説明

ヒアルロン酸の測定方法

【課題】試料中のヒアルロン酸量を、酵素法で簡便に測定することのできる方法を提供すること。
【解決手段】試料中のヒアルロン酸量を測定するための方法であって、該試料を、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付すことと、得られた反応混合物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付すことと、これにより生じた過酸化水素に発色反応を行わせることと、を含むものである方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生化学的方法に基づく簡便なヒアルロン酸の測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N−アセチルグルコサミンとD−グルクロン酸からなる二糖類の反復単位が鎖状に結合した高分子量ムコ多糖であり、他のグリコサミノグリカンと共に生体内の結合組織中に広く分布し、特に関節液、眼球の硝子体に多量に含まれる。ヒアルロン酸は線維芽細胞で合成され、血液中を移動し、最終的に肝臓で代謝される。リウマチ性関節炎では関節でのヒアルロン酸合成が亢進する。また、肝臓の線維化が進むと肝臓の線維芽細胞によりヒアルロン酸産生が亢進し、一方で肝類洞内皮細胞の機能低下により分解機能が障害され、ヒアルロン酸の血中濃度は上昇する。このため、血中ヒアルロン酸濃度の測定は肝臓の線維化、リウマチ性関節炎などの診断に有用であるとされている。
【0003】
一方、ヒアルロン酸は皮膚の真皮基質にも含まれ、保水性を持たせる役割を担っている。加齢によるヒアルロン酸量の減少は、皮膚の弾力性、柔軟性低下の大きな要因となるため、ヒアルロン酸を補うことを目的としてそれを含有する美容製品や機能性食品が開発されつつある。
【0004】
現在、ヒアルロン酸の測定方法として、ヒアルロン酸結合性蛋白質を固相化したサンドイッチ法(特許文献1参照)や、ラテックス粒子を感作させた凝集法(特許文献2参照)が知られている。また、ヒアルロン酸に対するモノクローナル抗体が作製されこれを用いたヒアルロン酸の測定法が特許出願されている(特許文献3参照)。このように、結合性蛋白や抗体など、ヒアルロン酸に結合する高分子化合物を用いた免疫学的方法に準じた測定法が開発されているものの、酵素法により簡単に測定できる方法は知られていなかった。
【0005】
「ヒアルロニダーゼ」は、ヒアルロン酸分解酵素の総称であり、分解の部位(グルクロニド結合かN−アセチルグルコサミニド結合か)と反応の仕方(加水分解反応、もしくは脱離反応で分解が起こる)における相違に基づいて、複数の酵素、ヒアルログルコサミニダーゼ(EC 3.2.1.35)、ヒアルログルクロニダーゼ(EC 3.2.1.36)、及びヒアルロン酸リアーゼ(EC 4.2.2.1)に分類されている。ヒアルログルコサミニダーゼ(EC 3.2.1.35)は、ヒアルロン酸鎖中のN−アセチルグルコサミンがグルクロン酸にβ1→4結合したヘキソサミニド結合を加水分解する酵素であり、これによる最小の分解生成物は四糖類である。ヒアルログルクロニダーゼ(EC 3.2.1.36)は、ヒアルロン酸鎖中のβ1→3グルクロニド結合を加水分解する酵素であり、これによる最小の分解生成物は四糖類である。ヒアルロン酸リアーゼ(EC 4.2.2.1)は、ヒアルロン酸をβ脱離反応により分解し、C−4とC−5の間に二重結合を有する不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を非還元末端に有するオリゴ糖を生成する。この酵素で放線菌由来のものは、ヒアルロン酸のβ1→4グルコサミニド結合を脱離的に切断し、非還元末端に不飽和ウロン酸を有するオリゴ糖を生じ、最小の分解生成物は、4糖である。また、ヒアルロン酸リアーゼ(EC 4.2.2.1)のうち連鎖球菌由来のものは、ヒアルロニダーゼSDと呼ばれるが、ヒアルロン酸のβ1→4グルコサミニド結合を脱離的に切断し、非還元末端に不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を有する二糖類を最小の分解生成物として与える。
しかしながら、ヒアルロン酸の定量におけるヒアルロニダーゼの利用は知られておらず、ヒアルロニダーゼによるヒアルロン酸の分解産物の簡便な定量法についても知られていなかった。
【特許文献1】特許第2732718号
【特許文献2】特開平11−14628号
【特許文献3】特開2004−208693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の背景において、本発明は、試料中のヒアルロン酸量を、酵素法でより簡便に測定することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の達成に向けた検討において、本発明者等は、ヒアルロン酸を特定のヒアルロニダーゼで分解して得られる分解物(ヒアルロン酸のβ1→4グルコサミニド結合の脱離的切断により非還元末端に不飽和ウロン酸を有する二糖類)を、意外にも、特定の単糖類(N−アセチルグルコサミンやN−アセチルガラクトサミン等)をその基質とする酵素N−アシルヘキソサミンオキシダーゼが酸化すること、及び、その酸化反応が、当該二糖類について定量的に進行し、当該二糖類の1分子当たり1分子の過酸化水素を生ずることを見出した。