説明

ヒトパピローマウイルスの検出

本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)が存在するヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該HPVが、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体の発現を示すものである、前記方法に関する。特に、本発明は、持続性細胞異常又は持続性CIN III病変、上皮内癌又は高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)に関するインビトロスクリーニング方法を提供する。前記方法は、子宮頸癌のスクリーニングにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV:ヒトパピローマウイルス)が存在するヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該HPVが、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体の発現を示すものである、前記方法に関する。特に、本発明は、持続性細胞異常又は持続性CIN III病変に相当する持続性形質転換HPV感染、上皮内癌又は高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)の、インビトロスクリーニング方法を提供する。前記方法は、子宮頸癌のスクリーニングにおいて有用である。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は世界中で最も一般的な悪性疾患の1つであり、女性における罹患率及び死亡率の主要原因の1つである(Parkin DM, Pisani P, Ferlay J(1993) Int J Cancer 54: 594-606; Pisani P, Parkin DM, Ferlay J (1993) Int J Cancer 55: 891-903)。米国では1996年に15,700の浸潤子宮頸癌の新規症例が予測され、世界中での年間発生数は、世界保健機関によって450,000例と推定されている(1990年)。年間発生率は世界の種々の地域において異なり、西アジアでの100,000人あたり7.6人から 南アフリカでの100,000人あたり46.8人にわたる(Parkin et al., 1993 ibid)。
【0003】
子宮頸癌の現在の概念は、しばしば10〜25年の期間にわたって発現する多段階疾患であると考えられている。子宮頸部の浸潤扁平上皮癌は、基底板の貫通及び間質又は上皮固有層の浸潤によって示される。子宮頸癌の臨床経過は大きな変動を示す。予後は、臨床病期、リンパ節の関与、原発腫瘤、組織学的タイプ、浸潤の深さ及びリンパ管内蔓延に関連してきた(Delgado G,et al., (1990) Gynecol Oncol 38: 352-357)。あまり好ましくない腫瘍特徴を有する一部の患者が比較的良好な結果を示すことがあり、また一部には初期の限定疾患が致死的結果を迎える患者もある。これは、リスクに適合した治療を投与するために、新たに診断された子宮頸癌をさらに特性付けるための付加的なマーカーの明らかな必要性を示す (Ikenberg H, et al., Int. J. Cancer 59: 322-6.1994)。
【0004】
子宮頸癌の疫学は、宗教、婚姻及び性的パターンとの強い結びつきを示した。100近い症例−対照試験がHPVと頸部新形成の関係を検討しており、ほとんど全部が明確な結びつきを認めた(IARC monographs, 1995)。その結びつきは強力で一貫しており、限られた数のウイルス型に特異的である (Munoz N, Bosch FX (1992) HPV and cervical neoplasia: review of case-control and cohort studies. IARC Sci Publ 251-261)。最も参考となる試験において、HPV 16 DNAとの強い結びつきが浸潤癌及び高悪性度CIN病変に関して顕著な一貫性を持って認められ、この結びつきが偶然、バイアス又は交絡によって説明できる可能性を排除した(IARC monographs, 1995)。間接的な証拠は、癌細胞において検出されるHPV DNAが、発癌現象におけるより早期のHPV感染の役割についての良好なマーカーであることを示唆した。ウイルス負荷の上昇と子宮頸癌の危険度の間での用量−反応関係が報告されている (Munoz and Bosch, 1992 ibid)。一部のより大きなシリーズでは、腫瘍の100%までがHPVに関して陽性であったが、ウイルス陰性子宮頸癌の存在についてはまだ論争の余地がある (Meijer CJ, et al., (1992) Detection of human papillomavirus in cervical scrapes by the polymerase chain reaction in relation to cytology: possible implications for cervical cancer screening. IARC Sci Publ 271-281; Das BC, et al., (1993) Cancer 72: 147-153)。
【0005】
扁平上皮子宮頸癌で認められる最も多いHPV型は、HPV16(41%〜86%)及び18(2%〜22%)である。加えて、HPV31、33、35、39、45、51、52、54、56、58、59、61、66及び68も認められる(IARC monographs, 1995)。バルセロナでのHPV2000国際会議において、HPV16、18、31及び45は高危険度と定義され、HPV33、35、39、51、52、56、58、59、68は中間危険度と定義された (Keerti V. Shah. P71)。高危険度プラス中間危険度の13のHPVは、しばしば合わせて癌関連HPV型と称される。
【0006】
多くの試験により、子宮頸部検診におけるHPV検査の潜在的役割が調査されている (Cuzick et al. A systematic review of the role of human papillomavirus testing withing a cervical screening programme. Health Technol Assess 3: 14.1999参照)。
【0007】
Reidらは、初めて、スクリーニングにおけるHPV検査の役割を明らかにした(Reid R, et al., (1991) Am J Obstet Gynecol 164: 1461-1469)。この試験は、性感染症クリニック及び専門婦人科医からの高危険度女性に関して実施され、HPV検出のために高感度(低ストリンジェンシー)サザンブロットハイブリダイゼーションを使用した。合計1012名の女性が登録され、頸管造影法も、細胞学検査の可能な補助検査としてみなされた。全部で23のCIV II/III病変が発見されたが、12だけが細胞学検査によって検出された(感受性52%、特異性92%)。HPV検査は16の高悪性度病変を検出した。
【0008】
Bauerらは、ルーチンスミア(routine smears)のために来院した若齢女性(大学生)におけるMY09/11プライマー(Manos M, et al., (1990) Lancet 335: 734)を使用した早期PCRベースの試験を報告している(Bauer HM, et al., (1991) JAMA 265: 472-477)。彼らは、467名の女性において46%の陽性率を認め、これはドットブロットアッセイ(11%)の場合よりもはるかに高かった。
【0009】
GP5/6プライマーによるPCRを用いた試験(Van Den Brule AJ, et al., (1990) J Clin Microbiol 28: 2739-2743) において、van der Brule et al. (Van Den Brule AJ, et al., (1991) Int J Cancer 48: 404-408)は、細胞学検査によって評価したときの子宮頸部新生物とHPV陽性の非常に強い相関を示した。細胞診陰性のより高齢女性(35〜55歳)では、HPV陽性率はわずかに3.5%であり、16、18、31及び33型だけを考慮した場合にはこれは1.5%まで低下し、一方組織学的非浸潤癌を有する女性は全てHPV陽性であり、90%は上記の4つの型のうちの1種を有していた。より軽度の細胞学的異常を有する女性は段階的により低いHPV陽性率を有しており、明らかな傾向を示した。
【0010】
Roda Housmanらは、異常スミアを有するさらなる1373名の女性を検討することによってこれらの観察を拡大させた(Roda Housman AM, et al., (1994) Int J Cancer 56: 802-806)。この試験も、スミア結果の重症度の上昇に伴う陽性率上昇を確認した。彼らはまた、HPVの不均一性のレベルが、軽度スミアについての22型から、高悪性度スミアについての10の「高危険度」型に低下することを認めた。この論文は細胞診陰性の女性を含んでおらず、また細胞学的疾患は組織学的に確認されていない。
【0011】
