説明

パラレル3次元放射線輸送コードを利用する原子炉線量測定アプリケーション

本発明は、広義には、新規のパラレル3次元放射線輸送コードとマルチプロセッサ・アーキテクチュアを利用する放射線場分布計算方法に係わる。コードはドメイン分解アプローチを利用してアルゴリズムを解く。例えば、角度ドメインおよび空間ドメインをサブセットに区分し、これらのサブセットをそれぞれ個別に割り振り、処理させることができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この仮特許出願は2007年9月27日に提出された米国仮特許出願第60/975,525号に基づく優先権を主張する。
【発明の背景】
【0002】
【発明の分野】
【0003】
本発明は広義には放射線場分布の計算に係わり、特に原子炉のキャビティおよび内部コンポーネントの中性子線量応答の予測に有用である。
【背景情報】
【0004】
中性子およびγ線輸送アプリケーションの線形化ボルツマン方程式(LBE)の数値解を得るには種々の方法を使用することができる。離散座標法(S)は特に核工学分野において採用されるこの種の方法の1つである。S方程式の数値解法は位相空間、即ち、角度ドメイン、空間ドメインおよびエネルギー・ドメインの同時離散化によって達成される。位相空間を同時離散化する結果として、S方程式中の多数の未知要素に遭遇するから、この問題を解くには厖大な計算資源が必要になる。
【0005】
大規模な3次元中性子およびγ線輸送アプリケーションでは、S方程式を利用してLBEの数値解を発生させるのに必要な主記憶装置は典型的なシングル・プロセッサ・ワークステーションの現時点での計算能力を超える可能性がある。例えば、約150万個の空間格子、S求積セット、散乱核のP展開、および47の中性子エネルギー群を特徴とする典型的な2ループ加圧水型原子炉(PWR)に関する完全な3次元中性子輸送の問題を解くには、約45ギガバイトの主記憶装置が必要になる。このような問題を解くのに必要な有意な計算資源に、シングル・プロセッサ・ワークステーションは含まれない。
【0006】
マルチプロセッサ計算アーキテクチュア、即ち分散メモリ・アーキテクチュアを活用するための新しい解法アルゴリズムを開発することによってこれらの困難を克服することが望まれる。例えば、多数の物理的に独立したワークステーションを、ネットワーク・バックボーンを介してリンクして、いわゆるクラスタ・コンピューティング環境を確立することが望ましい。近年、特に学術的な計算や大規模な数値シミュレーションの分野においてこの種の計算プラットホームが広く採用されている。但し、クラスタ環境の能力を活用するには特殊なアルゴリズムを考案する必要がある。
【0007】
従って、マルチプロセッサ計算アーキテクチュアを活用するためには、S方程式に関する一組の解法アルゴリズムに改良を加える余地がある。また、中性子およびγ線界分布のような放射線場を計算するため、LBEの数値解を求める方法にも改良の余地がある。さらに、原子炉用として、正確且つ効率的に線量応答を予測する方法にも改良の余地がある。
【発明の概要】
【0008】
角度ドメインおよび空間ドメインから成るドメイン群から選択されるドメインを含むドメイン分解アルゴリズムより成る3次元放射線輸送コンピュータ・コードを利用し、前記ドメインをマルチプロセッサ・コンピュータ・アーキテクチュアに割り振り、それぞれ独立に処理させる放射線場分布の計算方法。
【0009】
放射線場分布を計算するためのコンピュータ・プログラム。このプログラムはコード・セグメントを含むが、該コード・セグメントは実行されると、角度および空間ドメインをサブセットに分割し、これらのサブセットをそれぞれマルチプロセッサ・アーキテクチュアに割り振り、それぞれ独立に処理させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】図1aは2ループPWRの3次元輸送モデルの構造および物質分布を示す
【図1b】図1bは2ループPWRのz=0.0cmにおけるx-y平面上のモデルの2次元断面を示す。
【図2】図2は方向θ重み付け(Directional Theta Weighted)した適応差分スキームを利用して計算された線量測定データの実測値/計算値(M/C)比を示す。
【図3a】図3aは厚さを修正された原子炉圧力容器の炉心頂部におけるM/C比を、厚さを修正されていない原子炉圧力容器との比較において示す。
【図3b】図3bは厚さを修正された原子炉圧力容器の炉心中央平面におけるM/C比を、厚さを修正されていない原子炉圧力容器との比較において示す。
【図3c】図3cは厚さを修正された原子炉圧力容器の炉心底部(3c)におけるM/C比を、厚さを修正されていない原子炉圧力容器との比較において示す。
【図4】図4は異なるドメイン分解ストラテジーを使用して得られる一連のプロセッサ(例えば、20台まで)のスピードアップの比較を示すグラフである。
