説明

パン焼成機とその使用によるパン焼成方法

【課題】温度ムラのない過熱蒸気により、パン生地を熱効率良く焼成できるようにする。
【解決手段】電磁誘導加熱器(H)やガスバーナーなどの加熱源を内蔵した据付け台(F)と、その据付け台へ固定状態に搭載された正面開閉扉(33)付きの焼成庫(B)と、上記加熱源によって下方から加熱される加熱フィン(45)付きの加熱ベース(44)と、その加熱ベースの加熱フィンへ周囲から水を投射する複数のスプレーノズル(47)とから成る蒸気発生器(S)と、その蒸気発生器の加熱フィンから上昇する過熱蒸気(A)を焼成庫の内部全体へ拡散させるべく、その加熱フィンの真上位置に支架された水平な邪魔板(53)と、蒸気発生器と対応位置する焼成庫内の天井面(31a)に取り付けられたシロッコファン(50)とを備え、その回転駆動されるファンにより、上記蒸気発生器から発生する過熱蒸気を焼成庫の内部全体へ、強制的に対流・循環させるように定めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は業務用のパン焼成機と、その使用によるパン焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のオーブン機能(天火焼き、焦げ目の付与)に加えて、蒸気により食材を焼いたり、蒸したりするスチームコンベクションオーブンは、例えば特許文献1〜4に広く開示されており、更にスチームコンベクションオーブンを使用して、パン生地を焼成することも特許文献5〜7に記載されている。
【0003】
そのうち、特許文献6(特開2000−104924号公報)に記載のスチームコンベクションオーブンが、ヒーター(15)からの加熱により蒸気を発生するスチーム装置(17)と、熱風の強制循環用ファン(12)とを焼成室(7)内に装備している点で、本発明のパン焼成機と最も近似する公知技術であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−281147号公報
【特許文献2】特開平9−119642号公報
【特許文献3】特開平10−185200号公報
【特許文献4】特開2007−57144号公報
【特許文献5】特開平6−169682号公報
【特許文献6】特開2000−104924号公報
【特許文献7】特開2007−215454号公報
【特許文献8】特開2005−124457号公報
【特許文献9】特開2007−189940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記公知技術の蒸気を発生するスチーム装置(17)は、給水用の内管(40)とこれを包囲する外管(41)並びにこれらの内外相互間に介挿された複数の蓄熱部材(丸鋼)(44)とから成り、極めて複雑・特殊な構造であるため、被焼成物を焼成する処理量との関係上、製造コストが高価になり過ぎる。
【0006】
又、上記内管(40)の給水を加熱するためのヒーター(15)が、スチーム装置(17)とかなり離隔した片隅位置にあり、そのヒーター(15)の熱をたとえスチーム装置(17)の蓄熱部材(44)によって蓄熱し、その蓄熱により内管(40)の給水を加熱し、水蒸気又は熱湯として外管(41)の吐出孔(43)から、吸引開口(10)と熱風通路(11)へ吐出するとしても、「水蒸気とならなかった水もその温度は沸騰温度に近い温度となる」(公報の段落〔0041〕参照)と記載されているとおり、焼成室(7)内に100℃以上の過熱蒸気を生成することは不可能である。
【0007】
この点、沸騰温度に近い温度の飽和蒸気を生成し、これをパン生地に作用させると、そのパン生地を緩め過ぎたり、焼き上がり状態でのボリューム不足を招来するおそれがあり、特にフランスパンではそのクープ(切込み)が割れた芳ばしい焼き上がり状態を得られないこととなる。
【0008】
更に、ヒーター(15)により生成された熱風(36)を、熱風通路(11)から焼成室(7)へ強制的に対流・循環させるファン(12)は、オーブン本体部(2)内の背面中央部へ水平なシャフト(13)を介して取り付けられているため、熱風(36)が自然には焼成室(7)の天井部へ滞留しやすいこととも相俟って、その焼成室(7)内の温度ムラを生じやすく、多量のパン生地やその他の被焼成物を熱効率良く焼成することができない。
