説明

パラ系アラミド繊維の染色方法および繊維構造物

【課題】鮮明で高耐光性を有するパラ系アラミド繊維の染色方法および染色されたパラ系アラミド繊維含む布帛を提供する。
【解決手段】座屈部(キンクバンド)が付与されたパラ系アラミド繊維をアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩ならびに繊維構造弛緩作用或いは見掛けガラス転移点低下作用のあるキャリヤの存在下、カチオン染料を用いてpH2〜5.5の水溶液で染色するパラ系アラミド繊維の染色方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業服、手袋、靴下、消防防火服、炉前服などの防護衣料、スキー、スノーボード、登山、モータースポーツなどに用いるスポーツ用衣料、建築や工場などの作業用ユニフォーム、劇場、映画館、列車、自動車などの座席シート、カーテン、シーツなどのインテリアおよび寝装具などに用いることができるパラ系アラミド繊維(以下アラミド繊維と略記)の高鮮明および高耐光化染色方法および染色されたパラ系アラミド繊維を含む布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維にはコーネックス、ノーメックスに代表されるメタ系アラミド繊維とテクノーラ、ケブラー、トワロンに代表されるパラ系アラミド繊維とがある。
これらのアラミド繊維は、ナイロン6、ナイロン66などの従来から広く使用されている脂肪族ポリアミド繊維と比較して、剛直な分子構造と高い結晶性のために耐熱性、耐炎性(難燃性)などの熱的性質、並びに耐薬品性、強力な耐放射線性、電気特性などの安全性に優れた性質を有している。従って耐炎性(難燃性)や耐熱性を必要とする防護服などの衣料用やバッグフィルターなどの産業資材用、カーテンなどのインテリア用として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、アラミド繊維は分子鎖が剛直且つ高結晶性であるため、反面では後加工染色し難いという欠点をもたらしている。
特に定量均一に混合するパラ系アラミド繊維は従来染色することが非常に難しく、パラ系アラミド繊維を含む繊維構造物を染色すると、混合されたパラ系アラミド繊維のみ染色されずイラツキが目立ち、品位よく仕上がることが難しいという問題を有している。
【0004】
特開平8−260362号公報では芳香族エーテル系繊維膨潤剤とカチオン系染料の水分散液をPH5以下に保ちつつ130℃以上でパラ系アラミド繊維を染色する方法が開示去れている。確かに鮮明な染色は可能なものの耐光堅牢度が悪いという問題があった。
【0005】
又特開2005−325471号公報では特定のボラ型電解質化合物の存在下に酸性染料で染色する方法が開示されている。染色性は良好なものの洗濯堅牢度、摩擦堅牢度が良くないという問題があった。
【0006】
更に特開2007−16343号公報には座屈部を有するパラ系アラミド繊維をカチオン又は分散染料で染色することが提案されている。しかしながら染色性は向上するものの染色安定性に乏しいという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−260362号公報
【特許文献2】特開2005−325471号公報
【特許文献3】特開2007−16343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鮮明で高耐光性を有するパラ系アラミド繊維の染色方法および染色されたパラ系アラミド繊維含む布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、
アラミド繊維を、水溶下において塩基性を有しないアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を染色浴中(水溶液中)に1〜40g/l添加し、該水溶液および有機染料を含む染色液のpHを2〜5.5とする水溶液中でカチオン染料を用いて染色することにより、安定して高鮮明性で且つ高耐光性とすることが可能となることを見出しことに基づくものであり、即ち本発明によれば、
座屈部(キンクバンド)が付与されたパラ系アラミド繊維を下記要件で染色することを特徴とするパラ系アラミド繊維の染色方法。
a)水溶液とした時塩基性を有しないアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を1〜40g/l含むこと。
b)繊維構造弛緩作用或いは見掛けガラス転移点低下作用のあるキャリヤの存在下で行うこと。
c)染色液のpHを2〜5.5で行うこと。
d)カチオン染料で染色すること。
及びそれからなる鮮明で高耐光堅牢度の染色構造物
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の染色方法により、高鮮明且つ高耐光堅牢性パラ系アラミド繊維とすることができるので防護服や作業服、あるいはインテリア資材として安全機能性のみならず、美的感覚にも優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるパラ系アラミド繊維とは、主鎖中に芳香族環を有するポリアミドからなる繊維であり、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド(PPTA)からなる繊維である。 ここでPPTAとは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用でき、共重合体の分子量は通常20,000〜25,000が好ましい。アラミド繊維は、上記PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント上にした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120〜500℃の乾燥・熱処理をして得られる。
尚本発明でいう繊維とはステープルファイバー、スライバー、トップ、紡績糸、牽切加工糸、不織布、製編織物などを含む繊維構造物を表す。
