説明

パーキンソン病の診断検査

本発明は、パーキンソン病(PD)を検出し、予後診断し、経過観察するための分子マーカーに関し、前記分子マーカーは発現パターンの変化した1つ若しくは複数の遺伝子、又はその遺伝子産物(RNA又はタンパク質)である。PD患者においてその発現がアップレギュレート又はダウンレギュレートされる遺伝子は、PDの早期診断のための、疾患の進行をモニターするための手段であり、PDの治療のための新規の物質をスクリーニングするためのターゲットとして働くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病を検出し、予後診断し、経過観察するための分子マーカーの使用に関する。
【0002】
略語:
ACTB:βアクチン;AD:アルツハイマー病;ALAS1:アミノレブリン酸δ合成酵素1;ALDH1A1:アルデヒド脱水素酵素1ファミリー、メンバーA1;ALS:筋萎縮性側索硬化症;ARPP:21−サイクリックAMP制御リン酸化タンパク質;DA:ドーパミン;DEPC:ジエチルピロカーボネート;EGLN1:eglナイン同族体(homolog)1;EIF4G1:真核生物の翻訳開始因子4γ、1;GAPDH:グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素;HSPA8/HSC70/HSC54:シャペロン熱ショック70kDaタンパク質8;L13a:RPL13A;LGALS9:レクチン、ガラクトシド結合性、可溶性、9;LOC56920:セマフォリンsem2;LRP6:低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質6;MAN2B1:マンノシダーゼ、α、クラス2B、メンバー1;MPTP:N−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン;OS:酸化ストレス、PARVA:パルビン(parvin)、α;pc:緻密部;PD:パーキンソン病;PENK:プロエンケファリン;PET:陽電子放射断層撮影法、PMD:死後の遅延;ROS:活性酸素種;SELPLG:セレクチンPリガンド;SKP1A:S相キナーゼ会合タンパク質1A;SN:黒質;SPECT:単一光子放射型断層撮影法;SPHK1:スフィンゴシンキナーゼ1;SRPK2:SFRSタンパク質キナーゼ2;SRRM2:セリン/アルギニン反復マトリックス2;TMEFF1:EGF様の及び2つのフォリスタチン様のドメイン1を伴う膜貫通型タンパク質;TRIM36:三分裂(tripartite)モチーフ含有36;UCHL:1−ユビキチンC末端加水分解酵素−L1;UPS:ユビキチンプロテアソーム系;UPDRS:パーキンソン病統一スケール;VMAT:小胞モノアミンメンバー;ZSIG11:推定上の分泌タンパク質ZSIG11。
【背景技術】
【0003】
パーキンソン病(PD)は、65歳を超える集団で罹患率が1%である、進行性の神経変性障害であり、黒質(SN)におけるドーパミン神経の変性、及び結果として起こる線条体のドーパミン欠乏をもたらす(Bernheimerら、1973年)。ドーパミン作動性神経の変性の原因及びメカニズムは、依然として把握困難である。散発性の(非遺伝性の)パーキンソン病は、この疾患の最も一般的な形態を成す。
【0004】
PDの遺伝性の形態も、散発性の形態も、主に、タンパク質ハンドリングの機能障害、異化作用、酸化ストレス損傷に集中する。
【0005】
PDの病因の一因となる潜在的な要因には、ミトコンドリアの機能不全、ドーパミン(DA)の自動酸化又は酵素(モノアミンオキシダーゼ)的酸化、及びSN緻密部(pc)における過剰な鉄の蓄積が引き起こす継続する選択的酸化ストレス(OS)が含まれる(Riedererら、1989年;Youdimら、1993年;Gotzら、1994年;Jenner and Olanow、1996年;Olanow and Youdim、1996年;Youdim and Riederer、1997年;Jenner,1998年)。特に、酸化還元活性のある鉄が、選択的に死滅するメラニン含有ニューロンの中に、及びPDの形態学的な特徴であるレヴィ小体の縁に観察されている。
【0006】
レヴィ小体は、脂質、凝集したαシヌクレイン(その末梢のハロ(halo)に集中している)、及びユビキチン結合した過剰リン酸化ニューロフィラメントタンパク質から構成される(Jellinger、2003年)。数々の研究(Ostrerova−Goltsら、2000年;Ebadiら、2001年;Turnbullら、2001年)により、αシヌクレインが鉄の存在下で毒性の凝集物を形成し、これがOSによるレヴィ小体の形成の一因であると考えられていることが示されている。最近、ユビキチン結合したタンパク質が凝集したレヴィ小体は、ミスフォールディングされたタンパク質が堆積する単なる一般的な部位ではなく、毒性のミスフォールディングされた損害を受けたタンパク質を除去することをねらった防御措置としてとらえられ始めている(Hashimotoら、2004年;Tanakaら、2004年)。
【0007】
今や、かなりの数の変異した鉄代謝遺伝子が神経変性に直接関与することが示されているので、脳の鉄代謝の誤制御は、神経変性疾患で注目を浴びている(Felletschinら、2003年;Youdim and Riederer、2004年)。したがって、鉄の酸化還元状態は中心的要素を成し、加齢し疾患に冒された脳における、タンパク質のミスフォールディング及び凝集の範囲の一因となる。
【0008】
ユビキチン結合したタンパク質及びプロテアソームのタンパク質のハンドリングにおける欠陥は、PD、並びに、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びハンチントン病などの他の慢性神経変性疾患における、並びに加齢における共通の特徴である(Ciechanover and Brundin、2003年;Dawson and Dawson、2003年)。これは、次には、細胞周期、プロセッシング、及び転写物の制御など、ユビキチン結合に関連するいくつかの細胞のプロセス、細胞内輸送、シグナル伝達経路、並びに正常の及び損傷を受けた細胞内タンパク質の分解における損傷をもたらす(Ciechanover and Brundin、2003年)。
【0009】
証拠の蓄積により、この疾患の最も一般的な形態を構成する散発性PDにおけるタンパク質のミスフォールディング、及びタンパク質封入体への凝集の決定的な役割に注意が向けられている。例えば、20Sプロテアソームαサブユニットの損失(McNaughtら、2002年;McNaughtら、2003年)、及び散発性PDのSNpcにおける26/20Sプロテアソーム系の活性の減少(McNaughtら、2003年)も、報告されている。
【0010】
αシヌクレイン、パーキン、及びユビキチンC末端加水分解酵素−L1(UCHL−1)における3つの明らかに独立した遺伝子変異は、ユビキチン−プロテアソーム系(UPS)の活性を損なうことがあり、遺伝性PDの稀な形態で記載されている(Dauer and Przedborski、2003年)。より最近では、DJ−1遺伝子における劣性変異が、酸化ストレスに対する細胞応答で1つの役割を演じていることが提唱された(Bonifatiら、2003年)。しかしながら、これらの遺伝子のどれも、PDの全症例の95%を超えて構成する散発性PDで変異することは実証されていない。
【0011】
PDの病因を探索する取組みは、細胞死に対するニューロンの脆弱性を増し、又は細胞の死を引き起こすことさえあり得る、遺伝子発現のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションにおける変化の研究に基づいている。数々の研究が、SNにおけるカルシウム結合性タンパク質(28kDaカルビンジン−D)の減少(Iacopino and Christakos、1990年)、及びPD患者からのリンパ球におけるDレセプターmRNA(Nagaiら、1996年)の減少など、様々な遺伝子の発現における変更を報告している。
【0012】
動物でパーキンソニズムを誘発するのに用いられる神経毒の中でも、N−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)は、げっ歯動物、霊長動物、及び他の種におけるパーキンソン症候群の神経化学的特性及び解剖学的特性の多くを最もよく再現する(Dauer and Przedborski、2003年)。このモデルにはある種の限界が内在する、即ち進行性の性質及びレヴィ小体(封入体)が欠如しているが、ドーパミン作動性の神経変性をもたらす分子の事象について多くが知られるようになっている。
【0013】
MPTP動物モデルを用いて、いくつかの遺伝子の発現における変更が観察された。例えば、パーキンソン症候群のサルの被殻におけるニューロンの亜集団に、グルタミン酸脱炭酸酵素mRNAの増加が観察され、これはMPTP処置したパーキンソン症候群のサルでは線条体淡蒼球体のGABA作動性ニューロンが機能亢進する更なる証拠を提供するものである(Soghomonian and Laprade、1997年)。SNにおけるBax(細胞死エフェクター)mRNA発現が、Baxの免疫反応性の相伴う増加とともに増加することも、同モデルで検出された(Hassounaら、1996年)。
【0014】
より最近では、変性の間に起こる一連の事象のより全体的な像を得るために、MPTPモデルを使用して、マウスの中脳における特異な遺伝子発現の変化を評価している(Grumblattら、2001年)。研究で用いた中央の密度のマイクロアレイは、約1200の遺伝子を含んでいた。このようにして、変更され得る特異な遺伝子発現の限定的な像が観察された。それでも、この研究では、酸化ストレス、炎症、一酸化窒素、グルタミン酸興奮毒性、及び、アップレギュレート(upregulate)又はダウンレギュレート(downregulate)される神経栄養因子経路に関する遺伝子の変更が実証された。細胞周期及び鉄代謝の制御、アポトーシス、中間代謝、並びにシグナル伝達を含む、以前に記載されていない更なる遺伝子の経路も観察されている。
【0015】
更に、インターロイキン−1β(IL−1β)mRNAの増加、プロデス(pro−death)遺伝子BAD、BAX、及びBIDの増加が、メタンフェタミン処置ラットで報告された(Yamaguchiら、1991年)。これに伴って、アンチデス(anti−death)遺伝子Bcl−2及びBcl−XLに、大幅な減少があった(Cadetら、2001年;Jayanthiら、2001年)。
【0016】
6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)によるドーパミンの枯渇により引き起こされるPDの、別の動物モデルでは、成年ラット及び新生児ラットの線条体にグルタミン酸脱炭酸酵素mRNA発現の増加が見られた。並行してプレプロエンケファリンの増加及びプレプロダイノルフィンmRNAレベルの減少が観察された(Laprade and Soghomonian、1999年)。
【0017】
パーキンソン病統一スケール(UPDRS)(Fahn、1987年)などの、最近認められたPD診断のための臨床診断基準により、パーキンソニズムを検出するための高い感度がもたらされている(Brooks、1998年)。しかしながら、散発性PD、及び殆どの家族性PDの症例のための、臨床の、特に前臨床のPDを確実に診断するために用いることができる、感度の良い特異的な生化学的マーカーは存在しない。
【0018】
PDを診断する1つの取組みは、典型的なPDを非定型のPDと区別する手段を提供する機能画像法であり、ドーパミン作動性の機能の損失の特徴的なパターンを明らかにするものである。更に、陽電子放射断層撮影法(PET)、及び単一光子放射型断層撮影法(SPECT)は、PDにおける線条体の代謝の維持レベル及びドーパミンレセプターの結合性を示すが、非定型の変異型ではレベルは減少する(Brooks、1998年)。それでも、これらの手段ではPDの正確な診断は得られず、しばしば、PDの専門家が、7.6年の経過観察の間に診断を稀に変更した(Jankovicら、2000年)。
【0019】
更に、これらの診断方法は全て、症状が現れた時点のみに、ニューロンの70%近くが変性した後でのみ、PDを有する対象を検出することができる(Zigmondら、1989年)。このため、勿論、治療及びおそらくはニューロンの救出さえも殆ど不可能になっている。これを考慮すると、疾患を初期の段階で診断することが望ましく、この理由から、初期の診断方法を開発することが重要である。
