パーフルオロアルキル基を有する両親媒性物質
【課題】新規なパーフルオロアルキル基を有する両親媒性物質を提供する。
【解決手段】両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体は、下記一般式(2)
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を、R2は−Hまたは−CH3を、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)の構造を有する、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である両親媒性物質である。
【解決手段】両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体は、下記一般式(2)
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を、R2は−Hまたは−CH3を、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)の構造を有する、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である両親媒性物質である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親CO2性基であるパーフルオロアルキル(以下「Rf」とする)基を有する両親媒性物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から分子中に親水性基と疎水性基を有する両親媒性特性を示すいくつかの化合物が知られており、界面活性剤等へ広く応用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、Rf基を有する新規な両親媒性物質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(A)本発明は、本発明者が開発したモノマーである、片末端がビニリデン構造であるスチレンオリゴマーを、片末端をヒドロキシル化し、さらにエチレンオキシドとの開環重合により、スチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体を得たことに基くものである。さらに、これをパーフルオロアルキルカルボン酸と反応させ、親CO2性基であるパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体を得ることに成功し本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明にかかる共重合体は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rはフェニル基又はアルキル基を表わし、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、nは2〜10の整数を表し、mは1〜50の整数を表す)で表されるパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体である。
【0006】
また、本発明にかかる共重合体には、一般式(1)におけるスチレン基のベンゼン環部または側鎖部分が種々の置換基で置換されているものも含まれる。具体的にはアルキル、アルコキシ、ハロゲン等が含まれる。また、本発明にかかる共重合体には、一般式(1)におけるエチレンオキシド以外のアルキレンオキシドと開環重合したもの、または複数種類のアルキレンオキシドと開環重合したものも含まれる。具体的にはプロピレンオキシドが挙げられる。
【0007】
(B)また、本発明者は、ポリプロピレンを高度制御熱分解して得られた単分散性の両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンの末端ビニリデン基をヒドロキシ基に変換した両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンに、エチレンオキシドを開環重合させて得られたポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体に基くものである。さらに、これをパーフルオロアルキルカルボン酸と反応させ、親CO2性基であるパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体を得ることに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は一般式(2)
【化2】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を表わし、R2は−Hまたは−CH3を表わし、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)で表わされる、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパーフルオロアルキル基を有する両親媒性物質は、一般式(1)及び(2)で表される新規な構造を有する。従って、親水性基・疎水性基を併せ持つ事から、界面活性剤、分散剤、乳化剤、親油性および親水性高分子材料の表面改質剤等としての応用が期待できる。また、水分散液中において、両親媒性物質に多く見られる特異な分子集合体を形成していると考えられることから、この特徴を活かした新機能性材料としての発展が期待できる。さらには、パーフルオロアルキル基を有することから、親CO2性を発現すると考えられ、超臨界CO2中における新規界面活性剤への応用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
(A)パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体
本発明にかかる一般式(1)で表される共重合体は、以下を特徴とする。すなわち、スチレンオリゴマーとオリゴ(又はポリ)エチレンオキシドがエーテル基で結合し、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造である。ここで、スチレンオリゴマーのスチレン分子数(nで示される)について特に制限はなく、原料として得られる片末端ビニリデンスチレンオリゴマーにのみ依存する。通常はnは2〜10の範囲である。またスチレンオリゴマーはその分子内に種々の置換基で置換されていてもよい。例えば、ベンゼン環がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されているもの、−CH−CH2−基がアルキル、アルコキシ基等で置換されているものが挙げられる。ここで、パーフルオロアルキル基には、炭素数7〜18の直鎖パーフルオロアルキル、分枝パーフルオロアルキルが含まれる(以下、パーフルオロアルキル基に関する定義は同様とする)。
【0011】
さらに、オリゴ(又はポリ)エチレンオキシド部分はプロピレンオキシド等の他の種々のアルキレンオキシドであってもよい。その繰り返し数(mで示される)についても特に制限はなく、以下に説明する開環重合の際に使用する量に依存する。通常はmは1〜50の範囲である。
【0012】
本発明にかかる共重合体の化学構造は、分子量測定、種々の分光学的測定により特徴付けられる。
【0013】
特に、通常公知のゲルパーミエイションクロマトグラフ(以下「GPC」とする)によって、得られた重合体の分子量、分子量分布測定が可能である(mおよびn値が決定される)。さらには必要な場合、特定の部分を分取して詳細な分析(IR,NMR等)のための試料とできる。
【0014】
また、より詳しい化学構造については赤外線吸収スペクトル(以下「IR」とする)、核磁気共鳴吸収スペクトル(以下「NMR」とする)等で決定することが可能である。例えば、IRにおいて、スチレン基に基づく吸収とエ−テル基に基づく吸収が共存することにより本発明の重合体の構造が定性的に確認でき、またスチレン基に基づく吸収強度とエ−テル基に基づく吸収強度と、適当な検量線とを用いてm、n値が定量できる。同様にNMRにおいて、スチレン基に基づく吸収(例えば芳香族水素、メチレン基、メチン基)とエ−テル基に基づく吸収(例えばメチレン基)が共存することにより本発明の重合体の構造が定性的に確認でき、またそれらの積分値を用いてm、n値が定量できる。
【0015】
本発明にかかる共重合体の両親媒性については、表面張力の低下能力、分子会合体の形成能力により特徴付けられる。具体的には共重合体水分散液の表面張力を測定し、その濃度依存性を測定することができる。かかる測定により臨界ミセル濃度(以下「CMC」という)を決定することができる。さらには共重合体水分散液中におけるミセルの平均粒径を測定し、その濃度依存性を測定することができる。かかる測定により、重合体が特定の大きさの分子集合体を形成することが確認できる。
【0016】
