説明

ヒト・パピローマウイルスを定量的且つ定性的に測定するための方法及びキット

本発明は、サンプル中のヒト・パピローマウイルスHPVを定量的且つ定性的に測定するための方法及びキットに関する。より詳細には、子宮頚癌を生ずるHPV感染の危険性を予測するために、発癌性HPVを定量的且つ定性的に測定するためのものである。本方法及びキットは、数種の発癌性HPVタイプの同時測定を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中のヒト・パピローマウイルス、HPVを定量的且つ定性的に測定するための方法及びキットに関する。より正確には、子宮頚癌を生ずるHPV感染の危険性を予測するために、発癌性HPVを定量的且つ定性的に測定するためのものである。
【背景技術】
【0002】
子宮頚癌は、世界中の女性に3番目に一般的ながんであると考えられている。1994年に、米国で推定55,000人の女性が上皮内頚部癌であると診断され、更に15,000人の症例が浸潤癌であった。系統的な又は任意のスクリーニングが多くの国において利用可能であり、一連の診療行為も存在するが、この疾患を診断された約4,600人の女性は生存していない。スウェーデンでは系統的なスクリーニングが過去20年間実施されているが、依然として約500人の浸潤癌の症例が毎年診断されている。米国及びヨーロッパでは子宮頚癌の管理に重要な進展があるが、発展途上国では未だに罹患率及び死亡率の重大な原因である。
【0003】
あるタイプのヒト・パピローマウイルス(HPV)による感染は、子宮頚癌の進行に最も重要なたった1つの危険因子である。95%を越える子宮頚癌生検サンプルは、危険性の高いHPVタイプ、最も一般的にはHPV16、続いてHPV18、45、31及び33のDNAを含有することがわかっている。子宮頚癌の病因論におけるHPV感染の重要性を前提として、ウイルスを検出するため又はウイルス形質転換に起因する細胞変化を同定するための非常に多くの方法が開発されている。血清学的検出法がHPVの存在又は最近の感染を検出するために用いられているが、全ての感染した個人が抗体を発現させるわけではない点に限界がある。インサイチューハイブリダイゼーション、制限断片長多型(RFLP)及びサザンブロット解析、ハイブリッドキャプチャー(モノクローナル抗体によってDNA−RNAヘテロ2本鎖が認識される)及び種々のPCRに基づくアッセイのような多くのDNA技術がウイルス核酸の検出に採用されている。HPV検出のために開発されたPCRシステムの多くは増幅工程を包含し、個々のHPVタイプを同定するために別個の工程を伴う。ホルマリン固定生検サンプルや保管パパニコロー(Pap)子宮頚管スミアのような限られたDNAを有するサンプルを解析する場合のアッセイの技術的感度を上昇させるために、nested−PCRが頻繁に用いられている。
【0004】
以前に、危険性の高いHPV DNAを検出し且つ定量するためのリアルタイムPCRに基づくアッセイが記載された(Josefssonら、1999)。リアルタイムPCRに用いられる5’エキソヌクレアーゼアッセイは、PCRの伸長段階に、2重標識された非伸展性のハイブリダイゼーションプローブを切断する、Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の能力に基づいている。
【0005】
この以前に記載された方法を用いて、ケースコントロール研究において、子宮頚管スミア中のHPV16価により上皮内子宮頚癌(頚部間質新生物、ステージIII;CIN III)が進行する危険性を予測できることが証明された(Josefssonら、2000;Ylitaloら、2000)。これらの結果は、HPV価が、感染が子宮頚癌へ進行するか消滅するかを決定する強力な手段を意味するかもしれないことを示している。この発明は米国特許第6,420,106号に記載されており、ヒト被検者においてウイルスに関連するがんへ進行する危険性を予測する方法に関するものである。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、ヒト・パピローマウイルスを定量的且つ定性的に測定するための方法及びキットに関する。本発明の方法は、HPV感染の予測される結果の基準として、定量的且つ定性的測定を提供する。本発明の方法及びキットは、複雑で時間を要するようなことがなく、発癌性HPVタイプを広く対象範囲とする。本発明は、リアルタイムPCRで提供される定量的能力及びダイナミック・レンジを用いて数種のHPVタイプを同時に測定するためのアッセイ及びキットに関する。本発明は、頚部腫瘍で最も一般的に検出されるHPVタイプの検出及び定量に利点があり、一方、各サンプルについて同時に実施される反応数を最小限にし、頚管スワブサンプルの日常的スクリーニングでの使用に好適なシステムにする。本発明の1つの態様によれば、最適化された試験システムは、2回の試験、及び標準化のための別の1回の試験でサンプル測定を可能にする。
【0007】
したがって、第1の側面において、本発明は、サンプル中のヒト・パピローマウイルス(HPV)を定量的且つ定性的に測定するための方法に関し、以下の工程:
i) HPV感染が疑われる患者のサンプルを準備し、場合によりサンプルの核酸を抽出すること;
ii) サンプル又はサンプル由来の核酸を2以上のサブサンプル又は等量のアリコートに分けること;
iii) サブサンプルの1つにおいて、そのプライマーが増幅反応中に競合しないように設計されている、各ウイルス又はウイルス群を増幅するための特異的プライマー、及びそのプローブが増幅反応及び検出段階で競合しないように設計されている、各ウイルス又はウイルス群に対する特異的プローブを用いて、2以上のウイルスの存在及び量を同時に測定すること;
iv) 別の増幅反応において、所定量の他のサブサンプル中の核遺伝子の解析によりサンプル量を測定すること;
v) 工程iii)及び工程iv)の結果から、サンプル量当たりの各ウイルス又はウイルス群の量を計算すること、
を含む。
【0008】
好ましくは、工程iii)及び工程iv)の増幅はPCR増幅であり、より好ましくは、その方法はPCRに基づく蛍光5’エキソヌクレアーゼアッセイである。
工程iii)のウイルスは、HPV16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、67及び68から選択される。
【0009】
好ましい態様によれば、HPV16、18、31、18、45が1つのサブサンプル中で検出及び定量され、場合によりHPV33、35、39、52、58及び67が他のサブサンプル中で検出及び定量される。初期の実験シリーズではHPV67が検出及び測定されたが、本発明の現在の好ましい態様によれば、HPV67はキット及びそのキットを用いる方法に含まれない。
【0010】
好ましくは、工程iv)で、ヒト単一コピー遺伝子の量を検出及び定量する。
この遺伝子は、HUMPBGDA、ホモサピエンス・ヒドロキシメチルビラン合成酵素遺伝子、accnr M95623.1であり得る。
