説明

ヒトグルココルチコイド受容体遺伝子座の修飾のための方法および組成物

ヒトグルココルチコイド受容体(GR)をコードするゲノムDNAの標的切断による、GR遺伝子の不活性化のための方法および組成物を本明細書で開示する。かかる方法および組成物は、例えば、グルココルチコイド処置中に免疫機能の保持を必要とする治療用途で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年11月13日出願の米国暫定出願第60/859,025号、2006年11月15日出願の米国暫定出願第60/859,417号、および2007年9月7日出願の米国暫定出願第60/967,820号の利益を請求し、その開示の全ては、参照することによりその全体において本願に組み込まれる。
連邦政府による資金提供を受けた発明の権利の記載
【0002】
本開示は、標的突然変異生成、標的ゲノム組み込み、および標的組み換えを含む、免疫学、免疫系変調、およびゲノム修飾の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
ヒトグルココルチコイド受容体(GR)は、身体のほぼ全ての細胞中で発現される。コルチゾール等のグルココルチコイドホルモンの結合時に、受容体は、細胞核に転座され、一式の組織特異的な標的遺伝子を活性化する。組織によってGR標的遺伝子が異なるという事実は、異なる組織におけるGR効果の多面的パターンをもたらす。
【0004】
グルココルチコイドホルモンの生理的作用の多くが医学的関心であり、臨床的介入の潜在的分野を提示する。例えば、クッシング症候群では、過剰なGR活性が高血圧につながる。脳では、GR経路の異常は、うつ病および気分障害に結び付けられており、肺では、そのような異常は、喘息および慢性気道疾患と関連している。
【0005】
グルココルチコイドホルモンの最もよく特徴付けられた臨床活性の1つは、免疫抑制効果による、消炎作用である。グルココルチコイドホルモンへのT細胞の暴露は、T細胞アネルギーにつながり、T細胞活性化を妨害する。最近の概説については、Rhen,T.et al.(2005).N.Engl.J.Med.353(16):1711−23を参照されたい。グルココルチコイドによる長期的治療は、糖尿病および骨粗鬆症のような重篤な副作用につながる。Rosen,J.et al.(2005)Endocr.Rev.26(3):452−64の考察を参照されたい。さらに、免疫系全体の抑制は、潜在ウイルスの再活性化につながり得るものであり(Reinke,P.et al.(1999)Transpl Infect Dis 1(3):157−64を参照されたい)、免疫療法の方法、例えば、患者への有益な免疫細胞の一部の送達を妨害する。
【0006】
細胞の一部、例えば、特徴付けられたT細胞群における、GR機能の選択的崩壊を可能にする方法が利用可能であれば、グルココルチコイド処置を伴うGR過剰活性化と関連する問題の多くを解決することができる。1つのそのような方法は、GRをコードする遺伝子の配列を変更することであろう。確かに、ゲノム中の特定の場所でDNA配列を操作する(すなわち、編集する)能力は、ここしばらくヒトゲノム生物学の主要な目標となっている。種々の技術がこの目的で以前に試験されてきたが、これらの方法でゲノム修飾が達成される頻度は、治療用途にとっては概して低すぎるものとなっている。例えば、Yanez,RJ.et al.(1998)Gene Ther.5(2):149−159を参照されたい。
【0007】
ゲノム編集の別の重要な用途は、ゲノムへの臨床的有用な導入遺伝子の挿入である。しかしながら、あらゆるゲノム編集方法の決定的要件は、それが規定の場所への標的化挿入を可能にすることである。治療用導入遺伝子の正確に標的化された組み込みの要件の重要性は、X連鎖SCIDの治療に対する臨床試験において、ヒト遺伝子療法に使用される導入遺伝子の無作為な組み込みが、場合によっては、標的細胞の発癌性形質転換につながった挿入突然変異をもたらしたという最近の観察によって、強調されている。Hacein−Bey−Abina,S. et al.(2003).Science 302(5644):415−9.
【0008】
ゲノムDNAの標的切断のための様々な方法および組成物が説明されている。そのような標的切断事象は、例えば、標的化突然変異生成を誘導する、細胞DNA配列の標的化欠失を誘導する、および所定の染色体座での標的化組み換えを促進するために使用することができる。例えば、その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、米国特許出願公報第US 2003/0232410号(2003年12月18日)、第US 2005/0026157号(2005年2月3日)、第US 2005/0064474号(2005年3月24日)、第US 2005/0208489号(2005年9月22日)、および第US 2006/0188987号(2006年8月24日)を参照されたい。外来性配列の標的化組み込みもまた、達成することができる。その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、米国特許出願整理番号第11/493,423号(2006年7月26日出願)を参照されたい。また、その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、PCT国際特許公開第WO 2005/084190号(2005年9月15日)も参照されたい。
【0009】
しかしながら、ヒトグルココルチコイド受容体遺伝子の特異的切断のため、およびGR遺伝子の修飾による免疫機能の変調のための方法および組成物は、これまで記載されていない。
【発明の概要】
【0010】
グルココルチコイド受容体(GR)をコードするヒト遺伝子のヌクレオチド配列の変異のための方法および組成物を本明細書で開示する。ある実施形態では、ヒトGR遺伝子の配列の変異は、GR機能を不活性化する。
【0011】
前記方法は、GR遺伝子における配列の2本鎖切断を触媒する、ヒトGR遺伝子を標的とする1対の亜鉛フィンガーヌクレアーゼの細胞中の発現を含む。亜鉛フィンガーヌクレアーゼは、標的配列および切断半ドメインを結合するように遺伝子操作されている亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを備える、融合タンパク質である。細胞中の亜鉛フィンガーヌクレアーゼの発現は、ヌクレアーゼ自体、ヌクレアーゼをコードするRNA、またはヌクレアーゼをコードするDNAの、細胞への導入によって達成することができる。GR標的化亜鉛フィンガーヌクレアーゼは、GR遺伝子中の標的部位へ結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを備える。亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの遺伝子操作は、標的ヌクレオチド配列を結合するために必要とされる亜鉛フィンガーのアミノ酸配列の決定(コンピュータまたは経験的手段によって達成され得る)、および所望のアミノ酸配列に対応するポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の構築を含む。
【0012】
ヒトGR遺伝子を標的とする、例示的な遺伝子操作されている亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを表2に示し、それらの標的配列を表1に示す。したがって、本開示は、ヒトGR遺伝子中の任意の部位を標的とする亜鉛フィンガーヌクレアーゼと、前記亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとを提供する。前述の亜鉛フィンガーヌクレアーゼおよびポリヌクレオチドを備える細胞、例えば、単離細胞、一次細胞または培養液中の細胞のいずれかも、提供される。
【0013】
ある実施形態では、亜鉛フィンガーヌクレアーゼによるヒトGR遺伝子の標的切断は、非相同末端結合(NHEJ)に起因する配列変異を誘導する。付加的な実施形態では、2つの亜鉛フィンガーヌクレアーゼが細胞中で発現され、ドナーポリヌクレオチドが細胞に導入される。ドナーポリヌクレオチドは、亜鉛フィンガーヌクレアーゼによって作成される2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域とを含有する。ドナーポリヌクレオチドは、任意で、例えば、キメラT細胞容体等の導入遺伝子を備え得る、GR遺伝子と非相同である外来性配列を含有する。
【0014】
本明細書に記載されるような、GR遺伝子の一次ヌクレオチド配列を変更することによる、GR機能の不活性化は、種々の用途でGR介在性免疫抑制を防止するために使用することができる。
【0015】
一態様では、(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、(ii)切断半ドメインとを備える、融合タンパク質を、本明細書で提供する。ある実施形態では、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、表2の行に示される順序で、一式のアミノ酸配列を備える。本明細書に記載される融合タンパク質のいずれかをコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0016】
別の態様では、本開示は、細胞中のグルココルチコイド受容体(GR)機能を不活性化するための方法であって、1対の融合タンパク質を細胞中で発現するステップを含む方法を提供し、各融合タンパク質は、該融合タンパク質がGR遺伝子における2本鎖切断を触媒するように、(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、(ii)切断半ドメインとを備える。ある実施形態では、融合タンパク質の亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、表2の行に示される順序で、一式のアミノ酸配列を備える。本明細書に記載される方法のいずれかは、ポリヌクレオチドを細胞に導入するステップをさらに含んでもよく、該ポリヌクレオチドは、2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域とを備える。任意で、ポリヌクレオチドは、GR遺伝子と非相同である外来性配列(例えば、修飾受容体等の導入遺伝子)をさらに備え得る。その上、前記方法のうちのいずれかは、グルココルチコイド介在性免疫抑制および/またはT細胞アネルギーを防止し得る。
【0017】
さらに別の態様では、本開示は、外来性配列がGR遺伝子に導入されている細胞を選択する方法を提供する。前記方法は、GR遺伝子における2本鎖切断を引き起こすように本明細書に記載されるようなZFNを発現するステップと、ドナーポリヌクレオチド(GR相同性アームと、外来性配列とを備える)を細胞に導入するステップとを含む。次いで、正常量のGRを発現する細胞を破壊する、コルチコステロイドの存在位下で細胞を増殖させることによって、ドナーポリヌクレオチドがGR遺伝子に挿入されている細胞が選択される。「コルチコステロイド」という用語は、コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾン、およびアルドステロン等の自然発生ステロイドホルモンを含む。前記用語はまた、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾン、フルドロコルチゾン(Fludrocortisone)(フロリネフ(Florinef)(登録商標))等を含む、コルチコステロイド様効果を有する合成薬剤も含む。ある実施形態では、コルチコステロイドは、デキサメタゾンである。前記方法のうちのいずれかでは、外来性配列は、導入遺伝子(関心のポリペプチドをコードする配列)を備え得る。あるいは、外来性配列は、非コード配列であり得る。
【0018】
本明細書に記載される方法のうちのいずれかでは、ZFNは、ウイルス送達ベクター、例えば、複製欠損ウイルスベクター、を使用して発現される。ある実施形態では、ウイルス送達ベクターは、アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、または非統合レンチウイルスである。
【0019】
したがって、本開示は、次の実施形態を含むが、それらに限定されない。
1.細胞中のグルココルチコイド受容体(GR)機能を不活性化するための方法であって、
1対の融合タンパク質を細胞中で発現するステップを含み、
各融合タンパク質は、融合タンパク質がGR遺伝子における2本鎖切断を触媒するように、
(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)切断半ドメインと、
を備える、方法。
2.融合タンパク質の亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、表2の行に示される順序で、一式のアミノ酸配列を備える、1に記載の方法。
3.ポリヌクレオチドを細胞に導入するステップをさらに含み、ポリヌクレオチドは、2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域とを備える、1に記載の方法。
4.ポリヌクレオチドは、GR遺伝子と非相同である外来性配列をさらに備える、3に記載の方法。
5.外来性配列は、導入遺伝子を備える、4に記載の方法。
【0020】
6.導入遺伝子は、修飾受容体をコードする、5に記載の方法。
7.GR機能の不活性化は、グルココルチコイド介在性免疫抑制を防止する、1に記載の方法。
8.GR機能の不活性化は、T細胞アネルギーを防止する、1に記載の方法。
9.
