説明

パン類の製造方法

【課題】 生地の伸展性がよく作業性に優れ、外観と内相が良好で、しかも食味・食感・風味に優れるパン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】 穀粉原料100gあたり0.01〜20IMCUのレンネットを配合し(ただし、乳化組成物として配合することを除く)、常法に従って製パンしてパン類を製造する。また、レンネットに加えて、穀粉原料に対してアスコルビン酸を0.1〜200ppm配合し常法に従って製パンしてパン類を製造することもできる。この場合、レンネット(IMCU)とアスコルビン酸(ppm)の配合比が1:4〜200とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉原料に酵素を配合するパン類の製造方法に関する。詳細には、穀粉原料にレンネットを配合するパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パン類の内相や外観、また食感を改良する方法として、乳化剤や増粘安定剤が用いられてきたが、近年、製パン原料に種々の酵素を添加することが試みられ、プロテアーゼ等の酵素を用いる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ショ糖脂肪酸エステルに加えてアミラーゼとプロテアーゼをパン生地に添加することが、特許文献2には、アミラーゼやプロテアーゼを含む水中油型乳化組成物としてパン類等の食品に添加することが提案されている。
【0003】
さらに、特許文献3には、油脂、水及び酵素からなる油中水型油脂組成物をベーカリー製品に用いることが提案されている。この油中水型油脂組成物では、酵素活性が長期間保持され、これをベーカリー製品に用いると風味がよく且つ食感がクチャつかないという効果が奏されるとしている。また、当該酵素は加水分解酵素及び/又は酸化還元酵素とされ、加水分解酵素として糖質分解酵素、脂質分解酵素の他に蛋白質分解酵素が挙げられ、蛋白質分解酵素としてペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン等のプロテアーゼが例示されている。しかしながら、プロテアーゼ等の酵素はその蛋白質分解作用を制御するのが難しく、プロテアーゼによる効果が得られなかったり、また過剰に分解が進み、却って製パン性が劣ったり、また得られるパン類の内相や外観、食味が損なわれやすいという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−168394号公報
【特許文献2】特開平6−292505号公報
【特許文献3】特開平11−46686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、生地の伸展性がよく生地作業性に優れ、外観と内相が良好で、しかも食味・食感・風味に優れるパン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、レンネットを溶液又は固形の形態で用いて製パンしたところ、生地の伸展性がよくなり作業性が向上するのみならず、窯延びがよくなり、ボリュームが大きく、外観と内相が良好で、しかも食味・食感・風味が極めて良好なパン類が得られることを見出した。さらに、レンネットとアスコルビン酸を併用することでより良好なパン類が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)穀粉原料100gあたり0.01〜20IMCUのレンネットを配合し(ただし乳化組成物として配合することを除く)、常法に従って製パンすることを特徴とするパン類の製造方法;
(2)穀粉原料に対してアスコルビン酸を0.1〜200ppm配合することを特徴とする前記(1)記載のパン類の製造方法;及び
(3)レンネット(IMCU)とアスコルビン酸(ppm)の配合比が1:4〜200であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のパン類の製造方法;
に関する。
さらに、本発明は、前記(1)〜(3)のいずれかの方法で得られる、パン生地又はパン類に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパン類の製造方法によると、生地の伸展性がよく、生地作業性に優れ、外観と内相が良好で、しかも食味・風味に優れるパン類が得られる。特に、製パン性に劣る内麦やセミハード系小麦を用いても、ボリュームが大きく、外観と内相が良好で、しかも食味・風味に優れるパン類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用するレンネットは、アスパラギン酸プロテアーゼに属する凝乳酵素であり、レンニン、キモシンとも呼ばれ、通常、牛乳をチーズにする過程で使用されるものである。