説明

ヒト不死化神経前駆細胞系

本発明は、ヒト不死化神経前駆細胞系、NGC−407に関する。該細胞系は、ヒト胎児組織から樹立された。該細胞系は、v−myc癌遺伝子を含有するレトロウィルスベクターを用いて不死化された。該細胞系は、星状細胞ならびにドーパミン作動性ニューロンなどのニューロンに分化することのできる神経始原細胞系である。NGC−407細胞は、ラットの脳に移植されたグリア芽腫に移動して、腫瘍細胞とギャップ結合を形成することができる。活性化ヌクレオシド類似体の形態の活性化プロドラッグを腫瘍にデリバリーするための、自殺遺伝子を発現するNGC−407細胞を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト不死化神経前駆細胞系、NGC−407に関する。該細胞系はヒト胎児組織から確立された。
【背景技術】
【0002】
ヒト胎児組織の移植による神経変性障害治療の有効性は、動物モデル〔Brundinら、Behavioural effects of human fetal dopamine neurons grafted in a rat model of Parkinson’s disease、Exp Brain Res、65(1986)235〜40頁;Wictorinら、Reformation of long axon pathways in adult rat central nervous system by human forebrain neuroblasts、Nature、347(1990)556〜8頁;〕、ならびにパーキンソン病(PD)およびハンチントン病患者〔Bachoud−Leviら、Motor and cognitive improvements in patients with Huntington’s disease after neural transplantation、Lancet、356(2000)1975〜9頁;Freedら、Transplantation of embryonic dopamine neurons for severe Parkinson’s disease、N Engl J Med、344(2001)710〜9頁;Hagellら、Sequential bilateral transplantation in Parkinson’s disease:effects of the second graft、Brain、122(Pt6)(1999)1121〜32頁;Kordowerら、Neuropathological evidence of graft survival and striatal reinnervation after the transplantation of fetal mesencephalic tissue in a patient with Parkinson’s disease、N Engl J Med、332(1995)1118〜24頁;Lindvallら、Grafts of fetal dopamine neurons survive and improve motor function in Parkinson’s disease、Science、247(1990)574〜7頁;Olanowら、Fetal nigral transplantation as a therapy for Parkinson’s disease、Trends Neurosci、19(1996)102〜9頁〕において示されている。しかし、ヒト由来の胎児ドナー細胞では、倫理的および実用的双方で難しい問題が生じるため、将来の移植のための代替となる細胞供給源を開発しなければならない。治療遺伝子を発現するように遺伝子改変された細胞の脳内への移植は、神経変性障害に対する可能性のある治療として提案されている〔Villa,A.、Navarro,B.およびMartinez−Serrano,A.、Genetic Perpetuation of in vitro expanded human neural stem cells:cellular properties and therapeutic potential、Brain Res Bull、57(2002)789〜94頁〕。したがって、遺伝子操作と細胞移植を組み合わせる場合、重要な問題は、好適な細胞ビヒクルを見い出すことである。
【0003】
チミジンキナーゼ(TK)遺伝子を発現するように改変された腫瘍細胞は、非毒性ヌクレオシド類似体ガンシクロビル(GCV)をその細胞毒性代謝物、ガンシクロビル三リン酸に変換する能力を獲得する。この「自殺」遺伝子を発現するように遺伝子操作された細胞は、ガンシクロビルに曝露されると排除される。腫瘍細胞の実験的組織培養物ならびにTK発現細胞と非改変「天然」腫瘍細胞の混合物からなる脳腫瘍移植物もまた、ガンシクロビル治療の後、隣接正常組織を害することなく退縮する。少数のTK発現細胞が死に至るこの現象およびTKを発現しない隣接天然腫瘍細胞の排除は、「バイスタンダー効果」と称されている。
【0004】
悪性脳腫瘍は、悪性疾患が全て脳に限定され、バイスタンダー効果により根絶し易いため、自殺遺伝子デリバリーにとって興味ある標的である。この戦略を成功させる重要な要素は、自殺遺伝子を発現させる遺伝子ベクターおよびそのデリバリービヒクルである。例えば、グリア芽腫多型における個々の全ての腫瘍を、遺伝子療法ベクターの個別の注射を用いて標的にすることは不可能なため、他のデリバリー戦略が必要とされる。神経膠腫を探し出すことができ、治療的分子をデリバリーするように操作された移動性細胞は、正常な脳組織に侵入している神経膠腫細胞の問題に対する理想的な解決法となる。神経幹細胞(NSC)の移動能力は、脳の広範な細胞置換および遺伝子発現を必要とする神経変性疾患モデルにおける療法に対して理想的に適していることが実証されている。NSCは脳内の疾患部位を特異的に目指すのではないかと仮定されている。また、いくつかの研究では、移植されたNSCが腫瘍自体から離して注射しても、原発腫瘍塊内へ進入できるという興味ある観察が得られており、さらに、NSCはそれ自体、腫瘍床全体に分布することが観察されており、したがって、進行している単発性腫瘍の細胞にさえ並行して移動する(Dunn & Black、Neurosurgery、2003年、52:1411〜1424頁;Aboodyら、PNAS、2000年、97:12846〜12851頁)。NSCは、腫瘍塊周辺の脳組織における浸潤性神経膠腫細胞を探し出し、単発性腫瘍の細胞を「ピギーバック」して細胞間接触をさせることが、これらの著者により示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、神経変性疾患の治療の分野、および癌の治療におけるいくつかの問題に取り組んでいる。したがって、大量の胎児組織の必要性を除く置換細胞療法のための十分な材料を提供することが、本発明の目的の一つである。CNS内への移植後、導入遺伝子を安定に発現することのできる細胞を提供することが他の目的である。さらに、癌細胞とギャップ結合を形成することのできる細胞を提供することが一つの目的である。また、CNS内の癌細胞を探し出すことのできる細胞を提供することが一つの目的である。最後に、このような細胞は、増殖し、治療遺伝子をトランスフェクトし、保存するのに十分な継代ができるように増殖できなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、NGC−407細胞から得ることのできるか、それらに由来するか、またはそれらにより構成されるヒト細胞系に関する。該細胞系は、ブタペスト条約に従い、受入番号DSM ACC2718の下、2005年3月31日にDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(ドイツ国D−38124ブラウンシュベーク、マッシェローダー通り1b)に寄託された。
【0007】
本発明の細胞系は、いくつかの利点を有する。それは、増殖させて、130回超の個体数倍増の間、安定のままであった、安定な不死化細胞系である。該細胞系は、分化条件に依存して、ニューロン、星状細胞およびドーパミン作動性ニューロンに分化できる神経始原細胞系である。NGC−407細胞系は移植に用いることができる。該細胞系は、ラットで少なくとも3週間、移植時生存することができることが示されている。したがって、NGC−407細胞系は、ヒト脳内では、さらに長時間生存できると考えられる。移植期間中、該細胞系は、異種遺伝子を安定して発現できる。したがって、NGC−407細胞系は、置換療法(神経系の損失または損傷細胞の置換)と保護療法(分泌成長因子、神経栄養因子または神経伝達物質などの生物学的機能をデリバリーするビヒクルとして)の双方に使用できる。
【0008】
該細胞系はまた、異種のチミジンキナーゼを発現するように形質転換された。この異種キナーゼを高レベルに発現するモノクローナル細胞系が選択された。神経系における腫瘍細胞にチミジンキナーゼをデリバリーするためのビヒクルとして、これらの細胞系が使用できる。また、NGC−407細胞系は、中枢神経系内の癌細胞に向かって移動できること、およびNGC−407細胞系は、癌細胞とギャップ結合を形成でき、該細胞系から該癌細胞に低分子量化合物を移送できることも示された。したがって、NGC−407細胞系は、該細胞系が癌細胞に移動し、これらとギャップ結合を形成した後、プロドラッグ(例えば、AZT、ガンシクロビル)を活性化するデリバリービヒクルとして使用できる。次いで、活性化されたプロドラッグは、癌細胞に移送され、これら癌細胞とデリバリー細胞系の双方を死滅させる。これは、グリア芽腫多型を治療する実行可能で有望な方法である。
【0009】
さらなる一態様において、本発明は、インビトロの薬剤スクリーニングおよび特性化など、実験的な目的に関するNGC−407細胞系の使用に関する。これは例えば、安全試験および毒性試験の一部であり得る。中脳起源の既知細胞系(国際公開第00/09669号に記載されたMES−II(1)−C2;Lothariusら、J Biol Chem 2002、277:38884〜38894頁に記載されたMESC2.10としても知られている)と比較して、NGC−407は、幹細胞マーカー、ネスチンを発現し、ニューロンと星状細胞の双方に分化することができる。他方、MESC2.10は、ネスチンを発現せず、ニューロンに分化するように誘導され得るだけである。したがって、NGC−407は、早期発生段階を示し、MESC2.10と比較してより広範な可能性を有している。星状細胞は、ニューロンの機能性維持に重要な多数の成長因子(GDNFなど)およびホルモンを分泌する。したがって、例えば、パーキンソン病治療のための強力な生物学的薬剤の同定に関して、星状細胞を相当な割合で含有する細胞系は、ニューロン細胞系と比較してより良好なモデル系となる。
【0010】
他の態様において、本発明は、治療適用のためのNGC−407細胞系の使用に関するものであり、さらなる一態様においては、置換療法に関するものである。特に好ましい一実施形態において、該細胞系は癌療法に用いられる。
【0011】
さらなる一態様において、本発明は、NGC−407細胞系に由来する細胞の組成物を含むコアを含む生体適合性カプセル剤に関するものであり、前記細胞は、個体に生物学的機能をデリバリーする化合物を分泌することができ、半透膜が細胞の組成物を包囲して、細胞の組成物によって分泌された化合物の通過を可能にする。
【0012】
本発明の一実施形態において、「治療」、「療法」、および「医療的使用」は、予防を含むことが意図されている。「治療」、「療法」、および「医療的使用」はまた、疾患または障害の阻止、疾患または障害に対する防御、および/または疾患または障害の防止(絶対的ではない)を含み得る。「治療」、「療法」、および「医療的使用」はまた、治癒の、寛解の、および/または症状の治療、療法および医療的使用を含み得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
NGC−407細胞系のトランスフェクションまたは形質導入
好ましい一実施形態において、本発明のNGC−407細胞系由来の細胞は、ゲノム中に組み込まれ、組み込まれた染色体と一緒に複製される異種DNAエレメントを、真核生物プロモーター、異種治療遺伝子、ポリアデニル化シグナル(pA)との作動可能な組合せで含む。
【0014】
異種DNAエレメントは、任意の好適な出所のものでよいが、本明細書に記載されたものの中から選択されることが好ましい。
【0015】
好ましい一実施形態において、異種治療遺伝子は、ヒトユビキチン(UbC)プロモーターの転写制御下で発現できる。
【0016】
発現のダウンレギュレーションの可能性は、導入遺伝子およびその付随プロモーターの部位特異的組み込みを指示する操作によって無効化できる。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、該プロモーターは、ユビキチンプロモーター、CMVプロモーター、JeTプロモーター(米国特許第6,555,674号)、SV40プロモーター、伸長因子1アルファプロモーター(EF1−アルファ)、RSV、およびMo−MLV−LTRよりなる群から選択される構成的プロモーターである。
【0018】
誘導/抑制プロモーターの例としては、Tet−On、Tet−Off、ラパマイシン誘導性プロモーター、Mx1が挙げられる。
【0019】
好適な発現制御配列としては、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン、イントロンに関するスプライシングシグナル、および停止コドンが挙げられ、全ては、mRNAの適切な翻訳が可能になるように、本発明のポリヌクレオチドの正しいリーディングフレーム内に維持されている。発現制御配列はまた、リーダー配列および融合パートナー配列などの追加要素を含み得る。
