説明

ヒストンデアセチラーゼ1/2選択的インヒビターアッセイ

本発明は、(i)HDAC1および/または2酵素を、MTA−2、MTA−1、MTA−3のようなMTAタンパク質中に見出されまたCoREST、CoREST2、CoREST3およびMI−ER1中にも見出されるSANTおよびELM2領域を含有するタンパク質と共に、適当なアッセイバッファ中でインキュベートする段階と、(ii)有望なHDACインヒビターおよび適当な基質を添加してインキュベートする段階と、(iii)インキュベーションを中止し、推定HDACインヒビターが酵素活性に与えた効果を標準との比較によって定量する段階と、を含むヒストンデアセチラーゼHDAC1および/または2インヒビター特異的アッセイに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDACサブタイプ選択的インヒビターのスクリーニングに好適な高効率のヒストンデアセチラーゼ1/2(HDAC1/2)特異的アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
可逆性ヒストンアセチル化が真核性遺伝子転写の主要調節因子であることは証明されていた。ヒストンテール中のリシン残基は、転写コアクチベーターとして機能するヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)によってアセチル化される。ヒストンがアセチル化されると、普通の転写活性化で見られるよりも制限的でないクロマチン構造が生じる。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)はHATによって触媒される反応を逆行させ、抑制的クロマチン構造に導く。3つの主要クラスに所属する多数のHDACが同定されている。クラスIのHDACはHDAC1、2、3および8を含み、酵母Rpd3デアセチラーゼに相同であるが、HDAC4、5、6、7および9を含むクラスIIのデアセチラーゼはむしろ酵母Hda1に類似している。HDACIIはすべての他のサブタイプに比べて類似および差異の双方の特徴が顕著である。HDACの第三のクラスは、活性化のためにNAD補因子が必要な酵母Sir2サイレンサータンパク質の同族体である。HDACはインビボでは、遺伝子転写を能動的に抑制するためにDNA結合性タンパク質のターゲットになる長い多タンパク質複合体として機能することが知見されている。
【0003】
HDAC3は正常にはコリプレッサーN−CoRおよびSMRTとの緊密な化学量論的複合体として存在する。HDAC3の酵素活性にはSMRTまたはN−CoRが必要であり、これらは、双方のコリプレッサーに存在する2つのSANTモチーフの1つを含むDADドメイン(デアセチラーゼ活性化ドメイン)を介して相互作用しデアセチラーゼを活性化する。DADはN−末端DAD−特異的モチーフとC−末端SANT−様ドメインとを含む。
【0004】
転写に関与する多くのタンパク質は保存されたSANTモチーフを含有しているが、その機能は十分に解明されていない(Boyer,L.A.,Latek,R.R.and Peterson,C.L.(2004)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.,5:158−163)。組換えHDAC3は不活性であり、活性化は(HeLa細胞のような)細胞中のデアセチラーゼと補因子SMRT/N−CoRとの同時発現、または、ウサギ網状赤血球溶解液(RRL)を用いたHDAC3およびSMRT/N−CoRのインビトロ転写−翻訳によって生じる。
【0005】
公表された証拠を確認するために、C−末端標識HDAC3(HDAC3−FLAG)を、N−CoRのDAD領域を含有する[DADをGAL4のDNA結合性ドメイン(GAL4−DBD)に融合した]構築物と共に細胞にコトランスフェクトした。また、HDAC3−FLAGおよびGAL4−DADを個別に発現させて混合した。複合体を抗−FLAG(HDAC3用)または抗−GAL4(DAD用)で免疫沈降させ(図1A)、単一のアセチル化リシンを含有するヒストンH4−由来オクタマーペプチド基質と共にインキュベートした。活性をアセチル化基質の変換%として表すと(図1B)、SMRT/N−CoR DADがHDAC3の相互作用および活性化に必須であることが確認された。
【0006】