【図5】図5は3次元放射線輸送コンピュータ・プログラムを実行することによって放射線場分布を求める本発明の一実施態様のフローチャートを示す。
【好ましい実施態様の説明】
【0011】
本発明は1つのシステムに関して放射線場分布を計算する方法に係わる。放射線場は中性子およびγ線を含むことができる。本発明の1つの特徴として、原子炉キャビティにおける容器外中性子線量応答を計算することができる。原子炉の型に制限はなく、商用に設計された種々の型に適用できる。好適な原子炉として、例えば、加圧水型原子炉(PWR)および沸騰水型原子炉(BWR)が挙げられる。説明の便宜上、本発明のこの特徴を2ループの商用PWRを例に取って説明する。線量応答を発生させるためのPWRのコンピュータ・モデリングはPWRの設計および運転に利用される。
【0012】
本発明の方法は、ここではRAPTOR-M3G(RApid Parallel Transport Of Radiation-Multiple 3D Geometries)と呼称する3次元パラレル放射線輸送コードの利用を含む。輸送コードはS方程式を解くための1組のパラレル・アルゴリズムを提供する。本発明の方法は、空間、角度および/またはエネルギー・ドメインを、マルチプロセッサ・アーキテクチュアに割り振り、それぞれ独立に処理させることが可能なサブセットに分割するドメイン分解アルゴリズムに基づく。公知の好適な3次元パラレル決定論的輸送コードの例としては、PENTRANTMおよびPARTISN(Sjoden G. E. and Haghighat A., "PENTRAN - Parallel Environment Neutralparticle TRANport in 3次元Cartesian Geometry," Proceedings of the Joint International Conference on Mathematical Methods an Supercomputing for Nuclear Applications, Vol. 1, pp. 232-234, Saratoga Springs, NY(1997))が挙げられる。従来のシングル・プロセッサ方式と比較して、本発明の方法はプロセッサごとの計算負荷および必要メモリを軽減し、大規模な3次元問題に対する効率的な解決方法を提供する。
【0013】
RAPTOR-M3Gコンピュータ・コードはメッセージ受渡しインターフェース(MPI)パラレル・ライブラリを利用してフォートラン90言語で作成される(Gropp W., Lusk E., and Skjellum A., Using MPI Portable Parallel Programming with the Message Passing Interface, The MIT Press, Cambridge, Massachusetts (1999))。RAPTOR-M3Gの幾つかの機能を以下に列記する:
・3次元デカルト・ジオメトリー(RAPTOR-XYZ)および円筒状ジオメトリー(RAPTOR-RTZ)、即ち、不均一な直交格子によるマルチグループS方程式の解(M. A. Hunter, G. Longoni, and S. L. Anderson, "Extension of RAPTOR-M3G to r-θ-z
geometry for use in reactor dosimetry application," Proceedings of the 13th International Symposium on Reactor Dosimetry, The Netherlands (2008));
・空間ドメイン、角度ドメインおよび空間/角度結合ドメイン分解アルゴリズム;
・正定値重み付け差分スキーム:ゼロ/θ重み付けおよび方向性θ重み付け;
・20組またはそれ以下のレベル対称な求積セットの自動的な生成(Longoni G. et al., "Investigation of New Quadrature Sets for Discrete Ordinates Method with Application to Non-Conventional Problems", Transactions of the American Nuclear Society, Vol. 84, pp. 224-226 (2001));
・パラレル・メモリ:空間および角度サブドメインをローカルに割り振ることによって、プロセッサ毎の必要メモリを節減することを可能にする;
・パラレル・タスク:複数のプロセッサでS方程式を同時に解くことによって、単一のプロセッサを使用する技術と比較して計算時間を短縮する。
・パラレルI/O:それぞれのプロセッサが自らの記憶デバイスにアクセスすることによってI/O時間を短縮する;