【0020】
好適な発現ベクターは、単純疱疹、アルファウィルス、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、バキュロウィルス、HSV、コロナウィルス、ウシパピローマウィルス、Mo−MLV由来のウィルスベクターであり得るが、好ましくは、アデノ関連ウィルス、または種々の細菌産生プラスミド由来のウィルスベクターである。
【0021】
他のトランスフェクション法としては、限定はしないが、リポソームトランスフェクション、電気穿孔法、および核または他の局在化シグナルを含有する担体ペプチドのトランスフェクションが挙げられる。
【0022】
他の好適な発現ベクターとしては、やはり市販供給源(Inbitrogen Inc.、Clontech、Promega、BD Biosecencesなど)から得られる一般的目的の哺乳動物ベクターが挙げられ、ジェネティシン/ネオマイシン(G418)、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン/ブレオマイシン、ブラスチシジンSI、マイコフェノール酸、またはヒスチジノールに関する選択性を含有する。
【0023】
該ベクターとしては、以下のクラスのベクター:一般的な真核生物の発現ベクター、安定で一時的な発現のためのベクターおよびエピタグベクター、ならびに、所望の挿入体の高速クローニングのためのそれらのTOPO誘導体が挙げられる(ベクターの非限定例に関しては、下記のリストを参照)。
エクジソン誘導性発現:pIND(SP1)ベクター、pIND/V5−Hisタグベクターセット;pIND(SP1)/V5−Hisタグベクターセット;EcR細胞系;ムリステロン(Muristerone)A
安定発現:pcDNA3.1/Hygro;PCI;PSI;pSecTag A,B&C;pcDNA3.1(−)/MycHis A,B&C;pcDNA3.1±;pcDNA3.1/Zeo(+)およびpcDNA3.1/Zeo(−);pcDNA3.1/His A,B&C;pRc/CMV2;pZeoSV2(+)およびpZeoSV2(−);pRc/RSV;pTracer(商標)−CMV;pTracer(商標)−SV40
一時的発現:pCDM8;pcDNA1.1;pcDNA1.1/Amp。
エピタグベクター:pcDNA3.1/MycHis A,B&C;pcDNA3.1/V5−His A,B&C
【0024】
異種治療遺伝子
異種治療遺伝子は、治療活性を有するポリペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子(治療因子とも称される)である。治療活性を有する好ましいポリペプチドまたはタンパク質は、神経学的障害を寛解するか、または治療することのできるポリペプチドまたはタンパク質である。
【0025】
好ましい一実施形態において、異種治療遺伝子は、神経栄養因子をコードしている。より好ましい一実施形態において、該神経栄養因子は、神経成長因子(NGF);インスリン様成長因子(IGF)、特にIGF IまたはIGF II;形質転換成長因子−αおよび−β(TGFαおよびTGFβ)、形質転換成長因子−β2(TGF−β2)、ノイルチュリン(Neurturin)(NTN)、パーセフィン(Persephin)(PSP)などの形質転換成長因子(TGF)スーパーファミリーのメンバー;グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF);ノイブラスチン(NBN);毛様体神経栄養因子(CNTF);脳由来神経栄養因子(BDNF);ニューロトロフィン(NT)、特にNT3からNT9;腫瘍壊死因子(TNF)、特にTNF−αである。
【0026】
他の好ましい実施形態において、異種治療遺伝子は、神経生存因子をコードしている。より好ましい一実施形態において、該神経生存因子は、可溶性または分泌されたスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、Bcl2、BclX、またはヘッジホッグタンパク質である。
【0027】
第3の好ましい実施形態において、異種治療遺伝子は、神経生長因子をコードしている。より好ましい一実施形態において、該神経生長因子は、線維芽細胞成長因子(FGF)、特に酸性または塩基性の線維芽細胞成長因子(aFGFまたはbFGF);内皮成長因子(EGF)、特に血管内皮成長因子および血管透過性因子(VEGPF);インターフェロン、特にインターフェロン−α、インターフェロン−βまたはインターフェロン−γ、インターロイキン(IL)、特にIL−1、IL−1β、GMCSFおよびIL2からIL14である。
【0028】
第4の好ましい実施形態において、異種治療遺伝子は、神経伝達物質の合成に寄与する生物活性分子をコードしている。より好ましい一実施形態において、該神経伝達物質は、アセチルコリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、ドーパミン、オクトパミン、グルタメート、アスパルテート、グリシン、プロリン、χ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン、タウリン、アラニン、シスタチオン、ヒスタミン、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)、サブスタンスP、神経ペプチドY(NPY)、コレシストキニン、ニューロテンシン、エンケファリン、またはソマトスタチンである。他の好ましい実施形態において、該神経伝達物質の合成において機能する生物活性分子は、コリンアセチルトランスフェラーゼ;チロシンヒドロキシラーゼ(TH);チロシンデカルボキシラーゼ;チミジンキナーゼ、シトシンデアミダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、L−DOPAデカルボキシラーゼ、ヒスチジンデカルボキシラーゼ、グルタメートデカルボキシラーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)である。
【0029】
第5の好ましい実施形態において、異種治療遺伝子は、受容体をコードしている。より好ましい一実施形態において、該受容体は、アセチルコリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、ドーパミン、オクトパミン、グルタメート、アスパルテート、グリシン、プロリン、χ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン、タウリン、アラニン、シスタチオン、ヒスタミン、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)、サブスタンスP、神経ペプチドY(NPY)、コレシストキニン、ニューロテンシン、エンケファリン、またはソマトスタチンに結合する受容体である。
【0030】
置換療法
本発明の細胞系は、特定の治療因子をコードする追加の異種DNAを含有するために操作されてもよいし、されなくてもよい。本発明の細胞系が特定の治療因子をコードする追加の異種DNAを含有しない場合は、回復療法に特に好適であり得る。
【0031】
本明細書に定義されているとおり、置換療法は、移植後に、特定の位置において、またはCNSおよび/またはPNS全体において、欠陥があるか、不在であるか、または消失した細胞およびそれらの機能に置き換わる、神経系における起源細胞の移植に関する。
【0032】
さらなる一態様において、本発明は、CNS内で、またはCNS外での置換療法に使用する方法および組成物を提供する。本発明の置換療法は、細胞置換、細胞により産生される細胞分泌内因性物質のデリバリー、造血系に関する療法、ヒトを含めた哺乳動物における神経学的疾患に、特に適用できる。
【0033】
本発明によって考慮される神経学的欠損には、任意の神経変性の疾患、障害または病態が含まれる。神経学的欠損は、病変ニューロンおよび外傷ニューロン、特に末梢神経、延髄、および/または脊髄の外傷病変、脳虚血性ニューロン損傷、ニューロパシーおよび特に末梢ニューロパシー、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、グリア芽腫、筋萎縮性側索硬化症を含む、特に神経変性疾患または他の任意の神経変性疾患、および認知症に関係した記憶障害であり得る。
【0034】
保護療法
特定の治療因子をコードする追加の異種DNAを保持しない本発明の不死化細胞系は、置換療法に十分好適であるが、特定の治療因子をコードする追加の異種DNA導入に供された本発明の不死化細胞系は、保護療法に特に好適であり得る。
【0035】
本明細書に定義されているとおり、保護療法は、移植後に、特定の位置において、またはCNSおよび/またはPNS全体において、レシピエント個体の神経系における細胞死または機能障害を防止または保護するか、またはこれらの細胞の機能または再生能力および神経再支配能力を刺激する内因性または外因性治療因子を産生する、神経系における起源細胞の移植に関する。
【0036】
特に、本発明は、保護療法に用いられる方法および組成物を提供する。より具体的には、本発明は、ヒトを含めた、正常な、または免疫抑制された哺乳動物の脳に、治療的および/または予防的意図で、移植により用いられる方法および組成物を提供する。特に、本発明は、神経学的欠損の持続的で安全な治療に有用な方法および組成物を提供する。
【0037】
本発明によって考慮される神経学的欠損には、任意の神経変性の疾患、障害または病態が含まれる。神経学的欠損は、病変ニューロンおよび外傷ニューロン、特に末梢神経、延髄、および/または脊髄の外傷病変、脳虚血性ニューロン損傷、ニューロパシーおよび特に末梢ニューロパシー、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、グリア芽腫、筋萎縮性側索硬化症を含む、特に神経変性疾患または他の任意の神経変性疾患、および認知症に関係した記憶障害であり得る。
【0038】
分化
NGC−407細胞系は、実施例1に記載されたもの(Bardford分化、Sah分化、Storch分化)などの公知のインビトロ分化処置、さらに、国際公開第02/086106号に記載されたTH誘導法(Ns遺伝子)などの他の公知の分化方法に供することができる。このような分化は、置換療法の前に、またはインビトロアッセイまたは遺伝子発現プロファイリングの一部として実施できる。
【0039】
分化プロトコルのさらなる例示例としては、実施例8に記載された2つのプロトコル(EGFおよびbFGFのないN2培地中での分化(N2分化)、EGFおよびbFGFがなく、cAMPおよびGDNFを有するN2培地(DA分化培地)中での分化)が挙げられる。
【0040】
さらに、NGC−407細胞は、Nurr1、Pit3、EnおよびLmx1bなどの、ドーパミン作動性分化を担うか、またはそれに関与する転写因子をコードする発現ベクターの形質導入またはトランスフェクションによって分化させることができる。好ましい転写因子は、Anderssonらにより記載されたようなLmx1aである(Anderssonら、2006年、「Identification of intrinsic determinants of midbrain dopamine neurons」、Cell 124:393〜405頁)。
【0041】
インビトロアッセイ
NGC−407細胞系は、種々のインビトロアッセイにおいて、可能性のある薬剤(低分子量およびタンパク質、遺伝子またはiRNA)の試験に使用できる。簡単に述べると、該細胞系を対象となっている化合物に曝露し、その応答を対照処理と比較する。該応答は、生存、分化、代謝活性、シグナル伝達、受容体活性化などであり得る。
【0042】
遺伝子プロファイリング
NGC−407細胞系は、腹側中脳がドーパミン作動性ニューロンを発達させるおよその時期におけるヒト胎児腹側中脳から樹立された。したがって、制御がNGC−407に特異的である遺伝子は、腹側中脳からの細胞のマーカーとして、ドーパミン作動性ニューロンのマーカーとして、または、腹側中脳からの幹細胞/前駆細胞のマーカーとして使用できる。NGC−407を用いて同定される遺伝子もまた治療可能性に関して試験できる。
【0043】
自殺遺伝子療法
本出願の背景技術の項で説明したとおり、神経幹細胞は、自殺遺伝子の産物を癌細胞にデリバリーするためのデリバリービヒクルとして使用できる。本明細書の実施例で実証されているように、NGC−407は、実際に、マーカー遺伝子(GFP)の発現を維持しながらグリア芽腫に移動することができる。したがって、該細胞系は、異種自殺遺伝子を腫瘍にデリバリーするためのビヒクルとして使用できる。4−PBの投与によって、移植された腫瘍の周囲にGFP陽性細胞の数が増加することが観察された。したがって、好ましい実施形態において、NGC−407細胞を発現する自殺遺伝子が移植された患者に4−PBが投与される。自殺遺伝子療法に関連した4−PBおよび類似体の投与に関する方法および投与量は、国際公開第2005/079849号に記載されている。
【0044】
デオキシリボヌクレオシドキナーゼ