HDAC1およびHDAC2は共通に84%の一致を有しており、異なる機能を有しているか否かは判っていないが、転写抑制において相補的な役割を果たすと考えられる。既知のHDAC1/2複合体は、転写コリプレッサーmSin3A(Hassig,C.A.,Fleischer,T.C.,Billin,A.N.,Schreiber,S.L.and Ayer,D.E.(1997)Cell,89:341−348)、CoREST(RESTのコリプレッサー;You,A.,Tong,J.K.,Grozinger,C.M.and Schreiber,S.L.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,98:1454−1458)、MTA−2(NuRD複合体中の転移関連タンパク質2;Zhang,Y.,Ng,H.−H.,Erdjument−Bromage,H.,Tempst,P.,Bird,A.and Reinberg,D.(1999)Genes Dev.,13:1924−1935)、MI−ER1(中胚葉誘導初期応答1;Ding,Z.,Gillespie,L.L.and Paterno,G.D.(2003)Mol.Cell.Biol,23:250−258)を含有している。
【0007】
SANTモチーフはCoREST、MTA−2およびMI−ER1に存在している(図2)。われわれは、これらのすべてのタンパク質中の相同性がSANTに限定されずにN−末端に続いており、DAD−相同領域をSMRT/N−CoRとして定義できることを知見した(図2)。HDAC1/2コリプレッサーは、Egl−27中の存在が最初に記載されたもう1つの共通ドメインELM2に、胚発生中のパターン形成に基本的な役割を果たすセノラブディティスエレガンス(Caenorhabditis elegans)タンパク質を含有している(Solari,F.,Bateman,A.and Ahringer,J.(1999)Development,126:2483−2494).ELM2およびDADの双方を内包するタンパク質のこの部分を図2のX−領域で表す(以後の本文中では“X−領域”と呼ぶ)。MTA−2コリプレッサーはまたN−末端ドメインBAH(ブロモ隣接相同;Goodwin,G.H and Nicolas,R.H.(2001)Gene,268:1−7;図3)を有しており、これは遺伝子の転写および抑制に関与する多数のタンパク質中で同定され、タンパク質−タンパク質相互作用に関与している可能性が高い。アミノ酸配列相同に基づいて、X−領域を含有しているその他の多くのタンパク質、例えば、MTA−1、MTA−3、CoREST、CoREST2およびCoREST3を同定できる。
【0008】
MTA−2のSANTドメインはHDAC1への結合に寄与すると考えられ(Humphrey,G.W.,Wang,Y.,Russanova,V.R.,Hirai,T.,Qin,J.Nakatani,Y.and Howard,B.H.(2001)J.Biol.Chem.,276:6817−6824)、CoREST中のHDAC1機能的相互作用に必須であると考えられる(You,A.,Tong,J.K.,Grozinger,C.M.and Schreiber,S.L.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,98:1454−1458)。また、Dingらは、MI−ER1中でHDAC1活性を補強し転写抑制を媒介する原因となるドメインをELM2含有領域にマッピングした。彼らの分析は、MI−ER1のSANTドメインがHDAC1との増殖性相互作用に必ずしも必要でないことを示す。
【0009】
いくつかのMTA−2欠失突然変異体を構築しGAL4−DBDのC−末端に融合させた(図3および実験)。標識−HDAC1と共に同時発現させ、抗−FLAGと共に同時免疫沈降させ、MTA2突然変異体とHDAC1との会合を測定した(図4)。
【0010】
図4に示すように、DAD−相同領域もELM2ドメインもHDAC1へのコリプレッサーの結合に十分ではなかった。これらの実験では、双方のドメインを含む完全X−領域が相互作用に必要十分であったが、BAHは必ずしも必要でないと考えられた。
【0011】
同時免疫沈降した同じ複合体をH4−由来アセチル化ペプチド基質と共にインキュベートした。全部のサンプルがHDAC1−FLAGを最適濃度以下の同じ濃度(0.25nM)で含有するように標準化した(図5A)。この濃度のHDAC1は組換えコリプレッサーの非存在下で活性でなかった。酵素活性を観察するためには、少なくとも5nMのHDAC1−FLAGの使用が必要であった(図示せず)。
【0012】