【0020】
in vitro及びin vivoで、神経保護作用を示す薬物は既に多く存在する(Drukarch and van Muiswinkel、2001年;Grunblattら、2001年及び2003年;Koller、2002年;Olanowら、1996年及び1998年;Riedererら、2000年及び2002年;Soto−Oteroら、2002年)。更に、神経変性のプロセスを遅らせるのに遺伝子治療が最も奏功することが示された(Azzouzら、2002年;Le and Frim、2002年;Luoら、2002年;McBride and Kordower、2002年;Monville、2002年;Olanow、2002年;Senior、2002年;Tenenbaumら、2002年)。問題は、治療の開始が遅すぎ、生存するニューロンの数が少なすぎるため、これらの薬物及び方法はPDの患者でいかなる成功も示さなかったことである。したがって、早期に診断すれば、PDに生じる細胞死から保護することができる治療方策に服従するための、且つ疾患の進行を防止するためのより良い時間点を提供することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ゆえに、ニューロンの実質的な損傷が生じ、典型的な症状が現れる前に、PD患者を治療することが重大である。したがって、初期の段階でPDを検出しモニターするための、初期診断方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、一態様では、疾患の進行及び治療の効果をモニターする、診断の目的の、パーキンソン病の分子マーカーの使用に関する。
【0023】
別の一態様では、本発明は、測定可能な生物学的マーカーの使用を含む、パーキンソン病を診断し、予後診断し、経過観察する方法に関し、前記マーカーは、変更された発現パターンを示す1つ又は複数の遺伝子であり、又はそれによりコードされる遺伝子産物である。
【0024】
本発明による分子マーカーとして使用するための遺伝子は、以下に詳しく述べるように、PD患者で発現がアップレギュレート又はダウンレギュレートされる遺伝子である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、パーキンソン病を検出し、予後診断し、治療を経過観察するための特異的な分子マーカー又は生物学的マーカーの使用に関する。
【0026】
本発明によると、例えば、遺伝子ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、SET0−2、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KAl、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7など、PDで変更された発現パターンを有する遺伝子が見出された。
【0027】
したがって、一実施形態では、本発明は、パーキンソン病を検出し、予後診断し、治療を経過観察するための分子マーカーの使用に関し、この分子マーカーは、1つ又は複数の上記の遺伝子、又はそれらの遺伝子産物である。
【0028】
本発明者らは、上記に記載した遺伝子のいくつかは健常個体に比べてPD患者で発現の増加を示すが、他の遺伝子は発現の減少を示すことを更に見出した。以下の表3及び表4はそれぞれ、ダウンレギュレート及びアップレギュレートされる遺伝子、並びに各遺伝子に対して、遺伝子銀行番号、全遺伝子名、及びその機能を含めたそれらの特徴づけを示している。
【0029】
本発明によると、以下の遺伝子はアップレギュレートされる、即ち、PDで発現レベルの増加を示すことが見出され、以下、「アップレギュレートされる遺伝子」と呼ぶ。EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7。
【0030】
更に、本発明によると、以下の遺伝子はダウンレギュレートされる、即ち、PDで発現レベルの減少を示すことが見出され、以下、「ダウンレギュレートされる遺伝子」と呼ぶ。ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、SET0−2。
【0031】
本明細書で用いられる「分子マーカー」及び「生物学的マーカー」は交換可能に用いられて、個体から得たサンプルにおいて、PDの診断のために同定し、測定することができる遺伝子産物を含む。
【0032】
本明細書で用いられる「遺伝子産物」は、遺伝子に含まれる情報を遺伝子産物に変換することによる、遺伝子の発現産物を意味する。遺伝子産物は、遺伝子の直接の転写物、即ちmRNA、tRNA、若しくはあらゆる他のタイプのRNAなどのRNA、又はmRNAの翻訳により産生されたタンパク質であることができる。
【0033】
本明細書で用いられる「PDで発現パターンの変化された遺伝子」は、例えば健常個体に比べて、PD患者でアップレギュレート又はダウンレギュレートされる遺伝子を意味する。本明細書で、遺伝子のアップレギュレーションの前後関係で用いる「アップレギュレーション(upregulation)」は、例えば遺伝子により発現されるRNA又はタンパク質などの、遺伝子産物の産生の増加をもたらすあらゆるプロセスを意味する。本明細書で、遺伝子のダウンレギュレーションの前後関係で用いる「ダウンレギュレーション(downregulation)」は、例えば遺伝子により発現されるRNA又はタンパク質などの、遺伝子産物の産生の減少をもたらすあらゆるプロセスを意味する。
【0034】
遺伝子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションのレベルを含む、遺伝子発現のレベルは、以下に記載する周知の手順により測定することができる。一般的に、遺伝子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションは、遺伝子産物の産生におけるあらゆる検出可能な増加又は減少を含む。アップレギュレートされる、及び遺伝子活性化は、観察される活性がベースラインレベルに比べて、統計的に有意差がある(例えば、増加又は減少する)ことも意味することができる。観察された偶然生じた差の確率(p値)が予め決定されたあるレベルより小さい場合に、差は「統計的に有意」であると通常みなされる。本明細書で用いられる「統計的に有意差がある」は、p値が<0.05、好ましくはダウンレギュレートされる遺伝子(表3)で<0.02、より好ましくはアップレギュレートされる遺伝子(表4)で<0.005であることを意味する。本発明によると、アップレギュレートされる遺伝子における発現の増加は、少なくとも1.5倍、好ましくは1〜3倍(表4)であり、ダウンレギュレートされる遺伝子における発現の減少は少なくとも0.66倍又はそれより少なく、好ましくは0.3〜0.66である(表3)。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態では、PDの生物学的マーカーは、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A,SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4からなる群から選択される1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子、及びそれらの遺伝子産物であり、且つ/又は、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11からなる群から選択される1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子、及びそれらの遺伝子産物である。
【0036】
一実施形態では、本発明は、分子マーカーの使用を含む、パーキンソン病を診断し、予後診断し、且つ/又は治療の経過観察をする方法に関し、この分子マーカーは、1つ又は複数の本発明のアップレギュレートされる遺伝子及び/又はダウンレギュレートされる遺伝子である。好ましくは、分子マーカーは、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4からなる群から選択される1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子、及びそれらの遺伝子産物であり、且つ/又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11からなる群から選択される1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子、及びそれらの遺伝子産物である。
【0037】
本発明の方法は、試験すべき個体からサンプルを得、サンプルにおいて、本発明のアップレギュレートされる遺伝子及び/又はダウンレギュレートされる遺伝子に特異的な1つ又は複数の遺伝子産物のレベルの減少又は増加を検出することを含む。
【0038】
試験する個体は、PDを有すると疑われる個体、パーキンソン症候群様の症状を示す個体、新たなPD患者、疾患の進行を経過観察するために、且つ/又は治療の有効性をモニターするために、神経保護の又は他の適切なPD薬物で治療中のPD患者であることができる。したがって、本発明は、初期の段階でPDを診察する方法、及び、家族性及び散発性両方のPD患者の、PD患者の治療をモニターする方法を提供する。
【0039】
検出には、あらゆる適切なサンプルを用いることができるが、試験する個体から得た血液、血清、又は皮膚の生検サンプルを用いることが好ましい。
【0040】
様々な異なるアッセイを利用して遺伝子パターンの発現の変更を検出することができ、遺伝子転写物のレベル及びタンパク質をコードする遺伝子のレベルを検出する方法が含まれる。より詳しくは、本明細書に開示する診断方法及び予後診断方法には、個体からサンプルを得、サンプルにおける1つ又は複数のアップレギュレートされる遺伝子及び/又はダウンレギュレートされる遺伝子の発現レベルを決定することが含まれる。通常、この決定された値又は試験値を、対照(健常個体、非PD患者)又はベースライン値における発現レベルなどのあるタイプの参照と比較する。
【0041】
本発明によると、in vivoで分子マーカーを使用することも企図される。
【0042】
試験する遺伝子産物がサンプルから抽出されたRNAである場合、遺伝子発現のレベル、即ち遺伝子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションのレベルを、核酸プローブアレイ、ノーザンブロット、RNaseプロテクションアッセイ(RPA)、定量逆転写PCR(RT−PCR)、ドットブロットアッセイ、及びin−situハイブリダイゼーションを含むがそれだけには限定されない周知の手順により測定することができる。
【0043】
好ましい一実施形態では、核酸プローブアレイを用いて遺伝子転写物を検出し定量する(以下の実施例に記載する通り)。アレイは様々なタイプであることができ、例えば、長さの短い合成プローブ(20mer又は25mer)、cDNAの全長又は遺伝子のフラグメント、増幅したDNA、DNAのフラグメント(例えば制限酵素により生成されたもの)、及び逆転写されたDNAなどの様々なタイプのプローブを含むことができる。アレイはカスタムアレイであることができ、遺伝子のmRNA遺伝子配列の特定の予め選択されたサブシーケンス若しくはその増幅産生物をハイブリダイズするプローブ、又は配列に関係なくmRNAを分析するようにデザインされた一般的なアレイが含まれる。
【0044】
プローブアレイを用いる方法では、試験サンプルから得た核酸は標識されたcDNAに通常逆転写されるが、標識したmRNAを直接使用することができる。標識した核酸を含む試験サンプルを、次いで、アレイのプローブと接触させ、サンプルに存在する試験する遺伝子に関連するあらゆる標識された核酸がプローブとハイブリダイズした後、アレイを通常1回又は複数回の高度に厳密な洗浄に曝して非結合の核酸を除去し、アレイの核酸プローブに対する非特異的結合を最小にする。標識した核酸の結合を、任意の様々な市販のスキャナー、及び付随するソフトウェアプログラムを用いて検出する。例えば、サンプル由来の核酸を蛍光標識で標識する場合、ハイブリダイゼーションの強度は、例えば共焦点スキャン顕微鏡の光子計数法により決定することができる。標識は、酵素法により増幅することができるシグナルを提供することができ、又は、例えば、放射性同位元素、発色団、磁性粒子、及び高電子密度粒子を含む他の標識を用いることができる。