バイスタンダー媒介自殺遺伝子療法の好ましい一実施形態において、本発明の細胞系は、異種デオキシリボヌクレオシドキナーゼを過剰発現するように遺伝子操作された。種々の生物のデオキシリボヌクレオシドキナーゼ(dNK)は、それらの基質特異性、遺伝子発現の調節および細胞局在化が異なっている。哺乳動物細胞には、重複する特異性を有する4つの酵素、チミジンキナーゼ1(TK1)および2(TK2)、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)およびデオキシグアノシンキナーゼ(dGK)ホスホリレートプリンおよびピリミジンデオキシリボヌクレオシドがある。TK1およびTK2は、ピリミジン特異的であり、デオキシウリジン(dUrd)およびチミジン(dThd)をリン酸化し、TK2は、デオキシシチジン(dCyd)もまたリン酸化する。dCKは、dCyd、デオキシアデノシン(dAdo)およびデオキシグアノシン(dGuo)をリン酸化するが、dThdはリン酸化しない。dGKは、dGuoおよびdAdoをリン酸化する。哺乳動物では、TK1は細胞内可溶質であり、TK2およびdGKは、ミトコンドリアに局在化しているが、最近の報告により、TK2の細胞質局在化も同様に示されている。
【0045】
自殺遺伝子療法の最もよく知られ、最も研究された例は、単純疱疹ウィルス(HSV)チミジンキナーゼ(tk)遺伝子(Karreman、1998年、A new set of positive/negative selectable markers for mammalian cells.Gene.218:57〜61頁)である。HSV tk遺伝子は、増殖細胞を、ガンシクロビル(GCV)などの抗疱疹ヌクレオシド類似体に曝露すると、細胞死に至る。これおよび他のプロドラッグは、HSV TKによって毒性代謝物へと代謝されるからである。
【0046】
キイロショウジョウバエデオキシリボヌクレオシドキナーゼ(Dm−dNK)は、4種全ての天然デオキシリボヌクレオシド、ならびに数種のヌクレオシド類似体をリン酸化する(Munch−Petersenら、1998年、キイロショウジョウバエの4種のデオキシヌクレオシドキナーゼ活性は、単一のモノマー酵素、新規の多機能デオキシヌクレオシドキナーゼ内に含有されている。J Biol Chem.273:3926〜31頁;Munch−Petersenら、2000年、Functional expression of a multisubstrate deoxyribonucleoside kinase from Drosophila melanogaster and its C−terminal deletion mutants。J Biol Chem 275:6673〜9頁;国際公開第00/36099号「New medical use of gene and vector encoding a multisubstrate deoxyribonucleoside kinase(dNK)」)。高い触媒速度と共に、この酵素の広範な基質特異性により、この酵素は、癌の遺伝子療法/化学療法の組合せにおいて自殺遺伝子として使用するヌクレオシドキナーゼの中でもユニークなものになっている。
【0047】
広範な基質特異性を有するキイロショウジョウバエDm dNKの変異体が開発されている(国際公開第01/88106号「Multi−substrate insect deoxynucleoside kinase variants」)。特に好ましい変異体は変異体B5である。この活性化度が、ゲムシタビンに対して、野生型Dm dNKよりおよそ50倍良好だからである。活性化度は、トランスフェクトした細胞系におけるヌクレオシド類似体のIC50に対するトランスフェクトしていない細胞系におけるプロドラッグのIC50の比として定義される。
【0048】
遺伝子療法アプローチにおけるこれらおよび他の組換えキナーゼは、CMVプロモーター、ヒトUbiCプロモーター、JeTプロモーター(米国特許第6,555,674号)、SV40プロモーター、および伸長因子1アルファプロモーター(EF1−アルファ)などの強力な構成的プロモーターの制御下にそれらを置くことによって、NGC−407細胞において過剰発現させることができる。
【0049】
デオキシリボヌクレオシドキナーゼの特定の公知の配列の非限定的な例は、例えば、以下を含む。
HSV−tk野生型受入番号V00470(配列番号1)
MASYPGHQHASAFDQAARSRGHSNRRTALRPRRQQEATEVRPEQKMPTLLRVYIDGPHGMGKTTTTQLLVALGSRDDIVYVPEPMTYWRVLGASETIANIYTTQHRLDQGEISAGDAAVVMTSAQITMGMPYAVTDAVLAPHIGGEAGSSHAPPPALTLIFDRHPIAALLCYPAARYLMGSMTPQAVLAFVALIPPTLPGTNIVLGALPEDRHIDRLAKRQRPGERLDLAMLAAIRRVYGLLANTVRYLQCGGSWREDWGQLSGTAVPPQGAEPQSNAGPRPHIGDTLFTLFRAPELLAPNGDLYNVFAWALDVLAKRLRSMHVFILDYDQSPAGCRDALLQLTSGMVQTHVTTPGSIPTICDLARTFAREMGEAN
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)野生型キナーゼGenBank ACCN Y18048(配列番号2)
MAEAASCARKGTKYAEGTQPFTVLIEGNIGSGKTTYLNHFEKYKNDICLLTEPVEKWRNVNGVNLLELMYKDPKKWAMPFQSYVTLTMLQSHTAPTNKKLKIMERSIFSARYCFVENMRRNGSLEQGMYNTLEEWYKFIEESIHVQADLIIYLRTSPEVAYERIRQRARSEESCVPLKYLQELHELHEDWLIHQRRPQSCKVLVLDADLNLENIGTEYQRSESSIFDAISSNQQPSPVLVSPSKRQRVAR
トマトTK(配列番号3)
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シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)dNK(配列番号4)
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キイロショウジョウバエ、変異体B5(配列番号5)
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>シロイヌナズナdCGK NP_565032(配列番号6)
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>イネ(Oryza sativa)dCGK BAB86213(配列番号7)
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>ヒト(H.sapiens)dCK XP_003471(配列番号8)
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>ヒトdGK XP_002341(配列番号9)
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>ヒトTK2 NP_004605(配列番号10)
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>ヒトTK1 XP_037195(配列番号11)
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>カイコガ(Bombyx mori)dNK AAK28318(配列番号12)
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>ハマダラカ(Anopheles)dNK AAO49462(配列番号13)
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>イネTK1(配列番号14)
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>シロイヌナズナTK1 AAF13097(配列番号15)
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>シロイヌナズナTK1b(配列番号16)
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>トマトdCGK(配列番号17)
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【0050】
対応するヌクレオチド配列は、上記に提供された参考文献、植物キナーゼに関しては、国際公開第03/100045号(チミジンキナーゼ)、および国際公開第2004/003185号(dCK/dGK)に、上記の受入番号を用い、GenBankに見出すことができる。
【0051】
好ましい一実施形態において、デオキシリボヌクレオシドキナーゼは、
a)配列番号1から17のいずれかのアミノ酸配列を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ、
b)配列番号1から17のいずれかと少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むデオキシリボヌクレオシドキナーゼ変異体、
c)配列番号1から17のいずれかをコードするヌクレオチド配列と、高ストリンジェンシーな条件下でハイブリダイズできるヌクレオチド配列によってコードされるデオキシリボヌクレオシドキナーゼ
からなる群から選択される。
【0052】
本発明の状況において、用語のキナーゼ変異体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17で示された配列と、1つまたは複数のアミノ酸位置が異なっていて、dNK活性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(またはタンパク質)である。このような類似ポリペプチドとしては、他の種の保存的置換、スプライス変異体、イソ型、相同体、および多型が挙げられる。
【0053】
本明細書に定義される用語の「保存的置換」とは、他の生物学的に類似した残基によるアミノ酸残基の置換を意味する。保存的置換の例としては、
(i)アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニンまたはトリプトファンなどの1つの非極性または疎水性残基による別の残基の置換、特に、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンまたはプロリンによる別の残基の置換;または
(ii)セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、またはシステインなどの1つの中性(非荷電)極性残基による別の残基の置換、特に、リシンによるアルギニン、アスパラギン酸によるグルタミン酸、またはアスパラギンによるグルタミンの置換;または
(iii)リシン、アルギニンまたはヒスチジンなどの正に荷電した残基による別の残基の置換;または
(iv)アスパラギン酸またはグルタミン酸などの負に荷電した残基による別の残基の置換
が挙げられる。
【0054】
この一次アミノ酸配列の改変により、非改変対応ポリペプチドと比較して、実質的に等価の活性を有し、したがって、親タンパク質と機能的に類似と考えることができるタンパク質をもたらすことができる。このような改変は、例えば、部位特異的変異誘発などにより計画的であり得るか、またはそれらは自然に生じ得、他の種のスプライス変異体、イソ型、相同体、および多型が挙げられる。このような機能的類似体もまた、本発明によって考慮されている。
【0055】
C末端および/またはN末端に変化を受けたデオキシリボヌクレオシドキナーゼ酵素は、それらの性質を、特にターンオーバーおよび基質特異性などの速度論的性質に関して著しく変化させることが見出されている。したがって、本発明のデオキシリボヌクレオシドキナーゼ酵素を、より限定された特異性、通常、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)活性およびデオキシグアノシンキナーゼ(dGK)活性を有することから、4種全てのデオキシリボヌクレオシドをリン酸化する能力を有する本質的に多基質酵素へと変換できる。
【0056】
変異デオキシリボヌクレオシドキナーゼは、上記に開示されたキナーゼのいずれかなどの公知のデオキシリボヌクレオシドキナーゼのアミノ酸配列を参照にして定めることができる。好ましい一実施形態において、変異キナーゼは、参照配列に対して、少なくとも50%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも60%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも85%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも95%の配列同一性を有する。個々の参照配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17のいずれかであり得る。
【0057】
より好ましい一実施形態において、デオキシリボヌクレオシドキナーゼは、
a)配列番号1から配列番号5までのいずれかのアミノ酸配列を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ;および
b)配列番号1から配列番号5までのいずれかに少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、dNK活性を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ変異体
からなる群から選択されるデオキシリボヌクレオシドキナーゼを含む。
また、同一の個体に、2種以上のデオキシリボヌクレオシドキナーゼを投与することも可能である。
