説明

パルプシートの製造方法

【課題】 サイズ度を低下させる嵩高剤を併用する際に、所望のサイズ度を有するパルプシートが得られる製造方法を提供する。
【解決手段】 嵩高剤(A)とカチオン性ウレタン(B)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)とを、水を含むパルプスラリー中に添加する工程と、該工程後のパルプスラリーから水を分離する工程と、得られた湿潤パルプを乾燥させる工程を経てパルプシートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を製造する際のパルプシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造においては、各工程において各種薬剤が使用されている。抄紙工程において用いられる薬剤としては、まず、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、シリコーン等の消泡剤といった製造上必要な薬剤や、サイズ剤や填料といった紙の性能を決定する薬剤が用いられる。さらに、最近は、より高付加価値の紙を得るために、嵩高剤等の抄紙薬剤が用いられる(特許文献1)。
【0003】
一方、近年進められている抄紙工程の白水のクローズド化、填料として安価で白色度の高い炭酸カルシウムの利用とコートブローク処理等の観点から、中性サイジングが導入されてきている。この中性サイジングに用いられるサイズ剤の一つとして、アルキルケテンダイマー系サイズ剤が挙げられる(特許文献2)。また、アルキルケテンダイマーよりもサイズ性の立ち上がりが速く、サイズ度の制御がしやすく、紙の摩擦係数を低下させないという特徴を持つ、アルケニル無水コハク酸の使用も行われている。さらに、高級脂肪酸亜鉛とカチオン界面活性剤とを特定比率で併用することで、ピッチ障害を抑制しサイズ度を向上するピッチコントロール剤が使用されることもある(特許文献3)。
【特許文献1】特許3128248号明細書
【特許文献2】特開昭58−91895号公報
【特許文献3】特開平8−325969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パルプシートの製造においては、抄紙薬剤は実質的に不可欠であるにもかかわらず、サイズ剤としてアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸を用いた場合、抄紙薬剤とを併用において、アルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸が本来示すサイズ性能が得られない場合があった。特に、嵩高剤は一種の界面活性剤であるものが多く、このためサイズ剤の効果をうち消すものが多い。この問題に対して前記特許文献1〜3は当業者に有用な知見を開示しておらず、サイズ性能を維持できる方法が求められていた。
【0005】
すなわち、本発明の課題は、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸のサイズ性能を低減するような他の抄紙薬剤、特に嵩高剤を併用した場合でも、目的とするサイズ性能と嵩高性能が発現できるパルプシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、嵩高剤(A)、カチオン性ウレタン(B)、及びアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)を、水を含むパルプスラリー中に添加する工程と、該工程後のパルプスラリーから水を分離する工程と、得られた湿潤パルプを乾燥させる工程とを有する、パルプシートの製造方法に関する。また、本発明は、該本発明のパルプシートの製造方法を用いる、サイズ性向上方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、嵩高剤の性能と、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸のサイズ性能を同時に発揮できる、パルプシートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のパルプシートの製造方法では、通常、抄紙工程以前で、嵩高剤(A)と、カチオン性ウレタン(B)と、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)とを、水を含むパルプスラリー中に添加する。すなわち、パルプスラリーが金網上を進む間に濾水されて紙層を形成する抄紙工程以前に、これら化合物をパルプスラリー中に共存させる(内添)ことが好ましい。
【0009】
嵩高剤(A)、カチオン性ウレタン(B)及びアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)のパルプスラリー中への添加は、両者を予め混合して行っても、別々に行っても良い。別々の場合、両者を同時に添加しても、時期を変えて(前後して)添加しても何れでも良い。添加場所としては、パルパーやリファイナー等の離解機や叩解機、マシンチェストやヘッドボックスや白水タンク等のタンク、あるいはこれらの設備と接続された配管中に添加してもよいが、リファイナー、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加する等、均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。
