説明

ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する方法、及びその中胚葉幹細胞

本発明は、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する方法に関するもので、ヒト万能幹細胞から胚様体を形成する段階;前記胚様体を組織培養皿に附着後自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階;及び前記中胚葉幹細胞の同一性を維持しながら続いて増殖培養する段階、を含む。本発明は、その遺伝的背景が異なることに関係なく、全てのヒト万能幹細胞の広範囲に適用できる規定化された中胚葉幹細胞の分化誘導方法を提供する。究極的に、本発明はヒト万能幹細胞を用い再生医学及び細胞治療分野で必要とする中胚葉幹細胞を持続的に大量供給することにより細胞治療剤の実用化を可能とし、更に心血管系疾患、神経系疾患などの難病治療に大きく寄与することと期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を誘導する方法、前記方法により製造する中胚葉幹細胞、前記中胚葉幹細胞を含む細胞治療剤などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(stem cell)は、生物組織を構成する多様な細胞に分化(differentiation)できる細胞で、胚、胎児及び成体の各組織から得られる、分化前段階の未分化細胞を総称する。幹細胞は分化刺激((環境))により特定の細胞への分化が進み、分化を完了し細胞分裂が停止された細胞とは異なり、細胞分裂によって自己と同一の細胞を生産(self-renewal)することができ増殖(proliferation;expansion)する特性がある。また、異なる環境又は異なる分化刺激により異なる細胞にも分化することができ、分化の柔軟性(plasticity)を有することが特徴である。
【0003】
幹細胞はその分化能により、万能性(pluripotency)、多分化能性(multipotency)、及び単分化能性(unipotency)の幹細胞に分けることができる。万能性幹細胞(pluripotent stem cells)は全ての細胞に分化できる潜在力(totipotent)を有する全分化能(pluripotency)の細胞であり、胚性幹細胞(embryonic stem cell、ES cell)及び人工多能幹細胞(induced pluripotent stem cells、iPS)などがこれに該当する。多分化能性及び/又は単分化能性幹細胞として、成体幹細胞が挙げられる。
【0004】
胚性幹細胞は胚発生初期の胞胚期(blastocyte)の内部細胞塊(inner cell mass)から形成され、全ての細胞に分化できる潜在力(totipotent)を有し、全ての組織細胞に分化でき、また死滅せずに(immortal)未分化状態で培養が可能であり、成体幹細胞と異なり胚細胞(germ cell)の製造もできるため次世代に遺伝できるという特徴を有している (Thomson et al., Science, 282: 1145-1147, 1998; Reubinoff et al., Nat. Biotechnol., 18: 399-404, 2000)。
【0005】
ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚形成時に内部細胞塊(inner cell mass)のみを分離して培養することにより製造されるが、現在全世界的に製造されているヒト胚性幹細胞は不妊施術後に残った冷凍胚から得られたものである。全ての細胞に分化できる全分化能を有するヒト胚性幹細胞を細胞治療剤として利用するための様々な試みがなされているが、未だ癌発生の恐れと免疫拒否反応という高い壁を完全に制御できないのが現状である。
【0006】
これに対する補完策として最近報告されているのが人工多能性幹細胞(iPS)である。万能幹細胞の概念に含まれるiPS細胞は、分化を完了した成体細胞を色々な方法で逆分化させ、分化初期段階の胚性幹細胞の状態に回帰させた細胞である。現在まで、逆分化細胞は遺伝子発現と分化能において、万能幹細胞である胚性幹細胞とほぼ同じ特徴を示すと報告されている。しかし、このようなiPS細胞の場合も、自己細胞を利用し免疫拒否反応の危険性を排除することはできるが、癌発生の危険性は解決すべき課題として依然に残っている。
【0007】
最近、このような問題点を克服するための対案として、免疫調節機能と共に癌発生の危険性のない中胚葉幹細胞が提案されている。中胚葉幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、神経細胞、心筋細胞などへの分化ができる多能性を有する細胞で、免疫反応を調節する機能も有していると報告されている。中胚葉幹細胞は多様な組織から分離と培養ができるが、各起源による能力及び細胞表面マーカーが少しずつ異なるため、中胚葉幹細胞を明確に定義することは容易ではない。ただ、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞への分化ができ、渦巻き形状を有し、基本的細胞表面マーカーであるCD73(+)、CD105(+)、CD34(-)及びCD45(-)を発現する場合、一般的に中胚葉幹細胞として規定する。
【0008】
一方、中胚葉幹細胞が細胞治療剤として利用されるためには、再生医学及び/又は細胞治療分野で要求する最小細胞数(約1X109 程度)を満たさなければならないが、適正条件を決めて基準を定める実験までを考慮すると、必要細胞数は更に増えることになる。従って、既存の多様な起源の中胚葉幹細胞からこれくらいの量を供給するためには、in vitro(試験管内)実験で少なくとも10回以上の継代が必要であるが、この場合細胞が老化及び変形されるため細胞治療剤としての目的達成には不適合となり得る。たとえこの細胞により条件と基準を定めたとしても、実際細胞治療の目的で使用する時には、既にその細胞がなくなって他人の中胚葉幹細胞を使用しなければならなくなり、その場合更に異なる細胞利用による付加的実験を再び実施しなければならない問題が発生し得る。