限定はしないが、キナーゼとヌクレオシド類似体の以下の組合せが好ましい。
HSV−tk−GCV、ACV、ペンシクロビル
キイロショウジョウバエdNKまたはB5−ゲムシタビン、CdA、FaraA、araC、ddC
トマトTKなどの植物TK−AZT、D4T、ddT、フルオロウリジン
シロイヌナズナdNKなどの植物dNK−ゲムシタビン、CdA、FaraA、araC、ddC
【0058】
配列の比較および配列同一性の算出に利用される数学的演算の好ましい非限定的な例は、MyersとMiller、CABIOS(1989)の演算である。このような演算は、FASTA配列アラインメントソフトウェアパッケージ(Pearson WR、Methods Mol Biol、2000年、132:185−219頁)の一部であるALIGNプログラム(2.0版)に組み込まれている。Alignは、全体的なアラインメントに基づいて配列同一性を算出する。Align0は、配列末端のギャップにペナルティーを与えない。アミノ酸配列の比較にALIGNまたはAlign0プログラムを利用する場合、−12/−2のギャップ開始/延長ペナルティーを有するBLOSUM50置換行列を用いることが好ましい。
【0059】
カプセル化
カプセル化細胞療法は、宿主内に移植する前に、半透過性の生体適合性材料で細胞を包囲することによって、該細胞をレシピエント宿主の免疫系から隔離する考え方に基づいている。本発明は、本発明の細胞を免疫隔離性カプセル内に封入するデバイスを含む。「免疫隔離性カプセル」とは、該カプセルが、レシピエント宿主に移植された際、該デバイスのコア内で、細胞に及ぼす宿主免疫系の有害な作用を最少化することを意味する。微多孔膜により形成された移植可能なポリマーカプセル剤内に細胞を包みこむことによって、該細胞は宿主から免疫隔離される。この方法により、直接的提示を介した抗原認識を排除して、宿主と移植組織との間の細胞対細胞接触が防止される。また、使用される膜は、抗体および補体などの分子の拡散を、それらの分子量に基づいて制御する一方、治療タンパク質の拡散を可能にするように調整することもできる。カプセル化法を用いることによって、免疫抑制剤を用いて、または用いずに、細胞を免疫拒絶なしに宿主へ移植することができる。有用な生体適合性ポリマーカプセルは、通常、液体培地に懸濁させたか、または固定化マトリックス内に固定化された細胞を含有するコア、および生体適合性の単離細胞を含有せず、有害な免疫学的攻撃からコア内の細胞を保護する上で十分な選択透過性マトリックスまたは膜(「ジャケット」)の周囲または周辺領域を含有する。カプセル化により、免疫系の要素がカプセルに進入することが妨げられ、それによって、カプセル化された細胞は免疫的破壊から保護される。また、該カプセル膜の半透過性の性質により、対象となっている生物活性分子が該カプセルから周囲の宿主組織内へ容易に拡散することが可能になる。
【0060】
該カプセルは、生体適合性材料から作製できる。「生体適合性材料」は、宿主への移植後、該カプセルの拒絶をもたらすかまたは、例えば分解によってそれが操作不可能になるような有害な宿主応答を誘発することのない材料である。該生体適合性材料は、宿主免疫系の成分などの大型分子には比較的不透過性であるが、インスリン、成長因子、および栄養物質などの小型分子には透過性である一方、代謝廃棄物は除去できる。種々の生体適合性材料が、本発明の組成物により成長因子のデリバリーに好適である。種々の外表面形態および他の機械的および構造的特徴を有する多数の生体適合性材料が知られている。本発明のカプセルは、参照として組み込まれている国際公開第92/19195号または国際公開第95/05452号;または参照として組み込まれている米国特許第5,639,275号;第5,653,975号、第4,892,538号、第5,156,844号、第5,283,187号、または第5,550,050号に記載されているものと同様であることが好ましい。このようなカプセルにより、代謝物、栄養物および治療的物質の通過を可能にする一方、宿主免疫系の有害な作用を最少化できる。生体適合性材料の成分は、周囲の半透膜および内部の細胞を支持している足場を含み得る。組換え細胞を該足場に接種し、それを透過選択性の膜によってカプセル化することが好ましい。細胞を支持する線維状の足場は、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセトニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブトエステル、絹、綿、キチン、炭素、または生体適合性金属よりなる群から選択される任意の生体適合性材料から作製できる。また、細胞移植には、結合線維構造を使用できる(参照として組み込まれている米国特許第5,512,600号)。生物分解性ポリマーとしては、ポリ(乳酸)PLA、ポリ(乳酸−コグリコール酸)PLGA、およびポリ(グリコール酸)PGAならびにそれらの等価物からなるものが挙げられる。移植細胞が付着し得る表面を提供するために、泡状足場が用いられている(参照として組み込まれている国際公開第98/05304号)。血管移植片として繊維メッシュ管が用いられている(参照として組み込まれている国際公開第99/52573号)。また、該コアは、該細胞の位置を安定化させるヒドロゲルから形成した固定マトリックスからなり得る。ヒドロゲルは、実質的に水よりなる、ゲルの形態における架橋親水性ポリマーの三次元網状構造である。
【0061】
該ジャケットは、1000kD未満、より好ましくは、50kD〜700kDの間、最も好ましくは、70kD〜300kDの分子量カットオフを有する。生物学的に活性な治療的タンパク質がカプセルから流出することができる一方、封入された細胞を親の免疫系から保護することが確実なように、分子量カットオフを選択するべきである。
【0062】
該ジャケットの厚さは典型的に、2ミクロンから200ミクロン、より好ましくは、50ミクロンから150ミクロンの範囲にある。該ジャケットは、細胞の封入を維持する上で十分な強度をカプセルに与える厚さを有すべきだが、これを考慮に入れつつ、できるだけスペースをとらないようにできるだけ薄くすべきである。
【0063】
周囲の半透過膜を製造するために、ポリアクリレート(アクリルコポリマーを含む)、ポリビニリデン、ポリビニルクロリドコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、セルロースアセテート、セルロースナイトレート、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル/コビニルクロリド)、ならびにそれらの誘導体、コポリマーおよび混合物などの種々のポリマーおよびポリマー混合物を用いることができる。周囲の半透過膜は、生体適合性半透過中空線維膜であることが好ましい。このような膜、およびそれらを製造する方法は、参照として組み込まれている米国特許第5,284,761号および第5,158,881号に開示されている。周囲の半透過膜は、参照として組み込まれている米国特許第4,976,859号または米国特許第4,968,733号に記載されているものなどのポリエーテルスルホン中空線維から形成することができる。代替の周囲半透過膜材料は、ポリ(アクリロニトリル/コビニルクロリド)である。
【0064】
カプセルは、生物活性を維持し、生成物または機能のデリバリーのアクセスを提供するために、例えば、円筒状、角状、円盤状、パッチ状、卵状、星状、または球状などの任意の適切な形状であり得る。さらに、該カプセルは、渦巻き状にするか、またはメッシュ状または入れ子形構造に巻き付けることができる。該カプセルを移植後に回収する場合は、レシピエント宿主の血管内へ移動する上で十分に小さな球状カプセルなど、移植部位からのカプセルの移動に至る傾向のある形状は好ましくない。角状、パッチ状、円盤状、円筒状、および平坦なシート状などの形状は、より大きな構造完全性を提供し、回収が望まれる場合に好ましい。特に好ましい形状は、円筒状である。このような形状は工業的に製造できる中空線維から容易に製造できるからである。
【0065】
マクロカプセルが用いられる場合、各デバイスに、10から10の細胞がカプセル化されるなど、好ましくは少なくとも10の細胞がカプセル化され、最も好ましくは10から10の細胞がカプセル化される。勿論、各カプセル剤中の細胞数はそのカプセルのサイズに依る。泡を有するカプセル(下記に説明)中、おおよそ、1μL(泡を含めた内部容量として計算した容量)のカプセル当たり、10,000から100,000の細胞、より好ましくは、1μL当たり、25,000から50,000の細胞、より好ましくは、1μL当たり、30,000から40,000の細胞が入ることを、本発明者らは見出した。入れる細胞数はまた、該細胞のサイズにも依る。
【0066】
投与量は、より少ない、またはより多い数のカプセル、好ましくは、患者一人当たり、1カプセルと10カプセルとの間を移植することにより制御できる。
【0067】
本脈絡におけるマクロカプセルは、1μLから10μLなど、少なくとも1μLの容量を有するカプセルである。
【0068】
該足場は、細胞外マトリックス(ECM)分子によってコーティングできる。細胞外マトリックス分子の好適な例としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、およびフィブロネクチンが挙げられる。細胞の接着を増進させる目的で電荷を付与するために、プラズマ照射を用いた処理により、該足場の表面を修飾することもできる。
【0069】
ポリマー接着剤またはポリマークリンピング、ノッティングおよびヒートシーリングの使用など、カプセルを密封する任意の好適な方法を使用できる。また、例えば、参照として組み込まれている米国特許第5,653,687号に記載されているような、任意の好適な「ドライ」密封法も使用できる。
【0070】
カプセル化された細胞デバイスは、公知の技法によって移植される。本発明のデバイスおよび方法に関して多くの移植部位が考慮される。これらの移植部位としては、限定はしないが、脳、脊髄などの中枢神経系(参照として組み込まれている米国特許第5,106,627号、第5,156,844号、および第5,554,148号を参照)、ならびに目の眼房水およびガラス体液(参照として組み込まれている国際公開第97/34586号)が挙げられる。
【0071】
フォーム足場
フォーム足場は、開放気泡または網状構造の孔によるマクロ孔構造を有する生体適合性のフォームを形成する任意の好適な材料から形成できる。開放気泡のフォームは、連続孔の網状構造である。フォーム足場により、接着性細胞を付着させる非生物分解性で安定な足場材料が提供される。本発明のデバイスのためのフォーム足場の形成に有用なポリマーの中でも、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーがある。
【0072】
好適なフォーム足場の形成に有用な材料のいくつかの例は、表1に挙げられている。
【0073】
【表1】

【0074】
ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンから作製された熱可塑性フォーム足場、ならびにポリウレタンおよびポリビニルアルコールから作製された熱可塑性エラストマーフォーム足場が好ましい。
【0075】
泡は、細胞が孔内の壁または表面に付着することを可能にするサイズのいくつかの(しかし必ずしも全てではない)孔を有する必要がある。フォーム足場の孔のサイズ、孔密度および間隙容量は変わり得る。孔の形状は、円形、楕円形または不規則形であり得る。孔の形状はかなり変化し得るため、その寸法は、測定される軸によって変化し得る。本発明の目的に関しては、フォームの少なくともいくつかの孔は、20〜500μmの間、好ましくは50〜150μmの間の孔直径を有する必要がある。先の寸法は、泡の平均孔サイズを表すことが好ましい。円形でない場合、孔は、そのサイズが接着性細胞を孔内の壁または表面に付着させるのに十分である限り、種々の寸法を有し得る。一実施形態において、短軸に沿って、20〜500μmの直径、および長軸に沿って1500μmまでの直径を有するいくつかの楕円形の孔を有するフォームが考慮されている。
【0076】
先の細胞許容的な孔サイズに加えて、フォームにおける孔の少なくとも一部が、細胞非許容的になるために10μm未満である必要があるが、フォーム全体に、栄養物および生物活性分子を輸送するためのチャネルを依然として提供することが好ましい。
【0077】
フォームの孔密度(すなわち、上記のとおり、細胞を収容できる孔の容量当たりの数)は、20%〜90%の間、好ましくは50%〜70%の間で変化し得る。
【0078】
同様に、フォームの間隙容量は、20%〜90%の間、好ましくは30%〜70%の間で変化し得る。
【0079】
孔の壁または表面は典型的に、細胞外マトリックス分子(一種または複数種)、または他の好適な分子によってコーティングされる。このコーティングは、孔の壁への細胞の接着を促進するため、特定の表現型に細胞を保持するため、および/または細胞分化を誘導するために使用できる。
【0080】
フォームの孔内の表面に接着できる細胞外マトリックス分子(ECM)の好ましい例としては、コラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン、ポリオルニチンおよびフィブロネクチンが挙げられる。他の好適なECM分子としては、グルコサミノグリカンおよびプロテオグリカン;例えば、クロンドロイチン(chrondroitin)硫酸、ヘパリン硫酸、ヒアルロン、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)およびエラスチンが挙げられる。
【0081】
