説明

パルストランスおよびパルス電源装置

【課題】漏れインダクタンスの低減とパルストランスのサイズの小型化を同時に解決し、また、漏れインダクタンスの低減と絶縁破壊の防止を同時に解決する。
【解決手段】パルストランスは、磁気コアと、この磁気コアに対して同心状に施す低電圧電線からなる1次巻き線および2次巻き線とを備える。1次巻き線および2次巻き線を均等に密着させて施し、施した1次巻き線および2次巻き線をシリコンポッティングによってモールドする。1次巻き線および2次巻き線をシリコンポッティングによるモールドによって、巻き線の空間部分の電界強度を高く維持することができるため、巻き線間の絶縁破壊を防ぐことができる。さらに低電圧電線の被膜の厚さは高電圧電線の被膜の厚さよりも薄いため、巻き線を均等に密着させて施すことができるため、漏れインダクタンスを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置に関し、特にパルストランスの2次側の高電圧パルスを発生させるパルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサに充電した電荷を、パルストランスとスイッチング素子を介してエネルギーを転送させ、パルストランスの二次側から高電圧パルスを発生させるパルス電源装置が知られている。
【0003】
図2は従来のパルス電源装置の一例を説明するための回路図およびパルストランスの断面図である。
【0004】
図2(a)に示す回路図において、パルス電源装置10は、充電用電源12,エネルギー転送用コンデンサ13,16,半導体スイッチ14,リアクトル15,およびパルストランス11を備える。エネルギー転送用コンデンサ13は、リアクトル15とパルストランス11の一次巻き線と半導体スイッチ14との直列接続に対して並列に接続される。エネルギー転送用コンデンサ13を充電用電源12で充電した後に半導体スイッチ14を閉じると、エネルギー転送用コンデンサ13からリアクトル15とパルストランス11の一次巻き線および半導体スイッチ14の閉回路を通してエネルギーが転送され、パルストランス11の二次巻き線に高電圧のパルス電圧が誘起される。
【0005】
図2(b)に示す断面図において、パルストランス11は、磁気コア11a,11b、一次巻線11e、および二次巻線11dを備え、一次巻線11eと二次巻線11dとの間には絶縁破壊を防止するために層間絶縁11cが設けられる。なお、コアの形状は、図示したEI型に限らず、トロイダル型、EE型等の形状とすることができる。(特許文献1参照)
【0006】
パルストランスは、リソグラフィ光源、オゾン発生装置、水処理など種々の分野に適用される。例えば、非特許文献1や、特許文献2,3には高輝度放電灯等に適用したものが示されている。また、特許文献4にはISDN用パルストランスが示されている。
【0007】
特許文献1では、一次巻線と二次巻線との間の磁気結合不良による漏れインダクンスの影響によって、パルスの立ち上がりの鈍化や、漏れインダクタンスと浮遊容量による出力電圧の共振といった問題が指摘され、この問題を解決するためにパルストランスの巻き線に同軸電線を用いる構成が提案されている。
【0008】
非特許文献1には、パルストランスを小型化すると共に、絶縁耐圧性能を確保するために二次巻線の占積率を高める巻き線方法が提案されている。
【0009】
特許文献2には、二次巻線の抵抗を下げて抵抗成分による温度上昇を避けるために、巻き数を減らすことが提案されている。このとき、出力を下げることなく抵抗を下げるためには、磁気コアの閉磁路構成として漏れ磁束を抑制すればよいと提案している。また、磁気コアに巻き線を固定するために、不飽和ポリエステル樹脂又は液晶ポリマー樹脂を使用することが示されている。
【0010】
特許文献3には、ケース内のパルストランスとコネクタと放電防止部材にシリコン樹脂を充填して、パルストランスとコネクタ間の絶縁性を確保することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−80908号公報(段落0002〜0006参照)
【特許文献2】特開2004−207405号公報(段落0021,0022,0047参照)
【特許文献3】特開2005−285361号公報(段落0002〜0004参照)
【特許文献4】特開平07−201587号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】松下電工技法vol.53,No/.2,p97〜p103「車載用HID高圧パルストランスの高占積率巻線法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来のパルス電源のパルストランスは、コア材に巻き線を施すことによって形成される。この巻き線は、高電圧が発生することから例えばシリコン電線等の高圧電線が用いられる。高圧電線は、導電材の外周に絶縁層を設けて形成している。