【0009】
従来の中胚葉幹細胞培養システムが抱えているこのような問題点を解決するための最も理想的な対案は、ヒト万能幹細胞を利用し中胚葉幹細胞を生産することである。しかし、今までのヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞への分化誘導は、高費用と濃度調節が必要な特定サイトカイン(例えば BMP、bFGF)による誘導過程、又はxeno pathogenの恐れがあるxono feeder(OP9マウス細胞株)への誘導と、以後特定マーカー(例えば CD73)への分類(sorting)が必要であった。
【0010】
また、このような方法で生産された中胚葉幹細胞は、その根本的状態の維持が困難であり、生産効率も高くない。更に、お互いに異なる遺伝的背景を有するヒト万能幹細胞はその生理学的メカニズムが相違であり、既存の特定ラインで確立された中胚葉幹細胞の分化誘導方法を利用することができないため、お互いに異なる遺伝的起源を有するヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を誘導するためには各々別の分化誘導方法を開発し適用しなければならないという難点があった。従って、中胚葉幹細胞が再生医薬及び細胞治療分野で、理想的細胞治療剤として使用されるためには限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、多様な遺伝的背景を有するヒト万能幹細胞に一般的に適用できる高効率の中胚葉幹細胞の大量生産方法を提供する。また、本発明は前記方法により生産した中胚葉幹細胞、前記中胚葉幹細胞を含む細胞治療剤、及びヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する規定化された培養システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するため、本発明はヒト万能幹細胞から胚様体を形成する段階;前記胚様体を組織培養皿に附着後自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階;及び前記中胚葉幹細胞との同一性を維持しながら続いて増殖培養する段階を含む、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する規定化された方法を提供する。具体的に、前記分化誘導段階は自己由来サイトカインループ(loop)形成により自発的に分化を誘導する段階を含み、分化誘導された中胚葉幹細胞の維持及び増殖培養のためにはhEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、及びアスコルビン酸(ascorbic acid)などを含む培地を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明はその遺伝的背景が異なるにも関わらず、全てのヒト万能幹細胞において広範囲に適用できる規定化された中胚葉幹細胞の分化誘導及び増殖培養方法を提供する。本発明によると、細胞治療剤の最良資源である中胚葉幹細胞をその同一性を維持しながら持続的に大量生産することができる。また、本発明はxeno feeder誘導によるxeno pathogenの危険、蛍光標示式細胞分取器(FACS)による分類(sorting)がもたらし得る細胞障害(damage)の問題がなく、低費用と高効率の中胚葉幹細胞生産ができるようになる。究極的に、本発明はヒト万能幹細胞を用いて再生医学及び細胞治療分野に理想的に使用できる中胚葉幹細胞を、より容易に大量で供給することにより細胞治療剤の実用化が可能となり、更に心血管系疾患、神経系疾患などの難病治療に大きく寄与できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1a】図1aは、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞への分化誘導及び増殖培養過程を図式化したものである。
【図1b】図1bは、ポリメラーゼ連鎖反応を利用し、7日胚様体と14日胚様体の中胚葉分化に関わる遺伝子の発現の差を定量化したものである。
【図1c】図1cは、中胚葉分化初期遺伝子のタンパク質発現を14日胚様体染色により確認したものである。
【図2a】図2aは、14日目の胚様体附着時の選別を表したものである。
【図2b】図2bは、サイトカインが含まれてない一般的培養培地で、胚様体培養時に自発的に中胚葉幹細胞への分化誘導が開始されたことを表すものである。
【図2cd】図2c及び2dは、各々、BMPの拮抗剤(antagonist)であるNoggin未処理群及び処理群の、中胚葉幹細胞の分化誘導過程を表したものである。
【図3】図3は、EGM-2MV培地と既存の中胚葉幹細胞培養培地であるa-MEMの効率の差を細胞の老化(senescence)時染色されるbeta gal染色によって確認したものである。
【図4a】図4aは、EGM-2MV培地で140日以上培養した中胚葉幹細胞の生長パターンを表すものである。
【図4b】図4bは、本発明の中胚葉幹細胞を体外培養する時、長期間活性を維持しながら生長することを表す生長曲線である。
【図5】図5a及び5bは、本発明の方法により得られた中胚葉幹細胞が中胚葉特異的マーカーを発現することを表すものである。
【図6】図6は、本発明の中胚葉幹細胞において体外長期培養後の染色体分析の結果を表すものである。
【図7】図7a及び7bは、本発明の方法により得られた中胚葉幹細胞の分化能を分析した結果を示したものである。
【図8】図8a及び8bは、各々、本発明の方法により得られた中胚葉幹細胞のteratoma形成有無及び免疫誘発関連因子の発現有無を表すものである。
【図9】図9は、本発明の方法により得られた中胚葉幹細胞の機能性を評価するために虚血性心疾患マウスモデルを利用して、その機能を調べた結果を示したものである。
【図10】図10は、本発明の方法により得られた中胚葉幹細胞の、自己細胞由来フィーダーとしての可能性を試験した結果を示したものである。