本発明の共重合体は上で説明したように、両親媒性を示すことから、親水性・親油性界面活性剤、分散剤、乳化剤、高分子材料の表面改質剤等として応用することが可能である。また、特異な分子集合体形成能を示すことから、新機能性材料への応用が可能である。
パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体の製造方法
本発明のパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体は上で説明した新規な化学構造、すなわち、スチレンオリゴマー部分と、エチレンオキシド部分とをエーテル結合により結合し、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造である。従ってかかる構造を有する共重合体を製造することができる方法であれば特に制限されることはない。
【0017】
本発明においては特に、一般式(3)
【化3】
(式中、nは2〜10の整数を表わす)で表わされる末端ビニリデンスチレンオリゴマーを、(i)ヒドロホウ素化し、さらに(ii)酸化的に分解して一般式(4)
【化4】
で表されるヒドロキシル化スチレンオリゴマーを得、さらに(iii)得られたヒドロキシル化スチレンオリゴマーと、適当なアルキレンオキシドとを適当な触媒を用いて開環重合する方法が好ましい。
【0018】
ここで、原料である末端ビニリデンスチレンオリゴマーの入手方法には特に制限はないが、本発明者の開発した熱分解方法(Journal of Polymer Science, Polym. Chem., 36, 209 (1998))により、スチレンモノマ単位の繰り返し数が2〜10程度の単分散性の片末端ビニリデン基含有オリゴスチレンを得ることができる。
【0019】
また、片末端ビニリデン基含有オリゴスチレン(以下、片末端ビニリデンスチレンダイマーを「SD」、および片末端ビニリデンスチレントリマーを「ST」とする)から末端ヒドロキシル化スチレンオリゴマーの入手方法も特に制限はない。通常公知の方法に従ってヒドロホウ素化し、さらに酸化的に分解して一般式(4)で表されるヒドロキシル化スチレンオリゴマーを容易に得ることができる。
【0020】
さらに得られたヒドロキシル化スチレンオリゴマーを通常公知の触媒系を用いて、例えばエチレンオキシドとの開環重合によりスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体が得られる(以下、スチレンダイマとポリエチレンオキシド共重合体を「SD−PEO」とし、スチレントリマ−ポリエチレンオキシド共重合体を「ST−PEO」とする)。アリキレンオキシドの反応量、触媒系の選択、反応時間、温度等の開環重合の条件については、例えば高分子学会編新高分子実験学2「高分子の合成・反応(1)付加縮合系高分子の合成」(1995年共立出版)を参照することができる。
【0021】
そしてさらに得られたスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体にパーフルオロカルボン酸を加え、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換して、パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体が得られる(以下、パーフルオロアルキル基を有するスチレンダイマとポリエチレンオキシド共重合体を「SD−PEO−Rf」とし、スチレントリマ−ポリエチレンオキシド共重合体を「ST−PEO−Rf」とする)。
【0022】
反応のモニタ、生成物の確認については上で説明したように、GPC、IR、NMR等を利用することができる。
(B)両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体
本発明のB−A−B型トリブロック共重合体は、親有機媒体性、すなわち疎水性のポリオレフィン鎖からなるAセグメント、および親水性のポリ(オキシアルキレン)鎖からなるBセグメント、さらに両末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造、からなり両親媒性を示す。
【0023】
Aセグメントのポリオレフィン鎖を構成するモノマー単位は、一般式(2)中のR1が−CH3であるプロピレン・モノマー、またはR1が−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基であるプロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとの混合モノマーである。すなわち、Aセグメントは、プロピレン単独重合体鎖、またはプロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとのプロピレン系共重合体鎖である。一般式(1)にnで表わされるモノマー単位の繰り返し数は、共重合体の使用目的、有機媒体の種類などにより、通常、15〜100の範囲で変化させることができる。
【0024】
Bセグメントのポリ(オキシアルキレン)鎖を構成する単位は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを開環させた一般式(2)中のR2が−Hであるオキシエチレン基またはR2が−CH3であるオキシプロピレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数は、共重合体の使用目的、それに付与すべき親水性の程度などにより、一般式(2)中のlとmとの合計の前記オレフィンモノマー単位の繰り返し数nに対する比[(l+m)/n]として、通常、0.1〜10の範囲で変化させることができる。
【0025】
本発明のB−A−B型トリブロック共重合体は、A、B両セグメントの長さを調節して種々の特性を変化させることが可能であることにより、たとえば洗剤、乳化剤、染色助剤、分散剤、表面処理剤などノニオン界面活性剤として広範な用途への使用が期待できる。
両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体の製造方法
本発明のパーフルオロアルキル基を有するB−A−B型トリブロック共重合体は、前記ポリオレフィン鎖の両末端にヒドロキシ基を有するオレフィン重合体のヒドロキシ基にアルキレンオキシドを開環縮合させ、さらにエステル化反応により両末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換する公知の方法により容易に製造することができる。
【0026】
安定した特性を有するトリブロック共重合体を製造するために、原料として、オレフィンモノマー単位の繰り返し数のばらつきが小さい、すなわち分子量分布幅(Mw/Mn)の狭い単分散性の両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体を使用することが要求される
上記単分散性の両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体は、前記Polymer Journal, 28, 817 (1996)に記載されるポリプロピレンの高度制御熱分解法と同様の方法を採用して両末端ビニリデン基含有オレフィン重合体を製造し、その両末端ビニリデン基を常法により酸化することにより容易に製造することができる。たとえば、両末端ビニリデン基含有オレフィン重合体をヒドロホウ素化し、次いで酸化剤を用いて酸化することにより製造することができる。
【0027】
両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体の有機溶媒溶液に、たとえばナトリウムメトキシドなどの触媒の存在下、アルキレンオキシドを滴下することにより、両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体にアルキレンオキシドを開環縮合させることができる。
【0028】
エステル化反応は、トリブロックコポリマーと片末端カルボキシル化パーフルオロアルキル(RfCOOH)、触媒としてp−トルエンスルホン酸を用い、トルエン溶媒中で行った。
【0029】
各反応生成物のキャラクタリゼーションは、IR、GPC、NMR、動的光散乱光度計(DLS)、及び表面張力測定装置等で行った。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に即して詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(A)パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体
【0031】
実施例1
SD、STの合成
ポリスチレンを、370℃で3時間熱分解して、SD及びSTをそれぞれ20wt%、30wt%の収率で得た。
ヒドロキシル化
得られたSD(又はST)を蒸留THF中に溶解し、ボランTHF錯体−THF溶液を加えて、70℃で5時間攪拌しながら反応させた。得られたヒドロホウ素化SD(又はST)のTHF溶液に、過酸化水素水、水酸化ナトリウムを加え、温度50℃で20時間反応させた。