・BOT3P(R. Orsi, "Potential Enhanced Performances in Radiation Transport Analysis on Structured Mesh Grids Made Available by BOT3P", Nuclear Science and Engineering, Vol. 157, pp. 110-116 (2007)), 自動格子生成手段、GIPおよびマルチグループ断面積プリプロセッサとの適合性および統合性。
【0014】
図1aは例えば2ループPWRのような本発明の一実施態様としての3次元輸送モデルの構成を示す。PWRは12フィートの炉心、熱遮蔽、および3インチの原子炉キャビティ・エア・ギャップを含むことができる。このモデル構成は炉心−水混合体、炉心シュラウド、炉心バレル、熱遮蔽、ステンレススチール製ライナーを含む原子炉圧力容器(RPV)、および反射断熱材を含む。PWRのRPVはほぼ円筒形に近い形状を呈し、両端が、例えば、下部蓋体および着脱自在な上部蓋体によって閉鎖されている。炉心の上下に位置する上下の内部構造はスチール-水混合体を利用して形成される。RPVの下部炉心構造は炉心バレル(即ち、炉心支持構造)を含む。炉心バレルはRPVの炉心バレルと内壁との間に設けた熱遮蔽で囲まれている。場合によっては、熱遮蔽の代わりに中性子パッドが使用される。炉心シュラウドは炉心バレルの内側に固定される。環状の降水管が炉心バレルを囲んでいる。冷却流体、典型例としては水が降水管内を循環する。
【0015】
図1bは2ループPWRのz=0.0cmにおけるx−y平面でのモデルの2次元断面を示す。また、PWRにおける物質の分布をも示す。モデル・ジオメトリーと格子離散化はBOT3Pコード、バージョン5.2を使用して作成する。モデルはx−、およびy−軸に沿って0.0cmから245.0cm、z−軸に沿って−200.0cmから200.0cmまで延びている。モデル全体を通して均一な格子を使用する。x−、y−およびz−軸に沿ってそれぞれの格子のサイズを2.0×2.0×4.0cmに規定し、全体として1,464,100個の格子を形成する。
【0016】
輸送モデルにおける物質混合体の断面積をBUGLE-96断面積ライブラリー(RSICC Data Library Collection BUGLE-96,"Coupled 47 Neutron, 20 Gamma-Ray Group Cross Section Library Derived from ENDF/B-VI for LWR Shielding and Pre3ssure Vessel Dosimetry Application," Oak Ridge National Laboratory, Oak Ridge, TN (1999))と、パッケージの一部であるGIPコンピュータ・コード(RSICC Computer Code Collection DOORS 3.2a, "One-, Two- and Three-Dimensional Discrete Ordinates Neutron/Photon Transport Code System," Oak Ridge National Laboratory, Oak Ridge, TN (2003))とを使用して処理する。輸送計算にはSレベル対称求積セットおよび散乱核のP球面調和関
数の展開を利用する。反射断熱材と圧力容器の間の原子炉キャビティ・エア・ギャップに受動型中性子検知器を設けることができる。線量測定システムは原子炉容器の胴回り領域における高速中性子被爆に関して正確な情報を提供することができる。原子炉キャビティには、高速中性子スペクトルのゆがみを最小限に抑制して事実上自由場測定を可能にする、アルミニウム・シェルに封入された純金属フォイルを設けることができる。原子炉キャビティ・エア・ギャップに設置される中性子線量測定器は輸送モデルにおいて明示的に定義されない。
【0017】
本発明の1つの特徴として、S方程式を離散化するためのドメイン分解アルゴリズムが含まれるが、空間および/または角度エネルギー・ドメインをサブセットに分割し、マルチプロセッサ・アーキテクチュアに割り振って独立に処理させる、というアプローチが採用される。
【0018】
ここに説明するS方程式の空間および角度離散化も角度ドメイン分解アルゴリズムもコードの3次元デカルト座標XYZバージョンとって特異である。RAPTOR−RTZのために開発されたS方程式の公式は散乱再分布項が存在するため,RAPTOR−XYZとは異なる。
【0019】
方程式の位相空間は離散化されている、即ち、角度、空間およびエネルギーに離散化されている。従って、結果として得られる線形代数方程式の組はディジタル・コンピュータで解くのに好適である。エネルギー・ドメインは多群アプローチを使用して多数の不連続区間、即ち、最高エネルギー粒子(g=1)に始まり、最低エネルギー粒子(g=G)に終わる多数の不連続区間として離散化される。多群近似式における輸送方程式(即ち、LBE)は下記方程式(1)で表わされる。
【数1】

【0020】
