説明

ヒアルロン酸生成増強剤

【課題】毒性が無く、かつ、細胞において優れたヒアルロン酸生成増強効果を示すヒアルロン酸生成増強剤を提供する。
【解決手段】グルコサミン成分として、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種、及び、併用成分として、ガラクチュロン酸又はその塩、グルクロン酸若しくはその塩及びグルクロノラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有するヒアルロン酸生成増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸生成増強剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸 はN−アセチルグルコサミン とグルクロン酸の二糖単位が連結した構造をしており、皮膚、関節液及び眼の硝子体など生体に広く分布し、例えば皮膚においてはハリ及びその弾力性の維持等に、また関節液においては潤滑性の保持等に重要な役割を果たしている。また、ヒアルロン酸は保水性に極めて優れているため化粧品等にも使用され、また、関節炎のための医薬品等としても使用されている。また、健康食品などとしても摂取されている。しかしながらヒアルロン酸は皮膚などから吸収されず、また、経口摂取してもそのままは吸収され難い。また、生体内では、分子量が100万以上の高分子量であると言われている。
そして、ヒアルロン酸の生体内での合成は一定の年齢を過ぎると年齢とともに減少することが知られている。そのため、ヒアルロン酸の生体内での合成を促進することは皮膚の老化防止や関節等の機能維持に非常に重要と考えられ、そのような物質の探索が種々なされている。例えば、生体組織または培養細胞でヒアルロン酸の合成を促進する物質の例としては、N−アセチルグルコサミン(特開2001−2551)やN−アセチルグルコサミン誘導体(特開2004−51579)が、また、海藻の抽出物(特開平10−182402など)が知られている。
一方、ガラクチュロン酸はペクチンの主要構成成分であり、食品添加物等としても使用されているが、ヒアルロン酸生成増強作用は全く知られていない。
また、グルクロン酸は生体内においてグルクロン酸抱合等により、解毒作用を有することが知られており、グルクロン酸またはその塩は医薬品などとして使用されている。また、グルクロン酸の前駆体であるグルクロノラクトンは健康食等として経口摂取されている。しかしながら、グルクロン酸およびその塩またはグルクロノラクトンがグルコサミンの生成を促進する作用は知られていない。
【特許文献1】特開2001−2551
【特許文献2】特開2004−51579
【特許文献3】特開平10−182402
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ヒト等の温血動物が安全に摂取することができ、かつ、ヒアルロン酸産生細胞において優れたヒアルロン酸生成増強効果を示すヒアルロン酸生成増強剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は種々検討の結果、健康食品などとして摂取されているグルコサミンと、ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩またはグルクロノラクトンを併用することにより、ヒアルロン酸合成細胞、例えば滑膜細胞におけるヒアルロン酸合成が顕著に増強されることを見いだし、本発明を完成した。
【0005】
即ち本発明は
(1)(a)グルコサミン又はその塩(以下グルコサミン成分ともいう)、及び、(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩及びグルクロノラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一種(以下場合により併用成分ともいう)を有効成分として含有するヒアルロン酸生成増強剤、
(2)グルコサミン塩及びガラクチュロン酸若しくはその塩又はグルクロノラクトンを有効成分として含有する上記(1)に記載のヒアルロン酸生成増強剤、
(3)グルコサミン若しくはその塩、及び、ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩またはグルクロノラクトンを含有した飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤、
(4)グルコサミン塩及びガラクチュロン酸若しくはその塩又はグルクロノラクトンを含有した上記(3)に記載の飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤、
に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明で使用するグルコサミン成分であるグルコサミン若しくはその塩、及び併用成分であるガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩又はグルクロノラクトンは何れも毒性、副作用等もなく、かつ、両者を併用することにより、ヒアルロン酸産生細胞のヒアルロン酸生成を著しく増強することから、経口摂取により、加齢等により減少した生体内のヒアルロン酸生成を増強し、皮膚や関節等における機能を改善できる可能性があり、ヒアルロン酸生成増強剤として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を以下により詳しく説明する。
本発明は(a)グルコサミン若しくはその塩と、もう一つの成分、(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩及びグルクロノラクトンからなる群から選ばれる一種を併用するところに特徴があり、両者を併用することにより、細胞でのヒアルロン酸の合成が著しく増強される。