【0014】
本出願の発明者は、パルストランスの絶縁層において漏れインダクタンスや絶縁破壊等の問題が生じることを見出した。
【0015】
はじめに、漏れインダクタンスの問題について説明する。パルストランスでは、高電圧に耐えるために、高圧電線の導電材の周囲に厚い絶縁層が設けられている。絶縁層が厚い場合には、高圧電線とコア材との間の密着性が低下するため、高圧電線とコア材との間の漏れインダクタンスが増加することになる。漏れインダクタンスの増加は、例えばパルストランスを磁気パルス圧縮回路に適用した場合には、パルス電圧の立ち上がりが遅れるという問題が生じる他に、パルストランスの電圧時間積が増大するため、周辺部材が大型化するという問題が生じる。
【0016】
漏れインダクタンスを減少させる一手法として、コアの断面積を大きくし、巻き線数を少なくすることが考えられる。この場合には、コアの断面積が大きくなるため、パルストランスのサイズが大型化し、さらに、製造コストが上昇するという問題が生じる。
【0017】
また、漏れインダクタンスを減少させる別の手法として、巻き線を並列させて施すことが考えられる。この場合においても、巻き線を並列させるためにパルストランスのサイズが大型化するという問題が生じる。
【0018】
上記した漏れインダクタンスの問題に対して種々の対策が提案されている。例えば、漏れインダクタンスにおいて、前記した特許文献1では、漏れインダクタンスに起因するパルスの立ち上がりの遅れ問題や出力電圧の共振問題に対して、高圧電線を同軸電線とする構成が提案されている。また、前記した特許文献4では、ISDN用パルストランスにおいて高いインダクタンスを得るために漏れインダクタンスが増加するという問題に対して、パイプ状の磁心を2本配列し、相対する側面を中心にバイファイラ巻線を施す構成が提案されている。しかしながら、前記した特許文献1,4に提案される漏れインダクタンスの低減手法は、何れもパルストランスのサイズが大型化するという問題が生じる。
【0019】
上記したように、従来の漏れインダクタンスを低減させる手法では、パルストランスのサイズが大型化するという問題がある。
【0020】
次に、絶縁破壊等の問題について説明する。パルストランスでは、高電圧印加時に巻き線間に存在する空気の不平等電界によって絶縁破壊が生じるという問題がある。この絶縁破壊の問題に対して、前記特許文献3では、コネクタ部分の絶縁破壊に注目し、ケース内にシリコン樹脂を充填することによってパルストランスとコネクタとの絶縁性を確保し、また、パルストランスと放電防止部材との間に絶縁材料を充填することによって空気層を除去してコロナ放電の発生を防ぐことが提案されている。
【0021】
しかしながら、前記した特許文献3に提案される絶縁破壊を防止する手法をパルストランスに適用した場合には、高圧電線が用いられているため、漏れインダクタンスが増加するという問題が生じる。
【0022】
上記したように、従来のパルストランスでは、漏れインダクタンスの低減とパルストランスのサイズの小型化を同時に解決することが困難であるという問題がある。
【0023】
また、漏れインダクタンスの低減と電線間の絶縁破壊の防止を同時に解決することが困難であるという問題がある。
【0024】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、漏れインダクタンスの低減とパルストランスのサイズの小型化を同時に解決することを目的とし、また、漏れインダクタンスの低減と電線間の絶縁破壊の防止を同時に解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明のパルストランスは、磁気コアと、この磁気コアに対して同心状に施す低電圧電線からなる1次巻き線および2次巻き線とを備える。1次巻き線および2次巻き線を均等に密着させて施して漏れインダクタンスを低減し、施した1次巻き線および2次巻き線をシリコンポッティングによってモールドすることで形成する。シリコンポッティングは、1次巻き線および2次巻き線を磁気コアと共に一体でモールドしてもよい。
【0026】
本発明のパルストランスは、1次巻き線および2次巻き線をシリコンポッティングによってモールドすることによって、巻き線の空間部分の電界強度を高く維持することができるため、巻き線間の絶縁破壊を防ぐことができる。
【0027】