Cuzickらは、HPV検査が、ランダムスクリーニングの間に検出される細胞学的異常の優先順位決定のために有用な情報を提供することを初めて報告した(Cuzick J, et al., (1992) Lancet 340: 112-113; Cuzick J, et al., (1994) Br J Cancer 69:167-171)。コルポスコピーに差し向けられた133名の女性の試験において、彼らは42%の正の予測価を認め、これは中等度の核異型に関するものと同様であった。結果はHPV16に関して最も顕著であり、42名のHPV16陽性女性のうち39名が、生検で高悪性度CINを有することが認められた。この試験はウイルス負荷を評価することの重要性を指摘し、高レベルの高危険度型だけを陽性とみなした。
【0012】
Coxらは、ボーダーラインスミアを有する女性を優先順位決定するためにHybrid Capture(商標)システム(DIGENE Corporation,Gaithersburg,MD,USA)を使用するHPV検査の役割を明らかにした(Cox JT, et al., (1995) Am J Obstet Gynecol 172: 946-954)。この検査は、大学紹介サービスからの217名のそのような女性に関して実施され、反復細胞診についての73%と比較して、CIV II/IIIに関して93%の感受性を認めた。高いウイルス負荷は、偽陽性を低下させることによって性能をさらに改善することが認められた。5RLUをカットオフ値とみなしたとき、約24%のPPVが感受性を喪失していないことが認められた。
【0013】
WO91/08312号は、試料中のE6/E7 HPV遺伝子の全部又は一部の転写産物を検出することによってHPV活性のレベルを測定すること、及びHPV活性の測定値を、活性と重篤な子宮頸部形成異常又は癌への進行の危険度との間のこれまでに確立された関係と比較することを含む、HPVに感染した個人の予後を判定するための方法を述べている。
【0014】
WO99/29890号は、遺伝子発現レベルの測定と分析に基づくHPV感染の評価のための方法を述べる。特に、WO99/29890号は、2又はそれ以上のHPV遺伝子(例えばHPV E6、E7、L1及びE2)の発現のレベルを測定し、その後、患者におけるHPVに基づく疾患の病期の指標を提供するために、これらの遺伝子の組合せの発現の比率を比較することに基づく方法を述べている。
【0015】
本発明者は以前に、発現レベルの正確な定量的測定を必要とせずに、E6/E7 mRNA転写産物の発現の簡単な陽性/陰性判定だけに基づいてHPV関連疾患の臨床的に有用な評価を行うことが可能であると判定した。この方法は技術的に単純であり、好ましい実施形態では、中から高流量方式での自動化に適合させやすい。この方法は、出願人のWO03/57914号に詳述されている。
【0016】
WO03/57914号に記載の方法は、好ましくは、Norchip ASから市販されているPre-Tect HPV-Proofer(商標)キットを用いて実施される。HPV-Prooferアッセイは、3つのレベルの情報:
(1)5つの異なる特定HPV型(16、18、31、33及び45型)からのmRNAの特定;
(2)癌遺伝子HPV E6/E7 mRNAの存在の判定;及び
(3)調節不全を指示する完全長E6/E7 mRNAの存在の判定
を提供する。
【0017】
各々の試料は3つの二重NASBA反応を受け、それ故6つの結果が各試料について報告される。汚染を監視するために毎回陰性対照を含める。試薬の性能を監視するために全てのHPV型に関する陽性対照を含める。内因性細胞制御U1A mRNA(細胞ハウスキーピング遺伝子)は、偽陰性の可能性を排除するために試験手順全体を監視する。HPV-ProoferアッセイはHPV DNAを検出することはできない。自動化常用データ分析、解釈及び報告のためにはPreTech Analysis Software(PAS)が使用される。
【0018】
HPV-Prooferアッセイの有用性は少なくとも12の臨床試験で評価されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者は、今や、Pre-Tect HPV-Proofer(商標)アッセイが、HPV16、18、31、33及び45からのHPV−mRNAを検出するが、HPV粒子は検出しないことを確認した。むしろ、HPV-Prooferアッセイで測定され得るようなE6/E7転写産物の存在は、転写調節の喪失及び複製する能力の喪失、並びに/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化E6/E7mRNA前駆体の発現の指標である。Pre-Tect HPV-Prooferが感染性ウイルスであるHPV粒子を検出することは不可能である。転写調節が失われて、ウイルスが組み込まれたとき、このウイルスはウイルス粒子を生産することができないからである。HPV-Prooferを用いてE6/E7発現に関して陽性と検出された細胞の内部のウイルスは、それらの正常な生活環を捨て、全てのE6/E7転写産物からのプロモーターの転写制御の調節を喪失するか、又はスプライシング能力を失って、E6/E7転写産物を残すか又は完全長E6タンパク質をコードする完全長mRNA前駆体の安定化形態を発現する。
【0020】
本発明者はまた、HPV感染細胞におけるE6/E7 mRNA転写産物の発現が、巨大化した細胞核の存在、異数性(典型的には細胞あたり5以上又は9個の動原体)及びまた有糸分裂として特徴付けられる細胞変化と相関することを認めた。E6/E7発現に関して陽性である細胞(例えばPreTect HPV-Proofer試験を用いて)は、どこか具合の悪いところがあり、細胞異常を示すか又は大きな成熟細胞核を有する。これらの結果も、子宮頸病変の細胞学的及び組織学的特性決定と相関する。巨大細胞核及び9以下の動原体を有する細胞がない、細胞学的及び組織学的に定義された低悪性度病変は、HPV-ProoferでE6/E7 mRNA発現に関して陽性結果を与えない。
【0021】
それ故、本発明者は、ヒトパピローマウイルスのE6/E7転写産物の発現が、ヒトパピローマウイルスによる持続性感染の存在に関連する細胞異常の存在の分子指標として使用できると判定した。E6/E7発現の検出は、それ故、高悪性度と低悪性度の子宮頸病変を識別するために使用し得る。特に、E6/E7発現の検出は、異数細胞(aneuploidic cells)を伴わない組織学的に定義されたCIN III試料と異数細胞を有する試料を識別することができる;完全長E6タンパク質をコードするE6/E7 mRNAに関して陽性の試料は異数細胞を有すると評価される。E6/E7発現の検出はまた、後退に向かう組織学的に定義されたCIN III又はCIN II(HSIL症例)症例と、感染が持続する又は進行する症例とを区別することができる;完全長E6タンパク質をコードするE6/E7 mRNAに関して陽性の試料は、治療せずに放置した場合進行する可能性が高い感染があると評価される。
【0022】
本発明者はさらに、以下のように結論した:
(1)E6/E7癌遺伝子からの発現の頻度は病変の重症度と共に上昇する。
(2)場合によりHPV型別と組み合わせて、E6/E7発現の評価によってHPV腫瘍形成活性を検出することは、高悪性度病変の強力な予測因子である。
(3)子宮頸癌の圧倒的多数(96%)が、5つの主要発癌性HPV型(HPV16、18、31、33及び45)の少なくとも1種を含む。
(4)Pre-Tect HPV-Proofer(商標)でE6/E7発現に関して試験陽性であった患者は、HPV-Proofer結果が陽性でない患者よりも持続性感染を維持する可能性が有意に高かった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
従って第一態様では、本発明は、少なくとも1つの細胞又は組織中にヒトパピローマウイルスが存在するヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、前記ヒトパピローマウイルスは、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体を発現するものであり、前記方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において、完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含み、前記試料中の当該E6/E7 mRNA転写産物の存在を、前記細胞又は組織における、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体の発現を示すヒトパピローマウイルスの存在の指標とみなす、前記方法を提供する。
【0024】
第二態様では、本発明は、少なくとも1つの細胞又は組織中に巨大細胞核及び細胞異数性を特徴とする細胞変化があるヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において、完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含み、前記試料中の当該E6/E7 mRNA転写産物の存在を、検査下にある前記細胞又は組織が前記細胞変化を示すことの指標とみなす、前記方法を提供する。
【0025】