【0011】
本発明の方法は、好ましくは子宮頚癌の検出及び診断に用いられる。
第2の側面において、本発明は、ヒト・パピローマウイルスを検出及び定量するためのキットに関するものであり、
a) 明細書の表1及び表2に記載のHPV16、31、18、45に対する7つの増幅プライマー及び3つのプローブ;並びに、場合により、
b) 明細書の表1及び表2に記載のHPV33、35、39、52及び58に対する8つの増幅プライマー及び3つのプローブ、
を含む。
【0012】
好ましくは、キットは、明細書の表1及び表2に記載の、ヒト単一コピー遺伝子、例えばHUMPBGDA、ホモサピエンス・ヒドロキシメチルビラン合成酵素遺伝子、accnr M95623.1の量を検出及び定量するための2つの増幅プライマー及び1つのプローブを更に含む。
【0013】
好ましい態様において、キットは、少なくとも2つの異なる蛍光体を更に含む。
1つの態様において、キットは、
a) 明細書の表1及び表2に記載のHPV16、31、18、45に対する7つの増幅プライマー及び3つのプローブ;
b) 明細書の表1及び表2に記載のHPV33、35、39、52及び58に対する8つの増幅プライマー及び3つのプローブ;
c) 明細書の表1及び表2に記載の、ヒト単一コピー遺伝子の量を検出及び定量するための2つの増幅プライマー及び1つのプローブ;並びに、
d) 3つの異なる蛍光体、
を含む。
【0014】
本発明のキットは、好ましくは子宮頚癌の検出及び診断に用いられる。この目的のために、キットは場合により頚管スワブを含んでいてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
材料及び方法
DNA抽出:
HPV16、l8、31、33、35、39、45、52、58及び67を含有するプラスミドを陽性対照として用いてアッセイの感受性を評価した。HPVが組み込まれたプラスミドをOne Shot細胞(INVαF’、インビトロジェンTAクローニングキット、フローニンゲン、オランダ)に形質転換し、陽性形質転換体を単離して、100mlのLB中、37℃で一晩培養し、キアゲンMaxiprepキット(キアゲン、WWR)を用いてプラスミドDNAを抽出した。分光光度計によるODの測定で、それぞれのプラスミド調製物のコピー数を評価した。
【0016】
ヒト核遺伝子アッセイの開発に用いられた血液サンプルのDNAは、プロテイナーゼK処理、続いてフェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿に基づいた標準プロトコールを用いて抽出された。ホルマリン固定した生検組織のDNAを公表されているプロトコールを用いて抽出した。DNAの純度及び濃度は、光学密度測定(GeneQuant、Pharma Biotech、ケンブリッジ、イングランド)により決定した。
【0017】
保管スミアのDNAの研究のために、以前に記載されたプロトコールを改変した。簡潔には、このプロトコールには、カバースリップを取り除くためのキシレン中でのインキュベーション、脱染、プロテイナーゼK処理(60℃で最低1時間)、続いて滅菌エッペンドルフチューブへの細胞の移し替えが含まれる。次に飽和酢酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿させる。DNA上清をエタノールで回収し、沈殿物を70%エタノールで洗浄し、乾燥させて、200μlのTE−low(10mM Tris−HCl、pH7.4、0.1mM EDTA)に溶解させる。
【0018】
頚管スワブからのサンプル調製:
抽出プロトコールの研究のため、頚管スワブサンプルを用いて5つの異なる抽出プロトコール(A〜E)を比較した。
【0019】
プロトコールAはサンプルの凍結と煮沸に基づいている。簡潔には、頚管スワブ(又はブラシ)を1mlのPBSに浸し、ぐるぐるかき混ぜて細胞を放出させる。250μlのこの懸濁液を以下のプロトコールに用いる。卓上遠心機で、この溶液を3,000gで10分間遠心する。上清を回収し、250μlの10mM Tris−HCl、pH7.4を添加する。次にサンプルを注意深くボルテックスにかけ、細胞を均一に分散させる。100μlの溶液を新しいエッペンドルフチューブに移し、この100μlアリコートと残量を(バックアップとして用いる)−20℃で凍結する。次にこの100μlアリコートを解凍し、ヒーティングブロック中100℃で10分間煮沸する。チューブを短時間遠心して凝縮した水を下に落とし、2μlの懸濁液をTaqman反応に用いる。
【0020】
プロトコールBでは、タンパク質の沈殿に基づく市販のDNA抽出キットを用いる(Wizard、プロメガ、マディソン、ウィスコンシン州、米国)。簡潔には、頚管スワブ(又はブラシ)を1mlのPBSに浸し、ぐるぐるかき混ぜて細胞を放出させる。250μlのこの懸濁液を以下のプロトコールに用いる。エッペンドルフ遠心機で、この溶液を最大速度で5分間遠心する。上清を廃棄し、300μlの核溶解溶液(Wizardキット)を添加する。この溶液をピペットで混合し、37℃で1時間インキュベーションする。このサンプルを室温まで冷却し、100μlのタンパク質沈殿溶液(Wizardキット)を添加する。次にこの溶液をボルテックスに10〜20秒間かけ、13,000〜16,000gで3分間遠心する。上清を、300μlのイソプロパノールとともに新しいエッペンドルフチューブに移し(室温)、この溶液を混合して13,000〜16,000gで1分間遠心する。上清を除去し、70%エタノールで沈殿を洗浄し、13,000〜16,000gで1分間、再度遠心する。最後に、エタノールを除去し、沈殿を空気乾燥させる。沈殿を100μlの再水和溶液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、pH7.4)に溶解し、65℃で1時間インキュベーションし、2μlをそれぞれのTaqman反応に用いる。
【0021】
プロトコールCはサンプルのプロテイナーゼK消化に基づいている。簡潔には、頚管スワブ(又はブラシ)を1mlのPBSに浸し、ぐるぐるかき混ぜて細胞を放出させる。250μlのこの懸濁液を以下のプロトコールに用いる。エッペンドルフ遠心機で、この溶液を最大速度で5分間遠心する。上清を除去し、プロテイナーゼK溶液(148μlの消化バッファー(Tris−base 50mM、0.5%Tween 20、1mM EDTA)及び1.95μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)を添加する。サンプルを56℃で2時間インキュベーションし、95℃で5分間、プロテイナーゼKを失活させる。最後にサンプルを5分間遠心し、2μlの上相をそれぞれのTaqman反応に用いる。
【0022】