このデータは、全長コリプレッサーMTA−2がHDAC1の最大活性化を与えたことを明らかに示す。3つの個別実験を平均するとバックグラウンドレベル(DBD)に対して5倍の活性化が測定された(図5A)。構築物の活性化能力を図5Bにまとめる。
【0013】
GAL4−MTA2発現ベクターをGAL4−依存性リポーター構築物と共に細胞にコトランスフェクトした転写抑制アッセイで確証的な結果が得られた(図6)。
【0014】
HDACインヒビターの存在下で転写が回復したので(結果示さず)、抑制はHDAC−依存性であった。これらの実験から以下の結論が得られる:
−MTA−2主体のキメラからSANTドメインを除去すると、結合、活性化能力および転写抑制機能が低下する;
−ELM2ドメインは必須であるがHDAC1機能に十分ではない;
−HDAC1の最小活性化ドメインは、ELM2およびDAD−相同領域の双方を内包するX−領域である;
−HDAC1の最大活性化は全長MTA−2コリプレッサーによって得られる。
【0015】
HDAC2およびもう1つのコリプレッサーCoRESTを用いた(いくつかの)反復実験でも同様の結果が得られた。
【0016】
MTA−2コリプレッサーまたはX−領域を含有しているそのフラグメントがHDAC1および/または2の触媒活性を増強する能力をもつことは新規な知見である。特に、HDAC1および2を全MTA−2コリプレッサーと同時精製することによってデアセチラーゼの触媒効率を対数オーダで増進することが可能であった(図7および図示せず)。HDAC1/2の酵素活性を観察するためには少なくとも5nMのデアセチラーゼの使用が必要であるが、コリプレッサーの存在下では0.25nMの濃度で十分である。これまでに報告されたことのないこの知見は、適切な基質変換を得るためにナノモル以下の酵素濃度で十分なので、HDACサブタイプ選択的インヒビターのスクリーニングに適した高効率のヒストンデアセチラーゼ1および2特異的アッセイの設計が可能になる。
【0017】
ヒストンデアセチラーゼが細胞増殖の調節に基幹的な役割を果たすことは公知であり、従ってHDACの阻害は抗癌治療の重要な手掛かりになる。このためには、少量の酵素でサブタイプ選択的酵素アッセイを設計することが極めて重要である。
【0018】
図9はGAL DBDに下線を付けて示し、GSGSリンカーを太字で示す。
【0019】
従って、本発明の第一の目的は、
(i)HDAC1および/または2酵素を、MTA−2、MTA−1、MTA−3のようなMTAタンパク質中に見出されまたCoREST、CoREST2、CoREST3およびMI−ER1中にも見出されるSANTおよびELM2領域を含有するタンパク質と共に、適当なアッセイバッファ中でインキュベートする段階と、
(ii)有望なHDACインヒビターおよび適当な基質を添加してインキュベートする段階と、
(iii)インキュベーションを中止し、推定HDACインヒビターが酵素活性に与えた効果を標準との比較によって定量する段階と、を含むヒストンデアセチラーゼHDAC1および/または2インヒビター特異的アッセイを提供することである。
【0020】
段階(i)のタンパク質は、好ましくは哺乳類細胞中で発現される組換えタンパク質が適切である。該タンパク質は好適には、全長MTA−1、MTA−2、MTA−3、CoREST、CoREST2、CoREST3、MI−ER1を含有しているか、または、これらのタンパク質の1つと実質的な配列一致(適正には少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%の配列一致)を有しておりかつX−領域(本文中に定義)を含んでいるかもしくはこれらのタンパク質の1つのX−領域(本文中に定義)含有フラグメントを含んでいるタンパク質を含有している。好ましくはタンパク質が全長MTA−2である。
【0021】
別の実施態様では、段階(i)のタンパク質が、好ましくは哺乳類細胞中で発現される組換えタンパク質である。該タンパク質は好適には、MTA−2、MTA−1もしくはMTA−3のようなMTAタンパク質のX−領域またはCoREST、CoREST2、CoREST3もはくはMI−ER1のX−領域に実質的な配列一致(適正には少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%の配列一致)を有しているX−領域を含有している。
【0022】
本発明はさらに、HDAC1またはHDAC2と、本質的に全長MTA−2またはそのX領域含有フラグメントから成るタンパク質とを含有する組換え酵素複合体に関する。
【0023】
本発明はまた、HDAC1および/またはHDAC2および少なくともX領域のアミノ酸を発現するように異種DNAで形質転換させた組換え細胞を提供する。