第三態様では、本発明は、少なくとも1つの細胞又は組織中にヒトパピローマウイルスの持続性形質転換感染があるヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物が発現している被験者をスクリーニングすることを含み、当該ヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現が陽性の被験者を、前記細胞又は組織においてヒトパピローマウイルスの持続性形質転換感染があると判定する、前記方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
HPV16、18、31、33又は45型の1種からの完全長E6タンパク質をコードするE6/E7 mRNA転写産物によって特定される、前記HPVサブタイプの1種による「持続性形質転換感染」は、細胞診又は組織診によって評価したとき、持続性細胞異常又は持続性CIN III病変、上皮内癌又は高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)と同等であるとみなされる。従って、本発明の第三態様の方法は、持続性細胞異常又は持続性CIN III病変、上皮内癌又は高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)と同等である、ヒトパピローマウイルスによる持続性形質転換感染についてのスクリーニング法を提供する。
【0027】
完全長E6タンパク質をコードするE6/E7 HPV mRNAの持続的存在によって定義される持続性形質転換HPV感染は、持続性CIN II+と直接相関し、それ故子宮頸部検診プログラムにおける予後マーカーとして役立つと考えられる。特に、本発明の方法は、細胞診/組織診に基づき、意味未確定の異型扁平上皮細胞(ASCUS)又は低悪性度扁平上皮内病変(LSIL)を有すると同定された女性のトリアージにおいて使用し得る。低い割合であるが、頸部上皮内癌(CIN)III及び浸潤子宮頸癌(ICC)へと進行するので、そのような患者の管理は困難である。細胞診/組織診によるフォローアップ試験は、CIN II+のより高い危険度を有する全ての女性を特定することはできない。ここで報告する臨床試験において、完全長E6タンパク質をコードする完全長E6/E7 mRNAの発現の検出は高悪性度子宮頸病変に関して著明な特異性を示し、そのような転写産物の存在が、有用な予後マーカーを提供することを示した。
【0028】
本発明の方法における陽性スクリーニング結果は、完全長E6タンパク質をコードするE6/E7 mRNA転写産物の発現の検出によって示される。E6/E7 mRNA発現についての陽性結果は、被験者が、E6/E7発現の調節の喪失を示す及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体を発現するウイルスを保有することを指示し、さらに、被験者が異常細胞変化を有することを指示する。
【0029】
ここで使用する「E6/E7調節の喪失」という用語は、全てのE6/E7転写産物からのプロモーターの転写制御の調節の喪失、又はE6/E7オープンリーディングフレームにおける正常なスプライシング能力の喪失を意味する。
【0030】
「安定化mRNA前駆体」という用語は、E6オープンリーディングフレーム内でいかなるスプライシング事象も受けておらず、それ故完全長タンパク質をコードし、同じHPVサブタイプの天然又は野生型ヒトパピローマウイルスによって発現される完全長E6タンパク質をコードする等価の一次(スプライシングされていない)E6/E7転写産物よりも安定である(すなわちより長い半減期を示す)、一次(primary)E6/E7転写産物を言う。天然又は野生型ヒトパピローマウイルスは、ヒト宿主の持続性感染に関連するゲノム修飾を有さず、ヒトゲノム内に組み込まれていないウイルスを指す。そのような天然又は野生型ウイルスはまた、完全長mRNA前駆体が有意の程度まで細胞内に蓄積しないように、E6/E7mRNA前駆体又は完全長mRNA転写産物のスプライシングが転写後すぐに起こることを特徴とする。そこで、mRNA前駆体は翻訳が起こり得る以前にスプライシング装置によってプロセシングされるので、mRNA前駆体は一般に、天然又は野生型ウイルスに感染した細胞では完全長E6タンパク質を与えるように翻訳されない。しかし、持続性形質転換HPV感染に関連する異常を有する細胞では、mRNA前駆体が安定化される及び/又はスプライシングされず、それ故正常細胞又は正常増殖細胞、例えば複製HPVに感染した細胞、では認められないレベルまで細胞内に蓄積することができる。
【0031】
天然又は野生型ウイルスにおいて発現される一次E6/E7(スプライシングされていない)転写産物に関して、安定化mRNA前駆体は、E6タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの外側の転写産物の領域において、例えばウイルス組込みの結果としてヒトゲノムから転写されたmRNA配列の付加によって又はHPV配列の欠失によって、修飾され得る。それ故安定化mRNA前駆体は、天然又は野生型ウイルスにおいて発現されるE6/E7一次(スプライシングされていない)転写産物とは異なる配列及び構造であり得るが、依然として完全長E6タンパク質をコードする。
【0032】
「異常細胞変化」という用語は、多倍体DNA特性を有する病変及び高い平均DNA指数値、DNA異数性の高いパーセンテージ及び2.5c Exceeding Ratesを有するCIN病変を含む、高悪性度CIN(形質転換細胞の腫瘍性増殖と定義される)、CIN(頸部上皮内癌)III、又は高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)に等しいか又はそれ以上の重症度の疾患の特徴である細胞変化を含む、低悪性度子宮頸病変又は低悪性度扁平上皮内病変よりも重症の疾患の特徴である細胞変化を包含する(Hanselaar et al., 1992, Anal Cell Pathol., 4: 315-324; Rihet et al., 1996, J. Clin Pathol 49: 892-896; and McDermott et al., 1997, Br. J. Obstet Gynaecol. 104: 623-625)。
【0033】
子宮頸部形成異常とも呼ばれる、頸部上皮内癌(「CIN」と略称する)は、ヒトパピローマウイルスによって引き起こされる子宮頸部の状態である。CINはその重症度によってI、II又はIIIと分類される。前癌性異常とみなされるが、実際の癌ではない。最も軽度の形態、CIN Iは、通常は自然に消失するが、まれに癌へと進行することがある。より重症の形態であるCIN II及びCIN IIIは、ほとんどの場合同じ状態にとどまるか又は時間と共に悪化する。それらは癌になり得るが、適切に治療すればほとんどの場合癌になることはない。
【0034】
HPVは、子宮頸癌の発症を導き得る、子宮頸部の細胞変化の発現における病原因子として特定された。これらの細胞変化は、HPVウイルスゲノムからのE6/E7タンパク質の構成的又は持続的発現に関連する。それ故、E6/E7 mRNAの発現が検出できる被験者、特に経時的に評価したとき持続的E6/E7発現を示す被験者は、既に子宮頸部の細胞変化を発現していると結論することができる。これらの変化は、子宮頸部のごくわずかな細胞においてのみ起こり得るものであり、従来の細胞診では検出不能であると考えられる。それにもかかわらず、E6/E7 mRNAの検出のための高感度で、特異的且つ正確な方法の使用により、従来の細胞学的スクリーニングを用いて可能であるよりもはるかに早期の段階で、既に子宮頸部の細胞変化を示す被験者を特定することが可能である。これは、子宮頸癌の発症を予防することを目指す治療による早期の介入措置を可能にする。
【0035】
ヒトゲノムへのHPV組込みの結果として又は改変されたエピソームHPVゲノムにおける「修飾」の結果として、ウイルスのE6/E7癌遺伝子転写の正常な制御が失われる(Durst et al. , 1985, J Gen Virol, 66 (Pt 7): 1515-1522; Pater and Pater, 1985 Virology 145: 313-318; Schwarz et al., 1985, Nature 314: 111-114; Park et al., 1997, ibid)。これに対し、前悪性病変及びHPVに感染した正常上皮においては、パピローマウイルスは主として「非修飾」エピソーム形態であり、それ故癌遺伝子(E6/E7)転写は存在しないか又は効率的に下方調節され得る (Johnson et al., 1990, J Gen Virol, 71 (Pt 7): 1473-1479; Falcinelli et al., 1993, J Med Virol, 40: 261-265)。ヒトゲノムへのヒトパピローマウイルス16型DNAの組込みは、より不安定な細胞活性/ゲノム、及びE6及びE7 mRNAの安定性上昇を導くことが認められる (Jeon and Lambert, 1995, Proc Natl Acad Sci USA 92: 1654-1658)。そこで、子宮頸癌において典型的に認められるが、ごくまれにCIN病変でも存在するHPV組込みは(Carmody et al., 1996, Mol Cell Probes, 10: 107-116)、子宮頸癌発生における重要な事象であると思われる。