【0009】
尚、特許文献8、9には過熱蒸気を発生させる方法として、焼成室(11)内に設置した金属パイプ(4)、金属波板(41)(42)(43)又はパンチング金属板(6)へ水をかけることが記載されているが、そのために使われるオーブン(1)は一般家庭用のそれであり、オーブン(1)の扉を開放したままの状態で投水しなければならないため、又過熱蒸気を強制的に対流・循環させるファンが無いため、多量のパン生地を熱効率良く焼成する業務用のパン焼成機には、到底適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような課題の改良を目的としており、その目的を達成するために、請求項1では業務用のパン焼成機として、電磁誘導加熱器やガスバーナー、その他の加熱源を内蔵した据付け台と、
【0011】
その据付け台へ固定状態に搭載された正面開閉扉付きのパン生地用焼成庫と、
【0012】
上記加熱源によって下方から加熱される加熱フィン付きの加熱ベースと、その加熱ベースの加熱フィンへ周囲から水を投射する複数のスプレーノズルとから成り、上記焼成庫の底面となるように設置された蒸気発生器と、
【0013】
その蒸気発生器の加熱フィンから上昇する過熱蒸気を焼成庫の内部全体へ拡散させるべく、その加熱フィンの真上位置に支架された多孔質体の水平な邪魔板と、
【0014】
上記蒸気発生器と対応位置する焼成庫内の天井面に取り付けられたシロッコファンとを備え、
【0015】
その回転駆動されるシロッコファンにより、上記蒸気発生器から発生する過熱蒸気を焼成庫の内部全体へ、強制的に対流・循環させるように定めたことを特徴とする。
【0016】
又、請求項2ではパン生地用焼成庫を内筐と、その内筐を包囲する外筐とから成る二重構造の竪型直方体に造形して、その内筐と外筐との相互間に蒸気流通路を区画すると共に、
【0017】
上記内筐の天井面中央部にはその内筐の内部から蒸気流通路への蒸気引き出し口を形成する一方、同じく内筐における左右両側面と背面との下端部には、上記蒸気流通路から内筐への蒸気引き入れ口を形成して、
【0018】
蒸気発生器の加熱フィンから上昇する過熱蒸気をシロッコファンの回転作用中、上記焼成庫における内筐の蒸気引き出し口から周囲の蒸気流通路と内筐の蒸気引き入れ口を通じて、その内筐へ戻す如く対流・循環させるように定めたことを特徴とする。
【0019】
更に、請求項3では蒸気発生器の加熱ベースから複数の加熱フィンを、平面視の全体的な放射対称配列型として一体的に起立させる一方、
【0020】
その加熱フィンに向かうスプレーノズルが付属する給水管の複数を、焼成庫の外部から導入配管すると共に、
【0021】
その各給水管の途中に介挿設置した給水弁を、自動間歇的に開閉制御するように定めたことを特徴とする。
【0022】
他方、請求項4では請求項1に記載したパン焼成機の使用によるパン焼成方法として、その蒸気発生器から発生する過熱蒸気によりパン生地を焼成するに当り、焼成開始からの10分間だけはシロッコファンを停止状態に保ち、その経過後焼成終了までシロッコファンをゆっくり定速回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の上記構成によれば、蒸気発生器から発生する過熱蒸気を回転駆動するシロッコファンと、拡散作用する水平な邪魔板とが、焼成庫の内部全体に対流・循環させるため、その焼成庫内のパン生地を温度ムラなく均一に焼き上げることができ、熱効率に著しく優れる。
【0024】
しかも、蒸気発生器は焼成庫の底面となる状態に内蔵設置されており、その下方から加熱源により加熱されて、焼成庫内へ過熱蒸気を発生するようになっているため、例えば焼成庫の外部に設置した貯水タンクを加熱して、その貯水から発生させた蒸気を、焼成庫の内部へ導入配管する構成に比して、その必要な設備を著しく簡素化することができる効果もある。
【0025】
特に、請求項2の構成を採用するならば、上記効果をますます向上させることができ、表面に適度な焦げ目が付いた乾燥状態として、しかも内部に風味や香り、水分を適度に含み、軟らかく膨張したボリューム感のあるパンの焼成状態を得られる。