(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)切断半ドメインと、
を備える、融合タンパク質。
10.亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、表2の行に示される順序で、一式のアミノ酸配列を備える、9に記載の融合タンパク質。
【0021】
11.9に記載の融合タンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
12.発現するステップは、細胞をウイルス送達ベクターと接触させるステップを含む、1に記載の方法。
13.ベクターは、複製欠損である、12に記載の方法。
14.ウイルス送達ベクターは、アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、または非統合レンチウイルスである、12に記載の方法。
15.GR遺伝子中に外来性配列を備える細胞を選択する方法であって、
1対の融合タンパク質を細胞中で発現するステップであって、各融合タンパク質は、融合タンパク質がGR遺伝子における2本鎖切断を触媒するように、
(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)切断半ドメインと、
を備える、ステップと、
ポリヌクレオチドを細胞に導入するステップであって、ポリヌクレオチドは、2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域とを備える、ステップと、
GR遺伝子中に外来性配列を備えない細胞が破壊されるような条件下で、該細胞を天然または合成コルチコステロイドで処置することにより、外来性配列がGR遺伝子に導入されている細胞を選択するステップと、
を含む、方法。
【0022】
16.コルチコステロイドは、合成である、15に記載の方法。
17.コルチコステロイドは、デキサメタゾンである、16に記載の方法。
18.外来性配列は、導入遺伝子を備える、15に記載の方法。
19.発現するステップは、細胞をウイルス送達ベクターと接触させるステップを含む、15に記載の方法。
20.ベクターは、複製欠損である、19に記載の方法。
21.ウイルス送達ベクターは、アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、または非統合レンチウイルスである、19に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、例示的プラスミド構築物の概略図である。「CMVプロモータ」は、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモータを意味し、「ZFN」は、亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする配列(例えば、切断半ドメインに融合される亜鉛フィンガーDNA結合ドメイン)を意味し、「BGH polyA」は、ウシ成長ホルモン遺伝子からのポリアデニル化信号を意味し、「SV40プロモータ」は、シミアンウイルス40からの主要プロモータを意味し、「NeoR」は、ネオマイシン耐性をコードするオープンリーディングフレームを意味し、「SV40 pA」は、シミアンウイルス40の主要転写単位からのポリアデニル化信号を意味し、「CoIEl」はコリシンE1からの複製起点を意味し、「AmpR」は、アンピシリン耐性をコードするβラクタマーゼ遺伝子を意味する。
【図2】2つの異なる亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、例示的プラスミド構築物の概略図である。次の追加を伴って、略称は図1と同じである。「2A」は、口蹄疫ウイルス(FMDV)リボソームスタッタリングシグナルを意味し、「KanR」は、カナマイシン耐性をコードするオープンリーディングフレームを意味し、「pUC ori」は、pUC 19プラスミドからの複製起点を意味する。
【図3】パネルAおよびBは、造血細胞中(K562)のGR遺伝子座中のZFNによる切断を明示する、Cel Iアッセイの結果を示す図である。図3Aは、エクソン3における切断の分析を示し、図3Bは、エクソン6における切断の分析を示す。10%アクリルアミドゲルのエチジウムブロマイド染色を示す。
【図4】パネルAおよびBは、GR遺伝子座へのゼタカイン導入遺伝子のZFN介在性標的化組み込みを示す図である。 デキサメタゾンの存在下または不在下でGR−ZFNおよびゼタカインドナーZFN構築物を形質移入されたCEM14細胞のPCR分析を示す図である。「+」があるレーンは、デキサメタゾンで処置された細胞を示し、「−」があるレーンは、デキサメタゾンで処置されていない多細胞を示す。「M」は、マーカレーンを示し、「un」は、非形質移入細胞を示し、「ゼタカイン」は、GR−ZFNおよびゼタカインドナー構築物を形質移入された細胞を示し、「p.c.」は、陽性対照を示し、「n.c.」は、陰性対照を示す。 図4(B)において、SexA1で消化されたCEM 14ゲノムDNAのサザンブロット分析を示す図である。「M」は、マーカレーンを示し、「un」は、デキサメタゾンで処置された非形質移入細胞を示し、「ゼタカイン」は、GR−ZFNおよびゼタカインドナー構築物を形質移入され、デキサメタゾンで処置された細胞を示す。また、矢印により、1.6kbマーカ帯域、野生型5.2kb帯域、および組み込まれたゼタカイン導入遺伝子(TI)を表す2.0kb帯域も示す。
【図5】ヒトグルココルチコイド受容体に対する抗体で調査された、タンパク質ブロットの化学発光像を示す図である。「CEM 14」は、非形質移入細胞を意味し、「ZFN」は、GR遺伝子のエクソン3を標的とする2つのZFNをコードする配列、ゼタカインカセットを含有する配列、およびGR遺伝子と相同の配列を含有するプラスミドが形質移入されていたCEM14細胞を意味する。全長および短縮GRタンパク質に対応する帯域を写真の左側に示す。
【図6】CD−8T細胞中のGR遺伝子座のエクソン3中のZFNによる切断を明示する、Cel Iアッセイの結果を示す図である。10%アクリルアミドゲルのオートラジオグラムを示す。略称は次の通りである。「un」は、非形質移入細胞を意味し、「GFP」は、緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミドを形質移入された細胞を意味する。形質移入細胞中に発現される亜鉛フィンガーヌクレアーゼの亜鉛フィンガー部分の同一性を、2つの最右レーンの上側に示す。詳細については、表1および2を参照されたい。
【図7】パネルAおよびBは、デキサメタゾンによる処置の前(図7A)および後(図7B)の、CD−8T細胞中のZFNによるGR切断を明示する、Cel Iアッセイの結果を示す図である。「ZFN−10」は、10の感染の多重度(moi)でZFNペア9666および9674を持つAd5/F35ベクターに感染した細胞を意味し、「ZFN−30」は、30のmoiでZFNペア9666および9674を持つAd5/F35ベクターに感染した細胞を意味し、「ZFN−100」は、100のmoiでZFNペア9666および9674を持つAd5/F35ベクターに感染した細胞を意味し、「GFP」は、100のmoiで緑色蛍光タンパク質をコードする対照Ad5/F35ウイルスを形質移入された細胞を意味する。修飾頻度(割合)を様々なレーンの下に示す。
【図8】8日間の10−4Mデキサメタゾンによる第2の処置の前および後に細胞の生存を比較することによって決定されるような、実施例7に記載されるCD8細胞プールのグルココルチコイド耐性を表すグラフである。
【図9】パネルAおよびBは、2つの別個の実験からのGRタンパク質のウェスタンブロット分析を示す図である。パネルAは、実施例7に記載されるCD8+細胞プールから、ウイルス形質導入に使用されたゼタカイン発現CD8+細胞プール(「IL−13 ZKプール」)から、およびZFN 100プールのサブクローン(「10A1」)から抽出されたタンパク質の結果を示す。各パネルを調査するために使用された抗体をブロットの左側に列挙する。TFIIB(Santa Cruz Antibodies)を、負荷対照として使用した。GR抗体は、BD Biosciencesから入手した。パネルBは、GR−ZFN発現Ad5/F35ウイルスで処置されたCMVへの特異性を伴うCD8+細胞の様々なサブクローンにおけるGRタンパク質レベルを示す。クローン名をレーンの上側に示し、「模擬」は、模擬の感染した開始CMV標的化CD8+細胞プールを指す。
【図10】パネルAからDは、指示遺伝子の発現に対する、ZFN処置CD8+T細胞のRT−PCR分析を表すグラフである。パネルAは、IκBαの発現を示し、パネルBは、GILZの発現を示し、パネルCは、MKP−1の発現を示し、パネルEは、IFNγの発現を示す。試験されたサンプルをバーの下に示し、サンプルは未処置(「un」)またはデキサメタゾンで20時間処置された(「dex」)のいずれかであった。
【図11】グリオーマ細胞による刺激時のZFN処置CD8+T細胞によるIFN−γサイトカイン放出を表すグラフである。CD8+T細胞プールをバーの下に示す。「Dex」とは、10−6Mデキサメタゾンで処置された細胞を指す。「U87MG」とは、グリア芽腫刺激細胞の存在下で培養された細胞を指す。
【図12】パネルAからEは、対照およびGR−ZFN処置CD8+T細胞を使用したクロム放出アッセイの結果を表すグラフである。使用された細胞を各グラフの上側に記述する。サンプルは、様々なエフェクタ:標的比で右側に示される標的細胞株を使用して、得た。クロム放出の割合を、各データ点について、エフェクタ:標的比に対して描画する。
【図13】パネルAからCは、ルシフェラーゼ標的U87MG細胞を使用した、同所性グリア芽腫マウスモデルにおける腫瘍細胞から放出された光子を表すグラフである。パネルAは、指示動物へのPBS対照注入からの光子放出を示す。パネルBは、GFP100対照を注入された動物からの光子放出を示す。パネルCは、ZFN100(moi 100でのGR標的化ZFN)を注入された動物からの光子放出を示す。
【図14】パネルAからDは、グルココルチコイドホルモンの投与の存在または非存在下で、同所性マウスグリア芽腫モデルにおける腫瘍細胞から放出された光子を表すグラフである。図14Aおよび14Bは、デキサメタゾンの非存在(図14A)および存在(図14B)下でのPBS対照注入からの光子放出を示す。図14Cおよび14Dは、デキサメタゾンの非存在(図14C)または存在(図14D)下で、腫瘍細胞にZFN処置クローン10A1を注入した後のマウスの腫瘍細胞からの光子放出を示す。
【図15】SELEXによる個別亜鉛フィンガーDNA結合ドメインのDNA結合特異性を決定するための実験的概要を表す、概略図である。ビオチン化抗HA Fab抗体断片の存在下で、赤血球凝集素で標識されたZFNを無作為化DNA配列のプールによりインキュベートした。標識されたZFN−DNA複合体をストレプトアビジン被覆電磁ビーズで捕獲し、結合DNAを解放し、PCRによって増幅した。開始配列として以前に溶出および増幅したDNAのプールを使用して、このプロセスを3回反復した。4回目の反復後、溶出したDNA断片を配列決定し、コンセンサス配列を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書では「亜鉛フィンガーヌクレアーゼ」と呼ばれる、遺伝子操作されている亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、切断ドメイン(または切断半ドメイン)とを備える、融合タンパク質を利用して、グルココルチコイド受容体(GR)をコードする遺伝子の一次配列を変更するのに有用な組成物および方法を本明細書で開示する。そのような配列変異は、ヒトGR機能の不活性化をもたらすことができる。当該分野で公知のように、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、選択方法によって、または合理的設計の技術を使用することによって、選択した任意の標的DNA配列を結合するように遺伝子操作することができる。転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、およびヌクレアーゼドメインを含む、様々な種類の機能ドメインへの、遺伝子操作されている亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの融合もまた、記載されている。例えば、その開示が、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、米国特許第6,534,261号および第6,933,113号、ならびに米国特許出願公報第2005−0064474号を参照されたい。したがって、選択した配列に対する切断特異性を有する、カスタムエンドヌクレアーゼである切断ドメイン(すなわち、2本鎖DNAを切断する能力があるポリペプチドドメイン)としても知られる、ヌクレアーゼドメインへの、遺伝子操作されている亜鉛フィンガー結合ドメインの融合を構築することができる。ある実施形態では、遺伝子操作されている亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、「切断半ドメイン」(すなわち、二量化されると、2本鎖DNA切断活性を保有する、ポリペプチドドメイン)に融合され、1対のそのような融合タンパク質は、標的化DNA切断に使用される。
【0025】
ゲノムDNAの切断は、非相同末端結合(NHEJ)として知られる、細胞修復機構の誘導をもたらすことができる。切断されたDNA末端を再接合するプロセスにおいて、NHEJはしばしば、DNA切断の部位で、またはその周囲で、突然変異を配列に導入する。修復プロセスのエラーが発生しやすい性質は、エラーが発生しやすい修復が標的配列の変異を引き起こすまで標的配列を引き続き結合および切断する、亜鉛フィンガーヌクレアーゼの能力と一体になって、切断の部位またはその付近で、突然変異の蓄積を高頻度でもたらす。したがって、標的切断の部位またはその付近で、配列変化(すなわち、突然変異)を誘導するために、亜鉛フィンガーヌクレアーゼによる内因性ゲノムDNA配列の標的切断を使用することができる。ヌクレオチド配列のそのような変化がタンパク質をコードするゲノムの領域で生じた場合、それらは通常、コードされたタンパク質のアミノ酸配列の変異をもたらす。例えば、リーディングフレームの変異は、早期の翻訳終結により、短縮タンパク質の産生をもたらすことができる。あるいは、誤ったアミノ酸がコードされる場合がある。いずれにしても、非機能性ポリペプチドが産生される。NHEJ後の配列変異の付加的な結果は、変異配列によってコードされるmRNAのナンセンス変異による崩壊である。したがって、選択した遺伝子の機能を不活性化するために、亜鉛フィンガーヌクレアーゼを使用する標的化DNA切断を使用することができる。不活性化は、両方の対立遺伝子の突然変異生成、または単一の対立遺伝子の突然変異生成のいずれかによって達成され、ドミナントネガティブ変異タンパク質を生成することができる。