エチレンオキシド開環重合
得られた片末端ヒドロキシル化スチレンダイマー(SD−OH)あるいは片末端スチレントリマー(ST−OH)と、重合開始剤としてナトリムメトキシド−メタノール溶液、溶媒として蒸留トルエンを加え、130℃、窒素雰囲気下で内圧を制御しながら、エチレンオキシド(EO)を滴下し、それぞれSD−PEO−1、SD−PEO−2及びST−PEOを試料として得た。
【0032】
表1にその結果をまとめた。
【0033】
【表1】
【0034】
各サンプルのGPC測定により、SD−PEO−1、SD−PEO−2おびST−PEOいずれにおいても、原料(SD−OHおよびST−OH)と比べ、大きく分子量が増大したことが分かった。
【0035】
SD−PEO−1では、Mn:1500付近、Mn:400付近および原料のSD−OHと考えられるMn:220付近に溶出ピークが現れた。Mn:1500付近およびMn:400付近の溶出ピークは、リサイクル型GPCで分離し、IRスペクトルで構造解析した結果、Mn:1500付近の溶出ピークをナトリウムメトキシドの溶媒として用いたメタノールのOH基を開始点として生成するPEOホモポリマー、Mn:400付近の溶出ピークをSD−PEOと帰属できる。
【0036】
SD−PEO−2においても同様に、Mn:2800付近にPEOホモポリマー、Mn:900付近にSD−PEO、Mn:220付近にSD−OHのピークが現れ、分離精製した。
【0037】
ST−PEOにおいても同様に、Mn:970付近にST‐PEO、Mn:320付近にST‐OHのピークが現れ、分離精製した。
【0038】
また、PEOホモポリマー、SD−PEO−1の各IRスペクトル測定により、SD−PEO−1において、PEOホモポリマーと考えられるピークを分離して解析した結果、1100cm-1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、1800〜2000cm-1付近のスチレンユニットのフェニル基に起因する吸収の減少が認められる。一方、SD−PEO−1と考えられるピークを分離して解析した結果では、1100cm-1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、1800〜2000cm-1付近のスチレンユニットのフェニル基に起因する吸収の減少は認められなかった。また、SD−PEO−2およびST−PEOにおいても同様な結果が得られる。このことから、目的の共重合体が合成されたことがわかる。
【0039】
図1にSD−PEO−1の1H−NMRスペクトル示す。1.5〜3ppm付近にスチレンモノマーユニットの脂肪族に起因するシグナル、3.5ppm付近にエーテル結合の隣のスチレンモノマーユニットに起因するシグナル、7ppm付近にスチレンモノマーユニットの芳香族に起因するシグナル、3.5〜4ppm付近にEOモノマーユニットに起因するシグナルがそれぞれ現れた。
【0040】
また、1H−NMRスペクトルの積分強度から求めたスチレンモノマーユニット:EOモノマーユニットのモル組成比は、2:5であった。SD−PEO−2およびST−PEOにおいても、SD−PEO−1と同様の結果が得られ、それぞれのスチレンモノマーユニット:EOモノマーユニットのモル組成比は、SD−PEO−2は2:17、ST−PEOは3:29であった。以上のことから、目的共重合体が合成されたことが分かる。
共重合体水分散液による表面張力測定
合成した各共重合体の水分散液を10−4(g/L)〜0.5(g/L)の濃度になるように調製し、プレート法による全自動表面張力測定装置(共和界面科学(株)製自動表面張力計CBVP−Z)を用いて測定した。
【0041】
図2に各共重合体水分散液による表面張力の濃度依存性を示した。各共重合体いずれにおいても、濃度が上昇するにつれ、表面張力は減少し、SD−PEO−1では0.3g/L、SD−PEO−2では0.2g/L、ST−PEOでは0.1g/Lに臨界ミセル濃度(CMC)の存在が確認できた。スチレンモノマーユニットが同様であるSD−PEO−1とSD−PEO−2を比較すると、1分子中のEOユニットが多いものほど低濃度領域での表面張力低下能に優れていることがわかる。また、各モノマーユニットの組成比が同程度なSD−PEO−2とST−PEOを比較すると、スチレンユニットが多いものほど、低濃度領域での表面張力低下能に優れていることがわかる。
【0042】
これらより、各モノマーユニットの組成比が、表面張力低下能に影響していることが示される。
共重合体水分散液によるミセルの粒径測定
合成した各共重合体の水分散液を0.1(g/L)〜0.5(g/L)の濃度になるように調製し、動的光散乱装置(大塚電子(株)製DLS7000series)を用いて測定を行った。
【0043】
図3には各共重合体分散液中におけるミセルの平均粒径の濃度依存性を示した。各共重合体いずれにおいても濃度が上昇するにつれ、粒径が減少するが、CMC以降粒径が増加する。各共重合体分散液中のミセルの平均粒径は、SD−PEO−1は約140nm、SD−PEO−2は約70nm、ST−PEOは約130nmであり、各共重合体分子の伸長鎖長の27倍、5倍、6倍と極めて大きな分子集合体を形成していると考えられる。粒径測定の結果から、形成される分子集合体は、スチレンユニットの疎水性相互作用が因子として働き、単純なミセル構造ではなく、親水基と疎水基が何重にも重なり、極めて大きな分子集合体を形成していると考えられる。その構造として、2分子膜もしくはそれ以上の多分子膜を形成していると考えられる。
【0044】
実施例2
SD−OHの合成
還流器、窒素風船を装着した反応容器にSDを採取し、窒素置換した後、THFおよびボランTHF錯体THF溶液を加え、約70℃で5時間反応させた。その後、1N水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えた後、過酸化水素水を徐々に滴下し、約50℃で20時間反応させた。反応後、飽和食塩水を加え、THF層を回収し、溶媒を留去してSD−OHを得た。
SD−PEOの合成
耐圧ガラス製オートクレーブに試料(SD−OH)、触媒ナトリウムメトキシド、溶媒蒸留トルエンを採取し、エチレンオキシド(EO)を反応温度130℃、窒素雰囲気下で内圧を制御しながら滴下し、所定時間反応させた。反応後、トルエンを除去し、リサイクルGPCで分取してSD−PEOを得た。
SD−PEO−Rfの合成
SD−PEO:Rf(RfCOOH):p−トルエンスルホン酸のモル比が1:1:0.2となるようにそれぞれを採取し、トルエンに溶解し、反応系外に水を除去しながら24時間加熱還流することにより行った。反応後、クロロホルムおよび炭酸ナトリウム水溶液を加え、クロロホルム層を回収し、溶媒を留去してSD−PEO−Rfを得た。
SD−OHの合成結果
SD−OHのIRスペクトルにおいて、原料SDの末端ビニリデン基に起因する1650および895cm−1付近の吸収が消失し、3400cm−11付近のヒドロキシル基由来のブロードな吸収が現れた。また1H−NMRスペクトルでは、原料SDに現れる5.0〜5.5ppm付近の末端ビニリデン基に起因するシグナルがほぼ完全に消失し、3.5〜4.0ppm付近にヒドロキシル基隣接メチレンに由来するシグナルが現れた。ヒドロキシル化はほぼ定量的に進行した。
SD−PEOの合成結果
表2に示されるように、SD−PEOのMnは0.91×103、Mw/Mnは1.09であった。SD−PEOのIRスペクトルにおいて、1100cm−1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、また1H−NMRスペクトルでは、3.5〜4.0ppm付近にEOモノマーユニットに起因するシグナルが、13C−NMRスペクトルにおいても、60ppm付近にエーテル結合の隣のスチレンモノマーユニットに起因するシグナルがそれぞれ現れた。スチレンモノマーユニットとEOモノマーユニットのモル組成比は2:17であった。
【0045】
【表2】
SD−PEO−Rfの合成結果
SD−PEO−Rfの分子量分布は単峰性であり、SD−PEOと比較して全体的に高分子量側にシフトした。表2に示されるように、そのMnは1.28×103、Mw/Mnは1.07であった。また、図4に示されるように、SD−PEO−RfのIRスペクトルにおいて、3400cm−1付近のヒドロキシル基由来のブロードな吸収が減少し、1240および1780cm−1付近にエステル基に起因する吸収、また1210cm−1付近にフッ素基に起因する吸収が現れた。
表面張力
図5にSD−PEOおよびSD−PEO−Rf水分散液の表面張力を示した。濃度の増加とともに、どちらの場合も表面張力は低下し、臨界ミセル濃度(CMC)が確認された。CMCはSD−PEOで0.3g/L付近、SD−PEO−Rfで0.1g/L付近であるが、その表面張力は、それぞれ約44および約28mN/mであった。表面張力低下に対する末端Rf基の大きな疎水性相互作用が認められた。