【0010】
嵩高剤(A)とカチオン性ウレタン(B)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)とを水を含むパルプスラリー中に添加することにより、嵩高剤(A)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)とを添加しカチオン性ウレタン(B)を添加しない場合よりも、サイズ度を向上させることが出来る。なお、本発明において、嵩高剤(A)とカチオン性ウレタン(B)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)とを水を含むパルプスラリー中に添加する工程の後に行う、パルプスラリーから水を分離する工程及び得られた湿潤パルプを乾燥させる工程は、通常のパルプシートの製造方法に準じて行うことができる。なお、本発明における水の分離及び乾燥とは、パルプスラリーから、ろ過、遠心分離等により水分を分離し、次いで自然乾燥や乾燥機等によりさらに水分を分離することをいう。
【0011】
パルプスラリー中への嵩高剤(A)の添加量は、該嵩高剤(A)が抄紙薬剤として目的とする効果を発現する範囲で良いが、固形分で、パルプ(乾燥重量)100重量部に対して0.001〜10重量部が好ましく、0.005〜5重量部がより好ましく、0.008〜3重量部が特に好ましい。
【0012】
パルプスラリー中へのカチオン性ウレタン(B)の添加量は固形分で、パルプ(乾燥重量)100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.01〜2重量部がより好ましく、0.05〜1重量部が特に好ましい。
【0013】
パルプスラリー中へのアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)の添加量は固形分で、パルプ(乾燥重量)100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましく、0.1〜0.5重量部がより好ましい。
【0014】
嵩高剤(A)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)との重量比は、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)100重量部に対して嵩高剤(A)が好ましくは10〜1000重量部、さらに好ましくは50〜500重量部である。
【0015】
カチオン性ウレタン(B)とアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)との重量比は、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)100重量部に対してカチオン性ウレタン(B)が好ましくは10〜1000重量部、さらに好ましくは30〜500重量部である。
【0016】
<嵩高剤(A)>
本願のカチオン性ウレタン(B)の効果は、嵩高剤(A)がビニルモノマー由来の構成単位を有するポリマー及び非イオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する嵩高剤の場合、特に効果が高い。
【0017】
ビニルモノマー由来の構成単位を有するポリマーは、水溶性でも、水不溶性でも何れでも良く、水不溶性の場合は、エマルション(サスペンション、水分散体)の形態で好ましく用いられるものである。ポリマーを構成する単量体中のビニルモノマーの割合は特に限定はないが、50〜100モル%が好ましく、特に70〜100モル%が好ましい。ポリマーの製造方法としては、乳化重合、懸濁重合又は分散重合で製造されたのものが好ましい。
【0018】
ビニルモノマーとしては、重合性不飽和基を有するモノマーが挙げられ、ビニル化合物、ビニレン化合物、ビニリデン化合物、環状オレフィンが含まれ、下記の(1)〜(6)に記載するものが好ましく挙げられる。これらの中でも低級(炭素数1〜6、更に1〜4が好ましい)脂肪酸ビニルエステル類が特に好ましい。
【0019】
(1)(メタ)アクリル酸メチル〔(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル又はその混合物を示す。以下同じ。〕、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル等の好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類
【0020】
(2)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル及びピバリン酸ビニル等の炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖の脂肪酸とビニルアルコールとのエステルからなる脂肪酸ビニルエステル類
【0021】
(3)(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、等の重合性不飽和基を有するアニオン性モノマー又はその塩が挙げられる。マレイン酸、フマル酸、イタコン酸のようなポリカルボン酸は、酸無水物、部分エステル、並びに部分アミド又はそれらの混合物を含む。「塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、アンモニウム塩(第四級アンモニウム塩、第四級アルキルアンモニウム塩等)等が挙げられる。中でもナトリウム塩が好ましい。