ECMは、間充織起源または星状細胞起源の細胞など、ECMを蓄積することが知られている細胞を培養することによって得ることができる。シュバン細胞を、アスコルベートおよびcAMPで処理すると、ECMを合成するように誘導できる。例えば、Baron−Van Evercoorenら、「Schwann Cell Differentiation in vitro:Extracellular Matrix Deposition and Interaction」Dev.Neurosci、8、182−96頁(1986)を参照されたい。
【0082】
また、接着ペプチド断片、例えば、RGD含有配列(ArgGlyAsp)、YIGSR含有配列(TyrIleGlySerArg)、ならびにIKVAV含有配列(IleLysValAlaVal)は、細胞付着の促進に有用であることが分かっている。いくつかのRGD含有配列は、例えば、PepTite−2000.TM.(Telios)が市販されている。
【0083】
本発明のフォーム足場はまた、該デバイス内の細胞分散を増進させる他の材料によって処理することもできる。例えば、フォームの孔を、細胞の増殖または移動を阻止する非許容的ヒドロゲルによって充填することができる。このような修飾により、フォーム足場に対する接着性細胞の付着を改善することができる。好適なヒドロゲルとしては、荷電により細胞をはねのけることができるアニオン性ヒドロゲル(例えば、アルギン酸塩またはカラゲナン)が挙げられる。あるいは、細胞により分泌された細胞外マトリックス分子の結合を妨げることにより細胞増殖を阻害するために、「固体」ヒドロゲル(例えば、アガロースまたはポリエチレンオキシド)を用いることもできる。
【0084】
非許容的材料の領域でフォーム足場を処理することにより、2種以上の異なる細胞集団を、1種の細胞集団を他より過増殖させることなく、該デバイス内にカプセル化することができる。したがって、カプセル化細胞の別個の集団を分離するために、フォーム足場内に非許容的材料を使用することができる。細胞の異なる集団は、同一の、または異なる細胞型であり得、同一の、または異なる生物活性分子を産生し得る。一実施形態において、ある細胞集団は、他の細胞集団の増殖および/または生存を増強させる物質を産生する。他の実施形態において、複数の生物活性分子を産生する複数の細胞型がカプセル化される。これによって、治療的物質の混合物または「カクテル」がレシピエントに提供される。
【0085】
本発明のデバイスは任意の好適な方法によって形成できる。一実施形態において、フォーム足場を予備形成して、別個の成分として予備製造されたジャケット、例えば、中空線維膜内に挿入できる。
【0086】
予備製造されたジャケット内に挿入するための任意の好適な熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーのフォーム足場材料を予備形成できる。一実施形態において、フォーム足場としての使用に我々が推奨するのは、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジである。いくつかのPVAスポンジが市販されている。例えば、PVAフォームスポンジ#D−3、60μm孔径が好適である(Rippey Corp、Kanebo)。同様に、PVAスポンジはIvalon社から市販されている。(San Diego、カリフォルニア州)。PVAスポンジは、架橋剤としてホルムアルデヒド蒸気を用いた通気ポリ(ビニルアルコール)溶液の反応によって形成された水不溶性フォームである。PVA上のヒドロキシル基はアルデヒド基と共有的に架橋してポリマー網状構造を形成する。該フォームは湿潤時は可撓性および弾性であり、乾燥時は半剛性である。
【0087】
代替として、米国特許第6,627,422号に記載されるとおり、支持体メッシュまたはヤーンを使用することができる。回収を容易にするために、該カプセルに係留アンカーを備えることができる。
【0088】
本発明のNGC−407またはNGC−407由来細胞を実施例に記載されるとおりに増殖させ、免疫隔離的カプセルに装入することができる。装入後、該カプセルは、インビトロで多週間維持できる。この期間の増殖培地は、カプセル内の継続的増殖を可能にするものでもよいし、カプセル化細胞を分化させ、それによって増殖を停止させるために、培地を分化培地に取り替えてもよい。
【0089】
本発明の細胞のための支持体マトリックス
本発明の方法はさらに、本発明の細胞を哺乳動物の脳内に移植する前に、支持体マトリックス上、インビトロで培養することを含む。移植細胞の長期生存性を高め、長期の機能的利益を提供するために、脳に移植する前に、マイクロキャリアへの細胞の予備接着がデザインされる。支持体マトリックス上で細胞を培養する方法および前記細胞を脳内に移植する方法は、米国特許第5,750,103号(Cherksey)に記載されている。
【0090】
移植細胞の長期生存性を高めるために、移植する細胞を、移植前に、支持体マトリックスにインビトロで付着させることができる。支持体マトリックスに含まれ得る材料としては、細胞がインビトロインキュベーション後に接着し、その上で増殖でき、移植細胞を破壊するか、そうでなければ、移植細胞の生物活性または治療的活性を妨害すると考えられる毒性反応または炎症反応を生じさせずに、哺乳動物の体内へ移植できる材料が挙げられる。このような材料は、合成化学物質でも、天然化学物質でも、また、生物学的起源を有する物質でもよい。
【0091】
該マトリックス材料としては、限定はしないが、ガラスおよび他の酸化シリコン類、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリアルギネート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、アクリロニトリルポリマー類、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、ポリペンテント、ナイロン、アミラーゼ類、天然および修飾ゼラチンならびに天然および修飾(codified)コラーゲン、デキストラン類およびセルロース類(例えば、ニトロセルロース)などの天然および修飾多糖類、寒天、およびマグネタイトが挙げられる。再吸収性材料または非再吸収性材料を使用することができる。また、当業界によく知られている細胞外マトリックス材料も考慮されている。細胞外マトリックスは市販のものを入手してもよいし、そのようなマトリックスを分泌する細胞を増殖させ、分泌細胞を取り出し、移植する細胞を該マトリックスと相互作用させてそれに接着させることによって調製してもよい。移植される細胞が上で増殖するか、または該細胞を混合させるマトリックス材料は、該細胞の固有の産物であってもよい。したがって、例えば、該マトリックス材料は、移植される細胞によって産生され、分泌される細胞外マトリックスまたは基底膜の材料であってもよい。
【0092】
細胞の接着、生存性、機能を改善するために、該固体マトリックスは、細胞の接着、増殖または生存を促進することが当業界に知られている因子によって、所望により、外表面をコーティングできる。このような因子としては、細胞接着分子、細胞外マトリックス、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカン、またはプロテオグリカンなど、または成長因子が挙げられる。
【0093】
あるいは、移植細胞が付着する固体マトリックスが多孔性材料から構築される場合、増殖促進因子または生存促進因子を該マトリックス材料に組み込むことができ、インビボでの移植後、そこからそれらを徐々に放出させることが考えられる。
【0094】
本発明による支持体に付着した際、移植に用いられる細胞は一般に、該支持体の「外表面」上にある。該支持体は、固体であっても、多孔性であってもよい。しかし、たとえ多孔性であっても、該細胞は介在膜または他のバリアなしに、外部環境と直接接触する。したがって、本発明により、たとえ該細胞が接着する表面が、粒子またはビーズそれ自体の外部にない多孔性支持体材料の内部ひだまたは畳み込みの形態であっても、該細胞は該支持体の「外表面」上にあると考えられる。
【0095】
該支持体の形状は、ビーズにおけるような球状であることが好ましいが、円筒状、楕円状、平坦シート状またはストリップ状、針状またはピン状などであってもよい。支持体マトリックスの好ましい形態は、ガラスビーズである。他の好ましいビーズは、ポリスチレンビーズである。
【0096】
ビーズのサイズは、直径が約10μmから1mmの範囲、好ましくは、約90μmから約150μmの範囲であり得る。種々のマイクロキャリアビーズの説明に関しては、例えば、Fisher Biotech Source 87−88頁、Fisher Scientific社、1987年、72−75頁;Sigma Cell Culture Catalog、Sigma Chemical社、セントルイス、1991年、162−163頁;Ventrex Product Catalog、Ventrex Laboratories、1989年を参照されたい。これらの参考文献は、参照として本明細書に組み込まれている。ビーズサイズの上限は、移植細胞の機能を妨害し得るか、または周囲の組織に損傷を生じさせ得る望ましくない宿主反応のビーズ刺激により決定され得る。ビーズサイズの上限はまた、投与の方法によっても決定され得る。このような限界は当業者によって容易に決定できる。
【実施例】
【0097】
実施例1 NGC−407細胞系の作出および特性化
本実施例では、NGC−407細胞系の作出およびインビトロ特性化を示す。
【0098】
一次培養液中のヒト中脳細胞を、第1トリメスターのヒト胎児脳(Lund大学、スウェーデン国を介して入手)から調製した。該組織はスウェーデンの法律および規則を遵守して入手した。腹側中脳の切開直後、該組織をペトリ皿内で、1滴の細胞解離溶液(Sigma#C5914)中に入れることによって、<0.5mm片に切り離した。次いで、2つの解剖刀を互いに動かすことによって、該組織を切り離した。DMEM/F12(Gibco#31331−028)、0.5%HSA(Sigma#A 1653)、0.6%グルコース(Sigma#G8769)、5mMのHEPES(Gibco#15630−056)、B27サプリメント(Gibco#17504−044)、40μg/mlのbFGF(R&D Systems#233−FB)、20μg/mlのEGF(R&D Systems#236−EG)を添加したN2サプリメント(Gibco#17502−048)からなる2mlの培養培地に移し、1,000rpmで5分間遠心分離し、新鮮培養培地中に再懸濁した。PLL/フィブロネクチンでコーティングした4wチャンバースライド内の1〜4個のウェル中、または24wプレート中に組織片を接種した。標準的な細胞培養プラスチックを用い、PLL/フィブロネクチンコーティングは以下のとおり実施した:
培養容器のコーティング:
1.0.01%ポリ−L−リシン溶液(Sigma #P4832)と共に、37℃で1時間インキュベートする
2.PLLを取り出し、dHO(Gibco #15230−071)ですすぎ、表面を2時間乾燥させる。
3.細胞接種の直前に、フィブロネクチンの溶液(Sigma #F0895)を十分加え、dHO中、50μg/mlに希釈し、表面を被覆し、直ちに吸引し、表面を45分間乾燥させてから組織/細胞を加える。
【0099】
接種4日目に、細胞培養物にTD1−2レトロウィルスベクターを形質導入し、1のMOIでウィルス貯蔵物を加え、一晩インキュベートし、培養培地の交換により取り出した。ベクターTD1−2は、EcoRIとpLXSN(BDClontech、カタログ番号:631509、GenBank受入番号:M28248)のHpal部位との間のEcoRI/Dral断片として、v−myc(gag−vmyc断片として)(GenBank受入番号:AF033809)のクローニングにより作製した(図5)。ネオマイシン耐性を与える遺伝子もまた該ベクター内に存在する。該培養物を培養培地およびPLL/フィブロネクチンコーティング容器中で、コンフルエントなT25フラスコへ増殖させた。形質導入細胞を選択するために、800μg/mlの濃度のジェネティシンを加えた。選択後、培養物を、上記の培養培地中、単層として増殖を維持した。コンフルエントに近づいた培養物を細胞スクレイパーを用いて継代し、3日〜7日ごとに1:4に分割した。
【0100】
成長因子、bFGFおよびEGFの除去により、該細胞系の分化が生じる。分化後、異なる因子の添加により、細胞の表現型の組成が影響される(図1および図2)。3種の異なる分化培地が用いられた:
1.50ng/mlのBDNF、20ng/mlのCNTF、100ng/mlのIGF−1および50μMのフォルスコリンにより置換した、分裂促進成長因子bFGFおよびEGFを有する培養培地(Sahら、1997年)。
2.50ng/mlのBDNF、50μMのフォルスコリンおよび50μMのドーパミンにより置換した、分裂促進成長因子bFGFおよびEGFを有する培養培地(Bradford;Riazら、2002年)。
3.10%FCS、100pg/mlのIL−1b、1ng/mlのIL−11、1ng/mlのLIF、10ng/mlのGDNFにより置換した、分裂促進成長因子bFGFおよびEGFを有する培養培地(Storchら、2001年)。
【0101】