本発明者等は、これらの知見に基づき、特定のヒアルロニダーゼでヒアルロン酸を分解する反応と、その分解物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼにより酸化する反応とを組み合わせ、反応全体の進行に伴い生ずる過酸化水素により発色剤を発色させ、反応混合物の吸光度増加を測定することで、試料中に含まれるヒアルロン酸量を定量的に測定できることを見出し、更に検討を加えて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1)試料中のヒアルロン酸量を測定するための方法であって、該試料を、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付すことと、得られた反応混合物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付すことと、これにより生じた過酸化水素に発色反応を行わせることと、を含むものである方法。
(2)該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応と該N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応とを、同一の反応混合物中で、両反応が同時に進行することを許容する条件下に行わせるものである、上記1の方法。
(3)該発色反応が、反応混合物中に加えられたペルオキシダーゼ及び発色剤と過酸化水素との反応によるものである、上記1又は2の方法。
(4)該試料を、該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付す第1工程と、得られた反応混合物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付し、生じた過酸化水素にペルオキシダーゼ及び発色剤の存在下に発色反応を行わせる第2工程とを含むものである、上記1ないし3の何れかの方法。
(5)該試料を、ペルオキシダーゼとの存在下に、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付す第1工程と、得られた反応混合物をペルオキシダーゼと該発色剤の存在下に該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応及びN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付して、生じた過酸化水素に発色反応を行わせる第2工程と、を含んでなる上記1ないし3の何れかの方法。
(6)該発色剤が、4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とからなるものであるか、又は、O−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物である、上記3ないし5の何れかの方法。
(7)該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、上記6の方法。
(8)N−アシルヘキソサミンオキシダーゼと、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼとを含有することを特徴とする、ヒアルロン酸測定用試薬。
(9)更に、ペルオキシダーゼ及び/又は発色剤を含有することを特徴とする、上記7のヒアルロン酸測定用試薬。
(10)該発色剤が4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とからなるものであるか、又は、O−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物である、上記9のヒアルロン酸測定用試薬。
(11)該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、上記10のヒアルロン酸測定用試薬。
(12)N−アシルヘキソサミンオキシダーゼを含有する第1の試薬と、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼを含有する第2の試薬とを含んでなる、ヒアルロン酸測定用試薬キット。
(13)該第1の試薬がペルオキシダーゼを更に含有し、且つ、該第1の試薬及び該第2の試薬がそれぞれ4−アミノアンチピリン及びトリンダー試薬の何れか一方を含有するか、又は該第1の試薬及び該第2の試薬の少なくとも一方がO−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物を更に含有することを特徴とする、上記12のヒアルロン酸測定用試薬キット。
