/(0.4J×10Hz×3600秒×6回)=0.00004mg/J
であった。
【0048】
また、得られたパラジウムナノ粒子の帯磁率を、SQUID磁束計(カンタムデザイン社製「MPMS」)を用いて測定した。すなわち、乾燥させたパラジウムナノ粒子3mgをSQUID磁束計内で5Kに冷却し、10kOeの磁場を印加して磁気モーメントが検出できることを確認した後、400Kまで昇温させた。その後、冷却しながら50K毎に磁気モーメントを測定し、次式:
χ=(M/H)/(m/A)
(式中、Mは磁気モーメント(単位:emu)を表し、Hは外部磁場(単位:Oe)を表し、mはパラジウムナノ粒子の量(単位:g)を表し、Aはパラジウムの原子量(約106.4)を表す。)
により帯磁率χ(単位:emu/mol)を求めた。その結果を図4に示す。
【0049】
なお、図4には、市販のパラジウム粉末((株)高純度化学研究所製、Pd含有率:99.9%以上、粒子径:約1μm(ただし、電子顕微鏡観察では数nm))および市販のパラジウム薄膜((株)ニラコ製パラジウム箔)の帯磁率を同様に測定した結果も示した。
【0050】
(比較例1)
重水の代わりに軽水(DO濃度:0.015質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション(焦点サイズ:3mm、レーザー照射時間:1時間)を行った。得られた溶液は薄い褐色に着色しており、この溶液について実施例1と同様にしてTEM観察を実施したところ、図5に示すように、粒子径が主として30〜40nmの範囲にある結晶性のパラジウムナノ粒子が形成していることが確認された。なお、図5の左側の写真はパラジウムナノ粒子のTEM像を示し、真ん中の写真はその拡大写真であり、右側の写真はパラジウムナノ粒子電子線回折像を示す。
【0051】
次に、パラジウムナノ粒子を含む前記溶液を実施例1と同様にして3日間静置したところ、溶液中にパラジウムナノ粒子の沈殿が観察された。そこで、図2〜3および図5に示したTEM写真を比較したところ、比較例1で得たパラジウムナノ粒子は実施例1〜2で得たものに比べて粒子径の大きいもの(30〜40nmのもの)の割合が多いことが確認された。
【0052】
(比較例2)
重水の代わりに軽水(DO濃度:0.015質量%)を用いた以外は実施例2と同様にして液相レーザーアブレーション(焦点サイズ:1.5mm、レーザー照射時間:1時間)を行った。その結果、1時間のレーザー光照射では溶液はほとんど着色しておらず、パラジウム粒子は形成していなかった。
【0053】
(比較例3)
比較例1と同一の条件(軽水中、焦点サイズ:1.5mm、レーザー照射時間:1時間)で液相レーザーアブレーションを6回実施してパラジウムナノ粒子を含む溶液を6個調製し、実施例3と同様にして粉末状のパラジウムナノ粒子を約3.5mg得た。
【0054】
得られたパラジウムナノ粒子3mgをSQUID磁束計(カンタムデザイン社製「MPMS」)内で5Kに冷却し、10kOeの磁場を印加して磁気モーメントを測定した。その後、300Kまで昇温させて磁気モーメントを測定した。これらの磁気モーメントから実施例3と同様にして前記パラジウムナノ粒子の帯磁率を求めた。その結果を図4に示す。
【0055】
図2〜3および図5に示した結果から明らかなように、重水中での液相レーザーアブレーションを利用した本発明のパラジウムナノ粒子の製造方法によれば、主として5〜20nmの粒子径を有するパラジウムナノ粒子が得られることが確認された。さらに、レーザー光の焦点距離を調整して焦点サイズを変更することにより、種々の粒子径のパラジウムナノ粒子を製造できることが確認された。一方、軽水中での液相レーザーアブレーションによりパラジウムナノ粒子を製造した場合(比較例3)においては、重水中で製造した場合(実施例3)に比べて粒子径が大きい(主として30〜40nm)パラジウムナノ粒子が得られた。
【0056】
また、図4に示した結果から明らかなように、重水中での液相レーザーアブレーションによりパラジウムナノ粒子を製造した場合(実施例3)においては、軽水中で製造した場合(比較例3)に比べてパラジウムナノ粒子の帯磁率は非常に高く、0.001emu/mol以上となった。また、市販のパラジウム粒子やパラジウム薄膜に比べても非常に高い帯磁率を示した。
【0057】
例えば、実施例3で得たパラジウムナノ粒子3mgの磁気モーメントMを外部磁場H=10kOe、温度5Kの条件で測定したところ、M=0.002emuであった。従って、帯磁率は7.1×10−3emu/molとなる。一方、同一条件で測定した、比較例3で得たパラジウムナノ粒子の帯磁率は0.73×10−3emu/molであり、市販のパラジウム粒子の帯磁率は0.7×10−3emu/molであり、市販のパラジウム薄膜の帯磁率は0.8×10−3emu/molであった。従って、温度5Kにおいては、実施例3で得たパラジウムナノ粒子の帯磁率は、比較例3でパラジウムナノ粒子、市販のパラジウム粒子およびパラジウム薄膜のいずれに対しても約10倍であることが確認された。
【0058】
また、同様に、室温(300K)における帯磁率を求めたところ、実施例3で得たパラジウムナノ粒子の帯磁率は、比較例3でパラジウムナノ粒子、市販のパラジウム粒子およびパラジウム薄膜の約3倍であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、高い帯磁率を有するパラジウムナノ粒子を得ることが可能となる。したがって、本発明の製造方法により得られたパラジウムナノ粒子は、磁気制御高感度水素センサーや磁気制御触媒などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に用いる液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】実施例1で得たパラジウムナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得たパラジウムナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3および比較例3で得たパラジウムナノ粒子の帯磁率と温度との関係を示すグラフである。
【図5】比較例1で得たパラジウムナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0061】
1…反応容器、1A…レーザー入射窓、2…集光レンズ、3…パラジウム含有ターゲット、4…ターゲット駆動装置、5…ターゲット支持体、6…重水、L…レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを含有するターゲットに重水中でレーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記重水中でパラジウムナノ粒子を形成させることを特徴とするパラジウムナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記重水中に形成させた前記パラジウムナノ粒子を沈殿させ、得られた沈殿物を乾燥させることを特徴とする請求項1に記載のパラジウムナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記沈殿物を10〜80℃で乾燥させることを特徴とする請求項2に記載のパラジウムナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の製造方法により得られたものであることを特徴とするパラジウムナノ粒子。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144201(P2010−144201A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321251(P2008−321251)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】