プロトコールDはサンプルの有機抽出(フェノール/クロロホルム)を含む。最初に、核溶解溶液(Wizardキット)の添加と37℃1時間のインキュベーションを含めた上記プロトコールBを用いる。次に300μlの平衡化フェノールをサンプルに添加する。この溶液を混合し、遠心し、水相をフェノールで再度抽出し、その後クロロホルムで抽出し、エタノール沈殿でDNAを回収し、沈殿を洗浄し、乾燥し、100μlのTE−lowに溶解する。2μlの溶解DNA調製物をそれぞれのTaqman反応に用いる。
【0023】
最後に、プロトコールEでは、核酸のガラスビーズへの結合に基づく市販のDNA抽出キット(ニュークリセンス、Nasba diagnostics、Organon−Teknica、ボクステル、オランダ)を用いる。溶解バッファー及び洗浄バッファーを37℃まで30分間加熱する(10分毎にボルテックスする)。続いて洗浄バッファーと溶解バッファーを室温まで冷却する。次にサンプル(10〜200μlの頚管スワブ溶液)を900μlの溶解バッファーに添加し、混合物をボルテックスし、チューブを10,000gで30秒間遠心する。シリカ溶液を不透明になるまでボルテックスし、50μlを各サンプルに添加し、混合物をボルテックスする。チューブを室温で10分間インキュベーションし、2分毎にボルテックスする。シリカビーズを10,000gで30秒間遠心して落とし、上清を除去し、1mlの洗浄バッファーを添加する。沈殿が溶解するまでボルテックスし、最初に1mlの70%エタノールで洗浄し(2回)、次に1mlのアセトンで洗浄する(1回)。残留するアセトンを(100μlのピペットで)注意深く除去し、沈殿を56℃で10分間乾燥させる。シリカ沈殿物が乾燥したら、50μlの溶出バッファーを添加し、沈殿が溶解するまでチューブをボルテックスにかける。チューブを、シリカの沈降を回避するために断続的にボルテックスしながら、56℃で10分間インキュベーションする。サンプルを10,000gで2分間遠心し、上清(30〜35μl)を新しいチューブに移す。2〜5μlの上清をそれぞれのTaqman反応に用いる。
【0024】
プライマー:
プログラムOligo vs 6.6(Dynal AS、オスロ)及びPrimer express(ABI、フォスターシティー、カリフォルニア州、米国)を用いて、15〜24bpのオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。
【0025】
プローブ:
プライマーよりも確実にTを高くするために、プローブの長さは22〜30bpにした。プローブはApplied Biosystems、チェシア、英国及びCybergene(Huddinge、スウェーデン)で合成して、最も5’端はグアノシンを避けるようにし、使用前にHPLCで精製した。
【0026】
リアルタイムPCR:
PCR増幅は、1×バッファーA(Applied Biosystems、フォスターシティー、カリフォルニア州、米国)、3.5mM MgCl、それぞれ200nMのdATP、dCTP、dGTP、及び400nM dUTP(Pharmacia Biotech、ウプサラ、スウェーデン)、0.625U AmpliTaq Gold(Applied Biosystems、フォスターシティー、カリフォルニア州、米国)、3.1μgのBSA(シグマ)並びにそれぞれ200nMのプライマー及びプローブ、並びにDNA(抽出プロトコールによる)を含有する25μl量で実施した。
【0027】
増幅及び検出は7700シークエンス・ディテクション・システム(Applied Biosystems社)を用いて行った。増幅ランプには、Taq DNAポリメラーゼ活性を解放するために95℃で10分間の初期保持プログラムを含めた。保持工程には、95℃で15秒間及び57℃で1分間から成る2工程サイクルが続いた。アッセイの開発には50サイクルのPCRを用い、臨床サンプルの解析には、PCR効率が高いため、わずか40サイクルを用いた。PCR成分を全て含むが鋳型DNA(NTC反応という)を含まないチューブを用いて試薬混合物に汚染のないことを確実にした。
【0028】
計算:
シークエンス・ディテクション・システム・ソフトウェア(Applied Biosystems、フォスターシティー、カリフォルニア州、米国)を用いて生データを有するファイルを作成した。閾値サイクル数の計算及びHPVコピー数/細胞への転換に専用のソフトウェアを用いた。
【0029】
統計:
統計及びグラフはマイクロソフト・エクセル、StatView及びSASを用いて作成した。
【0030】
結果
本発明の結果を、添付の図面に関連づけて以下に記載する。
本発明の方法及びキットの論理的根拠及び設計:
本発明の方法及びキットは、種々のグレードの頚部間質新生物(CIN I〜III)及び頚部腫瘍で最も頻繁に見出されるHPVタイプの範囲についてウイルス量の評価を可能にするように設計された。HPVタイプのセットは研究によって異なるが、HPV16、18、31、33、35、39、45、52、58及び67に焦点を合わせた。本発明の鋳型には更にHPV51、56、59及び68を含む。これらのHPVタイプは、上皮内子宮頚癌及び浸潤性子宮頚癌に罹患する症例の約80〜90%で見出される。したがって、本試験は発癌性HPV感染のある女性の80〜90%を検出する可能性を有する。
【0031】
アッセイで検出されるHPVタイプはヌクレオチドレベルで実質的に異なり、一連のPCRプライマーの使用を余儀なくされ、一連のHPVタイプを検出可能な分類システムの開発を複雑にする。選択されたリアルタイムPCR法は非常に広いダイナミック・レンジと定量に優れた特徴を有するが、各反応において単一標的がアッセイされ、定量される場合のみ市販のソフトウェアを用いて最適に作動する。我々のアッセイは大規模スクリーニング目的と臨床分類を意図するため、各HPVタイプについて1回のPCRアッセイを実施することは次善のものである。こうした制限を前提として、設計したアッセイは3本の反応チューブで実施される。アッセイは各患者サンプルに由来する3つの平行したリアルタイムPCRに基づいている:a)反応1は、3種の異なる蛍光体を用いて、HPVタイプ16、31、18及び45を検出し、定量する(HPV18及び45はともに検出され、定量される)、b)反応2は、同じく3種の異なる蛍光体を用いて、HPVタイプ33、35、39、52、58及び67を検出し、定量する(HPV33、52、58及び67はともに検出され、定量される)、並びにc)反応3はヒト単一コピー遺伝子(HUMPBGDA、ホモサピエンス・ヒドロキシメチルビラン合成酵素遺伝子、accnr M95623.1)の量を検出し、定量する。反応1は全部で7つのPCRプライマーと3つのプローブを含み、反応2は全部で7つのPCRプライマーと3つのプローブを含み、反応3は2つのPCRプライマーと1つのプローブを含む(表1及び表2)。
【0032】