【0026】
内因性染色体DNA中の所定部位での標的切断はまた、相同指向性および相同独立性両方の機構によって、切断の部位またはその付近での外来性配列の組み込みを促進するためにも、使用することができる。相同依存性組み込みに対しては、亜鉛フィンガーヌクレアーゼに加えて、標的切断部位の両側にゲノム配列と相同な配列を含有する、「ドナー配列」が、細胞に提供される。そのようなドナー配列はまた、標的切断部位の付近にあり、任意で2列の相同配列間に配置される、ゲノム配列と非相同である配列も含有することができる。例えば、その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、米国特許出願公報第2005−0064474号(2005年3月24日)、および米国特許出願第11/493,423号(2006年7月26日)を参照されたい。外来性配列の組み込みが、両方の対立遺伝子において遺伝子の転写領域内で生じた場合、遺伝子の不活性化が起こり得る。最終的に、内因性染色体DNA中の2つ以上の部位での標的切断は、切断部位間のゲノム配列の欠失をもたらすことができる。その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、米国特許出願公報第2006−0188987号(2006年8月24日)を参照されたい。したがって、遺伝子機能は、先述の機能のいずれかによって不活性化することができ、その全ては、1つ以上の亜鉛フィンガーヌクレアーゼを伴う内因性染色体DNAの標的切断に依存する。
【0027】
本開示は、ヒトグルココルチコイド受容体(GR)遺伝子を突然変異させるための方法および組成物を提供する。そのような突然変異は、GR機能の損失を引き起こし、対象の免疫機能の変調をもたらすことができる。ある実施形態では、GR遺伝子の突然変異は、ヒトGR遺伝子座への外来性配列の亜鉛フィンガーヌクレアーゼ介在性組み込みに起因する。付加的な実施形態では、外来性配列は、修飾受容体分子をコードする配列を備える。
【0028】
本明細書で開示される方法および組成物は、特定細胞群におけるグルココルチコイド受容体機能の永久撤廃を可能にする。このことは、例えば、患者に特定の免疫反応を生じさせることが可能な免疫細胞の一部を保持することを可能にしながら、それらの患者を免疫抑制グルココルチコイドホルモンで処置することを可能にする。
【0029】
治療的導入遺伝子に対する規定の組み込み部位としてのGR遺伝子座の使用を促進する、方法および組成物も提供する。
【0030】
概略
この方法の実践、ならびに本明細書で開示される組成物の調製および使用は、特に指示がない限り、分子生物学、生化学、染色質構造分析、計算化学、細胞培養、組み換えDNA、および当該技術分野内であるような関連分野における、従来技術を採用する。これらの技術は、文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al.MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Second edition,1989,Third edition,2001;Ausubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,New York, 1987および定期的更新、ならびにシリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY,Academic Press,San Diegoを参照されたい。
【0031】
定義
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」という用語は、相互交換可能に使用され、線形または円形配座、かつ1本鎖または2本鎖いずれかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的では、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的として解釈されない。これらの用語は、天然ヌクレオチドの既知の類似体、ならびに塩基、糖、および/またはリン酸塩部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)が修飾されたヌクレオチドを包含することができる。一般に、特定ヌクレオチドの類似体には、同じ塩基対合特異性があり、すなわち、Aの類似体は、Tと塩基対合する。
【0032】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、相互交換可能に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語はまた、1つ以上のアミノ酸が、対応する自然発生アミノ酸の化学類似体または修飾誘導体である、アミノ酸ポリマーにも該当する。
【0033】
「結合」とは、巨大分子間(例えば、タンパク質と核酸との間)の配列特異的な非共有相互作用を指す。全体としての相互作用が配列特異的である限り、結合相互作用の全ての構成要素が配列特異的である必要はない(例えば、DNA骨格中のリン酸残基と接触する)。そのような相互作用は概して、10−6 M−1以下の解離定数(Kd)によって特徴付けられる。「親和性」とは、結合の強さを指し、増加した結合親和性は、より低いKdと相関性がある。
【0034】
「結合タンパク質」は、別の分子に非共有結合することが可能なタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)、および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合、それ自身に(ホモ二量体、ホモ三量体等を形成するように)結合することができ、および/または、1つ、または複数の異なるタンパク質の1つ以上の分子に結合することができる。結合タンパク質は、2つ以上の種類の結合活性を有することができる。例えば、亜鉛フィンガータンパク質は、DNA結合、RNA結合、およびタンパク質結合活性を有することができる。
【0035】
「亜鉛フィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、構造が亜鉛イオンの配位を通して安定化される、結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である、1つ以上の亜鉛フィンガーを通した配列特異的な様式でDNAを結合する、タンパク質、またはより大型のタンパク質内のドメインである。亜鉛フィンガーDNA結合タンパク質という用語はしばしば、亜鉛フィンガータンパク質またはZFPと略される。
【0036】
亜鉛フィンガー結合ドメインは、所定のヌクレオチド配列に結合するように「遺伝子操作」することができる。亜鉛フィンガータンパク質を遺伝子操作するための方法の非限定的な例は、設計および選択である。設計された亜鉛フィンガータンパク質は、設計/組成が主に合理的基準に起因する、自然に発生しないタンパク質である。設計の合理的基準は、置換法則、および既存のZFP設計および結合データの情報を保存するデータベース中の情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムの適用を含む。例えば、米国特許第6,140,081号、第6,453,242号、および第6,534,261号を参照されたい。また、国際特許公開第WO 98/53058号、国際特許公開第WO 98/53059号、国際特許公開第WO 98/53060号、国際公開第特許 02/016536号、および国際特許公開第WO 03/016496号も参照されたい。
【0037】
「選択した」亜鉛フィンガータンパク質は、産生が主にファージ提示法、相互作用トラップ、またはハイブリッド選択等の経験的プロセスに起因する、自然にないタンパク質である。例えば、米国特許第US 5,789,538号、第US 5,925,523号、第US 6,007,988号、第US 6,013,453号、第US 6,200,759号、国際特許公開第WO 95/19431号、国際特許公開第WO 96/06166号、国際特許公開第WO 98/53057号、国際特許公開第WO 98/54311号、国際特許公開第WO 00/27878号、国際特許公開第WO 01/60970号、国際特許公開第WO 01/88197号、および国際特許公開第WO 02/099084号を参照されたい。
【0038】
「配列」という用語は、DNAまたはRNAとなり得て、線形、円形、または分岐となり得て、1本鎖または2本鎖のいずれかとなり得る、任意の長さのヌクレオチド配列を指す。「ドナー配列」という用語は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば、長さが約2から10,000のヌクレオチドの間(またはその間あるいはそれ以上の任意の整数値)、好ましくは、長さが約100から1,000のヌクレオチドの間(またはその間の任意の整数値)、より好ましくは、長さが約200から500のヌクレオチドの間となり得る。
【0039】
「相同、非相同配列」とは、第2の配列とある程度の配列同一性を共有するが、その配列は、第2の配列とは同一ではない、第1の配列を指す。例えば、変異遺伝子の野生型配列を備えるポリヌクレオチドは、変異遺伝子の配列と相同であり、非同一である。ある実施形態では、2つの配列間の相同性の程度は、正常な細胞機構を利用して、その間の相同組み換えを可能にするのに十分である。2つの相同な非同一配列は、任意の長さとなり得て、それらの非相同性の程度は、単一ヌクレオチドほども小さく(例えば、標的化相同組み換えによる、ゲノム点突然変異の補正のため)、または10キロベース以上ほども大きくなり得る(例えば、染色体中の所定の異所での遺伝子の挿入のため)。相同な非同一配列を備える2つのポリヌクレオチドは、同じ長さである必要はない。例えば、20から10,000の間のヌクレオチドまたはヌクレオチド対の外因性ポリヌクレオチド(すなわち、ドナーポリヌクレオチド)を使用することができる。
【0040】
核酸およびアミノ酸配列同一性を決定するための技術は、当該技術分野で公知である。典型的に、そのような技術は、遺伝子に対するmRNAのヌクレオチド配列を決定するステップ、および/またはそれによりコードされるアミノ酸配列を決定するステップ、およびこれらの配列を第2のヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較するステップを含む。ゲノム配列もまた、このように決定および比較することができる。一般に、同一性とは、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列のそれぞれ正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸対応を指す。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、それらの同一性率を決定することによって比較することができる。核酸またはアミノ酸配列にかかわらず、2つの配列の同一性率は、2つの整列された配列間の完全適合の数を、より短い配列の長さで除し、100を乗じたものである。核酸配列の近似整列は、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局所相同性アルゴリズムによって得られる。このアルゴリズムは、Dayhoff,Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O. Dayhoff ed.,5 suppl.3:353−358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C,USAによって開発され、Gribskov,Nucl.Acids Res.14(6):6745−6763(1986)によって正規化された、採点マトリクスを使用することによって、アミノ酸配列に適用することができる。配列の同一性率を決定する、このアルゴリズムの例示的な実施は、「BestFit」ユーティリティアプリケーションでGenetics Computer Group(Madison,WI)によって提供される。この方法の既定パラメータは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual,Version 8(1995)(Genetics Computer Group,Madison,WIより入手可能)に記載されている。本開示との関連で同一性率を確立する好ましい方法は、John F. Collins and Shane S. Sturrokによって開発され、IntelliGenetics,Inc.(Mountain View, CA)によって頒布される、University of Edinburghに著作権がある、プログラムのMPSRCHパッケージを使用するものである。このパッケージ一式からSmith−Watermanアルゴリズムを採用することができ、初期設定パラメータが採点表(例えば、ギャップオープンペナルティが12、ギャップ延長ペナルティが1、およびギャップが6)に使用される。生成されるデータから、「適合」値は、配列同一性を反映する。同一性率または配列間の類似性を計算するための他の適切なプログラムが、当該技術分野で概して公知であり、例えば、別の整列プログラムは、初期設定パラメータとともに使用されるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、次のような既定パラメータを使用して、使用することができる。遺伝子コード=標準、フィルタ=なし、鎖=両方、カットオフ=60、予期=10、マトリクス=BLOSUM62、表記=50配列、並び替え=高スコア、データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+Swissタンパク質+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、インターネットアドレスhttp://www.ncbi.nlm.gov/cgi−bin/BLASTで見ることができる。本明細書に記載される配列に関して、配列同一性の所望の程度の範囲は、約80%から100%、およびその間の任意の整数値である。典型的に、配列間の同一性率は、少なくとも70〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85〜90%、さらに好ましくは92%、なおもより好ましくは95%、および最も好ましくは98%配列同一性である。
【0041】