【0045】
標識した核酸にハイブリダイズされたプローブアレイ上のこれらの位置を、市販のリーダーを用いて検出する。カスタマイズされたアレイに対して、次いでハイブリダイゼーションパターンを分析して、分析しているサンプル中の周知のmRNA種の存在、及び/又は相対量若しくは絶対量を決定することができる。
【0046】
別の好ましい一実施形態では、リアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT−PCR)法を用いて、サンプルに存在する遺伝子mRNAの量を決定することができる(以下の実施例を参照されたい)。これらの方法は、例えば蛍光発生ヌクレアーゼアッセイにより、増幅プロセス中に形成された増幅産物の量を測定して、目的とする遺伝子の特定の転写物を検出し定量することを含む。これらのアッセイは、単にTaqMan(登録商標)法として文献で頻繁に言及される手法で、二重標識した蛍光オリゴヌクレオチドプローブを用いてPCR産物の蓄積を連続的に測定する。
【0047】
リアルタイムPCRアッセイで用いられるプローブは、通常短い(約20〜25塩基)ポリヌクレオチドであり、2種の異なる蛍光色素、即ちプローブの5’末端のレポーター色素、及び3’末端の消光色素で標識されているが、色素はプローブ上の他の位置でも結合することができる。特定の転写物を測定するために、プローブは、特定の転写物上のプローブ結合性部位と相補性に、少なくとも実質的な配列を有するようにデザインされている。特定の転写物の側面に位置する領域に結合する上流及び下流のPCRプライマーも、核酸を増幅するのに使用するために反応混合物に添加する。
【0048】
プローブが完全である場合、2つの蛍光体間でエネルギーの移動が生じ、クエンチャーがレポーターからの発光を消光する。PCRの伸長期の間、プローブはTaqポリメラーゼなどの核酸ポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性により開裂し、その結果、ポリヌクレオチド−クエンチャー複合体からレポーター色素を放出し、レポーター発光強度の増大をもたらし、それを適当な検出システムにより測定することができる。蛍光発生アッセイの間に作り出される蛍光発光を、増幅過程にわたりレポーター及びクエンチャーの蛍光強度を記録することのできるコンピュータソフトウェアを含む市販の検出器により測定する。次いで、これらの記録値を用いて、連続的に、標準化されたレポーターの発光強度の増大を計算し、最終的に増幅されているmRNAの量を定量することができる。
【0049】
ドットブロット及びin−situハイブリダイゼーションに基づくアッセイでは、PDの検査を行う個体からのサンプルを、フィルターなどの支持体上にスポットし、次いで、本発明の1つ又は複数のアップレギュレートされる遺伝子又はダウンレギュレートされる遺伝子由来の核酸で特異的にハイブリダイズした標識した核酸プローブでプローブする。フィルター上に固定化した核酸でプローブをハイブリダイゼーションした後、非結合の核酸を洗い流し、ハイブリダイゼーション複合物の存在を、フィルターに結合した標識したプローブの量に基づき検出し定量した。
【0050】
したがって、本発明により、生物学的材料、好ましくは血液又は皮膚の生検サンプルからRNAを抽出することにより、遺伝子の発現パターンが決定される。このRNAを、市販のキットにより迅速に分離する。次いで、RNAを、選択された遺伝子及び標準化のために働く適切なハウスキーピング遺伝子を含むカスタマイズされたGeneChipアレイにハイブリダイゼーションすることにより、又は選択された各遺伝子に対するリアルタイムPCRにより試験する。遺伝子の発現パターンを、陽性コントロール及び陰性コントロールのRNA(それぞれ、新しいPD及び健常対象)の発現と比べることにより決定する。対象をPD患者と規定するためには、この技術の1つにより得られた遺伝子発現のパターンは、表3又は4に記載したパターンと同様でなければならない。
【0051】
別の一実施形態では、アップレギュレートされる遺伝子又はダウンレギュレートされる遺伝子の発現により得られる遺伝子産物はタンパク質であり、そのタンパク質に結合することのできる抗体又はそのフラグメントにより検出することができる。抗体、又はフラグメント誘導体は、あらゆる適当なマーカー、例えば、放射性同位体、酵素、蛍光標識、常磁性標識、又はフリーラジカルで検出可能に標識することができる。
【0052】
好ましい一実施形態では、本発明は、パーキンソン症候群様の症状を表す個体におけるパーキンソン病の発生を診断する方法に関し、前記個体から得られたサンプルにおける1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子の、より好ましくは1つ若しくは複数の遺伝子ALDHIA1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、及びPSMC4の発現のレベルの減少、並びに/又は1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子の、より好ましくは1つ若しくは複数の遺伝子EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHKI、SRRM2、及びZSIG11の発現レベルの増加を検出することを含む。1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子の発現が少なくとも約1.5倍の増加であり、且つ/又は1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子の発現が約0.66倍又はそれより少ない減少であれば、個体がPDに罹患していることを示す。
【0053】
PDの診断に用いられる現在の方法に比べると、この方法は珍しい遺伝的な変異又は疾患の家族歴を用いないが、散発性のPDにも生じる一般的な遺伝子発現の変化を用いるという利点がある。これらの遺伝子発現の変更は、特定の遺伝的背景の結果として引き起こされることがあるだけではなく、環境的背景の結果としても引き起こされることがある。したがって、この方法は、遺伝子変異を有するPD患者も、散発性のPD患者も、広範な細胞死及び非可逆性のニューロンの実質的な損傷が起こる前の、疾患の発生における大変早期に検出する。
【0054】
PDは、非治療の場合、全ての脳機能の全般的な悪化をしばしば伴う全身の無能力に進行し、早期の死亡をもたらすことがある。治療を行っても、この障害は依然として様々な方法で人を損なう。殆どの者は、薬物にある程度反応する。症状の軽減する程度、及びこの症状のコントロールがどのくらい続くかは、非常に変動する。
【0055】
したがって、別の一実施形態では、本発明は、PD患者の治療を予知し、又はモニターする方法を提供し、前記患者から得たサンプルにおける、1つ又は複数の本発明のダウンレギュレートされる遺伝子又はアップレギュレートされる遺伝子の発現のレベルを検出することを含み、この場合、1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子、より好ましくは1つ若しくは複数の遺伝子ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、及びPSMC4の発現レベルの増加、並びに/又は1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子、より好ましくは1つ若しくは複数の遺伝子EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、及びZSIG11の発現レベルの減少が治療の有効性を示す。
【0056】
以下の実施例に示すように、本発明者らは、世界的に主流の、PDで最も冒された脳の領域である黒質緻密部において差次的に発現された遺伝子を同定した(表3及び4を参照されたい)。Affymetrix高密度DNAマイクロアレイを用いて、年齢をマッチさせた対照と比べて差次的に発現された遺伝子を同定した。PDの小脳は、冒されていない脳の領域であり、組織特異性に対する対照となった。遺伝子発現の確認は、定量的リアルタイムPCRで分析することにより実現した。
【0057】
ダウンレギュレートされる遺伝子は、シグナル伝達、タンパク質分解(例えば、ユビキチン−プロテアソームサブユニット)、ドーパミン作動性の伝達/代謝、イオン輸送、タンパク質の修飾/リン酸化、及びエネルギー経路/解糖の機能上のクラスに属することが見出された。アップレギュレートされる遺伝子は、細胞接着/細胞骨格、細胞外マトリックス成分、細胞周期、タンパク質の修飾/リン酸化、タンパク質代謝、転写、及び炎症/ストレス(例えば、鉄及び酸素の主要なセンサーであるEGLN1)を含む生物学的プロセスに主に集中した。
【0058】
1つの主要な発見は、散発性のパーキンソン症候群患者の黒質(SN)で、特にSCF(E3)リガーゼ複合体のメンバーであるSKP1Aの発現が特別に減少したことであった。SKP1Aの減少には、エネルギー経路及びシグナル伝達において、細胞接着/細胞骨格、細胞外マトリックス成分、及び炎症/ストレスに関連する機能上の活性が数々の遺伝子で顕著に増加するのと並行して、26Sプロテアソームの様々なサブユニットの発現の低下が伴った。
【0059】
SKP1は、モジュラー多タンパク質であるSkp1、Cullin、及び基質認識性F−boxタンパク質(SCF)の中で機能しているRINGタンパク質のRbxファミリーの一部である(Kamuraら、1999年)。このユニットは、多数のE3複合体の形成を可能にし、これは、次には、広範囲の様々なタンパク質の基質を認識することができる。
【0060】
SCF複合体はモジュラーであり、SKP1はいくつかのF−boxタンパク質と相互作用をすることができ、F−boxタンパク質は特異的な標的の認識を担い、その結果機能上の多様性をもたらし、この複合体が処理するレパートリーのタンパク質を増加させる。ヒトは、機能上のSKP1アイソフォームを1つだけ発現する(Semple、2003年)。したがって、観察されるその発現の減少は律速因子を構成することができ、PD患者の脳における、チロシン水酸化酵素、シンフィリン−1、α−シヌクレイン、リン酸化タウなど、広範囲のユビキチン結合したタンパク質凝集物の蓄積を説明することができる(Lianiら、2004年;Meredithら、2004年;Zhang and Goodlett、2004年)。
【0061】
定量リアルタイムPCR分析では、健常の対象でもPDの対象でも、SNは特に低レベルのSKP1AのmRNAを発現していることが示された。例えば、対照サンプルは、大変低い発現値(0.013±0.011)を示し、Rab3B(1.80±0.70)から2オーダーを超える差があるが、この発現はPDのSNpcでは影響を受けなかった。PDのSNpcでは、SKPA1Aの発現が減少する明らかな傾向が観察された。SKP1Aの発現は、SNrで、又はPDの小脳で影響を受けなかった。
【0062】
SKP1Aにおけるこの選択的減少の他に、PDの脳のSNにおいて、20Sプロテアソームサブユニットであるα−5(PSMA5)、α−3(PSMA3)、及びα−2(PSMA2)のmRNA、並びに26Sプロテアソームの19S調節複合体の2つのサブユニットである、非−ATP分解酵素(ATPase)サブユニット8(PSMD8/Rpn12)及びATP分解酵素サブユニット4(PSMC4/TBP7/Rpt3)の相伴う減少が観察され、更に、PDにおけるドーパミン作動性ニューロンの損傷の一因となる可能性がある。
【0063】
これらの発見は、神経変性のシナリオで新規の役割を演じるものがあることを明らかにし、新規の薬物成分を開発するための潜在的な目標を提供するものである。
【0064】
したがって、本発明は、パーキンソン病を治療するのに有用な物質をスクリーニングする方法を更に提供し、1つ若しくは複数のダウンレギュレートされる遺伝子、好ましくはダウンレギュレートされる遺伝子ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、の発現をアップレギュレートし、且つ/又は1つ若しくは複数のアップレギュレートされる遺伝子、好ましくはEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11の発現レベルをダウンレギュレートする物質を同定することを含む。