【0026】
又、請求項3の構成を採用するならば、蒸気発生器の加熱ベースから複数の加熱フィンが、平面視の全体的な放射対称配列型に起立されているため、その加熱面積の増大により、瞬時に大量の蒸気を焼成庫の内部へ発生させることができるほか、給水管の給水弁は自動間歇的に開閉制御されて、その給水管のスプレーノズルから水を自動間歇的に投射するようになっているため、焼成庫内の目標温度(焼成温度)を低下させる如く、その温度制御の妨げとなるおそれはなく、パン生地の重量やパンの種類などに対応しやすい効果も得られる。
【0027】
更に、請求項4のパン焼成方法によれば、焼成時間の長短に拘らず、その焼成当初の10分間だけは、シロッコファンが停止状態に保たれるため、焼成庫の内部に気流が起らず、その気流によりパン生地の表面に早く皮膜が張って、パン生地の膨張を妨げ、内部の柔らかさも無くなるおそれを防止できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るパン焼成機の実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】図2の4−4線拡大断面図である。
【図5】図1の5−5線拡大断面図である。
【図6】図4の6−6線拡大断面図である。
【図7】図4の7−7線拡大断面図である。
【図8】据付け台の平面図である。
【図9】制御回路図である。
【図10】フランスパンの焼成作用を示す断面図である。
【図11】その焼成作用のタイムチャートである。
【図12】食パンの焼成作用を示す断面図である。
【図13】その焼成作用のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図示の実施形態に基いて本発明の具体的構成を詳述すると、図1〜8は電磁誘導加熱式の業務用パン焼成機を示しており、これは作業床への据付け台(F)とその上面へ固定状態に搭載された焼成庫(B)とから成り、例えば幅が約600mm×奥行が約700mm×高さが約1600mmの竪型直方体である。
【0030】
先ず、据付け台(F)は山形ステンレス鋼材から平面視の四角形に枠組み一体化されているが、その開口上面を有する限りでは、ステンレス鋼板から中空の直方体(ボックス形態)に組み立てても良い。(11)はその据付け台(F)の四隅部から垂下するネジ脚であり、これを昇降操作して、パン焼成機の設置高さを調整することができる。(12)はその固定ナットである。
【0031】
又、(13)は上記据付け台(F)における枠内の中途高さ位置に取り付けられた水平な仕切り板、(14)は同じく枠内の下段位置に取り付けられた水平な底板であって、その仕切り板(13)上には後述する加熱フィンの加熱源となる電磁誘導加熱器(H)が搭載されている一方、底板(14)上にはその電磁誘導加熱器(H)の励磁用高周波電源(加熱用インバーター)(15)が搭載されている。尚、上記据付け台(F)の仕切り板(13)と底板(14)は取りはずすことも可能である。
【0032】
上記電磁誘導加熱器(H)は1本の銅線(リッツ線)から渦巻き状態に周回された電磁誘導加熱コイル(16)と、これを固定支持するため、図4〜8のような平面視の放射対称分布型に配列された複数(図例では合計8本)のコイル受け枠杆(17)と、そのコイル受け枠杆(17)を支持する共通の水平なベース板(18)とから成り、その水平な支持ベース板(18)が上記仕切り板(13)の真上位置へ、複数(図例では合計4本)のネジ支柱(19)と固定ナット(20)を介して、設置高さの調整自在に取り付けられている。
【0033】
その場合、上記支持ベース板(18)のネジ支柱(19)を昇降操作して、電磁誘導加熱コイル(16)の設置高さを調整する代わりに、門字形に曲成された各コイル受け枠杆(17)の両端ネジ脚部(21)を、共通の支持ベース板(18)へ昇降自在に差し込み垂下させて、固定ナット(22)を締結する方法により、上記加熱コイル(16)の設置高さを調整できるように定めても良い。
【0034】