分化後、TH(チロシンヒドロキシラーゼ)、β−III−チューブリン、およびGFAP(グリア原線維酸性タンパク質)免疫反応性細胞が見られた。このような免疫細胞化学に関して、細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、一次抗体(TH抗体、Chemicon #AB152、GFAP抗体DAKO #Z0334、β−III−チューブリン抗体、Sigma #T−8660)と共に、ブロッキング緩衝液中、室温で2時間インキュベートし、すすいでから、蛍光体結合(FITCまたはCy3、Jackson ImmunoResearch Laboratories社)種特異的二次抗体と共に、ブロッキング緩衝液中、室温でさらに1時間インキュベートした。次いで、培養物をPBSですすぎ、DAKO封入剤でカバースリップしてから、細胞をカウントし、代表的なフィールドを写真撮影した。種々の細胞型のパーセンテージは、分化に用いた因子のタイプに依って変わり、TH陽性細胞の数は、分化培地中の細胞総数の約2%であった。ニューロンの数(ベータ−III−チューブリン陽性細胞)は、4%〜17%の間で変化し、GFAP陽性星状細胞は、0%〜6%の間で変化した。増殖細胞培養物は、一貫して、いずれかのマーカーで免疫標識した1%以下の細胞を有した(図1および図2)。
【0102】
これらの結果により、NGC−407は、ニューロン、星状細胞およびドーパミン作動性ニューロンに分化することのできる神経始原細胞系であることが示される。
【0103】
実施例2 NGC−407細胞系の移植およびインビボ導入遺伝子発現
本実施例では、レンチウィルス形質導入、導入遺伝子発現の安定性およびラット脳への実験的移植後のNGC−407細胞系の組み込みを例示する。
【0104】
NGC−407細胞を、実施例1に記載された方法により増殖させた。移植48時間前に、NGC−407細胞に、GFPを発現する自己不活性化レンチウィルスベクター(LV−GFP−SIN;Zufferey Rら、1998年)により形質導入した。1の複数感染を用い、60%〜70%の導入率となった。移植日に、該細胞を3回洗浄し、トリプシン処理し、600rpmで5分間遠心分離し、細胞ペレットをハンクス塩溶液(HBSS;Gibco、スウェーデン)中に再懸濁した。細胞数を血球計数器で予測し、HBSS中、50,000細胞/μlの密度で単一細胞懸濁液中に調製した。
【0105】
合計40匹の成体メスSDラット(B&K Universal、ストックホルム、スウェーデン)を1ケージ当たり3匹ずつ入れ、12時間の明:暗サイクル下、食料と水を自由に取らせた。外科的操作は全て、スウェーデン国、Lund大学における実験動物の使用に関する倫理委員会の指針により承認され、それに従って実施した。該動物はハロタン(O中2%)で麻酔し、定位フレーム(Kopf Instruments、タハンガ、カリフォルニア州、米国)内に入れた。PaxinosおよびWatsonに従って(PaxinosおよびWatson、1986年)、ブレグマから以下の座標で、10μlのハミルトン注射器を用いて、100,000個の細胞を線条体内に両側注入した(ツースバーを0.0mmに設定、前−後:±1.2;内側−外側:±3.0;背側−腹側:−4.0および−5.0)。移植後、GFPが移植細胞から宿主細胞に移送されたかどうかを評価するために、1匹の動物に細胞の両側注入を行い、凍結−解凍の反復サイクルによって殺処置した。これらの移植片に、GFPまたはヒト核(hNuc)陽性細胞は見られなかった(データは示していない)。
【0106】
第1組の12匹の動物は、手術の1日前および2日前に、それぞれ、ベタメタゾン(20mg/kg、Betapred(商標)、Defiante Farmaceutica)およびシクロスポリンA(10mg/kg、Sandimmun Neoral(登録商標)、Novartis)により免疫抑制を受け、一方、第2ラウンドの17匹の動物には、手術2日前に開始したシクロスポリンA(15mg/kg)のみが投与された。該物質は、殺処置まで毎日、食道までシリコンチップのプラスチックチューブを用いて経口投与された。
【0107】
移植後3日目、1週間目、2週間目、および3週間目に、ラットをペントバルビタールで深く麻酔し、以前記載されたとおり潅流(Ericson Cら、2002年)してから、6シリーズにおいて、40μmに凍結ステージミクロトーム上で切片化した。光照射野および蛍光染色を他に記載されている(Ericson Cら、2002年)とおり実施し、使用された一次抗体は、以下のものであった:ニワトリ抗GFP(1:5000;Chemicon)、マウス抗hNuc(1:100;Chemicon)、2種のグリアマーカー;ウサギ抗グリア原線維酸性タンパク質(GFAP;1:5000;DAKO A/S)およびマウス抗S100(1:500;Sigma)、グリア始原マーカーウサギ抗NG2(1:200;Chemicon)、ニューロンマーカーマウス抗NeuN(1:1000;Chemicon)、未熟神経細胞および反応性星状細胞に関する2種のマーカー;ウサギ抗ネスチン(1:200;Chemicon)ならびにマウス抗ビメンチン(1:50;DAKO A/S)および早期ニューロンマーカーマウス抗βIII−チューブリン(1:333;Sigma)。
【0108】
移植片中のhNuc陽性細胞およびGFP陽性細胞の総数を、光学式精留塔(West MJ、1999年)を用いて、またはAbercrombie式(Abercrombie M、1946年)により、以前記載されたとおり(Ericson Cら、2002年)、立体的解析により予測した。
【0109】
移植細胞は、hNucによって試験、検出された最長時点である移植後3週間まで生存した。hNuc発現細胞は最初の2週間にわたって減少したが、細胞数は3週間目に維持された(NGC−407:3d、3271±1866;1w、3729±3715;2w、1159±865;3w、1207±1225)ことが、立体的評価によって明らかにされた。さらに、少なくとも35%のhNuc陽性細胞は、全ての時点でGFPを共発現した。(3d、2358±1070(72%);1w、1487±821(40%);2w、560±403(48%);3w、425±275(35%))。
【0110】
12匹の動物中、hNuc陽性細胞よりも多数のGFP発現細胞が検出されたことは、hNucが全ての移植細胞を検出していなかったことを示唆している。したがって、全ての移植片中に見られた予測されたhNuc陽性細胞の数が少ないのは、hNuc発現のダウンレギュレーションによるものと考えられ、検出できない細胞は不明の数となり、その結果、移植細胞の総数が過少に見積もられたと考えられる。
【0111】
結論として、レンチウィルス形質導入NGC−407細胞はラットの脳に移植後、炎症または腫瘍形成の徴候なく、良好に生存し、組み込まれる。高パーセンテージの移植細胞が、少なくとも3週間まで、導入遺伝子を発現した。
【0112】
実施例3 NGC−407&U343MGa−cl 2:6細胞間のギャップ結合連絡および蛍光色素移行により分析した、4−フェニルブチレートによるその増強
方法
ドナーヒト胚性神経幹細胞(NGC−407)およびレシピエントヒトグリア芽腫細胞(U343MGa−cl 2:6)を、各々35mmペトリ皿に増殖させた(1×10/皿)。NGC−407細胞に関して、プレートはポリ−L−リシン(Sigma)コーティングし、培地は、40ng/mlのbFGF2(R&D Systems)、20ng/mlのrhEGF、1×N2サプリメント、1×非必須アミノ酸、5mMのHEPES緩衝溶液(Invitrogenから)、0.5%ヒト血清アルブミンおよび6g/LのD−グルコース(Sigmaから)を含有するグルタマックス1(Invitrogen)を有するDMEM/F12 1:1であった。レシピエント細胞は、10%FBS、100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン(Invitrogenから)を含有するDMEM中で増殖させた。該細胞がおよそ60%コンフルエントの時、ドナー細胞には、0mM&0.5mMの4−フェニルブチレート(PB)、レシピエント細胞には、0mM&4mMのPBによる処理を開始し、72時間継続した。次いで、該ドナー細胞を、10μMのDilおよび5μMのカルセイン−AM(Molecular Probes)を含有する1mlの細胞培地と共に20分間インキュベートすることによって二重標識した。培地を含有する色素を吸引後、該細胞を純粋培地で4〜5回、次いで、PBSで洗浄し、遊離の色素を除く。きわめて短時間のトリプシン処理をした後、該細胞を遠心分離し、共培養培地(0.5%FBSを含むドナー細胞培地)中に再懸濁させた。レシピエント細胞の培地を、共培養培地によって置換し、5×10のドナー細胞を1つのレシピエントプレートに加えた。PB処理したドナー細胞をPB処理したレシピエント細胞と混合し、この処理を0.5mMのPB濃度において継続した。4時間の共培養の後、ドナー細胞からレシピエント細胞へのカルセイン色素の移行が、Olympus蛍光顕微鏡下で見られた。
【0113】
結果
NGC−407細胞が、U343MGa−cl 2:6細胞と、ギャップ結合細胞カップリングの形成によって機能的に連絡すること、およびその連絡が、4−PBによって著しく増強されることが分かった。図4を参照されたい。
【0114】
他の同様な実験において、HDAC阻害剤4−PBが、NGC−407細胞間ならびにNGC−407細胞とU87グリア芽腫細胞との間のギャップ結合伝達(GJC)を増強することが示された。これは、蛍光色素移行法を用いることにより、半定量的/定性的に分析された。GJCが、インビトロの分化条件下および増殖条件下の双方で、4−PBにより増強されることが明白である。分化も増殖も刺激しない条件で、インビボ環境が移植細胞を提示できることから、これは関連性がある。
【0115】
実施例4:インビボで、U87MGグリア芽種細胞異種移植片への BrdU標識NGC−407細胞の移動
方法
U87細胞(2μl中200,000)をヌードラットの脳内へ、ブレグマから3mm右側、2mm尾側、5mmの深さに注入した。U87−MG細胞は、ATCCから、受入番号HTB−14で入手できる。腫瘍が樹立された1週間後、NGC−407細胞を2μMのBrdUで72時間予備標識し、ブレグマから3mm右側、1mm前方、5mmの深さの所に注入した。
【0116】
幹細胞注入の2週間後、該動物を殺処置し、脳を切片化し(14μm)、BrdUおよびヒトネスチンに対する抗体を用いて、免疫蛍光染色に供した。
【0117】
結果
腫瘍境界付近および腫瘍内部に、少数のBrdU標識細胞が見られた。これらの細胞はまた、ヒトネスチンに関して陽性であった。
【0118】
これらの結果により、注入部位からU87細胞腫瘍へのこの神経始原細胞系の向性移動が示されている。
【0119】
実施例5:幹細胞に関するレトロウィルス発現ベクター内へのトマトTK1キナーゼのクローニング
モロニーマウス白血病ウィルス(MoMuLV)およびモロニーマウス肉腫ウィルス(MoMuSV)に由来する要素を含有し、レトロウィルス遺伝子のデリバリーおよび発現のためにデザインされているレトロウィルス発現ベクターpLHCX(BD Bioscience Clontechから入手、カタログ番号K1061−1)を、トマトTK1キナーゼの発現のために用いた。HindIII−Hpal−ClalからHindIII−Xhol−Sall−BamHI−Sphl−Mfel−Clalへと、PLHCXの複数のクローニング部位を変化させた。この変化は、HindII/Clal切断pLHCXベクターに結合させた2種のオリゴヌクレオチド
5´-AGCTTCTCGAGGTCGACGGATCCGCATGCCAATTGAT-´3 および
5´- CGATCAATTGGCATGCGGATCCGTCGACCTCGAGA-´3
によって得られた。修飾されたベクターの新規ポリリンカーは、pLHCXZと称され、DNA配列決定によって確認された。
【0120】
トマトTK1野生型およびトマトTK1デルタC遺伝子(C末端の26個のアミノ酸を欠失したトマトチミジンキナーゼIをコードしている、国際公開第03/100045号)を、それぞれ、pZG69(TomTK1)およびpZG59(TomTK1ΔC26)(双方とも国際公開第03/100045号に記載)から、Xhol/BgIII断片として切り出し、pLHCXZベクターのXhol/BamHI部位内へクローン化した。pLHCXZ内にトマトTK1野生型遺伝子を含有する構築体をpZG556と称し、pLHCXZ内にトマトTK1デルタC遺伝子を含有する構築体をpZG561と称した。
【0121】
実施例6.NGC−407細胞へのpZG556およびpZG561の形質導入
細胞培養 ポリ−L−リシン(Sigma、カタログ番号P4832)でコーティングしたフラスコ/プレート(CM−Lab、デンマーク)内で、ヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma、カタログ番号A1653)、N2(Gibco、カタログ番号17502−048)、B27(Gibco、カタログ番号17504−044)、グルコース(Sigma、カタログ番号G8769)、bFGF(R&D Systems、カタログ番号233−FB)、EGF(R& Systemsカタログ番号236−EG)、MEM NEAA、×100(Gibco、カタログ番号11140−035)、HEPES(Gibco、カタログ番号15630−056)、で馴化したDMEM/F12(Gibco、カタログ番号31331−028)中、ヒト神経始原細胞系NGC−407を培養した。加湿インキュベーター内、37℃、5%COで細胞を増殖させた。
【0122】
レトロウィルスベクターの構築および形質導入操作
合計10の形質導入単位を典型的に生じる、モロニーマウス白血病ウィルス(MMLV)由来の複製欠失VSV−G偽型レトロウィルスの中間規模の製造および濃縮を、293T細胞において実施した。293Tパッケージング細胞(ATCC CRL−11268)を、OPTIMEM 1培地(Life Technologies社)中、37℃、5%COで培養した。
【0123】