【0036】
臨床状況では、E6/E7 mRNAの発現のスクリーニングだけに基づく方法の性能は、確信を持ってE6/E7 mRNA発現についての陰性結果を評価する能力に決定的に依存する。これもやはり、最大の感受性を備え、さらに最小の偽陰性結果を生じる検出手法を必要とする。好ましい実施形態では、これは、E6/E7 mRNAの存在又は不在をスクリーニングするための高感度増幅とリアルタイム検出手法を用いることによって達成される。最も好ましい手法は、Leone et al., Nucleic Acids Research., 1998, Vol 26, 2150-2155に記載された、分子指標(molecular beacons)プローブを用いるリアルタイムNASBA増幅である。この手法の感受性の故に、偽陰性結果の発生は最小限に抑えられ、より大きな確信を持って「陰性E6/E7発現」の結果を評価することができる。臨床スクリーニングプログラムに関連してアッセイを使用しようとする場合、これは極めて重要である。
【0037】
HPV16、18、31、33及び45型のいずれか1種又はそれ以上(より好ましくは全部)からのE6/E7 mRNA転写産物の発現に関してアッセイすることが好ましい。1つの実施形態では、上記アッセイはこれらのHPV型のみ検出し得る。ノルウェー人の試験母集団において子宮頸癌標本の96%以上でHPV16、18、31及び33型からのDNAが検出された。他の試験は、E6及びE7の発現は悪性状態への転換及び維持のために必要であると考えられるので、E6及びE7が子宮頸癌においてほとんど不変的に保持されることを示した(Choo et al., 1987, J Med Virol 21: 101-107; Durst et al., 1995, Cancer Genet Cytogenet, 85: 105-112)。非損傷ゲノム又はL1遺伝子配列の検出に基づくHPV検出系と異なり、E6/E7領域から発現されるHPV mRNAの検出は、子宮頸癌を発症する危険度に直接関係する患者の90%以上を検出し得る。
【0038】
臨床では、E6/E7 mRNAの検出に基づく方法は、ポストスクリーニング又は優先順位決定において、すなわちASCUS、CIN 1又はコンジロームの診断歴を有する個人のさらなる分析において使用し得る。前記方法は、ASCUS、CIN 1又はコンジロームの過去の診断歴を有する個人の群から、子宮頸癌を発症する危険度の高い個人を選択するために使用し得る。ASCUS、コンジローム及びCIN Iは、異なる細胞学者及び異なる細胞学科の間での非常に低い再現性の故に、大なり小なり同じ診断と定義し得る。Ostor (Int J. Gyn Path. 12: 186-192.1993)は、CIN I症例の約1%だけが子宮頸癌に進行し得ることを認めた。それ故、子宮頸癌を発症する実質的な危険性がある、ASCUS、コンジローム又はCIN Iを有する個人のサブセットを特定する効率的な方法が強く求められている。Karlsen et al., 1996 による子宮頸癌症例試験の87%においてHPV16、18、31及び33型のうちの1種が検出された。HPV45型を含めると、子宮頸癌標本のほぼ90%がこれら5つのHPV型に関連することが認められる。それ故、Ostor (Int J. Gyn Path. 12: 186-192.1993) によって提供されたデータから算定すると、見逃されるASCUS、CIN I又はコンジロームを有する症例の99.9%以上が、本発明者らのHPV-Prooferキットによって検出される。
【0039】
本発明の方法の高い感受性と特異性は、子宮頸癌を発症する危険度が高い又は非常に高い女性の検出のための一次スクリーニング、反射試験キット又は常用診断において有用であり得ることを意味する。
【0040】
本発明の方法では、mRNAの「陽性発現」は、バックグラウンドを上回る発現を意味すると解釈される。E6/E7 mRNA発現のレベルの正確な定量的測定の絶対的必要性は存在しない。
【0041】
ある実施形態では、本発明の方法は、mRNA発現のレベルの定量的測定を含み得る。好ましい実施形態では、「陽性発現」と「陰性発現」の明らかな識別を与えるために、「陽性発現」の判定は関連mRNAの50コピー以上(試料1mLあたり又は試料の総容量あたり)の存在を必要とし、一方「陰性発現」の判定は関連mRNAの1コピー以下(試料1mLあたり、又は試料の総容量あたり)の存在を必要とし得る。
【0042】
本発明の方法は、好ましくは、癌関連HPV型、より好ましくは「高危険度」癌関連HPV型からE6/E7 mRNAを特異的に検出することができる手法を用いてE6/E7 mRNAをスクリーニングすることを含む。前記最も好ましい実施形態では、前記方法は、HPV16、18、31及び33型、及び好ましくは45型からE6 mRNAを検出することができる手法を用いてE6/E7 mRNAをスクリーニングすることを含む。最も好ましくは、この方法は、HPV16、18、31、33型、及び好ましくは45型の少なくとも1種、最も好ましくは5種の型全部からE6/E7 mRNAの発現を特異的に検出する。しかし、16、18、31、33及び45以外の他の型から、例えば35、39、45、52、56、58、59、66及び68からのE6/E7の発現に関して陽性の女性は、なお細胞異常を示し得る。そこで、本発明の方法は、最も好ましくはHPV16、18、31、33及び45型からのE6/E7 mRNAに関するスクリーニングに加えて、これらのHPV型の1又はそれ以上からのE6/E7 mRNAの発現に関してスクリーニングすることを含み得る。ある種のHPV型は、著明な地理的/個体群(population)分布を示す。それ故、例えばHPV16、18、31、33及び45型についてのスクリーニングに加えて、試験下にある個体群/地理的領域において一般的であることが知られるHPV型に特異的なプライマーを含めることが適切であると考えられる。
【0043】
本発明の方法は、完全長E6タンパク質をコードするHPV型の一部又は全部の完全長E6/E7 mRNA転写産物の検出に基づくものである。これらの実施形態では、完全長E6/E7 mRNAの存在を陽性スクリーニング結果とみなす。
【0044】
「完全長E6/E7 mRNA転写産物」という用語は、天然に生じるスプライス変異体を除外するが、機能性完全長E6及びE7タンパク質をコードする2シストロン性転写産物を包含する。これまでに4つのE6/E7 mRNA種、すなわちスプライシングされていないE6転写産物及びE6*I、E6*II及びE6*IIIと表わされる3つのスプライシングされた転写産物が、HPV16に感染した細胞において記述されている(Smotkin D, et al. , J Virol. 1989 Mar 63 (3): 1441-7; Smotkin D, Wettstein FO. Proc Natl Acad Sci USA. 1986 Jul 83 (13): 4680-4; Doorbar J. et al., Virology. 1990 Sep 178(1) : 254-62; Cornelissen MT, et al. J Gen Virol. 1990 May 71 (Pt 5): 1243-6; Johnson MA, et al., J Gen Virol. 1990 Jul 71 (Pt 7): 1473-9; Schneider-Maunoury S, et al., J Virol. 1987 Oct 61 (10): 3295-8; Sherman L, et al. Int J Cancer. 1992 Feb 50 (3): 356-64)。4つの転写産物全てが、E6 ORFの2番目のATGのすぐ上流に位置する単一プロモーター(p97)から転写される。HPV16の場合は、「完全長E6/E7転写産物」という用語は、E6 ORF内のヌクレオチド97−ヌクレオチド880まで(ヌクレオチド97及び880を含む)の領域の全部又は実質的に全部を含む転写産物を指す。ヌクレオチド位置は標準HPV命名法に従って番号付けている(Human Papillomavirus Compendium OnLine参照、インターネットを通して又はHV Database,Mail Stop K710,Los Alamos National Laboratory,Los Alamos,NM 87545,USAより書類形態で入手可能)。
【0045】
HPV16以外のHPV型に関しては、「完全長」E6/E7転写産物は、HPV16 E6/E7転写産物の上述した領域に相同な配列を含む転写産物を含み、E6スプライス変異体を除外すると解釈される。HPV型の様々な配列アラインメントがHuman Papillomavirus Compendium OnLineによって公的に入手可能である。
【0046】
完全長E6/E7 mRNA転写産物の特異的検出は、例えば完全長E6/E7転写産物にのみ存在し、スプライス変異体には存在しない領域に特異的なプライマー又はプローブを使用して、達成し得る。
【0047】
