説明

パルス符号変調データ情報格納方法ならびに著作権保護対応音楽CDのオンデマンド生産方法

【課題】音楽CDのCD−DAフォーマットの規格を逸脱することなく,且つ音声データに悪影響を与えずに、著作権保護情報等の非音声データを埋設することで違法な複製を抑止する。
【解決手段】パルス符号変調データとして無音もしくは極めて小さい音として認識される変位量値に非音声データをエンコードS11cすることで、音声データ内に非音声データを格納S11eしても音声品質を低下させずに、情報を制御可能となる。著作権保護情報として音楽パッケージ商品やその生産情報および消費者の商品購入に関する情報を音楽CDに内在させることができるため、違法な複製をすると消費者活動の情報までも同時に複製されて広く配布されてしまうことから、違法複製に対する心理面での防御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声情報を劣化させずにパルス符号変調データに著作権保護等を目的としたセキュリティ情報を格納する方法であり、著作権保護を可能にする音楽CDをオンデマンド生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レコードやカセットに代わる音楽パッケージの主力媒体として音楽CDが広く普及した。音楽CDはパルス符号変調データをリニアPCMとしてCD−DAと称される物理フォーマットの規格に基づき構成されている。
【0003】
音楽CDはデジタルデータで記録された媒体であり、パソコンで簡単に音楽CDのデジタルデータを読み出すことができるため、CD−Rなどの記録可能なディスクへ音質を全く劣化させずに簡単に複製することができる媒体である。このため、市販されている音楽CDを元にした膨大な量の違法な複製が社会問題へと発展している。
【0004】
この違法な複製への改善策として、特表2007−510245で述べられている方法があるが、この方法で作成される音楽CDはCD−DAの規格からは逸脱してしまうマルチセッションディスク構造になってしまう。一般家庭のオーディオプレーヤーやカーステレオ、パソコンなどが音楽CDを再生しようとする際には、シングルセッションのCD構造体を期待して読み取り動作をおこなうため、マルチセッションのCDでは再生に対する動作保証ができなくなってしまい、消費者の利便性に大きな問題が生ずる。
【特許文献1】特表2007−510245
【0005】
汎用性のある音楽CDの利便性を考慮した特開2001−250322では、音声データであるWAVファイルとコピー管理情報CFの2つを組み合わせることを考案している。しかし、コピー管理情報を音声データ内に直接書き込むことができないため、結果として管理情報が欠落してしまい効力が消失する問題が生じる。
【特許文献1】特開2001−250322
【0006】
音楽CDのCD−DA物理フォーマットには著作権保護手段であるSCMS(シリアルコピーマネージメントシステム)が規定されている。しかし、一般に普及しているCDを複製できるソフトウェアの殆ど全てにおいて、このフィールドを参照した複製可否の判断をしていないことから、事実上著作権保護手段が機能していない実情がある。
【0007】
一部の大手レコードメーカー数社が米国の著作権保護技術を利用したコピープロテクションCDを音楽CDとして国内販売していた時期があった。しかし、音楽CDとしての規格を外れているため再生保証がされずに市場が混乱した経緯があった。
【0008】
携帯電話での音楽再生やポータブル・オーディオ・プレーヤーが広く普及した今日では、音楽CD側に物理的な複製保護技術が実装されている場合には楽曲の読み出しや楽曲の転送が保証されないため、消費者の利便性が損なわれ、問題となっている。
【0009】
音楽CDのCD−DAの物理フォーマットはデータ用のCD−ROMのような構造体を持っていない。そのため、音声以外のある種の情報を同梱する場合にはUPCやISRCなどが記録されているサブチャネルを利用するしかない。しかし、CDを複製できるソフトウェアの多くはサブチャネル域の読み出しや複製ができないため、サブチャネル域を利用した著作権保護情報は複製時に自動的に欠落や除去されてしまうことになる。
【0010】
オーディオデータ領域だけを有している音楽CDでは、音声トラックにオーディオデータ以外の情報を記録または混入させた場合、オーディオ再生機器類ではノイズ成分として再生されてしまい、音楽パッケージ商品用の媒体としては不適切な問題が生じる。
【0011】
違法な複製をおこなっている人々には著作権法に対する侵害行為や違法行為に対する自意識が高くない傾向が強いと共に、自分が違法な複製をしても自分自身が犯罪者として検挙される可能性が極めて低いという安心感が違法行為増長の背景にあるとみられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、著作権保護を目的とした情報を音楽CDに格納しようとすると、CD−DAの規格を逸脱することによる様々な問題を誘発させたり、消費者の利便性や音楽パッケージ商品としての品質・音質を損なう点である。