あるいは、ポリヌクレオチド間の配列類似性の程度は、相同領域間の安定した2本鎖を形成した後に、1本鎖特異的ヌクレアーゼによる消化、および消化された断片のサイズ決定を可能にする条件下で、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションによって決定することができる。2つの核酸または2つのポリペプチド配列は、配列が、上記の方法を使用して決定されるように、分子の規定の長さに対して少なくとも約70%〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85〜90%、さらに好ましくは92%、なおもより好ましくは95%、および最も好ましくは98%配列同一性を呈する時に、相互に実質的に相同である。本明細書で使用されるような、「実質的に相同」もまた、特定のDNAまたはポリペプチド配列への完全同一性を示す配列を指す。実質的に相同であるDNA配列は、例えば、その特定システムに対して定義されるようなストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験で識別することができる。適切なハイブリダイゼーション条件を定義するステップは、当該技術分野の範囲内である。例えば、Sambrook et al.、上記参照、Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach,editors B.D.Hames and S.J.Higgins,(1985)Oxford;Washington,DC;IRL Pressを参照されたい。
【0042】
2つの核酸断片の選択的ハイブリダイゼーションを次のように決定することができる。2つの核酸分子間の配列同一性の程度は、そのような分子間のハイブリダイゼーション事象の効率および強度に影響する。部分的同一核酸配列は、標的分子への完全同一配列のハイブリダイゼーションを少なくとも部分的に阻害する。完全同一配列のハイブリダイゼーションの阻害は、当該技術分野で周知のハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、サザン(DNA)ブロット、ノーザン(RNA)ブロット、溶液ハイブリダイゼーション等、Sambrook, et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,(1989) Cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい)を使用して評価することができる。そのようなアッセイは、様々な程度の選択性、例えば、低ストリンジェンシーから高ストリンジェンシーまで様々である条件を使用して、行うことができる。低ストリンジェンシーの条件が採用される場合、非特異的結合の非存在は、配列同一性の部分的な程度さえも欠く二次プローブ(例えば、標的分子との約30%未満の配列同一性を有するプローブ)を使用して、評価することができるため、非特異的結合事象がない場合、二次調査は標的にハイブリッド形成しない。
【0043】
ハイブリダイゼーションを用いた検出システムを利用する時、参照核酸配列に補完的な核酸プローブが選択され、次いで、適切な条件の選択によって、プローブおよび参照配列は、選択的に互いにハイブリッド形成または結合して、2本鎖分子を形成する。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で選択的に参照配列をハイブリッド形成することが可能な核酸分子は、典型的に、選択された核酸プローブの配列との少なくとも約70%配列同一性を有する、長さが少なくとも約10〜14のヌクレオチドの標的核酸配列の検出を可能にする条件下で、ハイブリッド形成する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、典型的に、選択された核酸プローブの配列との少なくとも約90〜95%配列同一性を有する、長さが少なくとも約10〜14のヌクレオチドの標的核酸配列の検出を可能にする。プローブおよび参照配列が特定の程度の配列同一性を有する、プローブ/参照配列ハイブリダイゼーションに有用なハイブリダイゼーション条件は、当該技術分野で公知のように決定することができる(例えば、Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach,editors B.D.Hames and S.J. Higgins,(1985)Oxford;Washington,DC;IRL Pressを参照されたい)。
【0044】
ハイブリダイゼーションの条件は、当業者に周知である。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーとは、ハイブリダイゼーション条件が不適合ヌクレオチドを含有するハイブリッドの形成を疎外する程度を指し、より高いストリンジェンシーは、不適合ハイブリッドに対するより低い耐性と相関性がある。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する因子は、当業者に周知であり、温度、pH、イオン強度、ならびに、例えばホルムアミドおよびジメチルスルホキシド等の有機溶媒の濃度を含むが、それらに限定されない。当業者に公知のように、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、より高い温度、より低いイオン強度、およびより低い溶媒濃度によって増加される。
【0045】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件に関して、例えば、配列の長さおよび性質、様々な配列の塩基組成、塩および他のハイブリダイゼーション溶液成分の濃度、ハイブリダイゼーション溶液中の遮断薬の有無(例えば、硫酸デキストラン、およびポリエチレングリコール)、ハイブリダイゼーション反応温度、および時間パラメータといった因子を変えることによって、ならびに洗浄条件を変えることによって、特定のストリンジェンシーを確立するために無数の同等な条件を採用できることが、当該技術分野で周知である。特定の一式のハイブリダイゼーション条件の選択は、当該技術分野の標準的方法に従って選択される(例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,(1989)Cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい)。
【0046】
「組み換え」とは、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換のプロセスを指す。本開示の目的で、「相同組み換え(HR)」とは、例えば、細胞における2本鎖切断の修復中に行われる、そのような交換の特殊形態を指す。このプロセスは、ドナーから標的への遺伝情報の転送につながるため、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、2本鎖切断を経験したもの)のテンプレート修復のために「ドナー」分子を使用し、「非交差遺伝子変換」または「短経路遺伝子変換」として様々に知られている。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、そのような転送は、破壊標的とドナーとの間に形成するヘテロ2本鎖DNAの不適合補正、および/または、ドナーが標的の一部となる遺伝子情報を再合成するために使用される「合成依存鎖アニーリング」、および/または関連プロセスを伴うことができる。そのような特殊HRはしばしば、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全体が標的ポリヌクレオチドに組み込まれるように、標的分子の配列の変異をもたらす。
【0047】
「切断」とは、DNA分子の共有結合骨格の破損を指す。切断は、リン酸ジエステル結合の酵素または化学的加水分解を含むがそれに限定されない、種々の方法によって開始することができる。1本鎖切断および2本鎖切断の両方が可能であり、2つの異なる1本鎖切断事象の結果として2本鎖切断を生じることができる。DNA切断は、平滑末端または互い違いの末端のいずれかの産生をもたらすことができる。ある実施形態では、融合ポリペプチドは、標的化2本鎖DNA切断に使用される。
【0048】
「切断ドメイン」は、DNA切断に対する触媒活性を保有する、1つ以上のポリペプチド配列を備える。切断ドメインは、単一ポリペプチド鎖に含有することができ、または切断活性は、2つ(以上)のポリペプチドの関連に起因することができる。「切断半ドメイン」は、第2のポリペプチド(同一であるか、または異なるかのいずれか)と併せて、切断活性(好ましく2本鎖切断活性)を有する複合体を形成する、ポリペプチド配列である。「第1および第2の切断半ドメイン」、「+および−切断半ドメイン」、および「右および左切断半ドメイン」という用語は、二量化する切断半ドメイン対を指すために、相互交換可能に使用される。
【0049】
「遺伝子操作されている切断半ドメイン」は、別の切断半ドメイン(例えば、別の遺伝子操作切断半ドメイン)との偏性ヘテロ二量体を形成するよう修飾されている、切断半ドメインである。参照することによりその全体において本願に組み込まれる、米国特許公報第20050064474号および第20060188987号、米国暫定出願第60/808,486号(2006年5月25日出願)も参照されたい。
【0050】
「クロマチン」は、細胞ゲノムを備える核タンパク質構造である。細胞クロマチンは、核酸、主にDNA、ならびに、ヒストンおよび非ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質を備える。真核細胞クロマチンの大部分は、ヌクレオソームの形で存在し、ヌクレオソームコアは、ヒストンH2A、H2B、H3、およびH4のうちの2つずつを備える八量体と関連する、DNAの約150の塩基対を備え、(有機体に応じて様々な長さの)リンカーDNAは、ヌクレオソームコアの間に延在する。ヒストンH1の分子は、概してリンカーDNAと関連する。本開示の目的で、「クロマチン」という用語は、原核または真核両方の、あらゆる種類の細胞核タンパク質を含有することを意図する。細胞クロマチンは、染色体およびエピソーム両方のクロマチンを含む。
【0051】
「染色体」は、細胞のゲノムの全体または一部を備える、クロマチン複合体である。細胞のゲノムはしばしば、細胞のゲノムを備える全ての染色体の集合である、その核型によって特徴付けられる。細胞のゲノムは、1つ以上の染色体を備えることができる。
【0052】
「エピソーム」は、細胞の染色体核型の一部ではない核酸を備える、複製核酸、核タンパク質複合体、または他の構造である。エピソームの例は、プラスミド、および特定のウイルスゲノムを含む。
【0053】
「到達可能領域」は、核酸中に存在する標的部位が、標的部位を認識する外因性分子によって結合され得る、細胞クロマチン中の部位である。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、到達可能領域は、ヌクレオソーム構造に梱包されないと考えられている。到達可能領域の異なる構造はしばしば、例えば、ヌクレアーゼといった、化学的および酵素プローブへのその感度によって検出することができる。
【0054】
「標的部位」または「標的配列」は、結合が存在する十分な条件が提供されれば、結合分子が結合する、核酸の一部を定義する、核酸配列である。例えば、配列5’GAATTC 3’は、Eco RI制限エンドヌクレアーゼのための標的部位である。
【0055】
「外因性」分子は、通常は細胞中に存在しないが、1つ以上の遺伝子的,生化学的、または他の方法によって細胞に導入することができる、分子である。「細胞中の通常の存在」は、細胞の特定発生段階および環境条件に関して決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生中のみに存在する分子は、成人筋細胞に関して外因性分子である。同様に、熱ショックによって誘導される分子は、非熱ショック細胞に関して外因性分子である。外因性分子は、例えば、機能不全内因性分子の機能性バージョン、または正常に機能している内因性分子の機能不全バージョンを備えることができる。
【0056】
外因性分子は、とりわけ、組み合わせ化学プロセスによって生成されるような小分子、タンパク質等の巨大分子、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、上記の分子の任意の修飾誘導体、または上記の分子のうちの1つ以上を備える任意の複合体となり得る。核酸は、DNAおよびRNAを含み、1本または2本鎖となり得て、線形、分岐、または円形となり得て、任意の長さとなり得る。核酸は、2本鎖を形成することが可能なもの、ならびに三重鎖形成核酸を含む。例えば、米国特許第5,176,996号および第5,422,251号を参照されたい。タンパク質は、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチン再構築因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ギラーゼ、およびヘリカーゼを含むが、それらに限定されない。
【0057】
外因性分子は、内因性分子と同じ種類の分子、例えば、外因性タンパク質または核酸となり得る。例えば、外因性核酸は、細胞、または通常は細胞中に存在しない染色体に導入される、感染ウイルスゲノム、プラスミド、またはエピソームを備えることができる。細胞へ外因性分子を導入する方法は、当業者に公知であり、脂質介在転移(すなわち、中性および陽イオン性脂質を含むリポソーム)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、粒子衝突、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン介在転移、およびウイルスベクター介在転移を含むが、それらに限定されない。
【0058】
対称的に、「内因性」分子は、特定環境条件下で特定発生段階において特定細胞中に通常存在するものである。例えば、内因性核酸は、染色体、ミトコンドリアのゲノム、葉緑体または他の細胞小器官、または自然発生エピソーム核酸を備えることができる。付加的な内因性分子は、タンパク質、例えば、転写因子および酵素を含むことができる。
【0059】
「融合」分子は、2つ以上のサブユニット分子が、好ましくは共有結合される、分子である。サブユニット分子は、同じ化学型の分子となり得るか、または、異なる化学型の分子となり得る。第1の種類の融合分子の例は、融合タンパク質(例えば、ZFP DNA結合ドメインと切断ドメインとの間の融合)および融合核酸(例えば、上記の融合タンパク質をコードする核酸)を含むが、それらに限定されない。第2の種類の融合分子の例は、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの間の融合、および副溝結合剤と核酸との間の融合を含むが、それらに限定されない。
