説明

パンチおよびそのパンチの加工方法

【課題】厚手のシート材を穿孔する場合にも、切り込み性を良好に確保し得るパンチおよびそのパンチの加工方法を提供する。
【解決手段】パンチ10の刃面12は、刃先平面視にて径方向に互いに直交する向きに切り込まれた断面V字状の溝12a(第1溝)、溝12b(第2溝)により構成される。このパンチ10の刃面12は、第1溝形成工程、位置変換工程および第2溝形成工程により形成される。第1溝形成工程では、母材の刃具に対する往動により母材に溝12aを形成する。位置変換工程では、第1溝形成工程後、母材をその軸線回りに90°回転させる。第2溝形成工程では、位置変換工程後、母材の刃具に対する復動により母材に溝12bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機等の画像形成装置のフィニッシャーに用いられるパンチおよびそのパンチの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のパンチとして、例えば図11(A)に示すように、断面U字状の刃面111が形成されたものが知られている。このパンチ110では、図11(B)にてその刃面を展開して示すように、山部111a,111bと谷部111c,111dにおける刃面111の接線T1,T2の方向が水平方向、すなわち、刃面111とシート材との接触角が0°になるので、山部111a,111bおよび谷部111c,111dによる切り込み時に負荷が大きくなる傾向にある。
【0003】
また、例えば図12(A)に示すように、断面V字状の刃面121が形成されたパンチ120も知られている。このパンチ120では、図12(B)にてその刃面を展開して示すように、谷部121c,121dによる切り込み時にて刃面121とシート材との接触角が0°より大きな所定角となるので、図11(A)のパンチ110の谷部111c,111dによる切り込みの場合に比して負荷が小さくなるが、山部121a,121bにおける刃面の接線T3の方向が水平方向となるので、図11(A)のパンチ110の山部111a,111bによる切り込みの場合と同様、山部121a,121bによる切り込み時に負荷が大きくなる傾向にある。そして、下記特許文献1に記載されたパンチにおいては、両山部および両谷部の高さをそれぞれ変えて各山部および各谷部による切り込みタイミングをずらすことで、負荷の分散を図り、シート材に対する切り込み性を向上させている。
【特許文献1】特開平10−109299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたパンチによっても、例えば厚手のシート材を穿孔する場合には、各山部近傍および各谷部近傍による切り込み時の負荷が大きくなって、シート材に対する切り込み性を良好に確保できない場合がある。
【0005】
本発明の課題は、厚手のシート材を穿孔する場合にも、切り込み性を良好に確保し得るパンチおよびそのパンチの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、
山部と谷部を有する刃面によりシート材を穿孔可能なパンチにおいて、
前記パンチの刃面は、刃先平面視にて径方向に互いに直交する向きに切り込まれた断面V字状の溝により構成されてなることを特徴とする。
【0007】
本発明のパンチにおいては、刃面を構成する断面V字状の溝がパンチの径方向にて互いに直交する向きに切り込まれている。このため、山部近傍および谷部近傍の刃面の接線が水平線となす角度、すなわち刃面とシート材との接触角を従来技術の接触角に比して大きく設定することが可能である。したがって、切り込み当初後から切り込み完了時までの刃先の抜けが良好となるので、例えば厚いシートを穿孔する場合にも切り込み性を良好に確保することが可能である。
【0008】
本発明の実施に際して、前記刃面の対向する谷部が異なる高さに設定されていることも可能である。この場合には、負荷が大きくなる傾向にある谷部による切り込み時に、各谷部による切り込みタイミングがずれるので、シート材に対する切り込み性をより一層向上させることが可能である。
【0009】
また、本発明に係るパンチの加工方法は、
山部と谷部を有する刃面によりシート材を穿孔可能なパンチの加工方法において、
前記パンチを形成可能な母材とV字状溝を形成可能な刃具との相対的な往動により同母材の先端径方向に断面V字状の第1溝を形成する第1溝形成工程と、
前記第1溝形成工程の後、前記母材をその軸線まわりに90°回転させる位置変換工程と、
