説明

パルス発生回路

【課題】幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生する。
【解決手段】SITh18と、SITh18に直列接続されたスイッチング素子20と、SITh18及びスイッチング素子20に直列接続されたインダクタンス22と、直列接続されたSITh18及びスイッチング素子20に、インダクタンス22を介して並列接続された低電圧電源26と、インダクタンス22の両端に接続される負荷24と、SITh18のゲート・アノード間に、インダクタンス22を介して接続されるゲートダイオード28とを備え、SITh18の過渡状態において、スイッチング素子20をターンオフするパルス発生回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス発生回路に係り、特に、静電誘導サイリスタ(SITh)を使用し、過渡状態のターンオフに特徴を有するパルス発生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
SITh、静電誘導トランジスタ(SIT)は電力用半導体素子として開発され、実用化されている。高速でターンオン、ターンオフが可能なSIThを用い、低電圧電源による簡単な回路構成で、誘導エネルギー蓄積(IES:Inductive Energy Store)による極幅狭高電圧パルス発生回路が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、従来の極幅狭高電圧パルス発生回路では、SIThを定常電流導通状態においてターンオフしているため、更に幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生するという点で、問題があった。
【非特許文献1】飯田克二、佐久間健、“SIサイリスタによる極短パルス発生回路(IES)”第15回SIデバイスシンポジウム予稿集、SIデバイス研究会、SSID−02―9、2002年6月14日、p.45〜50,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、SIThが過渡状態で、スイッチング素子をオフしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生するパルス発生回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、(イ)SIサイリスタと、(ロ)SIサイリスタに直列接続されたスイッチング素子と、(ハ)SIサイリスタ及びスイッチング素子に直列接続されたインダクタンスと、(ニ)直列接続されたSIサイリスタ及びスイッチング素子に、インダクタンスを介して並列接続された電源と、(ホ)インダクタンスの両端に接続される負荷と、(ヘ)SIサイリスタのゲート・アノード間に、インダクタンスを介して並列に接続されるゲートダイオードとを備え、(ト)SIサイリスタの過渡状態において、スイッチング素子をターンオフするパルス発生回路が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、(イ)SIサイリスタと、(ロ)SIサイリスタに直列接続されたトランスと、(ハ)トランスの1次側のインダクタンスを介してSIサイリスタのアノード・カソード間に並列接続された電源と、(ニ)SIサイリスタのアノード・カソード間に逆並列接続されたフライホイールダイオードと、(ホ)トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷と、(ヘ)SIサイリスタのゲート・カソード間に配置されたゲートパルス電源とを備え、(ト)SIサイリスタの過渡状態において、ゲートパルス電源をターンオフするパルス発生回路が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、(イ)互いに直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタと、(ロ)直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第1電源及び第2電源と、(ハ)直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタの接続点と、直列接続された第1電源及び第2電源の接続点との間に接続された1次側のインダクタンスを有するトランスと、(ニ)トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷とを備え、(ホ)第1SIサイリスタの過渡状態において、第1SIサイリスタをターンオフし、第2SIサイリスタの過渡状態において、第2SIサイリスタをターンオフするパルス発生回路が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、(イ)互いに直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタと、(ロ)直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第3SIサイリスタ及び第4SIサイリスタと、(ハ)直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第1電源及び第2電源と、(ニ)直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタの接続点と、直列接続された第1電源及び第2電源の接続点との間に接続された1次側のインダクタンスを有するトランスと、(ホ)トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷とを備え、(ヘ)第1SIサイリスタの過渡状態において、第1SIサイリスタをターンオフし、第2SIサイリスタの過渡状態において、第2SIサイリスタをターンオフし、第3SIサイリスタの過渡状態において、第3SIサイリスタをターンオフし、第4SIサイリスタの過渡状態において、第4SIサイリスタをターンオフするパルス発生回路が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパルス発生回路によれば、SIThが過渡状態で、スイッチング素子をオフしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の第1乃至第4の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、平面寸法、時間軸等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な平面寸法、時間軸等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