【0013】
また、違法な複製が横行していることにより、音楽産業界の売上高が大きく低下している点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、パルス符号変調データに一定の変位量制限で加工したデジタルデータを付与して音楽CDを生産することで、オーディオトラックの音質を低下させずにオーディオ以外の情報を格納する手段を最も主要の特徴とする。
【0015】
また、一般的な複製防止機能を実装した音楽CDのようにCD−DAの規格を外れたり、利便性の低下、および再生問題を誘発させないようにオーディオトラック以外には不要な情報を格納せずに著作権保護情報を内包化させることで、本発明は正規の所有者に対して不便を強いることなく、違法な複製の増長を抑止できる特徴をもつ。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、店頭で消費者が音楽CDを購入する際に、その都度、著作権保護情報を生成して格納するため、1枚ごとに個別の情報を内包化させることができる。そのCDを生産した日時情報や生産地域情報、店舗情報、顧客・販売先情報などの出生情報を音楽CD内に安全に記録できることにより、違法な複製が発見された場合に発生源の特定の可能性を高めることができる。
【0017】
本発明で保護された音楽パッケージ商品が店頭でのオンデマンド生産により普及すれば、需要数量の少なさからレコードメーカーで生産されなくなった古い音楽パッケージ商品でも、その安全性から再度市場に流通が促進されることにより、日本の文化芸能を維持・保存し続け、後世に残すことのできる
可能性が高まる。
【0018】
本発明により音楽CDが生産されるようになることで、違法な複製はいずれ検挙に至る可能性が生じることを世間に訴求し、違法な複製に対する意識の低かった人々への著作権法順守の意識を向上させる啓蒙により、違法な複製により低下した音楽産業の売り上げを回復できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
音楽パッケージ商品を店頭などで都度生産する際に、著作権保護情報の格納とその利用を最小のデータ処理手順で、商品の利便性や音質を損なわずに実現した。
【0020】
音楽CDを生産するためには、一般的なCD−DAとして44.1KHz 16bit ステレオサンプリングのリニアPCMのパルス符号変調データを用意する。 パルス符号変調データの音声データは図1のような波形パターンを有する。 また、この際のデータは16進数で図2のように記録されている。
【0021】
パルス符号変調データでは無音部分は0x0000、または0x0000と0xFFFFに近い数値で左チャンネル、および右チャンネルの繰り返しにより配置されている。 一般的なオーディオトラックの音声データはこの無音もしくは無音に近い音声データが相当数続いた後から変位量の多い有音部分が展開されている。
【0022】
一般的なCD書き込みソフトウェアやCDドライブは、CD−DAの読み出し構造には音声データの開始検知点に若干の差異が生じる。 そのため、音声データの先頭部や末尾に非音声データを付与すると、複製などの行為で記録される物理セクタが変化し、情報が欠落する恐れがある。そこで、音声データ前方に著作権情報を格納する場合は、実音声開始部をパルス符号変調データの変位量増加の開始点まで検索する。具体的には例えば無音域が0x0000で埋まっている場合、格納しようとする著作権情報量の単位でブロック検索をおこない、0x0000が連続で並ぶことの無くなった位置から埋め込み単位量分を減算したオフセットアドレスを挿入位置と決定する。
この時の著作権情報挿入位置探索アルゴリズムのフローチャートを図3に示す。
【0023】
音声データ後方に著作権情報を格納する場合は、図3の探索方向をパルス符号変調データ末尾から昇順におこなうだけで良い。
【0024】
埋め込み対象の音声データによっては、無音部分にもノイズが混入し続けている場合がある。図4はその典型例だが、音声データ先頭から全てが0x0000で並んでいない場合もあるため、その場合には一定量の閾値を設定し、その範囲内の変位量は0x0000と同値と判断して検索をおこなうことで挿入位置を割り出すことが可能となる。
【0025】
パルス符号変調データの有音部開始付近の波形パターンは図5のようになっている。5の無音部分から徐々にデータ変位量が増加していることが判る。
【0026】
この有音開始部分に無造作に非音声データを格納すると図6の6のようにノイズ成分が雑音となった波形パターンに変化する。表1に示す出生情報を含めた著作権保護情報の日時情報やその他生産にかかわる情報をコンピュータ処理する場合、一般的にはそれらの情報を10進数や16進数の数値として用いる。図6は表1の一般的数値情報を、元となる図7のパルス符号変調データのオフセットアドレス0x2B0F0に埋め込んだ図8の波形パターンである。