供給元により提供されたプロトコルに従い、LipofectAMINE PLUS(Invitrogen−Life Technologies社)を用いて、構築したpLHCXZ(Clontech)プラスミドベクターpZG561(C末端の26個のアミノ酸を欠失したトマトチミジンキナーゼIをコードする、国際公開第03/100045号)およびpVPack−GP(Stratagene)プラスpVPack−VSV−G(Stratagene)を、パッケージング細胞内へトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後および72時間後、DMEM(Invitrogen)中で培養したトランスフェクト細胞からの培地を採取し、0.45μmのフィルターを通してろ過し、超遠心分離(50,000g、4℃で90分間)によりペレット化し、DMEM(Invitrogen)中に溶解させた。該ウィルスの力価を、逆転写酵素アッセイにより決定した。該ウィルスを引き続き、NGC−407細胞系の形質導入に用いた。
【0124】
レトロウィルス形質導入
形質導入の前日に、1×10細胞/ウェルを6ウェルプレートに接種した。形質導入の日に、1のMOIと共にウィルスを加えた。細胞を3時間インキュベートした後、培地を取り替え、細胞を増殖させ、14日間、ヒグロマイシン(Sigmaカタログ番号H3274)の添加により選択した。引き続き、細胞を実験用に準備した。
【0125】
U87MG/トマトキナーゼ陽性細胞におけるAZTの殺細胞効果
100μlの馴化培地中、ポリ−L−リシンコーティングした96ウェルプレート内で、5,000細胞/ウェルの密度で、指数関数的に増殖するNGC−407wtおよびトマトキナーゼ(ZG561)発現細胞を蒔き、5%CO気体相の加湿インキュベーター内、37℃でインキュベートした。48時間後、培地を、20mM以下から開始して種々の濃度のAZTを含有する培地と置換した。その後、構成的な120時間の間、薬剤馴化培地に細胞を曝露した。薬剤濃度の関数として細胞フラクションを生存させることによって培養細胞の化学療法抵抗性をモニターした。比色XTTアッセイ(XTTキットII−Roche、カタログ番号1465015)により細胞の生存度を判定した。簡単に述べると、細胞培地を注意して取り出し、100μlの新鮮培地および50μlのXTT混合物を各ウェルに加えた。ELISAプレートリーダー(Ascent、Thermolab)を用いて、450nmおよび690nmにおける吸光度を測定した。調べた化合物のIC50値(50%阻害濃度)を、SigmaPlot(登録商標)(Dryberg Trading、デンマーク)を用い、各実験の平均値として算出した。
【0126】
結果
ヒグロマイシン選択ZG561細胞および親細胞を、AZT活性化に関して試験した。親細胞系と比較して、著しい感度の増大(IC50の低下)があった(それぞれ、0.05105mMおよび11.781mM)。図6Aおよび図6Bを参照されたい。
【0127】
結論
トマトチミジンキナーゼは、NGC−407細胞を、ヌクレオシド類似体AZTに対して、230倍オーダーの大きさで明らかに鋭敏化し、したがって、ヒトのグリア芽腫多形治療に対する設定に臨床的な適合性を示している。
【0128】
実施例7:トマトTK1発現NGC−407細胞のモノクローンの選択
トマトTK1発現NGC−407細胞系のモノクローナル細胞系を単離し、チミジンおよびAZTを基質として用いて、酵素活性に関して試験した。最良のモノクローナル細胞系は、トマトTK1を発現するポリクローン細胞系のAZT活性の2倍の高さのAZT活性を有した。(図6B)。
【0129】
モノクローンに関する選択
トマトTKΔC pLHCXZ(ZG561)を発現するレトロウィルス形質導入NGC−407細胞(実施例6を参照)を、14日間、100μgのヒグロマイシン/ml培地(Sigmaカタログ番号H3274)の添加により選択した。その後、ポリ−L−リシンコーティングした24ウェルプレートに、30細胞/ウェルの細胞密度で細胞を接種し、37℃、5%COで、加湿インキュベーター内に置いた。培地を定期的に取り替え、21日後、32クローンをピペット操作により採取し、ポリ−L−リシンコーティングした6ウェルプレートに移した。
【0130】
増殖させた細胞を凍結保存後、キナーゼ活性アッセイ用にペレットを調製した。
【0131】
チミジンキナーゼアッセイ
活性アッセイ用の細胞を採取し、活性試験まで−80℃で保存した。抽出緩衝液(50mMのトリス/HCl pH7.5、1mMのDTT、10%(v/v)グリセロール、1%(v/v)トリトンX−100、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche DiagnosticsからのComplete(商標))中、細胞を短時間の音波処理に供し、その後、トリチウム標識ヌクレオシド基質を用いたDE−81フィルター紙アッセイにより、4種の時間サンプルに基づいた初速度測定によって、細胞抽出物中、チミジンキナーゼ活性を測定した。該アッセイには、およそ20μgの抽出物が用いられた。該アッセイは、Munch−Petersenらにより記載されたとおり行われた〔Munch−Petersen,B.、Knecht,W.、Lenz、C.、Sondergaard,L.&Piskur,J:Functional expression of a multisubstrate deoxyribonucleoside kinase from Drosophila melanogaster and its C−terminal deletion mutants;J.Biol.Chem.2000年 275 6673−6679頁〕。デオキシリボヌクレオシドを、200μMの一定濃度で試験した。デオキシリボヌクレオシドキナーゼ活性の1単位を、タンパク質1mg当たり1分間当たりに形成される、対応するモノホスフェートの1nmolとして定義する。
【0132】
タンパク質濃度は、標準タンパク質としてBSAを用い、Bradfordに従って判定した〔Bradford M M:A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein−dye binding;Anal.Bochem.1976年 72 248−254頁〕。
【0133】
これらの実験の結果は、下記の表2に示されている。
【0134】
【表2】

【0135】
2種のモノクローン(4番および9番)は、親細胞およびZG651を形質導入した細胞と比較して、チミジンおよびAZT双方のより高いリン酸化活性を示した。
【0136】
実施例8.MESC2.10に対するNGC−407の比較
材料および方法
8週齢のヒト胚の腹側中脳を切開することにより、MESC2.10ヒト中脳細胞系(Lund大学およびSignal Pharmaceuticals社、LA Jolla、カリフォルニア州、米国〔Lotharius,J.ら、Effect of mutant alpha−synuclein on dopamine homeostasis in a new human mesencephalic cell line.J.Biol.Chem.2002年、277(41):38884−94頁〕)を作出し、tetオフ系の制御下で、v−myc癌遺伝子を含有するレトロウィルスベクターを用いて不死化した。N2サプリメント(N2培地)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含有する。DMEM/F12中、MESC2.10細胞を培養し、テトラサイクリンを含有するN2培地からなる分化培地に細胞を蒔いて培養することによって分化(「N2培地中での分化」)させるか、またはドーパミン作動性分化では、テトラサイクリン、ジブチルcAMP(dbcAMP、Sigma)、およびグリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF、RDsystems)を含有するN2培地(「DA分化培地」)中で分化させる。
【0137】
7週齢のヒト胚の腹側中脳を切開し、v−myc癌遺伝子を含有するレトロウィルスベクター用いて細胞を不死化することによってNGC−407細胞系を開発した。この細胞系において、不死化遺伝子は、標準的な増殖培地中で構成的に発現され、増殖は細胞の培養条件を変えることによって制御される。したがって、N2サプリメント+上皮成長因子(EGF)およびbFGFを有するDMEM−F12を含有する培地中、NGC−407細胞は接着性単層として増殖する。bFGFおよびEGFのないN2培地(「N2培地中の分化」)、またはドーパミン作動性分化では、bFGFおよびEGFがなく、GDNFおよびdbcAMPを有するN2培地(「DA分化培地」)中に移すと、それらはニューロンおよび星状細胞への分化を開始する(詳細に関しては表3を参照)。
【0138】
免疫細胞化学および細胞カウンティング
免疫細胞化学染色前に、並行して4日間分化させたMESC2.10細胞培養物およびNGC−407細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒドにより、室温で20分間固定した。固定した培養物を、5%正常ヤギ血清および0.3%トリトン−X−100を含有するブロッキング緩衝液により予備インキュベートしてから、以下の抗体のうちの1つと共にインキュベートし、2%正常ヤギ血清および0.3%トリトンX−100を含有するPBS中に希釈した:マウス抗チューブリンβ−III(1:750;Sigma)、ウサギ抗GFAP(1:200;DAKO)、ウサギ抗TH(1:400、Chemicon)、またはウサギ抗ネスチン(1:200;Chemicon)。インキュベーションは、4℃で一晩実施した。洗浄後、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)またはテキサスレッドに結合させた種特異的二次抗体と共に、培養物をインキュベートし、再度すすぎ、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、1μg/ml、Sigma)と共に、核の対比染色を行った。全体集団に対するTH免疫陽性細胞のパーセンテージを定量化するために、細胞を200×の倍率でカウントした。各培養物において、3つのフィールドを無作為に選択し、DAPI陽性核によって示される、細胞全体数に対するTH免疫陽性細胞のパーセンテージを算出した。データは3つの独立した実験からのものである。平均して、各実験で、400の細胞を調べた。
【0139】
細胞系分化の結果
免疫細胞化学を用いて、ニューロン分化およびドーパミン作動性分化の異なる段階での胚性ヒトVM由来の2種のヒト細胞系を特性化した。これらの不死化細胞系は、非制御形質転換なしに長期間、増殖、培養することができ、細胞の均一で、安定で、再現性のある供給源となる。異なる分化プロトコル下でのTH陽性細胞のパーセンテージが、表3に示してある。「DA分化培地」中、4日後、分化したMESC2.10細胞の19.1±0.2%、および分化したNGC−407細胞の3.5±1.2%に、TH免疫陽性ニューロンが検出されるが、一方、「N2培地中での分化」の4日後では、MESC2.10細胞のわずか0.6±0.1%およびNGC−407細胞のわずか0.5±%がTH陽性であった。NGC−407は、βIII−チューブリン−陽性ニューロン(18.1±4.9%)およびGFAP陽性星状細胞(26.5±4.0%)の双方に分化する能力を有するが、MESC2.10細胞は、βIII−チューブリン−陽性ニューロンを増加させる(>90%)だけである。したがって、ポリクローンのNGC−407細胞系は、神経幹/始原細胞系と言うことができ、MESC2.10細胞系は、単能性神経始原細胞系と言うことができる。
【0140】
【表3】

【0141】
実施例9 ヒトグリア芽腫多形のヌードラットモデルにおけるNGC−407細胞のインビボ移動試験(U87MG細胞系を用いて)
材料及び方法
我々のヒトグリア芽腫多形異種移植片モデルに、平均体重200gの8〜9週齢無胸腺オスヌードマウス(rnu/rnu;Harlan、ドイツ国)を用いた。それらを、12/12昼/夜変化、50%〜70%の相対湿度、20℃〜24℃の温度で、標準化大型ケージに3匹の群で入れた。これらの免疫無防備動物に使用する食料(自由摂取)、水および他の材料は、使用前に加圧滅菌した。動物をイソフルラン吸入により麻酔し、頭部を定位装置に固定した。顕微鏡誘導下、ブレグマの2mm右側、右半球上に1mm直径のバーホールを作製した。5μl容量のハミルトン注射器を用いて、3μl容量における1.5×10のU87MG細胞を、脳梁に達するように、表面から3.5mmの深さに、バーホールを介してゆっくり注入した。
【0142】
緑色蛍光タンパク質(GFP)を組換え発現する2×10の神経始原細胞(NGC−407)を、100mmのペトリ皿に蒔き、48時間、ニューロスフェアとして増殖させた。それらを採取し、遠心分離し、50μlの増殖培地中に再懸濁させた。腫瘍細胞移植の1週間後(腫瘍を増殖させるため)、U87MG細胞移植のちょうど対側の各ラットの脳に3μlのニューロスフェアを注入した。動物の半分は、NSC接種時から1日2回、PB 250mg/kg体重で腹腔内処置し、残りは、媒体としてのリン酸緩衝生理食塩水で処置した。全ての動物を、実験のエンドポイントとして設定した著しい体重減少、異常行動または他の神経学的症状に関して、1日2回観察した。そうでない場合は、該処置を2週間継続してから、断頭術により動物を殺処置した。採取した脳は、ドライアイスで冷却した2−メチルブタン中で直ちに凍結してから、それらを14μmの厚さにクリオスタットにより切片化するまで、−75℃の冷凍庫に保存した。
【0143】