【0012】
ここで乾燥・熱処理前のパラ系アラミド繊維は結晶サイズ(110面)が50Å未満であり、乾燥・熱処理後では50Å以上となるものがよい。さらにパラ系アラミド繊維は、420℃で1分間熱処理した際の強力劣化率が10%以上のものであっても、分子構造が適度なゆるみを有しており、座屈部(キンクバンド)が形成され易いので染料の浸透が起こり、染色されやすく好ましい。但し、該強力劣化率が40%を超える場合は、難燃、防炎性が劣り、繊維構造物のLOIが27.0未満に低下することがあり好ましくない。
【0013】
本発明で使用するパラ系アラミド繊維は400℃の乾熱収縮率は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、これにより火炎暴露の火傷損傷の低減化が図れ、繊維構造物のLOIを容易に27.0以上とすることができる。
【0014】
更に本発明におけるパラ系アラミド繊維は、座屈部(キンクバンド)を有している必要があり、これにより著しく染色性が改善され、原料着色されたメタ系芳香族ポリアミド繊維の色相に匹敵する、優れた色相を実現できる。また、これを原料着色されたメタ系芳香族ポリアミド繊維を組み合わせてもイラツキも生じず、繊維構造物として色覚的に品位が向上した繊維構造体とすることができる。
【0015】
上記の座屈部(キンクバンド)はパラ系ポリアミド繊維に物理的手段により形成されたものであり、物理的手段とは、押し込み式捲縮などの捲縮の他、強打(叩く)、表面摩擦(しごく)、撚糸及び仮撚など、物理的手段によって屈曲部等の座屈部(キンクバンド)を形成(付与)できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0016】
さらに本発明においてパラ系アラミド繊維は、水溶液とした時塩基性を有しないアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を染色浴中(水溶液中)へ1〜40g/l添加されていることが必要である。
【0017】
水溶液としたとき塩基性を有しないアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とは、塩基性を有しないアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を純水に溶解した時塩基性を示さないものであり、具体的には硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩酸ナトリウム等が挙げられる。酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム等は含まない。
その際添加量が1g/l未満であれば染料溶解度が高く、繊維への分配が抑制される可能があり好ましくなく、40g/lを超える場合は溶解度が低下し好ましくない。
【0018】
次に繊維構造弛緩作用或いは見掛けガラス転移点低下作用のあるキャリヤの存在下で染色する必要がある。繊維構造弛緩作用或いは見掛けガラス転移点低下作用のあるキャリヤとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、アセトフェノン、NMP、DMSO、DMF、エチレングリコール、アセトニトリル、プロピレンあるいはエチレングリコールフェニルエーテル、或いは市販キャリヤ、膨潤剤から選択された少なくとも1種以上用いて染色することを特徴とするが、染色環境に見合った(処理能力、作業環境など)環境負荷低減を考慮したキャリヤーを用いることが好ましい。好ましい使用量としては繊維と染色液量の比(浴比)によっても変動するが、繊維全重量に対して2〜150%である。
上記のキャリヤ(膨潤剤)共存下染色することにより、繊維結晶部位を膨潤等させることにより染料が浸透し易くなり相乗効果を発現させることができる。
【0019】
該カチオン染料を含む染色液はpH2〜5.5であることが重要である。この条件で染色する時、優れた色相、鮮明性並びに耐光性を呈することができ好ましい。ここで染色液のPHが2未満であれば金属腐食、取扱い性の点で好ましくなく、5.5を超える場合は染料溶解性が抑制されるため高染色性が得られず好ましくない。好ましくはpH2〜4である。
【0020】
本発明で使用されるカチオン染料とは水に可溶性で、塩基性を示す基を有する水溶性染料をいい、アクリル繊維、天然繊維或いはカチオン可染型ポリエステル繊維等の染色に多く用いられており、ジ及びトリアクリルメタン系、キノンイミン(アジン、オキサジン、チアジン)系、キサンテン系、メチン系(ポリメチン、アザメチン)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ)、アントラキノン系などがある。また、最近では塩基性基を封鎖することにより水分散型にしたカチオン染料もあるが、両者とも用いることが出来る。
【0021】
染色温度は、115℃以上150℃以下が好ましく120℃以上がより好ましい。染色温度が115℃以下であると、染色性が不充分になる場合がある。また染色温度は高いほど染着性高まるものの、反面、染料の分解やアラミド繊維と他の素材を複合している場合には複合素材の劣化の問題も発生し始めるので、必ずしも高温にすればするほど良いわけではなく高くても140℃程度が好ましい。
上記のように本発明の染色方法で染色することにより、メタ系アラミド繊維と混合して染色してもイラツキも生じず、色覚的に品位が向上した布帛とすることができる。
【0022】
本発明の条件で染色することにより座屈部を有するパラ系アラミド繊維が高鮮明性で且つ高耐光性となる理由は明確ではないが、pHを2〜5.5という酸性側で染色することにより染料とアルカリ金属塩/土類金属塩とが錯体を形成し、染料の見掛け溶解度を下げ繊維界面に塩析(染着)し、染色濃度および拡散を向上させ、さらには繊維内部へ均一拡散染色され高鮮明性が発現され、また繊維界面の染着濃度を高めていることにより耐光性が著しく向上しているものと推定している。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成および効果を詳細に説明する。