(B)パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体
【0046】
実施例3
パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体の製造1
数平均分子量(Mn)が111×103、Mw/Mnが8.39のアイソタクッチック・ポリプロピレン(mm:mr:rr=98:1:1)の高度制御熱分解による揮発生成物から蒸留、再沈殿により、数平均分子量(Mn)が1.43×103、Mw/Mnが1.11の単分散性の両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンを得た。
【0047】
得られた両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンをTHF溶媒に分散させ、BH3−THF錯体・THF溶液を滴下し、窒素ガス雰囲気下でヒドロホウ素化した後、NaOH水溶液および過酸化水素水により酸化して、末端ビニリデン基をヒドロキシ基に変換させ、両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンを得た。
【0048】
両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンをトルエンに溶解した溶液に触媒としてナトリウムメトキシドを分散させ、窒素ガス雰囲気下、反応温度130℃で内圧を制御しながらオレフィン重合体1モル当たり、エチレンオキシドを滴下し反応させた。得られた反応生成物をアセトン還流下に加熱した後、室温でアセトン可溶成分と不溶成分に分別した。次いでアセトン可溶成分からリサイクルGPCにより重合体を分取した。
【0049】
得られた重合体のIRスペクトルは、エチレンオキシドのエーテル結合に起因する吸収が1100cm−1に現れ、NMRスペクトルはオキシエチレンブロックのメチレンに起因するシグナル1H:3.5〜4.0ppm、13C:70〜71ppm(TMS基準)が出現し、重合体がプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体であることを確認した。
【0050】
得られたトリブロック重合体の1H−NMRの積算強度比から算出したプロピレン単位に対するオキシエチレン単位の比[(l+m)/n]は0.86であった。また、GPCによる数平均分子量(Mn)(ポリスチレン換算)は2.15×103、Mw/Mnは1.07であり、DSCによる融点(Tm)は104〜124℃であった。
【0051】
得られたトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)のGPC、DSCおよび13C−NMRによる特性評価結果を、出発原料ポリプロピレン(iPP)、両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)および両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)の評価結果と共に表3に示す。
【0052】
また、トリブロック共重合体(iPP−b−PEO)、両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)および両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)のGPC曲線を図6に、両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)およびトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)の13C−NMRスペクトルを図7に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例4
両親媒性物質としての評価1
実施例3で得られたトリブロック共重合体の両親媒性物質としての特性評価のために希薄水溶液の表面張力および水媒体中の粒径分布を測定した。
【0055】
表面張力:ジュヌーイ(du Nouy)の表面張力計を用いて20℃で測定した表面張力を、図8に示す。
【0056】
図8において縦軸は表面張力計の目盛りの読み取り値、横軸は水溶液中のトリブロック共重合体の濃度(mg/ml)を表わす。
【0057】
図8の縦軸は水を基準にした相対的な表面張力を表わすがトリブロック共重合体のわずかな量で水溶液の表面張力が大幅に低下することを示す。
【0058】
粒径分布:水性媒体中のトリブロック共重合体分散体について、He−Neレーザーによる動的光散乱光(DLS)を測定するキュムラント法により25℃で測定した粒径分布を図9に示す。
【0059】
図8および9の結果は、トリブロック共重合体の臨界ミセル濃度(c.m.c)がほぼ0.04mg/mlであることを示す。
【0060】
実施例5
パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体の製造2
ナス型フラスコに、iPP−b−PEO(Mn:1600 Mw/Mn:1.20)を1.00g(6.5×10−4mol)、RfCOOHを1.24g(2.7×10−3mol)、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)を0.01g(5.3×10−5mol)および溶媒として20mlの蒸留トルエンを仕込んだ(iPP−b−PEO:RfCOOH:p−TSA=1:4.1:0.08(モル比)となるよう採取)。これに水分定量受器、ジムロート式冷却管、及び窒素ガス風船を装着した。生成する水を反応系外に除去しながら、反応温度140℃で、12時間反応させた。
【0061】
得られた反応溶液を24時間静置後、ろ別し、トルエン可溶成分と不溶成分に分別した。可溶成分からトルエンを留去し、得た合成混合物をクロロホルムに溶解後、リサイクル型GPCにて分離・精製し、iPP−b−PEO:Rf(Mn:1800 Mw/Mn:1.15)を得た。
【0062】
実施例6
両親媒性物質としての評価2
イソタクチックオリゴプロピレンとオリゴ(エチレンオキシド)とのトリブロックコポリマー(iPP‐b‐PEO、Mn:1.5×103、Mw/Mn:1.18)は、水分散系において巨大な分子会合体が形成され、DLSより測定した粒径は、EOセグメントの割合が増大することにより、大きくなる傾向を示した。
【0063】
図10に示されるように、このiPP−b−PEOとC8F17COOHを用いたエステル化反応における生成物のIRスペクトルにおいて、iPP−b−PEOの末端ヒドロキシル基由来の吸収(3400cm−1付近)が著しく減少し、カルボニル由来(1800cm−1付近)、及びフッ素基由来(1200cm−1付近)の吸収が新たに現れた。
【0064】
またGPCにおいて分子量の増加が認められたことから、エステル化反応によるブロック共重合体(iPP‐b‐PEO‐Rf)の生成が確認できた。iPP‐b‐PEO‐RfはiPP‐b‐PEOと同様に水に良く分散し、その状態を長時間安定に保った。
【0065】
図11に示した通り、またこの系において、iPP‐b‐PEO‐Rfの表面張力は、iPP‐b‐PEOに比較して著しく減少した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】SD−PEO−1の1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例1で得られた試料の表面張力の濃度依存性を示す。
【図3】実施例1で得られた試料のミセルの平均の濃度依存性を示す。
【図4】実施例2で得られたSD−PEO−RfのIRスペクトルを示す。
【図5】実施例2で得られた試料の25℃における表面張力の濃度依存性を示す。
【図6】実施例1で測定したGPC曲線を示す。図中、実線はトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)、鎖線は両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)、点線は両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)である。
【図7】実施例1で得られた13C−NMRスペクトルであり、(a)は両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)、(b)はトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)である。
【図8】トリブロック共重合体希薄水溶液の表面張力を示す。
【図9】水性媒体中のトリブロック共重合体分散体の粒径分布を示す。
【図10】実施例6にて測定された試料のIRスペクトルを示す。