【図11】図11は、ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞と遺伝的背景が異なり培養環境も異なるチャ病院のヒト胚性幹細胞3番(CHA3-hESC)、及びH9ヒト胚性幹細胞を利用し、本発明の再現性を検証した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ヒト万能幹細胞を利用し中胚葉幹細胞を生産する方法に関するもので、a)ヒト万能幹細胞から胚様体を形成する段階;及びb)前記胚様体を組織培養皿に附着した後自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階;及びc)前記分化誘導した中胚葉幹細胞を維持及び増殖培養する段階を含む。具体的に、本発明は、ヒト万能幹細胞から胚様体を形成する段階を含み、これは当業界で公知された一般的方法で行うことができる。例えば、ヒト万能幹細胞をタンパク質分解酵素で処理した後、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)のない胚性幹細胞培地に浮遊状態で培養することができる。
【0016】
本発明の「幹細胞」という用語は、組織及び器官の特殊化した細胞を形成するために無制限的に再生できるマスター細胞をいう。幹細胞は発達可能な万能性又は多能性細胞である。幹細胞は2個の娘細胞、又は一つの娘細胞と一つの由来(‘遷移(transit)’)細胞に分裂でき、以後組織の成熟で完全な形態の組織の細胞に増殖する。このような幹細胞は多様な方法で分類できる。その中で最も多く利用される方法の一つは、幹細胞の分化能によるものであり、3胚葉への分化が可能である万能幹細胞(pluripotent stem cells)と、特定胚葉以上への分化に限定される多分化能幹細胞(multipotent stem cells)、及び特定胚葉のみへの分化が可能である単分化能幹細胞(unipotent stem cells)に分けることができる。
【0017】
本発明の「万能幹細胞」という用語は、生体を構成する3つの胚葉(germ layer)の全てに分化できる多機能性を有する幹細胞を称し、一般的に胚性幹細胞と人工多能幹細胞(iPS)がこれに該当する。成体幹細胞は、多分化能性又は単分化能性の幹細胞に区分できる。
【0018】
本発明の「分化(differentiation)」という用語は、細胞が分裂増殖して成長する間にお互いに構造や機能が特殊化される現象、即ち生物の細胞、組織などが各々に与えられた任務を行うために形態や機能が変わっていくことをいう。一般的に比較的単純な系が二つ以上の質的に異なる部分系に分離する現象である。例えば、個体発生で最初は同質的であった卵部分の間に頭や胴体などの区別が生じたり、細胞でも筋細胞や神経細胞などの区別が生じたりすることのように、最初はほぼ同質であったある生物系の部分の間に質的差が生じること、又はその結果として質的に区別できる部分又は部分系に分けられている状態を分化という。
【0019】
本発明の「胚様体(embryonic body、EB)」という用語は、万能幹細胞の分化を誘発させて生成される凝集体である。万能幹細胞をbFGF(basic Fibroblast Growth Factor)を除去した胚性幹細胞培養培地でフィーダー無しに浮遊状態で培養すると胚様体が生成できる。このような方法で製作させる胚様体は、内胚葉、中胚葉、外胚葉の個体形成の時必要な全ての細胞への分化が可能であると報告されたもので万能性幹細胞の全能性を表す体外での証明方法の一つである。
【0020】
本発明は培養14日目の胚様体を選択し、中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階を含むことができる。具体的に、本発明ではbFGF無しの胚性幹細胞培地で浮遊状態でヒト万能幹細胞を培養して形成された培養14日目の胚様体を選択し、中胚葉幹細胞の生産に用いることができる。従来のヒト万能幹細胞(一般的にヒト胚性幹細胞)から中胚葉幹細胞への分化を誘導する方法において、一般的に培養7日目の胚様体を用いた。しかし、本発明者は培養7日目の胚様体の代わりに培養14日目の胚様体を選択する場合、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産することにおいて、その分化誘導効率を高めることができるということを見出した。具体的に、培養7日目及び14日目の胚様体の遺伝子発現を調べた結果、既存7日胚様体と比べて、14日胚様体で中胚葉分化の初期関連遺伝子(brachyury、BMPRなど)と初期心臓中胚葉細胞で重要な遺伝子であるSox17が顕著に高く発現することを確認した(図1b参照)。前記結果から、培養14日目の胚様体を選択する場合、中胚葉幹細胞への分化が優先的に誘導されられることが分かる。
【0021】
また、本発明は、前記培養14日目の胚様体を組織培養皿に附着した後自発的に分化を誘導する段階を含む。ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞への分化を誘導する場合、外部からBMP(bone morphogenic protein)-2などを注入し分化誘導を開始するのが一般的である。本発明者は外部からBMP-2などの注入無しで一般的細胞培養培地であるDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)などを用いて前記胚様体を培養する時、中胚葉幹細胞への分化が自発的に誘導されることを見出した(図2b参照)。本発明者はこれに対するメカニズムに関連して既に知られている中胚葉幹細胞誘導因子であるBMPの自己ループ(loop)形成の可能性を考え、これに対する証明のためにBMPの拮抗剤(antagonist)であるNogginを処理し中胚葉幹細胞の分化誘導過程を観察した(図2c及び図2d参照)。Noggin未処理群では中胚葉幹細胞への分化が誘導される反面(図2c参照)、Noggin処理群では中胚葉前駆細胞が現れなかったことを観察し(図2d参照)、また継代培養時に再び細胞が附着されなかったため細胞培養が不可能であった。前記結果から、培養14日目の胚様体を附着した後、一般的な培養培地で培養した際、外部からのサイトカイン注入無しでも自発的に中胚葉細胞への分化が誘導されることは自体的BMP loopシステムによる調節に起因することが分かる。