有限の方向組を念頭に、適当な求積積分スキームを適用することによって角度ドメインを離散化する。それぞれの離散方向を、数学的に求積スキームの重みに相当する表面積を有する単位球体の表面上の点として可視化することができる。離散方向と対応の重みとの組み合わせを求積セットと呼称する。一般に、正確且つ数学的に算出可能であるためには、求積セットが多くの条件を満たさねばならず;そのため、幾つかのアプローチ、例えば、レベル対称求積セット(LQn)およびルジャンドル多項式に基づく求積セットを利用することができる(Longoni G. and Haghighat A., "Development of New Quadrature sets with the Ordinate Splitting Technique", Proceedings of the ANS International Meeting on Mathematical Methods for Nuclear Applications (M&C 2001), Salt Lake City, UT, September 9-13, 2001, American Nuclear Society, Inc., La Grange Park, IL (2001))。RAPTOR‐M3Gにおける求積セットはLQn法に基づいている。
【0021】
空間変数は有限差分および有限要素法のような幾つかの技術で離散化することができる。RAPTOR‐M3Gにおける式は空間ドメインを例えば微細格子のような計算セルに区分し、それぞれのセルの断面積が一定であると想定した有限差分アプローチに基づいている。3次元デカルト幾何学においては、セルの中心位置における角度束が下記方程式(
2)を利用して評価される。
【数2】

【0022】
上記方程式(2)において、角度およびネルギーの依存性はそれぞれ指数mおよびgで示されている。項qi、j、kはセル中心における散乱、分裂および外部源の和を表わす。指数i、j、kはセル中心の値を表わし、重みai、j、k、m、g、 bi、j、k、m、g、ai、 ci、j、k、m、gは0.5から1.0の間に制限される。輸送スイープ中の重みを計算するために、RAPTOR‐M3Gはθ重み付け(TW)、ゼロ重み付け(ZW)、または適当な方向θ重み付け差分スキームを利用する(B. Petrovic and A. Haghighat, "New Directional Theta-Weighted SN Differencing Scheme and its Application to Pressure Vessel Fluence Calculations", Proceedings of the 1996 Radiation Protection and Shielding Topical Meeting, Falmouth, MA, Vol. 1, pp. 3-10 (1996))。
【0023】
問題のドメインの境界を基点としてそれぞれの方向を辿ることによってS方程式を解く;この解法は輸送スイープとも呼称される。セル中心位置において画定される角度束は境界の条件または隣接のセルにおいて既に評価された境界角度束から評価される。セル中心角度束は方程式(2)を利用して計算される。計算セルからの角度束は「差分スキーム」と呼称される補足的な関係を利用して計算される。
【0024】
輸送スイープは定点反復法としても知られるソース反復法若しくはリチャードソン反復法と呼称される反復プロセスにおいて実行される。このプロセスは然るべき収束基準が満たされるまで、即ち、ノルムにおけるスカラー束に現れる2つの反復間の相対誤差が所定のカットオフ値以下となるまで続けられる(Adams M. L. and Larsen E. W., "Fast Iterative Methods for Discrete-Ordinates Particle Transport Calculations", Progress in Nuclear Energy, Vol. 40, n. 1 (2002))。放射線遮蔽計算のため、多くの場合、このカットオフ値は1.0e−3または1.0e−4に設定される。
【0025】
RAPTOR-M3Gにおけるパラレル・アルゴリズムはプロセッサのネットワーク上に角度および/または空間ドメインを離散させるものである。RAPTOR-M3Gは角度および空間ドメインにそれぞれ割り振りされた多数のプロセッサPaおよびPsに基づく仮想トポロジーを作成する。離散に必要なプロセッサの総数はP=Pa・Psである。この情報に基づいて、プロセッサのネットワークが空間および角度ドメインにマップされ、それぞれのプロセッサをそのローカル・サブドメインと連携させる仮想トポロジーを作成する。
【0026】
角度ドメインは8分円ずつに区分され、角度ドメインに特定されたプロセッサが順次ローカル8分円に割当てられる。プロセッサ毎に割当てられる8分円の数は下記方程式(3)によって与えられる。

loct=8/Pa (3)

【0027】