何れにしても、電磁誘導加熱器(H)をなす電磁誘導加熱コイル(16)の切り離し両端部は接続端子を介して、その励磁用高周波電源(インバーター)(15)の出力端子と図9のように接続配線され、これから高周波電流の供給を受けて、焼成庫(B)の内部にある加熱フィンを下方から加熱し得るようになっている。
【0035】
上記コイル受け枠杆(17)とその支持ベース板(18)は耐熱性を有する非磁性体の金属材(例えばステンレス鋼やアルミなど)から成る。尚、これらを被覆する電気絶縁テープや上記加熱コイル(16)をそのコイル受け枠杆(17)へ結束する電気絶縁紐などは図示省略してある。
【0036】
更に、(23)は上記据付け台(F)の正面(前面)に取り付けられた操作パネルであり、これには電源のオン・オフスイッチ(24)や手動運転と自動(温度調整)運転との選択スイッチ(25)、加熱力調整ボリューム(26)、自動運転時の温度調整器(27)、電流計(28)、後述する給水のオン・オフスイッチ(29)、シロッコファンのオン・オフスイッチ(30)、運転ランプなどが図1、9のように設置されている。
【0037】
次に、焼成庫(B)は図1〜6のような蒸気流通路(P)を確保する内筐(31)と外筐(32)とから成る二重構造の竪型直方体に造形されており、正面(前面)開閉扉(33)も具備している。(34)(35)はその正面開閉扉(33)の把手と蝶番、(36)は同じく正面開閉扉(33)を気密状態に閉止する回動ロックレバー、(37)は正面開閉扉(33)から焼成庫(B)の内部を透視する点検窓である。
【0038】
上記焼成庫(B)の内筐(31)はステンレス鋼板から正面視並びに平面視の門字形をなし、そのフラットな天井面(31a)の中央部には内筐(31)から蒸気流通路(P)への蒸気引き出し口(38)が形成されているほか、垂直な左右両側面(31b)には向かい合う一対づつの棚受け片(39)が、一定間隔おきの数段(図例では上下2段)に固着一体化されており、その棚受け片(39)に対して前方(正面)から網棚(40a)が、抜き差し自在に差し込み係止されるようになっている。但し、フランスパンなどを載せるためにふさわしい網棚(40a)のみならず、食パンケース(パン型)(C)を載せるためにふさわしい金属製の棚板(40b)が互換使用されることもある。
【0039】
他方、焼成庫(B)の外筐(32)は内外一対のステンレス鋼板と、その相互間に充填された厚肉な断熱材(41)とから、上記内筐(31)を包囲する正面視並びに平面視のほぼ門字形に造形されており、その外筐(32)と内筐(31)との相互間に一定の蒸気流通路(P)を区成している。(31c)は内筐(31)の垂直な背面である。
【0040】
その場合、焼成庫(B)の外筐(32)は内筐(31)よりも深く、その外筐(32)の下端部から内向き連続的に張り出す水平な加熱ベース受けフランジ(42)と、上記内筐(31)の下端部との上下相互間が、蒸気流通路(P)から内筐(31)への蒸気引き入れ口(43)として、言わば横向き開放状態にある。
【0041】
(44)は上記焼成庫(B)を形作る外筐(32)の加熱ベース受けフランジ(42)へ、上方から気密状態に搭載された水平な加熱ベースであって、好ましくは下層をなす磁性体の鉄板と、上層をなすステンレス鋼板とのクラッド鋼板から成り、導電性が与えられている。
【0042】
しかも、その加熱ベース(44)のステンレス鋼板には加熱面積を増大させるため、同じくステンレス鋼板から成る加熱フィン(45)の複数(図例では合計8枚)が、図6、7のような平面視の全体的な放射対称配列型に固着一体化されており、加熱ベース(44)から起立する状態にある。
【0043】
そして、上記据付け台(F)における枠内の上段位置にある電磁誘導加熱器(H)の電磁誘導加熱コイル(16)が、焼成庫(B)の言わば底面となる加熱ベース(44)の真下位置に臨み、その加熱ベース(44)の鉄板からステンレス鋼板の加熱フィン(45)を加熱し得るようになっている。その加熱フィン(45)自身の加熱温度は一例として約400℃〜500℃である。
【0044】
(46)は上記焼成庫(B)の外筐(32)と蒸気引き入れ口(43)を横断して、加熱ベース(44)の加熱フィン(45)に向かい導入配管された複数の給水管であり、その各給水管(46)の先端部に付属するスプレーノズル(47)から、上記加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ水を投射し、瞬時に大量の蒸気を発生するようになっている。
