説明

パンの製造方法

【課題】パンの発酵時間を短縮し、甘みが強く、ソフトで、日持ちの良いパンの製造方法を提供する。
【解決手段】湯種を入れたパン生地の材料と、ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜることによって予備発酵したドライイーストと、澱粉質を有する材料を熱湯で練った後に所定温度に冷ました材料とを一度に混ぜ合わせることによって、第1次発酵及び本捏ねりを要することなくパン生地の工程を終了し、次工程からは、通常の分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ発酵、焼成の工程を経ることによって、風味や旨みを向上すると共に、保水性を良くし、製造時間を短縮するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンの製造工程に要する時間を短縮し、ソフトで甘みが強く、保水性が良く、日持ちのよいパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているパンの製造方法としては、ストレート法と中種法がある。このうち、ストレート法は、材料を一度にミキシングする製法であり、その特徴として、風味が良い、発酵時間が短い、特有の食感があるという利点を有する反面、日持ちが悪い、機械耐性が劣る、原材料及び工程からの影響を受けやすい、内層の気泡が粗く、気泡膜が薄いという欠点を有するものである。
【0003】
また、中種法の特徴は、中種生地で安定した生地を長時間発酵させる製法であり、第1次発酵で生地の熟成を充分行っているため生地の伸展性がよく、パンのボリュームも大きく膜質が薄い、ソフトでカビが生えにくい、さらには時間の管理と温度の管理に幅がなく、大量生産しやすいという利点を有する反面、酸臭・酸味が強く、香りに乏しい、設備とスペースが必要であり、発酵ロスが大きく、工程時間が長いという欠点を有する。
【0004】
これらの製法に関する工程時間としては、ストレート法では3時間半、中種法では5時間程度を要するものである。
【0005】
また、上記の製法のほかに、湯種法として知られる製法がある。この製法は、例えば、特許文献1に記載されているように、小麦粉に対して熱水を加えて混捏することにより、中間生地を調整する工程を有するもので、もっちりとした独特の食感を有し、焼成状態においても良好な製品を得ることができるものである。
【特許文献1】特許第3167692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の湯種法は、甘みを消すために、発酵時間を数時間以上とるようにしているため、全工程に17時間程度を要するという問題があった。
【0007】
また、上記の特許文献1の湯種法においては、焼成後にパンが潰れるというケービング現象を起こしやすいという従来の湯種法の欠点を解消するために、湯種を低温で保存するという工程を組み合わせてある。即ち、小麦粉に対して熱水を加えて混捏して成る中間生地を5℃以上15℃以下の範囲で15時間以上72時間以下保存する工程を有するもので、全工程を終了するのに長時間を要するという欠点があった。また、このように製作時間がかかるだけではなく、温度や湿度、さらには時間の管理が難しいという欠点があった。
【0008】
なお、以前から行われている20分のフロアタイ.ムで作る既成法のパンは、ピザ等の台や、油で揚げて食べるドーナツ生地等に使われることが多く、副材料を生地の上に載せたり、油の力を借りたりして食べるもので、パンそのものの味を味わうのではない手抜きの方法と言われているものである。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、パンの製造工程に要する時間を短縮し、甘みが強く、ソフトで、日持ちのよいパンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1のパンの製造方法は、湯種を入れたパン生地の材料と、ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜることによって予備発酵したドライイーストと、澱粉質を有する材料を熱湯で練った後に所定温度に冷ました材料とを一度に混ぜ合わせることによって、第1次発酵及び本捏ねりを要することなくパン生地の工程を終了し、次工程からは、通常の分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ発酵、焼成の工程を経ることによって、風味や旨みを向上すると共に、保水性を良くし、製造時間を短縮するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明における請求項2のパンの製造方法は、請求項1において、前記ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜる際のぬるま湯の温度は、30〜40℃であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明における請求項3のパンの製造方法は、請求項1又は2において、前記澱粉質を有する材料は、小麦粉、上新粉、米粉、胚芽、そば粉、ジャガイモ、全粒粉、タピオカ、コーンミール、カボチャ粉、五穀米、発芽玄米であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明における請求項4のパンの製造方法は、請求項1、2又は3において、前記澱粉質を有する材料に入れる熱湯の温度は、90〜100℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパンの製造方法は、パン生地の材料と、ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜることによって予備発酵したドライイーストと、澱粉質を有する材料を熱湯で練った後に所定温度に冷ました材料とを一度に混ぜ合わせることによって、第1次発酵及び本捏ねりを要することなくパン生地の工程を終了するようにしたものであり、第1次発酵が不要であり、計量から焼成までの製造工程を約1時間という短時間で終了することができるものである。
【0015】
また、従来は、材料を混ぜ合わせる工程で、生地を強く捏ねたり、たたいたりする本捏ねり作業を必要とするが、本発明においては、アンダーミキシングで良いため、従来のような労力を必要としないものである。
【0016】
さらに、味覚の面では、もっちりした歯ごたえのあるパンを製造することができ、香りがよく、砂糖以外の素材の甘さを味わうことができ、3日たっても硬くならず、もちっとした食感が強く出るという独特の風味を味わうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
本実施例のパンの製造方法においては、下記の材料を用いる。
強力粉 100g
塩 1.5g
砂糖 5g
ドライイースト 2g
ぬるま湯(30〜40℃) 63〜68ml
熱湯で練った澱粉質を有する材料 20g
【0019】
上記の熱湯で練った澱粉質を有する材料としては、小麦粉、上新粉、米粉、胚芽、そば粉、ジャガイモ、全粒粉、タピオカ、コーンミール、カボチャ粉、五穀米、発芽玄米等を使用することができる。なお、これらの澱粉質を有する材料の違いによって、製品に、その穀類の持ち味を出すことができる。
【0020】
また、澱粉質を有する材料として、米粉を用いた場合、米粉10重量部に熱湯10重量部を合わせて練り、冷蔵庫で25〜30℃まで冷やしてから入れる。なお、加えるべき水分の量は、澱粉質の違いによって多少変化するものである。
【0021】
ここで、上記の材料を用いて本発明によるパンを製造する方法について述べる。図1に示すように、工程A1において、材料の準備をする。これには、上記のように、パン生地の材料として、強力粉100gと塩1.5gとを用意し、またドライイースト2gに砂糖5gを加え、30〜40℃のぬるま湯で混ぜることによって予備発酵したドライイーストを用意し、さらに熱湯(90〜100℃)で練った澱粉質を有する材料(例えば、上記の米粉)を冷蔵庫で25〜30℃まで冷やしたものを用意する。
【0022】
そして、これらを一度に混ぜて(工程A2)、手につかない程度に滑らかに均一になった時点でパン生地の製造工程を終了する。なお、上記のように材料を混ぜることによって、小麦粉(本実施例においては強力粉)に含まれる蛋白質グルテニンとグリアジンが水と合わさり、捏ねることによってグルテンが形成され、弾力性と伸展性のある生地になる。
【0023】
また、上記のように澱粉質を熱湯で溶くことによって澱粉粒の一部が損傷して損傷澱粉となり、澱粉がアルファ化した状態となる。損傷澱粉には、生地の中の酵素をいち速く吸収する性質があり、酵素を吸収することによって、速く糖になり、イーストの発酵を助け、発酵を速めることができる。
【0024】
また、この損傷澱粉は、糖の発生を促すため、砂糖の糖以外の甘さが増え、パンが甘く、香りが良くなる。同時に、ドライイーストにすることによって、糖の発生を促し、発酵を速めることができる。
【0025】