【0022】
また、本発明は、前記分化誘導された中胚葉幹細胞をサイトカイン含有の培地を用いて維持及び増殖培養する段階を含む。本発明では、中胚葉幹細胞の培養液として、hEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、及びアスコルビン酸(ascorbic acid)などが含まれたMicrovascular Endothelial Cell Media-2(EGM-2MV、Lonza;Basel、Switzerland)培地を用いた。本発明者は、既存の中胚葉幹細胞培養の培地として多く用いられたα-MEM培地の代わりに前記EGM-2MV培地を用いる場合、体外培養時中胚葉幹細胞の活性が相対的により長く維持されるという長所があることを見出した。
【0023】
中胚葉幹細胞を細胞治療剤として使用するためには、前記で説明した通り、充分な量の細胞を供給するのが優先されるべきであるが、このためには中胚葉幹細胞の継代培養が必要である。しかし、継代培養を続けると中胚葉幹細胞が老化し分裂能力がなくなることと、その活性(分化能)を失うとの問題がある。これに関して本発明のEGM-2MV培地は、従来用いられていた中胚葉幹細胞培養の培地であるα-MEM培地に比べて、すぐれた活性維持能力があることを確認した(図3 参照)。具体的に細胞老化(senescence)時に染色されるbeta gal染色を行った結果、α-MEM培地を用いて培養した中胚葉幹細胞の場合、EGM-2MV培地で培養した中胚葉幹細胞に比べて、遥かに多くbeta galに染色されるし、細胞の大きさも顕著に大きくなっていることが分かった。一般的に幹細胞の体外培養時細胞の老化による生長不能は、大きさの肥大を伴うことが知られている。これはα-MEM培地を用いて培養した場合、中胚葉幹細胞の老化がもっと速く進み、中胚葉幹細胞の分化能が消失されることを意味する。
【0024】
更に、本発明は本発明の方法により生産された中胚葉幹細胞を提供する。中胚葉幹細胞は、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞などへの分化ができ、渦巻きの形態と基本的な細胞表面マーカーのSH2(+)、SH3(+)、CD34(-)、CD45(-)の発現程度により規定している。本発明の方法により得られたソウル大学病院のヒト胚性幹細胞(東洋人#1、男性、STO feeder)由来中胚葉幹細胞は各々異なる3回の実験でも同一の結果を表し、これは蛍光標示式細胞分取器及び機能的分化誘導方法(functional differentiation)で確認した。
【0025】
本発明は、様々な遺伝的起源を有するヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する時一般的に用いられる規範化された分化誘導及び増殖培養方法を提供する。これに関してソウル大学病院のヒト胚性幹細胞とその遺伝的起源が異なるチャ病院のヒト胚性幹細胞(東洋人#2、男性、MEF feeder)、及びH9ヒト胚性幹細胞(西洋人、女性、MEF feeder)において、本発明の方法を実施した結果、同一の結果が得られた。即ち、本発明の規定化された方法は、様々な遺伝的背景及び/又は培養環境を有する万能幹細胞から中胚葉幹細胞を分化誘導するために一般的に使用できる方法である。
【0026】
また、本発明は、本発明の方法により得た中胚葉幹細胞が含まれる細胞治療剤を提供する。具体的に、前記細胞治療剤は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、神経細胞、心筋細胞形成及び環境により多様な細胞への分化に利用されられる。
【0027】
本発明の「細胞治療剤」という用語は、人間から分離、培養及び特殊な操作により製造された細胞及び組織で治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(アメリカFDA規定)であり、細胞又は組織の機能を復原させるために生きている自己、同種、又は異種細胞を体外で増殖、選別したり、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させたりするなどの一連の行為によって、治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品を称する。細胞治療剤は細胞の分化程度によって大きく体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、特に本発明は幹細胞治療剤に関するものである。
【0028】
また、本発明は多様な遺伝的起源を有するヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産するシステム(system)を提供する。前記システムは、ヒト万能幹細胞を培養し、培養14日目の胚様体を選択する段階;前記胚様体を組織培養皿に附着しDMEM + FBS培地で培養し分化を誘導する段階;及び hEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone) 及びアスコルビン酸(ascorbic acid)を含む培地で、中胚葉幹細胞を維持及び増殖培養する段階を含む。
【0029】