【0060】
細胞中の融合タンパク質の発現は、細胞への融合タンパク質の送達、または細胞への融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの送達に起因することができ、ポリヌクレオチドは、転写され、転写産物は翻訳されて、融合タンパク質を生成する。トランススプライシングポリペプチド切断およびポリペプチドライゲーションもまた、細胞中のタンパク質の発現に関与することができる。細胞へのポリヌクレオチドおよびポリペプチド送達の方法は、本開示の別の場所で提示する。
【0061】
「遺伝子」は、本開示の目的で、遺伝子産物をコードするDNA領域(下記参照)、ならびに、そのような調節配列がコードおよび/または転写配列に隣接するか否かにかかわらず、遺伝子産物の産生を調節する全てのDNA領域を含む。したがって、遺伝子は、プロモータ配列、終結因子、リボソーム結合部位および内部リボソーム侵入部位等の翻訳調節配列、エンハンサ、サイレンサ、絶縁体、境界要素、複製起点、マトリクス取着部位、および遺伝子座制御領域を含むが、必ずしもそれらに限定されない。
【0062】
「遺伝子発現」とは、遺伝子産物への、遺伝子に含有される情報の変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造的RNA、または任意の他の種類のRNA)、またはmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質となり得る。遺伝子産物はまた、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、および編集等のプロセスによって修飾されるRNA、および、例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリスチル化、およびグリコシル化によって修飾されるタンパク質を含む。
【0063】
遺伝子発現の「変調」とは、遺伝子の活動の変化を指す。発現の変調は、遺伝子活性化および遺伝子抑制を含むことができるが、それらに限定されない。
【0064】
「真核」細胞は、真菌細胞(酵母菌等)、植物細胞、動物細胞、哺乳類細胞、およびヒト細胞(例えば、T細胞)を含むが、それらに限定されない。
【0065】
「関心の領域」は、例えば、外因性分子を結合することが望ましい、遺伝子、または遺伝子内の、あるいはそれに隣接する非コード配列等の、細胞クロマチンの任意の領域である。結合は、標的化DNA切断および/または標的化組み換えの目的となり得る。関心の領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官ゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染ウイルスゲノム中に存在することができる。関心の領域は、遺伝子のコード領域内、例えば、リーダー配列、トレーラ配列、またはイントロン等の転写された非コード領域内、または、コード領域の上流または下流のいずれかにある、非転写領域内となり得る。関心の領域は、単一ヌクレオチド対ほども小さいか、または長さが最大で2,000ヌクレオチド対、または任意の整数値のヌクレオチド対となり得る。
【0066】
「操作可能な連結」および「操作可能に連結された」(または「動作可能に連結された」)という用語は、2つ以上の構成要素(例えば、配列要素)の並置に関して相互交換可能に使用され、その場合、両方の構成要素が正常に機能し、構成要素のうちの少なくとも1つが、他の構成要素のうちの少なくとも1つに加えられる機能を媒介することができるという可能性を可能にするように、構成要素が配設される。例証として、プロモータ等の転写調節配列は、1つ以上の転写調節因子の有無に応じて、転写調節配列がコード配列の転写のレベルを制御する場合、コード配列に操作可能に連結される。転写調節配列は、概して、コード配列とシスで操作可能に連結されるが、それに直接隣接する必要はない。例えば、エンハンサは、たとえ連続的でなくても、コード配列に操作可能に連結される転写調節配列である。
【0067】
融合ポリペプチドに関して、「操作可能に連結された」という用語は、構成要素のそれぞれが、他の構成要素への連結において、そのように連結されなかった場合に果たすのと同じ機能を果たすという事実を指す。例えば、ZFP DNA結合ドメインが切断ドメインに融合される、融合ポリペプチドに関して、融合ポリペプチドにおいて、ZFP DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位を結合することが可能である一方で、切断ドメインは、標的部位の付近でDNAを切断することが可能である場合、ZFP DNA結合ドメインおよび切断ドメインは、操作可能に連結している。
【0068】
タンパク質、ポリペプチド、または核酸の「機能的断片」は、配列が全長タンパク質、ポリペプチド、または核酸と同一ではないが、全長タンパク質、ポリペプチド、または核酸と同じ機能を保持する、タンパク質、ポリペプチド、または核酸である。機能的断片は、対応する天然分子より多い、少ない、または同じ数の残基を保有することができ、および/または1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド置換基を含有することができる。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸にハイブリッド形成する能力)を決定するための方法は、当該技術分野で周知である。同様に、タンパク質機能を決定するための方法は、周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルタ結合、電気泳動移動度シフト、または免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲルの電気泳動によって化学分析することができる。上記のAusubel et al.を参照されたい。別のタンパク質と相互作用するタンパク質の能力は、例えば、免疫共沈降、2ハイブリッドアッセイ、または遺伝子学および生化学両方の相補性によって決定することができる。例えば、Fields et al.(1989)Nature 340:245−246、米国特許第5,585,245号、およびPCT国際特許公開第WO 98/44350を参照されたい。
【0069】
亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの設計
亜鉛フィンガーヌクレアーゼの構築は、例えば、米国特許出願公報第2003−0232410号、第2005−0026157号、第2005−0064474号、および第2005−0208489号に記載されており、その開示は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる。簡潔に言えば、2、3、4、5、6以上の亜鉛フィンガーを備える、非自然発生亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを、所定の標的ヌクレオチド配列に結合するように遺伝子操作する。遺伝子操作されている亜鉛フィンガー結合ドメインを、ヌクレアーゼドメイン、切断ドメイン、または切断半ドメインに融合し、標的ヌクレオチド配列またはその付近でのDNA切断が可能な、亜鉛フィンガーヌクレアーゼを形成する。ある実施形態では、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの概念設計後、標準の分子生物学的方法を使用して、亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを構築する。
【0070】
ヒトグルココルチコイド受容体遺伝子の突然変異生成を促進するための亜鉛フィンガーヌクレアーゼを、次のように設計および合成する。ヒトグルココルチコイド受容体遺伝子の関連部分のヌクレオチド配列が得られる。5〜6のヌクレオチド対によって分離される1対の標的配列に対して、個別亜鉛フィンガーおよびそれらの標的部位のリスト、および/または2指分子およびそれらの標的部位のリストを含有する、コンピュータプログラムを任意で使用して、そのようにして得られた配列を走査し、各標的配列は、3、4、5、または6指亜鉛フィンガータンパク質によって結合することができる。例えば、米国特許第6,785,613号、国際特許公開第WO 98/53057号、国際特許公開第WO 01/53480号、および米国特許出願公報第2003/0092000号を参照されたい。ZFP設計のための付加的な方法は、例えば、米国特許第5,789,538号、第6,013,453号、第6,410,248号、第6,733,970号、第6,746,838号、第6,785,613号、第6,866,997号、第7,030,215号、国際特許公開第WO 01/088197号、国際特許公開第WO 02/099084号、および米国特許出願公報第2003/0044957号、第2003/0108880号、第2003/0134318号、および第2004/0128717号に開示されている。
【0071】
前のステップで識別された各標的配列について、FokI切断半ドメインと標的配列に結合する亜鉛フィンガータンパク質との間の融合をコードする遺伝子を合成する。例えば、米国特許第5,436,150号、国際特許公開第WO 2005/084190号、および米国特許出願公報第2005/0064474号を参照されたい。各融合タンパク質は、例えば、Bartsevich et al.(2003)Stem Cells 21:632−637によって記載されるようなELISAアッセイを使用して、その標的配列に結合する親和性について検査することができる。所定の閾値を超える標的配列結合親和性を有するタンパク質は、細胞に基づいたレポーターアッセイでのさらなる検査を受けることができる。
【0072】
任意で、上記のような1つ以上の融合タンパク質の結合特異性を評価し、必要であれば、1つ以上のアミノ酸残基の変更(無作為化を含む)によって改善し、その後、標的配列に対するファージ提示アッセイ(例えば、国際特許公開第WO 96/06166号参照)、および/または米国特許第6,794,136号に記載の反復最適化の方法を行うことができる。
【0073】
細胞に基づいた検査は、例えば、Urnov et al.(2005)Nature 435:646−651、および米国特許出願公報第2005/0064474号に記載されているように行われる。簡潔に言えば、適切な細胞株において、ドキシサイクリン誘導性プロモータの転写制御下で、上記のように識別される標的配列対を、欠陥染色体緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に挿入する。2つの亜鉛フィンガー/FokI融合タンパク質(そのそれぞれは標的配列のうちの1つに結合する)をコードする核酸と、欠陥染色体GFP遺伝子の相同指向性修復に対するテンプレートの働きをする場合に、機能的GFP遺伝子を再構成する配列を含有する核酸とを、細胞に形質移入する。相同指向性修復が生じた細胞は、ドキシサイクリンによる誘導後に、蛍光活性化細胞分類によって、識別および定量することができる。
【0074】
ヒトグルココルチコイド受容体遺伝子を標的とする亜鉛フィンガー結合ドメイン
本明細書で開示される、GRの不活性化のための方法は、(1)選択した標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、(2)切断ドメインまたは切断半ドメインとを備える、亜鉛フィンガーヌクレアーゼを利用する。ヒトGR遺伝子中に標的部位を有する、任意のそのような亜鉛フィンガーヌクレアーゼを、開示された方法で使用することができる。あるいは、標的配列が適切な数のヌクレオチドによって分離される、それぞれ切断半ドメインを備える、任意の対の亜鉛フィンガーヌクレアーゼもまた、使用することができる。例えば、米国特許出願公報第2005−0064474号、Smith et al.(2000)Nucleic Acids Res.28:3361−3369、およびBibikova et al.(200I)Mol.Cell.Biol.21:289−297を参照されたい。
【0075】
ヒトGR遺伝子中に標的部位を有する、例示的な亜鉛フィンガー結合ドメインを表1および2に開示する。表1は、例示的結合ドメインの標的配列、およびGR遺伝子中の標的部位の場所を提供する。表2は、これらの結合ドメインの遺伝子操作されている認識領域(DNA結合特異性の原因となっている)のアミノ酸配列を示す。亜鉛フィンガー配列をアミノからカルボキシの順序で示し、F1は、タンパク質のアミノ末端に最も近い亜鉛フィンガーを意味する。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
切断ドメイン
GR遺伝子中の標的部位に結合する任意の亜鉛フィンガーをヌクレアーゼと組み合わせて、亜鉛フィンガーヌクレアーゼを形成することができる。上記のように、任意の切断ドメインまたは切断半ドメインを、本明細書に記載される亜鉛フィンガーヌクレアーゼで使用することができる。米国特許公報第2005−0064474号を参照されたい。したがって、本明細書で開示される融合タンパク質の切断ドメイン部分は、エンドまたはエクソヌクレアーゼから取得することができる。切断ドメインを抽出することができる例示的なエンドヌクレアーゼは、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含むが、それらに限定されない。例えば、2002−2003 Catalogue,New England Biolabs,Beverly,Mass.、およびBelfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379−3388を参照されたい。DNAを切断する付加的な酵素が公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵臓DNase I、ミクロコッカスヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼ、また、Linn et al.(eds.)Nucleases,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照されたい)。これらの酵素(またはそれらの機能的断片)のうちの1つ以上は、切断ドメインおよび切断半ドメイン源として使用することができる。ある実施形態では、切断ドメインは、分離可能な結合および切断ドメインを有するヌクレアーゼ、例えば、酵母HOエンドヌクレアーゼから取得することができる。
【0080】