混合サンプル中の異なるHPVタイプをバランスよく同時増幅するための能力を最適にするようにプライマー及びプローブを設計した。同時増幅に最も好適なプライミング部位を見い出し、有効なPCRに対する障害、例えば強い2次構造を有する領域を避けるために、アンプリコンを異なるHPVリーディング・フレームに位置付けた。結果として、反応1において、HPV16のアンプリコンはE7に位置し、HPV18/45のアンプリコンはE1に位置し、HPV31のアンプリコンはE6に位置する。反応2で検出されるアンプリコンはL1(HPV33、52、58、67)、E7(HPV39)及びE4(HPV35)に位置する。ヒト遺伝子に対するPCRプライマーはイントロン−エクソン・ジャンクションにわたる(ヌクレオチド:4750〜4868)。
【0033】
技術的感度及び特異性:
HPVアッセイの感度及び特異性を、調べる種々のHPVタイプの全ゲノムを含有するプラスミドと、ゲノムDNA(子宮頚管スミア・サンプルなど)からの1回の増幅において存在する複雑な核酸環境を模倣するための33×10−6gのヒトゲノムDNAとを用いて測定した。プラスミドコピー数をOD測定値から計算し、HPV10〜10コピーの希釈シリーズを作製し、高分子ヒトゲノムDNA(組み込まれたHPVは欠失している)を加えた。各HPVコピー数についての12回の独立した測定に基づき、各HPVタイプ又はHPVタイプ群について、サンプルあたり10〜10コピーの範囲の標準曲線を構築した(図1〜3)。試験した全てのHPVタイプについて、HPVコピー数と、シグナルが所定のベースラインを越えるPCRサイクル数を意味する閾値サイクル(Ct)とのあいだに、非常に有意な直線回帰が見られる。分類アッセイにおいて、HPV18及び45は同一プローブを使用し、したがって一緒に検出されるため、これら2つのHPVタイプについての標準曲線が非常に類似していることが致命的である。実際、HPV18及び45の標準曲線は、同じ傾きを有するだけでなく、同じ切片を有する。同様に、1つのプローブを用いてHPVタイプ33、52、58及び67が一緒に検出される。これらの標準曲線は同じ傾きを有するが、切片に関しては若干異なっている。このことは、このグループ内のウイルスタイプを一緒に定量する場合、精度を低くするかもしれない。HPV52及び67と比べてHPV33と58とのあいだに見られる切片に見られる変動にもかかわらず、アッセイは十分な精度で定量することが可能である。最後に、ヒト単一コピー遺伝子のコピー数と閾値サイクルとのあいだに有意な直線回帰が見られた(図4)。HPV及びヒトDNAの定量システムに見られるCtとして表現される変動を表3及び表4に示す。HPVアッセイに関するCt値の平均標準偏差(SD)は0.89であり、より低いコピー数についてより高い値が見られる(表3)。ヒト遺伝子システムに関するCt値の平均標準偏差(SD)は0.85であることがわかった(表4)。
【0034】
反応1及び反応2におけるプライマーとプローブの組合わせの能力を測定することにより、異なるHPVタイプを有するプラスミドを区別するためのHPVシステムの特異性を試験した。反応2で検出されるHPVタイプ(即ちHPV33、35、39、52、58及び67)を有するシグナルを解析することにより、反応1における試薬の特異性を試験した。開始ウイルス10コピーではこれらHPVタイプのいずれを用いてもシグナルは観察されなかった(データは示していない)。同様に、反応1で検出されるHPVタイプ(即ちHPV16、18、31、45)を用いてシグナルを解析することにより、反応2における試薬の特異性を試験した。開始ウイルス10コピーの濃度ではHPV16、18、31、又は45を用いてもシグナルは観察されなかった(データは示していない)。本システムは、他のHPVタイプについての特異性を試験していない。しかしながら、それぞれ、反応1及び反応2の試薬は(非常に多くのHPVタイプに由来するシークエンス・アラインメントを用いて)個々のHPVタイプに特異的であるように設計し、反応3は核遺伝子のためのものである(gene bank及びBLAST searchesを用いた)。また、有効なリアルタイムPCRアッセイは、オリゴヌクレオチド・プローブの標的に対する相同性に基づいている。前記のように、子宮頚癌と診断された女性の約80〜90%は、本アッセイで検出されるタイプの1種又は複数のHPVに感染している。10〜20%の、本アッセイのいずれのタイプにも感染していない残りの腫瘍生検サンプルは、それぞれ非常に低頻度で起こる非常に多くの他のHPVタイプのいずれかを含有する。本アッセイはこうした更なるHPVタイプを検出するようには設計されていないため、重篤な頚部間質新生物又は浸潤癌と診断された女性の偽陰性率は10〜20%であると推定される。
【0035】
混合感染の解析:
スウェーデン人患者由来の子宮頚癌生検サンプルについての先の研究において、約5%のサンプルが数種のHPVタイプに感染していた(Ylitaloら、1995)。したがって、本発明の重要な側面は、HPV16と、子宮頚癌に関連することが見出されたより頻度の高い他のタイプ、例えばHPV18、31及び45などとの混合感染を検出する能力である。HPVプラスミドを用いて既知のHPVコピー数の合成混合物を作製することにより、我々の蛍光5’エキソヌクレアーゼ・アッセイが、複合感染サンプル中のHPV力価を正確に検出し、定量する能力を、反応あたり1ngの高分子ゲノムDNAのバックグラウンドで試験した。最初に、HPV16のバックグラウンドでHPV18の検出について試験した。HPV16が10〜10コピーの範囲で、同一コピー数範囲についてHPV18量を正確に定量する能力を試験した。例えば10コピーのHPV16に対し、10〜10コピーのHPV18の定量を試験した。HPV18コピー数のlogをCtに関係づけた結果をグラフに示す。バックグラウンドHPV16の各コピー数に対して別の線が示されている。正確な定量に対するバックグラウンドHPVタイプの効果は、HPVコピー数のlogと閾値サイクルとのあいだに予想される直線関係からの偏差としてみられる。HPV16のバックグラウンドでHPV18を定量する場合、10〜10コピーのHPV16のバックグラウンド(混合感染)で、アッセイはHPV18コピー数を10〜10コピーの範囲で正確に評価することが可能である(図5a)。10コピーのHPV18では、10〜10コピーのHPV16のバックグラウンド・レベルで直線関係からわずかに偏差があるが、依然としてコピー数を評価できる。10コピーのHPV18では、10コピーのHPV16のバックグラウンドを除いた全範囲にわたりコピー数を正確に評価できる。これらの結果は、アッセイは、HPV18がHPV16のコピー数の少なくとも1〜10%で生ずる限り、HPV16のバックグラウンドでHPV18量を定量可能であることを示している。同様に、逆の実験では(HPV18のバックグラウンドでHPV16を検出)、HPV16がHPV18のコピー数の少なくとも1〜10%で生ずる限り、HPV18のバックグラウンドでHPV16感染を検出できることを証明している(データは示していない)。
【0036】
