説明

パルプの調成方法

【課題】本発明の課題は、少ないエネルギーで効率よくパルプの濾水度を低下させることのできるパルプの調成方法を提供することである。
【解決手段】本発明によって、刃幅が2.0mm以下、刃角度が20°以上である叩解プレートを用いてパルプを叩解するパルプの調成方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルプの調成方法に関する。特に本発明は、叩解効率が高く、少ないエネルギーでパルプの濾水度を低下させることができるディスクリファイナー用叩解プレートを用いてパルプを叩解するパルプの調成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプの叩解(リファイニング)は、水の存在下でパルプ繊維を機械的に処理することによって行われ、紙の性質を決める重要な工程の一つである。一般にパルプ繊維は、そのままでは長さや太さが不均一で剛直であるため、叩解によってパルプ繊維をシート化に適するように調整する。
【0003】
パルプの叩解においては、パルプに対して機械的な応力と水力学的なせん断力が与えられる。叩解では、叩解刃(バー)の間および溝と水路内で生じるせん断応力と、刃と刃の間に捕捉された繊維に対する法線応力が繊維に加えられ、パルプ繊維のフィブリル化や切断が生じる。叩解の際には一般に叩解プレートが用いられるが、パルプに付与したい特性に応じて種々の叩解プレートが使用される(特許文献1・2、非特許文献1参照)。
【0004】
一般に叩解には大きな機械エネルギーが必要とされるため、少ないエネルギーで大きな叩解効果が得られれば極めて有利である。特に、近年の環境保護気運の高まりとともに、省エネルギー効果が期待できる叩解プレートを用いてパルプを叩解することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−183566号公報
【特許文献2】米国特許第5740972号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】青島和男「最近の叩解機と刃物の実績と動向」(紙パ技協誌、第62巻第10号、2008年10月)
【発明の概要】
【発明の課題】
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、少ないエネルギーで効率よくパルプの濾水度を低下させることのできるパルプの調成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題について鋭意検討したところ、従来の叩解プレートよりも刃角度を大幅に大きくし、叩解刃の刃幅を狭くした叩解プレートを用いてパルプを叩解すると、極めて叩解効率が良好であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、これに限定されるものでないが、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 刃幅が2.0mm以下、刃角度が20°以上であるディスクリファイナー用叩解プレートを用いてパルプを叩解することを含む、パルプの調成方法。
(2) 前記叩解プレートの溝幅が3.0mm〜4.0mmである、(1)に記載の方法。
(3) 前記叩解プレートの刃幅が1.0mm以上である、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記叩解プレートの刃角度が35°以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記パルプが針葉樹由来のパルプである(1)から(4)のいずれかにに記載の方法。
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の方法で得られたパルプ。
(7) (6)記載のパルプを用いて製造された紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパルプの調成方法によれば、少ないエネルギーで効率よくパルプを叩解することができる。また、叩解プレートの溝幅を3mm以上とすると、針葉樹パルプを用いても原料が溝に詰まりにくく、針葉樹パルプを叩解するためのパルプの調成方法として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】叩解プレートの扇状部材の1態様を示す模式図である。
【図2】叩解プレートの1態様を示す模式図である。
【図3】実験1の結果を示すグラフである。
【図4】実験1の結果を示すグラフである。
【図5】実験2の結果を示すグラフである。