例示的な切断半ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼから取得することができる。ある実施形態では、切断半ドメインは、分離可能な結合および切断ドメインを有するヌクレアーゼ、例えば、FokI等のIIS型制限エンドヌクレアーゼから取得される。また、ホモ二量体化を最小限化する、または防ぐ、遺伝子操作されている切断半ドメイン(二量化ドメイン突然変異体とも呼ばれる)が、例えば、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、米国特許出願公報第2005−0064474号および第2006−0188987号に記載されている。Fok Iの位置446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、および538におけるアミノ酸残基は全て、Fok I切断半ドメインの二量化に影響を及ぼすための標的である。
【0081】
偏性ヘテロ二量体を形成するFok Iの付加的な遺伝子操作されている切断半ドメインを本明細書に記載する。第1の切断半ドメインは、Fok Iの位置490(下記に下線を引いた、野生型配列でのE)および538(下記に下線を引いた、野生型配列でのI)におけるアミノ酸残基での突然変異を含み、かつ第2の切断半ドメインは、アミノ酸残基486(下記に下線を引いた、野生型配列でのQ)および499(下記に下線を引いた、野生型配列でのI)での突然変異を含む。
【0082】
【化1】

【0083】
上記に示されるように、490での突然変異は、Glu(E)をLys(K)と交換し、538での突然変異は、Ile(I)をLys(K)と交換し、486での突然変異は、Gln(Q)をGlu(E)と交換し、位置499での突然変異は、Ile(I)をLeu(L)と交換する。具体的には、1つの切断半ドメイン中の位置490(E→K)および538(I→K)を突然変異させて、上記に示されるような「E490K:I538K」と指定された遺伝子操作されている切断半ドメインを産生することによって、および、別の切断半ドメイン中の位置486(Q→E)および499(I→L)を突然変異させて、上に示されるような「Q486E:I499L」と指定された遺伝子操作されている切断半ドメインを産生することによって、本明細書に記載される遺伝子操作されている切断半ドメインを調製した。これらの突然変異は、ホモ二量体を形成する、E490K:I538K突然変異を含有する2つの切断半ドメインの能力低下をもたらし(野生型FokI切断半ドメインと比較して)、同様に、Q486E:I499L突然変異を含有する2つの切断半ドメインもまた、ホモ二量体を形成することができない。しかしながら、E490K:I538K突然変異を含有する切断半ドメインは、Q486E:I499L 突然変異を含有する切断半ドメインを伴うヘテロ二量体を形成して、2本鎖DNA切断が可能な機能的切断ドメインを再構成することが可能である。その上、E490K:I538K含有切断半ドメインとQ486E:I499L含有切断半ドメインとの間のヘテロ二量化は、野生型FokI切断半ドメイン間の二量化と同様の効率で生じる。したがって、本明細書に記載される遺伝子操作切断されている半ドメインは、異常切断が最小限化または撤廃される、偏性ヘテロ二量体突然変異体である。
【0084】
本明細書に記載される遺伝子操作されている切断半ドメインは、任意の適切な方法を使用して、例えば、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、米国特許出願公報第2005−0064474号(実施例5)および米国特許出願整理番号第11/493,423号(実施例38)に記載されているような、野生型切断半ドメイン(例えば、Fok I)の部位指向性突然変異生成によって、調製することができる。
【0085】
治療の方法
ある種類の癌免疫療法では、T細胞は、腫瘍細胞特異的な抗原を認識する細胞表面タンパク質を発現するように遺伝子操作され、これらの遺伝子操作されているT細胞は、対象に導入される。例えば、表面上でIL−13受容体を過剰発現する腫瘍細胞を有する、グリア芽腫患者は、腫瘍の外科的切除後に、細胞表面に係留される「ゼタカイン」を発現する細胞障害性T細胞で処置することができる。ゼタカインは、細胞外ドメインを、細胞表面、膜貫通領域、および細胞内シグナル伝達ドメインに係留することが可能な、支持領域に連結される可溶性受容体リガンドを備える、細胞外ドメインから成るキメラ膜貫通免疫受容体である。Tリンパ球の表面上で発現されると、そのようなキメラ受容体は、T細胞活性を、可溶性受容体リガンドに特異的な受容体を発現する特定の細胞に方向付ける。
【0086】
グリオーマおよびグリア芽腫の治療のために、ゼタカインは、IL−13受容体を発現する細胞を標的とする。したがって、ゼタカインは、IgGのFc領域に連結されるIL−13Rアルファ2特異性IL−13変異IL−13(E13Y)の細胞外標的ドメインと、ヒトCD4の膜貫通ドメインと、ヒトCD3ゼータ鎖とを備える、グリオーマ特異的な免疫受容体を構成することができる。そのようなゼタカインを発現するT細胞は、外科的腫瘍切除後に残っている、IL−13過剰発現グリオーマおよびグリア芽腫腫瘍細胞を検出し、破壊することが可能である。例えば、その開示が、あらゆる目的で参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Kahlon,K.S.et al.(2004)Cancer Res.64:9160−9166、および米国特許出願公報第2006−0067920号、第2005−0129671号、および第2003−0171546号を参照されたい。
【0087】
しかしながら、この方法の臨床用途は、脳腫瘍患者は、炎症および脳の腫脹を予防するために、腫瘍切除後に、グルココルチコイドホルモンでも処置しなければならないという事実によって妨げられる。このグルココルチコイド治療は、ゼタカイン含有T細胞の活性化を阻害し、したがって、それらの殺細胞活性を防ぐ。
【0088】
本明細書で開示される方法および組成物は、ゼタカイン含有T細胞におけるGR機能を根絶することを可能にすることにより、それらがグルココルチコイドの阻害効果に耐性を示すようにする。したがって、開示された方法および組成物の使用によって、術後のグリア芽腫患者は、残留腫瘍細胞を除去するように、グルココルチコイド(腫脹および炎症を予防するため)およびゼタカイン含有T細胞の両方で処置することができる。確かに、T細胞中のGR遺伝子の不活性化は、GR遺伝子座へのゼタカインをコードする配列の標的化組み込みによって実現することができ、単一ステップで両方の目的を実現する。
【0089】
したがって、ある実施形態では、GR標的化亜鉛フィンガーヌクレアーゼがT細胞で発現され、GR遺伝視座中の部位で切断する。GR標的化亜鉛フィンガーヌクレアーゼを含有する細胞は、ゼタカインをコードするドナーDNA分子と任意で接触されるため、ゼタカイン含有配列は、GR遺伝子座に組み込まれることにより、それらの細胞におけるGR機能を不活性化する。
【0090】
付加的な用途
遺伝子操作されているT細胞または単離T細胞による患者の治療は、これらの患者がまた、デカドロン等の免疫抑制剤でも処置される場合に、低下する。しかしながら、本明細書で開示されるように、GR機能を不活性化するためにGR遺伝子座を標的とするZFNを使用する、そのような治療用免疫細胞の修飾は、グルココルチコイド介在性免疫抑制を受けない免疫細胞群の生成を可能にする。本明細書に記載される方法の高い効率は、他のいずれの技術でも可能ではない、選択マーカの非存在下でのGR遺伝子の両方の対立遺伝子の同時崩壊を可能にする。T細胞は、あらゆる一次細胞のように、限定された複製能および有限寿命を有するため、GR遺伝子の両方の対立遺伝子における突然変異(ホモ接合体欠失を含む)を得ることができる速度もまた、重要な考慮事項である。
【0091】
ヒト細胞中のGR遺伝子座の配列の修飾のための、本明細書で開示される方法は、GR機能を欠く相当な数の細胞を含有する、細胞プールの生成を可能にし、また、GR活性を欠くクローン細胞株の単離も可能にする。そのような細胞は、T細胞および免疫系の他の細胞(例えば、B細胞、NK細胞、記憶細胞、マクロファージ)を含むが、それらに限定されず、その全ては、通常、グルココルチコイド受容体の作用により、グルココルチコイドホルモンの存在下で適切な活性化を受けることを妨げられる。
【0092】
上記のように、これらの方法の1つの用途は、グルココルチコイドに反応しない脳腫瘍細胞を標的にするゼタカイン発現T細胞を提供するための、ZFNの使用である。他の例は、例えば、免疫抑制剤の投与を受けている移植患者または他の免疫不全患者における、日和見感染を治療するために使用される、T細胞におけるGRのZFN媒介性不活性化を含む。
【0093】
望ましくないGR活性の付加的な臨床合併症もまた、特定の標的細胞群におけるGR活性の不活性化によって緩和することができる。これに関連して、GRの多面的活性は、部分的には、同じ遺伝子から生成される複数の受容体イソ型の存在に基づくことが注目される。例えば、Zhou,J.et al.(2005)Steroids 70:407−417を参照されたい。本明細書に記載される、ZFN介在性GR遺伝子修飾の単一ヌクレオチドレベル分解能は、組織特異的なZFN発現(例えば、両方とも参照することにより組み込まれる、米国特許第6,534,261号および米国特許出願公報第2005−0064474号を参照されたい)と組み合わせて、共に特定の組織における特定の受容体イソ型の崩壊を可能にし、他のいずれの技術でも可能ではない方法である。また、野生型GRを、選択した特定のリガンドによって独占的に調節されるイソ型と交換するために、ZFNを使用するGR遺伝子の配列の変異を使用することができる。
【0094】
逆に、GR遺伝子座における突然変異を伴う患者では、突然変異自体の補正を通して、または機能的GRをコードする配列(例えば、cDNA)の標的化挿入によってのいずれかで、選択した標的組織におけるGR活性を回復させるために、ZFN介在性ゲノム編集を使用することができる。
【0095】
本明細書で開示される方法および組成物はまた、研究用途、薬剤スクリーニング、および標的検証のための細胞株を生成するために使用することができる。例えば、本明細書で開示されるようなZFNを使用して、選択した細胞株におけるGR機能を撤廃することにより、GR機能の存在または非存在下であることのみ異なる、対応対の同系細胞株の生成を可能にする。別の例として、GR遺伝子座へのレポータ遺伝子の挿入、またはGRタンパク質へのレポータの融合は、グルココルチコイド受容体の性質および調節の高分解能研究を促進する。そのような細胞株は、研究目的で、ならびに標的検証および薬剤スクリーニングなどの産業用途で使用することができる。同様に、ZFN介在性遺伝子補正は、GR遺伝子座に特定の変化を導入して、様々な受容体ドメインおよびイソ型を研究するための細胞株を生成するために、使用することができる。
【0096】
最後に、GR遺伝子座の不活性化が介入の主要目的ではないが、修飾細胞に悪影響を及ぼさない場合、GR遺伝子座は、任意の遺伝子療法用途での任意の導入遺伝子に対する「セーフハーバー」組み込み部位として、使用することができる。したがって、本開示はまた、外来性配列がGR遺伝子に組み込まれている細胞の選択のための方法も提供する。方法は、本明細書に記載されるようなZFNで細胞中の内因性GR遺伝子を切断するステップと、外来性配列がGR遺伝子に組み込まれるような条件下で、典型的に、GR相同性アームを伴うドナー構築物上にある、外来性配列(例えば、導入遺伝子)を細胞に導入するステップとを伴う。次いで、組み込まれた配列のない細胞(正常なGR発現を伴う細胞)を破壊する、自然発生または合成コルチコステロイド(例えば、コルチゾール、デキサメタゾン等)に細胞を暴露することによって、組み込まれた外来性配列を伴う細胞を選択することができる。実施例4も参照されたい。
【0097】
亜鉛フィンガーヌクレアーゼおよびドナーDNA配列の送達のためのベクター
細胞への、亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードするDNA配列の送達、および/またはドナーDNAの送達に、任意のベクターを使用することができる。例示的なウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、レトロウイルス、およびレンチウイルスを含む。DNAはまた、形質移入、エレクトロポレーション、脂質介在性方法、遺伝子銃、およびリン酸カルシウム介在性導入によって、細胞に送達することもできる。
【0098】
本明細書で開示される方法および組成物は、永久ゲノム変異(例えば、外来性配列の標的化突然変異または標的化組み込み)を生じるために一時的事象(ZFN介在性2本鎖切断)を利用するため、細胞中で持続する送達ベクターを使用する必要はない。したがって、非複製ウイルスベクターを送達媒体として使用することができる。したがって、複製欠損アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス(例えば、Ad 5/35)、および非統合レンチウイルスベクターは全て、送達媒体として適切である。
【0099】
本用途で使用することができるアデノウイルス(Ad)ベクターの非限定的な例は、ヒトまたは非ヒト血清型に由来する、組み換え(E1欠失等)、条件付きで複製可能(腫瘍退縮性等)、および/または複製可能なAdベクター(例えば、Ad5、Ad11、Ad35、またはブタアデノウイルス−3)、キメラAdベクター(Ad5/35等)、または遺伝子操作されている繊維節タンパク質(節タンパク質のHIループ内のペプチド挿入等)を伴う指向性変異Adベクター、および/または「中身がない」Adベクター、例えば、免疫原性を低減し、かつDNAペイロードのサイズを増加させて、ZFNおよびドナー分子の両方の同時送達を可能にし、特に、大型導入遺伝子が標的化組み込みを介して組み込まれることを可能にするように、Adゲノムからの全てのアデノウイルス遺伝子が削除されている、Adベクターを含む。
【0100】
複製欠損性組み換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高力価で産生することができ、容易に多数の異なる細胞型に感染することができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1b、および/またはE3遺伝子に取って代わるように遺伝子操作され、後に、複製欠損ベクターは、トランスにおける欠失遺伝子機能を供給するヒト293細胞中に繁殖される。Adベクターは、肝臓、腎臓、および筋肉にあるもの等の、非分裂の分化細胞を含む、生体内の複数種類の細胞を形質導入することができる。従来のAdベクターは、大量運搬能力を有する。臨床試験でのAdベクターの使用の例は、筋肉注射による抗腫瘍予防接種のためのポリヌクレオチド療法を伴った。Sterman et al.(1998)Hum.Gene Ther.7:1083−1089.