E6*I転写産物は、ヌクレオチド226と409との間にコード配列の喪失を示し(HPV16型において)、E6*II転写産物は、ヌクレオチド226と526との間にコード配列の喪失を示す(HPV16型において)。それ故、HPV16型のヌクレオチド226と409との間に位置する領域又はHPV18、31、33又は45型の1種からの相同領域から少なくとも1個のプライマー又はプローブを使用することが好ましい。完全長転写産物に対する特異性は、好ましくはこの領域内に位置する配列に特異的なプローブと共に、1個のプライマーがこの領域内に位置する配列に特異的であり、他方のプライマーがこの領域の外側に位置する配列に特異的であるプライマー対、又は両方のプライマーがこの領域内の配列に特異的であるプライマー対を使用することによって達成できる。他の実施形態では、完全長E6をコードするmRNAに対する特異性を付与するために、この領域内の配列に特異的なプローブと組み合わせて、両方のプライマーがこの領域の外側の配列に特異的であるプライマー対を使用することも可能であり得る。
【0048】
異なるHPV型は、E6/E7 mRNA発現の異なるパターンを示す。完全長E6/E7転写産物の検出のためのプローブ又はプライマーの設計を助けるために使用し得る、HPV16及び31型を含む、様々なHPV型についての転写産物地図は、Human Papillomavirus Compendium(上記の通り)によって公的に入手可能である。
【0049】
アッセイ方法
本発明の方法は、少なくとも1つの細胞又は組織において、より詳細には少なくとも1つの細胞又は組織からのRNAを含む試料において、E6/E7転写産物の存在をスクリーニングすることを含む。前記の少なくとも1つの細胞又は組織は、ヒトパピローマウイルスによる感染に対して感受性である型の少なくとも1種の頸部細胞、すなわち頸部上皮細胞を含み得る。
【0050】
開示されるスクリーニング方法は、試験する被験者から採取した頸部細胞を含む臨床試料又は生検から単離された核酸の標本に関して実施し得る。核酸のソースとして使用し得る適切な試料は、子宮頸部スワブ、子宮頸部生検、子宮頸部切屑、刷毛及び綿球等を使用して採取した試料、皮膚生検/いぼ、またパラフィン包埋組織、及びホルマリン又はメタノール固定細胞を含む(しかし、排他的ではない)。
【0051】
開示する方法を用いてスクリーニングする核酸の標本はmRNAを含まねばならないが、精製ポリA+mRNAの標本である必要はなく、全RNAの標本又はRNAとゲノムDNAの両方を含む全核酸の粗標本、あるいはさらに粗細胞溶解産物も、NASBA反応のための出発物質として適する。基本的にmRNAを含む核酸の標本の単離のための当技術分野で公知のいかなる手法も、被験試料から核酸を単離するために使用し得る。好ましい手法は、米国特許出願第5,234,809号及び欧州特許公開公報第EP−B−0389,063号に述べられている「Boom」単離法である。これはRNAとDNAの両方を含む核酸標本を単離するために使用でき、カオトロピック試薬、グアニジンチオシアネート(GuSCN)の存在下での二酸化ケイ素粒子の核酸結合特性に基づく。
【0052】
本発明の方法は、HPVゲノムの活発な転写の評価に基づく。この方法は、mRNA発現を検出するために使用される厳密な手法に関するものにに限定されない。特定mRNA配列の検出のための多くの手法が当技術分野において公知であり、本発明に従って使用し得る。例えば特定mRNAは、ハイブリダイゼーション、増幅又は配列決定手法によって検出し得る。
【0053】
増幅手法によって、最も好ましくは等温増幅、例えばNASBA、転写媒介性増幅、RNAのシグナル媒介性増幅テクノロジー、等温溶液相増幅等によってmRNA発現を検出することが最も好ましい。これらの方法は全て当技術分野において周知である。より好ましくは、増幅産物のリアルタイム検出と組み合わせた等温増幅によってmRNA発現を検出する。最も好ましい組合せは、Leone et al., Nucleic Acids Research, 1998, Vol 26, 2150-2155によって述べられているような、分子指標テクノロジーを用いた増幅産物のリアルタイム検出と組み合わせた、NASBAによる増幅である。
【0054】
NASBA手法を用いた被験試料中のHPVの検出のための方法は、一般に以下の工程:
(a)適切なプライマー対、RNA依存性DNAポリメラーゼ、一本鎖又は二本鎖RNA又はDNAを加水分解することなくRNA−DNAハイブリッドのRNA鎖を加水分解するリボヌクレアーゼ、前記プロモーターを認識するRNAポリメラーゼ、及びリボヌクレオシド及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む反応媒質を作製すること;
(b)反応媒質を、NASBA増幅反応を許容する反応条件下で、HPVを含むことが予測される被験試料から単離した核酸の標本と共にインキュベートすること;及び
(c)NASBA増幅反応の何らかのHPV特異的産物を検出すること及び/又は定量的に測定すること
を含む。
【0055】
NASBA反応の特異的産物(すなわち標的RNAのセンス及び/又はアンチセンスコピー)の検出は、多くの異なる方法で実施し得る。1つのアプローチでは、NASBA産物を特異的にアニーリングすることができるHPV特異的ハイブリダイゼーションプローブを使用してNASBA産物を検出し得る。ハイブリダイゼーションプローブは、検出標識、例えば蛍光、発光、放射性又は化学発光化合物又は酵素標識又は当業者に公知の他の何らかの種類の標識に結合し得る。標識の厳密な性質は決定的に重要ではないが、それ自体であるいは1又はそれ以上の付加的な物質(例えば酵素についての基質)と共に、外部からの手段によって検出可能なシグナルを生成し得ることを要する。
【0056】
好ましい反応方法は、反応の経過と共にNASBA反応の産物の形成を持続的に観測することができる、いわゆる「リアルタイムNASBA」である。好ましい実施形態では、これは、当技術分野で公知であり、ここで説明するように、NASBA産物にアニーリングすることができるHPV特異的配列を含む「分子指標」プローブ、ステム−二本鎖形成オリゴヌクレオチド配列及び一対の蛍光/消光成分を用いて達成し得る。増幅の前に分子指標プローブを反応混合物に添加すれば、NASBA産物の形成をリアルタイムで観測することが可能となり得る(Leone et al., Nucleic Acids Research, 1998, Vol 26, 2150-2155)。リアルタイムNASBA検出を実施するための試薬キット及び装置は市販されている(例えばNucliSens(商標) EasyQshisutemu、Organon Teknikaより)。
【0057】
さらなるアプローチでは、分子指標テクノロジーを、別々のハイブリダイゼーションプローブを必要とせずにNASBA反応のリアルタイム観測を可能にするプライマー2オリゴヌクレオチドに組み込み得る。
【0058】
さらなるアプローチでは、プライマー2オリゴヌクレオチドの5’末端のヌクレオチド配列にハイブリダイズする一般的標識検出プローブを用いてNASBA反応の産物を観測し得る。これはOrganon Teknikaによって供給される「NucliSens(商標)」検出システムに相当する。このシステムでは、固体支持体、例えば磁気マイクロビーズに結合した、ここで述べるようなプローブオリゴヌクレオチドを含むHPV特異的捕獲プローブを使用することにより、標的HPV mRNAに由来するNASBA産物に対する特異性を付与し得る。最も好ましくは、一般的標識検出プローブは、Organon Teknikaによって供給されるECL(商標)検出プローブである。NASBAアンプリコンをHPV特異的捕獲プローブ及び一般的ECLプローブにハイブリダイズさせる(プライマー2上の相補的配列によって)。ハイブリダイゼーション後、ビーズ/アンプリコン/ECLプローブ複合体を自動ECLリーダー(例えばOrganon Teknikaによって供給されるNucliSens(商標)リーダー)の磁気電極で捕獲し得る。その後、電圧パルスがECL(商標)反応を開始させる。
【0059】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも主要な癌関連HPV型である16、18、31及び33型、及び好ましくはHPV45型からのE6/E7 mRNAの増幅に基づくものである。これを達成することができるいくつかの異なる方法がある。
【0060】
1つの実施形態では、HPV16、18、31及び33型、及び好ましくはHPV45型の各々に特異的な別々のプライマー対を、各々のHPV型からの転写産物を個別に増幅するために使用し得る。あるいは、増幅反応の多重化を可能にするために単一容器内で2又はそれ以上のプライマー対の混合物を使用し得る。
【0061】
さらなる実施形態では、HPV16、18、31及び33型、及び好ましくはHPV45型からのE6/E7遺伝子の領域を増幅することができる単一プライマー対を使用してもよく、これは、単一増幅反応において4つ(好ましくは5つ)の型全部の増幅を可能にする。これは、例えば縮重プライマーの対を使用して又はHPV型全体にわたって高度に保存されているE6/E7 mRNAの領域を選択することによって達成できる。
【0062】
E6/E7プライマー対はE6/E7 mRNAのいずれの領域に対応してもよく、E6オープンリーディングフレーム及び/又はE7オープンリーディングフレームの全部又は一部の増幅を可能にし得る。好ましくは、完全長E6タンパク質をコードする完全長転写産物の増幅を可能にする。
【0063】