(14)該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、上記13のヒアルロン酸測定用試薬キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血清、血漿等の生体試料、食品、医薬品その他の試料中のヒアルロン酸量の、比色法による簡単な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、試料中のヒアルロン酸を、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付すことによって、非還元末端に不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を有する二糖類を生成させる反応と、こうして生じた二糖類をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼで酸化して過酸化水素を生成させる反応、及び、生じた過酸化水素によりペルオキシダーゼの存在下で発色剤を発色させる反応は、同一の反応混合物中で、同時に並行して行うことができる。従って、当該ヒアルロン酸リガーゼ、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び発色剤を含有する溶液(好ましくは水溶液)と試料とを混合し所定時間反応させて発色させ、その間の反応混合物の吸光度増加を測定し、例えばヒアルロン酸の標準品を用いて作成した検量線との対比から、試料中のヒアルロン酸量を求めることができる。定量には、発色反応の終点を用いるのが好ましいが、反応初速度を用いてもよい。
【0011】
また、本発明において、ヒアルロン酸量の測定は、試料を上記ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付して分解を行わせる第1工程と、生じた分解物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応及びペルオキシダーゼと発色剤とによる発色反応に付す第2工程とに分けて行ってもよい。
【0012】
更には、生体試料(例えば、血清、血漿)その他において、ヒアルロン酸の分解物として非還元末端に不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を有する二糖類が含有される可能性が排除できない場合には、試料を先ずN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付す第1工程で当該二糖類を予め酸化した上で、反応混合物(N−アシルヘキソサミンオキシダーゼを含有する)に上記ヒアルロン酸リアーゼを加えてヒアルロン酸の分解、分解物の酸化、及び生じた過酸化水素による発色反応を行う第2工程を行うことが好ましい。この場合発色剤は、第1工程及び第2工程の何れの反応混合物に加えておいてもよく、また、発色剤が4−アミノアンチピリン及びトリンダー試薬等のように2種の化合物から構成される場合、一方の化合物を第1工程の反応混合物に加えておき、他方の化合物を第2工程において反応混合物に添加してもよい。
【0013】
本発明において用いられる、ヒアルロン酸を二糖類まで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼ(EC 4.2.2.1)としては、例えば連鎖球菌由来のものであるヒアルロニダーゼSDを挙げることができる。これに対し、同じヒアルロン酸リアーゼ(EC 4.2.2.1)に属するがヒアルロン酸を最小四糖類までにしか分解できないヒアルロニダーゼ(放線菌由来のものである)は、本発明において使用できない。本発明の過程で本発明者等が見出したところによれば、放線菌由来ヒアルロニダーゼによるヒアルロン酸分解物は、非還元末端に不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を有するものの、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化を全く受けないためである。
【0014】
本発明において、ヒアルロニダーゼSD等の、ヒアルロン酸を二糖類まで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼと試料とを接触させるとき、該酵素の使用濃度は適宜であってよい。通常、0.05 U/mL付近の濃度で使用すればよいが、これに限定されない。また該酵素の至適pHは5.8〜6.6であるが、このpH範囲から幾分離れても反応は十分に進行するものであり、反応溶液は、例えばpH5.0〜8.0とすることができる。反応温度、反応時間に特に限定はないが、通常は、約37℃にて約5分間行えばよい。
【0015】
本発明において、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼの使用濃度は適宜であってよい。通常、15U/mL付近の濃度で使用すればよいが、これに限定されない。またN−アシルヘキソサミンオキシダーゼの至適pHは8.0であるが、これから離れても反応は十分に進行するものであり、反応溶液は、例えばpH4.0〜10.0とすることができる。またpH5.0〜9.0、或いは5.0〜8.5の範囲に設定しておいてもよい。反応温度、反応時間に特に限定はないが、通常は、約37℃にて約5分間行えばよい。
【0016】
本発明において、ペルオキシダーゼの使用濃度も適宜であってよく、通常は5U/mL付近の濃度で使用すればよいが、これに限定されない。またN−アシルヘキソサミンオキシダーゼやヒアルロン酸リアーゼが作用する何れのpHにおいても、ペルオキシダーゼは十分な活性を発揮する。
【0017】
