説明

ヒスタミン遊離抑制剤

【課題】安全性の高い天然抽出物を有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤を提供する。
【解決手段】ヒスタミン遊離抑制剤の有効成分として、クマツヅラからの抽出物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クマツヅラの抽出物を有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満細胞は炎症や免疫反応などの生体防御反応において重要な役割を持つ。肥満細胞のなかにはヒスタミンやβ−ヘキソサミニダーゼが蓄えられており、細胞表面に結合したIgEと抗原が結合するとそれらを同時に放出することが知られている(脱顆粒)。ヒスタミンの遊離は生体防御反応においてなくてはならない現象であるが、過剰量遊離するとアレルギーなどを引き起こす。
【0003】
皮膚においてヒスタミンは血管を拡張させ紅斑を形成し、血管透過性の亢進により蛋白質を含む血漿成分を血管外に漏出させ浮腫を引き起こす。また真皮表層では、C線維上のH1受容体に結合し、痒みを引き起こす。またヒスタミンは、表皮メラノサイトに存在するH2受容体を介してメラノサイトを刺激し、色素沈着を引き起こすことが知られている(非特許文献1,2参照)。
【0004】
そのため掻痒、肌荒れ、敏感肌、色素沈着の原因にヒスタミンの過剰遊離が知られており、上記の皮膚トラブルを予防改善する方法の一つとしてヒスタミンの過剰遊離を抑制することが重要である。
【0005】
ところで、一般的に植物抽出物は安全性が高いことが知られている。抽出物がヒスタミン遊離抑制作用を有する植物としては、ヤマモモ、アラカシ、クヌギ、コナラ(特許文献1)、コウジュ(特許文献2)、ガラナ(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−281220号公報
【特許文献2】特開2009−7328号公報
【特許文献3】特開2010−70531号公報
【特許文献4】特開平7−17846号公報
【特許文献5】特表2004−532811号公報
【特許文献6】特表2004−529079号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】フレグランスジャーナル 臨時増刊 No.18, 22〜29頁
【非特許文献2】Journal of Investigative Dermatology(2000) 114, 334-342
【非特許文献3】日本農芸化学会大会講演要旨集巻:2007頁:122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性の高い天然物の中からヒスタミン遊離抑制作用を有するものを見出し、それを有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、様々な植物抽出物を用いて鋭意研究を重ねてきた結果、クマツヅラの抽出物がヒスタミン遊離抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、クマツヅラ抽出物を有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤である。
【0010】
なお、クマツヅラ抽出物には抗炎症作用があることが知られているが(非特許文献3、特許文献4,5,6参照)、これらの文献にはヒスタミン遊離抑制作用については言及されていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、食用としても用いられるクマツヅラからの抽出物を有効成分として含有し、安全性に優れたヒスタミン遊離抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のヒスタミン遊離抑制剤は、クマツヅラからの抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本発明のヒスタミン遊離抑制剤に用いることのできるクマツヅラは、クマツヅラ科クマツヅラ属に属するクマツヅラ(熊葛、学名:Verbena Officinalis)であり日本全土に自生する多年草である。本発明に用いるクマツヅラ抽出物を得るための原料(以下、クマツヅラ抽出原料と言う)として使用し得るクマツヅラの部位としては、例えば、葉部、茎部、根部、花部、またはこれらの混合物等であり、好ましくは葉、茎部の混合物である。
【0014】
ここで本発明においてクマツヅラ抽出物には、上記クマツヅラ抽出原料から得られる抽出液、当該クマツヅラ抽出液の希釈液、濃縮液、乾燥物、粗精製物、精製物が含まれる。
【0015】
クマツヅラ抽出物に含有されるヒスタミン遊離抑制作用を有する物質は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、クマツヅラ抽出原料から当該作用を有する抽出物を得ることができる。
【0016】
例えば、クマツヅラ抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、ヒスタミン遊離抑制作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0017】
抽出溶媒としては、水またはアルコール類(例えば、メタノール、無水エタノール、エタノール等の低級アルコール、或いはプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール)等の有機溶媒を、単独で或いは任意に組み合わせた2種類以上の混液にて使用することができる。
【0018】
抽出処理方法は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜20倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、ろ過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。さらに澱出し処理により安定性を増すこともできる。
【0019】
本発明のヒスタミン遊離抑制剤は、上記クマツヅラ抽出物を有効成分として含有するものであり、医薬品、医薬部外品、化粧品(例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤など)として利用することができ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品、医薬部外品、化粧品に添加され得る添加剤を含有していてもよい。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0021】
〔実施例1〕
クマツヅラの葉、茎部の混合物を天日により乾燥し、細かく裁断し、葉と茎部の乾燥混合物とした。乾燥混合物100gを1,3−ブチレングリコール:水(80:20(v/v))(以下、80%1,3−ブチレングリコールと言う)1Lに浸漬し、1週間常温で抽出した。これをろ過により抽出残渣を除去することにより、1kgのクマツヅラ抽出物を得た。そのうち固形分は1.2%であった。
【0022】
〔評価1〕β−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害活性試験
実施例1にて製造したクマツヅラ抽出物を試料とし、以下のようにしてカルシウムイオノフォア誘発性β−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害活性試験を用いて試験を行った。対照として80%1,3−ブチレングリコールを用いた。
【0023】
β−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害活性試験は、特許文献3の試験例1の記載に準じて行なったが、β−ヘキソサミニダーゼの放出率は下記の式より算出した。まず、ラット好塩基球性白血病細胞(RBL−2H3細胞)を48wellマイクロプレートに播種し、24時間培養した。
【0024】
試料または対照を下記(表1)に示す添加濃度になるようバッファに溶解し、48wellマイクロプレート上の細胞に添加し、カルシウムイオノフォアにより脱顆粒させた。β−ヘキソサミニダーゼの放出率を以下の式より算出した。結果を表1に示す。
放出率(%) = A/(A+B)× 100
A:細胞外液中のβ−ヘキソサミニダーゼ量
B:細胞内のβ−ヘキソサミニダーゼ量
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、クマツヅラ抽出物は優れたβ−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害活性を有することが確認された。したがって、クマツヅラ抽出物はヒスタミン遊離抑制作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のヒスタミン遊離抑制剤は、そのヒスタミン遊離抑制作用に基づいて、例えばアトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症等のアレルギー疾患の予防または改善効果のある医薬品、医薬部外品、化粧品として利用することができる。例えば、本発明のヒスタミン遊離抑制剤は、ヒスタミンの過剰遊離による皮膚トラブルの予防または改善効果のある化粧品に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クマツヅラ抽出物を有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤。

【公開番号】特開2012−106945(P2012−106945A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256358(P2010−256358)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】