また、シリコンポッティングによって巻き線をモールドすることによって、高電圧用の被覆が厚い高電圧電線を用いることなく低電圧電線を用いることができる。低電圧電線はポリエステル樹脂で被覆したポリエステル銅線を用いることができる。ポリエステル銅線等の低電圧電線の被膜の厚さは高電圧電線の被膜の厚さよりも薄いため、密着して巻き線を施すことができる。したがって巻き線の漏れインダクタンスを低減させることができる。
【0028】
さらに、ポリエステル銅線は高電圧電線よりも安価であるため、電線のコストを低減させてパルストランスのコストを低減させることができる。
【0029】
本発明のパルストランスは、絶縁破壊を防ぎつつ漏れインダクタンスを低減することによって、巻き線の巻き数を増やしてパルストランスを小型化、軽量化することができる。
【0030】
これは、パルストランスにおいて、電圧Vは磁気コアの断面積Aと電線の巻き数nと磁束密度Bとの間にV=A・n・(dB/dt)の関係があり、出力電圧Vを一定としたままであれば、電線の巻き数nを増やすことによってコアの断面積Aを低減させることができるためである。
【0031】
また、本発明のパルス電源装置は、パルストランスと、パルストランスの1次巻き線側に対して並列に接続されるコンデンサと、コンデンサからリアクトルを経由して1次巻き線へのエネルギー転送経路上に設けられるスイッチとを備えた構成とし、スイッチを閉じることによって形成されるエネルギー転送経路により1次巻き線側に発生する電圧に基づいてパルストランスの2次巻き線に誘導される高電圧パルスを出力する。本発明のパルス電源装置は、本発明のパルストランスを用いて構成することで、パルス電源装置を小型化し、軽量化することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明のパルス電源装置によれば、漏れインダクタンスの低減とパルストランスのサイズの小型化を同時に実現することができる。
【0033】
また、本発明のパルス電源装置によれば、漏れインダクタンスの低減と電線間の絶縁破壊の防止を同時に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のパルストランスの第1、2、3の形態の概略を説明するための図である。
【図2】パルス電源装置の一例を説明するための回路図、およびパルストランスの一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、本発明のパルストランスの構成例について、図1を用いて説明する。
【0036】
[パルストランスの第1、2、3の形態]
本発明のパルストランスの第1、2、3の形態について説明する。図1は本発明のパルストランスの第1、2、3の形態の概略を説明するための図である。以下では、第1、2、3の形態をそれぞれパルストランス1A,1B,1Cにより説明する。
【0037】
図1において、パルストランス1A,1B,1Cは、EI型の磁気コアの別の構成例を示している。パルストランス1A,1B,1Cは、E型の磁気コア部2aとI型の磁気コア部2bとから構成される磁気コア2と、磁気コア部2aに施される1次巻き線3および2次巻き線4と、シリコンポッティングで形成されるモールド部5とを備える。
【0038】
E型の磁気コア部2aは、例えば、フェライトコアによって断面形状をE型に形成し、I型の磁気コア部2bは、フェライトコアによって断面形状をI型に形成し、磁気コア部2aのE型形状の開放端に磁気コア部2bの側部が対向するように配置して磁気回路を形成する。
【0039】
1次巻き線3および2次巻き線4は、ポリエステル樹脂を銅線の周囲に被膜してなるポリエステル銅線等の低電圧電線を用いることができる。
【0040】
パルストランス1Aは、図1(a)において、2次巻き線4を絶縁体のボビンを介することなくE型の磁気コア部2aの外周面のほぼ全面に亘って施し、1次巻き線3を2次巻き線4の外側に施す。なお、1次巻き線3は2次巻き線4が施された全長に亘って施す。
【0041】
1次巻き線3の外側にさらに2次巻き線4を施して、1次巻き線3を2次巻き線4で挟み込むような構造としてもよい。
【0042】
パルストランス1Bは、図1(b)において、1次巻き線3を絶縁体のボビンを介することなく磁気コア部2aの外周面のほぼ全面に亘って施し、2次巻き線4を1次巻き線3の外側に施す。
【0043】
2次巻き線4の外側にさらに1次巻き線3を施して、2次巻き線4を1次巻き線3で挟み込むような構造としてもよい。
【0044】
パルストランス1A,1Bの1次巻き線3および2次巻き線4は、磁気コア部2aに対して同心状に均等に密着させて施す。これによって漏れインダクタンスを低減する。
【0045】