起こり得る混合感染は、HPV16と、HPV31又はHPV45である。HPV45は、10〜10コピーのHPV16のバックグラウンドで、10〜10のコピー数で正確に定量できる(図5b)。唯一の例外は、10コピーのHPV45及び10コピーのHPV16であり、このときHPV45を正確に定量する能力が低下する。同様に、逆の実験では(HPV45のバックグラウンドでHPV16を検出)、HPV16がHPV45のコピー数の少なくとも1〜10%で生ずる限り、HPV45のバックグラウンドで、HPV16感染を検出できることを証明している(データは示していない)。HPV31は、10〜10コピーの範囲のHPV16のバックグラウンドで、10〜10コピーの範囲で定量できる(図5c)。HPV16が10コピーに対してHPV31が10コピーの比率の場合のみ、HPV31からのシグナルがない。逆の実験、即ちHPV31のバックグラウンドでHPV16を定量する場合、HPV31コピー数が10〜10コピーの範囲であれば、10〜10の範囲にわたりHPV16コピー数を定量可能であることを示す(データは示していない)。より多いHPV31コピー数では、HPV16の定量能は低下する。最も一般的タイプの混合感染を模倣する、試験したHPVタイプの組あわせに基づき、主要HPVタイプのコピー数の少なくとも1〜10%を示す限り、アッセイは1つのHPVタイプの量を正確に定量できる。
【0037】
再現性:
一連の臨床サンプル中のHPVコピー数及びヒトDNAを反復測定することにより、試験の再現性を調べた。
【0038】
実験室内の再現性
3人の異なる技術者(操作者)により、同一実験室内で、同一ロットの試薬を用いて、1セットの臨床サンプルを解析した。サンプルDNAはプロトコールD(材料及び方法の項を参照されたい)にしたがい抽出した。HPV陽性度(±)に関する操作者間の一致は98.6%(139/141)であり、操作者間のCt値の平均標準偏差は0.62単位(表6)である。1セットの臨床サンプルの反復解析間のCtの一致を図6に図示する。この実験では、反応1及び反応3を用いて1セットの頚管スワブサンプルを解析した。2回の独立した実験の結果のあいだに統計的に有意な直線回帰が見られる(r=0.99、p>0.0001)(図6)。
【0039】
ロット間の再現性
3つの異なる試薬ロットを用い、1人の技術者によって1セットの臨床サンプルを解析した。サンプルDNAはプロトコールD(材料と方法の項を参照)にしたがい抽出した。HPV陽性度に関する異なるロット間の一致は100%(141/141)であり、異なる試薬ロット間のCt値の平均標準偏差は0.75Ct単位である(表7)。
【0040】
長期間の再現性
同じ技術者によって、同一ロットの試薬を用いて、4週間にわたり毎週1回臨床サンプルセットを解析した。サンプルDNAはプロトコールD(材料と方法の項を参照されたい)にしたがい抽出した。HPV陽性度に関する異なる期間間の一致は98.9%(186/188)であり、異なる時点間のCt値の平均標準偏差は0.19Ct単位である(表8)。
【0041】
試験の測定値の一般変動
HPV量又はヒトDNA量に関するCt評価値の分散をSAS(登録商標)システムのGLM法を用いて計算した。実験室内分散(Var(誤差))は1.57Ct単位、ロット間分散は1.45Ct単位、長期間分散は0.76Ct単位であった。測定値の全体的平均標準偏差は1.1Ct単位であった。システムの測定範囲はおおよそ20Ct単位(Ct15〜35)であるため、システムの平均変動(1.1Ct)はその範囲の約5%を示す。
【0042】
安定性
一連の臨床サンプル中のHPV量及びヒトDNA量を調べることにより、アッセイ試薬の安定性を試験した。サンプルDNAはプロトコールD(材料及び方法の項を参照されたい)にしたがい抽出した。同一ロットの試薬を用い、試験した3つの異なる保存温度は−20℃、+4℃(冷蔵庫)、及び+30℃(加速室温安定性試験)であった。−20℃試験については、HPV陽性の33サンプル及びヒトDNAを有する14サンプルを、同一試薬バッチを用いて毎週1回試験した(試験期間28日)。試験期間中、試験したアッセイの性能に有意な変化は見られなかった(図7a)。時点間平均SDは、HPVタイプについてはSD=0.81Ctであり(HPV16はSD=0.60;HPV31はSD=0.71;HPV18/45はSD=0.58;HPV33群はSD=1.1;HPV39はSD=0.91)、ヒトDNAはSD=0.86Ctであった。+4℃試験については、HPV陽性の5サンプル及びヒトDNAを有する3サンプルを、同一試薬バッチを用いて30日間にわたって7回試験した(第3日、6日、10日、13日、17日、20日、30日)。HPVタイプ(HPV16及び52)又はヒトDNAを30日の試験期間にわたり定量する上でアッセイの性能に有意な変化は見られなかった(図7b)。時点間平均SDは、HPVタイプはSD=0.79Ctであり(HPV16はSD=0.88;HPV52はSD=0.69)、ヒトDNAはSD=1.4Ctであった。+30℃試験については、HPV陽性の6サンプル及びヒトDNAを有する3サンプルを、同一試薬バッチを用いて13日間にわたって6回試験した(第1日、2日、13日、16日、10日、13日)。HPVタイプ(HPV16及び52)及びヒトDNAに関し、6日間にわたり(最初の4サンプル)性能に有意な変化はない(図7c)。最初の4時点間の平均SDは、HPVタイプはSD=0.71Ctであり(HPV16はSD=0.84;HPV52はSD=0.83)、ヒトDNAはSD=0.77であった。6日後、試薬はHPV分類アッセイ及びヒトDNAアッセイに対して同時に機能しなかった。
【0043】
要約すると、−20℃及び+4℃における試験は、同一技術者により、同一ロットの試薬を用いて実施した場合、試験した期間にわたる変動は約1Ct単位であることを示す。これはロット間の比較又は操作者間の比較で見られる変動の程度に類似する。したがって、表示の期間にわたるこうした温度での保存は、試験試薬に対し測定可能な作用を及ぼさない。+30℃では、6日後、試薬は試験結果を作製できなかった。HPV及びヒトDNAのための試薬は同一時点で機能しなかった。
【0044】
サンプル調製