本発明において、発色剤は、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に伴って生じる過酸化水素を測定するためのものである。過酸化水素の定量に用いる発色剤は種々のものが周知でありそれらを適宜用いればよく、特に限定されない。より具体的には、好ましい発色剤の例として、種々のトリンダー試薬をカップラー試薬と組み合わせて用いることができる。カップラー試薬としては好ましくは4−アミノアンチピリンが用いられ、トリンダー試薬としては、好ましくは、ADOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン]、DAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、HDAOS[N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、MAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン]、TOOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン]等が用いられる。また、発色剤としては、カップラー試薬を必要としない、O−トリジン、O−ジアニシジン、DA−67[10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム、和光純薬工業(株)製]、TPM−PS[N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩、同仁化学研究所]などのロイコ型発色試薬も同様に用いることができる。
【0018】
本発明は、ヒアルロン酸測定用試薬をも提供し、該試薬は、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼ(例えばヒアルロニダーゼSD)とN−アシルヘキソサミンオキシダーゼとを共に含有する試薬であることができる。この場合、試料中のヒアルロン酸量の測定に際しては、試料を含有する反応混合物に、当該試薬及びペルオキシダーゼ、発色剤を添加すればよい。該試薬は、pH5.0〜8.0に調整させる緩衝剤(例えばリン酸緩衝剤)を適宜の量で含んでいることができ、また、溶液状態でも凍結乾燥物としても提供することができる。上記試薬は、更に、ペルオキシダーゼ及び/又は発色剤をも含有する試薬として提供してもよい。
【0019】
本発明はまた、2つの部分よりなるヒアルロン酸測定用試薬キットをも提供し、該キットは、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼを含有する第1の試薬と、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼを含有する第2の試薬とを含んでなる。第1の試薬は、更にペルオキシダーゼを含有することが好ましく、第1の試薬及び第2の試薬の少なくとも一方が発色剤を含有するものであることがより好ましい。発色剤が4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とから構成される場合には、一方を第1の試薬が、他方を第2の試薬がそれぞれ含有するものとしてもよい。2つの部分よりなるヒアルロン酸測定用キットは、試料を先ず第1の試薬と反応させて試料中にヒアルロン酸の分解物として存在するおそれのある、非還元末端に不飽和グルクロン酸(β−D−グルコ−4−エノピラノシルウロン酸)残基を有する二糖類を予めN−アシルヘキソサミンオキシダーゼにより酸化して、その上で第2の試薬を加えてヒアルロン酸の分解及びN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化、ペルオキシダーゼと発色剤による発色反応を行わせるという仕方で使用することにより、第2の試薬の添加直後の発色をベースラインとして、所定時間後(通常は反応完了後)の反応混合物の発色の増大を測定することができ、試料中に元々そのような二糖類が存在していたとしてもそれによるノイズを除去して、ヒアルロン酸量を正しく測定することを可能にする。
【0020】
本発明のヒアルロン酸測定用試薬で測定することのできる試料としては、ヒアルロン酸を含むと考えられる試料であれば特に限定はなく、例えば、生体試料(血清、血漿、血液、尿、髄液など)、食品試料、医薬品試料を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、本発明がそれら実施例により限定されることは意図しない。
【0022】
〔実施例1〕 蒸留水をベースとした試料の測定
(1)反応溶液1(第1試薬)の調製
以下の組成の試薬を調製した。
100mmol/Lリン酸緩衝液(pH 6.8)中、4−アミノアンチピリン288μmol/L、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(キッコーマン株式会社製)9U/ml及びN−アシルヘキソサミンオキシダーゼ(キッコーマン株式会社製)14.5 U/ml。
(2)反応溶液2(第2試薬)の調製
以下の組成の試薬を調製した。
100mmol/Lリン酸緩衝液(pH 6.2)中、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)6.5 mmol/L及びヒアルロニダーゼSD(生化学工業株式会社製)0.055U/mL。
(3)試料の調製
ヒアルロン酸ナトリウム(SIGMA社製)を10mmol/Lとなるように蒸留水に溶解した。これを,蒸留水を用いて、1.0、0.8、0.5、0.3及び0.1mmol/Lに調製した。ヒアルロン酸ナトリウム0mmol/Lの試料として蒸留水を用いた。
(4)測定