【図11】実施例6にて測定された試料の25℃における表面張力の濃度依存性を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、親CO2性基であるパーフルオロアルキル(以下「Rf」とする)基を有する両親媒性物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から分子中に親水性基と疎水性基を有する両親媒性特性を示すいくつかの化合物が知られており、界面活性剤等へ広く応用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、Rf基を有する新規な両親媒性物質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(A)本発明は、本発明者が開発したモノマーである、片末端がビニリデン構造であるスチレンオリゴマーを、片末端をヒドロキシル化し、さらにエチレンオキシドとの開環重合により、スチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体を得たことに基くものである。さらに、これをパーフルオロアルキルカルボン酸と反応させ、親CO2性基であるパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体を得ることに成功し本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明にかかる共重合体は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rはフェニル基又はアルキル基を表わし、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、nは2〜10の整数を表し、mは1〜50の整数を表す)で表されるパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体である。
【0006】
また、本発明にかかる共重合体には、一般式(1)におけるスチレン基のベンゼン環部または側鎖部分が種々の置換基で置換されているものも含まれる。具体的にはアルキル、アルコキシ、ハロゲン等が含まれる。また、本発明にかかる共重合体には、一般式(1)におけるエチレンオキシド以外のアルキレンオキシドと開環重合したもの、または複数種類のアルキレンオキシドと開環重合したものも含まれる。具体的にはプロピレンオキシドが挙げられる。
【0007】
(B)また、本発明者は、ポリプロピレンを高度制御熱分解して得られた単分散性の両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンの末端ビニリデン基をヒドロキシ基に変換した両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンに、エチレンオキシドを開環重合させて得られたポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体に基くものである。さらに、これをパーフルオロアルキルカルボン酸と反応させ、親CO2性基であるパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体を得ることに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は一般式(2)
【化2】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を表わし、R2は−Hまたは−CH3を表わし、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)で表わされる、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパーフルオロアルキル基を有する両親媒性物質は、一般式(1)及び(2)で表される新規な構造を有する。従って、親水性基・疎水性基を併せ持つ事から、界面活性剤、分散剤、乳化剤、親油性および親水性高分子材料の表面改質剤等としての応用が期待できる。また、水分散液中において、両親媒性物質に多く見られる特異な分子集合体を形成していると考えられることから、この特徴を活かした新機能性材料としての発展が期待できる。さらには、パーフルオロアルキル基を有することから、親CO2性を発現すると考えられ、超臨界CO2中における新規界面活性剤への応用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
(A)パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体
本発明にかかる一般式(1)で表される共重合体は、以下を特徴とする。すなわち、スチレンオリゴマーとオリゴ(又はポリ)エチレンオキシドがエーテル基で結合し、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造である。ここで、スチレンオリゴマーのスチレン分子数(nで示される)について特に制限はなく、原料として得られる片末端ビニリデンスチレンオリゴマーにのみ依存する。通常はnは2〜10の範囲である。またスチレンオリゴマーはその分子内に種々の置換基で置換されていてもよい。例えば、ベンゼン環がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されているもの、−CH−CH2−基がアルキル、アルコキシ基等で置換されているものが挙げられる。ここで、パーフルオロアルキル基には、炭素数7〜18の直鎖パーフルオロアルキル、分枝パーフルオロアルキルが含まれる(以下、パーフルオロアルキル基に関する定義は同様とする)。
【0011】
さらに、オリゴ(又はポリ)エチレンオキシド部分はプロピレンオキシド等の他の種々のアルキレンオキシドであってもよい。その繰り返し数(mで示される)についても特に制限はなく、以下に説明する開環重合の際に使用する量に依存する。通常はmは1〜50の範囲である。
【0012】
本発明にかかる共重合体の化学構造は、分子量測定、種々の分光学的測定により特徴付けられる。
【0013】
特に、通常公知のゲルパーミエイションクロマトグラフ(以下「GPC」とする)によって、得られた重合体の分子量、分子量分布測定が可能である(mおよびn値が決定される)。さらには必要な場合、特定の部分を分取して詳細な分析(IR,NMR等)のための試料とできる。
【0014】
また、より詳しい化学構造については赤外線吸収スペクトル(以下「IR」とする)、核磁気共鳴吸収スペクトル(以下「NMR」とする)等で決定することが可能である。例えば、IRにおいて、スチレン基に基づく吸収とエ−テル基に基づく吸収が共存することにより本発明の重合体の構造が定性的に確認でき、またスチレン基に基づく吸収強度とエ−テル基に基づく吸収強度と、適当な検量線とを用いてm、n値が定量できる。同様にNMRにおいて、スチレン基に基づく吸収(例えば芳香族水素、メチレン基、メチン基)とエ−テル基に基づく吸収(例えばメチレン基)が共存することにより本発明の重合体の構造が定性的に確認でき、またそれらの積分値を用いてm、n値が定量できる。
【0015】
本発明にかかる共重合体の両親媒性については、表面張力の低下能力、分子会合体の形成能力により特徴付けられる。具体的には共重合体水分散液の表面張力を測定し、その濃度依存性を測定することができる。かかる測定により臨界ミセル濃度(以下「CMC」という)を決定することができる。さらには共重合体水分散液中におけるミセルの平均粒径を測定し、その濃度依存性を測定することができる。かかる測定により、重合体が特定の大きさの分子集合体を形成することが確認できる。
【0016】
本発明の共重合体は上で説明したように、両親媒性を示すことから、親水性・親油性界面活性剤、分散剤、乳化剤、高分子材料の表面改質剤等として応用することが可能である。また、特異な分子集合体形成能を示すことから、新機能性材料への応用が可能である。
パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体の製造方法
本発明のパーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体は上で説明した新規な化学構造、すなわち、スチレンオリゴマー部分と、エチレンオキシド部分とをエーテル結合により結合し、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造である。従ってかかる構造を有する共重合体を製造することができる方法であれば特に制限されることはない。
【0017】
本発明においては特に、一般式(3)
【化3】
(式中、nは2〜10の整数を表わす)で表わされる末端ビニリデンスチレンオリゴマーを、(i)ヒドロホウ素化し、さらに(ii)酸化的に分解して一般式(4)
【化4】
で表されるヒドロキシル化スチレンオリゴマーを得、さらに(iii)得られたヒドロキシル化スチレンオリゴマーと、適当なアルキレンオキシドとを適当な触媒を用いて開環重合する方法が好ましい。
【0018】