このレンネットとしては、仔牛の第4胃から抽出されたカーフレンネットや、カーフレンネットの代替として開発された微生物由来のレンネットを使用することができる。カーフレンネットは、仔牛の第4胃を塩漬けにしたものから食塩水によって抽出して得られる凝乳酵素であり、液状、粉末、錠剤の型で市販されている。これらの市販品の例としては、クリスチャンハンセン社製の「STANDARD PLUS 290」や「HA−LA」、ロビン社製の「MAXIREN 180」等を挙げることができる。また、カーフレンネットを、分画沈殿法やイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせて分離精製したキモシン等を用いることができる。また、上記微生物由来のレンネットは、カビ(Rhizomucor pusillus、Rhizomucor miehei、Endothia parasitica)由来のムコールペプシンと呼ばれ、動物レンネット(キモシン)と性質が非常によく似ており、これらの市販品の例として、名糖産業株式会社製の「Meito Rennet(R.pusillus and R.miehei)」や「Meito Rennet Super(R.miehei)」、ロビン社製の「Fromase 2200TL(R.miehei)」や「Fromase 750XLG(R.miehei)」等を挙げることができる。レンネットは、乳タンパク質(κーカゼイン)の105番目のフェニルアラニンと106番目のメチオニン間のペプチド結合を特異的に切断するという基質特異性が高いという特徴を有する。
【0010】
一方、特許文献3で例示されているペプシンは、芳香族アミノ酸残基のC末端側及びN末端側、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸残基のC末端側を切断するため、タンパク質をアミノ酸やオリゴペプチドまで分解する。トリプシンやキモトリプシンはセリンプロテアーゼの一つで、トリプシンは塩基性アミノ酸のC末端側を、キモトリプシンは芳香族アミノ酸残基のC末端側を切断するため、タンパク質をアミノ酸又はオリゴペプチドまで分解する。また、パパインはシステインプロテアーゼの一つであり、その性質は中性付近で活性を示し、アルギニン、リジン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、チロシン残基のC末端側を切断する酵素である。
なお、これらのプロテアーゼを含め、パンの製造に用いられてきた蛋白質分解酵素は、製パン過程で油脂と一緒に混捏しても、その後の焼成による昇温で失活するまで活性を保持するとされている。
【0011】
本発明は、穀粉原料に、穀粉原料100gあたり0.01〜20IMCUのレンネットを配合し(ただし、乳化組成物として配合することを除く)、次いで常法に従って製パンすることを特徴とするパン類の製造方法である。レンネットを穀粉原料に配合して混捏することで、生地中に含まれる小麦蛋白質等の蛋白質がレンネットにより特異的・限定的な分解を受け、レンネットによる特有の分解産物が本発明の作用効果を奏するものと考えられる。また、本発明におけるレンネットは、その基質特異性から、従来のプロテアーゼと比較して蛋白質分解作用の制御が容易であるという特徴を有する。
【0012】
本発明において、レンネットは、乳化組成物以外の形態で配合することが必要であり、例えば水溶液の形態で配合するか、あるいは粉末又は顆粒等の固形状で原料穀粉に配合する。レンネットを、水中油型乳化組成物、油中水型乳化組成物のいずれの乳化組成物として配合してもレンネットの効果が十分に奏されない。
【0013】
一方、レンネットは、水溶液又は固形の形態で原料穀粉及び副原料に一緒に配合するか、あるいは混捏前又は混捏のごく初期の段階で添加・配合するのが好ましい。また、パン類が油脂類を配合して製造されるものである場合には、レンネットを油脂と同時に配合せず、予め水溶液あるいは固形の形態で混捏前又は混捏の初期の段階で配合して混捏し、次いで油脂を配合してさらに混捏するのが好ましい。
レンネットの配合量は、穀粉原料100gあたり0.01〜20IMCU、好ましくは0.1〜10IMCUである。レンネットの配合量が0.01IMCU未満であるとレンネットの効果が十分に奏されない、すなわち生地の伸展性や窯延びといった生地作業性、得られるパン類のボリュームにおける改善効果が十分に奏されず、20IMCUより多く配合しても添加効果が向上しないばかりか、かえって生地作業性が低下するのみならず、得られるパン類のボリュームや外観、内相が良好とはいえなくなり、しかも食味・風味も十分なものとはいえなくなる。レンネットの配合量は、製パン法の種類(ストレート法、中種法、液種法、冷蔵・冷凍法、速成法等)やパン類の形態や種類に応じて前記範囲内で適宜選択すればよく、穀粉原料100gあたりの活性単位を考慮して配合量を決めればよい。