【0101】
臨床試験での遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターの使用の付加的な例は、Welsh et al.(1995)Hum.Gene Ther.2:205−218;Rosenecker et al.(1996)Infection 24:5−10;Alvarez et al.(1997)Hum.Gene Ther.5:597−613、およびTopf et al.(1998)Gene Ther.5:507−513を含む。
【0102】
ある実施形態では、Adベクターは、2つ以上の異なるアデノウイルスゲノムからの配列を含有する、キメラアデノウイルスベクターである。例えば、Adベクターは、Ad5/35ベクターとなり得る。Ad5/35は、Ad5の繊維タンパク質をB群Ad35からの繊維タンパク質と交換することによって作成される。Ad5/35ベクターおよびこのベクターの特性は、例えば、Ni et al.(2005)Hum.Gene Ther.16:664−677;Nilsson et al.(2004)Mol.Ther.9:377−388;Nilsson et al(2004)J.Gene.Med.6:631−641;Schroers et al.(2004)Exp.Hematol.32:536−546;Seshidhar et al.(2003)Virology 311:384−393;Shayakhmetov et al.(2000)J.Virol.74:2567−2583、およびSova et al.(2004)Mol.Ther.9:496−509に記載されている。
【実施例】
【0103】
次の実施例は、限定的ではなく、請求された主題を例証するものとして提示する。
実施例1:ヒトGR遺伝子を標的とする亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、プラスミド送達媒体の構築
各標的配列を3、4、5、または6指亜鉛フィンガータンパク質によって結合することができる、5〜6のヌクレオチド対によって分離される1対の標的配列に対して、個別亜鉛フィンガーおよびそれらの標的部位のリスト、および/または2指分子およびそれらの標的部位のリストを含有する、コンピュータプログラムを任意で使用して、ヒトグルココルチコイド受容体(GR)遺伝子の配列を走査することによって、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインに対する標的部位を選択した。例えば、米国特許第6,785,613号、国際特許公開第WO 98/53057号、国際特許公開第WO 01/53480号、および米国特許出願公報第2003/0092000号を参照されたい。ZFP設計のための付加的な方法は、例えば、米国特許第5,789,538号、第6,013,453号、第6,410,248号、第6,733,970号、第6,746,838号、第6,785,613号、第6,866,997号、第7,030,215号、国際特許公開第WO 01/088197号、国際特許公開第WO 02/099084号、および米国特許出願公報第2003/0044957号、第2003/0108880号、第2003/0134318号、および第2004/0128717号に開示されている。
【0104】
前のステップで識別された標的配列のいくつかについて、FokI切断半ドメインと標的配列に結合する亜鉛フィンガータンパク質との間の融合をコードする遺伝子を合成した。例えば、米国特許第5,436,150号、国際特許公開第WO 2005/084190号、および米国特許出願公報第2005/0064474号を参照されたい。
そのような融合遺伝子を構築し、それらをプラスミドに導入するために、標準の分子生物学的方法を使用した。例示的な発現構築物を図1および2に示す。
【0105】
実施例2:遺伝子操作されている亜鉛フィンガーヌクレアーゼを使用する、ヒトGR遺伝子の標的切断
RPMI培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)でK562細胞(ATCC No.CCL243)を培養した。1×10細胞/mlの密度で、2×10個の細胞をペレット化し、Amaxa nucleofectionデバイス(Amaxa,Gaithersburg,MD)を使用して、2つのZFN発現ベクターのそれぞれ2.5μgを形質移入した。一式の細胞に、エクソン3標的化9666および9674結合ドメイン(表1および2参照)を備える亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードするプラスミドを形質移入した。第2の一式の細胞に、エクソン6標的化8653および9737結合ドメイン(表1および2参照)を備える亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードするプラスミドを形質移入した。対照は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするプラスミドが形質移入された細胞、および非形質移入細胞を含んだ。
【0106】
形質移入の3日後、DNeasy(登録商標)キット(Qiagen,Valencia,CA)を使用して、細胞からDNAを単離した。GR遺伝子座のエクソン3またはエクソン6のいずれかに特異的なプライマ(表3参照)を使用するPCR増幅に対するテンプレートとして、このDNA(100ng)を使用した。増幅産物を変性させ、次いで、リアニールし、リアニールした産物を不適合特異的なヌクレアーゼCel−I(Transgenomic,Omaha,NE)に暴露させた。Cel−I処置の産物を10%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。増幅産物群がヌクレオチド配列に関して同質である場合、Cel−I切断に耐性を示す完全適合2本鎖が、変性およびリアニーリング後に産生されるべきである。一方で、増幅産物の一部における挿入物、欠失、および/または不適合の存在により、増幅産物が異質である場合、リアニーリングは、Cel−I切断の影響を受けやすい、配列不適合を含有するいくつかの2本鎖を生成する。結果として、増幅産物よりも小さい産物は、ゲル上で欠失される。
【0107】
【表4】

【0108】
結果を図3に示す。非形質移入細胞からの、およびGFPをコードするプラスミドが形質移入された細胞からの、エクソン3およびエクソン6特異的なDNAの増幅産物は、同質増幅産物群を示す、変性、リアニーリング、およびCel I処置後に、単一帯域を生じる(各パネルのそれぞれ左および中央レーン)。対称的に、エクソン3における標的部位(9666および9674)を伴う亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを有する亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、プラスミドが形質移入された細胞からのエクソン3特異的な増幅産物は、変性、リアニーリング、およびCel I処置後に、2つのより小さい産物を生じる(左パネル、最右レーン)。これらのより小さい産物の存在は、リアニールされたDNA中の一意の場所での配列不適合の存在を示す。同様に、エクソン6における標的部位(8653および9737)を伴う亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを有する亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、プラスミドが形質移入された細胞からのエクソン6特異的な増幅産物は、エクソン6における標的切断を示す、(同様の分子量の)2つのより小さい産物を生じる。
【0109】
実施例3:ヒトGR遺伝子における標的切断によって誘導される突然変異の性質
RPMI培地でCEM 14細胞(M.Jensen,City of Hope Medical Center,Duarte,CAより入手したグルココルチコイド感受性リンパ細胞株)を培養した。1×10細胞/mlの密度で、2×10個の細胞をペレット化し、Amaxa nucleofectionデバイスを使用して、エクソン3標的化8667および8668DNA結合ドメイン(表1および2参照)を伴うZFNをコードするプラスミドを形質移入した。2.5μgの各プラスミドを使用した。14日間にわたる10−5Mデキサメタゾンへの暴露によって、GR機能を欠く細胞を選択し、GRエクソン3特異的なプライマ(表3参照)を使用したPCRによって、デキサメタゾン耐性細胞から単離されたDNAを増幅した。アガロースゲル上で増幅反応混合物を分画し、予測された増幅産物(GR遺伝子中のプライマ配列の場所に基づく)にサイズが対応する帯域をゲルから切除した。Topo(登録商標)クローニングキット(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用して、この帯域中のDNAをクローン化し、個別クローンのヌクレオチド配列を決定した。
【0110】
1つのクローンでは、配列分析は、標的切断の部位の付近の2ヌクレオチド欠失の存在を明らかにした。第2のクローンでは、11ヌクレオチド欠失が欠失していた。第3のクローンは、配列の混合を備え、そのうちの1つは、4つのヌクレオチドの複製であり、他方は、19ヌクレオチド欠失であった。
【0111】
これらの結果は、亜鉛フィンガーヌクレアーゼを使用したGR遺伝子の標的切断が、遺伝子における挿入および欠失両方の突然変異を誘導し、その全てが翻訳リーディングフレームの変化をもたらしたことを示す。
【0112】
これらのデキサメタゾン耐性細胞におけるRNA分析は、異常GR転写産物のナンセンス変異による崩壊を示す、非形質移入細胞と比較して、より低いレベルのGR mRNAを明らかにした。
【0113】
実施例4:ヒトGR遺伝子座への導入遺伝子の導入
グルココルチコイドホルモンは、多くの一次細胞および細胞株において、アポトーシスを誘発するか、または細胞増殖を減速する。したがって、a)GR遺伝子座のZFN介在性2対立遺伝子突然変異を含有する細胞、b)GR機能の不活性化をもたらす、GR遺伝子座の両方の対立遺伝子へのドナーDNA配列のZFN介在性標的化組み込みを含有する、細胞、またはc)GR遺伝子座の一方の対立遺伝子上のZFN介在性GR突然変異、および他方の対立遺伝子上のZFN介在性標的化組み込みを含有する細胞を、選択または豊富にするために、GR遺伝子座を標的とするZFNと組み合わせて、グルココルチコイドホルモン処置を使用することができる。
【0114】
この様式でGR遺伝子座に組み込むことができる配列は、任意の選択された導入遺伝子を伴う発現カセットを含むが、それらに限定されない。GR遺伝子座への組み込みを使用することの潜在的な便益は、a)ドナー分子上での選択マーカの使用を回避すること、b)高レベル遺伝子発現と適合性があり、サイレンシングを受けない遺伝子座からの導入遺伝子の発現の長期的安定性、c)導入遺伝子の無作為な組み込みを行うと発生し得る、挿入突然変異事象を回避することを含むが、それらに限定されない。ゼタカイン導入遺伝子を使用して、次のような実験を行った。
【0115】
別個の実験において、GR標的化ZFN 9666および9674をコードする25μgの発現構築物、およびゼタカイン導入遺伝子を用いて、RPMI培地でCEM 14細胞を培養し、形質移入した(前の実施例で記載されるように)。ゼタカインドナーZFN構築物をCEM14細胞に形質移入し、形質移入細胞のアリコートをデキサメタゾン(正常GR機能を有する細胞を破壊する)で2週間インキュベートする一方で、残りの細胞は未処置のままとした。非形質移入細胞を対照として使用し、同様に処置した。デキサメタゾン処置後、PCR(図4A)によって、およびサザンブロット法によって(図4B)、GR遺伝子座へのゼタカイン導入遺伝子の標的化組み込みを検出した。免疫染色は、GR ZFNおよびゼタカインドナー構成物の両方が形質移入された、デキサメタゾン選択CEM 14細胞中の高レベルゼタカイン発現を示す(図示せず)。
【0116】
これらの結果は、ヒトGR遺伝子中のドナー配列の標的化組み込みが実現されたこと、ドナー配列の組み込みがGR機能を不活性化したこと、およびドナー配列に含有される導入遺伝子の正常機能が得られたことを実証した。
【0117】
実施例5:GR遺伝子中の外来性配列の標的化組み込み後のGRポリペプチド産生
RPMI培地でCEM 14細胞を培養し、ゼタカインカセットを含有し、GR遺伝子への相同性領域が両側に並ぶGRエクソン3標的化ZFNペア8667および8669をコードする、25μgの発現ベクターを、上記のように形質移入した。形質移入の2日後、10−6Mデキサメタゾンを増殖培地に添加し、選択の2週間後にグルココルチコイド耐性クローンを得た。
【0118】
デキサメタゾン処置を克服した形質移入細胞からのタンパク質抽出物を全細胞溶解によって調製し、ヒトGRへの抗体(カタログ番号611226、BD BioSciences Pharmingen,San Jose CA)を使用して、ウェスタンブロット分析を行った。結果を図5に示す。野生型受容体に対応する帯域を非形質移入CEM 14細胞において検出したが(左レーン)、一方で、ZFNおよびドナー配列で処置したCEM 14細胞のクローンは、野生型受容体のサイズに対応する免疫反応物質を含有しなかった。その代わり、短縮受容体型にサイズが対応する帯域を検出した(右レーン)。
【0119】
実施例6:CD8T細胞中のヒトGR遺伝子の標的切断
AllCells(Berkeley,CA)から新鮮なヒト末梢血CD8T細胞を入手した。Amaxa nucleofectionデバイスおよびプロトコルを使用して、2×10個の細胞に、ZFNコード配列が2A配列によって分離された、ヒトGR遺伝子座のエクソン3を標的とする2つの亜鉛フィンガーヌクレアーゼをコードする、5μgの発現プラスミドを形質移入した。別個の形質移入において、2つのエクソン3標的化ZFNペア(9666−9671および9666−9674)を検査した。対照は、非形質移入細胞、および緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするプラスミドが形質移入された細胞であった。
【0120】
5%ヒト血清を含有するX−VIV015培地(両方ともCambrex,Walkersville,MDより購入)で、形質移入CD8細胞を48時間培養した。その後、DNAを単離し、それぞれ5μCiのα−32P−dCTPおよびα−32P−dATP(Perkin−Elmer,Boston,MA)をPCR反応物に添加したことを除いて、エクソン3特異的な増幅プライマを使用して、上記の実施例2に記載されるように、Cel I分析を行った。
【0121】