また、本発明はヒト万能幹細胞を培養するフィーダー(feeder)を提供する。ヒト万能幹細胞を培養することにおいて、その未分化状態を継続的に維持させるためにはフィーダーを必要とする。従来のヒト万能幹細胞フィーダーとしてはマウス胚由来の繊維母細胞が優先的に利用されてきた。しかし、異種間の各種病原体の流入が臨床的に万能幹細胞を使用する際の問題点として認識されたため、その対策としてヒト由来の色々な細胞のフィーダーとしての可能性が報告された。しかし、これもまた他家由来の病原体の排除が完全にはできなく、未分化状態の維持のための外来因子(例えば、bFGF、IGF、ACTIVINなど)が必須的に必要であることと、長期培養のための継続的な細胞供給が不可能である短所などを克服することができない。これに対して、本発明により作られたヒト万能幹細胞由来の中胚葉幹細胞は継続的に同一背景の細胞を供給することができるし、また自己由来フィーダーとして免疫拒否反応の問題及び/又はその他の病原体流入の恐れなどを排除することができる。また。本発明者は本発明により製作したヒト万能幹細胞由来の中胚葉幹細胞をフィーダーとして用いる場合、外来の未分化維持因子を必要としない長所があることを見出した。即ち、未分化維持因子の添加無しで30継代以上未分化状態が維持されることを確認し(図10参照)、この「長期的未分化状態の維持」というすぐれた効果は、従来の様々なヒト由来フィーダーを過量の未分化維持因子を添加して使用した場合にも得られなかった効果である。
【0030】
以下、下記の実施例により本発明に関してより具体的に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するだけで、本発明の内容が、下記の実施例で限定されることではなく、本発明の技術的思想内において当分野で通常の知識を有した者により行われる様々な変形を含むことは明白である。
【実施例】
【0031】
実施例 1. ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞から中胚葉幹細胞を生産
(1) 胚様体の形成
未分化状態で維持されていたソウル大学病院のヒト胚性幹細胞(東洋人#1、男性、STO feeder)においてタンパク質分解酵素(dispase、2mg/ml)で処理し微細作業で分離した後、bFGFの無い胚性幹細胞培地に浮遊状態で14日間培養した。
【0032】
培養7日目及び14日目の胚様体に対して遺伝子分析を行い、各胚様体の中胚葉分化関連遺伝子の発現差をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して定量化した。従来に使用されていた7日目胚様体と比較した時、14日胚様体で中胚葉分化の初期関連遺伝子であるbrachyury及びBMPR、初期心臓の中胚葉細胞に重要な遺伝子であるSox17が顕著に高く発現することを確認し(図1b 参照)、また14日胚様体染色を行いbrachyuryタンパク質の発現及びその位置を確認した(図1c 参照)。
【0033】
(2) 中胚葉幹細胞への分化誘導
14日間の浮遊培養で作られた胚様体を組織培養皿に附着した後、自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導した。14日胚様体を附着する際の選別は図2aに示した。胚様体の中では、附着後良く成長するものもあり(図2aの左側)、附着後良く成長しないものもあった(図2aの右側)。前記胚様体をDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)にFBS(fetal bovine serum)を添加(10% v/v)した培地で16日間培養しながら中胚葉幹細胞への分化誘導を観察した。胚様体附着後3日目(D3)及び7日目(D7)の観察結果を図2bに示した。
【0034】
図2bで分かるように、サイトカインが含まれてない一般的な培養培地(DMEM +FBS)で胚様体を培養する時、自発的に中胚葉幹細胞への分化誘導が開始されることを確認した。前記分化誘導のメカニズムを明かすためBMPの拮抗剤(antagonist)であるNogginを処理し、中胚葉への分化誘導過程を比較観察した(図2c及び図2d参照)。Noggin未処理群では中胚葉幹細胞への分化が誘導される反面(図2c)、Noggin 処理群では中胚葉前駆細胞が現れないことを確認した(図2d)。前記結果より、外部のサイトカイン注入無しで一般培養培地に胚様体を培養した時自発的に中胚葉幹細胞への分化が誘導されることは、自体的BMP loopシステムによる調節に起因することが分かる。
【0035】
(3) 分化誘導された中胚葉幹細胞の維持及び増殖培養
前記実施例1(2)で胚様体附着後16日間培養し分化誘導された中胚葉幹細胞において、酵素(Trypsin-EDTA、0.25% Trypsin with EDTA 4Na)を処理し単一細胞に解体させた後、再び組織培養皿に附着させた。その後、培養液総500ml中、hEGF 0.5ml(human Epidermal Growth Factor)、VEGF 0.5ml(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B 2ml(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1 0.5ml(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone) 0.2ml、及びアスコルビン酸0.5mlと基礎培地470mlを添加した培地(EGM-2MV、CC4147、Lonza)を用いて、37℃で維持及び増殖培養した。
【0036】
前記増殖培養の際、中胚葉幹細胞の活性維持可否に関して本発明で用いたEGM-2MV培地及び従来の中胚葉幹細胞培養培地であるα-MEM培地の活性維持能力の比較実験を行った。具体的に、前記各々の培地で培養した細胞群において、細胞老化(senescence)時染色されるbeta gal染色を行い、その結果を図3に示した(1ヶ月間培養比較を行い7回目に継代培養した細胞を使用した)。
【0037】
図3に示した通りEGM-2MV培地を用いて培養した中胚葉幹細胞に比べ、α-MEM培地を用いて培養した中胚葉幹細胞の方が、遥かに多くbeta gal染色されたことが分かる。これはα-MEM培地を用いて培養した場合、中胚葉幹細胞の老化がより速く進み中胚葉幹細胞の分化能が消失し、究極的に細胞治療剤としての機能を果たせなくなることを意味する。これに反して本発明のEGM-2MV培地を用いる場合、継続的な継代培養を行っても中胚葉幹細胞の活性が長く維持できα-MEM培地に比べて比較的に細胞治療剤としての実用性を高めることができるということを意味する。
【0038】