本発明において グルコサミン成分と併用成分の割合は、通常グルコサミン成分1モルに対して、併用成分を0.01〜4モル程度の割合、好ましくは0.05〜2モル程度の割合が好ましい。更に好ましくは通常グルコサミン成分1モルに対して、併用成分が0.07〜1.5モル程度の割合である。
【0008】
本発明で使用されるグルコサミン成分は、遊離のグルコサミン又はその塩の何れも使用できるが安定性などの点から、グルコサミン塩が好ましい。グルコサミン塩としては薬理学的に許容されるものであれば特に制限はなく、無機酸塩、有機酸塩いずれも使用できる。一般的には硫酸塩もしくは塩酸塩等の無機塩、酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩等の有機酸塩が使用され、本発明においては塩酸塩若しくはクエン酸塩等が好ましい。入手のし易さ等の点からはグルコサミン塩酸塩が最も好ましい。
本発明における併用成分としては、ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩又は/及びグルクロノラクトンを挙げることができ、ガラクチュロン酸の塩又はグルクロン酸の塩としては薬理学的に許容される塩であれば、特に制限はなく、無機塩基との塩又は有機塩基との塩いずれも使用できる。一般的にはナトリウム塩などのアルカリ金属塩が使用され、ナトリウム塩等が好ましい。併用成分としては好ましいものはフリーのガラクチュロン酸又はグルクロン酸若しくはそのアルカリ金属塩、又は/及びグルクロノラクトンであり、最も好ましくはグルクロノラクトンである。
【0009】
本発明におけるヒアルロン酸生成増強剤は有効成分のみでもよいが、必要に応じて坦体、賦形剤、助剤(嬌味剤、香料、甘味料、結合剤)等の医薬用又は食品用等に使用される添加剤と共に常法に従って、混合又は/及び製剤化されていてもよい。製剤としては液剤又は固形剤のいずれでもよい。例えばドリンク剤、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、ゼリー剤等の製剤を挙げることができる。坦体又は賦形剤としては、水、糖類、などの医薬製剤または健康食品に用いられる賦形剤又は/及び担体等を挙げることが出来る。
【0010】
ヒアルロン酸生成増強剤における有効成分(グルコサミン成分と併用成分)の含量は特に限定はなく、通常0.05%(質量%:以下同じ)以上、好ましくは1%以上で、最大100%までよい。ヒアルロン酸生成増強剤が、飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤の場合、通常有効成分が飲食品用担体若しくは飲食品などと共に、加工若しくは製剤化される。その有効成分含量は該組成物中に、0.01〜100%、好ましくは0.05〜50%程度、より好ましくは0.1〜30%、更に好ましくは1〜20%程度である。該組成物は、一般的な健康食品などとして摂取することも、また、ヒアルロン酸生成増強剤入り食品などとして摂取することも出来る。
飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤において、本発明の有効成分を混合しうる飲食物は特に限定されず、牛乳などの乳飲料、ドリンク剤等の飲料やハム、ソーセージ等の食物などを挙げることが出来る。
これらの食品に対する本発明の有効成分の含量は、グルコサミン成分が通常食品全体に対して0.01% 以上、好ましくは0.05% 以上、更に好ましくは0.1%以上であり、上限は特に無いが味覚等の点から通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは4% 以下であり、併用成分が、該グルコサミン成分に対して、前記割合で含まれるようにすればよく、好ましくは通常食品全体に対して0.01% 以上、好ましくは0.05% 以上、更に好ましくは0.1%以上であり、上限は味覚等の点から通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは4% 以下である。
【0011】
本発明でのグルコサミン成分の摂取量は、たとえばグルコサミン塩酸塩の場合、通常成人当たり1日0.3g以上、より好ましくは0.5g以上、更に好ましくは1g以上で、上限は毒性もほとんどないので特に制限はないが、通常20g以下、好ましくは10g以下、更に好ましくは5g以下程度である。グルコサミン成分がグルコサミン塩酸塩以外のものであるときは、塩酸塩に換算したときの摂取量が上記範囲になるようにすればよい。併用成分は、該グルコサミン成分に対して、前記割合で含まれるようにすればよい。
ヒト以外の温血動物に投与又は摂食させる場合には、該グルコサミン成分が、グルコサミン塩酸塩の場合で、1mg〜5g/kg・day、好ましくは10mg〜2g/kg・day程度となるように摂食させるのが好ましく、グルコサミン成分がグルコサミン塩酸塩以外のものであるときは、塩酸塩に換算したときの摂取量が上記範囲になるようにすればよい。また、併用成分は、該グルコサミン成分に対して、前記割合で含まれるようにすればよい。
【0012】
また、ヒアルロン酸生成細胞若しくはヒアルロン酸生成微生物等の培養液に添加するときは、本発明のヒアルロン酸生成増強剤を、培養液中に0.01〜10mM/L濃度、好ましくは0.05〜5mM/L濃度、より好ましくは0.1〜4mM/L濃度、更に好ましくは0.2〜4mM/L濃度となるように添加するのが好ましい。この場合の、グルコサミン成分と併用成分の割合は前記の割合でよいが、好ましくはグルコサミン成分が0.01〜2mM/L濃度程度、より好ましくは0.1〜2mM/L濃度程度、 併用成分が0.05〜2mM/L濃度程度である。