該移植片のサイズおよび位置を判定するために、ヘマトキシリンおよびエオシンの染色により、該切片の組織病理学的分析を実施した。ラット脳内のNGC−407細胞は、ニワトリ抗GFP抗体(Chemiconカタログ番号AB16901)を用いて、免疫蛍光試験によって追跡した。免疫組織化学的に、腫瘍の位置は、組織学的分析との関連づけと細胞密度により判定し、一方、該切片は、ヘキストによって対比染色した。
【0144】
結果
当該の結果により、先のインビトロの結果が確認され、それらが、ヒトNGC−407神経幹細胞のインビボでの移動を含むものに拡張される。
【0145】
自殺遺伝子を組換え発現するNGC−407細胞を用いる自殺遺伝子治療パラダイムは、脳を通って腫瘍部位までのそれらの移動、および近隣腫瘍細胞への活性化プロドラッグの効率的移送に依存している。
【0146】
ヌードラットに形成された異種移植片を対側に移植された、緑色蛍光タンパク質、(GFP)を発現するNGC−407細胞は、脳梁を通って腫瘍床まで、さらには腫瘍内部まで移動することができた。数日間、腹腔投与で4−PBによりラットを処置することにより、腫瘍内部周囲のGFP染色が増強した。これは、腫瘍の周囲および内部により多くのGFP発現細胞が存在したと解釈され、脳腫瘍の部位に自殺遺伝子を移送するためのこれらの細胞の将来の有用性を高めるものである。しかし、GFP染色の増強が、GFP遺伝子を駆動するCMVプロモーターの4−PBによる誘導によるものであると決定することはできない。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】分化した免疫標識NGC−407細胞の写真を示す図である。図1Aで、TH標識ニューロンは矢印で示してある。図1Bで、β−III−チューブリン標識細胞は矢印で示し、GFAP標識細胞は矢印頭部で示してある。
【図2】種々のマーカーで標識した分化NGC−407細胞のパーセンテージを示す図である。THニューロンは、TH抗体で標識した細胞であり、ニューロンは、β−III−チューブリン抗体で標識した細胞であり、星状細胞は、GFAP抗体で標識した細胞である。このダイアグラムは、4つの異なる群:増殖細胞(Prolif)およびRiazら(Bradford diff)、Sahら(Sah diff)およびStorchら(Storch diff)による3つの分化プロトコルにより分化させた3つの群を示している。
【図3】ラット線条体への移植後、1週目および3週目におけるhNuc発現およびGFP発現NGC−407細胞の免疫組織化学的可視化を示す図である。1週目、大部分のhNuc陽性細胞が、注入部位の周囲に見られたが、一部の細胞は移動してしまっていた(B)。GFP染色により、hNuc陽性細胞のおよそ50%がGFPを共発現したこと、および該細胞が星状細胞形態を示す(A、CおよびA’、C’)ことが明らかになった。A’〜C’は、A〜Cにおける白いボックス内に表された細胞集団のクローズアップである。3週目、高パーセンテージ(>35%)のhNuc陽性細胞が依然として導入遺伝子(矢印頭部)を発現しており、より分化した形態(D〜F)を示した。D〜Fの矢印は、GFPに陰性であるhNuc陽性細胞を示す。C、C’およびFにおける縮尺バーは、50μmを表す。
【図4A】カルセインの対照細胞ギャップ結合媒介移送を示す図である。非標識U343MGa−cl 2:6細胞は、黄色(点線矢印)二重標識(赤Dil&緑色カルセイン)NGC−407細胞からの移送性カルセイン色素を受け取った後、緑色(直線矢印)になった。双方の細胞型とも工程延長により、互いに物理的に接触する。
【図4B】PB処理した細胞を示す図である。該工程は、PB処理によりより顕著になり(三重矢印)、この群で緑色レシピエント細胞数が著しく増加した。
【図5】NGC−407細胞系の不死化に使用されるTD1−2不死化ベクターのベクター地図を示す図である。
【図6A】AZTに関して、NGC−407細胞系のIC50値を示す図である。詳細に関しては、実施例6を参照。
【図6B】AZTに関して、トマトチミジンキナーゼ発現NGC−407細胞系のIC50値を示す図である。詳細に関しては、実施例6を参照。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタペスト条約の下、2005年3月31日に受入番号DSM ACC2718でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenにて寄託された、NGC−407細胞から得ることのできるか、それらに由来するか、またはそれらにより構成されるヒト細胞系。
【請求項2】
ポリクローナル細胞系である、請求項1記載の細胞系。
【請求項3】
モノクローナル細胞系である、請求項1記載の細胞系。
【請求項4】
異種治療遺伝子の発現の指令能を有する発現構築物でさらにトランスフェクトまたは形質導入されている、請求項1記載の細胞系。
【請求項5】
異種遺伝子が治療的ポリペプチドをコードするところの、請求項4記載の細胞系。
【請求項6】
異種遺伝子が自殺遺伝子を含むところの、請求項4記載の細胞系。
【請求項7】
自殺遺伝子が、
a.配列番号1ないし17のいずれかのアミノ酸配列を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ;
b.配列番号1ないし17のいずれかと少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むデオキシリボヌクレオシドキナーゼ変異体;および
c.配列番号1ないし17のいずれかをコードするヌクレオチド配列と、高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるヌクレオチド配列によってコードされるデオキシリボヌクレオシドキナーゼ
からなる群から選択されるところの、請求項6記載の細胞系。
【請求項8】
デオキシリボヌクレオシドキナーゼは、
a.配列番号1ないし5のいずれかのアミノ酸配列を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ;および
b.配列番号1ないし5のいずれかと少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、dNK活性を有するデオキシリボヌクレオシドキナーゼ変異体
からなる群から選択されるデオキシリボヌクレオシドキナーゼを含むところの、請求項7記載の細胞系。
【請求項9】
異種治療遺伝子が神経栄養因子、特に神経成長因子(NGF);インスリン様成長因子(IGF)、特にIGF IまたはIGF II;形質転換成長因子−αおよび−β(TGFαおよびTGFβ)、形質転換成長因子−β2(TGF−β2)、ノイルチュリン(NTN)、パーセフィン(PSP)を含む形質転換成長因子(TGF)スーパーファミリーのメンバー;グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF);ノイブラスチン(NBN);毛様体神経栄養因子(CNTF);脳由来神経栄養因子(BDNF);ニューロトロフィン(NT)、特にNT3ないし9;腫瘍壊死因子(TNF)、特にTNF−αをコードするところの、請求項4記載の細胞系。
【請求項10】
異種治療遺伝子が神経生存因子、特にスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、またはヘッジホッグをコードするところの、請求項2記載の細胞系。
【請求項11】
異種治療遺伝子が神経生長因子、特に線維芽細胞成長因子(FGF)、特に酸性または塩基性の線維芽細胞成長因子(aFGFまたはbFGF);内皮成長因子(EGF)、特に血管内皮成長性および透過性因子(VEGPF);インターフェロン、特にインターフェロン−α、インターフェロン−βまたはインターフェロン−γ、インターロイキン(IL)、特にIL−1、IL−1β、GMCSFまたはIL2ないし14をコードするところの、請求項2記載の細胞系。
【請求項12】
異種治療遺伝子が、神経伝達物質、特にコリンアセチルトランスフェラーゼ;チロシンヒドロキシラーゼ(TH);チロシンデカルボキシラーゼ;チミジンキナーゼ、シトシンデアミダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、L−DOPAデカルボキシラーゼ、ヒスチジンデカルボキシラーゼ、グルタメートデカルボキシラーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)の合成に寄与する生物学的に活性な分子をコードするところの、請求項2記載の細胞系。
【請求項13】
神経伝達物質がアセチルコリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、ドーパミン、オクトパミン、グルタメート、アスパルテート、グリシン、プロリン、χ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン、タウリン、アラニン、シスタチオン、ヒスタミン、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)、サブスタンスP、神経ペプチドY(NPY)、コレシストキニン、ニューロテンシン、エンケファリン、またはソマトスタチンであるところの、請求項12記載の細胞系。
【請求項14】
異種治療遺伝子が受容体、特にアセチルコリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、ドーパミン、オクトパミン、グルタメート、アスパルテート、グリシン、プロリン、χ−アミノ酪酸(GABA)、チロシン、タウリン、アラニン、シスタチオン、ヒスタミン、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)、サブスタンスP、神経ペプチドY(NPY)、コレシストキニン、ニューロテンシン、エンケファリン、またはソマトスタチンに結合する受容体をコードするところの、請求項2記載の細胞系。
【請求項15】
自殺遺伝子がチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、特に単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、サイトメガロウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、または水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子;Gpt遺伝子;あるいはシトシンデアミナーゼ遺伝子であるところの、請求項6記載の細胞系。
【請求項16】
星状細胞への分化能を有する、請求項1記載の細胞系。
【請求項17】
ドーパミン作動性ニューロンなどのニューロンへの分化能を有する、請求項1記載の細胞系。
【請求項18】
グリア細胞への分化能を有する、請求項1記載の細胞系。
【請求項19】
接着培養物としての増殖能を有する、請求項1記載の細胞系。
【請求項20】
実験的適用のための、特に薬物のスクリーニングおよび/またはインビトロ特徴化のための、請求項1ないし19のいずれか一項に記載のヒト不死化神経細胞系の使用。
【請求項21】
治療的適用のための、請求項1ないし19のいずれか一項に記載の不死化細胞系の使用。
【請求項22】
置換療法のための、請求項1ないし19のいずれか一項に記載の不死化細胞系の使用。
【請求項23】
病変および外傷ニューロン、特に末梢神経、延髄、および/または脊髄の外傷病変、脳虚血性ニューロン損傷、ニューロパシーおよび特に末梢ニューロパシー、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、グリア芽腫、筋萎縮性側索硬化症を含む、神経学的疾患または他の神経変性疾患、認知症に関係した記憶障害、あるいは遺伝性代謝性疾患の治療における、正常または免疫抑制のヒトを含む、哺乳動物の脳に移植するための請求項22記載の使用。
【請求項24】
予防的治療のための、請求項1ないし19のいずれか一項に記載の不死化治療細胞系の使用。
【請求項25】
病変および外傷ニューロン、特に末梢神経、延髄、および/または脊髄の外傷病変、脳虚血性ニューロン損傷、ニューロパシーおよび特に末梢ニューロパシー、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、グリア芽腫、筋萎縮性側索硬化症を含む、神経学的疾患または他の神経変性疾患、認知症に関係した記憶障害、あるいは遺伝性代謝性疾患の治療における、正常または免疫抑制のヒトを含む、哺乳動物の脳に移植するための請求項24記載の使用。
【請求項26】
抗癌治療のための、請求項1ないし19のいずれか一項に記載の不死化治療細胞系の使用。
【請求項27】
a.請求項1に記載の細胞の組成物を含むコアであって、該細胞が個体に生物学的機能をデリバリーする化合物の分泌能を有するコアと、
b.細胞の組成物を包囲し、細胞の組成物によって分泌された化合物を通過させる半透膜と
を含む、生体適合性カプセル。
【請求項28】
コアが細胞のための支持体を含むところの、請求項19記載のカプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−533995(P2008−533995A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503370(P2008−503370)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000185
【国際公開番号】WO2006/102902
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(506135604)エヌエスジーン・アクティーゼルスカブ (6)
【氏名又は名称原語表記】NsGene A/S
【Fターム(参考)】