また、以下に示す第1乃至第4の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための回路や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
[第1の実施の形態]
(回路構成)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図1に示すように、SITh18と、SITh18に直列に接続されたスイッチング素子20と、直列接続されたSITh18とスイッチング素子20に対して、更にインダクタンス(L0)22を介して直列接続された低電圧電源(VE)26とを備える。インダクタンス22の両端には、負荷24が接続される。SITh18のゲート・アノード間には、インダクタンス22を介して、ゲートダイオード(Dg)28が接続されている。スイッチング素子20は、例えば、MOSFETならびにIGBTから構成され、ソース・ドレイン間には保護ダイオードDfが並列に接続され、ゲート・ソース間には、ゲートパルス電源(Vg) 32が接続されている。尚、ゲートダイオード(Dg)28と並列にゲート抵抗(Rg)30が接続されていてもよい。
【0013】
(動作波形)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路50の動作波形は、図2(a)乃至(d)に示すように模式的に表される。即ち、過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vat及び電流波形Iatは、図2(a)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時のゲート信号波形VGKは、図2(b)に示すように表される。一方、定常状態でのターンオフ時における電圧波形Va及び電流波形Iaは、図2(c)に示すように表され、定常状態でのターンオフ時におけるゲート信号波形VGKは、図2(d)に示すように表される。
【0014】
過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、定常状態でのターンオフ時における電圧波形Vaに比較し、パルス幅が狭く、かつ急峻な立上がりを示すことがわかる。即ち、パルス幅が短く、かつ高い電圧上昇率dv/dtを有するパルス電圧波形Vatを発生することができる。しかも、電圧波形Vatのピーク値も高くなっている。
【0015】
過渡状態Aは、SITh18が順方向ブロッキング状態にあり、SITh18は未だラッチングアップしていない状態に相当する。順方向ブロッキング電圧は、VAで表される。
過渡状態Bは、SITh18がラッチングアップして、定常状態に移行するまでの過渡的な状態に相当する。
【0016】
定常状態とは、SITh18がラッチングアップし、SITh18のアノ−ド・カソード間にアノード電流Iaが定常電流として導通しつづける状態に相当する。定常状態においては、SITh18のアノ−ド・カソード間には導電率変調電流が導通し、SITh18は導電率変調状態にある。
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路50は、SITh18が過渡状態(導電率変調が不十分な状態)で、スイッチング素子20をオフにしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生することができる。
【0018】
(電流―電圧特性)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路に適用するSITh18の電流―電圧特性は、例えば、図3に示すように表される。過渡状態A、過渡状態B及び定常状態(導電率変調状態)に分けて表されている。
【0019】
過渡状態Aにおいて、順方向電圧VFを増加させ、最大ブロッキング電圧VAに至ると、過渡状態Bに移行し、SITh18はラッチングアップする。過渡状態Aにおける最大ブロッキング電圧VAから、過渡状態Bと定常状態との臨界点Qに至る範囲が過渡状態Bに相当する。臨界点Cから更に電流が導通する状態が定常状態であり、SITh18には導電率変調状態の電流が定常電流として導通する。
【0020】
図3において示された過渡状態Aにおける最大ブロッキング電圧VAと、過渡状態Bと定常状態との臨界点Qは、図2(a)及び図2(c)に示されている通りである。
【0021】
(キャリア状態の説明)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路に適用するSIThの動作は、図4に示すキャリア状態の説明図を用いて、模式的に表すことができる。SIThは、図4(a)に示すように、n-高抵抗半導体層1と、n-高抵抗半導体層1の第1表面に形成された+カソード領域7と、n-高抵抗半導体層1の第2表面に形成されたp+アノード領域6と、n-高抵抗半導体層1中のn+カソード領域7近傍に埋め込まれて形成されたp+ゲート領域2と、p+ゲート領域2とn+カソード領域7との間に形成されたn-エピタキシャル成長層8と、n+カソード領域7に電気的にオーミック接触するカソード電極5と、p+アノード領域6に電気的にオーミック接触するアノード電極4とを備える。p+ゲート領域2間のチャネル領域は空乏化され、チャネル領域内に形成されたポテンシャルバリアが静電誘導効果によって、容量結合によって制御される。
【0022】
−過渡状態A−
過渡状態Aにおいて、SIThの断面構造におけるキャリア分布は、模式的に図4(a)に示すように表され、SIThのアノード・カソード間におけるキャリア濃度分布は、模式的に図4(b)に示すように表される。過渡状態Aにおいては、順方向ブロッキング状態であることから、n-高抵抗半導体層1は空乏化されており、n-高抵抗半導体層1中にリア(電子及び正孔)はほとんど存在していないことがわかる。
【0023】
−過渡状態B−