【0045】
つまり、上記電磁誘導加熱器(H)の電磁誘導加熱コイル(16)と、これによって加熱される加熱ベース(44)の加熱フィン(45)と、その加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ水を投射するスプレーノズル(47)とから、蒸気発生器(S)が形作られており、しかもその蒸気発生器(S)は焼成庫(B)に内蔵されているのである。
【0046】
この点、図例の給水管(46)とその先端部のスプレーノズル(47)は、回転対称位置での向かい合う一対あるに過ぎないが、上記加熱フィン(45)と同様な放射対称配列型の2個以上として、その加熱フィン(45)へ周囲から全体的なほぼ均等に水を投射できるように定めても良い。
【0047】
(48)は各給水管(46)の途中に介挿設置された給水弁(開閉電磁弁)であり、タイマー(49)によって自動間歇的に開閉されるようになっている。尚、その給水管(46)の基端部は水道の就中浄水器(図示省略)へ接続配管されることになる。
【0048】
(50)は上記焼成庫(B)を形作る外筐(32)の天井面と内筐(31)の天井面(31a)との上下相互間に位置しつつ、その蒸気流通路(P)の内部に臨まされたシロッコファン、(51)はそのファン駆動モーターであって、上記外筐(32)における天井面の中央部に搭載されており、これによって回転駆動されるシロッコファン(50)が、焼成庫(B)の内部に気流を起し、上記蒸気発生器(S)により発生された過熱蒸気を図4、5の矢印(A)で示す如く、中央部から多量に引き上げて、内筐(31)の天井面(31a)に開口する蒸気引き出し口(38)から、周囲の蒸気流通路(P)へ引き出し分散させ、その蒸気流通路(P)から内筐(31)の下端部に開口する蒸気引き入れ口(43)を通じて、内筐(31)の内部へ集中的・強制的に対流・循環させるようになっている。
【0049】
上記シロッコファン(50)の回転速度は1秒間に約1〜3回の低速である。又、そのシロッコファン(50)の回転動作もタイマー(52)によって停止させることができるようになっている。
【0050】
更に、(53)は上記蒸気発生器(S)における加熱フィン(45)の真上位置を遮断する如く、その加熱ベース(44)上へスタンド(五徳)(54)により支架された水平な邪魔板であって、ステンレス鋼製の金網やパンチングメタル、セラミックス、その他の多孔質体から成り、上記加熱ベース(44)の加熱フィン(45)から上昇する過熱蒸気(A)を拡散して、内筐(31)の内部全体へ万遍なく対流させることにより、温度ムラを無くすようになっている。
【0051】
又、最下段の網棚(40a)又はこれに代る棚板(40b)と、上記邪魔板(53)との上下相互間に介在する温度検知センサー(55)が、外筐(32)の背面から内筐(31)へ差し込み固定されており、焼成庫(B)内の目標温度(焼成温度)を温度調整器(27)により約150℃〜350℃の範囲内において、更に好ましくは約220℃〜300℃の範囲内において、常時一定(例えば約250℃)に保つべく予じめ調整セットできるようになっている。
【0052】
上記構成の業務用パン焼成機を運転して、フランスパンを焼成する方法について言えば、目標の庫内温度(焼成温度)(例えば約248℃)まで予備加熱した焼成庫(B)の網棚(40a)へ、図外のシートを敷いた上、最終醗酵とクープ(切込み)入れが行なわれたパン生地(M)の例えば上下3本づつ(合計重量:約2.4Kg)を、図10のような並列状態に載置する。
【0053】
そして、図11のタイムチャートに示すとおり、電磁誘導加熱器(H)の高周波電源(加熱用インバーター)(15)を約7.5Kwの出力に設定すると共に、庫内温度(焼成温度)を温度調整器(27)によって目標の約248℃に調整セットする。又、給水弁(給水管の開閉用電磁弁)(48)が焼成開始からの20分間だけ、5秒開き30秒閉じる間歇的な開閉動作を行ない、その経過後は給水しないオフ状態となるように設定して、30分間の焼成を開始するのであるが、その開始からの10分間だけはシロッコファン(50)を停止させ、その経過後にシロッコファン(50)を20分間回転駆動する。