【0024】
方法の特定実施態様では、酵素、特に組換え酵素のアリコートがSANTおよびELM2モチーフを含有するタンパク質と共に提供される。各アリコートがマイクロプレートのウェルに収容されている。HDACインヒビター活性試験の対象となる被験分析液の系列希釈液を細胞収容マイクロタイタープレートの個々のウェルに加える。方法は場合によっては、既知のHDACインヒビターの系列希釈液を陽性対照として含む。HDACインヒビター活性試験の対象となる複数の被験分析液のおのおのを、SANTおよびELM2モチーフ含有タンパク質と共に酵素含有マイクロタイタープレートの個々のウェルに加える。別の実施態様では、複数の分析液の系列希釈液を調製し、細胞収容マイクロタイタープレートの個々のウェルに各希釈液を加える。
【0025】
以下の実施例は本発明およびその実施方法を説明する。
【実施例】
【0026】
HeLa細胞中の標識−HDAC1/2とGAL4−MTA2/CoRESTとの同時発現:一過性トランスフェクション、可溶性抽出物の調製およびアフィニティ精製
HeLa細胞への一過性コトランスフェクションには哺乳類発現ベクターpCDNA HDAC1−FLAGまたはpCMV HDAC2−FLAGを、pCDNA GAL4 DBD−MTA2/CoRESTまたは対応する欠失突然変異体と共に使用した。
【0027】
リポフェクタミン試薬(Invitrogen)を製造業者の指示通りに使用し、7.5マイクログラムのpCDNA−HDAC1−FLAGまたはpCMV−HDAC2−FLAGを、7.5マイクログラムのpCDNA−GAL4DBD−MTA2/CoRESTプラスミドDNAと共に、10のHeLa細胞にトランスフェクトした。
【0028】
トランスフェクションの24時間後、細胞を1×PBSに収集し、4℃、1500×gで5分間遠心し、1×PBSで2回洗浄した。遠心後、細胞ペレットを−80℃で保存した。細胞ペレットを1mlの低張溶解バッファ(20mMのヘペスpH7.9、0.25mMのEDTA、10%グリセロール、1mMのPMSF、完全EDTA−非含有プロテアーゼインヒビターカクテル、Boehringer製)に再懸濁させることによって細胞溶解液を調製し、次いで氷上で15分間インキュベートし、2mlのDouncer(B、25ストローク)で細胞を破壊し、150mMのKClと0.5%のNP40とのホモジェネート(等張溶解バッファ:ILB)に加えた。サンプルを30秒間ずつ2回音波処理(出力5/6、デューティサイクル90、タイマー一定)し、次いで回転ホイール上で4℃で1時間インキュベートすることによって可溶性の全細胞抽出物が得られた。SS34ロータに入れ、4℃、12000rpmで30分間遠心し、透明上清(可溶性タンパク質抽出物)を収集し、BioRad試薬を使用して全タンパク質濃度を測定した。抽出物中の標識HDAC濃度は、4、8および16マイクログラムの全タンパク質を4−12%のSDS−PAGEミニゲルに8−16ngの基準タンパク質と共に泳動させ、次いで抗−FLAGアルカリホスファターゼ共役モノクローナル抗体(M2−AP、A9469、SIGMA)と共にウェスタンブロット分析することによって測定した。同じ抽出物中のGAL4 DBD−MTA2/CoRESTキメラタンパク質の発現レベルは、抗−GAL4ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology,sc−577)で顕在化させた同じ免疫ブロットで評価した。
【0029】
標識HDAC1またはHDAC2を含有する可溶性タンパク質抽出物をGAL4 DBD−MTA2またはCoREST変異体のおのおのに組合せて、製造業者の指示通りに調製した抗−FLAG M2アフィニティゲル(A2220、SIGMA)に塗布し、ILB中で平衡させた。ゲルマトリックスと可溶性タンパク質抽出物とを混合し(2マイクログラムの標識HDACあたり10マイクロリットルのゲルマトリックス)、回転ホイール上で4℃で一夜インキュベートした。ゲルマトリックスを遠心によって回収し、ILBで1回、0.1%NP−40含有ILBで2回、溶出バッファ[50mMのヘペスpH7.4、5%グリセロール、0.01%トリトンX−100、100mMのKCl]中でさらに2回洗浄した。100マイクログラム/mlの3×FLAGペプチド(F4799、SIGMA)を含有している10倍容量の溶出バッファをゲルマトリックスに添加し、次いで室温の回転ホイール上で1時間インキュベートすることによってHDAC複合体を溶出させた。遠心によって溶出タンパク質を上清中に収集し、10、20および30ngの定量用基準タンパク質を使用する抗−FLAGウェスタンブロット分析によって標識HDAC1/2濃度を測定した。HDAC−結合GAL4 DBD−MTA2/CoREST変異体のおのおのの存在は抗−GAL4抗体で顕在化させた同じ免疫ブロット上で評価した。