過渡状態Bにおいて、SIThの断面構造におけるキャリア分布は、模式的に図4(c)に示すように表され、SIThのアノード・カソード間におけるキャリア濃度分布は、模式的に図4(d)に示すように表される。過渡状態Bにおいては、SIThはラッチングアップ状態にあり、空乏化されたn-高抵抗半導体層1中に、p+アノード領域6から正孔が注入され、n+カソード領域7から電子が注入される。
【0024】
−定常状態−
定常状態において、SIThの断面構造におけるキャリア分布は、模式的に図4(e)に示すように表され、SIThのアノード・カソード間におけるキャリア濃度分布は、模式的に図4(f)に示すように表される。定常状態においては、SIThのアノード・カソード間には電流が導通し続けており、電子電流及び正孔電流が略同程度の電流密度で流れる。n-高抵抗半導体層1中には、キャリアが充満しており、もはや空乏化されてはいない。アノードからの注入電流である正孔電流と、カソードからの注入電流である電子電流によって、SIThのアノード・カソード間は、導電率変調状態になっている。
【0025】
(スイッチング特性)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路において、過渡状態A及び過渡状態Bにおけるターンオフ時の電圧波形Vat3〜Vat8と、定常状態におけるターンオフ時の電圧波形Va,Va1,Va2及び電流波形Iaの測定データは、図5に示すように表される。
【0026】
過渡状態Aにおけるターンオフ時のパルス電圧波形Vat8の電圧ピークは、過渡状態Bにおけるターンオフ時のパルス電圧波形Vat7と比較して低下しているが、パルス幅は明らかに短い。
【0027】
過渡状態B内で比較すると、ターンオフ時のパルス電圧波形Vat3,Vat4,Vat5,Vat6,Vat7の順番で電圧ピーク値は上昇し、パルス幅は短くかつ電圧上昇率dv/dtも高い。
定常状態内で比較すると、ターンオフ時のパルス電圧波形Va,Va1,Va2の順番でパルス幅は短くかつ電圧上昇率dv/dtも高くなるが、電圧ピーク値は略一定である。電流波形Iaは、定常状態における電圧波形Vaに対応する。
【0028】
(パルス発生回路の回路動作)
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路の回路動作を、図6を参照して説明する。
【0029】
(a)SITh18及びスイッチング素子20をオン状態にして、図6に示すように、導通電流Ionを低電圧電源(VE)26からインダクタンス(L0)22を介して導通させる。この状態で、インダクタンス(L0)22に磁気エネルギーが蓄積される。
【0030】
(b)次に、スイッチング素子20をオフ状態にすると、SITh18のアノード・ゲート間には、遮断電流Ioffがインダクタンス22及び、ゲートダイオード(Dg)28を介して導通し、SITh18をターンオフする。
【0031】
(c)SITh18がターンオフすると、インダクタンス(L0)22に流れていた電流が負荷24に転流し、負荷24に急峻な電流を流すことによって、急峻な電圧パルスを発生する。
【0032】
本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路は、SITh18のスイッチング動作を過渡状態で実行することによって、パルス幅の短い、かつ急峻な電圧上昇率dv/dtを有する電圧パルスを発生することができる。
【0033】
又、本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路は、低電圧電源(VE)26から高電圧パルスの発生が可能である。
【0034】
又、本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路は、負荷24に投入したエネルギーの内、余分なエネルギーの回生が可能である。
【0035】
[第2の実施の形態]
(回路構成)
本発明の第2の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図7(a)に示すように、SITh18と、SITh18と直列接続されたトランス16と、更にトランス16を介してSITh18のアノード・カソード間に対して並列接続された低電圧電源(VE)26とを備える。トランス16の1次側のインダクタンス(L0)22に対して、2次側のインダクタンスの両端には、負荷24が接続される。SITh18のアノード・カソード間には、逆並列接続されたフライホイールダイオード(FWD)が配置されている。SITh18のゲート・カソード間には、ゲートパルス電源32が接続されている。
【0036】
(動作波形)
本発明の第2の実施の形態に係るパルス発生回路50の動作波形は、図7(b)乃至(d)に示すように模式的に表される。即ち、過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vat及び電流波形Iatは、図7(b)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Igは、図7(c)に示すように表され 、過渡状態でのターンオフ時のゲート信号波形VGKは、図7(d)に示すように表される。
【0037】
過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、定常状態でのターンオフ時における電圧波形Vaに比較し、パルス幅が狭く、かつ急峻な立上がりを示すことは、第1の実施の形態と同様である。即ち、パルス幅が短く、かつ高い電圧上昇率dv/dtを有するパルス電圧波形Vatを発生することができる。しかも、電圧波形Vatのピーク値も高くなる。
【0038】
本発明の第2の実施の形態に係るパルス発生回路は、SITh18が高耐圧であることを利用して、トランス16の昇圧比nが少なく、負荷インピーダンスを小さく設定することができる。トランス16の2次側から見たインピーダンスは、1次側から見たインピーダンスのn2倍とすることができる。
【0039】
本発明の第2の実施の形態に係るパルス電源回路によれば、SIThが過渡状態(導電率変調が不十分な状態)で、ターンオフしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生することができる。