Cel I処置後、10%アクリルアミドゲル上で消化産物を分画した。Storm PhosphorImager(GE Healthcare,Piscataway,NJ)を使用して、ゲルのオートラジオグラフ像を現像した。結果を図6に示す。Cel I切断産物の定量によって非相同末端結合(NHEJ)の頻度を決定し、図6の右端の2つのレーンに示す。したがって、GR標的化ZFNは、効率的にCD8+T細胞中のGR遺伝子座を修飾する。
【0122】
実施例7:GR−ZFN処置CD−8T細胞の分析
A.ZFNがGR遺伝子座での突然変異を生成する
第0日に、ゼタカイン導入遺伝子を発現する5千万個のヒトCD8+T細胞(「IL−13 ZKプール」)を刺激し、第7日に、10(「ZFN10−」)、30(「ZFN30−」)、および100(「ZFN100−」)の感染の多重度(mois)で、ZFNペア9666および9674を発現するAd5/F35に感染させた。対照として、CD8+細胞はまた、同じmois(「GFP10−」、「GFP30−」、「GFP100−」)で、Ad5/F35ウイルスを発現するGFPにも感染させた。
【0123】
細胞を上記のように増殖させ、サイトカインの非存在下にて10−4Mの濃度のグルココルチコイドホルモンデキサメタゾンで、感染後7日の細胞を6日間処置した。得られた細胞プール(それぞれ、「ZFN10」、「ZFN30」、「ZFN100」、および「GFP10」、「GFP30」、「GFP100」)を再刺激し、再刺激の12日後に細胞を収穫した。DNAを単離し、ZFN標的領域のPCRによってGR遺伝子座の修飾について分析し、その後、上記の実施例2に記載されるように、Cel I Surveyor(登録商標)エンドヌクレアーゼアッセイを行った。図7のパネルAおよびBに示されるように、一時的ZFN発現は、GR遺伝子座での突然変異を伴うGC耐性CD8+T細胞を生成した。
【0124】
PCR産物はまた、PCR4 TOPOベクターにもサブクローン化し、T7プライマを使用して挿入配列を分析した。細胞プールZFN100中のGR遺伝子座のエクソン3におけるZFN標的領域の配列決定は、GR対立遺伝子の70%がZFN結合領域に突然変異を含有したことを実証した。対照的に、細胞がGFP100対照ウイルスに感染していた場合には、GR対立遺伝子に突然変異は見出されなかった。
【0125】
CD8+細胞プールのグルココルチコイドホルモン耐性はまた、8日間の10−4Mデキサメタゾンによる第2の処置前後の細胞の生存を比較することによっても決定した。Guava細胞分析器を使用して、生存能力を測定した。図8に示されるように、ZFN処置細胞は、グルココルチコイドホルモンに対する増大した耐性を示した。
【0126】
B.ZFN修飾CD8+T細胞中のGRタンパク質発現
ZFN処置CD8+T細胞はまた、全長GRタンパク質の存在についても検査した。
1つの実験では、GR(BD BioSciences)およびTFIIB(Santa Cruz Antibodies)抗体を使用したウェスタンブロット法によって、上記のCD8+細胞プールからの、およびウイルス形質導入に使用されたゼタカイン発現CD8+細胞プール(「IL−13 ZKプール」)からのタンパク質抽出物を分析した。また、細胞プールと同時に、ZFN 100プールのサブクローン(「10A1」)を分析した。図9Aに示されるように、ZFN処置CD8+T細胞は、対照と比べてGRタンパク質の損失を示した。
【0127】
別個の実験では、GRの発現はまた、ZFN処置CMV標的化CD8+サブクローンにおいても評価した。特に、本明細書に記載されるようなZFNを使用して、CMVを標的とするGR陰性CD8+細胞を生成した。これらの細胞の単一細胞由来サブクローンを単離し、上記のようにこれらのクローンからタンパク質抽出物を得た。26のサブクローンの遺伝子型決定は、2つの野生型クローン、およびZFN結合領域を備えるGR遺伝子座における突然変異を伴う24のクローンを識別した。上記のように、ヒトGR抗体(BD BioSciences)によるウェスタンブロット法によって、タンパク質抽出物を分析した。図9Bに示されるように、ZFN処置CMV標的化CD8+クローンは、GRタンパク質の損失を示した。
【0128】
したがって、本明細書に記載されるようなZFNは、一次細胞中のGRタンパク質発現を低減または排除することができる。
【0129】
C.RT−PCR
また、RT−PCRによってGR陰性(ZFN処置)CD8+T細胞を分析して、既知のGR標的遺伝子の発現に対するグルココルチコイド添加の効果を決定した。結果を図10A−10Dに示す。細胞は、示されるように、未処置のままとした(「un」)か、または10−6Mデキサメタゾンで20時間処置した(「dex」)。標準プロトコルを使用してRNAを単離し、Taqman(登録商標)プロトコル(Applied Biosystems)を使用したRT−PCRによって、様々なグルココルチコイド調節遺伝子のmRNAレベルを分析した。同じRNAサンプルから得られたGAPDHハウスキーピング遺伝子の値によって、GR標的遺伝子のRNA値を補正した。GR標的遺伝子に対するTaqmanプローブおよびプライマは、Applied Biosystemsから入手した。図10A〜Dに示されるように、グルココルチコイドホルモン処置は、ZFN処置CD8+T細胞ほどは標的遺伝子に影響しなかった。
【0130】
D.サイトカイン放出
グリオーマ細胞で刺激されたZFN処置CD8+T細胞からのサイトカイン放出も評価した。単独で、またはU87MGグリア芽腫刺激細胞の存在下で、GFP100、ZFN100、および未処置CD8+T細胞プールを培養した。その後、10−6Mデキサメタゾンを培養物に添加した。20時間後、細胞培養上清を収穫し、市販のELISAキット(R&D systems)を使用してIFN−γレベルを分析した。
【0131】
図11に示されるように、グリオーマ細胞による刺激時のZFN処置CD8+T細胞によるサイトカイン放出が維持され、グルココルチコイドホルモンに対して耐性となっていた。
【0132】
E.細胞溶解活性に対するクロム放出アッセイ
ZFN処置CD8+T細胞の細胞溶解活性を分析するために、エフェクタ(ZFN処置または対照CD8+T細胞)の標的細胞(IL13Rα2陽性細胞株および対照細胞株)に対する様々な比で、クロム放出アッセイを行った。
【0133】
図12のパネルAからEに示されるように、ZFN処置CD8+T細胞は、IL13Rα2+標的細胞を破壊する能力を維持する。
【0134】
実施例8:ZFN処置GR陰性CD8+T細胞の生体内投与
ZFN処置GR陰性CD8+T細胞はまた、生体内の殺腫瘍細胞活性についても分析した。第0日に、脳に注入されたルシフェラーゼ標識U87MG細胞を使用して、腫瘍細胞毒性を同所性グリア芽腫マウスモデルにおいて測定した。第5日に、対照またはZFN処置CD8+T細胞を脳に注入し、第24日までルシフェラーゼ活性を測定することによって腫瘍体積を決定した。
【0135】
図13に示されるように、ZFN処置GR陰性CD8+T細胞(パネルC)は、対照と比べて、腫瘍体積を低減した。その上、図14に示される実験は、マウス腫瘍モデルにおけるZFN処置GR陰性CD8+T細胞の抗腫瘍活性が、グルココルチコイドホルモンの投与によって悪影響を及ぼされなかったことを実証する。したがって、グルココルチコイドホルモンの投与を受けている患者におけるグリア芽腫の治療のために、ZFN処置GR陰性CD8+T細胞を投与することができる。
【0136】
実施例9:GR ZFN特異性の分析
細胞中のGR ZFN 9666および9674の特異性を分析するために、我々はまず、親和性に基づく標的部位選択手順(SELEX)を使用して、体外での9666および9674両方のZFNに対するコンセンサスDNA結合部位を決定した。2007年5月23日出願の米国特許整理番号第11/805,707号も参照されたい。実験概要を図15に提供する。簡潔に言えば、ビオチン化抗HA Fab抗体断片の存在下で、赤血球凝集素で標識されたZFNを無作為化DNA配列のプールによりインキュベートした。標識されたZFN−DNA複合体をストレプトアビジン被覆電磁ビーズで捕獲し、結合DNAを解放し、PCRによって増幅した。開始配列として以前に溶出および増幅したDNAのプールを使用して、このプロセスを3回反復した。4回目の反復後、溶出したDNA断片を配列決定し、ZFN 9666およびZFN 9674の結合部位における各位置での塩基頻度を決定した。
【0137】
ヒトゲノム中の最も類似した推定標的外部位のゲノム規模での生物情報予測を誘導するために、部位選択データに基づくコンセンサスを使用した。次いで、潜在的切断部位の得られたリストを順序付けし、実験的に導出された結合部位選好との最高類似性を伴う部位を優先した。
【0138】
NR3C1(GR遺伝子座)は、部位選択実験で決定された結合部位選好との最も良好な適合を含有する。15の潜在的標的外部位のうち、10が注釈遺伝子の範囲内であり、2つのみがエクソン配列内で生じる。これらの10の遺伝子のうちのいずれについても、突然変異または崩壊は、CD8+T細胞における既知の病変と関連していない。
【0139】
クローン10A1(T細胞由来クローン)の遺伝子型決定は、コンセンサスとの最高類似性を伴う15の部位のうちのいずれも、GR(標的内)遺伝子座の2対立遺伝子修飾をもたらした条件下で修飾されなかったことを確認した。
【0140】
本願で言及される全ての特許、特許出願、および公報は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる。
【0141】
理解を明確にする目的で、例証および一例として、本開示をある程度詳細に提供したが、本開示の本質または範囲を逸脱しない限り、様々な変更および修正を実践できることが、当業者には明白となるであろう。したがって、先述の説明および実施例は、限定するものとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)GR遺伝子中の標的配列を結合するように遺伝子操作されている、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)切断ドメインまたは切断半ドメインと、
を備える、融合タンパク質。
【請求項2】
前記融合タンパク質をコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
細胞中のグルココルチコイド受容体(GR)機能を不活性化するための方法であって、請求項1に記載の1対の融合タンパク質を、前記融合タンパク質が前記GR遺伝子における2本鎖切断を触媒するように、前記細胞中で発現するステップを含む、方法。
【請求項4】
ポリヌクレオチドを前記細胞に導入するステップをさらに含み、前記ポリヌクレオチドは、前記2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、前記2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域とを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドは、前記GR遺伝子と非相同である外来性配列をさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記外来性配列は、導入遺伝子を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記導入遺伝子は、修飾受容体をコードする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GR機能の不活性化は、グルココルチコイド介在性免疫抑制を防止する、請求項3から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
GR機能の不活性化は、T細胞アネルギーを防止する、請求項3から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
GR遺伝子に組み込まれた外来性配列を備える細胞を選択する方法であって、
請求項1に記載の1対の融合タンパク質を、前記融合タンパク質が前記GR遺伝子における2本鎖切断を触媒するように、前記細胞中で発現するステップと、
ポリヌクレオチドを前記細胞に導入するステップであって、前記ポリヌクレオチドは、前記2本鎖切断の上流にある配列への第1の相同性領域と、前記2本鎖切断の下流にある配列への第2の相同性領域と、前記外来性配列とを備える、ステップと、
前記組み込まれた外来性配列を備えない細胞が破壊されないような条件下で、前記細胞を天然または合成コルチコステロイドで処置することにより、外来性配列がGR遺伝子に導入されている細胞を選択するステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記コルチコステロイドは、合成である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コルチコステロイドは、デキサメタゾンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記外来性配列は、導入遺伝子を備える、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記発現するステップは、前記細胞を、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを備えるウイルス送達ベクターと接触させるステップを含む、請求項3から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ベクターは、複製欠損である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルス送達ベクターは、アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、または非統合レンチウイルスである、請求項14または請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−508850(P2010−508850A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536330(P2009−536330)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/023745
【国際公開番号】WO2008/060510
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(302043837)サンガモ バイオサイエンシズ インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】