【0054】
茲に、シロッコファン(50)の回転速度は先に例示した1秒間に約1〜3回である。又、上記焼成開始からの20分間に、給水管(46)のスプレーノズル(47)から加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ投射する水量は、約440ccである。焼成中には庫内の現在温度(焼成温度) を温度検知センサー(55)により検知して、予じめ設定された目標の一定温度(上記した約248℃)を維持すべく、その検知出力信号を受けた温度調整器(27)により、上記電磁誘導加熱器(H)の加熱力を強弱制御する。
【0055】
そうすれば、電磁誘導加熱器(H)での加熱中にある加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ、焼成開始からの20分間だけ、5秒開き30秒閉じる給水弁(48)によって、間歇的に水が投射されるため、瞬時に大量の過熱蒸気が発生することとなり、これが焼成庫(B)の底面から自づと上昇し、やがて網棚(40a)上のパン生地(M)を包囲するように充満する。
【0056】
その場合、焼成開始からの10分間だけはシロッコファン(50)の停止中にあって、焼成庫(B)内に気流を起さないため、パン生地(M)の表面に凝縮した水分が吸収される前に蒸発して、その表面の硬く乾燥することはない。これを逆説的に言えば、焼成当初からシロッコファン(50)を回転駆動して、焼成庫(B)内に気流(熱風の撹拌)を起すと、パン生地(M)の表面に早く皮膜が形成されて、そのパン生地(M)の膨張を妨げてしまうのであり、焼き上がり状態のボリューム感のみならず、内部に本来の風味や香りなどを含んだ柔らかさも低下する。
【0057】
そして、上記10分経過後にシロッコファン(50)がゆっくり定速回転すると、焼成庫(B)の内部において蒸気発生器(S)により発生された過熱蒸気は、図10の矢印(A)で示す如く、内筐(31)の天井面(31a)に開口する蒸気引き出し口(38)から、周囲の蒸気流通路(P)へ一旦引き出され、その蒸気流通路(P)を直進的に下降して、内筐(31)の下端部に開口する蒸気引き入れ口(43)から、内筐(31)の内部へ戻るという対流・循環・再加熱を繰り返すことにより、多孔質体から成る邪魔板(53)の拡散作用とも相俟って、その温度ムラのない過熱蒸気(A)が網棚(40a)上のパン生地(M)へ、全体的に熱効率良く作用することとなる。
【0058】
しかも、上記給水管(46)の給水弁(48)は焼成開始からの20分間だけ間歇的に給水し、その20分経過後にはオフ状態として、上記加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ水を投射しないため、言わば乾熱式の加熱により、上記パン生地(M)の表面だけがクープ(切込み)の開き割れた芳ばしい焼き上がり状態のフランスパンを得られるのである。
【0059】
更に、同じく業務用パン焼成機を運転して、食パンを焼成する方法について説明すると、やはり焼成庫(B)内を目標温度(焼成温度)(例えば約248℃)に予備加熱する一方、その焼成庫(B)の棚受け片(39)へ上記網棚(40a)に代る棚板(40b)を差し込み係止し、仕上げ醗酵されたパン生地(M)がケービング現象を予防するために、例えば1ケース当り5玉づつ(重量:約1.1Kg)丸め成形・充填されたパン型(C)の上下4個づつを、上記棚板(40b)へ図12のような並列状態に載置する。
【0060】
そして、図13のタイムチャートに示す如く、電磁誘導加熱器(H)の高周波電源(加熱用インバーター)(15)を約7.5Kwの出力に設定すると共に、庫内温度(焼成温度)を温度調整器(27)によって目標の約248℃に調整セットする。又、給水管(46)の給水弁(開閉用電磁弁)(48)が5秒開き30秒閉じる間歇的な開閉動作を終始行なうように設定して、45分間に及ぶ焼成を開始するのであるが、その開始からの10分間だけはやはりシロッコファン(50)を停止させ、その経過後にシロッコファン(50)を1秒当り約1〜3回の回転速度として、35分間回転駆動する。