この付加した部分は、このまま音楽CDとして生産した場合、そのCDをオーディオ再生装置で再生させると音声開始前にクリックノイズのような雑音が聴取されてしまう。
【0027】
パルス符号変調データでは無音データパターンに近似した16進数値は無音に限りなく近くなる発明の効果を適用し、変位量が正方向に0x0000から0x8000、負方向からは0x8000から0xFFFFFに向かって音量依存していることを踏まえて、0x0000からの一定増分までは人間の耳で聴取不可能な音声となることを応用して、記録したい非音声データを分解して変位量の非常に小さいパルス符号変調データとしてエンコードしたものを格納する。
【0028】
表1の項目例の数値情報を最大でも2バイト(1ワード)の0x000F以下に抑えられるようにエンコードをおこなう。このため数値情報を1バイト表現可能な数字として分解して上位バイトにゼロを補完することで1ワードで1
桁分の数値を表現できる。音楽CDのCD−DAは一般的に44.1KHz 16ビット ステレオ形式であるため、図1の1で示す左チャンネルと2で示す右チャンネルの繰り返し順序で、それぞれ下位バイト・上位バイトの順に音声データがワード単位に配置されている。 上位バイトをゼロとし下位バイトのみを有益な数値データとした場合の最大値は0x00FFとなるが、0x007F前後の値では耳を澄まして検聴した場合、ノイズ成分を雑音として認識できてしまう。
【0029】
そこで変位量が全体の0%にしかならないように0x000F以下の数値で表現することにより、パルス符号変調データ上ではデータを存在させても無音データと近似にすることができる。
【0030】
上記例は0x0000からの正方向についてのみのエンコード例だが、同様に負方向においても0xFFFFに近いパルス符号変調データが差異分マイナス0x000Fの範囲内であればノイズ等の問題が回避できるため、正負を用いて二倍の表現範囲でエンコードをすることも可能である。
【0031】
この発明によりエンコードした表1の項目情報を有効音声データ先頭に埋め込んだパルス符号変調データは図9の8の部分となる。図8の7で示される埋め込まれたデータの3倍強の大きさだが、そのパルス符号変調データを音声データとして波形パターンを確認しても、図10の9の部分で示すようにノイズ成分は検知できなくなる。また、このパルス符号変調データを音楽CDのCD−DAとして記録し、検聴してもノイズを示す雑音を一般的な聴力の成人では聴きとることはできない。
【0032】
本発明は、前述例に出したように、埋め込むべき情報のエンコード結果の数値情報を0x0000から0x000Fの範囲に限定したり、埋め込むべきデータ量を表1のように64バイトに制限するものではない。埋め込むべき非音声データをパルス符号変調データとして認識される際に無音または極めて小さい音として表現される小さい数値情報にエンコードして情報格納することで、音声データ内に雑音等のノイズ成分の影響を与えずに非音声データを混入できることが特徴である。
【0033】
本発明は、著作権保護情報のみを格納するものではないため、より汎用的な非音声データを音声データおよび音楽CDに含むことができるものである。
【0034】
音楽CDが違法に複製される際に最も多いのは元となる音楽CDの音質を劣化させることのないCDの全音声トラックを丸ごと複製する方法である。本発明は各音声トラックに記録されているリニアPCMのパルス符号変調データに非音声データを内包させることが可能なため、このような複製において非音声データは欠落せずに複製先媒体にも転送されることも特徴の1つである。
【0035】
次に多いのは、音楽CDから任意の楽曲をWAVEファイルとしてリッピングする行為である。この際にも音質を劣化させずに44.1KHz 16ビット ステレオサンプリングで抽出された場合には、同様に埋設している非音声データを維持し続けることが可能である。
【実施例1】
【0036】
図11は、本発明で店頭にて音楽CDを生産する際の全体の流れを示したものである。図中のS11dおよびS11eは図3の処理である。S11cは特定のアルゴリズムに依存しないため、またS11fは一般的な記録方法であるので説明は省略する。
【0037】
図12は、違法複製と思わしき証拠物が発見された際、その音楽CDに本発明によって非音声データが内包化されているかを検出するプロセスを示したものである。S12cの探索用キーコードとは例で示した表1の項目例にある探索キーコードを意味するが、キーコードの内容は任意である。S12dの妥当性確認コードは、例で示した表1のCRCコードに該当するが、妥当性確認を目的としているためCRCコードに依存せず、パリティでもチェックサムでも構わない。