異なる純度のサンプルについてアッセイの性能を調べるため、2つの異なる実験計画を用いて5つの異なる抽出プロトコールを比較した。第1の実験では、1セットの新鮮な凍結頚管スワブサンプルをそれぞれ4つの等量のアリコートに分け、以下の抽出プロトコールに供した;材料及び方法に詳細に説明するように、A.凍結/煮沸、B.Wizardキット、C.消化、D.Wizard消化後有機抽出。最初の3つのプロトコールを用いたTaqmanアッセイの結果を、4番目のプロトコール(判断標準として用いる)の結果と比較した。HPVアッセイのデータを調べる上で、プロトコールDを用いてHPV陽性と記録されたサンプルに基づく直線回帰解析は、プロトコールBが、Dで得られるCtに対し、最も高い相関を生ずることを示す(r=0.866、p<0.0001)(図8a)。プロトコールA(r=0.974、p<0.0001)及びプロトコールC(r=0.627、p<0.002)は、Dのデータに対し、より小さい回帰係数を示す(図8b、c)。ヒト遺伝子のデータを比較すると、抽出プロトコール間の相違はより顕著である。やはり、プロトコールBの結果は方法Dに対して最も高い相関を示している(r=0.771、p<0.0001)(図8e)。プロトコールA(r=0.649、p<0.068、非有意)及びプロトコールC(r=0.204、p<0.127、非有意)は、いずれもDに対して有意な相関を示さないデータを生ずる(図8d、f)。とりわけ、プロトコールA及びCは、ヒトDNAについて陰性と記録する多くのサンプルを生じ、HPV量の標準化を妨げる。したがって、結果は、通常臨床用途には好適でないと考えられている有機抽出プロトコールと比べて、Wizardキット又はプロテイナーゼK消化を伴う迅速プロトコールは非常に簡便な凍結/煮沸法よりも好ましいことを示す。
【0045】
抽出プロトコールA〜D間の比較結果と、凍結/煮沸法の広範囲に及ぶ普及を前提として、日常の産婦人科健康管理において採取された頚管スワブサンプルセットを用いて第2の実験を行い、診断ウイルス学実験室において頻繁に使用されている更に他の市販のサンプル調製法;ニュークリセンスキットを適用した。サンプルをまず凍結/煮沸法(プロトコールA)で抽出し、Taqmanアッセイを実施した(表8)。多くのサンプルは、HPV分類が成功することを証明したが、ヒトDNAの存在を示さなかった。ニュークリセンスキットを適用後、これらのサンプルについてTaqmanアッセイを再度実施したところ、非常に高頻度のサンプルが測定可能量のヒトDNAを示した(表8)。したがって、ニュークリセンス・プロトコールの適用は、おそらく阻害剤を除去し、より信頼できるTaqmanアッセイをもたらす。用いたサンプルは、HPV陽性度を記録するための別のPCRに基づくアッセイを用いて以前に分類されている(GP5/6プライマーを用いた)。HPV陽性度に関するTaqmanアッセイの結果は、以前の方法による結果と適合した(表8)。
【0046】
臨床サンプルの解析:
アッセイの性能を調べるために、日常の健康管理で採取された保管子宮頚管スミアから抽出された4723に及ぶDNAサンプルのセットについてアッセイを試験した(Josefssonら、2000)。これらのサンプルは大規模なケースコントロール研究の一部として収集されたものであり、症例は上皮内子宮頚癌と診断されている。4723サンプルのうち、4268(90.6%)はヒト単一コピー遺伝子座のシグナルを示した。ヒト遺伝子陽性サンプルの中で、最も優勢なHPVタイプは予想されるようにHPV16であり、ほぼ22%の頻度である(図9)。他のHPVタイプは、それぞれサンプルの10%未満で見出される。このサンプルセットのうち、185サンプルは少なくとも2つのHPVタイプに感染し(16/31はn=39;16/18−45はn=75;16/33群はn=40;18−45/31はn=23;16/39はn=6;16/35はn=2)、9サンプルは少なくとも3つのHPVタイプに感染していた(16/18−45/31はn=6;16/31/33群はn=1;16/18−45/33群はn=2)。HPV16とHPV18/45の混合感染では、高くは、細胞あたりHPV18が3コピー中、細胞あたりHPV16が450コピーから、逆の場合、細胞あたりHPV18が2083コピー中、細胞あたりHPV16が13コピーまで比が変化した。HPV16と31の混合感染では、細胞あたりHPV31が55コピー中、細胞あたりHPV16が1964コピーから、逆の場合、細胞あたりHPV31が697コピー中、細胞あたりHPV16が9コピーまで比が変化した。これらの結果は、臨床サンプルの混合感染を解析する際の本アッセイの能力を証明している。
【0047】
考察
本発明者らは、臨床用途に好適な一連のHPVタイプの定量アッセイを開発した。臨床サンプル中のHPVの検出に多くの方法が利用可能である。2分するHPV分類(ウイルスの存在の有無を検出すること)は、ウイルスの高罹患率と、多くは診療しなくとも感染が明らかであるという事実により、臨床での実用性を制限する。HPV16 DNAの高力価は上皮内子宮頚癌が進行する有意な危険性と関連しているという観察に照らせば(Josefssonら、2000;Ylitaloら、2000)、ウイルス価の解析は診断用途を有するかもしれない。このような力価試験に好適な方法は、幅広いダイナミック・レンジを有し、容易に使用でき、そして子宮頸部形成異常の進行に関連する一連の非常に相違したHPVタイプのアッセイを可能にする必要がある。本アッセイは他のPCRに基づく方法よりも多くの利点を有するため、本発明者らは、リアルタイムPCRに焦点を合わせている:(i)データ収集を増幅中に行うため、増幅後に更なる実験室工程を必要としない、(ii)同一反応中で複合検出プローブの使用を可能にする、(iii)幅広いダイナミック・レンジを有する、(iv)PCR産物が汚染する可能性を制限する閉鎖性チューブシステムを有する均一なアッセイである。本発明者らは、各反応チューブ内で3つの異なる蛍光体を定量することにより、本方法の有用性を拡張し、実施する必要がある平行反応数を制限した。HPVを定量するためのいくつかの他のシステムは、内部対照(即ちヒト遺伝子の同時増幅)の使用、及びPCRの終点測定によるHPVのPCR産物とヒト遺伝子PCR産物との量の比較に基づいている。本発明者らは、HPVとヒト遺伝子のアンプリコン間の競合は細胞あたりのコピー数を誤って評価するかもしれないので、そのような競合を避けるため、外部対照を用いるシステムを設計することを選択する。内部対照とHPVのPCR産物との競合は、低ウイルス量サンプルのHPVコピー数について過小評価を、高ウイルス量のサンプルのHPVコピー数について過大評価をもたらすかもしれない。したがって、内部対照を有するシステムは、サンプル間のHPVコピー数の範囲が減少する傾向にあるかもしれない。我々のサンプル中の細胞あたりのHPVコピー数は、非常に広範囲に及ぶ。このように広範なコピー数に対して内部対照を有するシステムを用いると、おそらくデータの解像度を実質的に制限するであろう。
【0048】
単一コピー核遺伝子に関し、市販のアッセイを用いるのではなく、別のアッセイを開発した。我々のヒト単一コピー遺伝子アッセイを用いると、HPVコピー数はゲノムDNA量(含まれる細胞数と等価)に対して標準化することができる。サンプル間のHPVコピー量及びサンプル間のゲノムDNA量における変動を考えると、細胞数によるこうした標準化は比較可能で重要なHPV価の評価を得る必要があるようである。そのような測定値は、感染細胞数、又は細胞間のHPVゲノムの相対分布を表示しない。しかしながら、細胞あたりのHPV平均コピー数は、がんが進行する危険性の増加に関連するため、そのような測定値はHPV分子の細胞内及び細胞間分布に依存しない有用な診断指針を意味する(Josefssonら、2000;Ylitaloら、2000)。診断技術の重要な側面は偽陰性サンプルを同定する能力であり、開始DNA量不足、又はPCRに対するインヒビターの存在に起因する。ヒト遺伝子アッセイのシグナルの欠如は、アッセイにおけるインヒビターの存在又はDNA量不足を表す。実際、サンプル抽出プロトコールの比較において、より速いプロトコールの1つを使用する際、多くのサンプルはヒト単一コピー遺伝子のシグナルを示さなかったことがわかった。これらサンプルの多くは、サンプルを更に精製した場合、核遺伝子アッセイで陽性の結果を示した。