【0061】
その場合、上記45分間の焼成中において、給水管(46)のスプレーノズル(47)から加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ投射する水量は、約1リットルである。又、上記電磁誘導加熱器(H)の加熱力はパン生地(M)の焼成中、やはり温度調整器(27)と温度検知センサー(55)に基いて、目標の一定温度(上記した約248℃)を保つべく調整制御されることとなる。
【0062】
そうすれば、電磁誘導加熱器(H)での加熱中にある加熱ベース(44)の加熱フィン(45)へ、45分間の焼成中給水管(46)を間歇的に開閉する給水弁(48)により、そのスプレーノズル(47)から水が投射されるため、瞬時に大量の過熱蒸気が発生し、やがて棚板(40b)上のパン生地(M)を包囲する如く充満する。
【0063】
但し、焼成開始からの10分間だけはシロッコファン(50)が停止中にあり、焼成庫(B)内に気流を起さない。そのため、熱気は焼成庫(B)の底面から自然と上昇し、下部では低温になることとも相俟って、パン生地(M)の内部から水分の蒸発することが抑制され、その表面に早く硬い皮膜が張ったり、内部の膨潤性や柔らかさが失なわれたりするおそれはない。
【0064】
そして、上記10分経過してから最後までシロッコファン(50)がゆっくり定速回転すると、焼成庫(B)の内部において生成された過熱蒸気は、図12の矢印(A)に示す如く、やはり内筐(31)の蒸気引き出し口(38)から周囲の蒸気流通路(P)へ引き出された後、その周囲の蒸気流通路(P)を直進的に下降して、内筐(31)の下端部に横向き開口する蒸気引き入れ口(43)から、内筐(31)の内部へ帰るという対流・循環・再加熱を行なうことにより、蒸気発生器(S)の真上位置にある邪魔板(53)の拡散作用とも相俟って、棚板(40b)上のパン生地(M)を上記過熱蒸気(A)によりムラなく焼成することができ、内部に本来の風味や香り、水分を含んだ柔らかさとボリューム感があり、しかも表面に適度な焦げ目が付いた食パンを得られる。
【0065】
何れにしても、上記蒸気発生器(S)は焼成庫(B)の内部にあり、その電磁誘導加熱器(H)によって加熱される加熱ベース(44)が、焼成庫(B)の底面をなす状態に設置されているほか、その加熱ベース(44)の加熱フィン(45)から自づと上昇する過熱蒸気(A)を受ける如く、上記焼成庫(B)の天井面にシロッコファン(50)が対応設置されているため、パン焼成機の全体を合理的に簡素化することができ、多量のパン生地(M)を熱効率良く焼成し得るのである。
【0066】
又、上記焼成庫(B)の内筐(31)はその天井面(31a)の中央部に蒸気引き出し口(38)と、左右両側面(31b)並びに背面(31c)の下端部に蒸気引き入れ口(43)とを具備しているが、その内筐(31)における左右両側面(31b)や背面(31c)の中途高さ位置には、蒸気出入り口が皆無として、上記蒸気発生器(S)をなす加熱ベース(44)の加熱フィン(45)から発生・上昇する過熱蒸気(A)が、必らずや天井面(31a)の蒸気引き出し口(38)から周囲の蒸気流通路(P)を直進的に下降して、下端部の蒸気引き入れ口(43)へ迂回・循環するようになっているため、上記網棚(40a)又は棚板(40b)の設置高さ(段数)如何により、過熱蒸気(熱風)の出入り量(流通量)が変ることはなく、多孔質体から成る邪魔板(53)の架設とも相俟って、焼成庫(B)内における温度ムラや延いてはパン生地の焼成ムラを防止できる効果がある。
【0067】
尚、図示の実施形態では電磁誘導加熱式の業務用パン焼成機として、その蒸気発生器(S)の加熱ベース(44)を電磁誘導加熱器(H)により加熱しているが、これに代るシーズヒーターやその他の電気ヒーター、ガスバーナーなどの加熱源を採用してもさしつかえない。その場合、加熱ベース(44)に導電性はなくても良く、金属やその他の熱伝導性を有する材質の加熱ベース(44)であれば足る。
【符号の説明】
【0068】
(11)・ネジ脚
(12)・固定ナット
(13)・仕切り板
(14)・底板
(15)・高周波電源(加熱用インバーター)