それぞれの試料10μLに第1試薬を200μL加え、37℃で5分間反応させた。これに第2試薬を50μL加えて37℃で5分間反応させ、その時の主波長546nm、副波長660nmでの、第2試薬添加直後と反応終了時の吸光度変化量を測定した。7170形自動分析装置(日立社製)を用いた測定結果を図1に示す。その結果、測定された吸光度は、ヒアルロン酸濃度に比例した直線関係を有していた。
【0023】
〔実施例2〕 血清をベースとした試料中のヒアルロン酸量の測定−1
(1)試料の調製
10mmol/Lのヒアルロン酸水溶液を、プール血清(SIGMA社製)を用いて、1.0、0.8、0.5、0.3及び0.1mmol/Lに調製した。水成分と血清成分の割合を全て同一にした。ヒアルロン酸ナトリウム0mmol/Lの試料として、蒸留水と血清とを他の試料と同じ割合で混合したものを用いた。
(2)測定
実施例1の各試薬を用い、血清試料のヒアルロン酸測定を実施例1と同様にして行った。測定結果を図2に示す。図は、血清をベースとした試料中のヒアルロン酸についても、測定された吸光度がヒアルロン酸濃度に比例し直線関係を有することを示している。
【0024】
〔実施例3〕 血清をベースとした試料中のヒアルロン酸量の測定−2
(1)反応溶液3(第1試薬)の調製
以下の組成の試薬を調製した。
100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH 6.8)中、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(キッコーマン株式会社製)9U/ml及びN−アシルヘキソサミンオキシダーゼ(キッコーマン株式会社製)14.5U/ml。
(2)反応溶液4(第2試薬)の調製
以下の組成の試薬を調製した。
100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH 6.2)中、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(DA−67)0.5mmol/L及びヒアルロニダーゼSD(生化学工業株式会社製)0.055U/mL。
(9)測定
上記第1試薬(反応溶液3)及び第2試薬(反応溶液4)を用い、血清試料のヒアルロン酸測定を実施例1と同様にして行った。測定結果を図3に示す。図は、やはり血清をベースとした試料中のヒアルロン酸について、ロイコ型発色試を用いて測定された吸光度も、ヒアルロン酸濃度に比例し直線関係を有することを示している。
【0025】
〔実施例4〕
反応混合物中におけるN−アシルヘキソサミンオキシダーゼ(NAHO)及びヒアルロニダーゼSDの濃度をそれぞれ変えて、ヒアルロン酸量の測定を試みた。
ヒアルロニダーゼSDの濃度を0.055〜0.15U/mL、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼの濃度を1.45〜14.5U/mLとした以外は、実施例1と同様にして、蒸留水に溶解させたヒアルロン酸量を測定した。結果を表1〜3及び図4に示す。表1は、NAHO:1.45U/mL及びヒアルロニダーゼSD:0.15U/mL(群I)、表2は、NAHO:7.25U/mL及びヒアルロニダーゼSD:0.055U/mL(群II)、表3は、NAHO:14.5U/mL及びヒアルロニダーゼSD:0.055U/mL(群III)における、ヒアルロン酸測定値(吸光度)をそれぞれ示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表1〜3及び図4は、酵素濃度を上記のように変更した場合でも、吸光度はヒアルロン酸濃度に比例し直線関係を有することを示している。
【0030】
〔比較例1〕
ヒアルロニダーゼSDの代わりに放線菌由来ヒアルロニダーゼ(天野エンザイム製)10TRU/mLを用いた以外は実施例1又は2と同様にして、蒸留水又は血清に溶解させたヒアルロン酸量を測定した。結果を表4(蒸留水)及び表5(血漿)並びに図5に示す。
なお、TRU(turbidity reducing unit)とは、初期濃度に対して50%にまで濁度を減少させる酵素量として定義される。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
表4及び5並びに図5に示すように、放線菌由来ヒアルロニダーゼを用いた場合には、ヒアルロン酸量と測定値(吸光度)とは全く相関がなかった。これは、放線菌由来ヒアルロニダーゼによるヒアルロン酸分解物(四糖類を最小とし、六糖類を含む)は、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼと全く反応していないためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、比色法に基づいて試料中のヒアルロン酸量の簡単な測定を可能にするため、血清、血漿等の生体試料や食品、医薬品その他の試料中のヒアルロン酸量の測定のための方法及び試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1における、水溶液中のヒアルロン酸量と反応混合物の吸光度との関係を示すグラフ
【図2】実施例2における、血清中のヒアルロン酸量と反応混合物の吸光度との関係を示すグラフ
【図3】実施例3における、血清中のヒアルロン酸量と反応混合物の吸光度との関係を示すグラフ
【図4】実施例4における、水溶液中のヒアルロン酸量と反応混合物の吸光度との関係を示すグラフ