【0049】
記載のアッセイは、プラスミド希釈シリーズから作成された標準曲線に基づいている。そのような曲線の臨床サンプルへの適用は、サンプル中にインヒビターが存在していないことに依拠している。核遺伝子アッセイを通して、通常重大な阻害を検出することができ、BSAのような薬剤を反応混合物へ添加することにより多くの阻害作用が軽減される。それにもかかわらず、いくつかのサンプルタイプは新しい標準曲線を作成する必要があるかもしれない。例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋サンプルを解析する上で、HPV価が正確に評価される前に、例えばヒト対照アッセイを用いて、阻害の程度を定量する必要がある。保管パパニコロー染色スミアを解析する場合、同様の問題が起こるかもしれない(Josefssonら、1999)。高DNA濃度では、パパニコロー染色スミアはPCRの阻害を示す(Josefssonら、1999)。BSAが阻害作用を除去していない場合、組織サンプル由来のウイルスコピー数を定量するには、用いる標準曲線は生体サンプルと同一の方法で処理されたDNAサンプルに由来する必要がある。
【0050】
本アッセイの重要な側面は、混合感染において個々のHPVタイプを定量する能力である。感染した頚部細胞におけるコピー数は、形成異常の異なるステージ間だけでなく(Josefssonら、2000;Ylitaloら、2000;Swanら、1999)、HPVタイプ間においても(Swanら、1999)異なっているとの指摘がある。したがって、混合感染では、診断アッセイは個々のHPVタイプを同定し且つ定量する能力を有する必要がある。我々の合成混合物における多くのHPVタイプの組合わせでは、本アッセイは、主要HPVタイプの量の少なくとも1〜10%を示す限り、1種のHPVタイプを検出し且つ定量する能力を示した。HPVタイプ間の比が1/100未満である場合、感度の減少は異なるHPVタイプのPCR産物間の競合によるものであると思われる。数種のHPVタイプに感染した臨床サンプルでは、比は非常に幅広く、広範な比にわたって信頼できる定量を提供できるアッセイの必要性を強調している。
【0051】
要約すると、本発明の方法及びキットは、記載の蛍光5’エキソヌクレアーゼ・アッセイで例示されるように、HPVウイルス価の定量に好適な多くの特徴を有する。広範なウイルスタイプを対象とする他のアッセイが存在するが、複雑なPCR後解析を必要とし、PCRに基づく蛍光5’エキソヌクレアーゼ・アッセイの迅速性、簡便性及び柔軟性との競合は不可能である。
【0052】
参考文献
Josefsson,A.J.、P.K.E.Magnusson、N.Ylitalo、P.Sorensen、P.Qwarforth−Tubbin、P.K.Andersen、M.Melbye、H.O.Adami及びU.B.Gyllensten 2000 上皮内がんの進行の決定因子としてのHPVウイルス量。Lancet 355:2189−93。
【0053】
Josefsson,A.、K.Livak及びU.Gyllensten 1999 蛍光 5−エキソヌクレアーゼ・アッセイ(TAQMAN)を用いたヒト・パピローマウイルス(HPV)の検出及びリアルタイム定量。Journal of Clinical Microbiology、37、490−496。
【0054】
Swan D.C.、R.A.Tucker、G.Tortolero−Luna、M.F.Mitchell、L.Wideroff、E.R.Unger、R.A.Nisenbaum、W.C.Reeves、J.P.Icenogle 1999 ヒト・パピローマウイルス(HPV)のDNAコピー数は子宮頚疾患のグレード及びHPVタイプに依存する。J Clin Microbiol 37:1030−4。
【0055】
Ylitalo,N.、A.Josefsson、P.Sorensen、P.Magnusson、P.K.Andersen、J.Ponten、H.O.Adami、U.Gyllensten及びM.Melbye 2000 ヒト・パピローマウイルス タイプ16の高ウイルス量と上皮内子宮頚癌の危険性の一致。Lancet355:2194−8。
【0056】
Ylitalo,N.、T.Bergstrom及びU.Gyllensten 1995 単一チューブnested PCR及びタイプ特異的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーションによる陰部ヒト・パピローマウイルスの検出。J Clin Microbiol.33(7):1822−8。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】a)HPV16アッセイ、及びb)HPV31アッセイに関する標準曲線。HPVのlogコピー数に対して閾値サイクル(Ct)数がプロットされている。点は12回の独立した測定値の平均を表す。
【図2】a)HPV18アッセイ(直線)及びHPV45アッセイ(点線)、並びにb)HPV33群(33、52、58)アッセイに関する標準曲線。HPVのlogコピー数に対して閾値サイクル(Ct)数がプロットされている。点は12回の独立した測定値の平均を表す。
【図3】a)HPV35アッセイ、及びb)HPV39アッセイに関する標準曲線。HPVのlogコピー数に対して閾値サイクル(Ct)数がプロットされている。点は12回の独立した測定値の平均を表す。
【図4】ヒト遺伝子(HUMPBGDA)アッセイに関する標準曲線。HPVのlogコピー数に対して閾値サイクル(Ct)数がプロットされている。点は12回の独立した測定値の平均を表す。
【図5】混合感染を模倣するために作製された合成混合物における個々のHPVタイプの解析:a)HPV16をバックグラウンドにしたHPV18の検出、b)HPV16をバックグラウンドにしたHPV45の検出、c)HPV16をバックグラウンドにしたHPV31の検出。
【図6】同一セットの子宮頚管スミアサンプルに関する2回の独立した測定における閾値サイクル(Ct)値の比較。
【図7a】3つの異なる保存温度におけるアッセイ試薬の安定性:a)−20℃(4時点)、b)−4℃(7時点)、及びc)+30℃(6時点)。棒は、個々のサンプルに関し、さまざまな時点におけるサンプルのCt値を表す。
【図7b】3つの異なる保存温度におけるアッセイ試薬の安定性:a)−20℃(4時点)、b)−4℃(7時点)、及びc)+30℃(6時点)。棒は、個々のサンプルに関し、さまざまな時点におけるサンプルのCt値を表す。