ここで、原料である末端ビニリデンスチレンオリゴマーの入手方法には特に制限はないが、本発明者の開発した熱分解方法(Journal of Polymer Science, Polym. Chem., 36, 209 (1998))により、スチレンモノマ単位の繰り返し数が2〜10程度の単分散性の片末端ビニリデン基含有オリゴスチレンを得ることができる。
【0019】
また、片末端ビニリデン基含有オリゴスチレン(以下、片末端ビニリデンスチレンダイマーを「SD」、および片末端ビニリデンスチレントリマーを「ST」とする)から末端ヒドロキシル化スチレンオリゴマーの入手方法も特に制限はない。通常公知の方法に従ってヒドロホウ素化し、さらに酸化的に分解して一般式(4)で表されるヒドロキシル化スチレンオリゴマーを容易に得ることができる。
【0020】
さらに得られたヒドロキシル化スチレンオリゴマーを通常公知の触媒系を用いて、例えばエチレンオキシドとの開環重合によりスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体が得られる(以下、スチレンダイマとポリエチレンオキシド共重合体を「SD−PEO」とし、スチレントリマ−ポリエチレンオキシド共重合体を「ST−PEO」とする)。アリキレンオキシドの反応量、触媒系の選択、反応時間、温度等の開環重合の条件については、例えば高分子学会編新高分子実験学2「高分子の合成・反応(1)付加縮合系高分子の合成」(1995年共立出版)を参照することができる。
【0021】
そしてさらに得られたスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体にパーフルオロカルボン酸を加え、末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換して、パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体が得られる(以下、パーフルオロアルキル基を有するスチレンダイマとポリエチレンオキシド共重合体を「SD−PEO−Rf」とし、スチレントリマ−ポリエチレンオキシド共重合体を「ST−PEO−Rf」とする)。
【0022】
反応のモニタ、生成物の確認については上で説明したように、GPC、IR、NMR等を利用することができる。
(B)両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体
本発明のB−A−B型トリブロック共重合体は、親有機媒体性、すなわち疎水性のポリオレフィン鎖からなるAセグメント、および親水性のポリ(オキシアルキレン)鎖からなるBセグメント、さらに両末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換した構造、からなり両親媒性を示す。
【0023】
Aセグメントのポリオレフィン鎖を構成するモノマー単位は、一般式(2)中のR1が−CH3であるプロピレン・モノマー、またはR1が−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基であるプロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとの混合モノマーである。すなわち、Aセグメントは、プロピレン単独重合体鎖、またはプロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとのプロピレン系共重合体鎖である。一般式(1)にnで表わされるモノマー単位の繰り返し数は、共重合体の使用目的、有機媒体の種類などにより、通常、15〜100の範囲で変化させることができる。
【0024】
Bセグメントのポリ(オキシアルキレン)鎖を構成する単位は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを開環させた一般式(2)中のR2が−Hであるオキシエチレン基またはR2が−CH3であるオキシプロピレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数は、共重合体の使用目的、それに付与すべき親水性の程度などにより、一般式(2)中のlとmとの合計の前記オレフィンモノマー単位の繰り返し数nに対する比[(l+m)/n]として、通常、0.1〜10の範囲で変化させることができる。
【0025】
本発明のB−A−B型トリブロック共重合体は、A、B両セグメントの長さを調節して種々の特性を変化させることが可能であることにより、たとえば洗剤、乳化剤、染色助剤、分散剤、表面処理剤などノニオン界面活性剤として広範な用途への使用が期待できる。
両末端にパーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体の製造方法
本発明のパーフルオロアルキル基を有するB−A−B型トリブロック共重合体は、前記ポリオレフィン鎖の両末端にヒドロキシ基を有するオレフィン重合体のヒドロキシ基にアルキレンオキシドを開環縮合させ、さらにエステル化反応により両末端のヒドロキシル基をパーフルオロカルボン酸エステルに変換する公知の方法により容易に製造することができる。
【0026】
安定した特性を有するトリブロック共重合体を製造するために、原料として、オレフィンモノマー単位の繰り返し数のばらつきが小さい、すなわち分子量分布幅(Mw/Mn)の狭い単分散性の両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体を使用することが要求される
上記単分散性の両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体は、前記Polymer Journal, 28, 817 (1996)に記載されるポリプロピレンの高度制御熱分解法と同様の方法を採用して両末端ビニリデン基含有オレフィン重合体を製造し、その両末端ビニリデン基を常法により酸化することにより容易に製造することができる。たとえば、両末端ビニリデン基含有オレフィン重合体をヒドロホウ素化し、次いで酸化剤を用いて酸化することにより製造することができる。
【0027】
両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体の有機溶媒溶液に、たとえばナトリウムメトキシドなどの触媒の存在下、アルキレンオキシドを滴下することにより、両末端ヒドロキシ基含有オレフィン重合体にアルキレンオキシドを開環縮合させることができる。
【0028】
エステル化反応は、トリブロックコポリマーと片末端カルボキシル化パーフルオロアルキル(RfCOOH)、触媒としてp−トルエンスルホン酸を用い、トルエン溶媒中で行った。
【0029】
各反応生成物のキャラクタリゼーションは、IR、GPC、NMR、動的光散乱光度計(DLS)、及び表面張力測定装置等で行った。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に即して詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(A)パーフルオロアルキル基を有するスチレンオリゴマー−ポリエチレンオキシド共重合体
【0031】
実施例1
SD、STの合成
ポリスチレンを、370℃で3時間熱分解して、SD及びSTをそれぞれ20wt%、30wt%の収率で得た。
ヒドロキシル化
得られたSD(又はST)を蒸留THF中に溶解し、ボランTHF錯体−THF溶液を加えて、70℃で5時間攪拌しながら反応させた。得られたヒドロホウ素化SD(又はST)のTHF溶液に、過酸化水素水、水酸化ナトリウムを加え、温度50℃で20時間反応させた。
エチレンオキシド開環重合
得られた片末端ヒドロキシル化スチレンダイマー(SD−OH)あるいは片末端スチレントリマー(ST−OH)と、重合開始剤としてナトリムメトキシド−メタノール溶液、溶媒として蒸留トルエンを加え、130℃、窒素雰囲気下で内圧を制御しながら、エチレンオキシド(EO)を滴下し、それぞれSD−PEO−1、SD−PEO−2及びST−PEOを試料として得た。
【0032】
表1にその結果をまとめた。
【0033】
【表1】
【0034】
各サンプルのGPC測定により、SD−PEO−1、SD−PEO−2おびST−PEOいずれにおいても、原料(SD−OHおよびST−OH)と比べ、大きく分子量が増大したことが分かった。
【0035】
SD−PEO−1では、Mn:1500付近、Mn:400付近および原料のSD−OHと考えられるMn:220付近に溶出ピークが現れた。Mn:1500付近およびMn:400付近の溶出ピークは、リサイクル型GPCで分離し、IRスペクトルで構造解析した結果、Mn:1500付近の溶出ピークをナトリウムメトキシドの溶媒として用いたメタノールのOH基を開始点として生成するPEOホモポリマー、Mn:400付近の溶出ピークをSD−PEOと帰属できる。
【0036】
SD−PEO−2においても同様に、Mn:2800付近にPEOホモポリマー、Mn:900付近にSD−PEO、Mn:220付近にSD−OHのピークが現れ、分離精製した。
【0037】
ST−PEOにおいても同様に、Mn:970付近にST‐PEO、Mn:320付近にST‐OHのピークが現れ、分離精製した。