(16)・電磁誘導加熱コイル
(17)・コイル受け枠杆
(18)・支持ベース板
(19)・ネジ支柱
(20)・固定ナット
(21)・両端ネジ脚部
(22)・固定ナット
(23)・操作パネル
(24)・電源オン・オフスイッチ
(25)・選択スイッチ
(26)・加熱力調整ボリューム
(27)・温度調整器
(28)・電流計
(29)・給水オン・オフスイッチ
(30)・ファンオン・オフスイッチ
(31)・内筺
(31a)・天井面
(31b)・左右両側面
(31c)・背面
(32)・外筺
(33)・正面開閉扉
(34)・把手
(35)・蝶番
(36)・回動ロックレバー
(37)・点検窓
(38)・蒸気引き出し口
(39)・棚受け片
(40a)・網棚
(40b)・棚板
(41)・断熱材
(42)・加熱ベース受けフランジ
(43)・蒸気引き入れ口
(44)・加熱ベース
(45)・加熱フィン
(46)・給水管
(47)・スプレーノズル
(48)・給水弁
(49)・タイマー
(50)・シロッコファン
(51)・ファン駆動モーター
(52)・タイマー
(53)・邪魔板
(54)・スタンド
(55)・温度検知センサー
(A)・過熱蒸気
(B)・焼成庫
(C)・パン型(食パンケース)
(F)・据付け台
(H)・電磁誘導加熱器
(M)・パン生地
(P)・蒸気流通路
(S)・蒸気発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁誘導加熱器やガスバーナー、その他の加熱源を内蔵した据付け台と、
その据付け台へ固定状態に搭載された正面開閉扉付きのパン生地用焼成庫と、
上記加熱源によって下方から加熱される加熱フィン付きの加熱ベースと、その加熱ベースの加熱フィンへ周囲から水を投射する複数のスプレーノズルとから成り、上記焼成庫の底面となるように設置された蒸気発生器と、
その蒸気発生器の加熱フィンから上昇する過熱蒸気を焼成庫の内部全体へ拡散させるべく、その加熱フィンの真上位置に支架された多孔質体の水平な邪魔板と、
上記蒸気発生器と対応位置する焼成庫内の天井面に取り付けられたシロッコファンとを備え、
その回転駆動されるシロッコファンにより、上記蒸気発生器から発生する過熱蒸気を焼成庫の内部全体へ、強制的に対流・循環させるように定めたことを特徴とするパン焼成機。
【請求項2】
パン生地用焼成庫を内筐と、その内筐を包囲する外筐とから成る二重構造の竪型直方体に造形して、その内筐と外筐との相互間に蒸気流通路を区画すると共に、
上記内筐の天井面中央部にはその内筐の内部から蒸気流通路への蒸気引き出し口を形成する一方、同じく内筐における左右両側面と背面との下端部には、上記蒸気流通路から内筐への蒸気引き入れ口を形成して、
蒸気発生器の加熱フィンから上昇する過熱蒸気をシロッコファンの回転作用中、上記焼成庫における内筐の蒸気引き出し口から周囲の蒸気流通路と内筐の蒸気引き入れ口を通じて、その内筐へ戻す如く対流・循環させるように定めたことを特徴とする請求項1記載のパン焼成機。
【請求項3】
蒸気発生器の加熱ベースから複数の加熱フィンを、平面視の全体的な放射対称配列型として一体的に起立させる一方、
その加熱フィンに向かうスプレーノズルが付属する給水管の複数を、焼成庫の外部から導入配管すると共に、
その各給水管の途中に介挿設置した給水弁を、自動間歇的に開閉制御するように定めたことを特徴とする請求項1記載のパン焼成機。
【請求項4】
請求項1のパン焼成機を使用して、その蒸気発生器から発生する過熱蒸気によりパン生地を焼成するに当り、焼成開始からの10分間だけはシロッコファンを停止状態に保ち、その経過後焼成終了までシロッコファンをゆっくり定速回転させることを特徴とするパン焼成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−97829(P2011−97829A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252592(P2009−252592)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000247247)有限会社ナカイ (22)
【Fターム(参考)】