【図7c】3つの異なる保存温度におけるアッセイ試薬の安定性:a)−20℃(4時点)、b)−4℃(7時点)、及びc)+30℃(6時点)。棒は、個々のサンプルに関し、さまざまな時点におけるサンプルのCt値を表す。
【図8a】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:a)HPVアッセイ、プロトコールA対D。
【図8b】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:b)HPVアッセイ、プロトコールB対D。
【図8c】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:c)HPVアッセイ、プロトコールC対D。
【図8d】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:d)核遺伝子アッセイ、プロトコールA対B。
【図8e】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:e)核遺伝子アッセイ、プロトコールB対D。
【図8f】異なる抽出プロトコールを用いたアッセイ結果の比較:f)核遺伝子アッセイ、プロトコールC対D。
【図9】ケースコントロール材料の子宮頚管スミアサンプルにおけるHPVタイプの度数分布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のヒト・パピローマウイルス(HPV)を定量的且つ定性的に測定するための方法であって、以下の工程:
i) HPV感染が疑われる患者のサンプルを準備し、場合によりサンプルの核酸を抽出すること;
ii) サンプル又はサンプル由来の核酸を2以上のサブサンプルに分けること;
iii) サブサンプルの1つにおいて、そのプライマーが増幅反応中に競合しないように設計されている、各ウイルス又はウイルス群を増幅するための特異的プライマー、及びそのプローブが増幅反応及び検出段階で競合しないように設計されている、各ウイルス又はウイルス群に対する特異的プローブを用いて、2以上のウイルスの存在及び量を同時に測定すること;
iv) 別の増幅反応において、所定量の他のサブサンプル中の核遺伝子の解析によりサンプル量を測定すること; そして、
v) 工程iii)及び工程iv)の結果から、サンプル量当たりの各ウイルス又はウイルス群の量を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
工程iii)及び工程iv)の増幅がPCR増幅である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PCRに基づく蛍光5’エキソヌクレアーゼアッセイである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程iii)のウイルスが、HPV16、18、31、33、35、39、45、52及び58から選択される、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
HPV16、31、18、45が1つのサブサンプル中で検出及び定量され、場合によりHPV33、35、39、52及び58が他のサブサンプル中で検出及び定量される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程iv)で、ヒト単一コピー遺伝子の量を検出及び定量する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子が、HUMPBGDA、ホモサピエンス・ヒドロキシメチルビラン合成酵素遺伝子、accnr M95623.1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
子宮頚癌を検出及び診断するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ヒト・パピローマウイルスを検出及び定量するためのキットであって、
a) 明細書の表1及び表2に記載のHPV16、31、18、45に対する7つの増幅プライマー及び3つのプローブ;並びに、場合により、
b) 明細書の表1及び表2に記載のHPV33、35、39、52及び58に対する8つの増幅プライマー及び3つのプローブ、
を含む、前記キット。
【請求項10】
c) 明細書の表1及び表2に記載の、ヒト単一コピー遺伝子の量を検出及び定量するための2つの増幅プライマー及び1つのプローブを更に含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
遺伝子がHUMPBGDA、ホモサピエンス・ヒドロキシメチルビラン合成酵素遺伝子、accnr M95623.1である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
d)少なくとも2つの異なる蛍光体を更に含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
a) 明細書の表1及び表2に記載のHPV16、31、18、45に対する7つの増幅プライマー及び3つのプローブ;
b) 明細書の表1及び表2に記載のHPV33、35、39、52及び58に対する8つの増幅プライマー及び3つのプローブ;
c) 明細書の表1及び表2に記載の、ヒト単一コピー遺伝子の量を検出及び定量するための2つの増幅プライマー及び1つのプローブ;並びに、
d) 3つの異なる蛍光体、
を含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
子宮頚癌を検出及び診断するための、請求項9〜13のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図7c】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図8c】
image rotate

【図8d】
image rotate

【図8e】
image rotate

【図8f】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2006−500952(P2006−500952A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541380(P2004−541380)
【出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【国際出願番号】PCT/SE2003/001529
【国際公開番号】WO2004/031416
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505120364)クァントヴィル・アクチボラグ (1)
【Fターム(参考)】