【0040】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図8(a)に示すように、直列接続構成のSITh38及びSITh40と、直列接続構成のSITh38及びSITh40に対して並列に接続された直列接続構成の低電圧電源(VE1)34及び低電圧電源(VE2)36と、直列接続構成のSITh38及びSITh40の接続点と直列接続構成の低電圧電源(VE1)34及び低電圧電源(VE2)36の接続点との間に接続されたトランス16とを備える。トランス16の1次側のインダクタンスに対して、2次側のインダクタンスの両端には、負荷24が接続される。
【0041】
(動作波形)
本発明の第3の実施の形態に係るパルス発生回路50の動作波形は、図8(b)乃至図8(e)に示すように模式的に表される。即ち、過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、図8(b)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時における電流波形Iatは、図8(c)に示すように表される。又、過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig1 は、図8(d)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig2 は、図8(e)に示すように表される。
【0042】
過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、定常状態でのターンオフ時における電圧波形Vaに比較し、パルス幅が狭く、かつ急峻な立上がりを示すことは、第1の実施の形態と同様である。即ち、パルス幅が短く、かつ高い電圧上昇率dv/dtを有するパルス電圧波形Vatを発生することができる。しかも、電圧波形Vatのピーク値も高くなる。
【0043】
又、本発明の第3の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図8(a)に示すようなハーフブリッジの構成を有することから、正負両方向の高電圧パルスを発生することができる。
【0044】
本発明の第3の実施の形態に係るパルス発生回路は、本発明の第2の実施の形態に係るパルス発生回路と同様に、SITh18が高耐圧であることを利用して、トランス16の昇圧比nが少なく、負荷インピーダンスを小さく設定することができる。トランス16の2次側から見たインピーダンスは、1次側から見たインピーダンスのn2倍とすることができる。
【0045】
本発明の第3の実施の形態に係るパルス電源回路によれば、SIThが過渡状態(導電率変調が不十分な状態)で、ターンオフしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生することができる。
【0046】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図9(a)に示すように、直列接続構成のSITh38及びSITh40と、直列接続構成のSITh42及びSITh44と、直列接続構成のSITh38及びSITh40に対して並列に接続された低電圧電源(VE)26と、直列接続構成のSITh38及びSITh40の接続点と直列接続構成のSITh42及びSITh44の接続点との間に接続されたトランス16とを備える。トランス16の1次側のインダクタンスに対して、2次側のインダクタンスの両端には、負荷24が接続される。
【0047】
(動作波形)
本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路50の動作波形は、図9(b)乃至図9(e)に示すように模式的に表される。即ち、過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、図9(b)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時における電流波形Iatは、図9(c)に示すように表される。又、過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig1 ,Ig4は、図8(d)に示すように表され、過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig2 ,Ig3 は、図8(e)に示すように表される。
【0048】
過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vatは、定常状態でのターンオフ時における電圧波形Vaに比較し、パルス幅が狭く、かつ急峻な立上がりを示すことは、第1乃至第3の実施の形態と同様である。即ち、パルス幅が短く、かつ高い電圧上昇率dv/dtを有するパルス電圧波形Vatを発生することができる。しかも、電圧波形Vatのピーク値も高くなる。
【0049】
又、本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路50は、図9(a)に示すようなフルブリッジの構成を有することから、正負両方向の高電圧パルスを発生することができる。しかも、フルブリッジの構成を有することから、本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路50に比較して、電流駆動能力増大することができる。
【0050】
本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路は、本発明の第2乃至第3の実施の形態に係るパルス発生回路と同様に、SITh18が高耐圧であることを利用して、トランス16の昇圧比nが少なく、負荷インピーダンスを小さく設定することができる。トランス16の2次側から見たインピーダンスは、1次側から見たインピーダンスのn2倍とすることができる。
【0051】
本発明の第4の実施の形態に係る半導体パルス電源回路によれば、SIThが過渡状態(導電率変調が不十分な状態)で、ターンオフしてパルスを発生させることで、幅の短いかつ高い電圧上昇率(dv/dt)の高電圧パルスを発生することができる。
【0052】
[適用例]
本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路の適用例は、図10に示すように表される。即ち、図10(a)は、比較例として、本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路50を、定常状態においてターンオフ動作させて発生する電圧パルスを使用して、放電用アノード電極10と放電用カソード電極12間にアーク放電を発生する場合の模式図であり、図10(b)は、本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路50を、過渡状態においてターンオフ動作させて発生する電圧パルスを使用して、放電用アノード電極10と放電用カソード電極12間にグロー放電を発生する場合の模式図である。