前記位置変換工程の後、前記母材と前記刃具との相対的な復動により同母材の先端径方向に前記第1溝と直交する断面V字状の第2溝を形成する第2溝形成工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明のパンチの加工方法においては、母材と刃具との相対的な往動により母材に対して第1溝が形成された後、母材がその軸線回りに90°回転され、その後、母材と刃具との相対的な復動により母材に対して第2溝が形成される。このため、通常は、次加工に備えて母材等を原点位置に復帰させるための復動工程時においても、パンチに溝を形成することが可能となって、溝加工に際しての加工時間を効率良く短縮することが可能である。また、溝切削が可能な汎用の加工機を用いて、本発明のパンチを加工することができ、加工コストも安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明によるパンチを、複写機のフィニッシャーに用いられるシート穿孔装置用に適用したものの外観を示していて、このシート穿孔装置においては、パンチ10が、径方向挿通孔11に挿通されたパンチ支持ピン21を介してリンク22の一端部に連結されている。
【0012】
リンク22は、その中間部にて支持ピン23によりフレーム24に同ピン23回りに回転可能に支持され、その他端部にてアーム係合ピン25を介してスライドアーム26に連結されている。そして、スライドアーム26の往復動により、リンク22が支持ピン23回りに回転するのに伴って、パンチ10が穿孔方向に往復動するようになっている。
【0013】
パンチ10は、図2〜図6に示すように、円柱状に形成されていて、その先端部にて刃面12を有している。刃面12は、刃先平面視(図6参照)にて径方向に互いに直交する向き(十字状)に切り込まれた断面V字状(例えば、V字間の開き角度が100°)の溝12a,12bにより形成されている。
【0014】
各溝12a,12bは、図7にて刃面12を展開して示すように、パンチ10の外周面とで、山部P1〜P4と谷部Q1〜Q4を形成している。山部P1,P3はパンチ10の軸線を中心として対向配置され、山部P2,P4は山部P1,P3から周方向に90°ずれた位置にパンチ10の軸線を中心として対向配置されている。同様に、谷部Q1,Q3はパンチ10の軸線を中心として対向配置され、谷部Q2,Q4は谷部Q1,Q3から周方向に90°ずれた位置にパンチ10の軸線を中心として対向配置されている。山部P1〜P4は、すべて同じ高さに設定され、谷部Q1〜Q4は、すべて同じ高さに設定されている。
【0015】
ところで、本実施形態のパンチ10においては、図7で示したように、山部P1〜P4の角度(刃先先端角度)θが従来技術の山部の角度に比して小さく設定されるとともに、山部P1〜P4近傍および谷部Q1〜Q4近傍の刃面の接線L1,L2が水平線となす角度、すなわち、刃面12とシート材との接触角が従来技術の接触角に比して大きく設定されている。したがって、山部の数(4つ)が従来技術の山部の数(2つ)よりも増えるものの、切り込み当初後から切り込み完了時までの刃先の抜けが良好となるので、例えば厚いシートを穿孔する場合にも切り込み性を良好に確保することが可能である。
【0016】
また、本実施形態のパンチ10では、シート材の打ち抜き時に発生する切り屑が溝12a,12bのV字壁に沿って折れるので、切り屑が静電気を帯び難くなって、切り屑処理も容易となる。
【0017】
上記したパンチ10の刃面12は、例えば図8に示すように、数値制御可能な横形NCフライス盤30(以下、単にフライス盤30という)を用いて、以下の工程を経て行われる。
【0018】
フライス盤30は、主軸31にツールホルダ32を介して一体的に取り付けられた刃具33(例えば、サイドカッタ)の回転により、XY方向に往復動するベッド34に電動割出台35および治具36(例えばチャック)を介して固定された母材Wの先端部に断面V字状の溝12a(第1溝),12b(第2溝)を形成する。
【0019】
最初に、第1溝形成工程では、図9(A)に示す母材Wの原点位置から、ベッド34の主軸31に対するX方向への往動により、図9(B)に示すように、母材Wの先端部に断面V字状の溝12aが形成される。
【0020】
次に、位置変換工程では、第1溝形成工程が終了した後、図9(C)に示すように、電動割出台35により治具36と共に母材Wがその軸線まわりに90°回転制御される。
【0021】
最後に、第2溝形成工程では、図9(D)に示すように、ベッド34の主軸31に対するY方向への復動により、母材Wの先端部に断面V字状の溝12bが形成される。第2溝形成工程が終了した後は、母材Wが図9(A)に示した原点位置に戻される。
【0022】
上記のように構成した本実施形態のパンチ10の加工方法においては、母材Wの刃具33に対する往動により母材Wに対して溝12aが形成された後、母材Wがその軸線回りに90°回転され、その後、母材Wの刃具33に対する復動により母材Wに対して溝12bが形成される。このため、通常は、次加工に備えて母材Wを原点位置に復帰させるための母材Wの復動工程時においても、パンチ10に溝12bを形成することが可能となって、溝加工に際しての加工時間を効率良く短縮することが可能である。また、汎用のフライス盤30を用いて、本実施形態のパンチ10を加工することができ、加工コストも安価である。
【0023】
上記実施形態においては、パンチ10の刃面12における谷部Q1〜Q4を全て同じ高さに設定したが、これに代えて、例えば図10に示すように、溝112a,112bの深さを径方向に変化させて、パンチ100の刃面112における谷部Q1’〜Q4’を全て異なる高さに設定することも可能である。このようなパンチ100の刃面112を加工する場合には、パンチ100の母材が鉛直方向に対して傾斜した姿勢となるように母材を治具に固定すればよい。これによれば、負荷が大きくなる傾向にある谷部Q1’〜Q4’による切り込み時に、各谷部Q1’〜Q4’による切り込みタイミングがずれるので、シート材に対する切り込み性をより一層向上させることが可能である。
【0024】
また、上記実施形態においては、母材Wの主軸31に対する往復動により、母材Wに刃面12,112が形成される場合について説明したが、これに限らず、主軸が母材Wに対して往復動可能な加工機を用いて実施することも可能である。また、加工機の種類に応じて、例えば刃先がV字状のエンドミル等、汎用の回転刃具を用いて上記実施形態のパンチを加工することが可能である。
【0025】
また、上記した実施形態では、フィニッシャーに用いられるシート穿孔装置に本発明によるパンチを適用したが、例えば手動の孔あけ器に本発明によるパンチを適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるパンチがシート穿孔装置に組み付けられている状態を示す外観図。
【図2】図1に示したパンチ10の外観図。
【図3】図2の別の角度からの外観図。
【図4】図2の正面図。
【図5】図2の側面図。
【図6】図2の平面図。
【図7】図2に示した刃面の展開図。
【図8】本発明によるパンチの刃面を形成可能な加工機の側面図。
【図9】(A)は図8に示した加工機において母材が原点にある状態を示す説明図。(B)は第1溝形成工程を示す説明図。(C)は位置変換工程を示す説明図。(D)は第2溝形成工程を示す説明図。
【図10】本発明によるパンチの変形実施形態を示す正面図。
【図11】(A)は従来技術のパンチ110の外観図。(B)は(A)に示した刃面の展開図。
【図12】(A)は従来技術のパンチ120の外観図。(B)は(A)に示した刃面の展開図。
【符号の説明】
【0027】
10 パンチ
12 刃面
12a 溝(第1溝)
12b 溝(第2溝)
P1〜P4 山部
Q1〜Q4 谷部
30 横形NCフライス盤
31 主軸
32 ツールホルダ
33 刃具
34 ベッド
35 電動割出台
36 治具
W 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部と谷部を有する刃面によりシート材を穿孔可能なパンチにおいて、
前記パンチの刃面は、刃先平面視にて径方向に互いに直交する向きに切り込まれた断面V字状の溝により構成されてなることを特徴とするパンチ。
【請求項2】
前記刃面の対向する谷部が異なる高さに設定されている請求項1に記載のパンチ。
【請求項3】
山部と谷部を有する刃面によりシート材を穿孔可能なパンチの加工方法において、
前記パンチを形成可能な母材とV字状溝を形成可能な刃具との相対的な往動により同母材の先端径方向に断面V字状の第1溝を形成する第1溝形成工程と、
前記第1溝形成工程の後、前記母材をその軸線まわりに90°回転させる位置変換工程と、
前記位置変換工程の後、前記母材と前記刃具との相対的な復動により同母材の先端径方向に前記第1溝と直交する断面V字状の第2溝を形成する第2溝形成工程とを備えたことを特徴とするパンチの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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