【0022】
(4)(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド等の重合性不飽和基を有するノニオン性親水性基含有モノマーが挙げられる。
【0023】
(5)N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の重合性不飽和基を有するアミノ基含有モノマー又はその酸中和物もしくはその四級化物等を挙げることができる。酸中和物を得るための好ましい酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸等が挙げられ、四級化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
【0024】
(6)スチレン、α−メチルスチレン
【0025】
非イオン界面活性剤は、下記一般式(1)で示される化合物及び多価アルコール型非イオン界面活性剤が好ましく、特に下記一般式(1)で示される化合物と多価アルコール型非イオン界面活性剤を併用することが好ましい。
RO(EO)m(PO)nH (1)
〔式中、Rは炭素数6〜22の直鎖または分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基又は炭素数4〜20のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Eはエチレン基、Pはプロピレン基を示し、m、nは平均付加モル数であり、0≦m≦20の範囲の数、nは0≦n≦50の範囲の数である。mとnは同時には0ではない。なお、(EO)m(PO)nはブロックまたはランダムのいずれでもよく、EOとPOの付加順序も問わない。〕
【0026】
一般式(1)において、エチレンオキサイド(以下、EOと表記する)の平均付加モル数mは好ましくは0≦m≦10、更に好ましくは0≦m≦5の範囲である。プロピレンオキサイド(以下、POと表記する)の平均付加モル数nは好ましくは0≦n≦20の範囲である。
【0027】
多価アルコール型非イオン界面活性剤としては、糖アルコール系非イオン界面活性剤及び糖系非イオン界面活性剤が挙げられ、糖アルコールのEO付加物もしくはその脂肪酸エステル、糖アルコールの脂肪酸エステル、糖のEO付加物もしくはその脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステル及び油脂のEO付加物から選ばれる1種以上が好ましい。
【0028】
糖アルコール系非イオン界面活性剤としては、糖アルコールのEO付加物、糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステル、糖アルコールの脂肪酸エステルが挙げられる。糖アルコールには、トリオース由来のグリセリン、テトロース由来のエリトリット、トレイット、ペントース由来のアラビット、リビット、キシリット、ヘキソース由来のソルビット、マンニット、アルトリット、ガラクチット等が挙げられる。糖アルコールのEO付加物の脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数1〜24、好ましくは炭素数12〜18の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。糖アルコールのエステル置換度は1〜3が好ましい。また、糖アルコールのEO付加物又はその脂肪酸エステルにおけるEOの平均付加モル数は0〜100モル、更に10〜50モルが好ましい。EO平均付加モル数が0の場合、糖アルコールの脂肪酸エステルとなる。
【0029】
糖系非イオン界面活性剤としては、糖のEO付加物、糖のEO付加物の脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステルが挙げられる。糖としては、上記糖アルコール系非イオン界面活性剤で述べたような単糖類の他、しょ糖などの多糖類を用いることができ、糖のEO付加物におけるEO平均付加モル数も、同様に、0〜100モル、好ましくは10〜50モルである。EO平均付加モル数が0の場合、糖脂肪酸エステルとなる。エステルを構成する脂肪酸も上記で述べたものが使用できる。
【0030】
油脂のEO付加物の原料としての油脂の例としては、ヒマシ油、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、大豆油、菜種油、アマニ油等の植物油、豚脂、牛脂等の動物油、魚油、これらの硬化油及び半硬化油、及び、これら油脂の精製工程で得られた回収油が挙げられる。油脂のEO付加物において、EOの平均付加モル数は5〜100モル、好ましくは10〜50モルである。
【0031】
なお、上記一般式(1)で示される化合物(イ)と多価アルコール型非イオン界面活性剤(ロ)を併用する場合、(イ)/(ロ)=99/1〜40/60、更に90/10〜50/50の重量比が好ましい。
【0032】
<(B)カチオン性ウレタン>
本発明のカチオン性ウレタン(B)は、疎水性化合物とイソシアネートとから生成するウレタンプレポリマーのイソシアネート基を、カチオン性親水基導入のための活性水素化合物と反応させて得られるウレタンである。