上記のように材料を混ぜ合わせた後は、通常通りの工程に移行する。即ち、図1に示すように、上記の生地をパンの形状に応じて分割し、丸目を作る工程A3に移る。これらの分割と丸目は連続して速やかに行い、生地温度の低下を防ぐようにする。分割は、所望のパンの大きさに生地を切る作業である。また、分割で乱れたグルテンを丸目によって整え、生地の表面に膜を形成することによって内部にガスを包みやすくする。
【0026】
次に、ベンチタイムの工程A4に移行する。このベンチタイムは、本実施例においては、30℃以下の温度の蒸しタオルをよく絞って覆い、20分程度休ませる。ベンチタイムは、上記のように分割、丸目をした生地を休ませ、作業性をよくするために行うものである。
【0027】
次の工程A5として、上記の生地を所望の形状に成形する。次いで、ホイロ発酵(工程A6)を行う。このホイロ発酵は、従来の最終発酵に相当するものであり、上記の成形で硬化したグルテンを回復させ、この発酵により風味を増し、生地を膨張させることができる。さらに、最終工程A7の焼成において、オーブンによる火の通りを良くし、こんがりとした焼色がついてパンの風味を作ることができる。
【0028】
上記のパンの製造方法において、強力粉に加えた塩は生地段階では蛋白質分解酵素の働きを抑え、グルテン組織を引き締めて安定した生地を作ることが可能となる。
【0029】
また、イーストは小麦粉およびその他の材料に含まれる糖を栄養分として分解し、炭酸ガスとアルコール・有機酸を生成する。炭酸ガスはパン生地に含まれ、パンを膨らませ、気泡を作り、アルコール・有機酸はパンの風味や香りを作るものである。
【0030】
なお、生イーストはパン酵母を純粋培養したものを圧縮したもので冷蔵保管が必要であるが、本実施例で使用したドライイーストは、乾燥してあるため、常温保管も可能であり、使用前に、ぬるま湯で戻すことによって活性化する。
【0031】
また、ドライイーストに加える砂糖は生地段階ではイーストの栄養源として働き、焼成段階ではパンの焼き色と香りを良くするものであり、パンに甘みを与えるだけでなく、砂糖の保湿性によりパンの老化を防止する役割を有する。
【0032】
上記の製造方法において、第1次発酵が不要である理由として、ドライイーストは生地に混ざりやすいため、発酵を短縮することを助けることができる。即ち、小麦粉の中の損傷澱粉はアルファ化することによって澱粉がパン生地の酵素に混じって糖になり、その糖をドライイーストが食べる。澱粉はアルファ化したほうが酵素と抱き込みあって速く糖になり、イースト菌は糖を栄養分にして発酵するため、アルファ化したものを加えたほうが速く発酵するものである。なお、ストレート法、中種法の場合は、アルファ化した損傷澱粉を使用していないため、糖になりにくく、糖になって発酵するまでに時間がかかる。
【0033】
以下、上記の本発明によるパンの製造方法の利点を明らかにするために、図2(a)及び(b)に示す従来の中種法或いは湯種法と比較する。
【0034】
(従来の中種法によるパンの製造工程)
この中種法においては、図2(a)に示すように、工程B1において、中種を作る。これには、生地の配合の40〜100%を取り出し、練って中種とし、26℃の生地温度にして、湿度80%、温度30℃の中で4時間寝かすこととなる。
【0035】
次の工程B2として、本捏ねする。これには、40%の中種と残りの生地をあわせて、しっかり捏ね、26℃〜28℃に捏ね上げる。
【0036】
次いで、フロアタイム(工程B3)として、上記の生地を約25分間置く。このフロアタイムは、ミキシング直後の生地を休ませる工程である。
【0037】
それ以降の工程は、本実施例と同様であり、分割、丸目(工程B4)、ベンチタイム(工程B5)、成形(工程B6)、ホイロ発酵(工程B7)、焼成(工程B8)の順を経て最終製品を得ることとなる。
【0038】
(従来の湯種法によるパンの製造工程)
この湯種法においては、図2(b)に示すように、工程C1において湯種を作る。これは、熱湯で練った生地(湯種)を作り、食パン生地に入れるもので、10%の湯種なら90%の食パン生地に入れ、30%の湯種なら70%の食パン生地に入れるようにする。
【0039】
次の工程C2として生地を本捏ねし、次のフロアタイム(工程C3)として、生地を−5℃〜15℃以下で、15時間以上72時間以下保存する。
【0040】
それ以降の工程は、本実施例及び従来の中種法と同様であり、分割、丸目(工程C4)、ベンチタイム(工程C5)、成形(工程C6)、ホイロ発酵(工程C7)、焼成(工程C8)の順を経て最終製品を得ることとなる。
【0041】