尚、実施例/比較例で行った被染色物の評価方法は下記の方法に従って行った。
・pH測定:
アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を0.5mol/Lの水溶液とした時のPHをデジタルpH計HM−60(東亜電波工業製)でPHを測定した。
・明度指数L*:JIS Z 8701(2度視野XYZ系による色の表示方法)又はJIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値のYを用いて、次式より求められるものである。
L*=116(Y/Yn)1/3−16
Y/Yn>0.008856
Y:XYZにおける三刺激値の値
Yn:完全拡散反射面の標準の光によるYの値
但し、Y/Ynが0.008856以下の場合は、次式による。
L*=903.29(Y/Yn)
Y/Yn≦0.008856
より、明度指数L*値を求めた。明度指数L*は数値が小さい程、濃染化されていることを示す。
また鮮明性の程度は、L*a*b*h表色系による色差式(CIE奨励)により、明度L*値および彩度C*値で鮮明発色性を表現することができる。
この場合、明度L*値が同程度の時、彩度C*値が大きいほど鮮明高発色性に優れているということを示す。
・耐光性:JIS L 0842に準拠し、フェード20hr照射後、判定した。
【0024】
[実施例1]
通常の方法で得られたポリ−p−フェニレンテレフタルアミド(以下PPTA、IV=6.5)を99.9%の濃硫酸に溶かし、ポリマー濃度19.9%、温度80℃の紡糸ドープとし、口金(0.01mmφ×1000H)から吐出し水凝固させ、次いでアルカリ浴中で中和処理し乾燥、熱処理後、通常の方法でオイリングし、物理的処理の付与として捲縮加工され、次いでカットされた帝人トワロン(TW1072)を得た。
この繊維を用いてアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩(以下処理剤と略称する)として硫酸ナトリウムを用い以下のように染色処理(130℃×60分 浴比1:20下、pH2.59)を行った。
・C.I.Basic Orange22 6%owf
・酢酸(50%) 0.3cc/l
・分散剤(ディスパーVG:第一工業製薬製) 0.5 g/l
・硫酸ナトリウム 20 g/l
・ベンジルアルコール 70 g/l
【0025】
[実施例2]
実施例1において、染色浴中に投入する処理剤を硝酸ナトリウムとした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0026】
[実施例3]
実施例1において、染色浴中に投入する処理剤を塩化ナトリウムとした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0027】
[実施例4]
実施例1において、染色浴中に投入する処理剤を塩化カルシウムとした以外は同様に処理し評価した。
【0028】
[比較例1]
実施例1において、染色浴中に投入する処理剤を酢酸カリウムとした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0029】
[比較例2]
実施例1において染色浴中に投入する処理剤を酢酸ナトリウムおよび硝酸ナトリウムを各20g/lとした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0030】
[比較例3]
実施例1において、染色浴中に投入する処理剤として酢酸ナトリウムとした以外は、実施例1と同様に処理し評価した。
【0031】
[比較例4]
実施例1において、硫酸ナトリウムを使用しない以外は同様に行った。
【0032】
[比較例5]
実施例1において染色液のPHを6.0で行った以外は同様に行った。
【0033】
[比較例6]
実施例1において、染色浴中に投入する硫酸ナトリウムの使用量を0.5g/lとした以外は同様に処理し評価した。
【0034】
[比較例7]
実施例1において、染色浴中に投入する硫酸ナトリウムの使用量を50g/lとした以外は同様に処理し評価した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、高強力、難燃性、軽量等の特性を有するパラ型芳香族ポリアミドに高鮮明性、高耐光堅牢度を付与できるので、産業資材、防護衣料等の分野のみならず家庭用、一般衣料分野にも用途を拡大することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座屈部(キンクバンド)が付与されたパラ系アラミド繊維を下記要件で染色することを特徴とするパラ系アラミド繊維の染色方法。
a)水溶液とした時塩基性を有しないアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含むこと。
b)繊維構造弛緩作用或いは見掛けガラス転移点低下作用のあるキャリヤの存在下で行うこと。
c)染色液のpHを2〜5.5で行うこと。
d)カチオン染料で染色すること。
【請求項2】
水溶液とした時塩基性を有しないアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の添加量が1〜40g/lである請求項1記載のパラ系アラミド繊維の染色方法。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の方法によって染色されたパラ系アラミド繊維。
【請求項4】
請求項1〜2に記載の方法によって染色されたパラ系アラミド繊維を含む布帛。

【公開番号】特開2009−256844(P2009−256844A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110104(P2008−110104)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】