【0053】
本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路50は、定常状態においてSIThをターンオフ動作させて発生する電圧パルスを使用する場合には、電圧パルスのパルス幅が相対的に長く、電圧上昇率(dv/dt)も相対的に低いため、10(a)に示すように、アーク放電が発生しやすい。一方、本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路50は、過渡状態においてSIThをターンオフ動作させて発生する電圧パルスを使用する場合には、電圧パルスのパルス幅が短く、電圧上昇率(dv/dt)も高いため、10(b)に示すように、グロー放電が発生しやすい。
【0054】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1乃至第4の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0055】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路の模式的構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路の動作波形であって、(a)過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vat及び電流波形Iat、(b)過渡状態でのターンオフ時のゲート信号波形VGK、(c)定常状態でのターンオフ時における電圧波形Va及び電流波形Ia、(d)定常状態でのターンオフ時におけるゲート信号波形VGK
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路に適用するSIサイリスタの電流―電圧特性例。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路に適用するSIサイリスタの動作説明図であって、(a)過渡状態Aにおいて、SIサイリスタの断面構造におけるキャリア分布の模式図、(b)過渡状態Aにおいて、アノード・カソード間のキャリア濃度分布の模式図、(c)過渡状態Bにおいて、SIサイリスタの断面構造におけるキャリア分布の模式図、(d)過渡状態Bにおいて、アノード・カソード間のキャリア濃度分布の模式図、(e)定常状態において、SIサイリスタの断面構造におけるキャリア濃度分布の模式図、(f)定常状態において、アノード・カソード間のキャリア濃度分布の模式図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路において、過渡状態A及び過渡状態Bにおけるターンオフ時の電圧波形Vat3〜Vat8と、定常状態におけるターンオフ時の電圧波形Va,Va1,Va2及び電流波形Iaの測定データを示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るパルス発生回路の回路動作の説明図。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るパルス発生回路であって、(a)模式的回路構成図、(b)過渡状態でのターンオフ時における電圧波形Vat及び電流波形Iatの模式図、(c)過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Igの模式図、(d)過渡状態でのターンオフ時におけるゲート信号波形VGKの模式図。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るパルス発生回路であって、(a)模式的回路構成図、(b)過渡状態でのターンオフ時における出力電圧波形Vatの模式図、(c)過渡状態でのターンオフ時における入力電流波形Iatの模式図、(d)過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig1(e)過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig2の模式図。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係るパルス発生回路であって、(a)模式的回路構成図、(b)過渡状態でのターンオフ時における出力電圧波形Vatの模式図、(c)過状態でのターンオフ時における入力電流波形Iatの模式図、(d)過渡状態でのターンオフ時におけるゲート電流波形Ig1,Ig4の模式図、(e)過渡状態でのターンオフ時のゲート電流波形Ig2,Ig3の模式図。
【図10】本発明の第1乃至第4の実施の形態に係るパルス発生回路の適用例の説明図であって、(a)比較例としてのアーク放電の場合の模式図、(b)グロー放電の場合の模式図。
【符号の説明】
【0057】
1…n-高抵抗半導体層
2…p+ゲート領域
4…アノード電極
5…カソード電極
6…p+アノード領域
7…n+カソード領域
8…n-エピタキシャル成長層
10…放電用アノード電極
12…放電用カソード電極
14…フライホイールダイオード(FWD)
16…トランス
18,38,40,42,44…SIサイリスタ(SITh)
20…スイッチング素子
22…インダクタンス(L0
24…負荷
26,34,36…低電圧電源(VE
28…ゲートダイオード(Dg)
30…ゲート抵抗(Rg)
32…ゲートパルス電源(Vg)
50…パルス発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIサイリスタと、
前記SIサイリスタに直列接続されたスイッチング素子と、
前記SIサイリスタ及び前記スイッチング素子に直列接続されたインダクタンスと、
直列接続された前記SIサイリスタ及び前記スイッチング素子に、前記インダクタンスを介して並列接続された電源と、
前記インダクタンスの両端に接続される負荷と、
前記SIサイリスタのゲート・アノード間に、前記インダクタンスを介して並列に接続されるゲートダイオード
とを備え、前記SIサイリスタの過渡状態において、前記スイッチング素子をターンオフ