【図6】実験3の結果を示すグラフである。
【図7】実験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用するの叩解プレートは、刃幅が2.0mm以下、刃角度が20°以上である。ここで、一般に叩解プレートは、図1に示すような扇状部材が複数個環状に集まって構成され、図2に示すように全体として円盤(ディスク)に近い形状を有する。叩解プレートには、環状の中心部に対してその半径方向に放射状に形成された多数の刃および溝が設けられている。例えば、図1に示す叩解プレートは、15度ごとの繰り返しパターンが6つ環状に連接されて1つの扇部を形成し、この扇部が複数あつまってディスク状の叩解プレートを構成する。
【0013】
本発明において叩解プレートの刃角度とは、叩解プレートの中心部からの半径線と刃とがなす角度であり、各刃における刃角度が異なる場合はその最小値を叩解プレートの刃角度とする。本発明の叩解プレートの刃角度は20°以上であるが、このような刃角度とすることにより、少ないエネルギーでパルプを叩解することができる。従来の叩解プレートの刃角度は5〜20°程度であり、このような範囲における刃角度と叩解効果との関係は、刃角度が大きくなるにつれて叩解効果は低下すると考えられていた(特許文献1[0016])。しかし、本発明の発明者が、従来用いられていた刃角度の範囲を超えて刃角度の影響を検討したところ、刃幅が2.0mm以下と狭い場合、一定範囲までは刃角度が大きくなると叩解効率が低下するものの、さらに刃角度を大きくすると叩解効率が再度向上することを見出した。具体的には叩解プレートの刃角度を20°以上にすると、効率的にパルプ繊維を叩解することが可能である。
【0014】
また、本発明で使用する叩解プレートの刃角度の上限は、好ましくは35°以下である。刃角度が40°を超えると機械エネルギーが効率的にパルプに伝わらず、叩解効率が低くなることがある。本発明において叩解プレートの刃角度は、好ましくは25〜33°であり、より好ましくは27〜33°である。
【0015】
一般に叩解の際には、パルプ繊維のフィブリル化と短小化(カッティング)が生じるとされるが、フィブリル化が主なときは粘状叩解、短小化が主なときは遊離状叩解と呼ばれる。また、従来、叩解刃による叩解についてはインチカット理論(Inch Cut理論)が提唱され、下式で表されるインチカット値(Cutting Length per second:叩解刃を用いて叩解する際の刃物の交差点数を評価するパラメータ)が重要とされている。一般に、下式の叩解強度(Refining Intensity)が低いほど粘状叩解傾向が高く、フィブリル化が起こりやすく、叩解強度が高いほど遊離状叩解傾向が高く、繊維が短小化しやすくなるとされる。
・インチカット値(m/s)=回転刃の数×固定刃の数×刃長×回転数
・CEL値(m/rev.)=回転刃の数×固定刃の数×刃長
・叩解強度(W・s/m)=叩解動力÷インチカット値
そのため、叩解の際にパルプ繊維を切断せず、パルプの嵩高性を維持したい場合は、叩解強度を低くするためにインチカット値を大きくすればよいとされる。叩解プレートの観点からインチカット値を大きくするには、刃物数を多くすること、刃物長さを長くすること、叩解動力(繊維一本当たりにかかる一回の叩解作用当たりの動力:Impact)を小さくすることが考えられる。
【0016】
本発明で使用する叩解プレートの刃幅は2.0mm以下であり、一般的な叩解プレートの刃幅と比較して小さい。一般的な叩解プレートの刃幅は2.5mm程度以上であるのに対して、本発明の叩解プレートの刃幅は2.0mmと小さく、叩解の際の刃物交差点を多くすることができるため、効率的な叩解が可能になる。なお従来の叩解プレートは鋳型を用いて製造されるため、本発明のように刃幅が狭い叩解刃を多数有するプレートを製造すること自体が困難であり、また、鋳型から刃物を抜く際の逃がし勾配を刃に付ける必要があるため刃幅を刃の付け根に向かって徐々に広くする必要があった。それに対して、鋼板を接着して叩解プレートを製造する方法が近年開発され(例えば、相川鉄工製finebarなど)、この製法によれば本発明の刃幅の狭い叩解プレートを好適に製造することができる。なお、刃幅をあまりに狭くすると刃の耐久性が低下するため、本発明においては刃幅を1.0mm以上とすることが好ましい。なお、本発明において刃幅は1.3〜1.8mmが好ましい。
【0017】