【0038】
また、PEOホモポリマー、SD−PEO−1の各IRスペクトル測定により、SD−PEO−1において、PEOホモポリマーと考えられるピークを分離して解析した結果、1100cm-1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、1800〜2000cm-1付近のスチレンユニットのフェニル基に起因する吸収の減少が認められる。一方、SD−PEO−1と考えられるピークを分離して解析した結果では、1100cm-1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、1800〜2000cm-1付近のスチレンユニットのフェニル基に起因する吸収の減少は認められなかった。また、SD−PEO−2およびST−PEOにおいても同様な結果が得られる。このことから、目的の共重合体が合成されたことがわかる。
【0039】
図1にSD−PEO−1の1H−NMRスペクトル示す。1.5〜3ppm付近にスチレンモノマーユニットの脂肪族に起因するシグナル、3.5ppm付近にエーテル結合の隣のスチレンモノマーユニットに起因するシグナル、7ppm付近にスチレンモノマーユニットの芳香族に起因するシグナル、3.5〜4ppm付近にEOモノマーユニットに起因するシグナルがそれぞれ現れた。
【0040】
また、1H−NMRスペクトルの積分強度から求めたスチレンモノマーユニット:EOモノマーユニットのモル組成比は、2:5であった。SD−PEO−2およびST−PEOにおいても、SD−PEO−1と同様の結果が得られ、それぞれのスチレンモノマーユニット:EOモノマーユニットのモル組成比は、SD−PEO−2は2:17、ST−PEOは3:29であった。以上のことから、目的共重合体が合成されたことが分かる。
共重合体水分散液による表面張力測定
合成した各共重合体の水分散液を10−4(g/L)〜0.5(g/L)の濃度になるように調製し、プレート法による全自動表面張力測定装置(共和界面科学(株)製自動表面張力計CBVP−Z)を用いて測定した。
【0041】
図2に各共重合体水分散液による表面張力の濃度依存性を示した。各共重合体いずれにおいても、濃度が上昇するにつれ、表面張力は減少し、SD−PEO−1では0.3g/L、SD−PEO−2では0.2g/L、ST−PEOでは0.1g/Lに臨界ミセル濃度(CMC)の存在が確認できた。スチレンモノマーユニットが同様であるSD−PEO−1とSD−PEO−2を比較すると、1分子中のEOユニットが多いものほど低濃度領域での表面張力低下能に優れていることがわかる。また、各モノマーユニットの組成比が同程度なSD−PEO−2とST−PEOを比較すると、スチレンユニットが多いものほど、低濃度領域での表面張力低下能に優れていることがわかる。
【0042】
これらより、各モノマーユニットの組成比が、表面張力低下能に影響していることが示される。
共重合体水分散液によるミセルの粒径測定
合成した各共重合体の水分散液を0.1(g/L)〜0.5(g/L)の濃度になるように調製し、動的光散乱装置(大塚電子(株)製DLS7000series)を用いて測定を行った。
【0043】
図3には各共重合体分散液中におけるミセルの平均粒径の濃度依存性を示した。各共重合体いずれにおいても濃度が上昇するにつれ、粒径が減少するが、CMC以降粒径が増加する。各共重合体分散液中のミセルの平均粒径は、SD−PEO−1は約140nm、SD−PEO−2は約70nm、ST−PEOは約130nmであり、各共重合体分子の伸長鎖長の27倍、5倍、6倍と極めて大きな分子集合体を形成していると考えられる。粒径測定の結果から、形成される分子集合体は、スチレンユニットの疎水性相互作用が因子として働き、単純なミセル構造ではなく、親水基と疎水基が何重にも重なり、極めて大きな分子集合体を形成していると考えられる。その構造として、2分子膜もしくはそれ以上の多分子膜を形成していると考えられる。
【0044】
実施例2
SD−OHの合成
還流器、窒素風船を装着した反応容器にSDを採取し、窒素置換した後、THFおよびボランTHF錯体THF溶液を加え、約70℃で5時間反応させた。その後、1N水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えた後、過酸化水素水を徐々に滴下し、約50℃で20時間反応させた。反応後、飽和食塩水を加え、THF層を回収し、溶媒を留去してSD−OHを得た。
SD−PEOの合成
耐圧ガラス製オートクレーブに試料(SD−OH)、触媒ナトリウムメトキシド、溶媒蒸留トルエンを採取し、エチレンオキシド(EO)を反応温度130℃、窒素雰囲気下で内圧を制御しながら滴下し、所定時間反応させた。反応後、トルエンを除去し、リサイクルGPCで分取してSD−PEOを得た。
SD−PEO−Rfの合成
SD−PEO:Rf(RfCOOH):p−トルエンスルホン酸のモル比が1:1:0.2となるようにそれぞれを採取し、トルエンに溶解し、反応系外に水を除去しながら24時間加熱還流することにより行った。反応後、クロロホルムおよび炭酸ナトリウム水溶液を加え、クロロホルム層を回収し、溶媒を留去してSD−PEO−Rfを得た。
SD−OHの合成結果
SD−OHのIRスペクトルにおいて、原料SDの末端ビニリデン基に起因する1650および895cm−1付近の吸収が消失し、3400cm−11付近のヒドロキシル基由来のブロードな吸収が現れた。また1H−NMRスペクトルでは、原料SDに現れる5.0〜5.5ppm付近の末端ビニリデン基に起因するシグナルがほぼ完全に消失し、3.5〜4.0ppm付近にヒドロキシル基隣接メチレンに由来するシグナルが現れた。ヒドロキシル化はほぼ定量的に進行した。
SD−PEOの合成結果
表2に示されるように、SD−PEOのMnは0.91×103、Mw/Mnは1.09であった。SD−PEOのIRスペクトルにおいて、1100cm−1付近のエーテル結合に起因する吸収が明瞭に出現し、また1H−NMRスペクトルでは、3.5〜4.0ppm付近にEOモノマーユニットに起因するシグナルが、13C−NMRスペクトルにおいても、60ppm付近にエーテル結合の隣のスチレンモノマーユニットに起因するシグナルがそれぞれ現れた。スチレンモノマーユニットとEOモノマーユニットのモル組成比は2:17であった。
【0045】
【表2】
SD−PEO−Rfの合成結果
SD−PEO−Rfの分子量分布は単峰性であり、SD−PEOと比較して全体的に高分子量側にシフトした。表2に示されるように、そのMnは1.28×103、Mw/Mnは1.07であった。また、図4に示されるように、SD−PEO−RfのIRスペクトルにおいて、3400cm−1付近のヒドロキシル基由来のブロードな吸収が減少し、1240および1780cm−1付近にエステル基に起因する吸収、また1210cm−1付近にフッ素基に起因する吸収が現れた。
表面張力
図5にSD−PEOおよびSD−PEO−Rf水分散液の表面張力を示した。濃度の増加とともに、どちらの場合も表面張力は低下し、臨界ミセル濃度(CMC)が確認された。CMCはSD−PEOで0.3g/L付近、SD−PEO−Rfで0.1g/L付近であるが、その表面張力は、それぞれ約44および約28mN/mであった。表面張力低下に対する末端Rf基の大きな疎水性相互作用が認められた。
(B)パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)・トリブロック共重合体
【0046】
実施例3
パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体の製造1
数平均分子量(Mn)が111×103、Mw/Mnが8.39のアイソタクッチック・ポリプロピレン(mm:mr:rr=98:1:1)の高度制御熱分解による揮発生成物から蒸留、再沈殿により、数平均分子量(Mn)が1.43×103、Mw/Mnが1.11の単分散性の両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンを得た。
【0047】
得られた両末端ビニリデン基含有ポリプロピレンをTHF溶媒に分散させ、BH3−THF錯体・THF溶液を滴下し、窒素ガス雰囲気下でヒドロホウ素化した後、NaOH水溶液および過酸化水素水により酸化して、末端ビニリデン基をヒドロキシ基に変換させ、両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンを得た。
【0048】
両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレンをトルエンに溶解した溶液に触媒としてナトリウムメトキシドを分散させ、窒素ガス雰囲気下、反応温度130℃で内圧を制御しながらオレフィン重合体1モル当たり、エチレンオキシドを滴下し反応させた。得られた反応生成物をアセトン還流下に加熱した後、室温でアセトン可溶成分と不溶成分に分別した。次いでアセトン可溶成分からリサイクルGPCにより重合体を分取した。
【0049】