【0033】
本発明にかかるカチオン性のウレタンは、水溶性又は自己乳化性ウレタンであることが好ましく、親水基を含有することが好ましい。ここで、自己乳化性とは、界面活性剤を用いることなく、攪拌力によって水中に乳化分散することをいう。
【0034】
イソシアネート基との反応性を有する疎水性化合物としては、水酸基の数が2個以上のポリオール類が好ましく用いられ、エーテル結合を有するポリオール又はエステル結合を有するポリオールがより好ましく用いられる。
【0035】
エーテル結合を有するポリオール成分としては、重量平均分子量200〜10,000の二価以上のポリエーテルポリオールが好適に用いられ、特に二価アルコールが好ましい。ポリエーテルポリオールは、多価アルコールを出発物質とし、塩基性触媒の存在下、アルキレンオキサイドを重付加することにより得られる。二価アルコール成分の例としては、炭素数2〜4のグリコール類、ビスフェノールA等が挙げられるほか、炭素数2〜4のグリコール類、ビスフェノールA等のアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。アルキレンオキサイドの例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。また二価アルコール成分に三価アルコール成分や四価アルコール成分を併用できる。三価アルコール成分の例としてはグリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類、四価アルコール成分の例としては、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0036】
エステル結合を持つポリオール成分としては、二塩基酸成分と二価アルコール成分とからなるポリエステルポリオールが挙げられる。ポリエステルポリオールを構成する二塩基酸成分の例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のような飽和または不飽和の脂肪族二塩基酸及び芳香族二塩基酸が挙げられる。ポリエステルポリオールを構成する二価アルコール成分の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどのような脂肪族グリコール及びシクロヘキサンジオール等のような脂環式グリコールが挙げられる。これら二塩基酸成分と二価アルコール成分とを縮合反応させることにより、ポリエステルポリオールが得られる。
【0037】
本発明で用いるイソシアネート化合物については特に限定はなく、ウレタン工業の分野において従来から用いられているものが用いられ、例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの有機イソシアネート化合物が挙げられる。なお、無黄変性を要求される場合には、HMDIなどの脂肪族イソシアネート、IPDIなどの脂環族イソシアネート、XDI,TMXDIなどの芳脂環族イソシアネートが好ましい。
【0038】
上記イソシアネート化合物とイソシアネートとの反応性を有する疎水性化合物とを反応させることにより、遊離イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが得られる。
【0039】
イソシアネート成分と疎水性化合物の反応は、NCO基のモル数が活性水素基のモル数よりも過剰になる条件で行う。公知の方法により、30〜130℃で30分〜50時間反応させることが好ましい。
【0040】
本発明のカチオン性ウレタンを製造する方法の一つの態様の例としては、ウレタンプレポリマーの遊離イソシアネート基の一部を、カチオン性基に誘導可能な官能基を有する活性水素基含有化合物と反応させることでカチオン性基に誘導可能な官能基が導入されたウレタンプレポリマーを合成し、その後ウレタン化反応及びカチオン化を行い、本発明のカチオン性ウレタンを得る方法が挙げられる。
【0041】
この場合、カチオン性基に誘導可能な官能基としては、アミノ基(以下、一級アミノ基とも呼ぶ)、N−置換アミノ基(以下、二級アミノ基とも呼ぶ)、及びN,N−ジ置換アミノ基(以下、三級アミノ基とも呼ぶ)が挙げられる。
【0042】
また、遊離イソシアネート基の一部と反応する活性水素を有する官能基としては、ヒドロキシル基または一級アミノ基を有するものが好ましく用いられる。
【0043】
従って、カチオン性基に誘導可能な官能基を有する活性水素基含有化合物としては、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミンが挙げられ、N,N,N−トリメチロールアミン、N,N,N−トリエタノールアミン等の三級アミンを使用することもできる。
【0044】
第三級アミノ基を有する活性水素基含有化合物は、活性水素含有基とイソシアネート基との反応によってウレタンプレポリマーに結合し、残りのイソシアネート基を必要に応じてブロック化した後、四級化剤によって、三級アミノ基を四級化することでカチオン性ウレタンプレポリマーを得ることができる。四級化剤としては、ベンジルクロライドや硫酸ジメチルや硫酸ジエチルなど一般的に使用されているものが使用できる。
【0045】