【0038】
図12のS12fは、違法な複製が検出された際に、そのCDを販売した日時や場所または店舗および販売先顧客情報へと繋がることから、本発明の普及により精神的なコピープロテクションの啓蒙活動に効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
レコードショップなどの店頭にて、オンデマンドで音楽パッケージ商品を生産する際に必要な違法複製への配慮、および違法複製に対する著作権保護意識の啓蒙、ならびに販売高
への貢献に活用できる。
【0040】
本発明はレコードショップの店頭でCD-Rなどの記録可能なディスクに書き込みを行う生産のみならず、レコードメーカーが工場でプレスするCD-DAに対しても音声トラックしか存在できない従来型の音楽CD商材に対して新たなデジタルデータ提供の道を作ることも可能としている。
【0041】
また音楽CDのみならず、音声ファイルに対しても同様に非音声データの格納が可能となるため、ネットワークを介した送信において、WAVEファイルでありながら音声部にファイル
の論理情報や出生情報を格納して流通経路のトラッキング調査をおこなったり、音声ファイルの授受に見えて暗号化データを送受信することなどへの応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】一般的なパルス符号変調データの音声データ波形パターンの説明図である。
【図2】パルス符号変調データの16進数データ配置に関する説明図である。
【図3】著作権保護情報など非音声データを格納する音声データ内の探索方法に関する説明図である。
【図4】全てが0x0000ではない無音部分のパルス符号変調データの説明図である。
【図5】無音域から有音域に入るパルス符号変調データの波形パターンに関する説明図である。
【図6】非音声データを音声データ内に本発明を用いずに埋め込んだ場合に問題が生じる説明図である。
【図7】非音声データを埋め込んでいない元となる音声データの16進数データの説明図である。
【図8】本発明を用いずに非音声データを音声データに埋め込んだ16進数データの説明図である。
【図9】本発明を用いてエンコードした非音声データを音声データに埋め込んだ16進数データの説明図である。
【図10】本発明を用いて非音声データを埋め込んだ音声データの波形パターンの説明図である。
【図11】本発明を用いて音楽CDを生産する全体プロセスの説明図である。
【図12】違法複製されたCDを調査する方法に関する説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 パルス符号変調データを波形パターン化したステレオ音声の左チャンネルの音声トラック
2 パルス符号変調データを波形パターン化したステレオ音声の右チャンネルの音声トラック
3 パルス符号変調データの音声を16進数表記しているデータ例
4 ゼロではない無音が16進数表記されているデータ例
5 非音声データが混入されていないパルス符号変調データの波形パターンの有音部先頭位置
6 本発明を用いずに非音声データを音声データに混入したために生じるノイズを示す部位
7 本発明を用いずに非音声データを埋設した16進数値列の部位
8 本発明を用いてエンコードした非音声データを埋設した16進数値列の部位
9 本発明を用いて非音声データを埋設してもノイズ成分が発生しない波形パターンの部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産される音楽CDのパルス符号変調データに著作権保護情報を埋設する工程を含む方法。
【請求項2】
音楽CDのパルス符号変調データに非音声データを直接埋設しても、音質の劣化などを引き起こさない特徴を有する方法。
【請求項3】
著作権保護情報にCDの生産日時や場所および販売情報を含める工程とその方法。
【請求項4】
前記請求項に記載の方法による、違法な複製行為を抑止する手段。
【請求項5】
前記請求項の方法および手段により生産される非音声データを埋設可能な特徴を有する音楽CD。
【請求項6】
前記請求項5の音楽CD内の非音声データが、品質劣化を伴わない完全な音楽CDの複製や音声データのリッピングをされても除去されない特徴を有する方法。
【請求項7】
違法な複製が検知された際に請求項5のCDから請求項3の情報を元に発生源特定の可能性を高めることのできる特徴を有する手段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−301663(P2009−301663A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156062(P2008−156062)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(504349663)
【Fターム(参考)】