さらなるアプローチでは、縮重オリゴヌクレオチドプライマー又は、好ましくはHPV遺伝子型間での配列変異の部位に対応する、小さな配列変異を示すポリヌクレオチドの複合混合物の使用によって、多数のHPV型についての特異性を実現し得る。そのような縮重プライマー又は混合物の使用の背後にある理論的根拠は、混合物は各々のHPV型を検出することができる少なくとも1種のプライマー対を含み得るということである。
【0064】
さらなるアプローチでは、好ましくはHPV遺伝子型間での配列変異の部位で、1又はそれ以上のイノシンヌクレオチドをプライマーに組み込むことによって多数のHPV型に対する特異性を達成し得る。
【0065】
様々なHPV型からのE6/E7 mRNAの検出のために使用し得る適切なプライマー及びプローブのリストは、WO03/057914号及びWO03/057927号に見出し得る。WO03/057914号及びWO03/057927号の内容全体が参照してここに組み込まれる。
【0066】
本発明の方法は、好ましくはPre-Tect HPV-Proofer(商標)アッセイ及びキットを用いて実施される。しかし、本発明がこの特定アッセイの使用に限定されないことは了解されるべきである。
【0067】
本発明の方法は、子宮頸、子宮体及び/又は子宮頸管の全体又は部分からの実際に組織診陰性である代表的試料を陰性と評価する。これは、Pre-Tect HPV-Proofer(商標)をこれまでに開発された最も有望な一次スクリーニング法の1つにする、卓越した特異性を提供する。
【0068】
子宮頸癌を発症する危険度の高い女性の診断のためにPre-Tect HPV-Proofer(商標)だけを使用することの特異性は、年齢及び仕事とは無関係であり、市販のDNAに基づくアッセイ単独よりも3倍以上高い特異性であることが証明された。
【0069】
E6/E7転写産物の検出は、反復試験を実施する必要なしに高危険度感染が持続し得るかどうかを特定する潜在的可能性を有する。E6/E7癌遺伝子からの発現の頻度は病変の重症度と共に上昇する。
【0070】
本発明の方法は、何らかの適切な方法によるHPV遺伝子型決定と組み合わせて実施し得る。「HPV遺伝子型決定」という用語は、所与の個体中に存在するHPVサブタイプの特定を可能にする手法である。HPVタイピングと組み合わせたE6/E7発現の検出によるHPV腫瘍形成作用の評価は、高悪性度病変の強力な予測因子となる見込みがある。
【0071】
本発明は、以下の実験実施例を参照してさらに理解される。
【0072】
Pre-Tect HPV-Proofer(商標)アッセイ
Pre-Tect HPV-Proofer(商標)キット及びアッセイの使用に関係する全ての実験実施例に関し、当該アッセイは、供給される指示書に従って市販のキットを用いて実施した。HPV E6/E7 mRNAのリアルタイム検出のためのアッセイの操作に関するさらなる情報は、その内容全体が参照してここに組み込まれる、WO03/057914号に認められる。
【0073】
以下の実験章は、Pre-Tect HPV-Proofer(商標)アッセイ及びキットを使用して得られた臨床データを要約するものである。
【実施例1】
【0074】
外来患者母集団から収集した4136の子宮頸部試料における発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)からのE6及びE7 mRNA発現

この試験の目的は、組織診によって確認された細胞学的HGSIL/CIN3試料においてE6/E7 mRNA及びDNAの存在を特定することであった。
【0075】
材料及び方法:
試料は、30歳以上の女性(n=4136)を含む、十分にスクリーニングされた外来患者母集団から収集した。高危険度HPV型である16、18、31、33及び45型の各々からのE6/E7転写産物を、リアルタイム多重NASBAに基づき、Pre-Tect HPV-Prooferアッセイ(NorChip AS,Klokkarstua、Norway)によって検出した。HPV DNAの存在をGp5+/6+コンセンサスPCRによって検討し、その後HPV DNA陽性試料をHPV16、18、31、33及び45型についての型特異的PCRに供した。細胞学的HGSIL診断を有する女性を生検及び組織診に差し向けた。
【0076】
組織診で確認された症例をノルウェー癌登録(Norwegian Cancer Registry)に登録した。ノルウェーでは、細胞学的HGSILは、HGSIL/AGUS、HGSIL/ASC−H、HGSIL/CIN2及びHGSIL/CIN3に分類することができる。
【0077】
結果:
25の細胞学的HGSIL症例のうちで、14例がCIN2+として組織診で確認された。組織学的CIN2+の2症例は、細胞診によってHGSIL/ASC−H及びHGSIL/CIN2と診断された。Pre-Tect HPV-Prooferは、細胞学的HGSIL症例の52%(13/25)、組織学的CIN2+症例の86%(12/14)、及び組織診によって確認されなかった細胞学的HGSIL症例の9%(1/11)を検出した。Gp5+/6+ PCRに関する数は、それぞれ64%(16/25)、93%(13/14)、及び27%(3/11)である。コンセンサスPCRによって陽性であるが、Pre-Tect HPV-Prooferでは陰性の、組織学的CIN2+の1試料は、HPV35と特定された。HGSIL/CIN3の有病率は0.29%(12/4136)であり、組織学的CIN2+の有病率は56%(14/25)であった。Pre-Tect HPV-Proofer及びコンセンサスPCRについての感受性、特異性、及び正及び負の予測価を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
考察及び結論:
細胞学HGSIL/CIN3症例と組織学的CIN2+症例の間で良好な一致があったが、細胞学的HGSIL/CIN3の1例だけが組織診によってCIN2+と確認されなかった。組織診で確認されたCIN2+症例では、HPV DNA及びmRNAの両方に関して検出程度は高く、ほぼ同じであった。組織診によって確認されなかった細胞学的HGSIL症例では、PreTect HPV-Prooferについての検出程度はコンセンサスPCRに関するよりも低かった。合わせて考慮すると、細胞学的HGSIL/CIN3及びPreTect HPV-Prooferは全ての組織学的CIN2+を検出した。
【0080】
結論として、5つの最も頻繁に認められる発癌性HPV型、HPV16、18、31、33及び45型からのHPV E6/E7転写産物は、ほとんど全ての組織学的CIN2+症例において存在すると思われる。PreTect HPV-Prooferについての高い特異性及び正の予測価はHPV診断における利点であり、それ故mRNA検出は細胞診及び組織診の適切な補助である。
【実施例2】
【0081】
スウェーデン婦人科学スクリーニングプログラムにおける低悪性度病変のフォローアップとしてのHPV検出

スウェーデンでは、年間約40,000の細胞診症例がフォローアップを必要とする異常を示す。大部分の症例は自然に後退するが、一部は治療しなければ進行する。また、フォローアップ方法における細胞診の低い感受性という問題も存在する。前癌性病変の検出において、細胞学的ASCUS又はCIN Iの検出後にHPV検査を実施したとき、特異性と感受性の両方が劇的に改善することが認められた。
【0082】
主たる目的は、スウェーデンスクリーニングプログラムでの細胞診及び組織診に関してHPV RNA及びDNA試験のそれぞれの役割を評価することであった。もう1つの重要な目的は、CIN I又はASCUSを有するが、HPV RNA又はDNA試験のいずれかで陰性の女性においてCIN II+を見落とす危険性を評価することであった。
【0083】
試験材料は、スウェーデンの中心部における通常のスクリーニングプログラム後の15000人の女性からである。細胞診でASCUS又はCIN Iに関して陽性の全ての女性をその後の試験のために選択した。細胞診又は組織診材料全てを、経験を積んだ病理学者がブラインド法で再評価した。ASCUS及びCIN Iに関して陽性の試料(N=240)をPreTect HPV-Prooferで評価し(N=240)、無作為抽出した試料を、4ヵ月後にHybrid Capture II(HCII)と細胞診(N=127)及び細胞診単独(N=112)によって試験した。それらを、7ヵ月後にLEEP生検からの組織診(N=126)と、及び12ヵ月後にPreTect HPV-Proofer(N=240)、HCII及び細胞診と比較した(表2)。ASCUS及びCIN Iを有する全ての試料をmRNAに関して試験した。コルポスコピーによるLEEP生検(N=126)を細胞診断異常及び/又は陽性HPV DNA試験を有する全ての女性に関してフォローアップの一部として採取した(4ヵ月後)。HPV DNAはHCIIアッセイ(Digene,Gatesburg,MD,USA)を用いて検出した。HPV 16、18、31、33及び45からのE6/E7転写産物の特定と個別分類は、PreTect HPV-Prooferアッセイ(NorChip AS,Klokkarstua,Norway)を用いて実施した。
【0084】
結果