上記の従来の中種法と従来の湯種法と本発明のパンの製造方法とを比較すると、いずれの方法も、生地を作った後に、分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ発酵、焼成を経ることは同様であるが、分割、丸目に至るまでの生地を作る工程で時間的に大きな差異が生じている。
【0042】
即ち、図2(a)に示す従来の中種法においては、第1次発酵として中種を4時間寝かせる(工程B1)ことと、フロアタイム(工程B3)に25分を要する。また、図2(b)に示す従来の湯種法においては、本捏ね(工程C2)の後に、第1次発酵として生地を15時間以上72時間以下保存するフロアタイム(工程C3)を要する。
【0043】
ところが、このような従来の方法に対して、本発明のパンの製造方法においては、上記のように工程A1で材料を混ぜ合わせる最中に発酵が速やかに進行し、従来のような第1次発酵を必要としないため、その分大幅に作業時間を短くすることができ、全工程において約1時間という短い時間で、甘みが強く、ソフトで、日持ちの良いパンを製造することが可能となる。
【0044】
特に、従来の湯種法との相違点は、本発明のパンの製造方法がドライイーストを使用することによって作業時間を短縮できる点にある。
【0045】
また、従来の湯種法は、長時間第1次発酵することによって、しっとりともちもちしたパンを作ることができるが、本発明のパンの製造方法によれば、従来のような第1次発酵による甘味ではなく、全粒粉や発芽玄米等の澱粉質を有する材料を使用することで、それぞれの穀物の持ち味を出すことができ、甘味との相乗効果によって味の良いパンを作ることができる。
【0046】
また、従来のストレート法等で発酵が足りなかった場合は、被膜も厚く、食感も悪く、日持ちも悪いが、本発明のパンの製造方法によると、発酵時間をとらなくても、上記のように、食感のよさと日持ちのよさを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のパンの製造方法は、甘みが強く、ソフトで、保水性が良く、日持ちの良いパンを製造することができ、発酵時間を短縮することによって、計量から焼成までの製造工程を1時間程度に短縮することができるパンの製造方法として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明によるパンの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】(a)は従来の中種法によるパンの製造方法を示すフローチャートであり、(b)は従来の湯種法によるパンの製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
A1〜A7 本発明によるパンの製造工程
B1〜B8 従来の中種法によるパンの製造工程
C1〜C8 従来の湯種法によるパンの製造工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯種を入れたパン生地の材料と、ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜることによって予備発酵したドライイーストと、澱粉質を有する材料を熱湯で練った後に所定温度に冷ました材料とを一度に混ぜ合わせることによって、第1次発酵及び本捏ねりを要することなくパン生地の工程を終了し、次工程からは、通常の分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ発酵、焼成の工程を経ることによって、風味や旨みを向上すると共に、保水性を良くし、製造時間を短縮するようにしたことを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記ドライイーストに砂糖を加えてぬるま湯で混ぜる際のぬるま湯の温度は、30〜40℃であることを特徴とする請求項1記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記澱粉質を有する材料は、小麦粉、上新粉、米粉、胚芽、そば粉、ジャガイモ、全粒粉、タピオカ、コーンミール、カボチャ粉、五穀米、発芽玄米であることを特徴とする請求項1又は2記載のパンの製造方法。
【請求項4】
前記澱粉質を有する材料に入れる熱湯の温度は、90〜100℃であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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