更に、EGM-2MV培地を用いて長期間培養する場合、中胚葉幹細胞の同一性及びその活性が継続的に維持されることができるか否かを調査し、その結果を図4に示した。図4aはEGM-2MV培地を用いて140日以上培養した後の細胞を示したもので、依然として中胚葉幹細胞の典型的パターンであるfinger printingパターン(pattern)の成長模様を表していることが分かる。図4bは培養140日まで継続的に細胞分裂が盛んに行われていることを示し、中胚葉幹細胞の活性が持続的に維持されることが分かる。結論的に、分化誘導した中胚葉幹細胞を本発明のEGM-2MV培地で維持及び増殖培養した場合、中胚葉幹細胞の同一性及び活性が長期間維持されることができるということが明確に分かる。
【0039】
実施例 2. 中胚葉幹細胞の特性分析
(1) 細胞表面マーカー分析
実施例1より得た中胚葉幹細胞において、特異的な細胞表面マーカーの発現有無を分析した。抗原-抗体反応を行った後、蛍光標示式細胞分取器を利用し得た結果を図5に示した。比較対照群としてIgGを用いた。
【0040】
図5aで分かるように、培養95日目(D95)及び培養129日目(D129)細胞で中胚葉幹細胞の特異マーカーであるCD73及びCD105が依然として多量発現されることが確認された。更に、培養129日目の中胚葉幹細胞において、細胞表面マーカー分析を行った結果を図5bに示した。図5bから分かるように、ヒト中胚葉幹細胞マーカー(hMSCs markers)であるCD29、CD44及びCD90は発現されたが、ヒト万能幹細胞マーカー(hESCs markers)であるSSEA1、SSEA4、TRA-1-60及びOCT-4は発現されてなく、内胚葉及び外胚葉マーカー(other lineage markers)も発現されないことを確認した。
【0041】
究極的に、本発明の方法によると、ヒト万能幹細胞より選択的に中胚葉幹細胞のみを分化誘導して更に長期間の増殖培養をする時、依然として中胚葉幹細胞の同一性を維持できることが明確に分かる。
【0042】
(2) 核型分析
G-banding方法(Saccone et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:4913-4917、1992)を利用して、前記実施例1より得た中胚葉幹細胞(培養160日目)の核型を分析し、その結果を図6に示した。図6で分かるように、XY+44の正常核型を維持していることを確認した。
【0043】
(3) 中胚葉幹細胞の機能(分化能)確認
実施例1より得た中胚葉幹細胞(培養129 日目)の分化能を確認するため既に報告された方法(Tiziano Barberi et al., PLoS Medicine, 2:0554-0560, June 2005; 及びKitsie J. Penick et al., Biotechniques, 39:687-691, 2005)により分析を行った。具体的に、前記中胚葉幹細胞から脂肪細胞(adipocyte)、軟骨細胞(chondrocyte)、骨細胞(osteocyte)及び、筋細胞(myocyte)への分化を誘導し、各々の細胞に特異的な遺伝子発現を免疫染色反応で調査して、その細胞分化結果を図7aに示した。
【0044】
脂肪細胞の分化は脂肪小滴を染色するOil red Oにより染色し、軟骨細胞は特異的発現タンパク質であるaggrecanとcollagen IIで抗原-抗体反応を利用し染色した。また、骨細胞はミネラル形成が確認できるvon kossa染色により確認し、筋細胞は特異的発現タンパク質であるMYF5を抗原-抗体反応を用いて染色し分化を確認した。
【0045】
また、前記中胚葉幹細胞から脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞及び、筋細胞への分化の時、各々の細胞に特異的な遺伝子発現をポリメラーゼ連鎖反応で定量化した結果を図7bに示した。図7bから分かるように、脂肪細胞ではSerbf及びPPARγ、骨細胞ではALP、Osteocalcin及びOsteopontin、軟骨細胞ではAggrecan、筋細胞ではMyoDが各々発現されることを確認した。前記結果から本発明の方法により得た中胚葉幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞及び、筋細胞への分化ができる多能性を有していることが明確に分かる。
【0046】
(4) 免疫不全マウスを利用した発癌性有無の確認
免疫不全マウスを用いて実施例1より得た本発明の中胚葉幹細胞の発癌性有無を確認した。対照実験のためヒト胚性幹細胞を用いた。具体的に、前記中胚葉幹細胞1X107個、ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞3X106個を免疫不全マウスに注射し、12週後検視した結果を図8aに示した。図8aで分かるように、ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞を注射した所では奇形腫(teratoma)が形成されたが、本発明の中胚葉幹細胞を注射した所ではteratomaが形成されなかったことを確認した。また、免疫誘発関連因子が発現されないことをFACSにより確認し、その結果を図8bに示した。対照群(control)としてIgGを用いた。図8bで分かるように、免疫原性を有する時発現されるMHC IIであるHLA-DR、HLA-DQは表面因子として発現しないことを確認し、免疫誘発co-stimulatorであるB7-2及びB7-1も発現されないことを確認した。
【0047】
結論的に、本発明の中胚葉幹細胞は対照群である胚性幹細胞の約3倍以上の細胞数を注入した場合にも癌を誘発せず、12週間の長期培養後にも免疫誘発因子が発現されないことを確認した。従って、本発明の中胚葉幹細胞は、癌発生の恐れがないことが明確に分かる。
【0048】
(5) 虚血性心疾患モデルを利用した機能性評価
実施例1により得た本発明の中胚葉幹細胞の心血管疾患に対する機能性を評価するため、虚血性心疾患マウスモデルを利用した。前記中胚葉幹細胞(培養129日目)を前記疾患マウス1匹当5X104個注射した後8週間その機能性を評価し、その結果を図9に示した。