【0014】
なお、本発明で用いるレンネットの活性単位「IMCU(International Milk Clotting Unit)」とは、国際酪農連盟(IDA)の定義(IDF-standard157A:1997)によるものであり、「1IMCU」は、32℃にて100秒間に、10ミリリットルの再構築(reconstructed)スキムミルクを凝固させる酵素量である。
レンネットの配合割合は、用いるレンネットの種類、比活性等により異なるが、通常は原料穀粉に対して0.05〜100ppm、好ましくは0.5〜50ppmの範囲である。
【0015】
本発明においては、レンネットとアスコルビン酸を併用するのが特に好ましい。アスコルビン酸の配合量は、原料穀粉に対して0.1〜200ppm、好ましくは1〜200ppmの範囲である。アスコルビン酸の配合量が0.1ppm未満であると、アスコルビン酸とレンネットの併用による相乗効果が十分に奏されず、200ppmより多く配合しても添加効果が向上しないばかりか、生地作業性が低下し、また得られるパン類にボリュームや内相、風味や食感などに劣るようになる。
また、レンネット及びアスコルビン酸は、それぞれ上記配合量の範囲であると同時に、レンネットとアスコルビン酸の併用による相乗効果の点で、レンネット(IMCU/粉100g)とアスコルビン酸(ppm)の配合比が1:4〜200の範囲であるのが好ましい。
【0016】
本発明において、原料穀粉とは、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉)を主体とし、必要に応じて他の穀粉、各種澱粉を配合した原料粉を意味する。小麦粉以外の穀粉としては、例えばライ麦粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉等が上げられる。また、澱粉としては、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉等の澱粉類及びこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の加工澱粉類が挙げられる。さらに、本発明において、通常、パン類の製造に用いられる副原料、例えば卵粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;グルテン;プロテアーゼ以外の酵素剤、例えばグルコースオキシダーゼ、グルコシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ等、好ましくはグルコースオキシダーゼ等を適宜使用することができる。
【0017】
本発明で対象とするパン類とは、上記原料穀粉を用い、イーストを使用して発酵させる食品であれば特に限定されないが、各種のパン、ピザ類、中華饅頭等をいう。また、これらパン類を製造する手段としては、通常の焼成、蒸熱処理、電子レンジ調理等のいずれでもよい。また、その形態は、そのまま喫食可能な製品、冷凍品、冷蔵品等特に限定されない。冷凍品、冷蔵品については、電子レンジで再加熱(レンジアップ)してもよいし、蒸し器やオーブン等で再加熱してもよい。
【0018】
本発明において、パン類の製造は、穀粉原料にレンネットを配合する以外は常法、例えばストレート法、中種法、速成法、冷凍生地法等により行うことができ、原料穀粉に、食塩、イースト、水等のその他の原料とともに、レンネットを乳化組成物以外の形態、具体的には水溶液又は固形の形態で配合し、以後常法により製パンを行い、種々の形態の製品として得ることができる。ここで、製造するパン類が油脂を用いないものである場合には、レンネットは水溶液や固形の形態で混捏前〜混捏時に単に添加・配合すればよい。油脂を用いて製造されるパン類の場合には、レンネットを油脂と同時に配合せず、予め水溶液あるいは固形の形態で混捏前又は混捏の初期の段階で添加・配合して混捏し、次いで油脂を配合してさらに混捏するのが好ましい。一方、プレミックスなど油脂の存在下で加水して混捏する場合には、配合する油脂を糖類などでコーティングするか、粉末油脂等を用いて、生地の混捏の初期の段階でレンネットと油脂が接触するのを低減させることが好ましい。
【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1〜5及び比較例1〜4] ストレート法による食パンの製造
酵素剤として本発明のレンネット又はレンネット以外の各種プロテアーゼを用いてストレート法により食パンを製造した。
具体的には、パン用小麦粉(日清製粉製「ミリオン」)100質量部、イースト(オリエンタル酵母工業製「オリエンタルイースト」)2質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部、アスコルビン酸0.004質量部(40ppm)、表1に示す配合量の各酵素(但し、各酵素は予め少量の水に溶解したもの)、水72質量部(各酵素を溶解させた水も含む)、及びショートニング(日清オイリオグループ製「パンドーレショート 10J」)5質量部の配合にて、下記の製パン工程によって食パンを製造した。