HPV検査の結果を、4ヶ月及び12ヵ月後の細胞診、及び細胞診陽性診断から7ヵ月後の組織学的診断と比較した。HPV型の頻度と分布を表3に示す。細胞診と組織診の一致は症例の19%で認められた。細胞診及びDNA試験は、RNA試験よりもかなり頻繁に、組織診による良性及び低悪性度病変において陽性であった。組織診を「判断基準(golden standard)」として、RNA試験は、DNA試験(それぞれ31%と51%)よりも高い正の予測価と高い特異性(それぞれ46%と85.3%)を明らかにした。しかし、DNA試験は、RNAに基づく試験(81%)よりも高い感受性(91%)を示した。LEEP円錐切除術で治療された症例の19%は、治療の5ヵ月後に細胞学的異常を示し、0.5%はCIN II+であることが認められた。HPV DNAはこれらの症例の24%において検出され、HPV RNAは6%で検出された(表2)。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
考察及び結論
DNAに基づく方法と比較してRNAに基づく方法のより高い正の予測価及びより高い特異性は、E6/E7癌遺伝子の発現が悪性表現型の発現と維持のために必要であるという事実によって説明され得る。CIN I又はASCUSを有するが、HPV RNA又はDNA試験で陰性である女性において、CIN II+を見落とす危険性は極めて低く(0.2%)、細胞学的ASCUS又はCIN IにおけるHPV検査の付加価値を確認する。
【実施例3】
【0088】
30歳以下の女性における癌遺伝子発現を伴わない高危険度HPV感染

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、女性、特に若年齢群における一般的なウイルス感染であるが、ほとんどの感染は一過性で、無症候性である。スカンジナビア諸国では、30歳以上の女性母集団におけるHPV罹患率は5から15%の範囲であるが、より若年の女性でのHPV罹患率は30〜40%という高率であり得る。また、性交経験のある女性の70〜80%が、生涯のある時点で、HPV感染を獲得する。しかし、感染の大部分は自然に消失し、小さな割合だけが持続して、頸部上皮内癌(CIN)を生じさせる。
【0089】
この試験の目的は、30歳以下の女性においてE6/E7転写産物の検出とHPV DNAの検出を比較することであった。
【0090】
材料及び方法:
30歳以下の女性(平均年齢26.9歳)から合計282の子宮頸部試料を試験した。NucliSens Extractorを用いてRNA及びDNAを抽出し、発癌性HPV型である16、18、31、33及び45型からのE6/E7 mRNA発現をPreTect HPV-Prooferアッセイ(NorChip AS,Klokkarstua,Norway)によって検出した。HPV DNAの存在をGp5+/6+コンセンサスPCRによって検討し、その後HPV DNA陽性試料を同じ5つのHPV型に関する型特異的PCRに供した。
【0091】
結果:
合計32.6%(n=92)の試料がGp5+/6+ PCRによってHPV DNAに関して陽性であり、24.8%(n=70)が16、18、31、33及び45型であることが認められた。同じ5つのHPV型からのE6/E7 mRNAは、症例の15.2%(n=43)においてのみ認められた。
【0092】
5つの発癌性HPV型である16、18、31、33及び45型は、HPV DNA陽性試料の76%(70/92)を占め、一方、E6/E7 mRNA発現はこれらの症例の61%(43/70)で検出された。
【0093】
細胞診陽性結果は8/282症例(2.8%)で得られ、そのうちASCUSは5/8例で、HPVコンジロームは3/8例で認められた。ASCUS症例に関しては、4/5例においてGp5+/6+コンセンサスPCR及び型特異的PCRによってHPV DNAが検出されたのに対し、1つの試料だけがHPV mRNAを含むことが認められた。しかしながら、HPVコンジローム症例に関しては、全ての試料(n=3)においてGp5+/6+コンセンサスPCRによって、及び2/3例において型特異的PCRによってHPV DNAが検出され、HPV E6/E7 mRNA発現は、1例においてのみPreTect HPV Prooferによって検出された。
【0094】
考察:
30歳以下の女性におけるHPVの存在は、より高齢女性に関するよりも高い。これは、他の型と比較して5つの発癌性HPV型である16、18、31、33及び45型の発生率にも当てはまる。E6/E7転写産物の欠如は、ウイルスのエピソーム状態、それ故転写工程の制御された調節を反映すると考えられる。これらの感染は消失する可能性がより高いと考えられる。しかしながら、ウイルスの組込みは、E2遺伝子を破壊し、それによってE6/E7転写の調節因子としてのその機能も破壊し得る。
【0095】
結論:
この若年外来患者母集団において、癌遺伝子発現を伴うHPV感染は、コンセンサスPCR陽性試料の50%以下で検出される。そこで、HPV16、18、31、33及び45型についてE6/E7遺伝子発現を観測することは、細胞診に加えて有用な診断試験であると考えられる。mRNA検出は、若年女性における進行性疾患に関してより識別力があると考えられる。
【実施例4】
【0096】
HPV検査のためのDNAとRNAに基づく方法

この試験の目的は、細胞診陰性及び陽性の女性における高危険度HPV感染の発生率を検討するためにHPV検査のための2種の市販のアッセイの有効性を確認すること、及び細胞診及び組織診と比較してDNAに基づく試験及びRNAに基づく試験の結果を評価することであった。
【0097】
材料及び方法
試験母集団は、私立診療所の外来科及び婦人科から選択した。平均年齢40歳(範囲19〜85歳)の628名の女性がこの試験に含まれた。従来のパパニコラウスミアを最初に採取し、残りの材料をPreservCyt(商標)バイアル(Cytyc Corporation)に移した。高危険度HPV DNA(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59及び68型)に関する試験をHybrid Capture IIアッセイ(Digene Corporation)で実施し、HPV16、18、31、33及び45型からのE6/E7 mRNA転写産物の個別特定を、リアルタイムNASBA手法、Pre Tect HPV-Prooferアッセイ(NorChip AS)で実施した。
【0098】
HPV検査が陽性であるか又は細胞診がHSILを明らかにしたとき、生検を採取した。組織診を「判断基準(gold standard)」とみなした。
【0099】
結果
細胞診と組織診の一致は症例の53%で認められた。高悪性度組織診(CIN2+)は、良性又は低悪性度細胞診結果を有する女性の61%で検出された。κ値は0.31であった。2種の試験は、症例の17%(109/628)において異なる結果となった(表4)。
【0100】
【表4】

【0101】
両方のHPV検査が、病変の悪性度と有意の結びつきを示した(p<0.001)。DNA試験は、良性及び低悪性度病変においてより頻繁に陽性であった。DNA試験は、RNA試験と比較してより高い感受性を明らかにしたが、特異性はより低かった(表5)。
【0102】
【表5】

【0103】
結論
RNA試験は、DNA試験よりも高い予後価値及びより高い特異性を明らかにした。
【実施例5】
【0104】
HPV型特異的DNA及びRNAの持続性

HPV感染の経過と持続性を、HPV遺伝子型決定を線形アレイアッセイと共に使用して、HPV陽性で、細胞学的疾患を有していない54名の女性において分析した。
【0105】
子宮頸部の細胞学的異常(核異型)の発現へのHPV感染の影響を、反復HPV遺伝子型決定及び2年後の細胞学的評価によって観測した。HPV-Prooferアッセイを用いた、公知のHPV癌遺伝子E6及びE7のHPV転写産物の検出も、両方の時点で実施した。
【0106】
材料及び方法:
HPV持続性を評価するために設計された進行中の試験の一部として3,000名以上の女性から2,000名において液状細胞診(LBC)試料を得た(ベースライン)。LBCは、従来のパパニコラウスミアにおいて実施されるように頸部標本を直接スライドガラス上に置くのではなく、細胞防腐剤溶液を含むバイアル中に頸部標本を流し入れることを含む。一時医療従事者が標本収集を実施し、ThinPrep(登録商標)手順によって扁平層スライドガラスを作製して、英国臨床細胞学会ガイドラインに従って細胞悪性度分類を実施した。ベースライン時に細胞学的に正常な結果を有するが、同時に、ヨーロッパで最も一般的に認められる高危険度型とみなされ、癌の>90%に関係する、以下の「高危険度」HPV型:16、18、31、33及び45型の少なくとも1種に関してHPV DNA陽性であることに基づいて、54名の女性の集団を選択した。ベースラインの2年後にフォローアップLBCスミアのために女性を再来訪させ、そのときに細胞学的評価とHPV DNA及びRNA試験を実施した。
【0107】
細胞検査後、LBC試料中の残留細胞を3,500rpmで10分間遠心分離し、核酸抽出及びHPV検出まで−70℃で分割細胞ペレットとして保存した。QIAamp(登録商標)96 DNA Swab BioRobot(商標)キットと共に供給される試薬を使用し、BioRobot 9604(登録商標)(QIAGEN Ltd.,Crawley,UK)を用いて自動DNA抽出を実施し、RNA抽出は、動物細胞からの単離のためのプロトコールに則り、製造者の指示に従って、RNeasyカラム(QIAGEN Ltd.)の適用によって実施した。核酸をHPV検出までに−70℃で保存した。
【0108】