得られた重合体のIRスペクトルは、エチレンオキシドのエーテル結合に起因する吸収が1100cm−1に現れ、NMRスペクトルはオキシエチレンブロックのメチレンに起因するシグナル1H:3.5〜4.0ppm、13C:70〜71ppm(TMS基準)が出現し、重合体がプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体であることを確認した。
【0050】
得られたトリブロック重合体の1H−NMRの積算強度比から算出したプロピレン単位に対するオキシエチレン単位の比[(l+m)/n]は0.86であった。また、GPCによる数平均分子量(Mn)(ポリスチレン換算)は2.15×103、Mw/Mnは1.07であり、DSCによる融点(Tm)は104〜124℃であった。
【0051】
得られたトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)のGPC、DSCおよび13C−NMRによる特性評価結果を、出発原料ポリプロピレン(iPP)、両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)および両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)の評価結果と共に表3に示す。
【0052】
また、トリブロック共重合体(iPP−b−PEO)、両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)および両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)のGPC曲線を図6に、両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)およびトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)の13C−NMRスペクトルを図7に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例4
両親媒性物質としての評価1
実施例3で得られたトリブロック共重合体の両親媒性物質としての特性評価のために希薄水溶液の表面張力および水媒体中の粒径分布を測定した。
【0055】
表面張力:ジュヌーイ(du Nouy)の表面張力計を用いて20℃で測定した表面張力を、図8に示す。
【0056】
図8において縦軸は表面張力計の目盛りの読み取り値、横軸は水溶液中のトリブロック共重合体の濃度(mg/ml)を表わす。
【0057】
図8の縦軸は水を基準にした相対的な表面張力を表わすがトリブロック共重合体のわずかな量で水溶液の表面張力が大幅に低下することを示す。
【0058】
粒径分布:水性媒体中のトリブロック共重合体分散体について、He−Neレーザーによる動的光散乱光(DLS)を測定するキュムラント法により25℃で測定した粒径分布を図9に示す。
【0059】
図8および9の結果は、トリブロック共重合体の臨界ミセル濃度(c.m.c)がほぼ0.04mg/mlであることを示す。
【0060】
実施例5
パーフルオロアルキル基を有するポリプロピレン/ポリ(オキシエチレン)トリブロック共重合体の製造2
ナス型フラスコに、iPP−b−PEO(Mn:1600 Mw/Mn:1.20)を1.00g(6.5×10−4mol)、RfCOOHを1.24g(2.7×10−3mol)、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)を0.01g(5.3×10−5mol)および溶媒として20mlの蒸留トルエンを仕込んだ(iPP−b−PEO:RfCOOH:p−TSA=1:4.1:0.08(モル比)となるよう採取)。これに水分定量受器、ジムロート式冷却管、及び窒素ガス風船を装着した。生成する水を反応系外に除去しながら、反応温度140℃で、12時間反応させた。
【0061】
得られた反応溶液を24時間静置後、ろ別し、トルエン可溶成分と不溶成分に分別した。可溶成分からトルエンを留去し、得た合成混合物をクロロホルムに溶解後、リサイクル型GPCにて分離・精製し、iPP−b−PEO:Rf(Mn:1800 Mw/Mn:1.15)を得た。
【0062】
実施例6
両親媒性物質としての評価2
イソタクチックオリゴプロピレンとオリゴ(エチレンオキシド)とのトリブロックコポリマー(iPP‐b‐PEO、Mn:1.5×103、Mw/Mn:1.18)は、水分散系において巨大な分子会合体が形成され、DLSより測定した粒径は、EOセグメントの割合が増大することにより、大きくなる傾向を示した。
【0063】
図10に示されるように、このiPP−b−PEOとC8F17COOHを用いたエステル化反応における生成物のIRスペクトルにおいて、iPP−b−PEOの末端ヒドロキシル基由来の吸収(3400cm−1付近)が著しく減少し、カルボニル由来(1800cm−1付近)、及びフッ素基由来(1200cm−1付近)の吸収が新たに現れた。
【0064】
またGPCにおいて分子量の増加が認められたことから、エステル化反応によるブロック共重合体(iPP‐b‐PEO‐Rf)の生成が確認できた。iPP‐b‐PEO‐RfはiPP‐b‐PEOと同様に水に良く分散し、その状態を長時間安定に保った。
【0065】
図11に示した通り、またこの系において、iPP‐b‐PEO‐Rfの表面張力は、iPP‐b‐PEOに比較して著しく減少した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】SD−PEO−1の1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例1で得られた試料の表面張力の濃度依存性を示す。
【図3】実施例1で得られた試料のミセルの平均の濃度依存性を示す。
【図4】実施例2で得られたSD−PEO−RfのIRスペクトルを示す。
【図5】実施例2で得られた試料の25℃における表面張力の濃度依存性を示す。
【図6】実施例1で測定したGPC曲線を示す。図中、実線はトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)、鎖線は両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)、点線は両末端ビニリデン基含有ポリプロピレン(iPPV)である。
【図7】実施例1で得られた13C−NMRスペクトルであり、(a)は両末端ヒドロキシ基含有ポリプロピレン(iPPOH)、(b)はトリブロック共重合体(iPP−b−PEO)である。
【図8】トリブロック共重合体希薄水溶液の表面張力を示す。
【図9】水性媒体中のトリブロック共重合体分散体の粒径分布を示す。
【図10】実施例6にて測定された試料のIRスペクトルを示す。
【図11】実施例6にて測定された試料の25℃における表面張力の濃度依存性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を表わし、R2は−Hまたは−CH3を表わし、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)で表わされる、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である両親媒性物質。
【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、R1は、−CH3の単独または−CH3と−Hおよび/または−C2H5との混合基を表わし、R2は−Hまたは−CH3を表わし、nは15〜100の整数を、lおよびmは正の整数を表わし、(l+m)/nが0.1〜10の範囲である)で表わされる、ポリオレフィン鎖をAセグメントおよびオキシアルキレン鎖をBセグメントとするB−A−B型トリブロック共重合体である両親媒性物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−46060(P2007−46060A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279933(P2006−279933)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【分割の表示】特願2001−343123(P2001−343123)の分割
【原出願日】平成13年11月8日(2001.11.8)
【出願人】(599103731)
【出願人】(596056896)株式会社三栄興業 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【分割の表示】特願2001−343123(P2001−343123)の分割
【原出願日】平成13年11月8日(2001.11.8)
【出願人】(599103731)
【出願人】(596056896)株式会社三栄興業 (12)
【Fターム(参考)】
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