本発明で使用する叩解プレートにおける刃と刃の間の溝について、その溝幅は特に制限されないが、溝幅が大きいと叩解プレート同士の交差点数が少なくなるため4.0mm以下であることが好ましい。このような溝幅であれば、交差点数を多くすることができ効率的にパルプを叩解することが可能である。溝幅の下限についても制限はないが、溝幅が小さすぎると叩解の際にパルプ繊維が溝に詰まり、叩解効率が却って低下するおそれがあるため、3.0mm以上であることが好ましい。このような溝幅であれば針葉樹機械パルプであっても好適に叩解処理することが可能である。
【0018】
本発明において叩解プレートの刃高さは特に制限されず、適宜選択することが可能である。刃高さとは、溝のくぼみから刃の最高部までの距離を意味し、刃によって高さが異なる場合はその平均値を叩解プレートの刃高さとするが、本発明においては刃高さが3〜8mmであることが好ましい。
【0019】
本発明で使用する叩解プレートは、ディスク型叩解機(ディスクリファイナー)に使用される。一般に叩解機としては、ホーランダー叩解機(Hollander beater)、コニカル型叩解機(conical refiner)、ディスク型叩解機(disk refiner)などが知られている。ホーランダー叩解機はバッチ式であり、床板に相対する回転棒の間を繊維の流れが垂直に通過する際に繊維が叩解される。その一方で、コニカル型叩解機やディスク型叩解機は連続式であり、繊維の流れが叩解刃(バー)の交点を並行に流動する際に繊維が叩解される。そして、ディスク型叩解機では、回転刃の高速回転によって原料が内周側から外周側へ移動する際に回転刃と固定刃の交差により繊維の叩解が行われるのに対し、コニカル型叩解機では、上記作用に加えて回転刃によって発生する遠心力によってパルプ繊維は固定刃方向に飛ばされることになる。
【0020】
本発明で使用する叩解プレートは、シングルディスクリファイナーおよびダブルディスクリファイナーのいずれにも使用することができる。シングルディスクリファイナーは、回転刃とその回転刃と相対して設けられる固定刃を使用する一方、ダブルディスクリファイナーでは、2組の回転刃とそれと相対して設けられる固定ディスクとを使用する。ディスクリファイナーでは、パルプは中心部から入り、遠心力で外周部に押し出されるが、その間に叩解刃によって機械的作用を受ける。
【0021】
本発明で使用する叩解プレートの材質は特に制限されず、公知の材質を使用することができるが、耐久性や強度の観点からステンレス鋼が好ましく、例えば、SUS630などのマルテンサイト系析出硬化型ステンレスを特に好ましく使用することができる。
【0022】
本発明において処理対象とされるパルプは特に制限されず、針葉樹または広葉樹などの木材由来のパルプはもちろん、こうぞ、バガス、稲わら、バナナ繊維、アバカ繊維、綿などの非木材由来のパルプ、さらにはこれらの混合パルプを使用することもできる。また、上記パルプは、漂白した晒パルプであっても、未漂白の未晒パルプであってもよい。また、パルプの種類も特に制限されず、例えば、化学パルプ、半化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等の従来公知の各種のパルプを処理対象とすることができ、好ましい処理対象はNKPであり、NBKPが特に好ましい。本発明においては叩解刃の溝幅を3.0mm以上とすると針葉樹由来のパルプを叩解する際に特に好適である。
【0023】
本発明は、上記叩解プレートを用いたパルプの叩解方法である。また他の観点において本発明は、上記叩解プレートを用いてパルプを叩解することを含むパルプの調成方法である。さらに他の観点からは、本発明はこのようにして得られたパルプである。さらにまた他の観点からは、本発明はこのようにして得られたパルプを用いて製造された紙である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において、部および%は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0025】
評価方法
以下の実施例及び比較例において用いた評価法は下記の通りである。
・カナダ標準ろ水度(csf:ml):JIS P 8121:1995に従った。
・カッパー価:JIS P 8211に従い測定した。
・叩解電力原単位(KWh/t):
循環叩解の場合(実験1・2)、叩解機の消費電力量を電源ラインモニタ3351(HIOKI社製)を用いて記録し、以下の式にてパルプ1トンあたりに与えた電力量に換算した。
叩解電力原単位(KWh/t)=電力量(KWh)/パルプ絶乾量(t)
ワンパス叩解の場合(実験3)、原料サンプル時の叩解機負荷と、原料通過量を記録して以下の方法で計算した。
叩解電力原単位(KWh/t)=叩解機負荷(KW)×1(h)/叩解機パルプ通過量(t/h)
叩解プレート
本実施例においては以下の叩解プレートを使用した。
【0026】
【表1−1】