第三級アミノ基、第二級アミノ基、又は第一級アミノ基を有する活性水素基含有化合物は、四級化を行わず、酸により中和し、塩の形でカチオン化することができる。中和酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸等の有機酸かリン酸が好ましい。塩の形で水溶化することもでき、かかる際に用いられる酸としては、グリコール酸、リンゴ酸、グリシン、アミノ安息香酸、アラニン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などのヒドロキシ酸、アミノカルボン酸、2−アミノエタンスルホン酸(タウリン酸)などのアミノスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸などのヒドロキシスルホン酸類などが挙げられる。
【0046】
ブロック化剤としては、公知のものが使用できるが、具体的には、(1)重亜硫酸塩、(2)ε−カプロラクタムなどのラクタム系、(3)アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系、(4)マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチルなどの活性メチレン系、(5)イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール系、(6)フェノール、クレゾール、パラヒドロキシ安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル、サリチル酸、及びサリチル酸エステルなどのフェノール系等が挙げられる。
【0047】
また、遊離イソシアネート基を親水基導入のための活性水素化合物と反応させた後に残存するイソシアネート基を封鎖する化合物(キャッピング剤)としては、以下のような一価アルコール類、一価アミン類、エステル化アルコール類、アミド化アミン類が用いられる。
【0048】
ウレタンプレポリマーの合成は非溶剤系あるいは溶剤系で行う。ウレタンプレポリマーの粘度によっては、イソシアネートと不活性な、かつ、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶剤が用いられる。そのような溶剤の例としては、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。またウレタンプレポリマー水溶液中に、酸化防止剤又は耐光剤の溶液又はエマルションを添加しても良い。
【0049】
また、本発明のカチオン性ウレタンを製造する方法の別の態様の例としては、ウレタンプレポリマーに活性水素基含有化合物を反応させることでウレタンを製造し、該ウレタンにカチオン性基を導入できる化合物を付加し、その後、カチオン化を行う方法が挙げられる。
【0050】
例えば、ウレタンプレポリマーと、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のアミン類を反応させ、一部に一級アミノ基を有するウレタンを得る。この際、一部のアミノ基をブロック化しておき、反応後に脱ブロックして一級アミノ基を再生してもよい。
【0051】
その後、一部に一級アミノ基を有するウレタンにエピクロルヒドリンを付加し、更に酸で中和させることでカチオン化されたウレタンを得ることができる。用いる酸は、上述の、酸により中和し、塩の形でカチオン化する際に用いられる酸が好ましい。
【0052】
エピクロルヒドリンの使用量は、アミノ基に対し0.1〜1モル倍が好ましく、0.2〜0.5モル倍がより好ましい。酸の使用量は、アミノ基に対し、0.1〜1モル倍が好ましく、0.2〜0.8モル倍がより好ましい。本方法により得られたカチオン性ウレタンは、自己架橋型カチオンとなり、抄紙後の加熱により好適な性能を示す。
【0053】
<(C)サイズ剤>
アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)は、それぞれ公知のサイズ剤を用いることが出来る。例えば前記アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)の化学構造は参考文献として、高分子薬剤入門(発行所:三洋化成工業(株)、監修:藤本武彦)184ページから187に例示されている。
【0054】
アルキルケテンダイマーサイズ剤の製造は、公知の方法で可能である。例えばアルキルケテンダイマーと保護コロイドを熱水溶媒中で混合し、ホモミキサー、高圧吐出型ホモジナイザー等の各種公知の乳化機で均一に分散させる事によって得られる。
【0055】
保護コロイドとしては、公知の物を使用する事が出来る。例えば、カチオン化澱粉等のカチオン性分散剤、ポリビニルアルコール、酸化澱粉等のノニオン性分散剤、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物等のアニオン性分散剤を挙げる事が出来る。これらは一種以上併用して用いる事が出来る。アルキルケテンダイマーの固形分にはこれらの添加剤が含まれる。
【0056】
本発明のパルプシートの製造方法を用いることで、抄紙により得られるパルプシートのサイズ性能を制御する方法が提供される。例えば、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)の使用量を通常の抄紙に用いられる範囲としつつ、カチオン性ウレタン(B)の使用量を調整することで、希望するサイズ度を得ることができる。
【0057】