【0065】
当技術分野で周知のハイスループットスクリーニング方法を用いて、PDの治療に有用である化合物を同定することができる。
【0066】
次に、本発明を以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0067】
材料と方法
(i)ヒト脳組織
ドイツ国立脳ネットセンター(National German Brain−Net Center)(プロジェクト番号GA10)、及びオランダ脳バンク(Netherlands Brain−Bank)(プロジェクト番号350)より、死後のヒト脳を得た。PDの組織は、確立されたガイドラインによりHoehn&Yahrの診断基準に基づいて中程度から重症のパーキンソン症候群の個体から得た(Hoehn and Yahr、1967年)。対象は全て、Braak&BraakによるAD病理に陰性だった(Braak and Braak、1997年)(詳細は表1を参照されたい)。PD及び対照の平均年齢は、それぞれ76.6歳及び77.8歳であった。PD及び対照の平均死後遅延(PMD、死から−80℃で脳を凍結するまでの時間間隔)は、それぞれ26.2時間と19.8時間であった。生検では、脳を切開し、一方の半分を薄片として液体窒素中瞬間凍結し、他方の半分を組織病理学検査用に中性の緩衝ホルマリン中に貯蔵した。これらの研究に用いるヒト脳組織の症例の選択には、厳重な診断基準を用いた。ヒトSN及び小脳領域は、対照及びPDの提供者から得た。手順は全て、ドイツ及びオランダ脳バンクシステム(German and Netherlands Brain−Bank systems)により確立された一致基準に従い、実験室のヒト組織の注意及び使用のためのNIHガイド(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Human Tissue)に従い、ヴュルツブルグ大学倫理委員会(University of Wurzburg Ethics Committee)(ドイツ、Wurzburg)により承認された。
【0068】
(ii)全RNAの抽出
全RNAを、フェノール−グアニジンイソチオシアネート試薬(peqGOLD TriFast;ドイツ、Erlangen、PeQLabGmbH)で調製した(Lukiw and Bazan、1997年)。RNA分離試薬を、0.2μMのろ過したジエチルピロカーボネート(DEPC)−処理水(米国メリーランド州Hanover、Fermentas社)で調製し、分離手順を通して使用した。全RNAサンプルを、分光光度計で220から320nmでスキャンし、全RNAのA260/A280は典型的に>1.9であった。更に、全RNAの品質管理に、ホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動を行った。抽出した全RNAの全てで、28S/18S比は>1.5であった。重要なこととして、PDと対照の間で、スペクトルの純度、分解速度、分子サイズ、又はSN及び小脳の全RNAの収量に有意差はみとめられなかった。全RNAをDNase−I消化を受けさせてゲノムのDNA残渣を除き、引き続き、RNeasy Mini Kit(RNeasy Mini Kit;米国カリフォルニア州Valencia、Qiagen社)により清浄にした。
【0069】
(iii)アレイ処理
実験は全て、//www.affymetrix.com/support/technical/datasheets/human_datasheet.pdf.に記載されたAffymetrix HG−FOCUSオリゴヌクレオチドアレイを用いて行った。各サンプルからの全RNAを用いてビオチン化した標的RNAを調製し、製造元の勧めから若干の修飾を行った(http://www.affymetrix.com/support/technical/manual/expression_manual.affx)。手短に述べると、10μgのmRNAを用いて、T7−結合したオリゴ(dT)プライマーを用いることにより、第1の鎖のcDNAを生成した。第2の鎖を合成した後、ビオチン化したUTP及びCTP(Enzo Diagnostics)でin vitroの転写を行い、RNAの約100倍の増幅をもたらした。手順を完全に記載したものは、http://bioinf.picr.man.ac.uk/mbcf/downloads/GeneChip_Target_Prep_Protocol_CR_UK_v_2.pdfで入手できる。各サンプルから生成された標的cDNAは、Affymetrix Gene Chip Instrument System(http://www.affymetrix.com/support/technical/manual/expression_manual.affx)を用いて製造元の勧めにより処理した。手短に述べると、スパイクの対照をフラグメントにしたcDNA15μgに加えてから、一晩ハイブリダイゼーションした。次いで、アレイを洗浄し、ストレプトアビジン−フィコエリトリンで染色し、その後Affymetrix GeneChipスキャナー上でスキャンした。これらの手順を完全に記載したものは、http://bioinf.picr.man.ac.uk/mbcf/downloads/GeneChip_Hyb_Wash_Scan_Protocol_v_2_web.pdfで入手できる。更に、開始のRNAの品質及び量を、アガロースゲルを用いて確認した。スキャン後、アレイ画像を肉眼で評価して、スキャナー配列及びチップ表面に顕著な泡又はキズの存在しないことを確認した。BioBスパイク対照は、全てのアレイ上に存在することが見出され、BioC、BioD、及びCreXも強度が増加して存在した。全部で17個の遺伝子チップを使用した(SNpcに12個、PD患者及び年齢をマッチさせた対照の小脳に5個)。
【0070】
(iv)統計学的分析
Mas 5アルゴリズムの結果を用いて、遺伝子をフィルターにかけた。死後のサンプルで作業をする際に予想される困難の1つに、RNA調製の際の様々な程度の分解がある。したがって、これらのサンプルを起源とするcRNAは、5’末端よりも3’末端を多く含む。Affymetrixアレイプローブセットは、可能なときはいつでも3’末端が選択されるようにデザインされているので(http://www.afymetrix.com/support/technical/technotes/hgul33_design_technote.pdf)、比較的3’含量が高いサンプルの分析が可能になっている。MAS 5により存在する(P)として検出されるプローブセットのシグナルのp値は、(プローブセットに含まれるプローブから決定して)0.04より小さい。これにより、本発明者らは存在の信号を、確信を持って使用できるようになった。
【0071】
部分的に分解されたサンプルは、プローブセットのプローブの部分とハイブリダイズし、高いp値をもたらす(且つ、非存在として検出される)ことがある。6サンプルのうち少なくとも4サンプルでプローブセットが存在するとして検出され、信号が全て20を超える場合は、このプローブセットが存在すると本発明者らは決定した。シグナルが20を超え対照サンプル全てで存在(P)として検出される遺伝子、又はPDサンプル全てでシグナルが20を超え6サンプル中4サンプルで存在として検出される遺伝子を表す3517プローブセットのリストを、アレイ上に含まれる8763プローブセットから作成した(補足http://eng.sheba.co.il/genomics)。
【0072】
Wilcoxonの順位和検定で決定すると、患者と対照のサンプル間で、262のプローブセットで差が認められた(p値<0.05)(補足http://eng.sheba.co.il/genomics)。プローブセットを更にフィルターにかけ、PDサンプルの平均(幾何平均)シグナルと対照サンプルの平均シグナルとの比が1.5を超え、又は0.66より小さいものを選択した。Bonferroniの相関は、有効なヒットの殆どが失われる結果になるので適用しなかった。しかしながら、統計学的検定とともに前述したカットオフを用いると、高度に厳重な分析がもたらされ、通常の生物学的プロセスに関わる、規定されたサブセットの遺伝子に注目する可能性が与えられる。69個のプローブセットがアップレギュレートされ、68個のプローブセットがダウンレギュレートされた。
【0073】
(v)結果のリアルタイム定量PCR確認
マイクロアレイの結果を確認するために、本発明者らは、PD及び対照からの、SNpc、網様部(SNr)、及び小脳におけるmRNAサンプルに定量リアルタイムRT−PCRを行った。各サンプルからの全RNA(1〜0.4mg)を、iScript(登録商標)cDNA合成キット(cDNA Synthesis kit)(米国カリフォルニア州Hercules、BioRad Laboratories、170〜8890)を用いて、ランダム6量体、及びoligodTプライマーで逆転写した。遺伝子を、ハウスキーピング遺伝子、即ち、βアクチン(ACTB)、リボソームのタンパク質L13a(RPL13A)、アミノレブリネートδ合成酵素1(ALAS1)、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に標準化し(クアンチテクト(QuantiTect)(登録商標)遺伝子発現アッセイ(Gene Expression Assay)、米国カリフォルニア州Valencia、Qiagen社、Hs ACTB Assay 251013及びHsGAPD Assay 241011)、geNormプログラムによる分析の後に選択した(vs.3.3;ダウンロードはhttp://medgen31.ugent.be/jvdesomp/genorm/から)(Vandesompeleら、2002年;Schulzら、2004年)。geNormプログラムは、所与のcDNAサンプルパネルにおける1セットの試験する遺伝子から最も安定なハウスキーピング遺伝子を決定し、使用者が規定した数のハウスキーピング遺伝子の幾何平均をもとに各組織サンプルに対する遺伝子発現の標準化ファクターを計算する。最初は、本発明者らは、リボソームの18S及びシクロフィリンAを含む、全部で6個のハウスキーピング遺伝子を試験したが、最後の2者は適切でないことが見出された。
【0074】
これらのハウスキーピング遺伝子の安定性を試験し、標準化に対し最も正確であることが見出された。ハウスキーピング遺伝子のリボソームの18Sを増幅することにより、DNA汚染がないことが確認され、反応溶液をアガロースゲルに流して産物が非存在であることを確認した。RTがないサンプルを、FAMを用いて定量RT−PCRにより実験のサンプルと同時に試験すると、上記のプロトコールを用いて、35サイクルより少ない場合には一貫して増幅を生じなかった。前述したように、iCycler iQシステム(米国カリフォルニア州Hercules、BioRad社)でリアルタイムPCRを行った(Svarenら、2000年;Ugozzoliら、2002年)。手短に述べると、cDNA30〜100ng、及び遺伝子に特異的なプライマー、及びクアンチテクト(登録商標)カスタムアッセイ(Custome Assay)(米国カリフォルニア州Valencia、Qiagen社)により製造されたプローブ(表2)をクアンチテクト Probe PCR Master Mix(米国カリフォルニア州Valencia、Qiagen社、204343)に加えた。リアルタイムPCRを、PCR増幅にかけた(95℃15分間で1サイクル、94℃15秒間で30〜45サイクル、56℃30秒間アニーリング及びFAMで検出、及び76℃で30秒間伸長)。PCR反応は全て、2回ずつ行った。増幅した転写物は比較CT法を用いて定量し、BioRad iCycler iQシステムプログラムで分析した。各増幅産物の検量線は、MinElute(登録商標)Gel Extraction Kit(米国カリフォルニア州Valencia、Qiagen社)を用いてアガロースゲルから分離したcDNA単位複製配列をプールしたものの10倍希釈物から作成して、プライマーの効率及び量子化を決定した。データをMicrosoft Excel 2000で分析して、生の発現値を作成した。様々な脳の領域における遺伝子発現の差を、PCコンピュータ上の、分散分析(ANOVA)、StatViewソフトウェアプログラム(Stat View 5.0ソフトウェア、米国ノースカロライナ州Cary、SAS Institute社)を用いて比較した。