【図5】比較例1における、水溶液中及び血清中のヒアルロン酸量と放線菌由来ヒアルロニダーゼを用いた反応後の反応混合物の吸光度との関係を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のヒアルロン酸量を測定するための方法であって、該試料を、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付すことと、得られた反応混合物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付すことと、これにより生じた過酸化水素に発色反応を行わせることと、を含むものである方法。
【請求項2】
該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応と該N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応とを、同一の反応混合物中で、両反応が同時に進行することを許容する条件下に行わせるものである、請求項1の方法。
【請求項3】
該発色反応が、反応混合物中に加えられたペルオキシダーゼ及び発色剤と過酸化水素との反応によるものである、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
該試料を、該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応に付す第1工程と、得られた反応混合物をN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付し、生じた過酸化水素にペルオキシダーゼ及び発色剤の存在下に発色反応を行わせる第2工程とを含むものである、請求項1ないし3の何れかの方法。
【請求項5】
該試料を、ペルオキシダーゼとの存在下に、N−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付す第1工程と、得られた反応混合物をペルオキシダーゼと該発色剤の存在下に該ヒアルロン酸リアーゼによる分解反応及びN−アシルヘキソサミンオキシダーゼによる酸化反応に付して、生じた過酸化水素に発色反応を行わせる第2工程と、を含んでなる請求項1ないし3の何れかの方法。
【請求項6】
該発色剤が、4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とからなるものであるか、又は、O−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物である、請求項3ないし5の何れかの方法。
【請求項7】
該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、請求項6の方法。
【請求項8】
N−アシルヘキソサミンオキシダーゼと、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼとを含有することを特徴とする、ヒアルロン酸測定用試薬。
【請求項9】
更に、ペルオキシダーゼ及び/又は発色剤を含有することを特徴とする、請求項7のヒアルロン酸測定用試薬。
【請求項10】
該発色剤が4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とからなるものであるか、又は、O−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物である、請求項9のヒアルロン酸測定用試薬。
【請求項11】
該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、請求項10のヒアルロン酸測定用試薬。
【請求項12】
N−アシルヘキソサミンオキシダーゼを含有する第1の試薬と、ヒアルロン酸を二糖類にまで分解することのできるヒアルロン酸リアーゼを含有する第2の試薬とを含んでなる、ヒアルロン酸測定用試薬キット。
【請求項13】
該第1の試薬がペルオキシダーゼを更に含有し、且つ、該第1の試薬及び該第2の試薬がそれぞれ4−アミノアンチピリン及びトリンダー試薬の何れか一方を含有するか、又は該第1の試薬及び該第2の試薬の少なくとも一方がO−トリジン、O−ジアニシジン、10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム及びN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩よりなる群より選ばれる化合物を更に含有することを特徴とする、請求項12のヒアルロン酸測定用試薬キット。
【請求項14】
該トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン及びN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンよりなる群より選ばれる化合物である、請求項13のヒアルロン酸測定用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−228896(P2007−228896A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55540(P2006−55540)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(000231394)アルフレッサファーマ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】