特に、本発明では、嵩高なパルプシートの製造方法において良好なサイズ性能を得ることができる。嵩向上率は内添薬剤の添加量により適宜調整できるが、嵩向上率が2%以上のパルプシートを得ることができ、4%以上のパルプシートを得ることもできる。一般に、2%以上の嵩の向上があった場合、十分に有意差があると認識できる。あるいは、緊度として0.02g/cm3以上の緊度低減が可能である。製造されるパルプシートの緊度は用途に応じて適宜選択されるが、好ましくは緊度0.1〜0.7g/cm3、より好ましくは緊度0.1〜0.6g/cm3のパルプシートの製造に適用される。この緊度は後述の実施例に記載の方法により求められるものである。
【実施例】
【0058】
以下の原料及び製造装置を用い、パルプシート製造を行った。
<パルプ>
・広葉樹晒パルプ(LBKP)、カナダ標準濾水度(JIS P 8121)450
<化合物(A)>
・嵩高剤A−1:後述の製造例にて得られたもの
・嵩高剤A−2:スルゾール、BASFジャパン社製(非イオン界面活性剤に該当)
<化合物(B)>
・カチオン性ウレタン(B−1):後述の製造例にて得られたもの
・カチオン性ウレタン(B−2):水分散系ウレタン樹脂、スーパーフレックス600、無黄変タイプ、第一工業製薬(株)製
<サイズ剤(C)>
・AKD:アルキルケテンダイマー、AS−263(星光PMC社製、有効分10重量%品)
・ASA:後述の製造例にて得られたもの
【0059】
<装置>
・角型抄紙機:角型タッピ抄紙機、80メッシュワイヤー(面積625cm2)、熊谷理機工業社製
・回転式ドライヤー:KRK大型回転乾燥機(カタログNo.2576)、熊谷理機工業社製
【0060】
(嵩高剤A−1の製造)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹き込み口、攪拌機を備えた2Lフラスコに、カチオン性澱粉A〔N%=0.6%、7重量%水溶液粘度260mPa・s(50℃、B型粘度計、ローターNo.2、60rpm)〕52.6g、ポリビニルアルコール(GL−05、部分けん化、重合度500、日本合成(株)製)8.7g、イオン交換水1013gを仕込み、90℃に加熱し溶解した。冷却後、エマルゲン430(非イオン性界面活性剤、花王(株)製)64.0gと、あらかじめイオン交換水55.1gに75%リン酸水溶液0.55gと4%水酸化ナトリウム水溶液13.3gを混合した水溶液を添加した後、120rpmで攪拌し、窒素を吹き込みながら、60℃で30分間保持した。次いで、酢酸ビニル(信越酢酸ビニル(株)製)40.2g、開始剤(V−50、アゾ系開始剤、和光純薬社製)0.37gをイオン交換水32.6gに溶解したものを添加し、15分間保持した。次いで、77℃に昇温した後、酢酸ビニル120.6g、及び開始剤(V−50)1.1gをイオン交換水98gに溶解したものを、それぞれ別々の滴下ロートから3時間かけ滴下、重合を行った。次いで82℃で1時間熟成した後、冷却し、取り出した。これにより、固形分濃度19.0重量%、分散粒子の平均粒子径0.18μmの嵩高剤A−1を得た。
【0061】
(カチオン性ウレタン(B−1)の製造)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹き込み口、攪拌機を備えた4Lフラスコに、ビスフェノールAのPO付加物(PO平均付加モル数2.2、Mw354)354g、メチルエチルケトン500gを仕込み、トルエンジイソシアネート348.4gを添加し、70℃で6時間反応させウレタンプレポリマーを得た。次いでメチルエチルケトン760gにジエチレントリアミン137.6gを混合したものを徐々に滴下し35℃で6時間反応させた。次いでエピクロルヒドリン18.5gを添加し、55℃で1時間反応させた。次いでイオン交換水1500gを添加後、pH7となるよう10%グリコール酸を添加、中和した後、50mmHg減圧下、40℃〜50℃でメチルエチルケトンを取り除き、水に分散したカチオン性ウレタン(B−1)を得た。(固形分濃度29%)
【0062】
(サイズ剤ASAの調製)
100mlステンレスビーカーに、アルケニル無水コハク酸(AS−1532、星光PMC社製)20gと乳化剤(SP−1802、星光PMC社製)24.4gを入れ、手で軽く振とうし、ほぼ均一な状態にした後、ユニバーサルホモジナイザー(日本精機製作所製)で13,000回転/分で1分間攪拌した。更に、イオン交換水55.6gを加え、10,000回転/分で30秒間攪拌し、有効分20重量%のアルケニル無水コハク酸サイズ剤乳化物(ASAと表記する)を得た。
【0063】
実施例1〜5
広葉樹晒パルプ(LBKP)を抄紙後のシートのパルプ坪量が70g/m2になるように計り取った。パルプの乾燥重量100重量部に対して、硫酸バンド0.28重量部、カチオン化澱粉(N%:0.6重量%、粘度:260mPa・s)0.5重量部、サイズ剤(AKD)0.2重量部(アルキルケテンダイマーの有効分として)の順に添加後、カチオン性ウレタンB−1又はB−2、及び嵩高剤A−1又はA−2を、表1の量添加した。更に、水を加えパルプ濃度0.3重量%のパルプスラリーを調製後、このパルプスラリーを角型抄紙機で抄紙し、回転式ドライヤー(105℃×120秒間)で乾燥し、パルプシートを得た。各パルプシートの1日後のサイズ度を以下の方法で測定した。また、嵩向上率を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0064】