【0049】
図9a 及び 9bは各々前記中胚葉幹細胞を注入した心臓と注入してない心臓を示す。繊維化はMT染色により可視化し図の青い部分が繊維化を表す。図9a及び図9bを比較観察すると、細胞を注入した心臓組織(図9a)の場合、細胞を注入してない心臓組織(図9b)に比べて心臓壁の繊維化による薄層化が少ないことが分かる。即ち、虚血性心疾患がある場合心臓壁の繊維化が起き、これによってその壁が薄くなるが、本発明の中胚葉幹細胞を注入した場合、繊維化による心臓壁の薄層化を抑えることが分かる。また、図9cは損傷を誘導した所で心臓壁の繊維化された部分を数値化と定量化した結果を示すもので、細胞注入(cell transplantation)する時に細胞を注入してない対照群に比べて繊維化部分が少なくなったことが明確に分かる。図9dは、8週のfollow-upでEcho心電図測定結果を示す。4週及び8週の2回の心電図測定記録より、対照群に比べて細胞注入群で心臓壁の運動が良くなったことが確認できる。LVEDDは心臓の拡張、LVFSは心臓の収縮を表し、LVEDDはその数値が低いほど、LVFSはその数値が高いほど、心臓機能が良いことを表す。
【0050】
前記結果によって、虚血性心疾患モデルに本発明の中胚葉幹細胞を注入する場合、心臓壁が薄くならなく、また死んだ組織を代替するが機能性を有しないため、その結果心不全を誘発する繊維化(fibrosis)面積を少なくし、究極的に虚血性心疾患を改善するということを確認した。
【0051】
(6) 自己細胞由来フィーダーとしての可能性試験
実施例1で得た本発明の中胚葉幹細胞において、ヒト万能幹細胞を未分化状態で維持できるフィーダーとしての使用可能性を調査した。本実験では、ヒト万能幹細胞の未分化維持因子であるbFGF無しで培養を行った。
【0052】
具体的に、本発明の方法によりソウル大学病院のヒト胚性幹細胞3番(SNUhES3)から分化誘導されて得られた中胚葉幹細胞(SNU3MSC-1)をフィーダーとして使用し、ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞3番を培養した。未分化維持因子であるbFGF無しで前記胚性幹細胞を培養した場合、30回以上の継代培養を行っても前記ヒト胚性幹細胞の未分化状態が維持されることを確認した(図10 参照)。図10で分かるように、30回の継代培養後にもヒト万能幹細胞マーカーであるOCT-4、SSEA-4、TRA-1-60を発現することが分かり、これは未分化能がそのまま維持されていることを立証する結果である。結論的に本発明の中胚葉幹細胞をヒト万能幹細胞の培養時の自己由来フィーダーとして用いる場合、従来のヒト万能幹細胞培養時その未分化能を維持するために必要であったbFGFを注入しなくても、万能幹細胞の未分化能を継続的に維持できることを確認した。
【0053】
実施例 3. チャ病院のヒト胚性幹細胞とH9ヒト胚性幹細胞から中胚葉幹細胞生産、及び特性分析
本発明の中胚葉幹細胞生産方法が、遺伝的背景及び/又は培養環境の異なるヒト万能幹細胞に対しても、一般的に適用できるか否か、その再現性を確認する実験を行った。ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞の代わりに、その遺伝的背景及び培養環境が異なるチャ病院のヒト胚性幹細胞3番(CHA3-hESC)とH9ヒト胚性幹細胞を使用したこと以外は、本発明の実施例1と同様に実験を行った。具体的に、培養14日目 胚様体を附着後の外部からのサイトカイン注入無しに一般培養培地で自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導し、EGM-2MV培地を用いて維持及び増殖培養して中胚葉幹細胞を得た。
【0054】
図11は、ソウル大学病院のヒト胚性幹細胞と遺伝的背景及び培養環境の異なる前記チャ病院のヒト胚性幹細胞とH9ヒト胚性幹細胞を用いて本発明の中胚葉幹細胞生産方法の再現性を検証した結果である。
【0055】
図11a及び図11bから分かるように、チャ病院細胞由来の中胚葉幹細胞(培養 90日目)とH9細胞由来中胚葉幹細胞(培養90日目)は全て中胚葉幹細胞の典型的な表現型を表した。更に、蛍光標示式細胞分取器で遺伝子発現を分析した結果、中胚葉幹細胞の特異的遺伝子であるCD105、CD73、CD29、CD44及びCD90が陽性と認知され、胚性幹細胞の特異マーカー(SSEA-1、 SSEA-4、 TRA-1-60)及び他の胚葉由来のマーカー(CD45、CD34)は陰性と認知されることを確認した[図11c(チャ病院細胞由来の中胚葉幹細胞、D90)、及び図11d (H9細胞由来の中胚葉幹細胞、D90)参照]。
【0056】
また、G-banding方法(Saccone et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4913-4917, 1992)を利用し、前記チャ病院細胞由来の中胚葉幹細胞(培養90日目)と、H9細胞由来の中胚葉幹細胞(培養90日目)の核型を分析した結果、XY+44の正常核型を維持していることを確認した(各々、図11eと、図11f参照)。
【0057】
前記結果によって、本発明のヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する方法は、遺伝的背景及び/又は培養環境の異なるヒト万能幹細胞に対しても一般的に適用できる規定化された中胚葉幹細胞の培養方法であることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によると、細胞治療剤の最も良い資源である中胚葉幹細胞を、その同一性を維持しながら低費用で持続的に、大量生産することができる。究極的に、本発明は、ヒト万能幹細胞を用いて再生医学及び細胞治療分野に理想的に使用できる中胚葉幹細胞を、より容易に大量に供給することで、細胞治療剤の実用化が可能となり、更に心血管系疾患、神経系疾患などの難病治療に大きく寄与することができる。