することを特徴とするパルス発生回路。
【請求項2】
前記SIサイリスタの過渡状態は、前記SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であることを特徴とする請求項1記載のパルス発生回路。
【請求項3】
前記スイッチング素子をターンオフすることで、前記負荷に電圧パルスを発生することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパルス発生回路。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、MOSFETならびにIGBTで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3の内、いずれか1項に記載のパルス発生回路。
【請求項5】
SIサイリスタと、
前記SIサイリスタに直列接続されたトランスと、
前記トランスの1次側のインダクタンスを介して前記SIサイリスタのアノード・カソード間に並列接続された電源と、
前記SIサイリスタのアノード・カソード間に逆並列接続されたフライホイールダイオードと、
前記トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷と、
前記SIサイリスタのゲート・カソード間に配置されたゲートパルス電源
とを備え、前記SIサイリスタの過渡状態において、前記ゲートパルス電源をターンオフ
することを特徴とするパルス発生回路。
【請求項6】
前記SIサイリスタの過渡状態は、前記SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であることを特徴とする請求項5記載のパルス発生回路。
【請求項7】
前記ゲートパルス電源をターンオフすることで、前記負荷に電圧パルスを発生することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパルス発生回路。
【請求項8】
互いに直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタと、
直列接続された前記第1SIサイリスタ及び前記第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第1電源及び第2電源と、
直列接続された前記第1SIサイリスタ及び前記第2SIサイリスタの接続点と、直列接続された前記第1電源及び前記第2電源の接続点との間に接続された1次側のインダクタンスを有するトランスと
前記トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷
とを備え、前記第1SIサイリスタの過渡状態において、前記第1SIサイリスタをターンオフし、前記第2SIサイリスタの過渡状態において、前記第2SIサイリスタをターンオフすることを特徴とするパルス発生回路。
【請求項9】
前記第1SIサイリスタの過渡状態は、前記第1SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であり、前記第2SIサイリスタの過渡状態は、前記第2SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であることを特徴とする請求項8記載のパルス発生回路。
【請求項10】
前記第1SIサイリスタをターンオフすることで前記負荷に正方向の電圧パルスを発生し、前記第2SIサイリスタをターンオフすることで、前記負荷に負方向の電圧パルスを発生することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のパルス発生回路。
【請求項11】
互いに直列接続された第1SIサイリスタ及び第2SIサイリスタと、
直列接続された前記第1SIサイリスタ及び前記第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第3SIサイリスタ及び第4SIサイリスタと、
直列接続された前記第1SIサイリスタ及び前記第2SIサイリスタに並列接続され、互いに直列接続された第1電源及び第2電源と、
直列接続された前記第1SIサイリスタ及び前記第2SIサイリスタの接続点と、直列接続された前記第1電源及び前記第2電源の接続点との間に接続された1次側のインダクタンスを有するトランスと
前記トランスの2次側のインダクタンスの両端に配置された負荷
とを備え、前記第1SIサイリスタの過渡状態において、前記第1SIサイリスタをターンオフし、前記第2SIサイリスタの過渡状態において、前記第2SIサイリスタをターンオフし、前記第3SIサイリスタの過渡状態において、前記第3SIサイリスタをターンオフし、前記第4SIサイリスタの過渡状態において、前記第4SIサイリスタをターンオフすることを特徴とするパルス発生回路。
【請求項12】
前記第1SIサイリスタの過渡状態は、前記第1SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であり、前記第2SIサイリスタの過渡状態は、前記第2SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であり、前記第3SIサイリスタの過渡状態は、前記第3SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であり、前記第4SIサイリスタの過渡状態は、前記第4SIサイリスタのブロッキング状態と定常状態との間であることを特徴とする請求項11記載のパルス発生回路。
【請求項13】
前記第1SIサイリスタ及び前記第4SIサイリスタをターンオフすることで前記負荷に正方向の電圧パルスを発生し、前記第2SIサイリスタ及び前記第3SIサイリスタをターンオフすることで、前記負荷に負方向の電圧パルスを発生することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載のパルス発生回路。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−259308(P2007−259308A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83900(P2006−83900)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】