なお、カチオン化澱粉のN%はケルダール法(JIS K 8001)で、また、粘度は50℃、7重量%水溶液粘度をB型粘度計、ローターNo.2、60rpmで測定したものである。
【0065】
(サイズ度の測定法)
サイズ度は、ステキヒト法(JIS P−8122)により測定した。すなわち、試験紙に四辺を上方に折り曲げて船形にし、2重量%NH4SCN水溶液上に浮かべると同時に上方より1重量%FeCl3水溶液を一滴試験紙上に落とし、両水溶液が紙に浸透して接しチオシアン鉄の赤い斑点が3つ出現するまでの時間(秒)を測定し、これをサイズ度とした。この時間が長いほど、サイズ性能に優れることを意味する。
【0066】
(嵩向上率の測定方法)
サイズ剤のみを添加した場合(表1における比較例3)の緊度(D0)と、サイズ剤と共に他の成分を全て添加した場合の緊度(D)を求め、式(1)に従って嵩向上率を求める。
嵩向上率(%)=[(1/D)−(1/D0)]/(1/D0) (1)
なお、この緊度(g/cm3)は、JIS P8118に従い、パルプシートの坪量(g/m2)と厚み(mm)とから、(坪量/厚み)×0.001により求められたものである。
【0067】
比較例1、2
実施例1〜5と同様にして、但し、嵩高剤としてA−1又はA−2を用いたが、カチオン性ウレタンを使用せずにパルプシートを製造した。得られたパルプシートのサイズ度と嵩向上率を実施例1等と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0068】
比較例3
実施例1〜5と同様にして、但し、嵩高剤とカチオン性ウレタンのいずれも使用せずにパルプシートを製造した。得られたパルプシートのサイズ度と嵩向上率(緊度)を実施例1等と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、サイズ剤のみを使用した比較例3ではサイズ度は良好であるが、これに更に嵩高剤を使用すると、比較例1及び2のように嵩は増加するものの、サイズ度は低下する。これに対して、嵩高剤とカチオン性ウレタンとを添加した実施例1〜5においては、サイズ度の維持と嵩の増加の両方の効果が達成される。
【0071】
実施例6、7
広葉樹晒パルプ(LBKP)を抄紙後のシートのパルプ坪量が70g/m2になるように計り取った。パルプの乾燥重量100重量部に対して、硫酸バンド0.28重量部、カチオン化澱粉(N%:0.6重量%、粘度:260mPa・s)0.5重量部、サイズ剤(ASA)0.2重量部(アルケニル無水コハク酸の有効分として)の順に添加後、カチオン性ウレタンB−1、及び嵩高剤A−1を、表2の量添加した。更に、水を加えパルプ濃度0.3重量%のパルプスラリーを調製後、このパルプスラリーを角型抄紙機で抄紙し、回転式ドライヤー(105℃×120秒間)で乾燥し、パルプシートを得た。各パルプシートの1日後のサイズ度と嵩向上率を、実施例1と同様(ただし、嵩向上率の基準は比較例5とする)に測定した。結果を表2に示す。
【0072】
比較例4
実施例6と同様にして、但し、カチオン性ウレタンを使用せずにパルプシートを調製した。得られたパルプシートのサイズ度と嵩向上率を実施例1等と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0073】
比較例5
実施例6と同様にして、但し、嵩高剤とカチオン性ウレタンのいずれも使用せずにパルプシートを調製した。得られたパルプシートのサイズ度と嵩向上率(緊度)を実施例1等と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、サイズ剤のみを使用した比較例5ではサイズ度は良好であるが、これに更に嵩高剤を使用すると、比較例4のように嵩は増加するものの、サイズ度は低下する。これに対して、嵩高剤とカチオン性ウレタンとを添加した実施例6及び7においては、サイズ度の維持と嵩の増加の両方の効果が達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩高剤(A)、カチオン性ウレタン(B)、及びアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸(C)を、水を含むパルプスラリー中に添加する工程と、該工程後のパルプスラリーから水を分離する工程と、得られた湿潤パルプを乾燥させる工程とを有する、パルプシートの製造方法。
【請求項2】
嵩高剤(A)が、ビニルモノマー由来の構成単位を有するポリマー又は非イオン系界面活性剤である、請求項1記載のパルプシートの製造方法。
【請求項3】
カチオン性ウレタン(B)が、水溶性のウレタン、又は自己乳化性ウレタンである請求項1又は2記載のパルプシートの製造方法。
【請求項4】
カチオン性ウレタン(B)の量が、(C)成分100重量部に対して10〜1000重量部である、請求項1〜3いずれかに記載のパルプシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のパルプシートの製造方法を用いる、サイズ性向上方法。

【公開番号】特開2006−183188(P2006−183188A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378697(P2004−378697)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】