パルストランス1A,1Bのモールド部5は、磁気コア部2aの外周に施された1次巻き線3および2次巻き線4を絶縁すると共に磁気コア部2cに対して固定する。モールド部5は、磁気コア部2aに1次巻き線3および2次巻き線4を施し、磁気コア部2bを取り付けた後、シリコン樹脂を充填することで形成することができる。
【0046】
パルストランス1Cは、図1(c)において、巻き線部のみでなく、磁気コア部2a,2b共にシリコンポッティングを行って、パルストランスを一体のモールド部を形成する構成例である。
【0047】
本発明の各態様のパルストランスによれば、漏れインダクタンスを低減することができるため巻き線を増加させることができ、これによってパルストランスの磁気コアの面積を低減しても電圧時間積を所定の値を維持することが可能となり、パルストランスを小型化、軽量化することができる。
【0048】
[パルス電源装置の形態]
本発明のパルストランスの各態様はパルス電源装置に適用することができる。パルス電源装置は、図2(a)で示して回路と同様の構成とすることができ、パルス電源装置は、充電用電源,エネルギー転送用コンデンサ,リアクトル、半導体スイッチ,およびパルストランスにより構成することができる。
【0049】
エネルギー転送用コンデンサと、リアクトル、パルストランスの一次巻き線と半導体スイッチは直列接続されている。半導体スイッチを開いた状態でエネルギー転送用コンデンサを充電電源で充電し、エネルギー転送用コンデンサを充電した後に半導体スイッチを閉じる。半導体スイッチが閉じることによって形成されるエネルギー転送経路により1次巻き線側に発生する電圧に基づいて、パルストランスの二次巻き線に高電圧のパルス電圧が誘起される。
【0050】
本発明のパルス電源装置によれば、パルストランスでの高電圧発生において、1次巻き線および2次巻き線はシリコンポッティングによるモールドによって高い電界強度が得られるため、コロナ放電を防ぐことができる。
【0051】
また、パルストランスの漏れインダクタンスを少なくして磁気コアの面積を減らすことができるため、パルス電源装置を小型化、軽量化することができる。
【0052】
なお、このパルス電源装置の構成は一例であって、この構成に限られるものではない。
【0053】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のパルス電源装置は、リソグラフィ光源、オゾン発生装置、水処理、イグナイタなどの分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1A〜1C パルストランス
2 磁気コア
2a 磁気コア部
2b 磁気コア部
3 1次巻き線
4 2次巻き線
5 モールド部
10 パルス電源装置
11 パルストランス
11a,11b 磁気コア
11c 一次巻線
11d 二次巻線
11e 層間絶縁
12 充電用電源
13,16 エネルギー転送用コンデンサ
14 半導体スイッチ
15 リアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気コアと、
前記磁気コアに対して同心状に施す1次巻き線および2次巻き線を備え、
前記1次巻き線および2次巻き線は、前記磁気コアに対して低電圧電線を同心状に均等に密着させて施し、
少なくとも前記施した1次巻き線および2次巻き線をシリコンポッティングによってモールドしたことを特徴とする、パルストランス。
【請求項2】
前記シリコンポッティングは、前記1次巻き線および2次巻き線を磁気コアと共に一体でモールドしたことを特徴とする、請求項1に記載のパルストランス。
【請求項3】
前記低電圧電線はポリエステル樹脂で被覆したポリエステル銅線であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパルストランス。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のパルストランスと、
このパルストランスの1次巻き線側に対して並列に接続されるコンデンサと、コンデンサからリアクトルを経由して1次巻き線へのエネルギー転送経路上に設けられるスイッチとを備え、
前記スイッチを閉じることによって形成されるエネルギー転送経路により1次巻き線側に発生する電圧に基づいて前記パルストランスの2次巻き線に誘導される高電圧パルスを出力することを特徴とするパルス電源装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−199223(P2010−199223A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41019(P2009−41019)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】