HPV DNA遺伝子型決定は、固定化プローブを含むナイロンストリップに配置したPGMYプライマーによって生成される450ヌクレオチドのPCRアンプリコンのハイブリダイゼーションを含む、線形アレイハイブリダイゼーションアッセイ(LA)によって実施した[Gravitt et al., 2000; Coutlee et al., 2002]。ストリップは、2種のレベルのβ-グロビン制御プローブ、18個の高危険度HPV(HR−HPV)プローブ:16、18、26、31、33、35、39、45、51、52、55、56、58、59、68、73、82、83及び9個の低危険度HPV(LR−HPV)プローブ:6、11、40、42、53、54、57、66、84を含んだ。PCR試薬、プローブストリップ及び展開試薬は、Roche Molecular Systems,Inc.(Alameda)によって供給された。
【0109】
β-グロビン陰性と判定された試料は分析から除外する。等温NASBA増幅によってRNA増幅を実施し、HPV16、18、31、33、45型についての完全長E6/E7 mRNAに対する分子指標(MB)プローブを使用して型特異的検出を実施した。NASBA増幅及びHPV検出のために必要な試薬は全て、PreTect(登録商標) HPV-Prooferキット(NorChip,Klokkarstua,Norway)の一部として供給された。蓄積したmRNA産物の蛍光検出を、NucliSens EasyQ Analyzerを用いてリアルタイムで実施し、PreTect analysisソフトウエア(PAS,NorChip)を用いて蛍光特性を分析した。
【0110】
結果:
DNA遺伝子型決定によって観測したとき、2年後に合計11/54(20%)の女性が核異型を発現し、31/54及び23/54の女性がそれぞれ一過性及び持続性感染を示した。型特異的持続性HPV感染を維持していた女性は、一過性感染を示した女性に比べて核異型を発現する可能性が有意に高かった(P<0.001)。HPV mRNA E6-E7転写産物の存在は感受性がより低かったが、フォローアップ時の疾患の検出のためにより特異的であった。さらに、ベースライン時にDNA陽性であり、同時にmRNA転写産物に関しても陽性であった女性は、ベースライン時にDNAだけが検出された女性と比較して持続性感染を保有する可能性が有意に高かった(P>0.013)。この試験は、頸部異常を発現する危険度がより高い女性を特定するために持続型特定HPV感染を検出することの重要性を強調する。完全長E6タンパク質をコードするE6/E7転写産物の検出は、反復試験を行わずに検出を1時点だけで実施したときでも、いずれの高危険度HPV感染が持続し得るかを特定する潜在的可能性を有する。E6/E7 mRNA転写産物の検出は、いずれの感染が持続する可能性がより高いかを特定した。
【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【実施例6】
【0113】
以下の表は、アフリカ人の外来患者個体群からの試料における、PreTect HPV-Prooferによる完全長E6/E7 mRNA転写産物の検出対コンセンサス及び型特異的PCRによるHPV DNAの検出の概要を示す。組織診(+)と判定された試料を、組織学に基づくCIN II+と評価した。
【0114】
【表A】


【0115】
この試験の結果は、組織診に基づきCIN II+と判定された細胞異常を示す試料に関して、HPV16、18、31、33又は45型(例えば、PRETECT HPV-proofer)のいずれかからの完全長E6タンパク質をコードするE6/E7転写産物の検出に基づくアッセイの特異性を例証する。RNAアッセイは、組織診と同様の特異性であるが、より高い感受性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの細胞又は組織中にヒトパピローマウイルスが存在するヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、前記ヒトパピローマウイルスは、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体を発現するものであり、前記方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において、完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含み、前記試料中の当該E6/E7 mRNA転写産物の存在を、前記細胞又は組織における、E6/E7 mRNA発現の調節の喪失と複製の喪失とを示す、及び/又は完全長E6タンパク質をコードする安定化mRNA前駆体の発現を示すヒトパピローマウイルスの存在の指標とみなす、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの細胞又は組織中に巨大細胞核及び細胞異数性を特徴とする細胞変化があるヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において、完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含み、前記試料中の当該E6/E7 mRNA転写産物の存在を、検査下にある前記細胞又は組織に前記細胞変化があることの指標とみなす、前記方法。
【請求項3】
少なくとも1つの細胞又は組織中にヒトパピローマウイルスの持続性形質転換感染があるヒト被験者のインビトロスクリーニング方法であって、当該方法は、前記細胞又は組織由来のmRNAを含む被験試料において完全長E6タンパク質をコードするヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物が発現している被験者をスクリーニングすることを含み、当該ヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現が陽性の被験者を、前記細胞又は組織においてヒトパピローマウイルスの持続性形質転換感染があると判定する、前記方法。
【請求項4】
少なくとも1種の癌関連HPV型からE6/E7 mRNAを検出することができる手法を用いて前記ヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
HPV16、18、31、33型、及び好ましくは45型からE6/E7 mRNAを検出することができる手法を用いて前記ヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を検出することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HPV16、18、31、33又は45型の、いずれか1種、又は2種若しくはそれ以上のいずれかの組合せから、E6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現を検出することを含み、前記試料中の検査したHPV型のいずれか1種からの前記ヒトパピローマウイルスのE6/E7遺伝子のmRNA転写産物の存在を陽性結果とみなす、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記E6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現の検出は、前記mRNAの領域を増幅するための増幅反応を用いて、前記増幅反応産物のリアルタイム検出とともに実施する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記E6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現の検出は、リアルタイムNASBAを用いて実施する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記E6/E7遺伝子のmRNA転写産物の発現の検出は、Pre-Tect HPV-Proofer(商標)アッセイキットを用いて実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト被験者は、好ましくは検査下の前記細胞又は組織において、ヒトパピローマウイルスDNAの感染が既知の被験者である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト被験者が、ASCUS、CIN 1病変又はコンジロームの診断歴を有する被験者である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
細胞学検査による頸部異常の診断歴を有さない個人の一次スクリーニングのために使用される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2007−524421(P2007−524421A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500302(P2007−500302)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000774
【国際公開番号】WO2005/083129
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(503204565)
【Fターム(参考)】