得られた食パンを表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表3に示す。なお、酵素剤を用いない以外は実施例1と同様にして製造した食パンを対照(対照例1)とした。
【0021】
[製パン工程]
ミキシング :低速2分 中速5分(ショートニング添加) 中速3分、高速2分
捏ね上げ温度:27℃
一次発酵 :90分 パンチ 30分 (27℃ 75%)
分割重量 :250g/個に分割して丸める
ベンチタイム:25分(室温)
成形 :モルダー使用 U字成形して3斤型に6個詰める
ホイロ :45分(38℃ 85%)
焼成 :38分(210℃)
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
表3から明らかなごとく、実施例1〜5における作業性、製造されたパンの外観、内相、食感は、比較例1及び2の、レンネットを0.0025(IMCU)及び45(IMCU)を配合したものや、比較例3の、パパインを400unit、比較例4のニューラーゼ2.2unit配合したものに比して優れていることがわかる。すなわち、レンネットの配合量は、比較例1のように少な過ぎても、また比較例2のように多すぎても、作業性や、パンの外観、内相、食感において優れたものが得られず、本発明のレンネットの配合量は、穀粉原料100gあたり0.23〜10IMCUのレンネットの配合が特に好適な量であることがわかる。また、レンネット以外のプロテアーゼである比較例3のパパインや比較例4のニューラーゼを配合すると、実施例1〜5と比べて、生地作業性は、生地にベタツキがあり、伸展性に欠け、パンの外観は、艶が足りず、不均一な焼き色を呈し、内相は、膜厚く、不均一なすだちであり、食感においては、硬く、口溶けが悪いものであり、レンネット以外のプロテアーゼでは、本発明の効果が得られないことがわかる。
【0026】
[製造例1〜2] レンネット含有乳化組成物の製造
下記の表4に示す配合組成に従い、次のようにレンネット(Fromase 2200LT)を含有する乳化組成物を製造した。
まず、油相の成分を約60℃に調温し、均一に溶解した。一方、予めレンネットを少量の水に溶解した。残余の水を適温に調整し、レンネット以外の成分を添加して溶解し、これにレンネット溶液を添加して水相とした。この水相を先に調製した油相に添加・混合した後、ホモジナイザーで均質化処理して冷却して、水中油型乳化組成物(製造例1)、油中水型乳化組成物(製造例2)を得た。なお、これらの乳化組成物は、100質量部あたり23IMCUのレンネットを含有する。
【0027】
【表4】

【0028】
[実施例6〜7] 中種法による食パンの製造
下記の配合において、レンネット(ロビン社製「Fromase 2200LT」)を小麦粉100gに対して1.15IMCUとなるように調整した量を中種又は本捏に使用する水の一部に溶解したものを加えて、材料を混捏して、生地を得た。添加時期は下記の表5の通りである。下記の製パン工程に従って、中種法により食パンを製造した。なお、レンネットを配合しない以外は実施例6と同様にして製造した食パンを対照(対照例2)とした。
得られた食パンを、表2の評価基準により、10名のパネラーによって評価し、その結果の平均値を表5に示す。
【0029】
[配合(質量部)]
中種生地 本捏生地
強力粉 70 30
生イースト 2
食塩 2
砂糖 5
脱脂粉乳 2
ショートニング 5
L−アスコルビン酸 0.002
(20ppm)
水 40 26
【0030】
[製パン工程]
中種ミキシング:低速4分 中速2分
中種捏上温度 :24℃
一次発酵 :4時間 (27℃ 75%)
本捏ミキシング:低速2分 中速3分(ショートニング添加)中速3分 高速2分
本捏捏上温度 :27℃
フロアータイム:20分
分割重量 :250g/個に分割して丸める
ベンチタイム :25分(室温)
成形 :モルダー使用 U字成形して3斤型に6個詰める
ホイロ :40分(38℃ 85%)
焼成 :38分(210℃)
【0031】
[比較例5〜6] 中種法による食パンの製造
配合表中のショートニング部分を、製造例1〜2で得られたレンネットを含有する乳化組成物に置換し、レンネットを添加しない以外は、実施例6と同様にして中種食パンを製造した(比較例5〜6)。なお、レンネットの配合量は、実施例6とおなじ、穀粉原料100gあたり1.15IMCUである。
得られた食パンを、表2の評価基準により、10名のパネラーによって評価し、その結果の平均値を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