輸送スイープはPaプロセッサにおけるNloct8分円においてそれぞれ行なわれる;プロセッサ間の角度束を同期化し、境界条件を適正化するために角度ドメインのためのMPIコミュニケーターを使用する。
【0028】
sプロセッサを多数のx-y平面に順次割当てるため、z-軸に沿って空間ドメインを区分する。z軸に沿った微細格子の総数、即ち、kmをPsプロセッサに合わせてそれぞれ区分する;マッピング・アレイ、即ち、kmlocを利用してx-y平面をそれぞれPsプロセッサに合わせてそれぞれ区分する。Psプロセッサに割当てられるx-y平面の数は任意である;但し、問題のジオメトリーと位相的に一致する空間分解を画定するためには、下記方程式(4)の条件が満たされねばならない。
Ps
Σ kmloc(i)=km (4)
i=1
【0029】
空間ドメインに割当てられたプロセッサを任意数のx-y平面にマップできるフレキシビリティはz平面の数が空間ドメインに割当てられたプロセッサの数によって割り切れるかどうかに依存する。Psプロセッサに対してx-y平面を不均一に区分すると、プロセッサ負荷のアンバランスを招き、結果として性能損失に陥る。本発明では、ハイブリッド角度/空間分解ストラテジーを適用することによってこの難題を克服することができる。ハイブリッド分解は角度および空間ドメインを組み合わせることによって両ドメインが並行区分されるようにする。ハイブリッドドメイン分解については、実施例1においてさらに詳しく後述する。
【0030】
図5は3次元放射線輸送コンピュータ・プログラムを実行することによって放射線場分布を作成する本発明の一実施態様のフローチャートを示す。この実施態様はモデリングすべきシステムにおける幾何的情報および材料情報を得るステップを含む。情報は、例えば、原子炉設計図のような種々の情報ソースから入手することができる。次いで、計算に必要な充分なS方程式の階数を選択する。さらに、角度ドメイン(即ち、散乱核および角度束)に対するPn拡張の程度を選択する。適当な差分スキーム(即ち、TW、ZWまたはDTW)も選択することができる。デカルト座標XYZまたはRTZジオメトリーのための適当な格子生成手段を利用してシステムの3次元モデルを生成することができる。例えば、BUGLE-96のような適当なデータセットと混合することによって材料毎に断面積表を作成する。プロセッサの数およびこれに対応の分解ストラテジーは、解くべき問題に合わせて選択される。次いで、計算を実行する。計算に続いて、後処理および結果分析を行う。
【0031】
本発明に使用されるRAPTOR-M3Gコンピュータ・コードは放射線輸送の問題を正確且つ効率的に(例えば、計算時間の短縮)解くことを可能にする。本発明の1つの特徴として、原子炉容器キャビティに関して、容器外中性子線量応答を計算する。実測値と比較して,RAPTOR-M3Gによって計算された2ループPWRの原子炉キャビティ・エアギャップにおける高速中性子反応は平均して96%の精度を示した。また、ハイブリッド角度/空間ドメイン分解ストラテジーを利用する20個のプロセッサによるコンピュータ・クラスタでは輸送問題の解が約106分間で得られた。
【0032】
本発明の特定の実施態様を詳細に亘って以上に説明したが、当業者には明らかなように、開示した内容に照らして、細部に種々の変更を加えることができる。例えば、原子力産業、特に、原子炉に関連して本発明の特徴を説明した。しかし、本発明は医療分野のような他の分野にも広く利用することができる。例えば、癌治療のため患者に照射すべき放射線量を測定する目的に利用することができる。従って、開示した特定の構成はあくまでも説明のためのものであって発明の範囲を制限するものではなく、発明の範囲は後記する請
求の範囲およびその均等物によって与えられる。
【実施例】
【0033】
実施例1−RAPTOR-M3Gパラレル性能分析
【0034】
以下に述べる実施例における輸送計算は20プロセッサによるコンピュータ・クラスタ、即ち、EAGLE-1で運用されるRAPTOR-M3Gで行なわれた。このクラスタは2デュアルコア・デュアル・プロセッサAMD Opteronによる64-ビットのアーキテクチュアを有する5つのノードから構成された。利用可能なクラスタ・トータル・メモリ、即ち、RAMは40ギガバイト;ネットワーク相互接続は1 ギガビット/秒の帯域幅を特徴とするものであった。このようなハードウェア構成で、RAPTOR-M3Gは2ループPWRのための全3次元輸送計算を20のプロセッサによって約106分間で完了した。DTW,TW,またはZW差分スキームを使用しても、性能に目立った差は観察されなかった。
【0035】
さらにまた、コードのパラレルな性能を分析するため、簡単な試験問題を設定した。試験問題として、均一に分布された固定発生源を有し、1cmの均一な格子で離散化された50´50´50のボックスを使用した。S求積セットおよびP等方性散乱を1エネルギー群断面積群と併用した。柱時計時間、スピードアップおよびパラレル効率を、RAPTOR−M3Gのパラレル効率の評価に利用した。スピードアップおよびパラレル効率はそれぞれ方程式5および6によって定義した。