本発明のヒアルロン酸生成増強剤は、ヒアルロン酸生成促進のために、そのまま服用若しくは健康食品等として経口摂取することができる。また、ヒアルロン酸産生微生物若しくはヒアルロン酸産生細胞等の培養液中に、添加して、それらでのヒアルロン酸生成を増強することもできる。従って、本発明においては、これらの目的で使用される限り、有効成分のみの混合物、賦形剤などを混合して製剤化したもの、また飲食品などと混合したもの何れをも含むものである。
本発明のヒアルロン酸生成増強剤は通常ヒトを含む温血動物に経口摂取させればよいが、場合により、経口以外の方法で投与してもよい。該投与方法は特に限定されず、注射、経腸その他経皮等いずれの方法でも可能である。通常は経口摂取させるのが最も好ましい。
【実施例】
【0013】
次に、本発明を実施例により、具体的に説明する。
実施例1
滑膜細胞CS-ABI-479(ACBRI Cell Certificate より入手)を10%牛胎児血清を含むCSC培地(大日本住友製薬製 CS-C培地)を用いて培養・維持した。
該滑膜細胞をコラーゲン(I型)コートした24ウェルプレートに播種し(1ウェル当り、10%FBS入りCSC培地500μl/ウェルに細胞 5×104cell/ウェルを植え込む)、24時間培養した後、培地を交換して新しくした。
そこに、グルコサミン塩酸塩(Wako社製)、D(+)-ガラクチュロン酸一水和物(Wako社製)、D(+)-グルクロノラクトン(Wako社製)及びD-グルクロン酸(キシダ化学株式会社製)の各種の試薬を、それぞれ単独、及び、グルコサミン塩酸塩と他の各成分との併用で、添加し、その後24時間培養した後、上清50μlをサンプリングし、ヒアルロン酸測定キット(生化学工業株式会社製)で定量した。
なお各試薬は、リン酸緩衝液(PBS)で溶解し、それぞれ10mM、100mM及び1000mM濃度に調製し、該各試薬を各ウェルに5μlづつ添加し(培地量は500μl)、それぞれ単独の場合には、それぞれに付き、培地全体の最終濃度が、0.1mM、1mM及び10mM濃度となるように、3種類を作成した。
また、グルコサミン塩酸塩と他の各成分との併用については、グルコサミン塩酸塩濃度を、1mM濃度に固定し、併用成分については、0.1mM及び1mMの2種類の濃度で併用した。
その結果を下表に示す。
【0014】

【0015】
上表から明らかなように、グルコサミン塩酸塩(単独)でも1mM濃度の添加ではヒアルロン酸生成量がある程度上昇しているが、ガラクチュロン酸単独の場合は、添加することにより、ヒアルロン酸生成量がむしろ減少している。しかしながら、グルコサミン塩酸塩とガラクチュロン酸を併用した場合は、グルコサミン塩酸塩単独の場合に比して、著しくヒアルロン酸生成量が向上していることが判る。グルクロノラクトンの場合は、単独の1mMで、ヒアルロン酸生成量が向上しているが、グルコサミン塩酸塩とグルクロノラクトンを併用した場合は、両者の相加効果をしのぐ、相乗効果が達成されている。また、グルクロン酸の場合においても、単独の0.1mM及び1mMで、ヒアルロン酸生成量が向上しているが、グルコサミン塩酸塩とグルクロン酸の併用においては、両者の相加効果をしのぐ、相乗効果が達成されている。
【産業上の利用可能性】
【0016】
上記から明らかなように、本発明においては、グルコサミン成分と特定の併用成分を、併用することで、ヒアルロン酸産生細胞におけるヒアルロン酸生成量を著しく向上させることができるもので、ヒアルロン酸生成増強剤として有用であり、医薬、健康食品及び食品添加物などとして有用である。また、本発明における有効成分を添加された食品又は本発明におけるヒアルロン酸生成増強剤を摂取することにより、加齢により減少する細胞におけるヒアルロン酸生成能を増強させ、ヒアルロン酸生成量を向上させ、ヒアルロン酸の減少により生ずる種々の機能障害等を改善できる可能性がある。また、ヒアルロン酸産生細胞又はヒアルロン酸産生微生物の培地に、本発明のヒアルロン酸生成増強剤を添加することにより、培養細胞若しくは培養微生物におけるヒアルロン酸生成を著しく増強することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グルコサミン又はその塩、及び、(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩及びグルクロノラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有するヒアルロン酸生成増強剤。
【請求項2】
(a)グルコサミン塩及び(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩又はグルクロノラクトンを有効成分として含有する請求項1に記載のヒアルロン酸生成増強剤。
【請求項3】
(a)グルコサミン又はその塩、及び、(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩、グルクロン酸若しくはその塩またはグルクロノラクトンを含有した飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤。
【請求項4】
(a)グルコサミン塩及び(b)ガラクチュロン酸若しくはその塩又はグルクロノラクトンを含有した請求項3に記載の飲食品用ヒアルロン酸生成増強剤。

【公開番号】特開2008−308430(P2008−308430A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156997(P2007−156997)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(391003130)甲陽ケミカル株式会社 (17)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【Fターム(参考)】