【0030】
転写−翻訳およびアフィニティ精製の組合せによる標識−HDAC1/2およびGAL4−MTA2/CoRESTのインビトロ発現
TNT Quick Coupled Transcription/Translation System(Promega)を製造業者の指示通りに使用した。混合実験には、120マイクロリットルの反応容量に各4マイクログラムの各発現プラスミドDNAを使用して対応タンパク質(標識−HDACまたはGAL4 DBD−MTA2/CoREST)のインビトロ合成を駆動した。同時発現実験には、200マイクロリットル容量の同じ反応液に0.8マイクログラムの標識−HDAC1/2発現プラスミドDNAおよび各6マイクログラムの補因子発現プラスミドDNAを加えた。タンパク質合成段階の完了後、混合実験には25マイクロリットルのHDAC1/2 TNT反応液を100マイクロリットルの補因子TNT反応液と混合し、75マイクロリットルのmockTNT反応液を加えて最終容量200マイクロリットルとした。次にサンプルを室温で10から15分間インキュベートした。200マイクロリットルのHDAC1/2+補因子混合物を、製造業者の指示通りに調製した30マイクロリットルの抗−FLAG M2アフィニティゲルに塗布し、M2−IPバッファ(20mMのヘペスpH7.9、300mMのKCl、0.25mMのEDTA、10%グリセロール、0.1%のトゥイーン20、COMPLETE EDTA−非含有インヒビターカクテル)中で平衡させた。4℃の回転ホイール上で一夜インキュベーション後、遠心によってゲルマトリックスを回収し、M2−IPバッファで1回、150mMのKClを含有するM2−IPバッファで2回、HDAC HPLC活性化バッファ(50mMのヘペスpH7.4、5%グリセロール、0.01%トリトンX100、0.1mg/mlのBSA)中でさらに2回洗浄した。1/5量のサンプルをSDS−PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。残りのゲルマトリックスを遠心によって回収し、HPLCデアセチラーゼアッセイに使用するために最終容量100マイクロリットルのHDAC活性化バッファ中でインキュベートした。
【0031】
HDAC HPLC活性アッセイ
100%DMSO中の2マイクロリットルの被験化合物溶液(50×)を一定濃度の組換え酵素を含有している100マイクロリットルのアッセイバッファ(50mMのヘペスpH7.4、5%グリセロール、0.01%トリトンX100、0.1mg/mlのBSA)に加えた。室温で15分間プレインキュベーション後、200uMの蛍光ヒストンH4(AcK16)ペプチド基質のDMSOプレ希釈溶液(最終濃度:4uM)を2マイクロリットルの量で添加した[ペプチド基質:Mca−GAK(ε−Ac)RHRKV−NH λex 325nM;λem 393nM]。デアセチラーゼ反応を室温で4時間行わせ、20ulの10%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液の添加によって停止させた。対応する脱アセチル産物に変換されたペプチド基質のパーセンテージは、HPLCを使用し、1ml/分のHO/5%−40%アセトニトリルの24ml直線勾配、次いで95%アセトニトリルまでの急勾配(1ml)、さらに95%アセトニトリルの3ml段階で溶出させたBeckman(4.6mm×5cm)C18カラム上のMerck−Hitachiクロマトグラフで分析した。
【0032】
外的に発現された大抵の組換えHDACは不活性またはほぼ不活性であることが知見された。逆に、哺乳類細胞中で発現された組換え酵素は、それらの内因性等価物と同様に、それらの活性に影響を与える特異的調節ポリペプチドと相互作用する傾向を有していた。しかしながら大規模HDAC生産に哺乳類細胞を使用する場合の主要な障碍は、タンパク質収率が比較的低いことである。HDAC1/2の酵素活性を観察するためには少なくとも5nMのデアセチラーゼを使用する必要がある。われわれは、HDAC1/2活性がコリプレッサーMTA−2の存在下に対数オーダで増進されることを知見した。すなわち、ナノモル以下の酵素濃度(0.25nM)で適正な基質変換を十分に得ることができるのでアッセイ処理量を大規模化できる。