=Ts/Tp (5)
hp=Sp/Np (6)

上記式において、TsおよびTpはそれぞれシングル・プロセッサおよびマルチプロセッサが必要とする柱時計時間を表わす。Npは柱時計時間Tpを達成するために利用されるプロセッサの数を表わす。図4はそれぞれ異なる分解ストラテジーを採用した場合に、20基までのプロセッサで得られるスピードアップの比較を示す。
【0036】
空間分解で得られるスピードアップはプロセッサの数が増えるに従って次第に低下した。この挙動はプロセッサごとの計算細分性が増すため、と考えられる;空間ドメインがより小さいサブドメインに分解されるから、プロセッサごとの動作数が増える一方で、プロセッサ間の通信時間が増大した;従って、性能が低下する。ノード間のネットワーク・データ伝送は分散メモリ・アーキテクチュアにおける制限要因となるのが普通であった。問題を収束するのに必要な反復回数が多くなると、これが空間分解ストラテジーの性能を低下させる要因となった。しかし、角度ドメインと空間ドメインを同時的に区分するハイブリッド分解は好ましい結果をもたらした。この好ましい挙動はこの分解によって生ずる計算細分性が比較的粗いためと考えられる;また、ハイブリッド分解の場合、問題を収束するのに必要な反復数は空間分解の場合ほど多くはならなかった。
【0037】
実施例2−RAPTOR-M3G計算応答との実測線量応答の比較
【0038】
実測線量応答と、RAPTOR-M3Gで得られる対応の予測とを比較した。IRDF-2002Dosimetry Library(I. Kodeli and A. Trkov, "Validation of the IRDF-2002 Dosimetry Library", Nuclear Instruments and Method in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment, Vol. 57, Issue 3, pp. 664-681 (2007))を使用して表1に示す中性子反応に対する線量応答の計算値を求めた。
【0039】
表1に示す反応に対応する線量応答の実測値を、RAPTOR−M3Gによる応答計算値と比較した。
【0040】
表1.線量測定システムによって測定される中性子反応
物質 反応
63Cu(n,α)60Co
54Fe(n,p)54Mn
ニッケル 58Ni(n,p)58Co
ウラニウム 238U(n,f)137Cs
ネプツニウム 237Np(n,f)137Cs
【0041】
表1に示す反応は、カドミウム遮蔽金属フォイルを使用して測定した;従って、中性子スペクトルの熱成分は抑制された。
【0042】
応答の実測値を4箇所、即ち、原子炉キャビティ・エア・ギャップの炉心中央平面における0°、15°、30°、および45°において求めた。2ループPWRは核燃料とRPVとが近接しているため、0°位置に高速中性子フルエンスのピークがあるのが特徴であり、これを考慮してこの位置では追加測定を行なった。即ち、0°位置では活性炉心の軸方向頂部と底部とで実測値を求めた。線量応答の計算値は一貫して実測値を過大に予測させる、との所見を得た。
【0043】
さらに検討した結果、輸送モデルに使用されたRPVの厚さが原子炉圧力容器(RPV)の稼動時点検(ISI)時に測定された厚さよりも薄かったことが判明し、初期の所見が裏付けられた。輸送モデルに新しいRPV厚さを採用した結果、線量計算値データの精度が平均して8%だけ改善された。線量測定の実測値とDTW適応差分スキームを利用して計算された計算値との比(M/C)を図2に示す。
【0044】
図2に示すように、いずれの位置においても、またいずれの線量被測定物質においても、M/C比は一貫して10%の範囲内であった。30°および45°方位角位置における過大予測は、システムの湾曲がより適正になるようにこれらの位置を不均一格子で修正することによって軽減することができた。すべての線量測定箇所の平均M/C比は0.96であった。
【0045】
図3a乃至3cはRPVの厚さをISI修正して得たM/C値を、厚さ修正無しで得られた値と比較して示す。この比較は0°方位各位置のすべての線量測定試料に関して実施されたものである。ISI測定を利用して修正されたRPV厚さはすべての線量測定部位における応答計算値の精度を改善した。15°、30°、および45°方位角位置においても同様の結果が得られた。
【0046】
それぞれの線量測定箇所における反応率の実測値および計算値と、ISI測定値で修正されたRPVの厚さで得られたM/C比を図2に示した。表2に示す反応に関連の平均M/C比はすべての線量測定箇所に亘って0.96であった。
【0047】
表2.DTW差分スキームで得られた反応率の測定値および計算値
【表2】

【図1a−1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線場の分布を計算する方法であって、