【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒト万能幹細胞から胚様体を形成する段階;b)前記胚様体を附着後培養し自発的に中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階;及びc)前記中胚葉幹細胞の同一性を維持しながら増殖培養する段階、を含む、ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する方法。
【請求項2】
前記a)段階のヒト万能幹細胞を14日間培養し胚様体を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記b)段階の胚様体を、FBS(fetal bovine serum)が添加されたDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地で培養し分化を誘導することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記b)段階の分化誘導が、外部からのサイトカイン注入無しに自己由来サイトカインループ(loop)形成により自発的に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記自己由来サイトカインが、BMP(bone morphogenic protein)であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記c)段階の中胚葉幹細胞を、hEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、及びアスコルビン酸(ascorbic acid)が含まれた培地を利用して培養することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一つに記載の方法により生産される中胚葉幹細胞。
【請求項8】
請求項7の中胚葉幹細胞を含む細胞治療剤。
【請求項9】
前記細胞治療剤は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、神経細胞、及び心筋細胞からなる群から選ばれる細胞を形成するための、請求項8に記載の細胞治療剤。
【請求項10】
請求項1ないし6の何れか一つに記載の方法により生産された中胚葉幹細胞を、細胞培養フィーダー(feeder)として使用する方法。
【請求項11】
前記細胞は、ヒト万能幹細胞であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト万能幹細胞を30回継代培養することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1ないし6の何れか一つに記載の方法により生産する中胚葉幹細胞を含む細胞培養フィーダー(feeder)。
【請求項14】
前記細胞は、ヒト万能幹細胞であることを特徴とする、請求項13に記載のフィーダー。
【請求項15】
ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産するキット(kit)で、下記を含むキット:
a)bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)を含まない胚性幹細胞培地;
b)10% (v/v) FBS(fetal bovine serum)を添加したDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地;及び
c)hEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、及びアスコルビン酸(ascorbic acid)を含む培地。
【請求項16】
ヒト万能幹細胞から中胚葉幹細胞を生産する培養システムで、下記段階を含むシステム:
a)ヒト万能幹細胞を培養し培養14日目の胚様体を選択する段階;b)前記胚様体を組織培養皿に附着しFBS(fetal bovine serum)を添加したDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地で培養し、中胚葉幹細胞への分化を誘導する段階;及びc)前記中胚葉幹細胞をhEGF(human Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、hFGF-B(human Fibroblast Growth Factor-basic)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、及びアスコルビン酸(ascorbic acid)が含まれた培地を用いて維持及び増殖培養する段階。

【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図11e】
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【図11f】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図5b】
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【図7】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図11d】
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【公表番号】特表2013−507981(P2013−507981A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536618(P2012−536618)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006267
【国際公開番号】WO2011/052818
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(509084149)エスエヌユー アールアンドディービー ファウンデーション (19)
【Fターム(参考)】