表5から明らかなごとく、レンネットを仕込み水の一部に配合し、添加時期を中種生地の製造時(実施例6)、本捏生地の製造時(実施例7)とした場合では、生地のベタツキがなく、伸展性に優れるなど生地作業性が良好であり、製造されたパンの外観は、艶があり、均一な焼き色を呈し、内相は、膜薄く均一なすだちを示し、及び食感は、ソフトで口溶けがよく総合的に優れたものであった。これに対し、レンネットを水中油型乳化組成物(比較例5)として、あるいは、レンネットを油中水型乳化組成物として配合したもの(比較例6)は、生地作業性、外観、内相、食感において、対照と同程度であった。
このように、レンネットを本発明のごとく、乳化組成物以外の形態、すなわち水溶液や固体の形態で配合する方法が、乳化組成物として用いる方法と比べて前述のとおり優れていることがわかる。
【0034】
[実施例8〜10及び比較例7〜8] 冷凍ピザの製造
小麦粉(日清製粉株式会社製「ソレドォル」)100質量部、イースト(オリエンタル酵母工業社製「FD−1」)2質量部、食塩2.4質量部、水63質量部及びL−アスコルビン酸0.002質量部(20ppm)、さらにレンネット「Fromase 2200TL」:ロビン社製 2,300 IMCU/g)を表7に示す量にて粉末の形態で加えて低速3分、高速5分で混捏して、生地を得た。捏ね上がった生地は温度27℃、湿度75%の条件下で15分発酵させた後、150gづつにピザ生地玉とした後、−40℃の冷凍庫に入れて30分間急速冷凍し、ついで−18℃以下の冷凍庫で3ヶ月間保存した。保存された生地玉を直径20cmに薄く圧延してピザ台に成形した。ピザ台に対して20gのピザソースを塗り、その上に60gのチーズをトッピングし、これを250℃で7分間焼成してピザを製造した。なお、レンネットを配合しない以外は同じようにして製造したピザを対照(対照例3)とした。
得られたピザを、表6の評価基準により、10名のパネラーによって評価し、その結果の平均値を表7に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
表7から明らかなごとく、実施例8〜10における生地作業性、焼成して得られたピザの内相、食感は、比較例7〜8及び対照例3に比して、作業性においては、生地のべたつきが少なく、伸展性に優れ、また、食感においては、モチモチ感とソフト感があり、口溶けが良く、さらに、内相は、やや艶のある膜質で、約半分が蜂の巣状の内相を示し、ピザとして優れていることがわかる。
【0038】
[実施例11〜16] フランスパンの製造
パン用小麦粉(日清製粉株式会社製「リスドォル」)100質量部、インスタントドライイースト(ルサッフル社「インスタントイースト赤」)0.4質量部、食塩2.0質量部、モルトシロップ0.2質量部、改良剤0.1質量部(オリエンタル酵母工業社製「C−フード」)及び水65質量部に加え、レンネット(「Fromase 2200TL」:ロビン社製 2,300IMCU/g)(予め少量の仕込み水に溶解したもの)及びアスコルビン酸を、下記の表8に示す小麦粉100gに対する配合量及び割合で用いて、下記の製パン工程によってフランスパンを製造した。なお、レンネットを用いない以外は実施例11と同様にして製造したフランスパンを対照(対照例4)とした。
得られたフランスパンを表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価し、その結果の平均を表9に示す。
【0039】
[製パン工程]
ミキシング :低速4分 中速5分
捏ね上げ温度:24℃
一次発酵 :90分 パンチ 90分 (27℃ 75%)
分割重量 :350g/個に分割してなまこ状に丸める
ベンチタイム:30分(室温)
成形 :モルダー使用 直径35mmの棒状に成型
ホイロ :60分(32℃ 80%)
焼成 :30分(220℃、水蒸気を導入)
【0040】
【表8】

【0041】
【表9】

【0042】
表9から明らかなごとく、レンネットとL−アスコルビン酸との併用は、その広い配合比でレンネットを用いない対照例4に比べて生地作業性、製品の外観、内相及び食感は優れていることがわかる。特に実施例12〜15のレンネットとL−アスコルビン酸の配合比が1:4〜200である場合、生地作業性、製品の外観、内相及び食感はいずれも非常に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉原料100gあたり0.01〜20IMCUのレンネットを配合し(ただし乳化組成物として配合することを除く)、常法に従って製パンすることを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
穀粉原料に対してアスコルビン酸を0.1〜200ppm配合することを特徴とする請求項1記載のパン類の製造方法。
【請求項3】
レンネット(IMCU)とアスコルビン酸(ppm)の配合比が1:4〜200であることを特徴とする請求項2記載のパン類の製造方法。