【0033】
X−領域含有タンパク質のアミノ酸配列位置合せ
MTA−2、CoRESTまたはMI−ER1由来のX−領域のアミノ酸配列を照会コードとして使用しタンパク質配列データベースを探索することによってX−領域を含有する他のタンパク質を同定した。結果を図8に示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】複合体を抗−FLAG(HDAC3用)または抗−GAL4(DAD用)で免疫沈降させた。
【図1B】単一のアセチル化リシンを含有するヒストンH4−由来オクタマーペプチド基質と共にインキュベートし、活性をアセチル化基質の変換%として表す。
【図2】SANTモチーフはCoREST、MTA−2およびMI−ER1に存在している。これらのすべてのタンパク質中の相同性がSANTに限定されずにN−末端に続いており、DAD−相同領域をSMRT/N−CoRとして定義できることを知見した。
【図3】いくつかのMTA−2欠失突然変異体を構築しGAL4−DBDのC−末端に融合させた。
【図4】標識−HDAC1と共に同時発現させ、抗−FLAGと共に同時免疫沈降させ、MTA2突然変異体とHDAC1との会合を測定した。
【図5A】同時免疫沈降した同じ複合体をH4−由来アセチル化ペプチド基質と共にインキュベートした。全部のサンプルがHDAC1−FLAGを最適濃度以下の同じ濃度(0.25nM)で含有するように標準化した。
【図5B】構築物の活性化能力。
【図6】GAL4−MTA2発現ベクターをGAL4−依存性リポーター構築物と共に細胞にコトランスフェクトした転写抑制アッセイで確証的な結果が得られた。
【図7】HDAC1および2を全MTA−2コリプレッサーと同時精製することによってデアセチラーゼの触媒効率を対数オーダで増進することが可能であった。
【図8】MTA−2、CoRESTまたはMI−ER1由来のX−領域のアミノ酸配列を照会コードとして使用しタンパク質配列データベースを探索することによってX−領域を含有する他のタンパク質を同定した。
【図9】GAL DBDに下線を付けて示し、GSGSリンカーを太字で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)HDAC1および/または2酵素を、MTA−2、MTA−1、MTA−3のようなMTAタンパク質中に見出されまたCoREST、CoREST2、CoREST3およびMI−ER1中にも見出されるSANTおよびELM2領域を含有するタンパク質と共に、適当なアッセイバッファ中でインキュベートする段階と、
(ii)有望なHDACインヒビターおよび適当な基質を添加してインキュベートする段階と、
(iii)インキュベーションを中止し、推定HDACインヒビターが酵素活性に与えた効果を標準との比較によって定量する段階と、を含むヒストンデアセチラーゼHDAC1および/または2インヒビター特異的アッセイ。
【請求項2】
段階(i)のタンパク質が、全長MTA−1、MTA−2、MTA−3、CoREST、CoREST2、CoREST3、MI−ER1を含有するか、または、これらのタンパク質の1つに少なくとも80%の配列一致を有しておりかつELM2およびDAD領域を含むタンパク質を含有している請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
段階(i)のタンパク質が全長MTA−2である請求項2に記載のアッセイ。
【請求項4】
HDAC1またはHDAC2と全長MTA−2またはELM2およびDAD領域を含有するそのフラグメントとを含む再構築酵素複合体。
【請求項5】
HDAC1および/またはHDAC2とELM2およびDAD領域を含むタンパク質とをコードする異種DNAで形質転換された組換え細胞。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−513122(P2009−513122A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537104(P2008−537104)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067835
【国際公開番号】WO2007/048830
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(501209427)イステイチユート・デイ・リチエルケ・デイ・ビオロジア・モレコラーレ・ピ・アンジエレツテイ・エツセ・ピー・アー (90)
【Fターム(参考)】