【0075】
(vi)免疫組織化学的分析
パーキンソン症候群患者及び年齢をマッチさせた対照からのパラフィン包埋した黒質を、ミクロトームにより冠状連続切片(厚さ6マイクロメートル)にかけた。脱パラフィンした切片を、デジタルデクローキングチャンバー(decloacking chamber)(米国カリフォルニア州Walnut Creek、Biockare Medical)中で、クエン酸バッファー(pH6.8)を用いてアンマスキングし、10%正常ヤギ血清で2時間RTでブロックし、抗SKP1と4℃で一夜インキュベートした。ストレプトアビジン−パーオキシダーゼ結合体及び基質としてS−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)と、適切なビオチン化した第2抗体によりHistostain−Plusキット(米国カリフォルニア州South San Francisco、Zymed)を用いて、製造元の指示に従いヘマトキシリンで対比染色を行って、検出を得た。
【0076】
(実施例1)PD患者で差次的に発現された遺伝子の機能上の分類
パーキンソン症候群患者6名及び年齢をマッチさせた対照6名からの死後SNpcに対し、DNAマイクロアレイ分析を行って、疾患と関連のある遺伝子転写における変更を同定した。
【0077】
本発明者らは、本発明者らの分析を、差次的な発現が少なくとも1.5倍で有意水準がp<0.05である遺伝子に限定した。分析した全3517個の有効なプローブセットのうち(材料と方法を参照されたい)、137個が診断基準を満たした。PD及び対照サンプルにおけるこれら137個の遺伝子の相対発現レベルを表す、ヒートマップを実施し(図1)、そのうち68個が転写上、ダウンレギュレートされ(表3)、69個がアップレギュレートされた(表4)。
【0078】
12個にわたるサンプルで、遺伝子は、それらの相対発現レベルにより集中した。陰性対照に対し、非関連の脳の領域、PD(2サンプル)及び対照(3サンプル)の両者の小脳で5つのオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションを行い、遺伝子の変化の組織特異性を評価した。階層的クラスタリングにより、PDの小脳でも正常の小脳でも発現の完全に異なる発現パターンを表すことが示された(データは示さず)。
【0079】
その後、遺伝子はGeneOntology注釈ツールにしたがって機能上のグループに分類した(Dennisら、2003年)(http://appsl.niaid.nih.gov/David/upload.asp)。Gene Ontology Consortiumにより規定されるように、このプログラムにより、生物学的プロセス、分子機能、又は細胞成分にしたがって系統立てられたグループの遺伝子において制御の傾向を見出すことが可能になっている(http://www.geneontology.org)。
【0080】
所与の遺伝子は、1つを超える機能、又は生物学的経路に割り当てられることがあることが理解される。これにより、各機能上のグループの真のサイズの過剰見積りをもたらすことがある。本発明者らは、各遺伝子を単一の機能上のクラスに割り当てることによって、これを克服した。図2Aに示すように、PDにおけるシグナル伝達、タンパク質分解、ドーパミン作動性の伝達及び代謝、イオン輸送、タンパク質の修飾/リン酸化、並びにエネルギー経路/解糖の機能上のクラスで、主要な遺伝子のダウンレギュレーションが観察された。
【0081】
PDにおいて差次的にアップレギュレートされる遺伝子に関しては、細胞接着/細胞骨格、細胞外マトリックス成分、細胞周期、タンパク質の修飾/リン酸化、タンパク質代謝、転写、及び炎症/ストレスを含む生物学的プロセスに主に集中した(図2B)。
【0082】
最も過剰発現され又は濃縮した遺伝子を同定するために、EASAプログラムで遺伝子カテゴリーの統計学的分析を行った(Hosackら、2003年)。機能上のグループ内で変化する遺伝子の割合がチップ全体におけるそのような遺伝子の分画より有意に大きい場合、このような分類は結果における信頼性を上昇させる。
【0083】
0.05未満の「イージースコア(Easy score)」の機能上の分類が、過剰発現と記録された。この分析では、差次的にダウンレギュレートされる遺伝子における最も顕著な変化は、タンパク質分解及びペプチド分解(10%)の生物学的プロセスでp<0.02のEASEスコアで起こり(表3、星印でしるした)、並びにイオン輸送体及び加水分解酵素活性に関する分子の機能で(p<0.05、データは示さず)起こったことが明らかになった。このタンパク質分解性のグループの中では、20Sプロテアソームサブユニットα−5(PSMA5)、α−3(PSMA3)、及びα−2(PSMA2)、26Sプロテアソームの19S調節複合体の2つのサブユニット、非−ATP分解酵素サブユニット8(PSMD8/Rpn12)、並びにATP分解酵素サブユニット4(PSMC4/TBP7/Rpt3)などのUPSの触媒サブユニット及び調節サブユニットの両者の発現が減少することを、本発明者らは観察した。PSMD8は、有意水準の上限をわずかに超えていたが、6名の患者では減少の明らかな傾向が見られた(患者のうち3名>対照の1.5倍)。PSMD8は、他のUPS成分とともに集合するので、本発明者らはこれがPDで機能的に影響を受けていると考えた。
【0084】
一方、生物学的プロセス及び分子機能において、PDで遺伝子発現が増加する統計学的に有意な傾向が、細胞接着/細胞マトリックス(約15%)に対してp<0.005のEASEスコアで(表4、星印でしるした)、構造分子及びタンパク質キナーゼ活性に対して(p<0.05、データは示さず)見出された。
【0085】
並行して、6名のパーキンソン症候群のうち少なくとも5名のSNにおいて1.5倍の差次的な発現を表す遺伝子を選択する、例外的に厳格な分析を行った。各患者のサンプルのシグナルを、対照サンプルのシグナルの平均(幾何平均)と比較した。この評価により、年齢、死因、性別、死後間隔、疾患の重症度などの要因の組み合わせに由来することがある各死後組織サンプル内の遺伝子発現における変動を同定できるので、大変重要である。
【0086】
この取組みは、PDの症例で差次的に発現された全遺伝子を20個のみに制限し、そのうち、それぞれ対象グループに比べて8個が減少し、12個が増加した(図3)。
【0087】
重要なこととして、8個のダウンレギュレートされる遺伝子のうち、3個(37.5%)がDAの神経伝達及び代謝に属する(図3A)。これには、サイクリックAMP制御リン酸化タンパク質(ARPP−21)、溶質担体ファミリー(solute carrier family)18(小胞モノアミンメンバー2、VMAT2)、及びアルデヒド脱水素酵素1ファミリー、メンバーA1(ALDH1A1)が含まれる。更に2個の遺伝子が、タンパク質のハンドリング及び分解に関連する(S期キナーゼ会合タンパク質1A(p19A)、SKP1A、及びシャペロン熱ショック70kDaタンパク質8、HSPA8)。最後の3個の遺伝子は、リン酸化及びタンパク質修飾プロセスにあずかるSFRSタンパク質キナーゼ2(SRPK2)、三分裂(tripartite)3連モチーフ含有36(TRIM36)、並びに、両者とも機能が知られていないEGF様及び2個のフォリスタチン様ドメイン1を有する膜貫通型のタンパク質(TMEFF1)である。
【0088】
12個のアップレギュレートされる遺伝子(図3B)には、細胞接着の機能上のグループに属するパルビン(parvin)α(PARVA)、レクチン、ガラクトシド結合性、可溶性、9(ガレクチン9)(LGALS9)、及びセレクチンPリガンド(SELPLG)、細胞シグナリングのクラスに関与するプロエンケファリン(PENK)及び低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質(6LRP6)、タンパク質及び脂質の代謝、並びにリン酸化のカテゴリー由来のeglナイン同族体1(線虫)(EGLN1)、真核細胞の翻訳開始因子4E結合タンパク質2(EIF4BP2)、マンノシダーゼ、α、クラス2B、メンバー1(MAN2B1)、及びスフィンゴシンキナーゼ1(SPHK1)、細胞の成長に関与するセマフォリンsem2(LOC56920)、推定上の分泌タンパク質ZSIG11(ZSIG11)、及び両者とも機能が知られていないセリン/アルギニン反復マトリックス2(SRRM2)が含まれる。
【0089】
(実施例2)定量リアルタイムPCR
UPSで重要な役割を果たす、主要な遺伝子の1つであるSKP1Aの発現が減少するという本発明者らの発見を確認するために、本発明者らはSKP1A、並びに2つの更なる遺伝子であるHSC70及びVMAT2に対してリアルタイム定量PCRを行ったが、これら遺伝子は全て、<0.67のファクターでパーキンソン症候群患者6名中少なくとも5名に影響を及ぼした。
【0090】
アレイハイブリダイゼーションに用いるRNAがPCRに十分でない場合は、本発明者らは、2つの更なるサンプルを実験グループに加えた(対照7及び患者7)。本発明者らは、SNpc、SNr、及び小脳の3つの別々の領域を分析した。小脳は、遺伝子変化の特異性を評価するための、PDに関連しない領域として選ばれた。
【0091】
リアルタイムPCR分析により、正常の対象でもPDの対象でも、SNは特に低いmRNAレベルのSKP1Aを発現することが明らかになった(図4)。統計学的に有意ではなかったが、PDのSNpcで発現が減少する明らかな傾向が観察された(図4A)。SKP1Aの発現は、PDのSNr又は小脳では影響を及ぼさなかった(図4B、C)。
【0092】
本発明者らは、パーキンソン症候群患者のSNpc及びSNrの両者でHSC70/HSC54をコードするHSP8の遺伝子発現が有意に減少することを確認したが(図4D、E)、PD及び対照からの小脳に有意な変更は観察されなかった(図4F)。HSC70/HSC54は、2つのアイソフォームで存在し、短小化したものはタンパク質結合性で可変のドメインにおける153個のアミノ酸残基を欠く(Tsukaharaら、2000年)。Affimetrixチップのプローブセットはこれらの間を区別することができず、その結果、アレイハイブリダイゼーション及びPCR分析の両者から得られた結果は両タイプの結合したレベルを表さなければならない。
【0093】
これらの新規の発見に加えて、本発明者らのアレイ分析は、小胞のDA輸送体(VMAT2)の発現が減少する証拠も確認した。リアルタイムPCRによりSNpcにおけるVMAT2mRNAの特異的な減少が明らかになったが、SNrの変化は極めてはっきりしなかった(図4G、H)。PDと対照の小脳におけるサンプル間で有意な差が見られなかったので、これらの変更はSNに特異的であった。
【0094】
アレイ及びリアルタイムPCR分析の両者で見出された発現の減少は、PDのSNにおけるmRNAレベルの一般的な減少の結果にすぎないのか、或いはシナプスの損失であるのかを決定するために、本発明者らは3つの遺伝子の発現を調査した。3つの遺伝子は、Rab3b GTPase(図4J、K、L)、シンタキシン6、及びコートマー(coatomer)タンパク質複合体サブユニットζ2(COPζ2)(データは示さず)であり、これらは、小胞体からゴルジへの小胞の輸送、小胞体膜ドッキング、並びにホルモン及び神経伝達物質のニューロン開口放出(exocytosis)の制御因子である(Gonzalez and Scheller、1999年;Futatsumoriら、2000年;Wendler and Tooze、2001年)。これらの発現は、様々な脳の領域におけるPD及び対照サンプル間で違いがなかった。
【0095】
上記の実験において、PDで選択された生物学的に意義のある経路、及び、文献に報告され、リアルタイムPCR分析により確認された遺伝子変化の実質的な一致に焦点を当てた厳格な分析を行った。
【0096】
(実施例3)パーキンソン症候群及び健常対照者の脳からのSNpcのメラニン化したドーパミン作動性ニューロンにおけるSKP1タンパク質の検出