【0027】
【表1−2】

【0028】
<実験1:シングルディスクリファイナーによる針葉樹未晒クラフトパルプの叩解>
実施例1
水で重量濃度3%へ希釈したNUKP(未叩解、ろ水度713ml、カッパー価55、1,500L)を叩解した。叩解機は、相川鉄工社製14インチシングルディスクリファイナーを使用し、回転刃、固定刃共に刃幅1.6mm、溝幅3.2mm、平均刃角度30°の叩解刃(プレート1)を使用した。
【0029】
叩解機は、電動機負荷40KW、回転数1072rpm、流量20m/hにて運転した。叩解機を出たパルプは再度叩解機へ送り、約20分間叩解を行った。
比較例1
刃幅4.0mm、溝幅4.0mm、刃角度5°の叩解刃(プレート2)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で叩解を行った。
【0030】
比較例2
刃幅1.3mm、溝幅3.6mm、刃角度15°の叩解刃(プレート3)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で叩解を行った。
【0031】
比較例3
刃幅1.3mm、溝幅2.6mm、刃角度7.5°の叩解刃(プレート4)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で叩解を行った。
【0032】
【表2】

【0033】
実験結果を表2および図3・4に示す。本発明に基づいて刃幅が小さく、刃角度が大きい叩解プレートを用いた場合、比較例よりも同一叩解電力原単位で低下するろ水度が大きく、少ないエネルギーでパルプのろ水度を低下させることができた。
【0034】
<実験2:シングルディスクリファイナーによる針葉樹晒クラフトパルプの叩解>
実施例2
水で重量濃度3%に希釈したNBKP(未叩解、ろ水度720ml、カッパー価10、1,500L)を叩解した。叩解機は、相川鉄工社製14インチシングルディスクリファイナーを使用し、回転刃、固定刃共に刃幅1.6mm、溝幅3.2mm、平均刃角度30°の叩解刃(プレート1)を使用した。
【0035】
叩解機は電動機負荷40KW、回転数1072rpm、、流量20m/hにて運転した。叩解機を出たパルプは再度叩解機へ送り、約20分間叩解を行った。
比較例4
刃幅4.0mm、溝幅4.0mm、刃角度5°の叩解刃(プレート2)を用いた以外は、実施例2と同様の条件で叩解を行った。
【0036】
比較例5
刃幅1.3mm、溝幅3.6mm、刃角度15°の叩解刃(プレート3)を用いた以外は、実施例2と同様の条件で叩解を行った。
【0037】
【表3】

【0038】
実験結果を表3および図5に示す。本発明に基づいて刃幅が小さく、刃角度が大きい叩解プレートを用いた場合、比較例よりも同一叩解電力原単位で低下するろ水度が大きく、少ないエネルギーでパルプのろ水度を低下させることができた。
【0039】
<実験3:ダブルディスクリファイナーによる針葉樹未晒クラフトパルプの叩解>
実施例3
水で重量濃度4%に希釈したNUKP(未叩解、ろ水度713ml、カッパー価55、18,700L)を叩解した。叩解機は、相川鉄工社製20インチダブルディスクリファイナー(AWN−20型)を使用し、回転刃、固定刃共に刃幅1.6mm、溝幅3.2mm、平均刃角度25°の叩解刃(プレート5)を使用した。
【0040】
叩解機は、電動機負荷150KW、回転数900rpm、流量15、30、45m/hの条件で約5分間運転した。
比較例6
刃幅5.0mm、溝幅3.5mm、刃角度10°の叩解刃(プレート6)を用いた以外は、実施例3と同様の条件で叩解を行った。
【0041】
比較例7
刃幅1.6mm、溝幅3.2mm、刃角度15°の叩解刃(プレート7)を用いた以外は、実施例3と同様の条件で叩解を行った。
【0042】
【表4】

【0043】
実験結果を表4および図6・7に示す。本発明に基づいて刃幅が小さく、刃角度が大きい叩解プレートを用いた場合、比較例よりも同一叩解電力原単位で低下するろ水度が大きく、少ないエネルギーでパルプのろ水度を低下させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃幅が2.0mm以下、刃角度が20°以上であるディスクリファイナー用叩解プレートを用いてパルプを叩解することを含む、パルプの調成方法。
【請求項2】
前記叩解プレートの溝幅が3.0mm〜4.0mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記叩解プレートの刃幅が1.0mm以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記叩解プレートの刃角度が35°以下である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記パルプが針葉樹由来のパルプである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法で得られたパルプ。
【請求項7】
請求項6に記載のパルプを用いて製造された紙。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−149362(P2012−149362A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9369(P2011−9369)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(000202235)相川鉄工株式会社 (18)
【Fターム(参考)】