角度ドメインおよび空間ドメインからなる群から選択されたドメインを含むドメイン分解アルゴリズムから成る3次元放射線輸送コンピュータ・コードを適用するステップより成り、前記ドメインはマルチプロセッサ・コンピュータ・アークテクチュアに割り振り、処理されることを特徴とする放射線場分布の計算方法。
【請求項2】
前記放射線場分布が中性子放射線およびγ放射線から成る群から選択される放射線場を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線場が原子炉キャビティにおける放射線場である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記原子炉が2ループ加圧水型原子炉である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルゴリズムが線形ボルツマン方程式を数値解するように構成されている請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記マルチプロセッサ・コンピュータ・アーキテクチュアがネットワーク接続によってリンクされた多数の物理的に独立のワークステーションから成る請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ドメインを、それぞれ前記マルチプロセッサ・アーキテクチュアに割り振られ、処理されるサブセットに区分するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ドメインの前記区分のためにマルチプロセッサにおけるパラレル・メモリを利用する請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記放射線場分布が原子炉キャビティにおける容器外中性子線量応答を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アルゴリズムを3次元デカルト幾何学で求める請求項7に記載の方法。
【請求項11】
パラレル・アルゴリズムを使用してS方程式を同時に解くように前記アルゴリズムが構成されている請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記マルチプロセッサ・コンピュータ・アーキテクチュアを構成するそれぞれのプロセッサが記憶デバイスおよびローカル・メモリから成る群から選択される自らのデバイスにアクセスする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記エネルギー・ドメインを多数の離散インターバルに離散させるステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記空間ドメインを計算セルに区分するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
それぞれのセル内の仮定断面積が一定である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ドメイン分解が、角度ドメインおよび空間ドメインを同時に区分するハイブリッド分解である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
プロセッサの数が最大限20である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
2時間未満の時間で問題を解決する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法を利用して得られる解が計算値と比較して90%以上の精度を有する請求項17に記載の方法。
【請求項20】
放射線場を計算するためのコンピュータ・プログラムであって、実行すると、角度ドメインおよび空間ドメインをサブセットに分割し、前記サブセットを個別にマルチプロセッサ・アークテクチュアに割り振り、個別に処理させるコード・セグメントから成る放射線場を計算するためのコンピュータ・プログラム。

【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−540936(P2010−540936A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527130(P2010−527130)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/077625
【国際公開番号】WO2009/042747
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(501010395)ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー (78)
【Fターム(参考)】