パーキンソン症候群の脳及び健常対照者からのSNpcのメラニン化したドーパミン作動性ニューロンのサンプルで、SKP1タンパク質の免疫組織学的分析を行った(材料と方法に記載した通り)。図5に要約した結果は、SKP1タンパク質は正常サンプルに存在するが、PDサンプルには殆ど非存在であることを示している。したがって、mRNAのSKP1発現について上記の実施例1及び2で得られた結果は、SKP1タンパク質の免疫組織学的分析によるタンパク質レベルで確認された。
【0097】
結果の要約
本発明の結果は、初めて、パーキンソン症候群の死後の脳のSNpcにおける全体的な遺伝子発現の変化を、年齢をマッチさせた対照に比べて示すものである。1つの主要な新規の発見は、タンパク質の異化作用の不可欠な成分であるSKP1A遺伝子の負の調節である。この遺伝子の減少には、細胞接着/細胞骨格、細胞外マトリックス成分、及び炎症/ストレスに関する機能上の活性を有する遺伝子の数の顕著な増加と並行して、エネルギー経路及びシグナル伝達における26Sプロテアソームの様々なサブユニットの発現の減少が伴う。
【0098】
パーキンソン症候群のSNpcにおける、SCFユビキチンリガーゼ多タンパク質複合体の成分であるSKP1Aの減少
SKP1は、モジュラー多タンパク質のSkp1、Cullin、及び基質認識性F−boxタンパク質(SCF)内で機能する、RINGタンパク質のRbxファミリーの部分である(Kamuraら、1999年)。このユニットにより多数のE3複合体の形成が可能になり、次に、E3複合体は広範囲の様々なタンパク質の基質を認識できる。SCF複合体はモジュラーであり、SKP1は、特異的な標的の認識を担ういくつかのF−boxタンパク質と相互作用をすることができ、それにより機能上の多様性をもたらし、この複合体により処理されるタンパク質のレパートリーを増やす。ヒトは、機能上のSKP1アイソフォームを1つだけ発現する(Semple、2003年)。したがって、本明細書で観察されるその発現の減少は、律速因子を構成することができ、PD患者の脳における広範囲のユビキチン結合したタンパク質(例えば、チロシン水酸化酵素、シンフィリン−1、α−シヌクレイン、リン酸化タウ)の凝集体を説明することができる(Lianiら、2004年;Meredithら、2004年;Zhang and Goodlett、2004年)。
【0099】
定量リアルタイムPCR分析により、SNは正常対象でもPD対象でも特に低いmRNAレベルのSKP1Aを発現することが明らかになった。例えば、対照サンプルは、その発現がPDのSNpcで影響を受けないRab3B(1.80±0.70)より、2ケタを超えて異なる大変低い発現値を示す(0.013±0.011)。SKP1AのmRNAは特に不安定であり、死後組織で即座に分解することもあり得る。これは、サンプルの発現レベルにおける大きな変動を説明することができるが、PDのSNpcにおける発現が減少する明らかな傾向が観察された。Affymetrixチップのデザインは特別であるので、死後のサンプルなど部分的に分解されているサンプルでさえプローブセットのプローブに部分的にハイブリダイズすることがあり、高いp値をもたらし、存在するとみなされる。したがって、厳格な分析(p<0.05、少なくとも1.5のファクターで5名の患者で減少)とともにチップの方策をとれば、この結果が確信的になる。SKP1A発現レベルが低いということは、少なくとも部分的に、例えば、鉄濃度、酵素的(モノアミンオキシダーゼ)及び非酵素的(自己酸化)DA代謝、異常タンパク質の蓄積、プロテアソームの阻害、及び神経毒性が誘導するOSの増加など、様々なタイプのストレスに対してSNpcが特に感受性であることを説明することができる。この前後関係では、PA28マルチサブユニットプロテアソームアクチベーター(multisubunit proteasome activator)(26Sプロテアソームの構成要素)タンパク質のレベルは、正常及び特発性両方のPD対象のSNpcで他の脳の領域に比べて大変低いことが示され(McNaughtら、2003年)、おそらくは、様々なストレス傷害に対し既に損なわれた、障害がおきたDA含有ニューロンを悪化させている。SKP1Aの発現は、PDのSNr又は小脳では影響を受けなかった。
【0100】
最近の研究は、パーキン(Parkin)も新規のSCF様複合体内で、基質の認識を担うF−box/WD反復タンパク質hSel−10、及びSKP1を含まないCullin1とともに機能することができることを実証している(Staropoliら、2003年)。この発見によると、パーキンは、hSel−10以外のアダプタータンパク質と関連する可能性がある。このような複合体は多様な基質特異性を表す可能性があり、パーキンについて報告されていたいくつかの標的を説明することができる(Devら、2003年)。
【0101】
プロテアソームサブユニットにおける機能障害
SKP1Aにおけるこの選択的減少の他に、PDの脳のSNで、20Sプロテアソームサブユニットであるα−5(PSMA5)、α−3(PSMA3)、及びα−2(PSMA2)mRNA、並びに26Sプロテアソームの19S調節複合体の2つのサブユニットである、非−ATP分解酵素サブユニット8(PSMD8/Rpn12)及びATP分解酵素サブユニット4(PSMC4/TBP7/Rpt3)に相伴った減少が観察され、これらは更にPDのドーパミン作動性ニューロンの損傷の一因となる可能性がある。19S複合体は、プロテアソームの20Sタンパク質分解性のコアの一端又は両端に位置し(Couxら、1996年;Vogesら、1999年)、少なくとも18のサブユニットを含む(Glickman and Ciechanover、2002年)。これは、「基底部」と「蓋部」の2つのサブ複合体に細分され、これらはそれぞれ、20Sタンパク質分解性のコアの近位及び遠位の部分を形成し、一緒に26S複合体を形成する。蓋部はPSMD8/Rpn12を含む8つの調節粒子の非−ATP分解酵素(Rpn)サブユニットを構成する。蓋部の重要な機能の1つは、多ユビキチン結合したタンパク質及び他のプロテアソームの潜在的な基質を認識することである(Glickmanら、1998年)。基底部は、3つの非−ATP分解酵素サブユニット(Rpn1、Rpn2、及びRpn10、この最後は基底部にも蓋部にも共通である)、並びにPSMC4/TBP7を含む6つの推定上のATP分解酵素サブユニット(Rpt1〜6)を含む。これらは、非ユビキチン結合した標的タンパク質の非天然の立体配座と相互作用をし(Glickmanら、1998年;Vogesら、1999年;Stricklandら、2000年)、その1つであるS6’/TBP1は、凝集した又はモノマーのα−シヌクレインと結合することが見出された(Gheeら、2000年;Snyderら、2003年)。同様の前後関係で、調節のプロテアソームタンパク質S6とも呼ばれるPSMC4は、別の前シナプスタンパク質であり、シナプス小胞と関連のある、野生型及び変異型のシンフィリン−1(Dukeら、2004年)、と特異的に相互作用することが最近報告されている(Ribeiroら、2002年)。シンフィリン−1は、α−シヌクレインと関連があり、同様にレヴィ小体に蓄積することが見出された(Wakabayasiら、2000年)。したがって、本発明に見出されるPSMC4のレベルの減少は、緩慢であるが持続的であるα−シヌクレインの凝集によるUPSの進行性の阻害とともに、レヴィ小体でこれらの蓄積を引き起こすことがある(Jellinger、2003年;Lianiら、2004年)。PDサンプルにおけるグリコサミノクリカン(glycosaminoclycan)ヘパラン硫酸遺伝子の発現の観察される増加は、示唆されたように、α−シヌクレインの原繊維形成及び凝集の一因にもなり得る(Cohlbergら、2002年)。6つのATP分解酵素はそれぞれ不可欠であり、タンパク質分解へのATP要求、並びに26S複合体を形成するための20S及び19S複合体の会合の説明となる(Ghislainら、1993年;Gordonら、1993年)。したがって、パーキンソン症候群患者の脳におけるPSMC4/TBP7の発現の減少は、26Sプロテアソーム複合体のレベルの減少、ユビキチン結合したタンパク質の異常蓄積、及び、次に細胞の欠陥を引き起こすことがあるサイクリンなどの寿命の短いタンパク質の分解速度の低下の一因となり得る(レビューには、Couxら、1996年;Vogesら、1999年を参照されたい)。実際、本発明者らは、サイクリンG会合キナーゼ遺伝子の減少を観察した。サイクリン及びサイクリン依存性キナーゼの蓄積は、アポトーシスを経験している有糸分裂後のニューロンで(Padmanabhanら、1999年;Copaniら、2001年)、及びPDのMPTPモデルで(Grunblattら、2001年)報告されている。この事象は、細胞周期に再度入る際の試みを表すことができることが示唆されている(Verdaguerら、2002年)。本発明者らの発見は、20Sプロテアソームのβ−サブユニットではなくα−サブユニットの発現が減少し、いくつかの19Sサブユニットのタンパク質発現レベルが減少し、散発性のPD患者のSNpcで26/20Sプロテアソーム活性が機能的に不足するという以前の報告と一致する(McNaughtら、2003年)。しかしながら、ウェスタンブロット分析で使用した抗体は、様々なプロテアソームサブユニットに共通の配列を認識したので、また、分子量の過剰見積りをもたらすタンパク質の二量体化の可能性があったので、この研究では、影響を受ける様々なサブユニットの正確な性質は確立されなかった。このように、本発明は、より広い観点を提供し、特異的なプロテアソーム構成成分の発現における遺伝子の変化を明らかにするものである。
【0102】
熱ショックタンパク質シャペロンHSC−70
細胞に対するタンパク質毒性の傷害又はいくつかのストレス条件は、野生型及び変異のタンパク質の正確なフォールディングを助けることにより細胞を保護することを目的とした分子シャペロンのアップレギュレーションを誘導することができる。このようなものの1つに、熱ショックタンパク質70(Hsp70)ファミリーのメンバーである、70kDa熱ショック同族タンパク質(Hsc70)がある(Zinsmaier and Bronk、2001年)。Hsc70は、通常、タンパク質のフォールディング、再フォールディング、集合、分解、及び生物膜を介したタンパク質の転位置などの細胞プロセスを媒介する。Hsp70が過剰発現されると、in vivo及びin vitroでミスフォールディングされ凝集したα−シヌクレイン種の量を減少させ(Kluckenら、2004年)、野生型α−シヌクレイン、並びに変異の形態のA30P及びA53Tを発現し(Auluckら、2002年)、ポリグルタミンの病原性に関連する分解を抑制するトランスジェニックハエのPDのモデルでドーパミン作動性ニューロンの損失を防止することが示されている(Bonini、2002年)。最近、274名のPD患者で、PDへの罹患性を増加させることがあるHSP70−1の5’プロモーター領域に機能上の多形性が報告されている(Wuら、2004年)。本発明者らは、リアルタイム定量PCRにより確認して、6名中5名のパーキンソン症候群患者のSNpc及びSNrの両方でHSC70/HSC54をコードするHSP8の遺伝子発現が著しく減少するが、PD患者と対照からの小脳の間に組織特異性を示唆する著しい変更は観察されなかったことを見出している。HSPA8は2つのアイソフォームで存在し、短小化したものは、タンパク質結合領域及び可変領域で153個のアミノ酸残基を欠く(Tsukaharaら、2000年)。これは、コシャペロンと競合することにより、Hsc70の内因性の阻害的制御因子として機能すると考えられている(Tsukaharaら、2000年)。現在、このどちらがより強く影響を受けるかを、本発明者らは区別することができない。
【0103】
Hsc70は、小胞及び核内輸送に関与する他に、アンフォールドの、又は異常型のタンパク質を認識することによるタンパク質のユビキチン結合、及びコシャペロンであるE3リガーゼ酵素CHIP(Hsc70と相互作用するタンパク質のカルボキシル末端)への分配で役割を果たすことがある(Murataら、2003年)。CHIPは、Hsp90及び/又はHsp70/Hsc70と協力し、それらの結合したミスフォールディングされた基質にユビキチン結合することができる。したがって、このHsc70−CHIPペアは、シャペロンによりもたらされたアンフォールドのタンパク質を特異的に認識するための、E3リガーゼを示す。UPSによる再フォールディング又は分解を逃れたタンパク質は封入体中に蓄積する凝集体を形成するので、この分子シャペロン−UPSの品質管理システムは神経変性疾患では特に重要である。実際、分子シャペロン、並びにユビキチン及びプロテアソームは封入体及びレヴィ小体に動員され(Stenoienら、1999年;Sherman and Goldberg、2001年)、損傷したタンパク質を分解し又はそれらの除去を防止する品質管理システムの試みを指摘している。実際、数々の神経変性疾患は、タンパク質の品質管理システムの失敗によりもたらされる様子である(Sherman and Goldberg、2001年)。
【0104】
細胞接着分子、鉄、及び酸化ストレス
細胞の遊走及び軸索の伸長、並びに細胞骨格及びADの構成成分など、ニューロンの発達で不可欠な役割を演じている遺伝子間の関連が最近提唱されている(DeFerrari and Inestrosa、2000年)。細胞骨格構成成分(例えば、ニューロフィラメント、微小管関連タンパク質)の異常なリン酸化、並びにシナプス及び他のタンパク質のユビキチン結合がレヴィ小体内で遭遇するPDに、同様の仮説をあてることができる(Jellinger、2003年)。
【0105】
膜及び細胞外マトリックス(細胞接着プロセス)に重要な構造上の、及びリン酸化の分子機能を有する遺伝子の異常なアップレギュレーションを示す本発明者らの現在の発見は、この仮定を支持し、未来の治療学に潜在的な新規の遺伝子ターゲットを示す本発明者らの知識を拡張するものである。
【0106】
PD、AD、及び多発性硬化症で報告されているような脳の炎症の間、重要な細胞接着分子の組織化の崩壊及びそれらのシグナル伝達経路の減少が、グリア細胞及びマクロファージの動員、並びにサイトカイン及びOSの増加におそらく関連する、脳の病状を生じることがある。更に、本発明者らは、6名中5名の患者に、最近記載された、鉄−及び2−オキソグルタレート−依存性ジオキシゲナーゼスーパーファミリーに属するプロリンヒドロキシラーゼ酵素であるEGLN1(eglナイン同族体1)遺伝子の1.5倍を超える著しい誘導を観察した(Epsteinら、2001年)。これらの酵素は、低酸素感受性遺伝子のアレイの協調的な誘導を調和させる主たる制御因子である、転写因子である低酸素誘導因子−1α(HIF)の発現をコントロールする、重要な鉄及び酸素のセンサーとして働く。HIFの標的遺伝子は、脈管形成、細胞の増殖/生存、及びグルコース/鉄の代謝に特に関連している(Leeら、2004年)。酸素レベルが高いとき、又は鉄の過負荷時、EGLN水酸化酵素は、HIFを標的にしてプロテオソームを分解する。
【0107】
興味深いことに、遊離の鉄が誘導しプロテアソームが媒介する、鉄調節タンパク質(IRP2)の分解は、2−オキソグルタレート依存性ジオキシゲナーゼの活性も伴い、鉄のキレート化剤により阻害される(Hansonら、2003年;Wangら、2004年)。したがって、IRP2は翻訳後修飾を起こすEGLN1の基質であり、タンパク質分解のためにEGLN1にシグナルを送る可能性がある。SNpcにおけるEGLN1の過剰産生は、IRP2の低下、並びに引き続きトランスフェリンレセプター(TfR)mRNAの減少及びフェリチンレベルの増加をもたらすことがあり、両者ともIRP2によるそれぞれ正及び負の転写調節を受ける(Meyron−Holtzら、2004年;Ponka、2004年)。IRP2のノックマウスにおける最近の研究により、実質的な運動緩徐及び振戦で線条体に鉄が蓄積することが明らかになっている(LaVauteら、2001年)。
【0108】
鉄及びOSセンサータンパク質の発現の増加は、両者ともHIFタンパク質により調節される、ホスホフルクトキナーゼ及び脈管形成因子VEGFで観察される減少の直接の原因であることがある(Minchenkoら、2003年)。ホスホフルクトキナーゼは、解糖系によるグルコースの流動をコントロールする、重要な調節酵素である。同様に、VEGFは、PI3K及びras経路の活性化により、グルコースの輸送及び代謝に関与する遺伝子を活性化する。これらの経路における2つの主役である、ras同族体遺伝子ファミリー、メンバーB及びホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒作用、αポリペプチドの発現も、パーキンソン症候群のSNpcでダウンレギュレートされる。この発見は、陽電子放射断層撮影法(PET)分析を用い、SNへのグルコースの取りこみの減少を実証して(Berdingら、2001年)ヒトPD患者における以前の報告を支持し、この疾患により冒された主要な生存経路のより広い視野を提供するものである。これらの観察は、数々のエネルギー経路/解糖に関連する遺伝子が更に減少すること、並びに鉄/OS及び炎症遺伝子が増加することに加えて、ミトコンドリアの機能不全、並びに活性酸素種及び窒素種がPDの病原の一因であるという仮説と一致する。これと一致して、最近の研究は、推定上のフリーラジカルセンサーDJ−1遺伝子における劣性の変異を、早期発症型のパーキンソン症候群と関連付けた(Bonifatiら、2003年)。
【0109】
驚くべきことに、アポトーシスに関連する遺伝子はPDサンプルで最も小さい機能上のクラスを構成し、このことは疾患で生じている神経変性の一連の事象におけるプログラム細胞の死の関連に疑問を投げかけている。PDにおけるアポトーシスの役割は、その証拠があっても病理学的発見及び神経変性の速度と相互に関連しないので、大いに議論の余地がある。本発明者らは、アポトーシスの変化がより早い段階で生じ、疾患の進行とともに減少する可能性を排除することはできない。
【0110】
ドーパミンの神経伝達及び代謝
これらのニューロンのプロセスの崩壊は、パーキンソン症候群のSNにおける、細胞接着タンパク質複合体と結合することがある細胞シグナリング遺伝子の発現において、並びに小胞の分泌経路、及びドーパミン作動性の神経伝達及び代謝に属する遺伝子において観察される減少によって悪化することがある。PD患者6名中少なくとも5名における決定的な変更を検出しようと探索する高度に厳密な分析では、対照グループに比べて遺伝子発現の変化は1.5倍であり、小胞のモノアミン輸送体VMAT2(SCL18A2)を含む8遺伝子(そのうち3遺伝子がDA伝達に関連する)の発現が大きく減少することを本発明者らは観察した。リアルタイムPCRの確認分析では、SNpcにおけるVMAT2mRNAに特異的な減少が現れたが、SNrにおける変化はそれほど顕著ではなかった。この発見は、PDにおけるVMAT2mRNAの著しい減少を示すし、この著しい減少は着色した残りのニューロンにおけ、細胞あたりの輸送体及びVMAT2両方のシグナルの顕著な減少と関連していたという対照及びPDの死後のSNについての以前の報告と一致している(Harringtonら、1996年;Brooks、2003年)。小脳ではPDと対照サンプルとの間に有意差がなかったので、これらの変更はSNに特異的であった。他の2つの著しい変化は、DA伝達及び代謝に関連する遺伝子であり、それぞれアルデヒド脱水素酵素(ALDH)及びcAMP調節リンタンパク質をコードする、ALDH1A1及びARPP−21の減少と関連していた。ARPP−21は、大脳基底核のDAで神経支配された脳の領域(例えば、尾状核〜被殻)、及び黒質で特に濃縮されていた(Ouimetら、1989年;Tsouら、1993年)。DARPP−32(ドーパミン及びアデノシン3’:5’−モノリン酸調節リンタンパク質−32K)同様、ARPP−21はDAレセプターであるD1により活性化され、したがって、D−1神経伝達の機能上の活性の指標を表すことができる。本発明者らが知る限りでは、これはPDのSNにおけるARPP−21mRNAレベルの減少についての最初の報告である。ALDH1A1は、SNのDA細胞及び腹側被蓋領域(VTA)で高度に且つ特異的に発現され、SNpcドーパミン作動性ニューロンで著しく減少するが、PDの脳のVTAでは減少しないことが見出された(Galterら、2003年)。これは、6−ヒドロキシドーパミンにおける線条体のALDH活性が、又はラット(Agidら、1973年)若しくはネコ(Duncanら、1972年)で電気的に誘導された病変が、著しく減少するという所見と一致する。
【0111】
ALDHは、DAのアルデヒド誘導体(3,4ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド、及び4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニルアセトアルデヒド)への分解に関与し(Mardh and Vallee、1986年)、これらは次いで、ホモバニリン酸及びジヒドロキシフェニル酢酸に代謝され、また高度に反応性で神経毒性であるアルデヒドの解毒に関与する(Hjelle and Petersen、1983年)。したがって、DA伝達における変更は、ALDH活性を変更することがあり、且つ/又は、逆に、ALDHが媒介する代謝の変化は、大脳基底核及び大脳辺縁系の、神経細胞体及び終末部におけるDAレベルに影響を及ぼすことがある。これらのタンパク質は、VMAT2と結びついて、今やPDの新規のマーカーとしてみなすことができる。
【0112】
本発明に観察されるこれらのDAの神経伝達、及び代謝に関連した遺伝子のレベルが全体的に減少することは、神経伝達物質の貯蔵と深刻に折り合い、DAニューロンの機能不全と相互に関連することがある。これは、小胞体からの初期の小胞トラフィッキングタンパク質のSEC22ファミリーのメンバーであるSEC22L1mRNAのレベルが減少することにより(Hayら、1996年)、且つ膜担体輸送体の多くに観察される減少により、更に悪化することがある。広いレパートリーの細胞内タンパク質及び膜タンパク質を輸送する、細胞輸送及び小胞トラフィッキングの損傷は、これらが凝集し、細胞が細胞質封入体(アグリソーム)内及びレヴィ小体に堆積することを、よく説明することができる。本発明者らの観察を説明する1つの単純な仮説は、DAを含有するニューロン本体及びニューロンのシナプスの損失が、遺伝子産物のレベルの減少を説明することができるということである。この仮定は、広いレパートリーの小胞輸送又はシナプス関連遺伝子における同様の遺伝子発現の変化を予想するものである。しかしながら、本発明者らのマイクロアレイ及びリアルタイムPCRの確認から浮上したように、Rab3b、シンタキシン6、及びCOPζ2などのカテゴリーに関係する多くの遺伝子の発現は、PDでは変更されなかった。
【0113】
タンパク質の修飾/リン酸化
2つのプレ−mRNAスプライシング関連遺伝子の発現は、対照の脳に比べて、PDサンプル6個中5個のそれぞれで、逆比例に且つ高度に影響を受けていた。SFRタンパク質キナーゼ2をコードするSRPK2遺伝子はダウンレギュレートされ、セリン/アルギニン反復マトリックス2をコードするSRRM2は著しく増加した。SRPK2は、アルギニン/セリンに富む(SR)ドメイン含有スプライシングファクターのリン酸化に特異的な予想配列を有する、脳で高度に発現されるキナーゼであり、スプライシングファクターは、次に脳の領域でRNAスプライシングを調節する(Wangら、1998年)。興味深いことに、SRRM2(又はSRm300)は、主要な複合SRm160/300内のコアクチベーターとして機能するSRドメイン含有スプライシングファクターであり、サブセットの構成的にスプライスされたプレ−mRNAのプロセッシングを担う(Blencoweら、2000年)。
【0114】
SRMM2がSRPK2の基質であれば、PDのSNpcにおけるキナーゼSRPK2の確固とした減少及びSRMM2の高い発現が、異常な低リン酸化SRMM2の蓄積をもたらすことは妥当と思われる。これは、次にSRm160、及び/又はスプライシング活性における広範な損傷に最終的に集中する他の関連のあるSRタンパク質の核の分布に影響を及ぼす可能性がある。
【0115】
結論
PDの病理学及び病因学に関する情報は幅広いが、PDの発症のきっかけとなる主要な事象が何であるかを断言するのは未だ時期尚早である。本発明が示すのは、細胞外マトリックス/細胞骨格構成成分の進行性の誤制御とともに、OS及び炎症の状態と同時発生するするUPSの選択的構成成分のレベルの減少である。これらの一連の事象は、疾患の経過の間、独立して又は協力的に働き、結局はドーパミン作動性ニューロンの死をもたらす可能性がある。したがって、様々に影響を受けたタンパク質の動態のわずかな変更でも、数十年の間にPDにおけるDA含有ニューロンの緩慢に進行する神経変性の根底にある蓄積効果となるかもしれない。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3−1】


【表3−2】


【表3−3】


【表3−4】


【表3−5】

【0119】
【表4−1】


【表4−2】


【表4−3】


【表4−4】


【表4−5】

【0120】

【0121】

【0122】

【0123】

【0124】

【0125】

【0126】

【0127】

【0128】

【0129】

【0130】

【0131】

【0132】

【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】PDのサンプルで差次的に発現された137遺伝子の相対的な発現レベルを、対照サンプルと比べて示す。対照に比べて1.5のファクターで変更するという診断基準を満たし、Wilcoxon試験をp<0.05の有意水準で通過した遺伝子のみが含まれた。12サンプルにわたり、遺伝子は相対的発現レベルにより集中した。発現レベルを平均値と比較してカラーコードした。平均より小さい値は緑色、平均を超える値は赤色である。
【図2A】Gene Ontologyにしたがって類別された生物学的プロセスに関わる遺伝子の機能上のクラスター分析を示す。円グラフは、対照の脳と比べて、PDサンプルでダウンレギュレートされる(A)遺伝子及びアップレギュレートされる(B)遺伝子の分布を示している。異なる機能グループで変更された遺伝子の数を示している。各機能グループの真のサイズの過剰見積りを避けるために、各遺伝子を単一のカテゴリーに割り当てた。(A)における遺伝子の総数は68個であり、(B)では69個である。
【図2B】Gene Ontologyにしたがって類別された生物学的プロセスに関わる遺伝子の機能上のクラスター分析を示す。円グラフは、対照の脳と比べて、PDサンプルでダウンレギュレートされる(A)遺伝子及びアップレギュレートされる(B)遺伝子の分布を示している。異なる機能グループで変更された遺伝子の数を示している。各機能グループの真のサイズの過剰見積りを避けるために、各遺伝子を単一のカテゴリーに割り当てた。(A)における遺伝子の総数は68個であり、(B)では69個である。
【図3】PDサンプル6個中少なくとも5個で、1.5以上のファクターで変化した、差次的に発現された遺伝子のヒートマップを示す。患者のサンプルシグナルを、対照のサンプルシグナルの平均と比較した(幾何平均)。PDサンプルで、ダウンレギュレートされる(A)遺伝子及びアップレギュレートされる(B)遺伝子を対照の脳と比べた。発現レベルを平均値と比較してカラーコードした。平均より小さい値は緑色、平均を超える値は赤色である。
【図4−1】PDで差次的に発現された遺伝子のリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析の確認を示す。以下のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションでは、PDのSNで発現が変更された遺伝子の選択された数を、SNpc、SNr、及び小脳の3つの別の脳の領域で確認して、組織特異的な遺伝子の変更を検出した。SKP1Aでは、値は1を超えるように調節し、logY軸を適用した。材料と方法で記載したように、検量線は4個のハウスキーピング遺伝子の幾何平均に標準化した相対的な遺伝子発現を表す。PD及び対照の症例に対応するデータポイントを示してある。ANOVA、p<0.05対対照。
【図4−2】PDで差次的に発現された遺伝子のリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析の確認を示す。以下のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションでは、PDのSNで発現が変更された遺伝子の選択された数を、SNpc、SNr、及び小脳の3つの別の脳の領域で確認して、組織特異的な遺伝子の変更を検出した。SKP1Aでは、値は1を超えるように調節し、logY軸を適用した。材料と方法で記載したように、検量線は4個のハウスキーピング遺伝子の幾何平均に標準化した相対的な遺伝子発現を表す。PD及び対照の症例に対応するデータポイントを示してある。ANOVA、p<0.05対対照。
【図5】パーキンソン症候群の脳からのSNpcのメラニン化したドーパミン作動性ニューロンで、差次的に発現されたSKP1タンパク質の免疫組織学分析の確認を示す。メラニン含有ドーパミン(DA)ニューロン内のSKP1免疫反応性は、青色を含むことで示される(緑色矢印を参照されたい)。SKP1は、PDでは殆ど非存在である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を検出し、予後診断し、経過観察するための分子マーカーの使用であって、前記分子マーカーが、発現パターンの変化した1つ又は複数の遺伝子、又はその遺伝子産物であり、前記遺伝子が、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、SET0−2、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7からなる群から選択される、使用。
【請求項2】
前記1つ又は複数の遺伝子が、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、及びZSIG11からなる群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
分子マーカーの使用を含む、パーキンソン病を診断し、予後診断し、且つ/又は経過観察する方法であって、前記分子マーカーが、発現パターンの変化した1つ又は複数の遺伝子、又はその遺伝子産物であり、前記遺伝子がALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、SET0−2、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7からなる群から選択される、方法。
【請求項4】
前記分子マーカーが、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、EGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、及びZSIG11からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、SET0−2からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの減少、及び/又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの増加を検出することを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの減少、及び/又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの増加を検出することを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
パーキンソン様症状を示す個体においてパーキンソン病の発生を診断する方法であって、前記個体から得たサンプルにおける、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、及びSET0−2からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの減少、及び/又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、ING4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの増加を検出することを含み、前記遺伝子の発現レベルの前記減少及び/又は増加がパーキンソン病の診断となる、方法。
【請求項8】
ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、及びPSMC4からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの減少、及び/又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、及びZSIG11からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現レベルの増加を検出することを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルが、試験する個体からの、血液、血清、又は皮膚の生検である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子によって発現された遺伝子産物を検出することを含み、前記遺伝子産物が、遺伝子によって発現されたタンパク質、又は遺伝子から転写されたRNA、又はその両方である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記検出が、サンプルをタンパク質に結合する抗体又はそのフラグメントと接触させることにより、遺伝子によって発現されたタンパク質の存在をアッセイすることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルにおいてRNA転写物のレベルの減少又は増加を検出することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
RNA転写物の検出が、ノーザンブロット、RNaseプロテクションアッセイ(RPA)、核酸プローブアレイ、リアルタイム定量逆転写PCR(RT−PCR)、ドットブロットアッセイ、及びイン・サイツ(in−situ)ハイブリダイゼーションからなる群から選択される方法により行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
パーキンソン病を治療するのに有用な物質をスクリーニングする方法であって、ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFF1、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4、HIP2、PACE4、COX6A1、PFKP、OXCT、GBE1、UQCRC2、LANCL1、TRIP15、PIK3CA、PLCL1、GNG5、GNAI1、VEGF、RHOB、NR4A2、SCL31A2、SCP2、PIGH、ARIH2、GMPR2、PP、IKBKAP、PRKACB、PTPRN2、BCAS2、IARS、PPP1R8、SEP15、TAF9、ZFP103、WRB、TMEM4、SMARCA3、FMR1、PDE6D、SGCE、AUH、SLC16A7、ATP6V1E1、UGTREL1、SEC22L1、CD9、CDH19、DUSP1、HSA6591、ACTR3、KIF2、TUBB2、ASPA、HELO1、C3orf4、CBR1、XPOT、LOC51142、NY−REN−45、及びSET0−2からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現をアップレギュレートし、又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11、ITGB3BP、ITGAM、COL18A1、TM4SF9、LAMB2、HS3ST2、TSTA3、COL5A3、PALM、MYOM1、FLNB、HMBS、KRT2A、CSK、NUDC、HYPE、GAK、SIAT1、CSF1R、ICSBP1、CD22、ERCC1、DNAJB5、TRAF3、MMP9、EIF4G1、RPL36、SRPK1、CSNK1G2、RPS6KA1、JIK、LNK、INPP5D、TCOF1、NAPG、SLC19A1、ITSN1、LOC51035、PMVK、C21orf2、EFEMP2、TBL1X、APRT、SPUF、GLTSCR2、ADIR、PSCD4、CBFA2T1、CUGBP1、1NG4、STAT6、ZNF239、TAL1、TAF11、MXD4、RDHL、LOC51157、LRP6、MBD3、及びC9orf7からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現をダウンレギュレートする物質を同定することを含む、方法。
【請求項15】
ALDH1A1、ARPP−21、HSPA8、SKP1A、SLC18A2、SRPK2、TMEFFI、TRIM36、ADH5、PSMA3、PSMA2、PSMA5、PSMC4からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現をアップレギュレートし、又はEGLN1、EIF4EBP2、LGALS9、LOC56920、LRP6、MAN2B1、PARVA、PENK、SELPLG、SPHK1、SRRM2、ZSIG11からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子の発現をダウンレギュレートする物質を同定することを含む、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−525211(P2007−525211A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548585(P2006−548585)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000064
【国際公開番号】WO2005/067391
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)
【Fターム(参考)】